SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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書きたかったシーンが漸く書けた~!


第十六話 「戦士達の祝い」

SAO帰還者のIS

 

第十六話

「戦士達の祝い」

 

 所属不明機が沈黙した後、一夏達は一先ず寮へと帰され、件の所属不明機は現在学園地下にある解析室に運ばれて、解析が行われている。

 現状、解析を進めて判った事は所属不明機が無人機である事と、そのコアが467個あるどのコアとも一致しない未登録ナンバー……つまり、468個目のコアである事だ。

 

「ふむ……」

「織斑先生、何か心当たりでも?」

「いや、今はまだ……な」

 

 解析に参加していた真耶と千冬だったが、千冬には未登録のコア、無人機であるという点から犯人の凡その検討は付いていた。

 だが、真耶からの問いに答える事無く、視線を無人機に移したのだが、ふとポケットに入れていた携帯電話に着信が来たのに気付き、真耶に一言断りを入れると、解析室から廊下に出ると、携帯電話の画面を見る。

 

「束からだと……?」

 

 着信の相手は彼女の親友にして、ISの開発者である篠ノ之束だった。

 何の用事で電話してきたのか気になり、怪訝そうな表情を浮かべるが、意を決して通話ボタンを押すと、受話口を耳に当てる。

 

『もすもすひねもす~? ハァ~イちーちゃん、皆のアイドル、篠ノ之束ちゃんで~す!』

「……切るぞ」

『わわわ! 待って待って切らないで~! ちゃんと用事があるんだから~』

 

 開口一番にふざけた親友についイラッ★とした千冬が通話終了ボタンを押そうとしたのだが、止めようとする束の声に違和感を感じて受話口を再び耳に当てた。

 

「それで、何の用だ?」

『今日そっちに無人機が行ったでしょ?』

「……やはり、あれは貴様か」

『ん~、本来なら頷くんだけどなぁ』

 

 本来なら、とはどういう意味なのか。つまりあれは束が犯人ではないとでも言うのか。

 

「どういうことだ?」

『今日そっちに行った無人機……あれは束さんが開発したゴーレムⅠって機体なんだけどね? 実は1ヶ月前に盗まれた機体なんだよ~』

「待て、盗まれただと?」

『そそ、だから束さんはゴーレムⅠを開発したけど、そっちに送った犯人じゃないんだよ~! 参ったか!』

 

 ではあのゴーレムⅠを送りつけてきたのは誰なのか、そして束の所からゴーレムⅠを盗み出すなどという、とても不可能と思える芸当を行ったのは何者なのか。

 

『犯人の目星は付いてるよ、たぶん亡国機業だろうね』

「なるほど。だが亡国機業がお前のセキュリティーを突破するなど、出来るのか?」

『……ね、ちーちゃんも知ってるでしょ。私は電子関係に関してだけは世界一じゃないこと』

「……ああ」

『結局、私はこれまで一度だって晶彦君に電子関係で勝ったことは無いんだ。でも彼はもう死んでいる』

 

 束が口にした名前、それは嘗てSAOを作り出し、1万人をデスゲームという死の牢獄へと閉じ込めた茅場晶彦の事だった。

 しかも、束は茅場晶彦の事を晶彦君と、随分と親しげに呼んでいる。

 

『でもね、もう一人居るんだよ、束さんと電子関係が殆ど同レベルの人間が』

「馬鹿な! 晶彦さん以外にお前を上回る奴など……まさか!」

『そう、居るでしょ……晶彦君の大学時代の後輩に一人』

「須郷か……だが、あいつは今、留置所に居るはずだ」

『残念、実は既に亡国機業の手によって脱獄済み。今は亡国機業に身を寄せてるみたいだね』

 

 最悪の男が最悪の組織に居る。それが判明しただけでも頭が痛くなる思いだ。更に束は千冬の頭痛の種となる事実をもう一つ告げた。

 

『盗まれたISはゴーレムⅠが1機、ゴーレムⅢが5機だよ。迎撃に当たったゴーレムⅡは大破して、何とか回収したから盗まれてないけど』

「つまり、まだゴーレムⅢの襲撃がある可能性がある、ということか」

 

