長きに渡るスランプを乗り越え……たのか? まぁ乗り越えて、何とか最新話の投稿です!
さぁ、ブラックコーヒーの貯蔵は十分か!
SAO帰還者のIS
第百十九話
「京都に舞い降りたバカップル」
京都、古の都……古都と呼ばれるその地は、日本の嘗ての都だった場所。数多くの歴史的建造物が建ち並び、日本の歴史上でも多くの出来事が京都で起きた。
今では国内外問わず多くの者が観光に訪れる地であり、幕末の世に多くの血を流した地は、現代にて多くの笑顔が溢れる地となった。
そんな京都にIS学園の生徒達が降り立ち、修学旅行一日目が始まろうとしている。
「よし、点呼は終わったな? これよりバスでの移動となる。最初は清水寺から観光する事になるが、IS学園の制服を着ている事の意味をよく理解し、マナーと節度を守って行動するように」
学年主任である千冬が号令を掛け、京都駅前で整列する生徒達に京都観光における注意事項を説明している。
曰く、修学旅行は決して遊びではない。何のために制服を着て観光をするのかを理解し、そしてその制服を着ているからこそ守らねばならない節度とマナーを忘れるなと。
「それではクラスごとバスに乗車しろ。早速だが出発だ」
全4クラス分のバスに生徒達が乗り込む。一組である一夏や和人も同じくバスに乗る為に整列していたのだが、一瞬……二人は背筋に身の毛が弥立つ様な悪寒と視線を感じて、その視線の方へ勢いよく振り返った。
二人の見つめる先にあるのは……京都タワーだ。
「……キリトさん」
「ああ、確かに何かが居た」
一瞬だけだが、二人の視界には確かに人影らしき何かが見えた。今はもう何も見えないが、だが確かに何かが京都タワーの頂に居た。それは間違いない。
「おい織斑、桐ケ谷、何をしている?」
「……織斑先生、あなたは気付きませんでしたか?」
「ん? いや……京都タワーに何かあるのか?」
「いいや……千冬姉、いや織斑先生が何も感じてないなら、いい」
気のせいではない。それだけは間違いないのだが、今はまだ修学旅行が始まったばかりだ。他の生徒達に無用の不安や混乱を与えるわけにもいかないので、無理やりにでも気のせいだったという事にして、二人もバスに乗り込む。
そして、出発したバス、それを見送るように一組のバスに熱い視線を向ける人物が人込みの中に紛れている事に、気づく者は居なかった。
「流石は私の
修学旅行一日目の最初の目的地、清水寺。恐らく京都のお寺の中でも特に有名な寺だろう。日本人なら誰もが知っている寺であり、毎年多くの観光客が訪れる観光の定番名所。
そして修学旅行で訪れる年頃の乙女にとっては恋愛祈願のスポットでもある。清水寺にある羽音の滝も有名な恋愛成就のスポットだが、その他にも境内にある地主神社は大国主命を祀る縁結びの神社であり、恋占いの石やしあわせのドラといった縁結びのご利益があるスポットが存在している。
当然、年頃の乙女であるIS学園の生徒達も清水寺に辿り着くや否や羽音の滝、恋占いの石、しあわせのドラへ真っ先に向かった。
「やっぱ女子校育ちが多いんだろうな、みんな縁結びに夢中だ」
「キリト君は興味無いの?」
「観光スポットという意味ではあるよ。まぁ、別に縁結びのご利益に与らなくても、俺にはアスナが居るから、十分だ」
誰もが恋愛成就の為に必死になる中、真っ向から喧嘩を売るように恋人繋ぎで境内を歩くのは我らがバカップル代表、和人と明日奈だ。
「ね、折角清水寺に来たんだから少し見て回ろう? キリト君、初めてでしょ?」
「そうだな、案内頼めるか?」
「任せて!」
