SAO帰還者のIS
第十八話
「元日本代表候補生を知る戦士達」
この日、最初の授業はIS実機を使った実習を1組2組合同で行われる事になっている。
もっとも、IS実機を使っての実習は本日が初めての為、予定しているのはISに実際に乗って歩く程度の事だけだ。
これから順調に生徒達がISに慣れて行けば半年以内にはISでの飛行や模擬戦闘なども行われる事になるだろう。
「では、最初に実際にIS同士の模擬戦闘を見てもらう。オルコット、凰、前に出ろ」
「わたくしと鈴さんが、ですの?」
「え~、メンドー」
千冬の指示でセシリアと鈴音が前に出てくると、彼女達は中々やる気を見せないので、千冬がチラっと一夏の方に視線を向けた。
「真面目にやれ、アイツに良い所を見せるチャンスだぞ?」
「チャンスと言われましても……」
「そもそもチャンスになんてならないじゃないですか」
セシリアはそもそも一夏達に好意を持っていてもそれは仲間や友人に対する友愛であり、鈴音は一夏への恋心が未だにあっても半ば諦めているのだ。
一夏へのアピールチャンスだと言われたところで、やる気が出るはずも無い。
「まぁ、いいさ。それより、お前達の相手をしてもらうのは……」
てっきりこの二人が模擬戦をするのかと思いきや、突如上空から一機のISが降って来た。
緑色の装甲の機体、学園に配備されている訓練機であり、フランス製の第二世代型IS、ラファール・リヴァイヴだ。
そして、それに搭乗しているのは1組副担任の山田真耶、元日本代表候補生であり、射撃部門であれば国家代表としてヴァリキリーに輝けたであろうというほどの当時日本代表候補生最強と呼ばれた実力者だった。……だったのだが、今何故かコントロールを失い、回転しながら落下してきている。
「って、こっちに落ちてくる!?」
「ナツ!」
「ええい! ちくしょーっ!!」
慌てて白式を展開した一夏は飛び上がって真耶の右腕を掴み、勢いを殺しながら地面へと着地、黒鐡を展開していた和人が上手くキャッチした事で大事には至らなかった。
「あ、ありがとうございます、織斑君、桐ヶ谷君」
「先生、元代表候補生なんですから、もう少し確りしてくださいよ」
一夏の言う通り、元日本代表候補生なのだから、コントロールくらいお手の物の筈。
そもそも、真耶の当時の専用機は第二世代機だった筈なのだから、同じ第二世代のラファール・リヴァイヴで何故コントロールをミスるのか疑問だ。
「先生、もしかしてアタシたちの相手って」
「山田先生ですの?」
「そうだ」
2対1、流石に元代表候補生とは言え、現代表候補生であるセシリアと鈴音を纏めて相手出来るのか、と二人は若干だが抵抗を覚えるも、次の千冬の言葉で闘士を燃やす事になる。
「安心しろ、今のお前達では直ぐに負ける」
「っ! 上等ですわ!」
「やってやろうじゃない!」
簡単に頭に血が昇った二人は早速ブルー・ティアーズと
同じくして、真耶も二人と同じ高度まで浮かぶと、いつもの実年齢より幼く見える笑顔を向けて、何とも頼り無さそうな雰囲気を醸し出していた。
「元日本の代表候補生だからと言って、手加減はしません事よ?」
「速攻で潰してあげるわ」
「お手柔らかに~」
鈴音とセシリアペアと真耶の模擬戦が始まり、地上では千冬がシャルルを指名して真耶の使うラファール・リヴァイヴの機体説明をさせていた。
流石に自国の、それも自身のファミリーネームの会社が作った機体というだけあり、シャルルはリヴァイヴの事について熟知しており、千冬も満足出来る模範解答をしている。
「それにしても、さっきまで頼り無かった山田先生なのに、随分と強いなぁ」
「ああ、あの射撃の腕は正直凄いよ。それに近接戦も、ブレードの扱いが苦手とは思えない……多分だけど、山田先生は射撃が得意というだけで、苦手な距離は無いんじゃないか?」
和人の言う通り、真耶はオールマイティーに戦える汎用性の高い操縦者だ。
