SAO帰還者のIS
第九話
「英雄と呼ばれた戦士」
ブルーティアーズの主力武装、スターライトmkⅢから放たれるレーザーを黒鐡を纏った和人が何度も避け続けながらアリーナを何度も周回している。
右手にエリュシデータを持ちながらも一向にセシリアへ接近する様子を見せない和人に観客達は防戦一方なのかと思われているが、相対するセシリアは一切油断などしていなかった。必ず何か、動きを見せるはずだと。
「どうされましたの? 折角の恋人がいらっしゃる殿方との背徳のダンス、私が一方的では些か風情に欠けましてよ?」
「そりゃ悪いな…なら、そろそろ動かせてもらうぜ!」
次の瞬間、セシリアの視界から和人の姿が消えた。
「ど、何処に!?」
「後ろだぜ!」
「っ!? うそ、いつの間に!? きゃあああ!?」
突然背後から現れた和人がソードスキルを発動して斬り掛かってきた。発動させたのはバーチカルアークという上段からの振り下ろし後、更に斬り上げるという2連続技。
今の攻撃により、セシリアのブルーティアーズの内、弾頭型に異常を来たして発射不可能になってしまう。
「いつ、後ろに移動しましたの?」
「いや何、ALOの時の要領で急加速したら出来ただけだ」
「
「お褒めに預かり光栄」
「では、今度は私の番ですわね…お行きなさい! ブルーティアーズ!!」
セシリアから射出された4基のビッド、ブルーティアーズがそれぞれ別々の軌道で動き、和人に向けて射撃を開始した。
4方向からの射撃に回避行動が随分と難しくなってきたが、それでも和人は避ける、避け続ける。そして、避けながら考える。射撃相手に、避けるだけでは解決しない、接近するには先ほどの様に急加速を利用する以外に何か手段は無いのか。
「やってみるか……」
動体視力は一夏にこそ劣るが、それでも2年で鍛え上げられたそれは常人を遥かに凌駕するものだ。
そこに加え、同じく2年間で鍛え上げた反応速度、反射神経を駆使する事で、和人は自身に向けられたブルーティアーズの銃口から放たれたレーザーにエリュシデータの刃を薙ぐことで、霧散させるのだった。
「…へぁ!?」
レーザーを斬るなどという荒唐無稽なことをやらかした和人に、セシリアが妙な声を出した。いや、管制室で様子を見ている真耶も、Aピットで観戦している一夏達も、呆然とするほか無い。
基本的に、レーザーは速い、ハイパーセンサーを使う事で初めて軌道を目視する事が出来る程度で、それに反応出来たとしても回避するのがやっとなのだ。
だが、まさか回避ではなく、レーザーを斬るなんて選択を誰がしようか。いや、確かに一夏達も和人とレーザーを斬るなんて話をしていたが、まさか実際にやってくれるとは思わなかった。
「桐ヶ谷さん…本当に人間ですの?」
「失礼だな…そうだな、今のは銃口からレーザーの軌道を見切ってそこにエリュシデータの刃を置いただけって言えば納得するか?」
「……」
納得出来る訳が無い。
「だけど、上手く行ってよかった。名づけるなら
ナツにもやり方を教えておこうと言っている和人に、セシリアは段々と難しく考えるのが馬鹿らしくなってきた。
むしろ、
今度は、斬る暇など与えないとばかりに。
「うぉ!?」
「多方向からの同時射撃なら、
確かに、二刀流ならある程度対処可能だろうが、一刀流にしている現状では厳しいものがある。勿論、ダークリパルサーを出す気は無い。
世界で2人しか居ない男性IS操縦者という立場上、様々な思惑で狙われているということを理解しているからこそ、早い段階で自身の切り札を切る訳にはいかないのだ。
だから、この場を切り抜けるには捨て身の攻撃をするしかない。
「後は、隙を見つければ、一気に勝負に出られる」
黒鐡のシールドエネルギーが尽きるのが先か、それともセシリアが隙を見せるのが先か、二人の勝負はそのどちらかで決まると言っても言いだろう。
4方向からのレーザーを避けながら、和人はその内、避けながらも直撃しそうなレーザーだけを見切って
勿論、和人の急成長にセシリアは慌てる事無く、油断無くブルーティアーズを操作し、どんどん和人を追い詰めた。
「くっ…隙が見つからない、いや……無いなら、作るか」
一向にセシリアが隙を見せない事に焦りを感じるが、それで冷静な判断力を失えばあっという間に敗北は確実、ならばどうするのか考えた結果、無いのならば作れば良いという考えに至る。
和人は腰のアーマーからピックを3本取り出し、左手の指の間に挟むと、投剣のソードスキルを発動させる事でピック自体をライトエフェクトで輝かせた。
「来ますわね…何をするつもりかしら?」
「見てれば判るよ」
投擲された3本のピックが扇状に放たれ、上手く誘導された先にあったブルーティアーズの銃口に吸い込まれる様に入っていく。
丁度レーザーを撃とうとしていたブルーティアーズは衝撃で内部から爆散、そのことに驚いたセシリアが残る1基の動きを思わず止めてしまった。
「せあああ!」
「流石ですわ、まさかピック同時投擲とは…」
「投剣ソードスキル、トライシューター。3本の投擲武器を同時射出するソードスキルだ」
「お見事ですわ」
一夏以上のピックの扱い、そして一夏とほぼ同等と言っても過言ではない剣捌き、どれを取っても戦士としては超一流以上だ。
