ちょっと学校とバイトで忙しく、執筆が遅れました。
SAO帰還者のIS
第二十話
「始動する戦士達の部活」
新しい部活の開設申請のため、生徒会室に来た一夏達。本音がノックして返事が返ってくると、彼女を先頭に中に入った。
生徒会室には立派なデスクが入り口対面に設置されており、そのデスクの向こう側では先日一夏が出会った生徒会長、更織楯無が座っており、その後方には3年生の女子生徒が立っている。
「いらっしゃい、織斑君、桐ヶ谷君、結城さん、宍戸さん」
「かいちょ~、私は~?」
「あら、本音ちゃんは生徒会役員じゃない、来るのは当たり前でしょ?」
驚愕の目で本音を見る一夏達、まさかこののほほんとした本音が、生徒会役員だなんて思わず、失礼だが心底驚いてしまう。
「それで、今日は何の御用かしら?」
「それは俺から」
一歩前に出た和人は予め明日奈が真耶から受け取っていた部活動設立申請用紙を差し出した。
来る前に既に必要事項を全て記入してあるので、もうこれを生徒会長に渡し、申請許可の印を貰うだけでVR研究部は正式に部活動として認められる。
「部活動申請ね……っ! そう、あの子も参加するんだ……」
記載箇所をチェックしていた楯無は、部員候補者の中に更織簪の名前を見て一瞬だけ驚き、そして何処か嬉しそうな表情を浮かべた。
「うん、記入漏れも無いし、顧問も既に了承を取ってるみたいだから何も問題無いわね。じゃあ、承認しちゃいます」
ポン! と承認印を押した。これでVR研究部はIS学園の正式な部活動となり、部室と部費の初期費用10万円が与えられる事になった。
「部室はそうねぇ……虚ちゃん、どこか空いてる場所ある?」
虚と呼ばれた三年生の少女は直ぐに用意していた資料の中から学園内の施設と、部活の使用施設を確認していく。
「ありました。VR研究部の内容から恐らくはピッタリの場所ですね」
「へぇ、どれどれ? ……ああ! あそこね」
一夏達にも見せてくれた。指差された場所はIS学園の地下1階にあるバーチャルルームだ。
元々、学園の整備課がOSについての授業を行う際に使う教室で、放課後は基本的に誰も使用していない場所なのだとか。
そして、バーチャルルームの名に相応しく、相応の設備も用意されている。
「よっしゃ、これで後は活動するだけですね、キリトさん」
「だな。それで生徒会長、一つ頼みがあるんだけど」
「何かしら?」
「学園の大型サーバーの一部を借りたい」
楯無に学園のサーバーを使ったVRゲーム作りについて説明し、作ろうと思っているゲームも伝える。
すると、楯無は面白そうな表情を浮かべ、直ぐに学園長へ内線を入れ、許可を取ってくれた。
「はい、これで良いわよ。それにしても、VRゲームでそれは良い考えよね、今まではどうしても既存の物では限界があったのに、これならその限界を簡単にクリア出来るわ」
それと、楯無が一つだけ条件を出してきた。
「私も入部して良いかしら? 生徒会長の仕事もあるし、顔を出すのはそんなに多くないだろうけど」
「それは構わないよ、妹さんが心配か?」
「まぁ、ね……貴方も兄だって聞いたから気持ちは解るでしょ?」
「一応は」
同じ妹を持つ身の上同士、和人と楯無は存外話が合う。明日奈が隣で和人の背中を抓ってなければもっと妹談義をしたいところだったのだが、それは断念した。
「実を言うと、私が入部する理由はもう一つあるのよ。これは前に織斑君に伝えてあるけど、私は織斑君の護衛も勤めることになっているから、本当なら織斑君と桐ヶ谷君には生徒会に所属してもらいたかったのだけど、部活に入るなら、私も入部して護衛することになるわ」
ついでに、虚も所属してくれるとの事なので、基本生徒会役員である楯無と虚、本音はあまり参加出来ないかもしれないが、それでも部員数は当初の予定以上のメンバーを揃えられた。
「ああ、それとね……電子関係なら私より簪ちゃんに頼んだ方が良いわよ? あの子、自覚は無いけどそっち方面では私より優秀だから」
「へぇ、それは願っても無いな。流石に俺とナツだけだと限界があるし、もう一人電子関係に強い人が居れば確実性が増す」
ユイが居るとは言え、プログラミングを実際に行うのは和人と一夏なのだから、二人ではどうしても限界が出てくる。
そこにもう一人加わるというのは、正直有難い事この上ない。
「ただまぁ、あの子もあの子で専用機の組み立てに忙しいから、如何ともし難いというかねぇ」
「そこは時間掛けて説得するよー、レクトから人を派遣してでも完成させるから、一人で頑張らないでって」
明日奈の言葉に楯無も少しは安心してくれたのか、表情が穏やかになった。
一夏達の機体が原因の一端とは言え、簪一人で専用機を組み上げるなどという無茶をさせるのは心配なのだろう。
