発掘倉庫   作:ケツアゴ

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「おいおい、そんな突っかかるなよ。下見だよ、下見。会談があるのは知ってるだろ?」

 

 突如学園にやってきたアザゼルだけど、僕達が応対するよりも前にリアス・グレモリーが文句を言いに行っていた。管理能力不足で一時的に管理者を外されたからって使い魔や何やらでガッチガチに監視をしているからね。……そろそろ苦情入れておこう。

 

「来るなら来るで事前に連絡を入れるのが礼儀でしょ!」

 

 荒れてるねぇ。僕達が屋上から見下ろす中、アザゼルに食ってかかるリアス・グレモリーだけがヒートアップしていく。……今度の会談に自分達が出席出来ないのが不満なんだね。ソーナ・シトリーは出席できるから尚更悔しいんだ。

 

「解った解った。んじゃ、今度改めて来るわ」

 

 本来なら貴族の子女に過ぎないリアス・グレモリーに遠慮する立場じゃないけれど、余程面倒だったのかアザゼルは帰って行く。こっち見てきたし接触してくるかな?

 

 

 

 

 

「よお! お前が九龍か。俺は……」

 

「知っているよ。アザゼルでしょ。……やっぱり来たよ」

 

 放課後、校門近くで待ち伏せをしていたアザゼルが接触してきた。ミッテルトを庇うように背後に隠し、笑いかけてくるアザゼルに視線を向ける。オーフィスとも顔見知りだし、侮れない相手だよね。

 

「そっちが確か……ミッテルトか」

 

「ど、どもっす」

 

 流石に最近までトップだった相手に苦手意識があるのか僕の背後から出てこない。彼女に……いや、彼女が持つ物に興味が有るのか視線を向けて来ているけど……気にくわない。そっちは彼女を捨てたんだ。今更近付いてくるな。

 

「僕の人工神器は調べさせない。作った物を他人にあれこれ弄くられるのは嫌いなんだ」

 

 だからこそ助手であるクロロでさえ『魔獣母胎(グレートマザー)』を初めとした重要な物には許可なく近づけない様にしている。

 

 どうやら目的は読み通りだったのかアザゼルは残念そうな顔だ。ヴァーリの話じゃマニアの領域だそうだからあね。

 

「おいおい、つめてぇな。同じ物を研究している同士、話が合うと思ったのによ。ってか、どうだ? 正式な悪魔の所属じゃねぇし、俺の所来るか?」

 

「興味ないね。僕は僕の作りたい物を作る。あれこれ指示されるのは嫌いだし、だからこそ所属していないんだ」

 

 話は終わりとばかりに去っていく僕。僕が何かを作るのは趣味かオーフィスの為だ。他の誰かの為になんて何一つ作る気はないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、一つ訊かせろ。……××××、其の名前に心当たりは有るか?」

 

「知っているけれど封印された筈でしょ? 王である息子の手でさ」

 

 でもまぁ、その封印が解けている可能性も高いんだけどね。ライザー・フェニックスを殺したのはアレの仕業と見るのが可能性が高いし。

 

「……須弥山とかには問い合わせるが、何か要求されるかもしれねぇ。もしかしたらお前の作ったモンを欲しがるかも知れねぇが、その時は宜しく頼む」

 

「報酬次第。ってか、信用できるの? 今は敵対してるけど、元々は味方だったじゃん。口裏を合わせる可能性は?」

 

 それも二人が敵対してるだけで、元々の所属は抜けただけで敵対してる訳でもないしね。……本当に厄介な連中だよ。トップが気紛れで自殺してから大人しくなったらしいけど、どうして今頃動き出したんだ? 流石にオーフィスに出て貰うしかない案件で頭が痛い……。

 

 

 最低でも二天龍クラスなのが七体ってさぁ……。ヴァーリが暴走して二、三体くらい命懸けで道連れにしてくれないかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「正義。我、これに出る」

 

「駄~目!」

 

「……出る」

 

 面倒くさい行事が行われる事になった。数年に一度、初等部や中等部の生徒や保護者達が高等部の授業を見学する公開授業。確か三年に一度くらいだったかな? そのお知らせプリントだけど面倒だからオーフィスに渡さない気で居たのに、ミッテルトに伝え忘れていた。いや、君も少し考えれば拙いって解るでしょ!?

