発掘倉庫   作:ケツアゴ

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 世の中が平等だった事なんて無いって、ウチは物心が付いた頃から悟ってたっす。才能の差、身分の差、財力の差、本人じゃどうしようもない差が生まれ付き存在する。相手が十倍の速度で成長するなら十倍努力すればいい? じゃあ、相手が一日六時間努力するなら一日六十時間努力しろってか? 時間は皆『平等』に一日二十四時間なのに?

 

 そして今もウチは不平等を感じていた。

 

「いやぁ、女子会ってのも良いモンだにゃ。彼奴、ヤリ始めると中々休ませてくれないくせに勢いだけの下手くそだから私がリードしなきゃいけないし。毎日会えないってのも良い物ね」

 

「はいはい、惚気乙。会う度に随分とベタベタ甘えてる奴が何を言ってるのさ」

 

 ダーリンの箱庭の一つであるビーチリゾートでバーベキューをしながら三人での女子会。さっきまでおよいでいたから水着っす。ただし、クロロさんは女だけだからって裸で泳いでたっすけど。序でに言うなら黒歌はビキニ。それも少しサイズが小さい奴。

 

 彼奴、戦闘にしか興味がないっていうか戦闘しか知らなかったせいで、逆に黒歌との肉欲に溺れちゃってるんっすね。ほら、遊び慣れていない奴ほど遊びに嵌ると熱狂するって奴。神器を封じる空間だと知らずに入って媚薬で興奮しきった黒歌に襲われちゃってさ。

 

 そんな事はどうでも良いから横に置いて、何が言いたいかというと二人が動く度に揺れるんっすよ。そりゃもうブルンブルンと。……ちっ!

 

 ウチは舌打ちをしながら肉に齧り付く。あーミノタウロス美味い。こうやって肉食ってりゃ胸に肉付かないっすかねぇ? まぁダーリンは今のウチでも愛して可愛がって虐めてくれるっすけど?

 

 

「そう言うクロロはどうなのよ? ミッテルトはアレとして……アンタも正義とはそういう関係じゃないのかにゃ?」

 

「無い無い、絶っ対無い! 其れだけは有り得ない」

 

 クロロさんは身振り手振り表情で否定する。慌てている様子はないっすし、普段の関係からしてウチも有り得ないって思うっす。それにウチも疑って訊いた時、心底嫌そうな顔でダーリンが言ってたっすもん。

 

 

「いや、有り得ない。僕、彼奴を作品として造ったんだぜ? 自分が芸術作品として書いた裸婦画に欲情する奴居る訳無いじゃんか」

 

 まぁ、気持ちは分かるっす。そういう事を言い続けたせいでクロロさんが近くに居ても縁談とかの話が来続けたってのは失敗だと思ってるそうっすけど。

 

 

「でも、主と配下の恋ってのもロマンチックじゃないかにゃ?」

 

「私達と創造主様の関係はそんなんじゃないのさ。主と配下でも、神と信徒でも、親と子でもない。脳味噌と手足、それが一番近いかねぇ」

 

 うーん。よく分からないっすけど、この人がダーリンを裏切る事はないってのは分かったっす。

 

 

 

 

「それにしても無かったら欲しいけど、あったら邪魔よね、これ」

 

「私も大きさを控えれば良かったと今更後悔だよ。……創造主様に頼んでみるかね? どうせロリコン扱いだし、部下の胸を小さくしても驚かれないだろうしさ」

 

 二人は自分の胸を下から持ち上げてユサユサ揺らす。……死ねっす!

