SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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今回のサブタイの戦士は、一夏でもキリトでもアスナでも百合子でもありません。


第二十二話 「迫るドイツと相対する戦士」

SAO帰還者のIS

 

第二十二話

「迫るドイツと相対する戦士」

 

 シャルル改めシャルロットの事は一夏から和人と明日奈、百合子にも伝えられた。

 彼女の境遇を知ったとき、特に明日奈が怒り狂い、本来ならユイの教育に悪いと止める立場のはずの彼女が一番デュノア社を潰す事に乗り気になるほどだ。

 レクト社からも圧力を掛けることになり、ユイが掻き集めたデュノア社の不正事実の証拠や、シャルロットの証言の全てをフランス政府と国際IS委員会に提出したところ、フランス側は即座にデュノア社を切り捨てた。

 結果としてデュノア社は倒産し、デュノア社社長、社長夫人、そしてその長男は行方知れず。シャルロットの身柄は日本へ亡命という形で受け入れられ、その親権は明日奈の父である結城彰三が一時的に持つ事になる。

 

「これでシャルロットちゃんはわたしの妹だねー、よろしくねシャルロットちゃん」

「は、はい……その、義姉さん」

「~っ! もう! シャルロットちゃん可愛いよぅ~!」

 

 一時的にとはいえ、義理の姉妹になった二人の仲は良好で、明日奈の妹分である百合子が若干嫉妬するほどなのだが、兎に角これでシャルロットの問題は片付いた。

 残る問題は未だ一夏を敵視……というより、憎しみの視線を向けているラウラ・ボーデヴィッヒだけとなる。

 その問題も、直ぐに事が起きてしまうのだが……。

 

 

 事の起こりはシャルロットの事があった翌々日の放課後だった。

 第1アリーナを使って訓練をしていた一夏、和人、明日奈、百合子、シャルロット、セシリア、鈴音だったのだが、そこにラウラが現れ、一夏へと喧嘩を売ったのだ。

 

「貴様も専用機持ちだったな。ならば話は早い、私と戦え」

「断る。別にお前と戦うのは別に構わないけど、今ここで戦うと他の一般生徒を巻き込むからな」

 

 アリーナには現在一夏たち以外にも一般生徒が居り、こんな所で第3世代型機が本気の戦闘を行おうものなら他の訓練機に乗る順番待ちをしている生徒への被害が尋常ではない。

 だが、ラウラにとって他の生徒が怪我しようが死のうが知ったことではないのか、自身の専用機、シュヴァルツェア・レーゲンの右肩に装備されている大口径レールカノンの発射口を一夏へと向けてきた。

 

「貴様が居なければ、教官はモンド・グロッソ2連覇という輝かしい偉業を達成出来た。それを邪魔した挙句、ゲームなどという低俗な遊びで2年も寝たきりになり、教官に無用な心配を掛け、それでもまだゲームを続ける貴様を、私は教官の弟だなどと認めない……故に、此処で消えろ!!」

 

 他の生徒を気にする事無く発射されたレールカノンの弾丸。

 だがその弾丸をシャルロットが防御しようと前に出るより速く一夏がトワイライトフィニッシャーの刃を閃かせて真っ二つにした。

 

「他の生徒が居るのにお構いなしか……ドイツ軍人ってのは一般人を守るのが仕事じゃないようだな。千冬姉がそんな基本的な事を教えないはずが無いし、それほどお前は千冬姉の教え子の中で出来損ないってことか?」

「っ!! 貴様ぁ!!!」

 

 一夏の言葉がラウラの逆鱗にでも触れたのか、再びレールカノンの銃口を一夏に向けるラウラだったが、一触即発の空気は直ぐに振り払われる事になった。

 

『そこの生徒! 何をしている! 学年とクラス、名前を言いなさい!!』

 

 管制室に居る教師の声にラウラは「ふんっ」と鼻を鳴らし、ISを解除するとそのまま立ち去ってしまった。

 残された一夏は立ち去ったラウラの方を何処か冷めた目で見つめた後、訓練という空気じゃなくなったこの場を解散という形にする。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……千冬姉がお前に教えた筈の“力”ってのは、そんなんじゃないだろ」

 

 

 翌日の放課後、第1アリーナにはセシリアと鈴音の二人だけが来ていた。

 一夏達は部活の方で少し用事があるとの事なので、少し遅れて来ることになっており、先に二人で訓練を始めておくことになったのだ。

 