 

「……暫く無し」

 

「えぇ!? せ、せめて緊縛しての放置プレイで……」

 

「そう言うのも禁止。少しは反省して」

 

 僕も禁欲は辛いしお互い様だ。さて、それは兎も角厄介だよね。オーフィスは何が何でも授業を見学したいみたいだし、どうしたもんかね。

 

「サーゼクス・ルシファーが出るって情報もあった。セラフォルー・レヴィアタンも出るみたい。流石に今、僕の所属が知られるのは良くない」

 

「……我、正義の授業風景見たい」

 

 不満そうなオーフィス。これは何を言っても無駄だ。でも、幾らオーラを隠すリボンを付けても何かしらのハプニングって可能性もあるし。それでも、願いは叶えてあげたい。今まで授業参観の類はあったことを後から知って怒らせてきたし……。

 

 

「見るだけで良いの?」

 

「うん。……良い?」

 

 袖を掴んで上目使いに訊いてこられたら駄目とは言えない。だって全てを家族のために捧げるって決めてるんだから。

 

「……助手。親戚のお姉さんって役で参加してよ。君とオーフィスの視覚と聴覚を一時的に繋げるから」

 

「了解。んじゃ、準備してくるよ。でも、術式は出来てるのかい? オーフィスと繋げるのは厄介だよ」

 

「直ぐに完成させれば問題ないよ。簡単簡単」

 

 これで解決。オーフィスも機嫌が良さそうだ。

 

 

「無理言った。……怒っている?」

 

「怒らない怒らない。さっ、術式を考えるから待ってて」

 

 こういう何気ない時間が幸せだと思う。グレートレッドを倒して次元の狭間を取り戻したら終わってしまうけど、それまでは、お別れの時間までは一緒にいて精一杯親孝行しよう。少し寂しいけど何時か子は巣立っていく物だからね。

 

 

 

 

 でも、本当に寂しいな……。

 

 

 

 

「じゃあ今から粘土で好きな物を。そう言う英語も……」

 

 そんなこんなでやって来た公開授業当日。担任は何をトチ狂ったのか英語の時間に粘土細工をしろと言い出した。クビになったら? でも、保護者も生徒も異論を唱えない。それは文句がないんじゃなくって別のことに意識を向けているからだ。

 

「随分と変わった授業ですね。……この学校大丈夫なのでしょうか?」

 

 相変わらず僕達だけの前以外では猫を被っているクロロ。着ているのは闇夜のような漆黒の髪と真逆な純白のチャイナドレス。イッセー松田元浜だけでなく多くの男が見惚れてスケベな視線を送り、女さえも視線を向けざるをえない。まぁクロロは僕の知識を総動員した多数の理想の美貌の持ち主。僕は少しも魅了されないけど傾国の美女と呼ぶに相応しいってのは分かる。

 

 因みに普段は丸眼鏡に芋臭いジャージ姿だけど、人前では自分は美しい=人に讃えられるべき=だから美しい肌を見せる、らしい。馬鹿じゃないのかな? いや、僕の最高傑作だし頭が悪いはずがないし……。

 

「……なぁ九龍。あの美人のお姉さん、お前の保護者だろ? 紹介して……痛っ!?」

 

「むぅ」

 

最近自衛の為にアーシアさんには軽い魔法を二つほど教えている。僕みたいに魔法障壁を張れる奴には効かないけど侮ってる奴への不意打ちには使えるからね。

 

 一つ目は単純な身体強化。それも局所的に右手の握力だけを強化する。範囲が狭い分、その効果はそこそこだ。

 

 二つ目は念動力。自らの握力に依存して狭い範囲内の物を握れる。

 

 さて、今のイッセーの言葉が聞こえた彼女が何処に掛けたのかは怖いから黙っていよう。取りあえず男として死んでいないか心配だし、今度からは脇腹にするように言っておこう。

