SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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さて、寝る。


第百十四話 「織斑」

SAO帰還者のIS

 

第百十四話

「織斑」

 

 スコールを倒した後、イーリスは今回の共闘の件を持ち出して見逃してもらう事を楯無に持ちかけた。

 楯無も共闘したイーリスは少なくとも敵ではないと判断し、それ以上に早く学園に戻って開いた傷の手当をしなければならない事も考慮して見逃す事にしたのだ。

 そして、イーリスと別れた後、二人は学園に戻り、楯無は急ぎ医務室へ向かい、一夏はマドカを背負ったまま千冬の所に来ていた。

 

「千冬姉」

「一夏か、報告は受けている……そいつが?」

「ああ、亡国機業(ファントム・タスク)の戦闘員、モノクローム・アバターの一人、Mだ」

 

 千冬は自分と同じ顔で眠るM……マドカを見て複雑そうな顔を浮かべたが、直ぐに切り替えて一夏と共に学園地下の独房へ向かい、そこの一室にマドカを拘束する。

 

「ああ、そうだ千冬姉、これ……サイレント・ゼフィルス」

「む? ああ、預かろう」

 

 ポケットに入れていた待機形態のサイレント・ゼフィルスを千冬に預けると、再び姉弟の間に会話が無くなった。

 それも仕方が無いだろう。何せ目の前には二人の両親について繋がる手掛かりが横たわっているのだから。

 

「一夏……お前は、父さんと母さんについては」

「興味無いよ。別に会いたいとか思った事は無いし、そもそもコイツが敵として現れたんなら、二人だって敵として現れる可能性が高いって事だ……なら場合によっては殺すさ」

「そうか」

 

 千冬も同じ考えだった。もし、両親が敵として現れるのなら、千冬も両親を殺す事を考えていたのだ。

 そもそも千冬にとって両親とは幼い自分と生まれたばかりの一夏を捨てて出て行った憎むべき存在、憎悪の感情しか持ち合わせていない。

 

「コイツは……妹って事になるのかな?」

「……だろうな。顔が私と瓜二つな時点で間違いなく私達の妹という事になる。まぁ、お前にとっては」

「今まで会った事も無い妹なんて家族と思える訳が無い……敵として俺達の前に現れて、実際に命を狙ってきたんだ。ならコイツは妹でも家族でもない、ただ倒すだけの敵だ」

「……殺すなよ?」

「殺さないさ。まだコイツには利用価値があるからな……利用価値が無くなればどうするんだ?」

「さて、な……」

 

 普通に考えればテロリストの一人として国連へと身柄を引き渡す事になるのだろう。そうなれば、情報はIS学園で全て引き出していれば待っているのは処刑、もしくはIS委員会所属のパイロットとして飼い殺すのが関の山だ。

 

「ちーちゃん! 呼ばれて来たよ!!」

 

 突然、独房の扉を開いて束が中に入ってきた。どうやら千冬が呼んだらしい。

 

「束、コイツの検査を頼む……体内に何か仕掛けていないかをな」

「りょ~かい! よいっしょぉ!!」

 

 束が服の胸元に手を突っ込み、胸の谷間から明らかに物理法則を無視した大きさの機械を取り出した。

 その機械はレーダーだと一目で判る形状をしており、その端末をマドカに向けると、早速だが反応が出る。

 

「おやおや~? どうやらナノマシンみたいだけど……ふぅん、監視用と自害用、遠隔殺害用の3種類かぁ……えいやっ!」

 

 ブツブツと何やら呟いていた束だが、手元のボタンを押すと、機械から特殊な電波が発せられてマドカに照射される。

 

「おい、何をした?」

「この子の体内にあったナノマシンを全部死滅させただけだよ~」

 

 死骸は全部尿と一緒に出るから安心、などと言うが、先ほどの電波自体に人体への影響が無いのか心配になってしまう。

 もっとも、束曰く人体にも環境にも無害の安心安全でエコな電波を使用しているとの事だ。

 

「にしても、カナちゃんといい、この子といい、織斑家の血筋ってのはどうしてこう……ねぇ?」

「おっと束さん、夏奈子は世界一可愛くて良い子ですよ。こんなテロリスト如きと一緒にしないで頂きたい」

「いや、良い子な点だけ口にすれば良いのに、世界一可愛いって言葉が自然と出てくる辺り、いっくんも大概親馬鹿だねぇ」

「親馬鹿上等、夏奈子が世界一可愛いのは俺の中で世界の真理です」

 

 既に一夏の中で夏奈子がテロリストの一員だった事など無かった事になっているらしい。

 

「それで、いつまで狸寝入りしてるつもりなのかな?」

「……チッ」

 