 

 

 

 

 

「あっ、そうそう。昨日彼奴から、ヴァーリから聞いたんだけど、コカビエルが教会から聖剣エクスカリバーを三本奪って消えたんだって」

 

 

 

 

 ってな事があったのが数日前、お風呂でダーリンに背中を流して貰ってる時にふと思い出したウチが話したんだけど、どうも興味がなさそうな感じっす。

 

「ふ〜ん。最近そこそこの堕天使が街に侵入したみたいだけどコカビエルだったんだ。確か戦争狂って聞いてるけど、実際どうなの? 今更三大勢力で戦争起こしても他神話に漁夫の利を取られるだけと思うけどさ」

 

「あー。ウチは下っ端だけど噂くらいなら。会議の度に開戦を主張してるとか何とか。ってか、ウチらやはぐれ悪魔が二体程侵入したばかりっすけど、お嬢様は何してるっすか?」

 

 まぁ貴族令嬢としての婚姻の義務を放棄して、その為に管理者としての職務と学生の義務である学業を十日間も放棄する奴っすからねぇ。期待するほうがアレっすか。

 

 それにテロリストとしては魔王の妹の不祥事は有難いっすしね。あれ? 何かあったらウチが内通を疑われる?

 いやいやいやっ!? バラキエル様の娘も居るし、そっちに疑いの目が向く……っすよね? 魔王ってシスコンだし、ウチをスケープゴートにして不祥事をもみ消そうとかしない?

 

 ウチが少し不安を感じた時、そっと手が回されて抱き寄せられる。

 

「大丈夫大丈夫。僕が何とかしてあげるからさ」

 

 そうっすよね! ウチにはダーリンが居るっす。何を不安になる必要があるんすか。

 

 

 

 

「あっ、じゃあこのまま前を洗ってあげるよ」

 

「ちょ!? 流石に其処は覚悟が……ひゃんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても三本のエクスカリバーか。どうせなら教会に残った三本も纏めて手に入れてコンプリートしたいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨か。……たまには良いっすよね。あっ、彼処にある水溜りっすけど、あの辺りに穴があったはずだから多分深いっすから注意しないと」

 

 数日後の球技大会後、ウチとダーリンは一本しか持って来ていなかった傘に二人で入って帰宅してたっす。いや、転移で楽に帰れるっすけど、風情てもんが有るっすからね。ぶっちゃけ相合傘がしたかった。腕を組み肩を寄せ合って帰っていると幸せて物を感じるっす。最近は侵入した教会関係者が殺されてるっすけどリアス・グレモリーは後手後手っすね。折角教えておいてやったのに。

 

 自分が何とかするから何もするなって偉そうに言っておきながら。球技大会では生徒会長と饂飩の奢りを賭けてテニヌ(誤字にあらず)してたし、上に報告はしないんすかね? ダーリンだけでなく学園にはそこそこ魔法使いや異能者が居て、街にも人外が幾らか住んでるってのにそんな無責任な真似はしないっすか流石に。そんな事したら利敵行為で危険な辺境に……は魔王の妹だから無いとして、家で大人しくさせられるとかはあるっすよね。

 

 

 

 

 ウチが馬鹿馬鹿しい考えをしていた時、反対側からアイツはやって来た。これが奴らとウチらの初会合だったっす。

 

 

 

「……ん?」

 

 反対側からやって来たのは赤い軍服と軍帽で身を飾った金髪の女。黒い眼帯で右目を覆った彼女は腰まである金髪を揺らしながら寸分の隙もなく歩いてきたっす。カツカツと雨音に紛れて軍靴の音が耳に入る中、擦れ違うまでウチは違和感に気付かなかった。

 

 ギラギラとした飢えた獣の様な瞳の彼女は土砂降りの中で傘をささずに歩いているにも関わらず一滴も水が滴り落ちていなかった。

 

 

 其れに気付いた時、チャキリと鍔鳴りがして、ダーリンが急に頭を掴んだかと思うと地面に顔面を叩きつけたっす。

 

 

 

 そして女が抜いた軍刀の刃はさっきまでウチの首があった辺りで止まっていた。

 

「……ふん。寸前で止めたが其れすらも分からぬか。……しかし何故私は止めたんだ?」

 

「急に危ないなぁ。……教えてくれるとは思わないけど一応聞くよ。何処の神話?」

 

 なんか話してるっすけど今のウチにはよく聞こえないっす。

 

 

 

 

 

「教える気はないが……さて、其れでは詰まらんか。自己紹介だけでもしておこう。私はナースだ」

 

 行き成り人を殺そうとする奴の何処がナースっすかっ!? ナイチンゲールに謝れっすっ!!