 

 

 

 

 

「……あー、酷い目にあった。……にしても女子連中元気ねぇな。やっぱ木場が居ないからか」

 

 あの後、結局クロロに見惚れる奴が多くて殆どが粘土細工を完成させられなかった。僕は犬を作り、イッセーはアーシアさんを作ってたけど、途中で裸なのに気付いて直ぐに作り直したから未完成だった。ミッテルト? 形容しがたい物を作ってたよ。

 

 授業後、自販機の前でチラリと周囲を見れば確かに落ち込んだ様子の女子生徒。木場祐斗が()()()()()学校を休んでいるからだろうね。

 

「もうすぐ釈放だとは聞いているけどね。まぁあの二人に対してやり過ぎたし、公爵家の関係者だから軽い罪で済んだけど……下級なんて簡単に殺されてもおかしくないよ?」

 

 暗に君も行動に気を付けろと忠告するとイッセーも通じたのか顔を青くして頷く。まぁ最近はアーシアさんが居るからって卑猥な言動を抑えてるし、女子からの評価は最悪のままだけどどうにかなるでしょ。

 

 そんな事を話していた時、ふと通りかかった男子生徒の会話が耳に入る。曰く、魔法少女のコスプレ撮影会をやっているとの事。丁度セラフォルー・レヴィアタンの気配の辺りで行っているようだ。

 

(……そんな訳無いか、馬鹿馬鹿しい)

 

 きっと同好の士でしょ、と馬鹿な考えを切り捨てる。外交担当が、政治のトップが、プライベートといえど公共の場でそんな事をするはずがない。それこそ無能を演じ、挑発に乗った相手を誘い込む目的以外では。

 

「……見に行ってみるか」

 

 美少女だ、パンツが丸見えだと聞こえたからか興味を示すイッセー。放置が一番だけど、まぁ友人だから止めてあげよう。

 

「止めときなよ。今度こそ潰されるよ?」

 

 瞬時、イッセーは股間を押さえて青ざめた。

 

 

 

 

 後から聞いた話だけど、セラフォルー・レヴィアタンで間違いなく、姉の自分への対応に対する羞恥から逃げ出したソーナ・シトリーを追い掛け学園内を走り回ったらしい。

 

 ……分からない。挑発行為にしてはやり過ぎだ。態々品位を貶めてまで何を企んでいる? 馬鹿の振りか。もしくは彼奴は傀儡で側近が牛耳っているとか? どちらにせよ考えが読めなさすぎて怖い。

 

 

 

 ……寄生型造魔の生産の為、材料を集めなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 冥界のとある大貴族の後継が所有する屋敷、その中にいる女達の顔からは、かつて浮かべていた希望が消え去っていた。浮かんでいるのは媚びと諦め。絶望する事すら忘れ、ただ惰性で生きているだけの存在だ。

 

 だけど全員じゃない。中には屈辱と反骨を浮かべているのも居た。

 

「……もう嫌。こんな毎日沢山よ。あんな奴の欲望の捌け口になるなんてゴメンだわ!」

 

 その場に蹲り、腕で顔を覆いながらの呟きに対し、周囲か浮かべたのは恐怖と苛立ちだ。辟易した表情を浮かべ、嘲笑を向けるのも居る。

 

 だけど彼女は気付かない、此処に来て日が浅い彼女は心が完全に折れていないから、周囲の心が折れている事が分からなかった。

 

「皆、逃げよう! 希望を捨てずに頑張ればきっと主がお助けに……」

 

 立ち上がった彼女は一番近くで座っていた少女に手を伸ばす。彼女の予想通りその手は捕まれ、予想に反して強い力で握られて引っ張られ体勢を崩してしまった。

 

「……馬鹿みたい。神様が助けてくれる訳ないじゃない。分かってる? 教会ってのは神様が取り零した者を助ける為にあるんだよ? その教会に捨てられた私達を誰が助けてくれるのさ」

 

「そんな事はない……ッ!?」

 

