SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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し、仕事が忙しくって遅くなりました。
最近は疲れが取れなくてもう……はぁ、癒しが欲しい。


第九十四話 「最悪の事態」

SAO帰還者のIS

 

第九十四話

「最悪の事態」

 

 亡国機業(ファントム・タスク)が撤退した後、IS学園に在学する全ての専用機持ちが会議室に集められていた。

 会議室の上座に座るのは千冬であり、その隣の席……本来なら真耶が座る筈の席には負傷して治療中の彼女に代わり生徒会長である楯無が、そして千冬の後ろには束が立っている。

 

「最悪だな」

「ええ、最悪の事態です」

 

 千冬の一言と、それに同意する楯無の言葉が現状の全てを物語っていた。何故なら敵に……亡国機業(ファントム・タスク)に白式の一部を奪われてしまったのだ。

 それはつまり、敵に第4世代の技術である展開装甲の技術を与えてしまったという事を意味しており、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)や、最悪の敵であるスカイが今後、その専用機を第4世代へと強化して襲撃してくる可能性が出てきてしまった。

 

「しかし、実物があっても簡単に模倣出来るものなのでしょうか? わたくしには須郷伸之が電子工学において篠ノ之博士以上の天才であっても、それは不可能だと思いますわ」

 

 そう、確かに須郷は電子工学においては束を超えるが、機械工学では束に及ばない。

 無人機システムなどは完全な電子工学なので模倣も簡単に出来たのだろうが、展開装甲は機械工学の分野だ。そう簡単に模倣出来るものではないはずだ。

 

「出来るだろうな」

 

 だが、セシリアの疑問に答えたのは束ではなく和人だった。それも出来ると断言している。

 

「レクトプログレスが開発したアミュスフィア、あれは元々須郷が茅場の作ったナーヴギアを模倣した物だ。奴は模倣技術においても相当の天才で、たとえ分野違いであろうと模倣するのは容易いはず」

「不味いわね、それ……考えようによっては無人機すら展開装甲を搭載してくる可能性もあるって事でしょ?」

 

 この中で、展開装甲を搭載している機体は一夏の雪椿と箒の紅椿のみ。そして紅椿は最近になってようやく一部の展開装甲が使用可能になったばかりだ。

 

「一夏、頼みがある」

「展開装甲の使い方、だろ?」

「ああ、私はまだ展開装甲を使った事が無い。使い慣れない装備を実戦で使うなんてしたくはないからな」

「わかった。俺も雪椿の速度に慣れる為の訓練が必要だと思ってたし、そのついでで良いなら教えるよ」

 

 それと一緒に、他の専用機持ちとの対展開装甲搭載機の訓練も行う事になり、その相手役として一夏が勤める事になった。

 ただし、その訓練にはダリル・ケイシーだけが参加を断り、その流れでフォルテ・サファイアも断る事となる。

 ダリル曰く、年下に訓練を付けてもらうなど正気の沙汰ではないとの事だが、本当に協調性の無い3年生だと、1年生全員が思ってしまった。

 

「次に一夏、お前の雪椿についてだが」

「ああ、束さんが言うには登録はレクト社IS武装開発局……表向き俺が所属している会社の名前になっているらしい」

「一応、雪椿はいっくん専用として開発したからね~、完成させる前に結城彰三さんに話は通しておいたんだ」

 

 いつの間に、という疑問は今更なのでスルーするとして、千冬が求めている答えはそれではなく、雪椿の性能についてだ。

 

「雪椿は、簡単に言えば第4世代型完成形ISって分類かな」

「完成形……それはつまり、私の紅椿と、それから白式というプロトタイプを経た完成形という事ですか?」

「箒ちゃん正解! その通り雪椿は白式、紅椿という試作機を経て展開装甲の技術を完成させた第4世代型としての極致、事実上の世界最強のISなんだよ~」

 

 世界最強の性能を持ち、そしてその性能の全てが一夏が搭乗する事で初めて発揮される完全一夏専用のワンオフ機。

 雪椿という機体は世界最強のISではあるが、一夏が乗らなければその世界最強の力を発揮できない欠陥を併せ持つのだ。

 

「それで、織斑先生……ナツの雪椿については」

「流石に桐ヶ谷は鋭いか……ああ、その通りだ。国際IS委員会の馬鹿共や他国は一夏と雪椿の所属を日本の、レクトにしているのが不満らしくてな、日本代表候補生にならないのであれば他国の代表候補生になるか、国際IS委員会所属のIS操縦者になれと言ってきた。もし聞き入れられないのなら雪椿は研究の為に委員会が徴収するなどとほざいている」

「まぁ、その辺は束さんが手を打って黙らせたよ~。いっくんと雪椿が日本のレクト所属であることに文句があるなら現存する全てのISコアを停止させるって」

 

 勿論、停止させるというのは出任せだ。流石の束も停止させるのは不可能、開発に関わった茅場亡き今となっては、コアは永久的に稼動を続けることになる。

 勿論、そんなことを知らないIS委員会や他国の人間には束がコアを停止させると言えば十分過ぎる程に効果があった。

 

