プロローグ
SAO帰還者のIS
プロローグ
1万人もの人間を死の牢獄に捕らえた最悪のVRMMORPG、ソードアート・オンライン。ゲームでの死が現実での死に直結するデスゲームは2年も続き、そして遂に終焉の時を迎えようとしていた。
75層ボスを倒した直後に判明した最悪の真実、最強ギルド血盟騎士団、その団長ヒースクリフが、デスゲーム発起者にしてSAO開発者である茅場晶彦であるという事を最強のソロプレイヤー黒の剣士キリトが暴き、ゲームクリアを賭けた最後の戦いが行われようとしている。
「キリト! やめろー!」
「キリトー!!」
「キリトさん!!」
キリトが背中の二刀、エリュシデータとダークリパルサーを抜いてヒースクリフの前まで歩くのを、麻痺した身体で動けないまま叫び呼び止めようとする者が三人居た。
一人はキリトの兄貴分にして親友とも呼ぶべき黒人男性、エギル。もう一人は同じく兄貴分にして親友のクライン。そして最後にキリトの弟分にしてSAO開始初期からずっとキリトを慕ってきたソロプレイヤー白の剣士ナツだ。
「エギル」
「…っ」
「今まで、剣士クラスのサポートありがとな。知ってたぜ、お前が儲けの殆どを中層プレイヤーの育成に注込んでいた事」
もう、エギルからは何も言えなくなってしまった。まるで、最後の挨拶とも言うべきキリトの台詞に、キリトの覚悟が垣間見えて、これ以上、言葉にならなかったのだ。
「クライン」
「…っ」
「あの時お前を…置いて行って悪かった」
「っ! てめぇキリト!! 謝ってんじゃねぇ! 今、謝んじゃねぇよ!! 許さねぇぞ! 向こうでちゃんと飯の一つでも奢らねぇと、ぜってぇ許さねぇからなぁ!!」
「わかった、向こう側でな」
クラインの涙ながらの叫びに、キリトは現実世界での再開を約束した。現実世界で再開して、その時に一緒に飯を食おうと。
「ナツ」
「キリトさん…」
「こんなビーターの俺を、ずっと慕ってくれてありがとうな……俺、妹は居るけど弟は居なかったから、お前の事、本当の弟みたいに思えて、凄く嬉しかったぜ」
「俺も…俺も姉は居るけど、兄貴が居なかった! だから、だからキリトさんの事、本当に…兄貴みたいで…だから、死なないでくださいよ!! 向こうで、向こうで絶対! 会って一緒に遊ぶ約束を、守ってくださいよ!!」
「ああ、向こうでIS/VSを教えてくれる約束、楽しみにしてるよ」
弟分が、いつの間にか本当の弟の様に思えてきたナツとの現実での約束、現実世界で、一緒にゲームをしようという嘗て交わした約束を、必ず果たそうともう一度約束してした。
「ユリコ」
「…はい」
最後のもう一人、キリトを呼び止めた者ではないが、もう一人だけ声を掛けたかった人物が居る。血盟騎士団副団長補佐にして、白の剣士ナツの妻、キリトにとっては妹分の様な存在である第三のユニークスキル使い、無限槍のユリコだ。
「向こうでナツと一緒に会えるのを楽しみにしてるよ……ナツと、俺とアスナとお前で、また一緒に遊ぼうぜ」
「…はい、必ず。だから生きて、必ず勝ってください、お義兄さん」
そして、最後にキリトは最愛の少女の方へ目を向け、少しだけ微笑むと直ぐにヒースクリフと対峙した。
「悪いが一つだけ、頼みがある」
「何かな?」
「簡単に負けるつもりは無い。でももし俺が死んだら、少しの間で良い、アスナが自殺できないよう計らってくれ」
「ほう……よかろう」
キリトからヒースクリフへの願いは一つ、もしも自身が破れ、死んだ後は最愛の少女であるアスナが自殺できないようにして欲しいという物だった。