周囲のIS学園生徒達がバカップルのイチャイチャを見て歯軋りする中、和人と明日奈は清水の舞台に向かって歩き出した。
漸く視界からバカップルが消えてくれたと安堵した生徒達だったが、次の瞬間再び歯軋りをする羽目になる。
「ナツ、何処に行く?」
「ん~、音羽の滝に行くか? 学業成就の水に興味がある」
「ん、行こう」
IS学園が誇るもう一組のバカップル、一夏と百合子が和人と明日奈同様に恋人繋ぎでイチャイチャしながら歩いているではないか。
しかも、音羽の滝の恋愛成就には一切興味を向けず、学業成就にしか興味無いと言わんばかりの台詞、これが持つ者と持たざる者の違いか。
「リア充め……」
「おのれリア充……オ・ノーレ!」
「リア充滅ぶべし慈悲は無い……」
彼氏居ない女子達の怨念めいた呟きが響き渡る中、二組のバカップルはそれぞれ己の道を行く。この日、京都でブラックコーヒーが異常なほど売れる事になるのは、まだ誰も知らない。
その後も行く先々でバカップルの猛威が他の生徒達を襲った。例えば昼食、学園生達は大きなレストランを貸し切っての食事となったのだが、当然席には同じ班同士が座る。
勿論、同じ班になっている二組のバカップルの猛威が振るわれる絶好の機会が訪れるわけだが。
「はい、キリト君、あ~ん」
「あー……ん、美味いなコレ」
「でしょ? この店、京都に来たら時々利用するから美味しいのは知ってたの。だからキリト君には是非ともお勧めを食べて欲しくて」
「なら、アスナもはい、あーん」
「あ~ん……うん! 美味しいねー」
食事の殆どを食べさせ合いで済ませる和人と明日奈、その隣では……。
「なぁユリコ、食べ難くないか?」
「ん?」
「さっきからくっ付きっ放しだし」
「大丈夫、私は平気」
「そっか、なら良いや」
食事中だというのに、ずっと身を寄せ合って離れない一夏と百合子の姿が。マナー云々の問題もあるだろうが、それ以上に恋人の居ない人間には目の毒だった。
更に、観光を終えて宿にチェックインした後も。
「あ、これ可愛い! リズやシリカちゃんのお土産に良いかも!」
「お、木刀だ。スグへの土産はこれかな」
「ナツ! これ夏奈子に」
「ああ、それは良いな、こっちもどうだ?」
旅館の土産物コーナーでそれぞれ腕を組みながら土産を選ぶバカップル達、おかげで先ほど旅館内の自動販売機からブラックコーヒーが売り切れた。
しかし、そんなバカップル達が居る中、一人土産物コーナーに居る強者が居た。
「えぇっと……あ、これなんか遼太郎さんに良いかもですね」
浴衣を爆乳で押し上げる眼鏡の童顔教師、山田先生こと真耶だった。彼女が見ているのはペアのマグカップ、侍と書かれたソレを見て最近付き合いだした彼氏への土産に丁度良いと可愛らしく笑みを浮かべている。
「リア充が増えた」
「増えたわ」
「増えたわね」
「オ・ノーレ!」
因みに、真耶がリア充の仲間入りをしてしまった事で、同じ教師でありながら独り身の同僚達はというと。
「くそぅ! 真耶にも彼氏が出来て、何故私は……!」
「あはは、ちーちゃん結婚願望あったんだ」
「当たり前だ!! 私だってなぁ、一夏が立派になれば彼氏の一人や二人と思っていたんだ……! なのに」
「まあまあ織斑先生、飲み過ぎですよ」
「あ、さっきー! お水頂戴、ちーちゃんに飲ませるから」
「はい、篠ノ之先生」
ヤケ酒で完全に酔っぱらっている千冬の相手をする束と榊原先生は、この日の夜を境に仲良くなり、時々一緒に飲みに行く仲となるのだが、まぁ完全な余談だろう。
次回は修学旅行2日目、結城家に呼び出される明日奈と、動き出す亡国の死者(誤字にあらず)、お楽しみに。