SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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マドカの処遇です。


第百十六話 「司法取引」

SAO帰還者のIS

 

第百十六話

「司法取引」

 

 この日、亡国機業(ファントム・タスク)の戦闘員、Mこと織斑マドカはIS学園の学園長室に両手を後ろに手錠で繋がれた状態で居た。

 周囲には学園の長である轡木十蔵だけでなく、織斑千冬、織斑一夏、篠ノ之束、更識楯無といった学園における戦闘関連の幹部とも言えるメンバーが揃っている。

 

「さて、今回決めるのはM……いえ、織斑マドカさんと言うべきですか? 彼女の処遇です。何か、この件について意見のある方は居ますか?」

「はい」

「織斑君、何でしょう?」

「即刻処刑すべきでは? 所詮はテロリスト、殺した所で文句を言う奴は居ないでしょう」

 

 自身の血縁であるのにも関わらず血も涙も無い意見を言う一夏に、楯無は流石に口を挟もうとしたのだが、それより先に十蔵が反対意見を出した。

 

「それは早計に過ぎますよ織斑君、無闇矢鱈と殺生を行うのは我々の本意ではありません」

「……十蔵さん、それは甘さですよ。一組織の長を名乗るなら、甘さは捨てるべきだ」

「では逆に言わせて頂きますが、織斑君は何故そこまで殺す事に拘るのです? 今の貴方の考えは殺人鬼のソレと何ら変わり無い」

「テロリストに人権は無い。そんなもの、国際条約にも載っている事ですよ。テロリスト相手に無益な殺生とか、それこそ無益な考えだと言ってるんです」

 

 暗に、一夏はテロリスト相手なら殺す事に躊躇いは無いと言っていた。それに気づいて胸を痛める面々だが、マドカだけは一夏の考えを忌々しくも賛同せざるを得ないといった顔をしている。

 

「一夏君……テロリスト、テロリストって言うけど、彼女は一応あなたの妹という事になるのよ? 自分の妹を処刑するなんて、躊躇う気持ちは無いのかしら?」

「ありません。妹と言われても知らない間に増えていた血縁ってだけで、家族ではありませんから。俺の家族は姉の千冬姉と、妻になる百合子と、娘の夏奈子だけです。例え、妹だと言われ様と、敵として、テロリストとして俺の前に立ったのなら、この女を殺す事に躊躇う理由はありませんよ」

 

 これも、SAO事件の後遺症と言うべきなのだろう。SAOで……アインクラッドで、一夏は余りに人を殺し過ぎてしまった。

 そして、現実に帰還してからも、この学園を守る為に多くの人間をその手に掛けてしまった。それ故か一夏は殺す事に対して一切の躊躇いが無くなってしまっている。例えそれが血縁者であろうとだ。

 

「とにかく、織斑マドカさんの処刑は無しです。私が考えているのは、彼女と司法取引をする事です」

「司法取引ですか? それは……」

「ええ、織斑先生の言いたい事は理解出来ますが、このまま彼女を国際IS委員会に引き渡すのも不味いと考えているのです……今の委員会の状況を考えると、特に」

 

 今の国際IS委員会はキナ臭いと、十蔵は語る。

 2年前、代替わりした国際IS委員会の幹部は大半がISを戦争へ導入する事を密かに計画しているという噂が絶えない。

 事実、世界中でISを使った戦争準備が行われているのを、委員会は黙認しているのだから、噂も唯の噂だと切って捨てる訳に行かない状況なのだ。

 

「そんな所に、彼女のような適正ランクSのIS操縦者を送ったらどうなります? 確実に子飼いの操縦者として飼い殺し、いずれ戦争の道具として利用されてしまいます」

 

 そんな事をさせるわけにはいかないというのが十蔵の意見だ。

 

「それで? 十ジィの言う司法取引って何する気なのかな?」

「彼女にはIS学園に入学して頂きます。年齢的には織斑君の一つ下という事なので、特例で飛び級という形を取って頂きますが……そして、取引の内容としては、篠ノ之博士の護衛を彼女に頼みたい」

「束の護衛を、ですか?」

「そうです。彼女の持っていたサイレント・ゼフィルスは既にイギリスへ返却していますので、学園から訓練用のISを一機貸し出す形になりますが、常に博士の側に付いて貰い、博士の身を守って貰いたいのです」

 

 成る程、確かに束の護衛は必要だ。その護衛にIS適正ランクSで、国家代表レベルの実力を持つマドカが就任するというのは理に適っているだろう。

 しかし、一夏はそれでも完全には納得していない。

 