「まぁ、とりあえず承認は出来たけど、実際にバーチャルルームを部室として使用出来るのは明日以降からね? 今日中にあそこをVR研究部の部室として色々と伝えないといけない所があるから」
「わかった。じゃあ、今日のところは帰るとするか」
「キリト君、今日はわたしの検診に付き合ってくれるんだよね?」
「ああ」
明日奈のリハビリ後の経過検診のため、担当のスポーツドクターのところへ向かった和人と明日奈。
生徒会室には楯無と虚、本音、そして一夏と百合子の5人が残される形となった。
「ところで、一夏君と宍戸さんに聞きたいんだけど」
「はい?」
「……何でしょうか?」
「今日、君たちのクラスに転入してきた男の子、いるじゃない?」
シャルルのことだ。どうやら情報は既に生徒会にも行っているみたいだが、生徒会という組織の性格上、当たり前なのかもしれない。
特に、このIS学園という様々な国籍の生徒が在籍する学園の生徒会ともなれば、それも当然だろう。
「彼を見て如何思った?」
「まぁ、まず第一に違和感を感じましたね」
「ちょっと、不審な点が多すぎる」
「あら、参考までに聞かせて貰えるかしら?」
一夏と百合子が挙げた不審な点、違和感はまず第一に世界で3番目の男性IS操縦者だというのに、転入してくるまでその情報が一切世間に公開されていないこと。
フランス政府、もしくは彼の実家たるデュノア社が隠蔽していたのかもしれないが、それでは不自然だし、そもそも隠すメリットなど無い。
デュノア社は現在主流の第2世代型量産IS、ラファール・リヴァイヴを開発してシェア世界3位という業績を出しているものの、現在は第3世代型ISの開発に行き詰まり、業績不振に陥っているというのは知っている。
そんなデュノア社の社長の身内から3人目の男性IS操縦者が見つかったとなれば恰好の客寄せパンダになるのだから、公開しないというのは逆にデメリットにしかならないだろう。
第二に体格が男にしては華奢過ぎる点だ。
もちろん、和人という華奢な男が居るので、シャルルのような華奢な男が全く居ないとは言わないが、それにしては骨格からして違和感が感じられる。
あれでは男装している女だと言った方がまだ納得出来るほどだ。
「そして第三に視線ですね」
「視線?」
「ええ、シャルルは俺やキリトさんと話をしているとき、俺たちの顔こそちゃんと見て話してましたけど、時折待機状態にしている俺たちのISに視線が向かってましたから」
聞けば、彼も専用機は持っているとのことで、同じ専用機持ちなら別に専用機が羨ましいとか、珍しいということも無い。
態々視線を向けるなどありえないというのはセシリアや鈴音と話をしていて分かったことだ。
彼女たちは一夏や和人と話をしている最中に待機状態のISに視線を向けるなどということをしたことが無いのだから。
「私の推測では、シャルル・デュノアは性別を偽った女性……目的はナツやキリトお義兄さんのデータ、もしくはその専用機のデータを盗むこと」
「なるほどねぇ……わかった、調べておくから、何か分かったら一夏君に報告するわね?」
「お願いします」
連絡先を交換したので、何か判れば一夏の所に連絡が来ることになった。
このことは先に帰った和人と明日奈には後に報告することにして、用事も無くなった一夏と百合子は生徒会室を後にし、二人揃って仲良く帰路に着く。
「ね、ナツ」
「うん?」
「もし……デュノア君が本当にスパイだったら、どうするの?」
「う~ん……まぁ、シャルルの出方次第かな。もし、命令されて仕方なくってなら交渉の余地があるけど、あいつが進んでスパイをするために来たってんなら……少しお仕置きかな」
敵対するなら容赦しない。それはアインクラッドで戦っていた頃に学んだことだ。
SAOにおけるレッドプレイヤー……殺人ギルドの連中は甘さを捨てて掛からなければ逆にこちらが殺されてしまうような連中ばかりで、そんな連中とも戦うことがあったからこそ、一夏は戦いにおいて相手が誰であろうと敵対する以上は甘さを捨てるようになった。
自分の甘さが、自分だけではなく、周りに居る人まで危険な目に合わせることになるのなら、そんな甘さは戦いにおいて捨ててしまった方が良いと、あの2年で学んだ。
「安心して」
「ん?」
「ナツは、私が守るから」
「……ああ、そうだったな。俺のことはユリコが守ってくれる、だからこそ俺はお前を守るんだ」
「うん」
放課後の夕暮れに染まった道を、手を繋いで歩く二人は、これから訪れるかもしれない戦いを想い、決意と覚悟を決めるのだった。
次回は速攻でシャルルの秘密を暴いてしまいます。
正直、原作より勘が鋭く、色々と考える頭もあるこの作品の一夏がいつまでもシャルルの秘密を暴けないなんて無理ですしね。