SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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こっちが先に書きあがりました。
そして、新章突入!


体育祭編
第百四話 「(純粋な)爆弾」


SAO帰還者のIS

 

第百四話

「(純粋な)爆弾」

 

 IS学園ハッキング事件が終結したその晩、一夏達は夕飯を終えた後にALOへログインして今回の事件について話し合いを行う事となった。

 既にALOのイグドラシルシティにあるアスナのホームにはキリト、アスナ、ユイ、ナツ、ユリコのSAO組、それからIS学園組であるツバキ、スズ、ティア、ラファール、ハーゼ、サクラ、タテナシ、カンザシ、それから束ことアップルとクロエことクロも揃っている。

 

「ではたb……アップル、今回の事件の首謀者は間違いなく須郷伸之なのだな?」

「うん、私といっくんとナナちゃんの三人でどうにか撃退出来たけど、私一人の時は完全に互角か、こっちが負けてたから。そんな事が出来るのはアイツしか居ないよ」

「須郷、か……」

 

 須郷の名を呟きながら、キリトの脳裏に浮かぶのは須郷との最後の戦いだった。あの、雪の降る夜の駐車場で静かに繰り広げられた最後の戦い。

 あの時、須郷が向けてきた殺意は、殺し合いをした経験の無い素人でありながら、殺す事に躊躇いなど持つ隙間の無い妖しさを孕んでいたのを覚えている。

 

「キリト君?」

「あ、ああ……ちょっと、な」

 

 キリトが危惧しているのは、今回の一件で須郷が組織内で追い詰められているのではないかという事だ。

 あの男は追い詰められたら何を仕出かすか分からない所がある。あの駐車場での最後の戦いの時の須郷もまた、追い詰められた末の行動だったのだから。

 追い詰められた須郷は、それこそ危険極まりない行動を突発的に行いかねない。

 

「それで、だ……これから先、我々が考えなければならんのは亡国機業(ファントム・タスク)対策だ。現状、判っている向こうの戦力に対して、こちらはどう対処するのかだが……」

「サクラ先生、俺はPohと戦う。ナツには悪いが、アイツとの決着は……あの世界との決着は俺が着けるべきだと思うんだ」

「それはわたしも同じだよキリト君、わたしも……赤目のザザとの決着がまだだから」

「ジョニー・ブラックは、私がこの手で倒す」

「サイレント・ゼフィルスの相手は、譲れませんわ」

 

 キリトはPohと、アスナはザザと、ユリコはジョニー・ブラックとの決着を望んでいた。それだけではない、因縁という意味ではティアもサイレント・ゼフィルスを操るMと、タテナシも個人的にスコール・ミューゼルを自身の標的として決着を望んでいる。

 

「俺も、奴と戦う」

「いち……ナツ、お前の言う奴とは、まさか」

「ああ、サクラ姉の予想通りだと思うぜ……スカイ、アイツとまともに戦えるのは、多分俺とキリトさんくらいだ。なら、俺が戦うべきだと思う」

「しかし……」

 

 スカイ、あの男は危険だ。殺す事に躊躇いが無い上に、その実力は全盛期の織斑千冬ですら赤子の手を捻るかの如く容易く叩き潰してしまうであろう程。

 サクラとしては、そんな危険な男の相手を弟にさせたくはない。出来るのならあの男との戦いは自分が務めるのが一番良いと思っているのだが、スカイの殺気を前にして小娘の様に怯え、身動き出来なくなった自分とは違い、互角レベルで戦ったナツの方が、対スカイ戦に向いているのも、理解している。

 スカイにとって、殺しの経験が無い織斑千冬など殺しの経験がある織斑一夏と比べれば戦う価値すら無い雑魚に過ぎないのだと、あの対峙にて思い知らされた。

 

「あのオータムって女の実力はどうなのよ? アタシ的にはツバキとアタシとラファールの三人で掛かれば十分戦えるかなって思うんだけど」

「そうねぇ、もう少し実力を上げて欲しいっていうのが、お姉さんの感想かな。特にツバキちゃんは紅椿のリミッターを完全に解除するのが条件」

「やはり、そこですよね……」

「でも、リミッター4つも解除されたのは凄いと思うよ。僕も最新鋭機を受領してから何回かツバキと模擬戦してるけど、時々危ないって思わされるもん」

「……出来れば、ラファールとの模擬戦は今後遠慮させてくれ」

「ええ!? なんでー!?」

 

 毎度命の危機を感じるから、などと本人を目の前にして言葉にするのは憚れるツバキだったが、その気持ちは合宿から帰ってきたラファールを知る者全員共通の心境だ。

 

「後、忘れてるよ……山田先生を倒した男」

「あら、カンザシちゃんナイス! そうよ、その男のこともあるわね」

 

 ISに乗った真耶を生身で下した男、コードネーム“オーガスト”、本名はウォルター・J・リーヴルと名乗ったという青年の正体は、本人曰くジャック・ザ・リッパーの子孫だとの事だ。

 相手が第2世代とは言え、嘗て日本代表候補生最強と謡われた銃央矛塵(キリング・シールド)が駆るラファール・リヴァイヴを、生身で下した実力は脅威の一言だろう。

 