 

 

「危ない危ない。あんなのが居るんじゃ護衛を置いていた方が良いかな?」

 

 ダーリンは自称ナースが去って行くと呑気な声を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぼがぼがぼがぼ」

 

 そんな事よりも去っていったなら早く手を離すっすっ! こっちは深い水溜りに顔を突っ込まれて息できねぇんっすからっ!!

 

 

 

 

 

 

「やあ。先日のパーティ以来だね、ドクター九龍」

 

 今、僕の前にはレーティングゲームのトップランカーの一人である……アバドン家の何某が握手を求める手を差し出しながら立っていた。立場上、偶にパーティに参加するんだけど、多分三ヶ月位前のパーティで会ったのが初めてだと思う。

 

 名前は忘れた。家は特殊な能力持ちだから覚えてるけど……。

 

「どうもお久しぶり。あっ、これはお約束の複製神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』だから」

 

 此奴が来ることが事前にセラフォルー・レヴィアタンから聞かされている。今回の報酬として複製品を欲しているって聞いてるし、既に代金は貰っているからこうやって用意した。箱に入れていた指輪を取り出した何某・アバドンは興味深そうに見詰めている。

 

「……これが。ふむ。凄いな」

 

 即座に自分の腕を傷付け、癒す。満足そうな表情を浮かべて指輪を箱に戻し懐に仕舞った。

 

「では今から管理者の所に行かなくてはな」

 

 抑もどうして此奴がこの街にやって来たか、其れは少し前まで遡る。具体的には自称ナースの軍服女に襲われた日の夜の事だ。

 

 

 

 

 

 

「酷い目にあったっす! って言うか、どうして反撃しなかったっすか!」

 

 ベッドの中で正面から僕の首に手を回したミッテルトは不満そうに頬を膨らませながら僕の頬に舌を這わせる。これは彼女がキスを強請る時の合図で、ご期待通りに唇を重ねると蕩けた顔になる。これで舌を絡ませたらもっと凄いんだけど、ちゃんと説明しておかないとね。

 

「彼処でやりあったら街が只じゃすまなかったんだよ。……僕も本気を出さなきゃいけないしね」

 

 僕はあくまで頭脳労働担当。研究材料は自分で集める主義だから出張ったりするけど専門じゃない。っていうか、僕が戦う危険を冒すよりもそれ専門のを作って戦わせたほうがデータも取れるし安全だしね。だから周囲に被害を出さずに強敵と戦うのは苦手だ。全力は反動も大きいし

 

 それと、多分オーフィスが出張る事態になる。だから今回の事は秘密だ。アレが僕の予想通りの存在だったなら、公的な認識での世界トップ十の内、二人とその部下を追加で敵に回すし、高確率で冥府や悪魔も出張ってくる。だから極力関わらない。

 

 暫く街に居ないのが一番だけど、オーフィスに勘繰られたら不味いからなぁ……。

 

 

 

「あっ、そうだ。少しお願いがあるんだけど」

 

「処女なら何時でもOKっすよ?」

 

「いや、それは検証が一通り終わったら貰うから別の件。……恥知らずな真似をして貰いたいんだ」

 

 まぁ、どんなプレイでもOKな子だから既に恥知らずな真似はしてるんだけどね。本人が言い出したんだけど、箱庭の中の夜の公園で……少し引いたな流石に。

 

 

 

 

 

 

「其処までよ! それ以上はこの魔法少女レヴィアたんが許さないんだから☆」

 

 派手派手しい音楽と共にパンツ丸見えのコスプレ衣装のセラフォルー・レヴィアタンはビシッと指を突き出す。其の先に居るのは天使の羽を出したミッテルト。黒を基調としたゴスロリ風のドレスを着て、悪魔に光の槍を突きつけていた。

 

 