「まぁ、レクトには迷惑を掛ける事になったからお詫びに少しだけ技術提供したんだけどねぇ」

「うわ、レクトが世界一の企業になりそうだ」

「父さん、また忙しくなりそうだねー」

 

 元CEOなのに、未だ忙しく動き回っている結城彰三氏にとっては、ご愁傷様な事になりそうだ。

 

「更識姉、今回の人的被害についての報告を頼む」

「はい。まず重症者ですが、こちらは山田先生だけですね。意識はあるみたいですが、脇腹の裂傷と両腕の骨折です」

 

 それ以外だと軽症者が数名程度で、特に大きな被害は生徒に出ていない。

 

「あ~、そろそろ終わりって事で良いか? 眠くなってきたし、オレは部屋に戻らせてもらうぜ」

「あ、ならアタシもっス」

「ふむ……ああ、構わん。他の者も解散だ……それと、織斑と結城の二人だけすまんが残ってくれ」

 

 解散となり、一夏と明日奈以外が部屋を出て行く。残された二人が同じく残った千冬と束に用件を尋ねると、話が二つほどあるとの事だった。

 

「まず結城妹の件だが、昨日無事にレクト本社で専用機を受領したという話だ。明日、学園に戻ってくる」

「シャルが! そっか」

「よかったぁ」

「まぁ、私としてはあの合宿に参加したという時点で奴の人格面への影響を心配しているのだがな……」

 

 千冬が顔を真っ青にしてガタガタ震えながら呟いた内容に一夏と明日奈は目を見開いて驚いた。

 あの千冬がここまで怯える程の合宿だという事は、シャルロットみたいな普通の女の子では……恐ろしいことになりそうだ。

 

「てかおい千冬姉、そんな恐ろしい合宿やる羽目になるって知ってて俺を日本代表候補生にしようとしてたのかよ」

「……お前なら大丈夫だ?」

「疑問系になってんじゃねぇか!!」

 

 本気でIS操縦者の道を選ばなくて良かったと心の底から思ってしまったのも無理はない。明日奈も同じような事を横で考えていたのか、苦笑している。

 

「こほん……それで、もう一つの話だが、一夏と結城に頼みがあってな」

「頼み、ですか?」

「ああ、今後も亡国機業(ファントム・タスク)の襲撃が激化されるだろう事は簡単に予想出来る。そこでお前達二人に戦闘時に置ける学園の専用機持ち達の指揮を任せたい」

「俺とアスナさんが!?」

「そうだ。二つの部隊に分けてそれぞれ指揮をして貰いたいと思ってな。私も一応は有事の際の指揮権を持っているが、正直な話をするなら学園の教師への指揮権を束に譲り、私自身は束の指揮下に入ろうと思うんだ」

 

 正直、自分は指揮官タイプではなく前線で剣を握っている方が楽との事だ。そしてそれはつまり、今後の有事の際に千冬という世界最強のIS操縦者が戦闘に加わる事も出てくるという事になる。

 

「振り分けは考えてるんですか?」

「ああ、そこは束が上手く考えてくれた」

「はいはい、発表するよ~! いっくんの部隊にはゆーちゃん、せっしー、シャルルン、たっちゃん、箒ちゃんが。あーちゃんの部隊にはきりりん、リンリン、かんちゃん、フォルテ・サファイア、ダリル・ケイシーが入る事になるよ」

 

 教師部隊は指揮官として束が収まり、千冬と真耶、それから学園の戦闘要員としても所属する教員が今まで通り活動する事になる。

 本来なら生徒を指揮官とする事に思うところのある千冬だが、正直に言って指揮能力で言えば明日奈の方が自分よりも上だと認めているし、一夏に関しては何と言えば良いのか……一種のカリスマ性を持っていると考えて二人を指揮官として任命したのだ。

 

「敵は今後、更に強力になってくることは白式を奪われた事からも容易に予想出来る。お前達二人には負担を掛けてしまう事になるが、どうか引き受けてくれるか?」

「……千冬姉、負担なんて思わないぜ俺は」

「わたしもですよ。大勢の人を指揮するなんてアインクラッドに居た頃から経験してますから、今更ですし」

 

 明日奈は嘗ては血盟騎士団副団長として大勢の人間を指揮して戦った経験があるし、一夏とて指揮経験が無い訳ではない。

 だから、今更指揮権を与えられた所で負担だなんて思わない。むしろ千冬にそこまで評価されたのなら、頑張ろうとすら思える。

 

「そうか……頼んだぞ、一夏、結城」

「「はい!」」

 

 この翌日、雪椿と瞬光に束が開発した指揮官機専用システム、高速リンク指揮システムが搭載される事となった。




次回はついに合宿からシャルロットが帰ってきます。
さて、あの合宿を終えたシャルロットはどうなっているのか。

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