 束の指摘で、いつの間にか起きていたらしいマドカが目を開ける。とは言え、身体を拘束されているので起き上がる事は出来ないが。

 

「よう負け犬、どうだ? 拘束されてる気分は」

「最悪だ……貴様如きに負けた事も、今の状況もな」

「ふん、俺如き……ねぇ」

「ああ、お前如きだ。私や姉さんとは違い、才能はあっても人並み外れた身体能力を持って生まれなかった織斑家の出来損ない」

 

 織斑家の出来損ない。マドカは一夏をそう呼び吐き捨てた。それに対して、千冬が何か言おうと前に出たが、束が差し出した腕に阻まれてしまう。

 

「織斑家ね……別に俺は織斑家がどうとか、そんな下らない物に拘った事は無いぜ」

「だろうな、貴様は織斑家のことなど何も聞かされていないのだろうから」

「ああ、聞いたことも無いし、興味も無い」

 

 事実、何度か千冬が話そうとしてくれた事はあった。しかしその度に一夏は断ってきたのだ。一夏にとって織斑家とは、家族とは千冬ただ一人だけで十分だったのだから。

 

「しかしまぁ、お前のお陰で判った事がある」

「……何?」

「いるんだろ? お前の後ろに……亡国機業(ファントム・タスク)に、織斑百春と織斑秋十が」

「っ!? ……だったら、どうなんだ? まさか今更父さんと母さんに会いたいとでも? 出来損ないの貴様が?」

「だから、興味無いっての……ただまぁ、言える事があるのだとすれば、親殺しの業を背負う覚悟が決まったって事だけだな」

 

 今も背負う人殺しの十字架に、親の分が追加される。ただそれだけの事だと一夏は語るが、後ろで聞いていた束と千冬は殺すことを躊躇わない一夏の姿に胸を痛めていた。

 

「ちーちゃん……」

「ああ、一夏に背負わせるつもりは無い……あの二人を殺すのは、私だ」

 

 胸を痛めたからこそ、改めて千冬は誓った。親殺しの業を、弟に背負わせはしないと、その業を背負うのは、自分だけで良いと。

 

「ふん……貴様如きが父さんと母さんを殺すか……無理だな、父さんなら可能かもしれないが、母さんを殺すのは、貴様には不可能だ」

「何?」

「私達の母……織斑秋十は、貴様も知っているスカイに並ぶ実力者だ」

「っ!?」

 

 スカイに並ぶ実力、そう言われて素直に驚いた。スカイの実力は実際に戦った一夏が一番よく知っている。

 一度は負けた事もあるあの男に並ぶ実力を、母は持っているのだとマドカはハッキリ口にしたのだから、驚くなと言う方が無理だ。

 

「織斑家は昔から文と武、どちらかの才能を持つ者が数多く排出されてきた。父は武に、母は文に優れた才能を持っていると言われていたが……実際は違う、母は文武両方に優れた才能を持っていた……それも人知を遥かに超える人外の才能だ」

 

 父の織斑百春は武の才能と高い身体能力だけしか持ち合わせていない。勿論、それだけでも

十分な脅威なのだが、織斑秋十は武の才能と文の才能を掛け合わせているから戦い方が上手いのだ。

 

「正直、如何に戦いを自分有利に進めるか、そしてそれを実行に移す事において、母さんはスカイすら上回る」

「ふむ……」

 

 厄介だ。正直にそう思う。戦い方が上手い人間とは、それだけで脅威なのだ。そして、そんな人間を一夏は一人だけ知っている。

 

「ヒースクリフ……いや、茅場みたいな人間って事か」

「晶彦君?」

「あ、そっか……束さんも千冬姉も茅場とは知り合いなんだっけ?」

「ああ、昔な」

「それについてはいつか聞くけど、そうだよ。茅場はSAO時代、最強と呼ばれていたんだけど……奴は剣の腕も然ることながら、何より戦い運び方が上手かった」

 

 天才故の頭の良さが、あそこまで上手い戦いの運びを実現出来たのだろう。今になって思えば、そう感じる。

 

「ククク……まぁ、未だにゲームと現実の区別の付かない貴様如きが、勝てる相手じゃないって事だ」

「ゲームと現実の区別、ねぇ」

 

 はたして、それは付けるべきなのだろうか。勿論、一般的に考えれば当然なのだろうが、SAOに関してだけは、素直に頷けない。

 だってあれは、あの世界は……一夏達SAO生還者にとって、もう一つの現実だったのだから。




風邪で頭が……すいませんがあとがきは簡潔に。

次回、新章開始です。
修学旅行、始まります。

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