「ねぇ、セシリアってさ、一夏達の部活に興味あるの?」

「わたくしですか? どうでしょう……? 流石にVR技術に興味を持っていても本格的に研究しようとは思いませんわね。わたくしには荷が重過ぎますわ」

「でしょうねぇ。アタシだってそこまで頭良いわけじゃないし、でもあいつ等はそれをやろうとしてるのよね……何か、昔の一夏を知る身としては、アイツの背中が遠くなった気がするわ」

 

 少しだけ、一夏達が作ろうとしているVRゲームのプログラムを見せてもらったが、構築途中だというのに、既に二人には理解不能なプログラムで、しかもそれを構築しているのが一夏だというのだから、何故か二人には一夏達の存在が遠く感じられたのだ。

 

「ま! アタシ達はアタシ達ってね! さっさと始めましょうか」

「そうですわね、先ずは軽く模擬戦といきましょうか」

 

 ISを展開して、早速模擬戦をしようと思った矢先、二人のハイパーセンサーが乱入者の情報を伝えてきた。

 アリーナに現れたのは、昨日も見た漆黒の機体。ドイツ第3世代型IS、シュヴァルツェア・レーゲンと、それに搭乗するラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

「貴様等だけか……」

「あら、何か用事でもあるのかしら?」

「お生憎様ですが、一夏さんはまだいらっしゃいませんことよ」

「ふん……イギリスのブルーティアーズと、中国の甲龍か。データで見た時は中々に強そうだったが、実際に見れば大したことも無さそうだな」

「……喧嘩売ってんのかしら?」

「喧嘩だと? 馬鹿を言うな、喧嘩とは実力が対等の者同士が行うものだ。貴様等が相手では喧嘩にすらならん」

 

 それは、セシリアと鈴音二人束になって掛かろうとも、ラウラの足元にも及ばないと見下した発言だった。

 そして、セシリアも鈴音もそこまで言われて我慢出来るほど沸点が高くない。

 

「上等じゃない! 何ならそのご自慢の機体、この場でスクラップにしても良いのよ?」

「ふん、ゲームに現を抜かす愚か者共が、私に適うとでも? 所詮貴様等も、織斑一夏同様、いや、桐ヶ谷和人や結城明日奈、宍戸百合子もそうだが、ゲームなどという下らんお遊びで2年を無駄に過ごした落伍者と同レベルでしかない」

「その発言、見逃せませんわね」

 

 ラウラの発言に、セシリアが噛み付いた。

 セシリアは、あの日、ALOにアインクラッドが実装された夜、一夏や、彼らの仲間達と共に夜空に浮かぶアインクラッド目指して飛んだ身だ。

 彼らが、あの2年間にどれほどの想いを抱いているのか、それを僅かでも知っているからこそ、あの日、あの浮遊城を目指した彼らの眼差しを知っているからこそ、ラウラの発言は許せない。

 

「一夏さん達の2年を知らないで、彼らの2年を侮辱するなどわたくしが許しませんわ! あの死のゲームで2年間戦い続けた彼らの気持ちを、漸く死の恐怖から開放され、それでもあの2年間に決着を着けようとしている彼らの想いを、貴女のような者が土足で踏み荒そうというのなら、この場で潰して差し上げますわ!!」

 

 スターライトmkⅢの銃口をラウラに向けたセシリアと、同じくして双天牙月を構えた鈴音を、ラウラは嘲笑いながらレールカノンの銃口を向け、戦いは始まった。

 

 

 部室での用事を切り上げた一夏、和人、明日奈、百合子の4人は少し遅れ気味なので急ぎ足でアリーナに向かっていた。

 途中でシャルロットとも合流して、校舎を出た所で何やらアリーナの方角が騒がしいことに気付く。

 

「どうしたのかな?」

「騒がしい……」

 

 すると、一夏達のクラスメートの相川清香が走りながら一夏達の所に来て、慌てた様子でアリーナで起きてることを説明してくれた。

 

「い、今! 第1アリーナでセシリアと鳳さんが、ボーデヴィッヒさんに! 助けてあげて!!」

「っ! キリトさん、先に行きます! ユリコ!」

「うん」

「俺とアスナも直ぐに行く!」

 