もし、キリトが死ねば、アスナが後を追って自殺するのは確実だ。だから、キリトはアスナに自殺ではなく、ゲームクリアを目指せるよう、自殺という道を奪う事を選んだのだ。
「キリト君ダメだよ! そんなの…そんなの無いよー!!」
アスナの叫びを背に、キリトとヒースクリフの戦いが始まった。
互いにユニークスキル使い、神聖剣と二刀流の激突は最硬と最速のぶつかり合いで、キリトが繰り出す二刀の連撃をヒースクリフは大型の盾で悉くを受け止め、受け流していく。
レベル的には互角の2人で、実力も互角と言って良いのだが、やはり武器の相性、戦い方の相性が悪いのか、それともキリトが未だ二刀流を完全に使いこなしていないのが悪いのか、完全にキリトは押さえ込まれてしまっていた。
「キリトさん…っ!」
「ナツ君…お義兄さん、勝てるよね?」
「…正直判らない。キリトさんがソードスキルを使わない理由は判るけど、でもソードスキル無しの地力だけでの戦いは、限界がある」
「…そんな」
やがて、ヒースクリフが一瞬の隙を突いた一撃がキリトの頬を掠り、反射的にキリトがソードスキルを発動してしまった。
キリトが発動したのは二刀流最上位スキル、ジ・イクリプスという超最速の27連撃技。だけど、ソードスキルを開発したヒースクリフはその連撃の悉くを完璧に受け止めきって、最後の一撃が盾に阻まれた瞬間、ダークリパルサーが耐久値限界で折れてしまう。
「危ない!!」
スキル後の硬直で動けないキリトは、完全無防備の状態をヒースクリフに晒してしまう。そして、未だ動けるヒースクリフに対して、それは完全な隙であり、絶好の好機となった。
「さらばだ、キリト君」
キリトの命を奪う一撃が、茅場の剣がスキルのライトエフェクトを発しながら振り下ろされた。
しかし、そこで奇跡が起きた。システムにより麻痺して動けなくなっていた筈のアスナがキリトの前に出て、ヒースクリフの一撃をキリトの代わりに受けて、そのHPを散らしてしまったのだ。
「アスナさん!」
「お義姉さん!」
システムを上回る人の想いの奇跡、だがその奇跡はアスナの死という最悪の結果を齎した。
目の前で消えたアスナを見て、キリトは完全に戦意喪失、ヒースクリフに剣を突き刺されてキリト自身もまた、そのHPを散らしてポリゴンの粒子になり消える…筈だった。
「キリト…さん?」
だが、キリトが消える直前に、拾っていたアスナの細剣ランベントライトがヒースクリフを貫き、ヒースクリフもまた、HPが0となって相打ちになってしまった。
その瞬間、2人が眩い光に包まれ、そして…ナツとユリコは気がつけば真っ白な光の中で向かい合っていた。
「此処は…?」
「もしかして、ゲームクリアされたのかな?」
「かもしれない、ヒースクリフもHPが0になったって事は、相打ちとはいえ、賭けに勝った事になるんだし」
ならば、後はもうログアウトされて現実世界に戻るのを待つだけだ。もうそれほど時間は掛かるまい。
「ねぇナツ。現実で私を探してくれる?」
「ああ、必ず探し出して、会いに行くよ」
「そっか、じゃあ本名を教えておくから、会いに来て?」
「ああ」
もうログアウトまで残り少ない。ナツとユリコは抱き合いながら互いに現実で必ず会えるようリアルネーム…本名を教えあう。
「俺は、織斑一夏、多分向こうではもう15歳だ」
「私は、宍戸百合子、同じく15歳だよ」
これで、現実世界に戻ったらお互いに探しあえる。必ず再会できる、そう信じて、やがて2人の意識が暗くなり、最後の口付けを交わしたのと同時に、完全にログアウトするのだった。
妄想で終わるかもしれませんが、もしかしたら続きます。
一応、学園祭終了までのプロットも出来ていたりするので。