 亡国機業が、否、須郷がこの学園を襲撃した理由は流石に不明だが、一夏と百合子、和人、明日奈が原因ではないかと予想した。

 彼はレクトに勤めていた時にSAOサーバーの責任者としてデスゲーム開始から終了まで携わっていたのだから、何かしらの関係がありそうだ。

 

『兎に角気をつけてねちーちゃん、須郷は晶彦君より劣るとは言え、それでも電子関係では私に並ぶ天才だから』

「ああ、忠告感謝する」

 

 話はそれだけ、と通話終了ボタンを押し、千冬は解析室に戻る。

 解析室では相変わらずゴーレムⅠの解析が行われていたが、千冬の入室に気付いた真耶が作業を中断して千冬の方へ歩み寄ってきた。

 

「どなたからでした?」

「知り合いからな。それより解析結果については後でレポートに纏めておいてくれ」

「了解です。それと、篠ノ之さんについてですが……」

「今は営倉に放り込んである。何かあったのか?」

「あ、はい……その、IS委員会が彼女を2日後には出せ、と」

 

 現在、箒は危険行為をしたという理由で学園の営倉に入れられている。本来なら彼女の行為は危険極まりないとして、1ヶ月の謹慎から最悪は退学もありえたのだが、IS委員会は箒の姉である束を恐れてか、箒を2日で開放するよう命じてきたらしい。

 

「学園上層部は何と?」

「委員会とほぼ同意だそうです」

 

 頭が痛くなる事案がまた増えた気がして、今度こそ千冬は頭痛薬と胃薬の常備を検討するべきかと、本気で悩むのだった。

 

 

 トーナメントの翌日、放課後になって一夏と和人、百合子、明日奈の4人はセシリアを連れてIS学園の外に出ていた。

 学園を出てモノレールに乗り、目的の駅である御徒町で降りると、和人の妹である桐ヶ谷直葉と合流し、更に少し歩く。

 

「久しぶり、お兄ちゃん」

「ああ、そっちは変わり無いか?」

「うん! 一夏君と明日奈さん、百合子ちゃんもお久しぶりです」

 

 桐ヶ谷直葉、ALO事件の際に明日奈救出の為に力を貸してくれたシルフ、リーファのリアルの姿であり、和人の妹。

 今は埼玉県内の高校に通っていて、今はその帰りに合流した形になる。

 

「えと、それからそちらは?」

「セシリア・オルコットですわ。ティアと名乗った方が判りやすいでしょうか? リーファさん」

「あ! ティアさん!? わ~、本当にIS学園の生徒だったんですね!」

 

 セシリアもつい最近になってALOを始め、明日奈と同じウンディーネを選択、アバターネーム“ティア”としてキリト達パーティーと共に行動している。

 もっとも、リーファとティアとしてではなく、リアルで桐ヶ谷直葉とセシリア・オルコットとして会うのはこれが初めてだ。

 

「ところで一夏さん、今日はどちらへ行かれるんですの?」

「ああ、もう直ぐ着くよ。それまでお楽しみ」

「はぁ」

 

 何処へ向かっているのか、まだセシリアには内緒にしている。折角ALO仲間になったのだから、これから行く先で驚いてもらい、そして輪に溶け込んでもらいたいのだ。

 

「ところで、直葉とセシリアはエギルさんとはもう会ったの?」

「あ、うん! 百合子ちゃんに予め聞いてたけど、大きい人だよね~」

「見たところ、アフリカ系アメリカ人の方のようですが、日本語がお上手な方ですわね」

「あはは、本人見たら驚くぞ? アバターまんまだし。それにエギルは生粋の江戸っ子アメリカ人なんだよ」

 

 そうこうしている内に目的地に着いた。

 6人の前にあるのはダイシー・カフェという喫茶店だが、見た目はバーの様にも見える少し小洒落た店だ。

 店の扉には『本日貸切』の札が掛けられており、一般客は入れないようになっているのだが、和人が何の躊躇いも無く扉を開けると、中には既に大勢の客が来ていて、入ってきた和人達を笑顔で出迎えていた。