 まだ走れない明日奈の事をキリトに任せて、一夏と百合子、それからシャルロットは駆け足で第1アリーナを目指した。

 そして、辿り着いたアリーナのピットから見た光景は、ボロボロになった甲龍を纏った鈴音が気絶しているのか、アリーナの隅に横たわっている姿と、傷一つ無いシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラが甲龍同様ボロボロになったブルーティアーズを纏うセシリアにレールカノンの砲弾を放っているところだった。

 

「っ! アイツ!!」

「待ってナツ……セシリアが」

「え? あ……」

「オルコットさん、もうボロボロなのに、まだ立ち上がろうとしてるなんて……」

 

 レールカノンの砲弾によって更に装甲が傷つき、もうシールドエネルギーも底を尽きそうになっているはずなのに、それでもセシリアは立ち上がった。

 既にブルーティアーズ4基は大破し、弾頭型の2基も異常が発生して発射出来ない状態。スターライトmkⅢも半ばから断ち斬られ、使い物にならなくなっているというのに、それでもインターセプターを展開しながら、セシリアの瞳から戦意は失われていない。

 

「解せんな。もう勝敗は明らかだろうに、何故立ち上がる? 弱者がいくら立ち上がろうと、絶対的な力の前には無力だという事は、理解出来ているはずだ」

「……力……力ですか。馬鹿馬鹿しいですわね。貴女がいつ力を見せたと? ただの暴力を振るっていただけの貴女が、力を語るなど片腹痛いですわ」

 

 頭から血を流し、右目を閉じている状態で、セシリアの開いている左目が鋭くラウラを睨んだ。

 左腕は骨が折れているのか、力なく垂れ下がり、ISスーツも至る所がボロボロになって、右胸は既に豊満な乳房が露わになっている。

 だけど、セシリアはそんな事を気にしてないのか、ただインターセプターを右手に持ち、その刃をラウラへと向けながら、折れる事無く口を開いた。

 

「わたくしは、知っていますわ。本当の力が何なのか……そして、それを振るう彼らが如何に強いのか。それに比べれば貴女如き、彼らの足元にも及びませんもの、倒れる理由はありませんわ」

「私があの男の足元にも及ばない? 笑えない冗談だな」

「それはそうでしょう。だって、冗談では、ありませんから!」

 

 ブースターを吹かし、一気にラウラへと接近したセシリアには、右手に握るインターセプターが、何故だろうか、ALOでサブ武装として使っているリズベットが作ってくれた短剣と重なって見えた。

 

「(ブルーティアーズは、ソードスキルシステムが存在しないから、ソードスキルを使えない……でも、あの動きだけは、わたくしの心に刻まれている!!)」

 

 余裕の表情でセシリアを迎え撃とうとしたラウラの表情が、次の瞬間、驚愕の表情に変わった。

 

「なにぃっ!?」

「はぁあああああああっ!!!」

 

 ギリギリでラウラのレーザー手刀を避けたセシリアは、ALOで覚えた短剣のソードスキルの内、最も好んで使うスキルを、模倣する。

 ソードスキルシステムの存在しないブルーティアーズであっても、動きを再現するのはセシリア本人だからこそ、スキルとしてライトエフェクトが輝かずとも、放つ事が出来た。

 短剣の2連撃ソードスキル、クロス・エッジ。クロスするように放たれた斬撃は、確かにシュヴァルツェア・レーゲンに届いた。

 その胸の装甲に、クロスを描くように刻まれた傷は、セシリアの最後の意地の証。

 

「この、雑魚風情がぁああああ!!!」

 

 大きく蹴り上げられ、アリーナの地面を転がったセシリアは、もう立ち上がる体力が残っていないのか、倒れたまま顔だけラウラの方を向き、自分に向けられるレールカノンの銃口を静に見守っていた。

 今の蹴りでシールドエネルギーは0になり、恐らくあの一撃を受ければ自分はもしかしたら死ぬかもしれない。

 絶対防御があろうとも、これだけのダメージを受けている現状では、あの砲弾は絶対防御を貫けてくる可能性もある。

 だけど、己の死が間近に迫っているというのに、セシリアは何処か余裕だった。何故なら、ラウラの後ろから純白の剣を構え、飛んでくる白き騎士の姿が見えていたのだから。




セッシー格好良かったですかね?
あの夜を知るセシリアだからこそ、一番初めに一夏たちと戦ったセシリアだからこその、今回のセシリアの姿です。

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