射撃が最も得意だからと近距離が苦手、などという事は無く、寧ろ苦手な距離を作らないように鍛え上げたと言うべきか。
「完全近接型のわたし達とは違うねー」
「あの二人なら鈴音さんが中距離型で遠近両方行けるけど、錬度が違う」
そう、鈴音も真耶と同じで全距離対応が可能なのだが、真耶は鈴音以上に距離の使い方が上手いのだ。
自分と相手の距離を計算し、その場その場で使う武器を変えながら最適な攻撃を行うのが神業と言っても良いほどにレベルが高い。
「あ、終わったみたいだよ」
明日奈が目を向けた先では、一箇所に纏められたセシリアと鈴音が真耶のグレネードランチャーによって落とされていた。
「まぁ、今の奴らではこんなものか。諸君もこれで教員の実力は理解出来ただろう。以後は敬意を持って接するように」
模擬戦が終わった後は実際に訓練機を用いての歩行訓練に移る。
各専用機持ちがリーダーとなって一般生徒の訓練を見るという形になり、一夏、和人、明日奈、百合子、セシリア、鈴音、シャルル、ラウラの8名が用意された打鉄4機とラファール・リヴァイヴ4機から1機選んで担当する一般生徒達に順番で搭乗、歩行まで行ってもらうのだ。
「という事で、各自自由に専用機持ちの所へ行けと言ったがな……ちゃんと均等に分かれんか貴様等!!」
自由に、と千冬が言ったのも原因だろう。
一夏、和人、シャルルの周囲に殆どの生徒が集まってしまったので、千冬の渇が入り、今度はちゃんと均等に分かれて訓練が始まった。
「んじゃ、やるか……えっと、じゃあ相川さんから出席番号順にやるから」
「は~い」
一夏の所では打鉄を使っての訓練となり、一般生徒達が出席番号順に並んで順番に打鉄への搭乗、歩行を行っている。
順調に訓練が進み、四十院神楽の訓練が終わったところで次は箒の番になった。
「次は箒か、じゃあ乗ってくれ」
「ああ……だが、どうやって乗れば良い?」
「へ? あ……」
「あ、ごめんね織斑君! 打鉄、前屈みにさせておくの忘れてた」
どうやら神楽が降りる際に次の人が乗り易いよう前屈みの状態にさせるのを忘れていたため、このままでは乗る事が出来ない状態になっているようだ。
仕方が無いと一夏は白式を一度展開すると浮かび上がり、打鉄に乗り移って白式を待機状態に戻し、打鉄を前屈みにしてから降りて箒に搭乗するよう促す。
「皆も降りるときは必ず次の人が乗り易いように前屈みにしておくのを忘れないでくれ」
皆が頷くのを確認すると、一夏は引き続き訓練を見ていく。
他の班でも特に問題が起きる事無く訓練が進み(元々コミュ障の和人や他の生徒を無視しているラウラの班は進みが若干遅かったが)、授業を無事終えた。
授業が終わると直ぐに一夏と和人は訓練機を片付ける作業に入り、他の生徒達は着替えて教室に戻って行った。
「今日は凄かったですね、山田先生」
「ああ、元日本代表候補生って話だから、それなりに強いとは思ってたけど」
それに、動く度に揺れるあの豊満な双丘は実に眼福であった。ISスーツを着ていたのもあり、そのライン、動きが実に麗しい。
『パパ、ナツお兄さん、鼻の下を伸ばしちゃ駄目ですよ! ママとユリコお姉さんに報告しちゃいますから』
「ゆ、ユイ!? いや、違うぞ!?」
「そ、そうだってユイちゃん! 俺達は別に……」
『嘘です! パパもお兄さんも山田先生のお胸を見てデレデレしてました!!』
この後、ユイの報告を受けた明日奈と百合子に、和人と一夏がこってりと絞られたのは、言うまでもないだろう。
今後、ユイが常に目を光らせているのを忘れず、真耶の前では絶対に胸へ目を向けないという事を、涙ながらに誓い合った思春期の男子二人であった。
次回はシャルの出番が少し増えるかもですね。
皆さんに質問、シャルにALOをやらせるなら、どの種族が似合うでしょう?
私的にはシルフかなぁと思ってるんですが。
ちなみに、これはアンケートではなく、純粋な疑問による質問ですので、あしからず。