「ちっ! 来たっすね、レヴィアたん! だけど、今日此所でお前は終わりっす! この『秘密結社セラフィー』の幹部ミッテルの手で死ぬが良い!」

 

 ミッテルトは赤龍帝の籠手・偽を出現させると羽を広げて向かって行き、其処で第三者の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「はい、カット!!」

 

 この日、行われたのはセラフォルー・レヴィアタンが主演を務める『マジカル☆レヴィアたん』の新シリーズの収録。旧レヴィアタンに喧嘩を売っているこの番組からミッテルトに出演依頼が来たのだ。

 

 因みに番組内で敵は悪魔以外の種族だけど、これって悪魔こそが至高の存在だって視聴者の幼心にインプットしてるのかな?

 

 

 

「いやぁ~、良かったよ、ミッテルトちゃん。貴女、九龍ちゃんの側にいるからって有名になってるし、複製神滅具の件もあって注目されてるの。多分番組も大ヒットだよ」

 

「……うぅ、赤っ恥っす。羞恥プレイとして受け入れるしかないんっすか?」

 

 笑顔でノリノリのセラフォルー・レヴィアタンに対しミッテルトは羞恥に染まっている。あっ、うん。高校二年だしギリギリセーフかも知れないけど恥ずかしいよね。

 

 ただしセラフォルー、君は駄目だ。同世代に子持ちが居るんだし、千年も生きていなくても成人には変わりないだろ。

 

「そんな事よりも報酬は忘れないでね。超越者二人の血液サンプルをさ」

 

「うん、了解了解!」

 

 この番組に興味はないけれど、撮影時には本気で魔力を放ったりするから、其れに対抗するミッテルトの訓練やデータ取りには結構効率が良いんだ。……見てて楽しいしさ。

 

 

「それはそうとさ、九龍ちゃん。少しお願いがあるんだけど」

 

 そして場面は冒頭に向かい、次の場面はオカルト研究室の部室へと移る。

 

 

 

 

 

「……申し訳御座いません。今、何と?」

 

「やれやれ。目上の者の話はちゃんと聞いておくべきだぞ? 暫くの間、この街の管理は私に任されたと言ったのだ。魔王様直々の依頼でね」

 

 相手が目上の存在でありレーティングゲームのトップランカーと言うこともあって丁重に出迎えたリアス・グレモリーだけど寝耳に水の話に動揺と不快感を隠せていない。政治的駆け引きが出来ない子だねと、魔法で覗いている僕は呆れていた。

 

 

 

「君には今回の一件、役者不足過ぎると上が判断した。かなり高位の堕天使が侵入しているとドクター九龍から報告を受けたにも関わらず上に報告していなかったそうじゃないか。功を焦ったか、うん?」

 

 これは明らかな挑発行為。多分大王派に所属して居るんだと思う。彼処ってグレモリー家に良い印象を持ってないからな。

 

 しかし流石にコカビエルだと断言するのは不味いから高位のだとだけ伝えたけど、上に報告も無しなのか。管理者って事は自分達側の世界の揉め事から街の住民を住む世界や種族に関わらず守る義務が有るってのにさ。って言うか、僕ってかなり重要人物だよ?

 

「確かに君は才能を評価されている。眷属も……まぁ中々だろう」

 

 途中、一誠を見て鼻で笑う。あー、僕の作品で一誠の価値が急降下したからな。量産出来るなら多少質が上な真作でも使用者がアレだしさ……。

 

 

「ですがっ! 私は自分の責任を果たそうとしたまでで……」

 

「貴族としての責任をロクに果たそうとしていない我が儘姫が何を言う。兎に角、魔王様方の判断だ。君に逆らう権利はない。精々学生の義務に励みたまえ」

 

 リアスは感情に任せて両手を机に叩きつけるけれど、相手は政治でも戦闘でも遙か格上。軽く受け流され、魔王のサイン入りの書類を出されては黙るしかなかった。

 

 

 シスコン魔王が妹の役割を奪うとは驚きだけど、悪評が立っている今はこれ以上の失態を避けたいんだろうね。後は同じシスコンのセラフォルーが妹を守ろうと思ったのかな?