 その言葉は途中で遮られる。腕を掴んでいた手が胸ぐらを掴み締め上げだしたからだ。

 

 

 

 

 

「……分かりなよ。彼奴に目を付けられた時点で私達の人生は終わってるのよ! 逃げ出してもビクビク怯え続けて、それで結局捕まる! そしてもっと痛い目に、酷い目に合わされるのよ!」

 

「く、苦し……」

 

 胸ぐらを締め上げる力が増し、歯が強く当たったのか、少女の唇から血が流れた。それはまるで流す事を忘れた涙の代替の様で……。

 

 

 

 

「ハイハイ言う事を聞いてればこれ以上酷い目に合わない! 貴女が逃げれば私達まで責任を負わされるの! 力のない私達が何をやったって虚しいだけなのよ! ……だから諦めなさい。直ぐに楽になるから」

 

 少女はそう言って手を離しへたり込む。だけどその言葉を聞いても彼女の瞳からは希望の光は消えなかった。

 

「……嫌だ。私は諦めない。どんな惨めになっても自分だけは自分を裏切ったら駄目だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……反抗的な態度が嗜虐心を煽り、結果行われた()が完了した三日後まではね。「あの子達が……」

 

 三大勢力の会談が三日後に迫った日の事、僕はミカエルを箱庭の一つに連れてきた。彼が慈しみととまどいの表情を向けている先には三人の幼児と七人の赤ん坊、そしてそれを世話する人造人間(ホムンクルス)だ。

 

「今は五歳くらいだけど、無事協定が成立する頃には成長してるよ、個人差はあるけどね。本人の嗜好が影響するから。今後は一から造れるけど、あの子達は間違いなく君の子だ」

 

 僕からすれば即戦力が欲しいなら全員の歳を統一するべきだと思うけど、今回の事を知っている幹部の中には一から育てるべきだって主張するのが居て、妥協案で三人だけ成長した姿で受け入れ、残りは一から自分達が育てる気らしい。

 

 人造天使達を優しい瞳で見詰めるミカエルは優しい性格なんだなとは思う。だけど、その瞳が時折何かを探しているように動いているのにも気付いた。……ああ、そういう訳ね。

 

「彼女達なら居ないよ。純粋な天使、それも今後の希望となる、次世代を担えるほどの天使を造る為にいろいろ調整した結果、寿命が極端に短いのしか造れなくてね。……自分達の分まで子供達を愛して欲しいって言ってたよ」

 

「……はい」

 

 情を交わした相手が既にこの世に居ないってのは何か思う所があるんだろうね。でも、僕がこの前に指摘した通り、野垂れ死にするのが簡単に分かるのにシステムを守る為に何人も追放してきたんだ。それに予め決まっていた寿命なら仕方ないと納得するしかないんだろうね。

 

「今後は堕天防止薬も売ってあげるけど、天使も悪魔同様に出生率がそれほど高くないし人造天使を供給すれば良いのかな?」

 

「お願いします。天使は神がお作りになられていましたから先の大戦で数が減ってしまったからといって子を作れば良いというわけにはいかないので。堕天のリスクがありますし……」

 

 本当に面倒な生き物だと思うよ。生物が持つ欲求を禁止しなければ駄目だなんてさ。

 

 

「でもまぁ全ては協定が結べてからだ。もし無理でも僕の部下として使うし安心して今は遊んであげたら?」

 

「……そうですね。そうします!」

 

 気を取り直したのか笑顔で遊ぶ子供達の元へ向かっていくミカエル。彼は良い親になれそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はははははははっ!! 一から育てる? この子達が希望? 馬鹿馬鹿しい! 全員、造った時点で知能も人格も完成させてあるんだ。僕への絶対的な忠誠いや、僕に付き従うって本能をね!

 

 うんうん、期待しているよ。君達が僕の道具になる日がさ!

