ようやくモノクローム・アバターの名前が出せた。
SAO帰還者のIS
第百十話
「モノクローム・アバター」
一夏とイーリスの激突は、剣と拳のぶつかり合いだった。
純白の装甲に蒼い翼を羽ばたかせる雪椿が握る白の剣、トワイライトフィニッシャーⅡの刃がタイガーストライプカラーのファングクエイクの無骨な拳とぶつかる度に火花が散る。
船の中にしては広いが、IS同士の戦闘フィールドとしては狭い調理室の中で壁や天井をも足場にしながら二人は剣と拳を交えては離れを繰り返し、その都度調理道具が散乱して宙を舞った。
「チッ、狭すぎんだろ此処は」
「なら、戦いやすい場所にエスコートしてやるよ!」
「っ!! 何っ!?」
トワイライトヒーリングがライトエフェクトによって輝き、三本の軌跡が爪痕のように壁に刻み込まれる。
その次に雪椿の
これこそが雪椿の遠距離広範囲攻撃用の自立機動型遠隔操作兵装“雪走”だ。
「おいおい、一気に外まで風穴開けるなんざ、どんだけ出力高いんだよ」
「……今、初めて使ったから自分でも驚いてるよ」
雪走を戻し、壁や船の装甲板が融解しているのを引き攣った顔で眺めながら気を取り直して外へ飛び出した。
イーリスも一夏を追って外へ飛び出し、二人の戦いの舞台は屋内から屋外へと変わる。
「へっ! 外に出ちまえばこっちのモンだぜ!」
「それはこっちの台詞だ!」
外に出た事で行動の制限が無くなったイーリスは先ほどまでは使わなかった
「なっ!?」
「悪いな……
そう、一夏と雪椿もまた、
「テメェ、本当に素人なのかよ……これだから嫌になるぜ、天才って奴ぁよ」
まだISに乗り始めて1年も経ってない人間に、自身ですら成功率が半分に満たない切り札を簡単に使いこなされる現実に、イーリスは理不尽だと感じつつ、そんな天才を相手に戦える事に楽しみを見出していた。
この天才は、次は何を見せてくれるのか、どれほど楽しませてくれるのか、それがイーリスの好奇心を刺激してならない。
「さあ、アタシをもっともっと楽しませてくれよ! 織斑一夏!!」
一夏とイーリスが戦っている頃、楯無は相変わらず誰にも会う事無く艦内を進み、遠くから聞こえてくる戦闘音を聞きながらセントラル・ルームを目指していた。
「変ね、これだけ騒がしくなっているのに相変わらず誰一人として人が出てこないなんて」
先ほども爆発音が聞こえてきたのに、それでも人の動く気配が無い。これだけの規模の空母艦内で、それは普通ならあり得ない。
「イーリス・コーリングとこの空母が繋がってるって考えたけど、もしかして本当に唯の偶然だった? 同じアメリカ国籍の艦だから、補給に来ただけだったのかも……だとすると、この艦はもう既に何者かによって無力化されている?」
いや、何者かではない。犯人はおそらく……。
「急がないと」
もし楯無の予想が当たっているのなら、動きが早すぎる。もたもたしていると取り返しがつかなくなる可能性があると、駆け足気味にセントラル・ルームへ向かおうとした、そのときだった。
『現在、コノ艦ハ自沈装置ヲ作動サセテイマス。乗員ハ、タダチニ退艦シテクダサイ』
直訳すると、そんな内容の英語が放送された。英語に関しては一通り話せる楯無はそれを聞いて冷や汗が止まらなくなった。
「冗談……っ! やってくれるわ」
秘匿空母とはいえど、アメリカ国籍の、これだけの規模の空母を、そう簡単に自沈させるなど、いくらなんでも派手にやり過ぎだ。しかも、ここはまだ日本の領海内、
「着いた……」
自沈装置が起動している以上、長居は出来ない。手早くコンソールに持ち込んだ端末を繋いでデータを読み込み、閲覧を開始する楯無は一人の人物の名前を検索した。
「スコール……ミューゼルっと……っ!?」
以前戦った
何故なら、アメリカ軍の軍籍リストにはスコールの名前は無かったのだが、戦死者及びMIA認定後の死亡扱いとなった者のリストに、その名前があったのだから。
「スコール・ミューゼル……12年前の、戦死者ですって? しかも、MIAじゃなく、戦死。遺体の検死結果も、そのときの画像も、ある……でも」
