SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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リアルサイドです。


第百話 「殺人者」

SAO帰還者のIS

 

第百話

「殺人者」

 

 過激派女性権利団体、イヴの楽園のメンバーを、一人残して全滅させた一夏は、生かした一人を引き摺って他の仲間達の所へ向かっていた。

 返り血を浴びた一夏が合流するのなら、箒や鈴音は不味い。同じ理由で千冬もよろしくないだろうという事で、目指すのは楯無の居る場所だ。

 

「っ!」

 

 だが、いざ楯無と合流という所で一夏は嫌な予感がしたのか、引き摺っていた女性をその場に放置して走り出した。

 そして、曲がり角で立ち止まると、懐から鏡を取り出して壁に背中を預ける。そのまま角の向こうを鏡で覗き込んでみれば、数人の男性が気絶していて意識の無い楯無を攫おうとしているのが見える。

 

「軍人か……?」

 

 男達が持っている銃はH&K HK416と呼ばれるアメリカ軍特殊部隊が主に採用している小銃だ。更に男達の服装はプロテクターという明らかに素人集団ではない姿……確実に軍人であろう。

 

「考えられるのは、アメリカ軍だが……IS学園にこうして侵入しているって事は、正規な軍じゃないのか、それとも後ろ暗い特殊部隊なのか」

 

 まぁ、どっちにしろ一夏がやることなど決まっている。今、こうしている間にも連れ去られようとしている楯無を救出する事、それだけだ。

 

「行くぞ、雪椿!!」

 

 一夏が走り出したのと同時に、その姿が光に包まれた。次いで蒼い翼が光の中から大きく羽ばたくように広げられ、蒼い羽根を撒き散らしながら光が弾ける。

 当然、そんな事をすれば男達に気づかれるのだが、銃を構えて振り返った時には既に遅い。新雪の如き純白の装甲と、光り輝く蒼い翼が、男達の視界に入った時には既に、男達の首が身体から離れ宙を舞っていたのだから。

 

「……さて、と」

 

 トワイライトフィニッシャーⅡに付着した血を払った一夏は、背中の鞘に納めた後、楯無を抱きかかえる。

 

「楯無さん! 楯無さん、起きて下さい!」

「う、ん……い、ちか、君……?」

 

 目を覚ました楯無だが、彼女の表情が直ぐに苦痛で染まる。見れば彼女は脇腹を撃たれたのか、穴の開いた脇腹から血が流れて、ISスーツを汚していた。

 

「ISスーツを貫通する銃弾が、開発されてるのか……」

 

 基本的に、代表候補生や国家代表に支給されているISスーツは一般に販売されているISスーツよりも高性能で、防弾・防刃・耐熱・耐電の機能が桁違いに高い。

 当然、ロシア国家代表の楯無のISスーツもそれに倣い防弾機能は並のISスーツを大幅に上回っている筈なのに、こうして銃弾が貫通しているのを見るに、間違いなく使用された銃弾はISスーツを貫通しうる特殊な弾丸だ。

 つまり、どこの軍かは知らないが、対IS操縦者用の白兵戦兵器の開発が進んでいる証拠となる。

 

「楯無さん、大丈夫ですか?」

「ええ……っ! ちょっと、痛むわね」

 

 楯無を下ろした一夏は雪椿を解除しつつ、拡張領域(バススロット)から応急キットを出して応急処置を始めた。

 簡単にだが止血を行い、ガーゼを傷口に当てた後、包帯を巻いて、処置を終えると、ふと楯無が周りを見ているのに気づいて一夏も同じように周囲を見渡す。

 

「殺し、ちゃったのね」

「ええ」

 

 そう、楯無が見ていたのは周囲にある首の無い死体と、転がっている人間の頭部だ。先ほど、楯無を連れ去ろうとして、一夏に殺された男達の死体に、楯無は何を思っているのだろうか。

 

「……安心なさい。彼らの正体は予想出来るから、テロリストじゃなくても殺した一夏君が罪に問われる事は無いわ」

「そっちの心配は、してませんよ」

「そう……なら、彼らを殺した事を、自分の責任だなんて思わないで」

「……?」

「あなたが彼らを殺した原因は、その責任は、油断して不覚を取った私にあるわ」

 

 自分が油断して撃たれなければ、そもそも一夏が彼らを殺す事にはならなかったのだと、楯無はそう言っている。

 だから、一夏に責任は無い。こんな事態にならざるを得ない状況を作ってしまった楯無自身にこそ責任があるのだと。

 

「……そう、言ってくれるのは嬉しいですが、それでも手を下したのは俺です。殺さない選択も出来たのに、安易に殺す事を選んだのは俺自身ですよ」

 

