SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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お待たせしました。九十九話になります。


第九十九話 「ソードスキル総進撃! 開かれる力、黒鍵」

SAO帰還者のIS

 

第九十九話

「ソードスキル総進撃! 開かれる力、黒鍵」

 

 今、クロエは目の前で繰り広げられている戦いに目が離せなくなっていた。話には聞いていたSAO事件における開放の英雄と、そのパートナーの戦い。

 ISを用いるわけでもなく高度な戦闘を行い、正に一瞬の判断ミスが生死を分ける戦いをしている和人と明日奈は、クロエから見れば驚くなという方が無理だろう。

 

「これが、英雄の力……」

「そうですわ。あんな巨大な敵と、2年も戦い続け、生き残ってきたからこそ、今の彼らがあるのです」

「セシリア・オルコット……もう大丈夫なのですか?」

「ええ、そろそろわたくしも、和人さん達に合流しませんと」

 

 いつまでも休憩していては、後方支援の水妖精族(ウンディーネ)の名が廃るというものだ。と言って笑うセシリアの魂に、戦士のそれを感じたクロエには同じように立ち上がったシャルロット、簪からも同じように戦士の魂というものを感じられる。

 

「わかりました。では、私も本気を出して皆さんの支援をしましょう……」

 

 一同が頷き、セシリア、シャルロット、簪が武器を手にグリームアイズへ向かって飛び出すのと同時に、クロエは普段閉じていた目を開いた。

 黒い眼球に黄金の瞳、生体同期型IS“黒鍵”の能力を発動させるには、この眼球を露出しなければならない。

 つまり、クロエが目を開いたという事は、黒鍵の力を解放したという事を意味しており、束が電子戦において無敵のISとして開発したその能力を、発揮する合図だ。

 

「さあ、黒鍵よ……今こそ束様に救われたこの命を役立てる時です!!」

 

 黒鍵の力が部屋全体を覆った。そして、その力によって今までとは変わった部分が、明らかに変わった部分が戦う和人達の目に映し出される。

 

「っ! HPバーだと!?」

 

 そう、先ほどまでグリームアイズにはHPバーが存在しておらず、どれだけ攻撃すれば倒せるのかの目安が無かったのだが、黒鍵の力によってグリームアイズの頭上に5本のHPバーが表示されたのだ。

 5本あるバーの内、既に2本のバーは色が消えており、グリーンのバーが入っているのは残り3本。更に3本目のバーも3分の1が消失している。

 

「ありがたい!! セシリア!!」

「了解ですわ!!」

 

 グリームアイズの斧を和人がクロスした両手の剣で受け止めた瞬間、セシリアがその斧を持つ腕を斬り裂き、斧を持つ腕の力が抜けた瞬間に和人が斧を弾き返す。

 

「セシリアちゃんスイッチ!!」

 

 セシリアが後退し、代わりに明日奈がランベントライトにライトエフェクトを纏わせて飛び出す。剣速すら常人には追えない程の超高速の突刺、閃光のアスナが得意とし、閃光のアスナの名が有名となる発端となったスキルの一つ、リニアーだ。

 

『グォオオオオアアアアアア!!!』

 

 腕へのダメージでグリームアイズのHPバーがイエローゾーンに突入した。HPは残り半分を切り、此処で一気に畳み掛けるチャンスだ。

 

「っ!! 今だ!! 全員ソードスキルの総攻撃!!!」

「行きますわ!!」

 

 まず最初に、セシリアがライトエフェクトを纏った短剣で斬り掛かる。合計9連撃のパワー重視短剣ソードスキル、アクセル・レイドがグリームアイズの腕から駆け上がったセシリアによって胴体のいたる所に傷を付けた。

 

「僕も忘れないでよね!!」

 

 続くようにシャルロットが杖剣の刀身をライトエフェクトによって輝かせながら飛び上がり10連撃の片手剣ソードスキル、ノヴァ・アセンションによる高速連撃でグリームアイズの全身を斬り裂く。

 

「行く、よっ!!」

 

 簪は飛び上がったシャルロットとは対照的に姿勢を低くした状態で駆け出し、グリームアイズの股下まで潜り込むと、ライトエフェクトを纏った薙刀から刀ソードスキルを発動させる。

 股下から斬り裂いて、更に高速で移動しながら合計5連撃を与えるそれは、刀の最上位ソードスキル、散華だ。

 

「キリト君、先に行くね! せぁああああああ!!!」

 

 簪が後退した瞬間、明日奈がジャンプしてグリームアイズの中段に3回の突刺、着地しての斬り払いを往復、再び飛び上がりながら斜め斬り上げ、最後に上段への突刺を2回の合計8連撃を与える。