 

 

 

 

 

 

 

「部長、泣きそうだったよ……」

 

 次の日の昼、イッセーは紙パックのジュースのストローを咥えながら呟く。どうやら今日はアーシアさんの手作り弁当らしく、少し可愛らしいキャラ弁だ。うん。男子高校生にはきつそうだね。

 

「あ、あの、でも臨時の管理者の方ってお強いんですよね? だったら安全なのでは? ほら、もし堕天使さんが暴れ出したら……」

 

「……そうだよな。経験豊富な人の方が安心か」

 

 イッセーも納得しているけど、確かにね。高校生には荷が重すぎるよ。家族が住んでるんだし、そっちの方が良いよね。少なくても短期間で何度も侵入を許して気付けなかった奴よりはさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んな事よりも二人はもうヤったんっすか?」

 

 そして空気を読まないミッテルトの発言にイッセーが固まり、アーシアさんは疑問符を浮かべている。

 

「やった、って何をですか?」

 

「例えばウチとダーリンなら、まずはお風呂で《自主規制》の後、胸をこうやって《自主規制》してあげて、その後は《自主規制》で毎回《自主規制》させられるんだけど、そこも可愛いって言って貰えて。洗い流したら、《自主規制》したり《自主規制》だったり、偶に箱庭に入って公園や浜辺で《自主規制》っすね。……でもまぁ、いい加減《自主規制》して欲しいもんっすけど」

 

「おい、マジで止めろ!? アーシアは純情なんだっ!?」

 

「はわわわわわわっ!?」

 

 真っ赤になっているアーシアさんを庇うイッセー。うん、仲が良いね。少し前に聞いたんだけど、アーシアさんは悪魔になる気はないみたい。一緒に居られる時間が成った時より減るのは悲しいけど、その分一緒の時間を大切にしたいんだってさ。

 

 

 

「私は信仰を捨てられず、悪魔になれば苦しむと思います。そしてイッセーさんはそんな私を見て悔やむでしょう。だから、私は人間として一生傍に居るつもりです」

 

 だってさ。思いっきりプロポーズだよね。それを聞いたイッセーも照れながらも嬉しそうだったし、いいカップルじゃない? 付き合ってる相手の名誉まで疵付くって言ったら覗きしなくなったしさ。

 

 イッセーの異様な性欲は心が重要になる神器とは相性が良い。元がカス以下でも十秒毎に倍加するならあまり関係ないし。でも、この事でそれが減ったら……そっちの方が良いか。強ければ戦いに駆り出されるし、大きい力は負担も大きい。友達としてはそっちの方を望むよ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ヤバ。思い出したら下着が少し拙い事になったっす」

 

 そして君はブレないね、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様はっ!」

 

「あの時のっ!」

 

 この日の帰り、少し前に会った悪魔祓い達と遭遇した。腕も足も首も顔も丸出しの水着を思わせる戦士の衣装の上からローブ姿という異様に目立つ姿で街中を歩く。幸い近くに人は居ないけれど、多分此処に来るまでに注目を浴びたんだろうなぁ。

 

 

 

 

 さて、今にも斬りかかってきそうな二人をどうしようかと考える。前は聖剣を砕いてやったんだよね。面倒だから核は回収しなかったけれど『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の破片を回収できたのは良かった。どうせならまた回収しようかな? ()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()

 

 一触即発の空気の中、ミッテルトが前に進み出る。天使の羽を広げながらだ。

 

 

 

 

 

「お止しなさい。これ以上の狼藉はウ…私が許しませんよ」

 

「「はっ!」」

 

 即座に膝を付く二人、まぁ羽が四枚って事は中級天使の証。実際は違っても、そうだと言ってないしね。

 

 

(さて、このまま勘違いさせたまま……!?)