 

 

 

 

 

「俺に相談? ……後にしてくれ。今は疲れているんだ」

 

 いよいよ会談の前日、アジトにやって来ていたヴァーリは疲れきった表情でソファーに寝転がっている。この日はクロロと戦いに来たんじゃなくて黒歌とヤり来ていた。女には興味ないって顔してたくせに、一度襲われて経験したらドラゴンの女好きの習性もあるのか色々頑張ってる。

 

 黒歌曰く、耐久力はないけど回復力は高いし血筋も能力も一級品。力押しになりがちだからテクニックが要努力、らしい。

 

「君って戦いが全てじゃなかったの?」

 

「アレも戦いだ。負けっぱなしは趣味じゃない」

 

 格好付けているけれど、内容はアレだからなぁ。しかも良いように絞られているって聞くし。完全敗北らしいよ。

 

『まぁ牝を屈服させてこその牡だからな』

 

 アルビオンも少し複雑そう。付き合いが長いから戦い以外にも興味を持ってくれて嬉しいのかな? でも、負けっぱなしだから複雑なんだね。

 

「それに黒歌が強い子が欲しいって言っていたのを聞いて思ったんだ。俺は世界中の強者と戦って、全部倒したら退屈だから死のうと思っていたけど……俺の子を俺が育てれば強くなりそうだ」

 

 ……これだからこじらせたバトルジャンキーは。戦うために子供を作って育てるの? なんだかなぁ……。

 

「じゃあ黒歌以外にも手を出すの?」

 

「彼女を完全に屈服させたらね。勝てていない相手がいるのに次の相手を捜すほど馬鹿じゃない」

 

 なんか話していると疲れてきたし、さっさと本題に入ったら、ミッテルトとヤって寝よう。

 

 

 

「君は明日の会談に出て、そこで裏切る予定だけど、僕はもう少し味方の振りをする予定だってのは知ってるよね?」

 

 この事は負け犬連中にも伝達済み。会談には魔王が二人しか出ないから倒しても即政権奪取とはならないって分かってるし、バカ正直に正面から挑んでも絶対に倒せないって分かっていないけど、僕が向こうの味方の振りをしておくメリットは理解できたそうだから了承している。

 

 取り敢えずターゲットだけ倒したら帰還する予定らしい。ヴァーリは戦いの時に助太刀して裏切りを表明するらしいけど、その際にして欲しい事があるんだ。

 

 

 

「あの子と闘ってよ。オーフィスじゃ圧倒的すぎるし、アジトでじゃ必死さが出ないかもだからね。魔王とかの前じゃ全力を出さざるをえないでしょ」

 

「……了解。彼女は知っているのかい?」

 

「鬼畜! どS! 休日丸々使って虐めてくれなきゃ怒るっす! ……だそうだよ」

 

「君も相変わらずだな……」

 

 あっ、ヴァーリなんかに呆れられた。結構ショックだ。

 

 

 

 

 

 虫ってのはカブト虫や芋虫みたいのじゃなくて、人に獣に魚に鳥以外を指す言葉らしい。つまり人など虫けら同然だという悪魔は多いけど、日本語的には悪魔も虫と同じだという訳だ。

 

「……まぁ、それを言ったらミッテルトまで虫になちゃうんだけど、こうして見ると虫とかの類っぽいよね、君達」

 

 会談前日の夜、僕の目の前にはビィゼィゼ・アバドンと眷属達が跪き、手元の容器の中には培養液の中を漂う糸屑のような姿の造魔が居る。

 

「君達の同輩だけどさ、素材が貴重すぎて此奴が最後の一体に成るかもしれないんだ。その体から得た知識からして誰に使うべきだと思う?」

 

 本来僕のポリシーから同じ造魔は造らないんだけど、此奴らは別だ。兵士(ポーン)悪魔の駒(イーヴィル・ピース)擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)、そして老熟した金毛白面九尾の狐……の体内で妖怪化した寄生虫、これらを使って完成した造魔の能力は寄生。

 

 外気の中では一分も生きられない貧弱な存在だが、上級悪魔以上の魔力を持つ純血悪魔の体内に入り込む事で能力を発揮する。皮膚を溶かして血管に入り込み、本人が気付かない速度で脳を溶かし、即座に体を溶かした部分に変化させて周囲と同化。個体差はあるが数日以内に記憶や能力や人格を受け継いだ状態で体を乗っ取る。