 細剣上位ソードスキル、スター・スプラッシュが決まった瞬間、明日奈が後退して和人が飛び出して来た。

 

「うぉおおおあああああああああああああああああ!!!!」

 

 エリュシデータとダークリパルサーが蒼いライトエフェクトによって輝き、次の瞬間グリームアイズに襲い掛かったのは、まるで吹き上がる太陽のコロナの如き激しさを持った27連撃だった。

 二刀流最上位ソードスキルにして、旧SAOに存在する全てのソードスキル中、最大の連撃数を誇るそれは、嘗てヒースクリフに全てを受け止められた時とは違い、その連撃全てがグリームアイズに叩き込まれる。

 

『グ、ガァアアアアアアア!!!』

 

 グリームアイズのHPが5人の連撃スキルによって一気にHPがレッドゾーンに入り、4本目のバーも色を消失、最後の5本目が……ギリギリで残ってしまった。

 

「くっ!」

 

 大半の者が上級スキルを使用している為、スキル後の硬直が残っている。特に和人と簪、明日奈は上位、最上位のソードスキルを使っているのでセシリアとシャルロットよりも硬直時間が長い。

 

「クロエ!!」

「了解です……黒鍵よ、蒼き悪鬼に鉄槌の刃を」

 

 斧を振り上げて、和人へと振り下ろそうとしたグリームアイズだったが、突如背後から胸へと貫通するように突き刺さった巨大な刃によって動きを止めた。

 巨大な刃は、クロエが黒鍵の力によって生み出した実体を持った幻影の刃、役目を果たして幻影らしく刃が消えると、胴体に大穴を空けたグリームアイズは、斧を振り上げた体勢のまま、ポリゴンの粒子となって消える。

 

「勝ったか……みんな、無事か?」

「うん、わたしは大丈夫だよ」

「僕も何とか」

「わたくしも問題ありませんわ」

「私も、大丈夫」

 

 全員、何事も無く無事だった。クロエも少し離れた所でピースサインを出しているので、彼女も特に問題は起きていないのだろう。

 

「お、グリームアイズを倒した事で変化が出たな」

 

 和人の台詞に反応して、全員が彼の視線の先へ目を向けてみれば、そこには先ほどまでは壁だった場所に、扉が出現している事に気づいた。

 

『やっほー! かず君、やっと連絡が出来るようになったねぇ』

「師匠!?」

 

 すると、和人の前にARウインドウが開かれ、そこに現実世界の束の姿が映し出された。どうやら現実世界からこの電脳世界に通信を繋げられるようハッキングに対処しながらプログラムを組んだらしい。

 

「師匠、こっちは敵のハッキングプログラムと思わしき奴と戦って、今倒したところです」

『うんうん! こっちでも確認したよー。おかげでハッキング速度が急激に落ちたから、こっちもやり易くなったんだから』

「それで、何か新しく扉が現れたんですが」

『扉? え~と……へぇ、これは、良い度胸してるねぇ』

 

 和人の言う扉について手早く解析したらしい束の表情が、笑顔が一転して極寒の如き冷たい表情になる。

 どうも、束にとっては嬉しくない結果が出ているようだが……。

 

『それ、ハッキング主が誘ってるみたいだよー。ハッキングを止めたければ扉を潜ってハッキングプログラムのマスターコアを倒せって事みたい』

「マスターコア……」

 

 それを倒せば、敵のハッキングプログラムは崩壊してIS学園へのハッキングは止まるという事だ。

 

『よっぽどマスターコアの実力に自信があるのかねぇ?』

「……さっきの相手は、グリームアイズだった……つまり、あれ以上の力を持ったコアプログラム、か」

 

 嫌な、予感がする。それは、嘗てどこかで感じた事のある予感であり、この背筋を振るわせる恐怖は……もし、和人の予感が当たっていたら。

 

「不味い……」

 

 だが、無常にも扉が突如勝手に開き、7人を物凄い風が襲う。

 

「くっ!? み、みんな!! 手を繋げ!!!」

 

 全員が踏ん張りながら何とか手を繋いだところで、踏ん張りが利かなくなったのか、足が床から離れ扉へと吸い込まれていった。

 

『かず君! あーちゃん! くーちゃん! 皆!!』

 

 束の悲鳴と呼ぶべき叫び声も空しく、7人の姿が扉の向こうへと消えて、扉はゆっくりと閉じられた。だが、一瞬だけ、そう……一瞬だけだが束は扉の向こうに見えた影に気づいていた。

 長大な骨のようなシルエットと、巨大な二振りの、鎌の光を……。




次回は記念すべき百話目!
そして、再び降臨する冷酷なる殺人者、織斑一夏。

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