IS操縦者としては、まだまだ甘いところも見受けられるが、それでも飛行能力などの点は素人とはとてもではないが思えない。
総合すると、和人は間違いなく一夏以上の強者、しかも一夏以上に底が見えない、何か隠しているのは明らかな存在だった。
「これであなた方がISの操縦も完璧にしたら、どれほどの化け物になるのか、想像するのが恐ろしいですわ」
だけど、彼等ほどの戦士と戦えるなど、IS操縦者としては僥倖、光栄の極みとも言えよう。一夏の時は、自業自得とは言え、慢心して最初から全力で戦えなかったのは、残念極まりないのだが。
「たとえ、射撃武器がこのスターライトだけになろうと、失ってインターセプターだけになろうと、最後まで戦い抜いて勝利を渇望させてもらうとしましょう」
「良いぜ、その方が相手にとって不足無しだ」
スターライトmkⅢから放たれるレーザーが和人を襲うも、持ち前の反応速度と、黒鐡の速度を持ってして回避、避けつつもセシリアへ接近してエリュシデータを一閃する。
しかし、一閃したエリュシデータの刃は接近してきた和人に対抗して射撃を止め、左手に展開したインターセプターの刃で受け止められてしまった。
「へぇ、やるじゃねぇか」
「いえ、あなたの刃を受け止めるだけでの精一杯ですわっ!」
鍔迫り合いになった段階で、セシリアは後が無くなった。此処は受け止めるのではなく避けて距離を取るべきだったのだが、完全にセシリアの戦術ミスだ。
「あなたや織斑さん程の剣の腕前です、SAOでは何かしらの渾名があったのではないかしら?」
「あったぜ、俺は黒の剣士、ナツは白の剣士って呼ばれてた」
「あらあら、見た目通りですこと」
白い装甲に白い剣の白式を纏う一夏が白の剣士、黒の装甲に黒い剣を持つ黒鐡を纏う和人が黒の剣士、まさに見た目通りであり、渾名を持つに相応しい実力を兼ね備えている。
鍔迫り合いをしている間に、セシリアはスターライトを和人に向ける事を考えたが、そもそもこれだけ接近されていると、スターライトの長い銃身は届かず、第一に向ける前に切り伏せられてしまうのは明白だった。
「くらえ!」
鍔迫り合いをしていたエリュシデータの刃がライトエフェクトによって輝いた。
そのままインターセプターを弾かれ、垂直4連撃のソードスキル、バーチカル・スクエアが直撃、ブルーティアーズのシールドエネルギーが残り1割を切る。
「くぅ・・・ですが、先ほどの鍔迫り合いで、稼がせて頂きましたわ!」
「なにっ!?」
和人に向けられたスターライトの銃口、そこにはチャージされたレーザーの光が今にもあふれ出しそうになっている。
連射モードにしているスターライトmkⅢを、チャージする事で砲撃モードにするチャージショット、その強力無比の一撃が、和人に迫った。
「っ! おおおおおっ!!!」
ライトエフェクトによって輝いたエリュシデータの刃が閃き、迫り来るレーザーを切り裂く。今一度使われた
ソードスキル、ホリゾンタル・スクエアの変則使用によって、
【ブルーティアーズ、シールドエネルギーエンプティー。勝者、桐ヶ谷和人】
試合終了を告げるアナウンスに、エリュシデータを下ろした和人は何処か晴れ晴れとした顔で同じくスターライトmkⅢを下ろすセシリアと顔を合わせた。
彼女はこの勝敗を確りと受け止め、そして…頭を下げる。
「とても良い試合をさせて頂きました。学ばせて頂く点も多々で、大変有意義な戦いでしたわ」
「いや、俺も勉強させてもらったよ、ありがとう」
「それでは、私はシャワーを浴びたいので、お先に失礼させて頂きますわね」
「ああ」
Bピットに戻っていくセシリアを見送り、和人もAピットに戻った。ピットに戻ると、最初に明日奈が出迎えてくれて、黒鐡を解除した和人に真っ先に抱きつく。
「お疲れ様キリト君、大丈夫だった? 怪我は無い?」
「だ、大丈夫だから、ほら、抱きつくのは…」
流石に人目のある所で抱きつかれるのは恥ずかしい和人なのだが、見ている一夏からしたら散々人目のある所で見ている方が恥ずかしくなるほどイチャイチャしている癖に何を、と言う感じだった。
最も、一夏も人の事を言えた義理ではない。彼も和人同様に無自覚で百合子とイチャイチャする所があるというのはクラインとエギルの言だ
「ALOでは殆ど一刀流ばっかりでしたから、特に心配はしてませんでしたけど、ソードスキルのキレ、変わりませんね」
「まぁ、2年の内殆どは一刀流だったからなぁ」
二刀流より一刀流の方が慣れているのは事実、切り札たる二刀流より使い慣れてる感があるのは当然だ。
「ところで山田先生、俺もキリトさんもセシリアには勝ちましたけど、代表はどうするんですか?」
「え? そうですねぇ…正直、もう織斑君と桐ヶ谷君が戦う時間も無いので、話し合いという事になりますが…」
「キリトさん、やりましょうよ?」
「いや、お前がやれよ」
互いに押し付け合い。
結局、明日奈の一喝が入るまで、一夏と和人は何か理由を付けては互いに押し付け合い続けるのだった。
次回、クラス代表決定! 初のIS実習授業と、クラス代表就任パーティーまで一気に行きたいです。
もう間もなく、セカンド様の登場ですな。