SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

127 / 132
3連休、終わりますねぇ。


第百十七話 「結城家」

SAO帰還者のIS

 

第百十七話

「結城家」

 

 ここ最近、京都への修学旅行が近づくにつれ明日奈の表情が優れない事が多くなった。

 それに気づいたのは和人とユイであり、何があったのか尋ねても笑顔ではぐらかされるばかりで理由はわからない。

 ただ、何となくだが察する事は出来た。京都といえば日本でも有数の名家、結城家の本家が置かれている地だ。

 そこに結城本家直系筋の明日奈が行くという事は大きな意味があるのだ。例えそれが修学旅行という学校行事であろうと関係無い。

 

「……」

 

 この日も、明日奈は寮の屋上で一人、白兵戦用のランベントライトを使って素振りをしていた時にスマートフォンに掛かって来た着信に気づき、画面に映し出された名前を見て憂鬱そうに溜息をこぼした。

 

「……はい、明日奈です」

『出るのが遅いわよ明日奈、家からの電話なのですから、直ぐに出なさい』

「……ごめんなさい、母さん」

 

 電話の相手は結城京子、明日奈の実の母であり、大学教授を勤める程の才女で、家で最も厳しい人間だ。

 

「あの、それで用件は……?」

『決まっているでしょう? 先日から言ってますが、修学旅行で京都に行くのなら、必ず本家へ顔を出してご挨拶とSAO事件でご迷惑をお掛けした事の謝罪をしてくるという件です』

「それは……勿論しなければいけないっていうのは理解してるけど、折角の修学旅行なのに水を差すような事はしたくないっていうか……そもそも、そんな事をしてる暇があるかどうか」

『言い訳は結構です。暇があるかどうかではありません、時間を作ってでも行くのが礼儀というものでしょう? 友人とやらとの時間と、結城本家へ行く時間、どちらが最優先事項なのか、結城家に生まれた貴女に理解出来ない筈がありません』

 

 正直、明日奈の中では結城本家なんかより友人との時間の方が大切で、最優先事項である事は間違いない。

 だが、そんな事を口にしてしまえば厳しい母の事、烈火の如く怒り狂うのは目に見えている。

 

『良いですね? 必ず本家に顔を出すのですよ? 夏休みにこちらへ帰って来なかった件も、それで水に流します』

「……はい」

 

 結局、母の言う事に逆らう事が出来ず、修学旅行の際には結城本家に顔を出す事が決まってしまった。

 通話を終えてスマートフォンをベンチに置いた明日奈は暫く俯いて無言のまま佇んでいたが、少しすると顔を上げて右手のランベントライトを構える。

 

「……せぇああああっ!!」

 

 ライトエフェクトこそ無かったものの、放たれた突刺は、その軌跡は間違いなく明日奈が得意とするソードスキル、リニアーのソレだった。

 

「…………意気地無し」

 

 

 西の都、京都の地にある結城家の本家、古くから京都に根を下ろす名家であり、京都を中心とした地方銀行を運営する他、政財界や芸能界などにも多くの著名人を輩出してきた由緒ある家柄だ。

 そんな名家、結城家当主は齢70を向かえ、それでも尚現役で銀行頭取を務める他、本家筋から分家筋まで、一族の人間を一睨みで震え上がらせられるだけの威厳とオーラに満ちている男だった。

 

「当主様、東京の京子様よりご報告が入っております」

「うむ」

「明日奈お嬢様がIS学園の修学旅行で京都にいらっしゃるとの事で、その際に当家へ向かわれると」

「そうか」

 

 執事の男性からの報告を受ける当主……結城家の頂点に君臨する男、結城源蔵は腕を組んだまま目の前の碁盤の盤面から目を逸らす事なく頷いて見せた。

 

「明日奈の成績についてはどうだ?」

「は、一般教養科目については常に学年トップの成績を維持していらっしゃる御様子です。ただ、専門科目に関してはトップとは言えず、それでも高い成績を維持している模様ですな」

「ふん、玩具の専門科目の成績など如何でもいい。一般教養科目が常にトップなら申し分無いな……所詮は玩具の専門学校と言えど、国立高校だ。確か一般教養科目の内容も国内最高レベルだと聞いている」