「束さんの護衛をさせて、もし裏切ったらどうするんです? こいつは所詮テロリスト、卑怯卑劣何でもござれの犯罪者だ」

「ふん、そこまで心配なら首輪でも付けたらどうだ? 心配性の兄さん?」

「テメェ……今、ここで首を撥ねられたいか?」

 

 険悪ムードになる一夏とマドカだが、千冬の拳骨で何とか静まった。だが、一夏は首輪という単語に良い考えだと思い束に提案する。

 

「束さん、こいつの首に遠隔操作で締め付けたり、爆破出来る首輪を着けられますか?」

「え……作れるけど、どうして?」

「もしこいつが裏切るような真似をしたら、直ぐに殺せるようにです。そのスイッチは、俺と千冬姉、束さんが所持すれば良い」

 

 その首輪をマドカが四六時中首に巻いて過ごすのなら、司法取引にも納得すると一夏は言った。束としてはそんな物、作りたくは無いが、それでも一夏が納得してくれるのなら仕方が無いと、用意は出来る旨を十蔵に告げた。

 

「そうですか……では、仕方無いですね。用意して頂けますかな?」

「りょ~かい」

「それで、織斑マドカさん……君はこの取引、乗りますか?」

「……良いだろう、どうせ組織に戻るつもりも無い。IS委員会に行く気も無いんだ、司法取引とやら、受けてやる」

 

 対価として、IS学園は国際IS委員会にマドカを拿捕している件の報告はしない。マドカの学園での衣食住を保障するという事になった。

 マドカは常に束か千冬の側に居る事と、裏切りや逃亡を防止する首輪を首に巻く事を条件にではあるが、自由の身となりIS学園に飛び級で編入する事となる。

 話し合いはこれで終わり、学園長室を出た一夏達、廊下を歩く時一夏は後ろから付いてくるマドカの横に並んだ。

 

「これからよろしく、に・い・さ・ん」

「……あまり調子に乗るなよテロリスト、お前の命は俺も握っている事を忘れるな」

 

 皮肉気に兄と呼ぶマドカと、忌々しいとばかりに殺気を撒き散らす一夏、兄妹の仲は最悪の一言だろう。

 前を歩く楯無と千冬、束は二人がいつ殺し合いを始めるかという空気を醸し出してる事に不安を覚え、こそこそと話し合っていた。

 

「ちーちゃん、まーちゃんの事は任せて……絶対にいっくんに喧嘩売らないようにさせるから」

「ああ、一夏は私が見てる……あの殺気、今のあいつを見てると、マドカが気分を害したからなんて理由で本当に殺しかねない」

「えっと、マドカちゃんの編入手続き……やっておきますね?」

「「任せる(よ~)」」

 

 殺気を放つ弟に胃が痛くなる千冬と、殺気が放たれる原因を作る護衛に胃が痛くなる束を見て、楯無は自分が確りせねばと決意新たにしたのだが、ふと後ろを見て……早速心が折れそうになるのだった。

 

 

 IS学園一年生の寮の一室を与えられたマドカは部屋に入るなり束から渡された首輪を首に巻いて立ち鏡の前に立っていた。

 首輪のデザインは首輪というよりチョーカーと言った方が良い可愛らしい物で、ファッションセンスに疎いマドカでも良いものだというのが判る。

 

「しかし、まさかこれほどの物を歩きながら作るとは、流石は篠ノ之束といったところか」

 

 真に驚くべきは首絞めや爆発機能、GPS機能なども組み込まれたこの首輪を、束が歩きながら30分で作り上げた事だろうか。

 

「ふぅ」

 

 部屋には既にマドカ用の制服や寝巻き、当面の私服が用意されており、冷蔵庫を開ければ飲み物も入れてあるではないか。

 

「流石に毒入りな訳が無いな……ふむ」

 

 適当にお茶のペットボトルを取り出してキャップを開けると、一口飲む。

 

「結果的に父さんと母さんを裏切る事になってしまったが……仕方が無い。まぁ姉さんと兄さんが母さんに勝てるとは思えんが……まぁ高みの見物をさせて貰うさ」

 

 今後、姉と兄がどうなるのか、父と母との因縁がどのような結末を迎えるのか、精々楽しみにさせて貰おうと口元を歪めながらマドカは服を脱いでシャワー室に入っていった。

 シャワーを浴び終えた頃には、上機嫌になったマドカが裸のままベッドに入り、そのまま就寝、翌朝用事で起こしに来た束を驚かせる事になるのは、言うまでも無いだろう。




次回、修学旅行が京都という事で、明日奈に……。

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