「ハーゼ、貴女は白兵戦でISに勝てますか?」

「む……無理だな。そういうクロはどうだ?」

「黒鍵を使えば或いはとも思いますが、使う隙を与えられなければ流石に無理です」

「だろうな」

 

 つまり、現状で白兵戦でオーガストを相手に出来るのはサクラとアップルくらいだろう。そして、サクラとアップルでは勝つのが難しい理由が、やはり殺人経験の有無か。

 最初から殺す事に躊躇い無く攻撃してくる相手に捕縛を考えて挑むのは、中々骨が折れるのだ。

 それに、アップルは万が一もう一度須郷がハッキングをしてきた場合、それの対処をしなければならないので、場合によっては戦力として数えられなくなる。

 

「カンザシちゃんは、山嵐とか敵無人機軍に十分有効かな?」

「うん、それは、思います」

 

 アスナの指摘通り。残るカンザシについては打鉄弐式の武装である山嵐の特性を考えれば無人機軍を掃討するのに最適だ。

 教師陣を率いての掃討戦においてカンザシならば十分過ぎる戦力になるだろう。

 

「取りあえず、オーガストについては今後の課題にしよう。この場に居ないサファイアとケイシーについても追々配置を考える」

 

 最後にサクラが指揮官として締め括った。同時にこれにてサクラの指揮官としての仕事は終わり、今後の戦闘における現場指揮はアスナとナツが務める事になる。

 

「パパ、もうお話は終わりですか?」

「ああ、終わったよ」

「そういえば、ユイちゃんも今回はお疲れ様! 助かったよー」

「えへへ、パパとママのお役に立てて良かったです!」

 

 大人達の話し合いが終わったと見るや、ユイは隣に座るキリトの顔を覗き込み、キリトもそんな愛娘の自分と同じ黒い瞳を覗き込みながら頭を撫でる。

 ユイを挟んで反対側に座るアスナもユイの肩に手を置いて微笑みかけていた。

 

「ユイにはご褒美をあげないとな」

「ご褒美ですか?」

「そうだよー、ユイちゃん頑張ってくれたから、パパとママからユイちゃんに何でも欲しいものをプレゼントしちゃうよ!」

「わぁ……! じゃ、じゃあユイ、弟か妹が欲しいです!!」

 

 ……空気が、凍った。

 

「え、っとだな、ユイ? 何故、弟か妹なのだ?」

 

 場の空気が凍る中、ツバキが勇気を出してユイに尋ねてみれば、当の本人は純粋な瞳で、そして興奮しているのか若干頬を赤くしていた。

 

「えっと、カナちゃんのお姉ちゃんをやっていて思ったんです。パパとママの子供なら、私にとっては本当の妹か弟になるんですよ! きっと可愛いんだろうなって、お姉ちゃんって呼ばれたら、きっと嬉しいんだろうなって思ったんです」

「あ~……えっと」

「う、うぅ……」

 

 生暖かい視線がキリトとアスナに向けられ、二人は顔を真っ赤にしながら顔を背けたり俯かせたりしている。

 

「でも不思議なんです。子供ってどうやったら出来るのか分らなくて、調べようとしたらパパに絶対駄目って言われたんですよ。皆さんは赤ちゃんがどうやったら出来るのか知ってますか?」

 

 再び……空気が凍った。

 

「キリトさん、俺そろそろログアウトするっす」

「私、も……」

「ちょっ!? こ、この空気そのままに逃げるな!!」

「そうだよ! こ、これって何て答えるのー!?」

「ガンバですわ」

「……私は、知らん」

「あ、アタシも知らないかな~?」

「お姉ちゃん、子供の性知識については親の仕事だと思うの」

「因みにクラリッサから教わった知識が……」

「はいは~い、ハーゼちゃんは余計な事言わないの」

「お姉ちゃん、こういうノリ苦手なんだね」

 

 ナツを始め、ユリコ、ツバキ、ティア、スズ、ラファール、ハーゼ、タテナシ、カンザシが次々とログアウトしていく。

 残ったクロ、サクラ、アップルに縋るような視線を向けたキリトとアスナだが、アップルはニヤリと笑って無言のままログアウト、クロもそれに続いた。

 

「さ、サクラ先生!」

「助けて下さい!」

「馬鹿か貴様ら!? 結婚どころか彼氏だって居た事の無い私に子育ての相談をするな!!!」

 

 自分で言って自分で傷ついたサクラは目を輝かせて見つめて来るユイの視線から顔を逸らすも、変わらず感じられる視線に脂汗を流す。

 どうする。どうしたら良い。確かにこの場で唯一の大人は自分だけで、でもユイはキリトとアスナの娘なのだから二人に押し付けるべきなのだが、二人もまだ高校生で、知識はあるだろうし、実際に行為もしているだろうが、それでも親として未熟なのであれば周りの大人が手助けするべきなのだろうか。

 等と、色々と考え込んだ末にサクラの口から紡がれたのは……。

 

「こ、コウノトリが、キャベツ畑から運んでくるんだ……」

 

 そんな、子供騙しが精一杯だった。




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