「ええ、そのレベルは兵庫にあるN高校を遥かに凌ぐ偏差値だと聞いています」

 

 IS学園が出来るまで日本最高の偏差値を誇っていた兵庫県のN高校、その高い偏差値をIS学園は軽く上回る。

 そんな日本最高レベルの偏差値を誇るIS学園で一般教養科目が常に学年トップだというのなら、名門・結城家の令嬢として申し分無いと源蔵は考えていた。

 

「ところで、彰三は愚かにも明日奈に専用の玩具を与えているのだったな?」

「は、専用機という形でISを一機、レクト社IS武装開発局所属のテストパイロットという肩書きをお嬢様に与えた上での事とか」

「全く、あの愚息めが……明日奈にあのような玩具を与えて何を考えているのか」

「如何なさいますか?」

「こちらに来た際に明日奈から取り上げる。後日、彰三のところへ返せばあの愚息も文句は言うまい」

 

 普通、いくら親族と言えど専用機を取り上げる権限は無いのだが、源蔵にとって結城家の人間に関わる全ては自分の意見が絶対だと考えている。

 だから、明日奈から瞬光を取り上げる行為は結城家当主なのだから許されて当然、文句を言われる筋合いは無いということらしい。

 

「IS学園側から何か言ってきませんか?」

「所詮は玩具の学校だ、結城家に意見するというなら圧力を掛けて潰せ」

「御意」

 

 因みに言うが、結城家は別にIS学園設立に関してお金を出した訳でもない。当然だが理事会に結城家の血筋の人間が居るわけでもないので、圧力を掛けようにも何処の国家にも所属していないIS学園に圧力を掛けられる訳が無いのだ。

 だが、源蔵にとっては日本にあるのだから、結城家の意見に逆らう事は許されない。日本において結城家は絶対だという考えからIS学園もまた、結城家の圧力を無視出来ないだろうと本気で考えていた。

 要するに、結城源蔵という男は考え方が昔気質の石頭、現代においても昔ながらのやり方が通用すると思っているのだ。そして、それが今まで本当に通用していたから尚、性質が悪い。

 

「それから京子に伝えておけ、奴に言われた明日奈に宛がう婚約者……正月までには見繕っておくとな」

「畏まりました」

 

 明日奈と歳の近い人間で有名大学に通う者は結城家の直系にも分家にも何人か存在する。その中から将来性のある男を宛がえば京子も納得するだろうと執事に話す源蔵だが、果たしてそれは明日奈という人間の幸せを考えているのかどうか。

 少なくとも、源蔵の中にあるのは結城家という家の事だけ。家の事の前に一族の者の感情など不要だと考えているのは、間違い無いだろう。

 

 

 数日後、ついにIS学園1年生は修学旅行に出発する。寮を出る前に一夏と百合子は夏奈子を見送りに出てきた楯無に預けてズボンを掴んで離さない愛娘の頭を撫でていた。

 

「夏奈子、楯無お姉ちゃんの言う事、ちゃんと聞いて良い子にしてるんだぞ?」

「……パパ、ママ」

「お土産、沢山買ってくるから」

 

 涙を浮かべて俯く夏奈子に笑いかけて、百合子がもう一度頭を撫でると、夏奈子は漸く一夏のズボンから手を離してくれた。

 

「じゃあ楯無さん、夏奈子の事……よろしくお願いします」

「ええ、任せておきなさいな。二人は修学旅行、存分に楽しんできてね?」

「はい」

 

 未だ傷の療養中の楯無は、京都に亡国機業(ファントム・タスク)が来ている可能性があると報告は受けていても、出撃は許可されていない。

 だから、今回は彼女に出番が無いからこそ、夏奈子を預ける事になったのだ。

 

「じゃあ」

「いってきます」

「いってらっしゃい、二人とも」

「……いってらっしゃい」

 

 楯無と夏奈子に見送られて寮を出た一夏と百合子は直ぐに和人と明日奈の二人と合流する。そして、4人は揃って集合場所であるモノレールの駅へ向かい、いよいよ修学旅行本番が幕を開けるのだった。




次回から京都! いやぁ、作者自身は京都なんて高校の修学旅行で行って以来一度も行ったことが無いんで、結構現地の記憶などうる覚えですわ。
すき焼きが超美味かったのは覚えてる。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。