 

 いや、うん。ポリシーは大切だけど、目的の為ならそれを忘れるのも大切だよ。

 

「……そうですね。バアル家は初代を乗っ取りましたから、魔王派の有力者などどうでしょうか? ただ、現魔王は超越者や創造主様が警戒している現レヴィアタンですからリスクが高いかと」

 

「最後の一体ってのが痛いよね。まぁリストを作成しといて」

 

「……あの、老熟したのが必要ならばクロロ様の能力を使えば宜しいのでは?」

 

 確かにその通りだと思う。って言うか僕も考えていた。考えていたんだけど……。

 

 

「少し前に京都に旅行に行った時、抜け出してきた九尾の姫の娘と知り合ってね。……偽装の為に子供の姿になっていたオーフィスと仲良くなったし、少し抵抗が有るかな?」

 

 いや、必要に迫れば母娘ともかっ攫うのも吝かじゃないけれどオーフィスは反対するだろうし、無理だよね。

 

 

 

 

 

 

 

「……知り合ったのは幼女ですか?」

 

「おい、どうしてそんなこと訊く? 目を逸らすな」「ああ、退屈っすねぇ……」

 

 三大勢力の会談っすけど、当時その場に居なかったダーリンは出席していないっす。天界からしても重要な存在になるあの人に万が一の事があったら、とバアル家の初代当主が貴族派を使って当初予定されていた出席を断固反対、結果、助手であるクロロさんとウチが代理で出る事になったっす。

 

「会場は此方の部屋となります」

 

 まだトップが入る前からソーナ・シトリーは眷属と共に出てきて会場への案内役をやってた。ウチはこの学園に通ってるっすけど、一応は重要な出席者っすから生徒会メンバーの案内の元で会議室に向かうと既に堕天使側、アザゼル様とヴァーリが来てたっす。

 

 まあ貴族令嬢つっても他の主席者に比べたら下っ端っすし、先に来て準備したり動いたりするのが当然っすよね。悪魔も天界もまだやって来ていないっすけど、こういった会場に最後に入るのって気不味いっすよねぇ。他を待たせるんだし。

 

(……あれと戦うとかどんな罰ゲームっすか。黒歌相手に腹上死してりゃ良かったのに)

 

 今日、襲撃の際にヴァーリは裏切り、ウチが相手をする予定だ。事前情報によるとこういった時には妨害が入るし、襲撃前提で予定を立てているから何かあった時はトップ陣の殆どで結界を張って校舎を守り、襲撃者を逃がさないようにするらしいっすけど、それなら最初から街中でやるなよとも思ったウチっすが、ダーリンはこう言ってたっす。

 

「他に適当な場所が無いんだよ。トップは相手を信頼してても下は違うからね。何処かの勢力の縄張りに行くとなると反対意見が出るし、事件の中心地なら其処で行う理由になる。……何かあったら流石に呑気な日本神話が出張ってきそうで怖いけど」

 

 基本来るもの拒まず静観主義の神々らしいっすけど、八百万の名の通り力の差はあっても神が多いから厄介な勢力らしい。しかも専門分野に特化してるのが多いとか。

 

 

「しかし警備の者達は随分とピリピリしていますね。何かあれば即戦場へと変わるのですから当然ですが……」

 

 クロロさんの言う通り、校庭に居る無数の警備達は他の勢力を視線で牽制しあっている。さて、もし戦争になったらウチ達はどうなるんっすかねぇ。少なくても利用価値はあるから天界は殺すよりは人質にするとかで済ませそうだけど。……まぁクロロさんが守ってくれるから良いけど。

 

(ぶっちゃけ、警備の中に数%でも襲撃者の仲間が居たら堤防が切れる様に一気に戦争に突入させられるっすよね?)