 だから、一夏は甘んじて人殺しの汚名を着るつもりでいた。

 元より自分は10人以上の人間を殺めた殺人者だ。人殺しなどと呼ばれても今更の話で、初めて人を殺したその時から、人殺しの十字架を背負っている。

 故に、たとえ人殺しと罵られようと、それで傷つくような心は……当の昔に死んでいるのだ。

 

「それより楯無さん、動けます?」

「ええ、傷はちょっと痛むけど……これじゃ戦闘は無理ね」

「なら、楯無さんは束さんのところに戻って下さい。俺は箒達の所に行かないと」

 

 相手はテロリストだけではなく軍人もだと判明した以上、箒と鈴音では手に余る可能性がある。ならば戦い慣れていて、いざと言う時に殺す選択も可能な一夏が応援に行かなければ危険だ。

 

「それなら安心して、二人の所に侵入者が来る事は無いわ。全部、私の所に引き付けるように誘導したから」

「……そうですか」

「でも、織斑先生も出てるみたいで、向こうの様子を見に行ってくれるかしら?」

「了解です」

 

 姉も出ているのなら、心配するのが弟の心情だ。一夏は再び雪椿の展開装甲を開くと、一気にトップスピードでホバリングしながら移動を開始する。

 それを見送った楯無は痛む傷口を押さえながら立ち上がり、束の所へ移動を開始するのだった。

 

 

 IS学園地下のとある区画では、2機のISが今まさに激突している所だった。

 方やアメリカの第3世代型ISであるファング・クェイク、方や日本の第1世代型ISである暮桜、世代差で見れば明らかにファング・クェイクの方が圧倒的に有利に見える戦いだが、操縦者の腕の差が世代差を大きく覆している。

 

「そら、どうした? 世界最強が居ると判って侵入してきた割に随分と劣勢の様だが」

「クッ……!」

 

 暮桜を操る千冬は雪片を手にファング・クェイクを操縦する侵入者の女を終始圧倒していた。

 やはり、相手が規格外過ぎる事が無い限り、千冬は世界最強の名に相応しい圧倒的実力を発揮出来るようだ。

 ましてや、相手は軍人とはいえ、ISに依存し、絶対防御に頼って自分が死ぬ事は無いと油断している愚か者、そんな相手に、千冬が負ける道理は無い。

 

「悪いが、これで決めさせてもらうぞ!」

単一使用能力(ワンオフアビリティー):零落白夜、発動】

「っ!? やらせるかぁあああああ!!」

「……ふん!」

 

 暮桜が黄金の輝きを纏ったのを見て、雪片が緑色の光を纏ったのを見て、ファング・クェイクの操縦者は焦り、剣を振るう前に倒そうと拳を構えて突撃したのだが、それを千冬は冷静に見つめ、その場から動く事無く雪片を一閃する。

 たったの一閃、その一撃でファング・クェイクのシールドエネルギーは0になり、解除されてしまった。ファング・クェイクが解除され、その場で膝を付いた女性は後ろから雪片の刃を突きつけられ、これ以上の抵抗は無駄かと、両手を上に上げた。

 

「それで良い。悪いが拘束させて貰うぞ」

 

 女性を後ろ手に手錠で拘束して、立たせる。その時だった、一夏が駆けつけたのは。

 

「あれ、千冬姉……」

「何だ、今頃来たのか? ここにお前の活躍の場は無い。悪いが、私が貰った」

「ちぇ」

 

 千冬は、雪椿の装甲と、それから一夏自身に付着している返り血を見て、一瞬だけ眉を動かしたが、それ以上の反応は特に見せず軽口で返してくれた。だから一夏もそんな姉の気遣いに感謝して同じようにおどけて見せた。

 

「お、織斑……一夏」

「……あんた、軍人だな。悪いけど、あんたの部下らしき男達なら、殺したぜ」

「っ! ……そう、か」

 

 なお、それを聞いて抵抗を見せるのなら、千冬が止めようと容赦なく殺すと、一夏の目が語っていた。

 その目を見て、女性も悟ったのだ。もう、本当に抵抗は無駄だという事と、一夏の事を所詮はゲームで2年間を無駄に過ごした落伍者でしかない、軍人であり、相当の訓練を受けた自分達なら簡単に雪椿を奪えるだろう雑魚だと、油断していた自分達が、今回の任務を成功させるのは、最初から不可能だったのだと。

 何故なら、女性の目に映るのはISを動かせるだけの平凡な少年の姿ではなく、敵であれば容赦なく命を刈り取る……鮮血を纏った白い死神の姿だったのだから。




次回は再び電脳空間、そこでSAOの登場人物が一人、今作に初登場!!

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