当時のスコール・ミューゼルなる人物の遺体写真を見てみたが、自分が戦ったあの女と比べて、写真の方が若干だが年齢が高く見える。
もし、これが偽装だったのだとしたら、今のスコール・ミューゼルはもっと老けていないとおかしいのに、むしろ若返っているようにしか見えないのは、どういうことなのか。
「っ!」
そうして、食い入るようにデータを閲覧していたからか、楯無は周囲の警戒を怠ってしまった。
背後に浮かぶ火球が大きくなっていくのに、気付いたとき既に遅く、振り向いた瞬間、楯無諸共大爆発を起こしたのだ。
外で戦っていた一夏とイーリスは空母から聞こえた爆発音に気付いて動きを止めた。そしてセンサーにロック警報が表示された瞬間、示し合わせたようにその場を飛び退くと、二人が居た場所を無数のレーザーが通り過ぎていった。
「あれは……」
「やっとお出ましのようだな」
一夏とイーリスの視線の先に居たのは、3機のISだった。一つはイギリス製の第3世代型IS、ティアーズ型2号機として作られたサイレント・ゼフィルス、それからアメリカ製の第2世代型ISのアラクネ、同じくアメリカ製の第3世代型ISであるゴールデン・ドーン。
いずれも、
「うふふ、これで更識楯無は死んだかしら」
「んじゃ、次はあいつらだな。さっさと殺してISを奪おうぜ」
「今日こそ決着の時だ、織斑一夏」
一夏は三人を見つめながら、周囲を索敵する。彼女たちが居るという事は、あの三人も居る可能性があるのだ。
「心配いらないわよ織斑一夏君、君が探している
「別の幹部だと……?」
「ええそうよ、私ことスコール・ミューゼル率いるファントム2、コードネーム:モノクローム・アバターからファントム8の部隊にね」
つまり、この場にあの三人は居ないという事だ。なら、この場は彼女達を片付けるだけで事足りる。
「楯無さん、油断しましたね」
「ええ、申し訳ないわ」
振り向かずに声を掛ければ、海中から
「イーリスさん、すいませんが」
「気にすんな、アタシの任務も奴らの捕縛か抹殺だ」
即席ではあるが、一夏と楯無、イーリスのスリーマンセルが完成した。
これで3対3、全員が国家代表、もしくはそれクラスの実力者、相手が
「スコール、オータム、織斑一夏は私の獲物だ。手を出すな」
「ええ、良いわよ。私は更識のお嬢さんに用があるもの」
「チッ、んだよオレの相手はアメリカ国家代表か、萎えるぜ」
それぞれ、相手が決まったようだ。
楯無とイーリスが己の相手目掛けて飛び出し、向こうも同じように飛んでいく中、一夏とMはその場か動くことなく互いに見詰め合った。
「そういえば、貴様にはまだちゃんと挨拶をしていなかったな」
「……何?」
そう言って、Mはバイザーを取り素顔を露わにした。バイザーによって隠されていた素顔、それを見た一夏の表情が驚愕に染まる。
「……ち、ふゆ、姉」
「改めて初めまして織斑一夏。私の名はマドカ、織斑マドカだ」
「織斑、マドカだと……?」
「そうだ! 貴様を殺し、そして姉さんを迎えに行く、貴様はこの世に不要の存在となるのだ、織斑一夏!!」
「……迎えに、か」
どうやら、彼女……マドカのバックには、あの二人か、それに近い誰かが居るようだ。
「今更、あの人達の事はどうでも良い、か……マドカと言ったな」
「なんだ?」
「俺を殺すとか言っていたが……」
トワイライトフィニッシャーの切っ先をマドカに向け、突刺の構えを取った。同時に、その刀身がライトエフェクトによって輝き、ジェットエンジンの如き爆音を響かせる。
「俺を殺すなら、もっと腕上げてから出直せ……小娘が」
「っ! なら、お望み通り殺してやる!!」
マドカが構えたスターブレイカーからレーザーが放たれ、折れ曲がりながら一夏へと迫った。だが、不敵に笑った一夏は、次の瞬間。
「ラァッ!!」
己が代名詞、ヴォーパルストライクを雪椿の圧倒的加速により発動、そのまま真っ直ぐマドカの胸元に突き出すのだった。
次回、一夏VSマドカ、楯無VSスコール、イーリスVSオータムとなります。