 

 お気に入りの店もあるし街が吹き飛ぶのは少し困ると思っているとミカエルと悪魔、魔王二人と今明信勲章であるビィディゼ・アバドンが案内役のソーナ・シトリー達と共にやって来た。

 

「遅ぇーよ、てめぇら」

 

 アザゼル様が巫山戯た様子で言い、護衛の悪魔や天使が鋭い視線を向けるもミカエル達はそれを手で制する。

 

 

「全員揃ったね。じゃあ会談を始めようか」

 

 さて、ここからが正念場っす。ウチも腹を括るしかないっすよね!

 

 

 

 

「私達では戦力外にしかならないと判断し……」

 

 まず大前提として聖書の神の死を知っている。それを一応確かめた後で始まった会談は順調に進んでいた。ウチは特に発言する機会がないので生徒達を避難させている時の話を聞き流しながら旧校舎の方向をチラリと見る。当初の予定では彼処に封印されているリアス・グレモリーの眷属の神器を利用する筈だったらしいっすが、当の本人が会談に出席しないので、何かあった時の為に封印場所を一時移転したらしいっす。

 

 しかし夜中は封印が解かれて校舎内を歩けるのにイッセーは封印されている事すら知らなかったとか。仲間なんだし、せめて文通とかメールでやり取りすらさせなかったのはどうしてっすかね? 人見知りの引き籠もりとは聞いたっすが、無理に会わすのもアレっすけど、せめてカウンセラーとかを利用するとか出来たはずっすけど。パソコンは有ったんだし……。

 

 退屈からウチが関係無い事を考えている間も話し合いは進む。途中、アザゼル様は今回の件に自分は関係していないし、コカビエル様の異変にも思い当たる節がないと主張したっすけど、説明が雑だからって周囲の反応が良くないっす。

 

「……覚えておきなさい。取り繕うことばかり考える者も問題ですが、少しも考えない者は信用に値しないという事を」

 

 人前だから猫を被っているクロロさんが小声で囁いた頃、アザゼル様がどうして戦力を集めているかの話に移る。

 

 その途端、ヘラヘラした笑い顔が消えたっす。

 

「……無限龍オーフィス。奴が率いる組織の存在を知ったからだ。まだ詳細どころか名前さえ知らねぇがな。だが、そんなもんよりもっとヤベェ奴らが動き出しやがった可能性がある」

 

 ウチら禍の団(カオス・ブリゲート)よりヤバい組織? オーフィスは最強なのにそんな奴らが? そういえばダーリンもそんな感じの事を言っていたような……。

 

 ピロートークで聞いた話なので絶頂の余韻に浸っていた上に疲弊しきったウチの記憶はアヤフヤで、思い出そうとするも思い出せない時、校庭の上空に無数の魔法陣が出現した。

 

(予定より早いっすけど、例の眷属が居なかったからすかね?)

 

 時を停める神器だったらしいすからそれを暴走させて出席者を停めるつもりと聞いていたウチが校庭に視線を向けると魔法陣から大勢の魔術師達が現れた。

 

「……おいおい、嘘だろ。襲撃はあるとは思ってたけど、こんな奴らが居るとは思わなかったぞ……」

 

 アザゼル様の額を汗が流れる。現れた魔術師達の内、十人程から魔王級の力が発せられていたっす。恐らく魔神丸を旧魔王派閥から貰ったんだろうっすけど、不意を打て現れた予想外の実力者に警備は混乱を来たし次々と撃墜されていく。彼処まで混乱したら体制を整えるのは無理だろうっすね……。

 

 

 

 

「……あそこまで味方が居たら大規模な攻撃は無理だな」

 

 相手は魔王級、それ以下の奴らも居るけれど次々に現れるし生半可な攻撃じゃ効かないだろうと思った時、サーゼクス・ルシファーが前に進み出た。

 

「僕が出よう。ビィディゼ君。隙を見て(ホール)で警備の者達を避難させてくれ。勿論種族問わずだ」

 

「了解しました、ルシファー様」

 

 サーゼクスの周囲に野球ボール大の滅びの魔力が無数に現れる。それが高速で飛んで行き魔術師のみの体を貫通し次々と仕留め、怪我人を優先して次々と穴を通して避難させられていった。

 