 

「おいおい、俺達遅刻はしてないぞ」

 

 約束の時間通りに来たと和人は言外にそう言うが、ピンクのカーディガンを着た制服姿の女子、リズベットこと篠崎里香が近づいてくると、和人の隣に立って何故か一夏にサムズアップする。

 

「主役は最後に登場するものですからねぇ、ナツに言ってアンタ達にはちょっと遅い時間を伝えてもらったのよ」

「ナツ! お前か!」

「い、いや~……リズさんには逆らえませんって」

 

 そんな事より、とばかりに里香が和人の手を取って店内の奥に設置した台の上に和人を立たせると、何処から取り出したのかマイクを片手に皆へと振り返った。

 

「え~、それでは皆さんご唱和ください! せ~の!!」

『キリト! SAOクリアおめでとう!!』

 

 今日は前々から企画していたオフ会、それもSAOクリアを記念してのパーティーなのだ。

 SAOがクリアされて数ヶ月が経ち、漸く元SAOプレイヤー達のリハビリが終了したり、仕事が軌道に乗り始めたりして、落ち着き始めた今だからこそ、こうやって黒の剣士キリトと交流のあったメンバーを集めてパーティーを行う事になった。

 見れば和人達以外にもエギルことアンドリュー・ギルバート・ミルズ、クラインこと壷井遼太郎、リズベットこと篠崎里香、シリカこと綾野珪子も居るし、他にもクラインが率いていたギルド風林火山のメンバーや、圏内事件で知り合ったヨルコやカインズ、ユイの一件で知り合ったシンカーとユリエール、サーシャも居る。

 

「はぁ、マスターバーボンロック」

「あ、俺も同じのを」

 

 パーティーが始まって明日奈と百合子は直葉とセシリアを連れそれぞれ知り合いと話の輪に入ったので、和人と一夏はカウンター席に座る。

 注文を入れると和人と一夏の目の前に茶色い飲み物がロックグラスに入れられて出されたのだが、まさか本当にバーボンなのかと、店主であるエギルの方を見れば、不敵に笑っているだけだ。

 

「……んぐ、って、なんだ烏龍茶かよ」

「ですね」

 

 一口飲んで直ぐにそれが烏龍茶だと判明した。まぁ、当然と言えば当然である。

 

「エギル、俺には本物くれ」

「クラインさん、良いのか? この後会社に戻るらしいじゃん」

「うぃ~っ! 残業なんて飲まずにやってられるかっての」

 

 一夏の隣に座ったクラインが本物のバーボンをロックで飲みながら随分と社会人として如何なものかと思える言葉を口にする。

 しかも、バンダナ頭に巻いてスーツ姿という異様な姿が随分と不恰好極まり無い。

 

「お久しぶり」

「シンカーさん!」

「お久しぶりです、シンカーさん」

 

 今度は同じくバーボンを持ってシンカーが和人の隣に座った。

 彼もクラインと同じくスーツ姿なのだが、こちらは随分とスーツ姿が似合っていて、正に社会人の鑑と言わんばかりだ。

 

「そういえば、ユリエールさんと入籍したそうですね」

「遅くなりましたけど、おめでとうございます」

「いや、まぁ……まだ現実の世界に慣れるのに精一杯って感じなんですけどね。結婚式もまだ未定で……決まったら招待状をIS学園に送りますよ」

「そういや、見てるっすよ新生MMOトゥデイ」

 

 クラインの言う新生MMOトゥデイとはシンカーが務める会社で運営しているMMOゲームの攻略情報やニュースなど、プレイヤーご用達の大型情報サイトの事だ。

 シンカーは主にVRMMORPG関連の担当をしているらしい。

 

「いやぁ、まだコンテンツなんかも少なくて、今のMMO事情じゃ、攻略情報とかニュースは無意味になりつつありますしね」

 

 SAO登場以来、従来のMMOが減りつつあり、本来ならVRMMOが増えていく筈だったのだが、SAO事件とALO事件の影響でMMOそのものの数が減ってしまったのだ。

 これからまずます増えてはいくのだろうが、現状ではシンカーの会社も運営が少しばかり心許ないとのこと。

 

