SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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今回、織斑家のことに触れます。


第百十一話 「世界最強の弟と妹」

SAO帰還者のIS

 

第百十一話

「世界最強の弟と妹」

 

 突然だが、ここで織斑家の家庭事情について説明しなければならない。

 古くから近親交配で文武の高い才能を受け継いできた織斑家の現代の当主、織斑百春とその妹の織斑秋十は先代当主である父、織斑四季からの指示で子を作った。それが百春と秋十の間の最初の子、長女の織斑千冬だ。

 だが、織斑家は千冬が誕生して暫くした時に滅亡した。スカイ率いる亡国機業(ファントム・タスク)から一族纏めて受けていた再三のスカウトを四季が断り続けていたのが原因だった。

 だが、百春と秋十はスカイに自ら組織に加入すると申し出た為に難を逃れ、秋十が当時既に二人目の子を妊娠していた為に加入は子供が生まれてからという話になる。

 その後、秋十は無事に男の子を出産、長男の一夏だ。

 だが、一夏が生まれて数ヶ月後、千冬の時は既に生後1年に満たずとも這い這いを覚えて並の赤子よりも体力があったのに、一夏は平凡な赤子と殆ど変わらない事が発覚した。

 百春は千冬と秋十だけを連れて組織へと行こうとしたのだが、一夏を育てる者が必要だからという理由で秋十は百春に内緒で組織に行く際に千冬を一夏の下へ残してきた。

 千冬を置いて来た事に百春は大層不満そうにしていたものの、その翌年に三人目の子供が生まれて、その子が千冬並とは言わずとも一夏と比べれば十分普通を逸脱した赤子だった事に満足したのだ。その赤子こそが後のコードネーム“M”、織斑円夏だ。

 円夏は父から姉に次ぐ才能を持つ天才だと言われて育ち、剣に若干の適正と射撃の才能を見込まれて英才教育を受けた。

 しかし、そんな円夏にとって唯一の不満は母の態度だ。勿論、母は円夏の事を愛してくれている。それは十分感じられるのだが、いくら上達した剣や射撃を見せても、母は決して円夏を褒めなかった。逸脱した才能と恵まれた身体能力があるのだから、出来て当然だと、そう言われる事ばかり。

 何故、母は自分を褒めてくれないのか、それを一度だけ尋ねた事があった。その時、母が話したのは円夏の兄の話だ。兄は才能こそあるかもしれないが、身体能力が並の人間と変わらない、円夏や姉のような逸脱した身体能力を持ち合わせていない兄、そんな兄だからこそ円夏や姉では絶対に辿り着けない高みに行ける筈だと。

 

「(認めない……そんな高み、存在すらするものか。私と姉さんこそが、他者を見下せる高みに行ける唯一の存在だ。だから……)貴様を殺して、私は証明する! 貴様など存在する価値も無いという事を!!」

 

 そう言って、円夏……否、マドカはスターブレイカーの銃口を一夏へと向け、レーザーを放った。

 しかし、そのレーザーを一夏はトワイライトフィニッシャーⅡで簡単に斬り裂き、先ほどのマドカのセリフ以降俯いていた顔を上げる。

 

「正直、お前の出自も、その背後に居るであろう二人についても、俺はどうでもいい。興味なんて欠片も無いからな……だけどな」

 

 トワイライトフィニッシャーの切っ先をマドカに向け、ライトエフェクトで刀身を輝かせると、一夏の瞳には確かな殺意が、殺気が含まれた。

 

「俺には、守らなきゃならない恋人と、娘が居るんだ。だから、お前如きに殺されるわけにはいかない……守るものも無いお前が、簡単に殺すなんて口にするなよ小娘」

 

 一瞬だった。マドカが瞬きをしたほんの一瞬で、一夏の姿がマドカの視界から消えて、同時に右から衝撃が奔る。

 続いて背後、左、そして正面、合計4回斬られたマドカを中心に四つの斬撃の軌跡が拡散した。水平4連撃の片手剣ソードスキル、ホリゾンタルスクエアが直撃してサイレント・ゼフィルスのシールドエネルギーが大幅に減少する。

 

「グッ、このぉ!!」

「無駄だ!!」

 

 シールドビットを射出して全方位からの攻撃をしようとしたマドカだが、それを察知した一夏に射出した瞬間に投剣によって全てを破壊されてしまう。

 更に、先ほどのホリゾンタルスクエアでスターブレイカーの銃口が斬り落とされてしまったらしく、レーザーを撃てない。

 

「目覚めろ、スターブレイク!!」

 

 ならばとスターブレイカーを変形させてレーザー刃の大剣形態にしたマドカは上段に構えたそれで斬り掛かる。

 だが、一夏相手に近接戦闘……それも剣での勝負を挑むなど自殺行為にも等しいという事を、マドカは理解しているのか、それも剣の腕が自分よりも一夏の方が上だということを認めたくないのか。

 