 これが最強の悪魔、超越者。強力な滅びの魔力を先代魔王の十倍の魔力量をもつテクニックタイプが持つとかヤベェっす。更に聞いた話じゃ禁じ手的な最終形態もあるとか。

 

「しかしどうなってんだ? 流石に魔王クラスの魔術師なんて俺達の耳に入ってくるはずだろ。それがあんなに居たとか……また来やがったっ! 今度は二十人かよっ!?」

 

 サーゼクス・ルシファーに疲弊の色は見えない。まぁ一発一発の消費量は低そうだし。動かしているだけだから精神的に少し疲れるだろうっすけど、それよりもアザゼル様が言う通り、またしても現れた二十人の魔王級に驚いている様子っす。

 

「避難完了しました」

 

「そうか。なら君も眷属を率いて撃退を頼む。グレイフィアも頼めるかい? 魔王級は僕が相手をしよう!」

 

「おい、クロロっつたか? お前は戦えるのか?」

 

「勿論ですよ、総督殿。でも、私は彼女を守るように仰せつかっていますから」

 

 要約するとあんなヤツラ楽勝だけど戦う訳にもいかないし、ウチの護衛にかっこつけて傍観させてもらうよ、っすね。

 

「っち! おい、ヴァーリ。お前も出ろっ! 俺は結界に集中しなきゃならねぇ!」

 

「まあ敵の強さが予想外だからね。良いよ、出てくる。少しは楽しめそうだしね」

 

 そして追加で現れた三十人の魔王級の魔術師達がやられた時、会場内に魔法陣が出現する。この紋章は……。

 

 

 

 

「お久しぶりですね、現魔王の皆様」

 

 魔術師をある程度消費して、多分こっちが消耗したであろうタイミングで現れたカテレア・レヴィアタン。その体からは魔王級の三倍以上の力が放たれていたっす。まぁ流石にドーピングアイテムがあるなら最初から使うっすよね、普通。しかも限度数の三粒とか少しは警戒してるんっすね……。

 

「……おいおい、どうなってんだ。テメェは魔王級ですらなかっただろ。ドーピングか? ……おい、サーゼクス。放置してた奴らが此処まで力付けたとか後で面倒なことになるぞ」

 

「ああ、でも、後の事は後で考える。……どうやら話し合いが出来る相手じゃないようだしね」

 

 カテレアの目は血走り少し様子がおかしい。まぁダーリンの事っすからワザと副作用を残してるとかだろうだけど、流石に此処まで強い敵に他の勢力のトップが居る所で話し合いを持ち掛けるほど間抜けじゃなかったって事っすね。

 

「ソーナ君。眷属と共にミッテルト君達を護衛しながら避難を。ビィディゼ君も(ホール)で避難路を作ってくれ。……彼女の相手は僕がする」

 

 相手を逃がさないための結界ということはこっちも逃げられないって事で、ウチ達は会談の会場である新校舎から即座に避難。それでも学園の敷地内っす。流石に直ぐに勝負が付かないのか轟音が響く中、校庭に異変が起きたっす。

 

 

「……なんだ、アレは」

 

 アザゼル様が視線を向けたのは先に避難していた怪我人達。彼らの体内から皮膚を突き破って芽が出てきたっす。

 

「うわっ!?」

 

「何が起きて……」

 

 芽は急速に成長し、養分を吸い取られて萎んでいく悪魔達の姿は冬虫夏草に寄生された蝉を思わせる姿だったすけど、成長して咲いた花はとても薬になるとは思えない毒々しい色と少し離れた此処まで漂ってくる刺激臭。

 

 

「全員飛べぇえええええええっ!!」

 

 アザゼル様の言葉に従って飛び退いた瞬間、その花はカビの繁殖の様子を高速再生しているかのような規模で増え、周囲を花畑に変える。一体、何が起こってるっすか……?

 

 

 

 

 

 

(創造主様は関係しているのかねぇ?)

 

(創造主様の仕業だろうか?)

 

(ダーリンの所業っすかね?)

 

 取り敢えずダーリンへの認識はこんなもんっす。

 


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