「エギルさん、そういえばあれから種の方はどうなりました?」

「すげぇもんさ。今、ミラーサーバーがおよそ50、ダウンロード総数が10万、実際に稼動してる大型サーバーが300ってとこかな」

 

 和人がALO事件の際に茅場晶彦から託されたというVRMMO環境を動かすプログラムパッケージをエギルの伝で世界中がダウンロード出来るよう手配している。

 そのおかげで今の新生ALOがあり、今も尚VRMMOゲームは増えつつあるのだ。

 

「おい、二次会の予定は変更無いんだろうな?」

「おう、今夜11時、イグドラシルシティ集合だ」

 

 SAO攻略記念パーティーは、まだまだ終わりを見せなかった。

 

 

 一次会が終了し、一夏達もIS学園に戻り夜、アミュスフィアを被ってALOにログインする。

 ログインして直ぐ、ナツはユリコとティアを連れて上空へと上がり、イグドラシルシティを目指して飛行していた。

 

「ティア、まだ随意飛行に慣れないか?」

「え、ええ……どうも、ISで飛ぶのとは訳が違いますので、苦戦してしまいますわ」

「慣れ、だよ。何度も飛んでれば慣れるから」

 

 ナツの隣を飛ぶシルフの妖精、薄い金髪の髪と翡翠色の瞳以外は殆どリアルのままのユリコがスピードを落としてサファイアブルーのウェーブ掛かった髪が美しいウンディーネの妖精、ティアに並んだ。

 

「手、繋ごう? 少し飛ばすから」

「判りました。お願いしますわ」

 

 もう間もなく約束の11時。ようやくイグドラシルシティ上空に着いた時、それは現れた。

 

「あ、あれは……いったい何ですの?」

 

 遥か上空からゆっくりと降りてくる物体。雲の向こうから降りてきて、月を覆い尽くした瞬間、ライトアップされて照らし出されたのは巨大な浮遊城だった。

 

「ま、まさかあれは……」

「ああ、あれが俺達が2年間戦い抜けた浮遊城」

「アインクラッド」

 

 新生ALOに、アインクラッドが実装された瞬間だった。

 

「前の時は75層で終わったけど、今度は違うぜ」

「え……?」

「うん、今度こそ……」

「ああ、今度こそ100層までクリアして、あの城を征服し、あの2年間に決着を着けるんだ!」

 

 見れば少し上空の方にキリトとリーファの姿が見えて、下からは多くの仲間達が飛んでくるのにも気がついた。

 皆、考える事は一緒なのだろう。少し笑ってナツとユリコはティアの手を確り掴むと、アインクラッド目掛けて飛び出していく。

 

「キリトさん! お先!!」

「先に行くよ」

 

 二人に手を引かれながら飛ぶティアが見たのは、アインクラッド目指して生き生きとした瞳をまるで子供の様に輝かせるナツとユリコの姿。

 それを見て、自分もこれから彼らの仲間になり、あの夜空に輝く浮遊城を攻略していくのだと思うと、胸が熱くなった。

 

「ナツさん! ユリコさん! わたくし、自分で飛びますわ!」

 

 二人に手を引いてもらうのではなく、自分の翼で、あの浮遊城を目指す。彼らの仲間として、先ず最初にするべきことはそれだと思ったティアは、二人の手を放すと、自分で飛び始める。

 そんなティアの様子に、ナツとユリコは顔を見合わせて微笑むと、自分達もまた、蘇った城を目指して羽を羽ばたかせるのだった。




ここらでセシリアのALOでのアバター紹介

アバターネーム:ティア
種族:ウンディーネ
武器:杖
ビルド:魔法型(主に遠距離狙撃魔法をメインにしている)
見た目:サファイアブルーのウェーブ掛かった髪を腰まで伸ばした瑠璃色の瞳の妖精。若干リアルのセシリアにも似ている。


因みに、箒については原作から変更は殆どありません。原作乖離したのはゴーレムⅠの事でした。

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