「大振り過ぎる、無駄な動きが多い、剣術にすらなってない……餓鬼のチャンバラごっこがしたいなら余所でやれ小娘」

「そん、な……」

 

 そもそも剣術なんて習った事も無いマドカの剣は、ただ戦場で我武者羅に振るってきた剣でしかない。

 それでは嘗て篠ノ之流を学び、アインクラッドにてソードスキルというある意味剣術とも言える剣を2年も使って生き残ってきた一夏に通用する訳が無かった。

 当然、スターブレイクは根元から断ち斬られ、マドカに残された武器はサイレント・ゼフィルス標準装備のナイフ一本のみとなる。

 

「お粗末だな、俺を殺すとか、俺の存在を認めないとか、大層な事を口走っていた癖に、お前の実力では俺に剣を掠らせる事すら出来ない」

「くっ……こ、こんな筈では」

「俺とお前では……潜って来た修羅場の数と質が違うんだよ!」

 

 とうとう、最後の武器であるナイフまで破壊されてしまい、マドカは攻撃手段を失ってしまった。対する一夏は冷たい眼差しでマドカを睨み付けて、トワイライトフィニッシャーを構えている。

 

「お前は、俺を殺しに来ている……なら、お前も俺に殺される覚悟はあるという事だな?」

「ヒッ!?」

「もし、殺される覚悟も無いのに俺を殺すなんて言っていたのなら……お前は、もう俺と戦う資格すら無い。……雪椿、終わらせるぞ」

単一使用臨界能力(ワンオフアビリティーオーバードライブ):神聖白夜、起動】

 

 リベレイターⅢを展開し、全身の展開装甲を開いた雪椿が眩い黄金の光に包まれる。

 神聖剣に零落白夜の能力を付加した一夏と雪椿の切り札、アインクラッド最強を誇ったソードスキルにIS世界最強を誇った力の融合は、一夏と白式から続く雪椿との絆の証だ。

 

「わ、私を……殺すと言うのか? 貴様が、貴様に、殺せると言うのか?」

「逆に聞くが……殺せないと思ったか?」

「なっ……!?」

「言っただろうが……俺とお前じゃ、潜って来た修羅場の数が違うんだよ!!」

 

 そう言いながら、展開装甲から広がるエネルギーの翼を羽ばたかせ、瞬時加速(イグニッションブースト)でマドカに接近した一夏は、トワイライトフィニッシャーⅡの刀身を深紅のライトエフェクトで輝かせた。

 

「これが、神聖剣の力だ!!」

「う、わぁあああああ!?」

 

 九つの斬撃を同時に放つ神聖剣最強の最上位ソードスキル、アカシック・アーマゲドンはマドカのサイレント・ゼフィルスを完全に破壊して、同時にマドカの意識を刈り取った。

 意識を失ったマドカを抱えた一夏は、その姉にそっくりな寝顔を冷たい眼差しで見つめた後、待機モードになったサイレント・ゼフィルスを奪い取って一息吐く。

 

「悪いが、まだ殺さねぇよ……お前には吐いて貰わないといけない事が山ほどあるからな」

 

 マドカの背後に居るであろう2人の人間について、一夏と、千冬は知らなければならない。織斑家の問題を、10年以上抱えてきた問題を、ようやく解決するチャンスなのだ。

 

「場合によっては、俺は2人を殺すぜ……お前もな」

 

 一夏と千冬が本当の意味で過去に決別し、前に進むためならば、例え肉親であろうと殺す。親殺しの咎を、背負う覚悟は出来ているのだ。

 既に多くの十字架を背負っているからこそ、一夏はその咎を背負う覚悟を決めている。これは、千冬にだけは絶対に譲れない。背負わせるわけにはいかない。

 

「まぁでも、まずは……」

 

 まずは、この状況を脱しなければならないだろうと、一夏は他の2人の戦況に目を向けた。

 オータムと戦っているイーリスは問題無さそうだ。流石は長いこと国家代表を務めているだけあるが、問題となるのは楯無の方か。

 

「仕方ない……援護しますかね」

 

 すると、一夏は雪椿の展開装甲を閉じてマドカを背負うと、両腕に非固定浮遊部位(アンロックユニット)を接続した。

 

「こいつは雪走と同じで使うのは初めてだからな……加減なんて期待すんなよ、スコール・ミューゼル」

 

 一夏の右目にターゲットサイトが展開され、両腕に接続した非固定浮遊部位(アンロックユニット)が再び展開装甲を開く。

 しかし、展開装甲を開いたら本来出る筈の青い余剰エネルギーは放出されず、突き出した両腕の間で膨大なエネルギーが収束しながらスパークした。

 

「ホント、束さんは非常識だけど……こいつは予想以上だったよ、この試作第5世代型兵器は」

 

 雪椿標準装備、試作第5世代型兵装“量子崩壊砲スターダスト・シンドローム”は真っ直ぐスコールを照準に入れてエネルギーが臨界に達した。

 

「スターダスト・シンドローム、発射!!」




次回はスコールと楯無、それからイーリスとオータムの戦いです。

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