 

 僕が二人をどうやって誂うか考え出した時、不意にコカビエルに付けていた監視が全滅した反応が伝わってくる。何か嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雑魚が。強者に成れなかったのなら……死ね。貴様達に存在価値などないわ」

 

 町外れの森の中の廃墟、崩れかけた壁が血飛沫で染まる中、軍服の女は斬り殺した男達を見下ろしていた。嗤うでもなく、怒りを向けるでもなく、蔑むでもない。死ぬのが当たり前という、何も感じていない顔だった。

 

 ふと足元を見た彼女は転がってきた結晶体に目を向け、そのまま踏み砕く。結晶に込められていた何かが誰かの元に行こうとしたけど、彼女が手を翳すと何かは苦しむような声を出しながら消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼の小僧、少し興味深かったな。何故か殺す気が湧かなかったが……少し遊んでみるとしよう」

 

 

 

 僕がポンコツ悪魔祓いコンビと出会ったのは貴重な研究素材、聖剣を手に入れる為だった。某国に存在する古代遺跡の罠を掻い潜り、少しだけ苦労して漸く聖剣を手にして遺跡から出てきた時、二人と出会ったんだ。

 

「その聖剣を渡してくれるかしら?」

 

「うむ。遺跡に潜らずとも聖剣が手に入るとは主のお導きだな」

 

 こういった手合いは他人の話を聞かないし、基本的に意見を変えない。自分達が崇拝する神は絶対的な存在であり、其の神の為に行動する自分達は絶対正しいってな具合にね。馬鹿みたいだね。正当化しなきゃ駄目な時点で自分にとって其れ程大切じゃないって事なのにさ。

 

 本当に大切な存在の為なら、オーフィスの為なら僕はどんなに間違った事でもしてみせる。この時入手した聖剣もその為で、勿論断ったら強硬手段にでようとした。……から、持っていた聖剣をへし折って、面倒事を避ける為に核は残して破片は回収したんだ。

 

 それから何度か会ったんだけど……こいつら馬鹿だった。樹海で道に迷って遭難したからって聖剣のオーラを放って木々を破壊して道を作ったり、最低限の常識すら信仰の為に捨てる程だ。

 

 

 そんな二人だけど、今、ミッテルトに騙されている。

 

 

 

「彼は天界にとって有益な研究をしています。貴女方が彼に攻撃するという事は主に仇をなす行為っす…ですよ」

 

 時折、地が出ながらも完全な虚偽はなしに二人を言いくるめて行くミッテルト。天使の言葉だからと無条件で信じている二人は考える力ってのを何処かに忘れてきたのかな? 騙している方が言うのもアレだけどチョロ過ぎでしょ。

 

「わ、私達はなんという事をっ!?」

 

「主よお許し下さい!」

 

 人の目がないとは言え街中でこんな目立つ格好で祈り出すなんて。でも、これはチャンスだ。欲しかった物を手に入れる、ね。

 

 

 

 

「気にしなくて良い。君が持っている擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の破片を十キロ分貰えれば問題ないよ。砕いても伸ばせば再生するし問題ないでしょ?」

 

「分かったわ! ああ、なんて優しいのかしら」

 

「君に主の祝福があらんことを!」

 

 あくまで向こうからくれるんだから僕は悪くない。嘘は言っていないしね。

 

 

 

 

「……それで、あの二人の目的はコカビエル? 主戦力はどんなのが来るのかな?」

 

 この日の夜、椅子に座った僕は研究資料を作成しつつ眼前で膝を着いた男に尋ねる。あの二人の片方、紫藤イリナはライザー・フェニックスの『騎士(ナイト)』を聖剣ありで後々残る怪我を負わせる事も出来ない程度で。もう片方、ゼノヴィアも相棒だけど切り札も入れればようやく上級悪魔に食らいつける程度。

 

 つまり、コカビエル相手には時間稼ぎすら怪しいレベル。最上級堕天使相手に派遣するには足りなさ過ぎる。だからあくまでサポートで、後から大物が来ると思ったんだけど……。

 

「いえ、増援に対しては何も言っていませんでした。むしろ二人だけで解決するから手を出すなと言う程で……」

 

 此奴も戸惑っているけど、あくまで一時的な管理者という事もあって反論はしないし()()()()言い含めて、リアス・グレモリー達にも伝達したらしいけど……怪しいね。流石に聖剣を持たせているらしいし、あえて殺させて戦争の口実にしようってでもない限り、繋がりを警戒して秘密にしている増援が居るだろう。二人にも伝えていない可能性も有るね。

 

 

「……でしょうな。流石に教会の連中も馬鹿ではないでしょう。指示したものが密通でも……いえ、バレバレ過ぎて有り得ませんか」

 

「そうだよね。警戒は続けさせるね。じゃあ、お仕事に戻ってよ。造魔877号。……いや、今はビィディゼ・アバドンだったね」

 

「ええ、左様で御座います、創造主様。この体の名前はビィディゼ・アバドンで御座います」

 

 877号は僕に一礼すると背後に控えさせた同族(眷属)達と共に転移していった。

 

 

 

 

 さて、面倒な事が起きないと良いけどね。戦争が今起きても僕に旨みは少ない。もっと僕の価値を上げて搾り取れるだけ搾り取らなきゃね。一応監視を付けているので二人の様子を見てみるか。明日は少し忙しいからね。

 

 

 

 

「……悪魔のようだな。私達に何用だ?」

 

「君達が持っているエクスカリバーを渡してくれ。僕はそれを破壊しなきゃいけないんだ」

 

 はい、起きました! 何やってんだよ、リアス・グレモリーはさ。暴走の危険が有る眷属に監視くらい付けておけよな!!

 

 

 

 

 

 

 

「あのイケメン、拘束されたんっすか。どうりで居ないと思ったっす」

 

 翌日、僕は学校を休みミッテルトは普通に登校して、何時もの様にイッセー達とお昼を食べている。そんな時、ふと話題に上がったのが木場祐斗。この日、学校を休んでいた。一部の腐女子が同時に休んだ僕と駆け落ちとか騒ぎ立てたけど、報告は受けているから後で呪う。

 

「ああ、イリナ達を襲撃して、街を警邏していたビィディゼ様の眷属に取り押さえられたらしいんだ。そのせいで部長は冥界に呼び出しを食らったらしいし……内通の疑いがどうとか言っていた」

 

 木場祐斗のやった事はそういう事だ。エクスカリバーを奪ったコカビエルの目的はこの街からして戦争だろうけど、悪魔が悪魔祓いを襲ってエクスカリバーを奪えば戦争の可能性が上がる。更に女王が堕天使幹部の娘なんだから、更にその嫌疑は濃厚だ。

 

 

「まっ、眷属の精神状態に注意して居なかったお嬢様に非があるっすよ。……しかし聖剣を憎んでいるらしいっすけど、それを行わせた教会や、その上部組織の天界には同じくらいの恨みを向けてないんっすよね?」

 

 理解できないといった様子のミッテルト。僕も理解できないよ。物に当たるなよな、物にさ。

 

「其れはそうとミッテルトさん。今日は九龍さんが居ないのにご機嫌ですよね。何か良い事でも?」

 

 アーシアさんが訊いた途端、ミッテルトの目が輝く。嬉しい事、自慢したい事は他人に話したくなるものだ。僕も発明品を誰かに自慢するのは好きだしね。クロロは助手だし、オーフィスは反応悪いから黒歌や美猴くらいしか相手が居ないけどさ。

 

 

 

 

「実は堕天化の実験が大詰めを迎えて、早ければ今日の内に終わるんっすよ。つまり、ウチは本格的にダーリンのモノって訳……伏せろっ!!」

 

 二人の頭を掴んで無理に伏せさせたミッテルトは即座に悪食の盃(グラトニー・グラール)赤龍帝の籠手・偽(ブーステッド・ギア・フェイク)を出現させる。硬質な物が砕ける音と共に光の粒が宙を舞い、ほぼ同時に校舎が揺れて悲鳴が上がった。今の時刻は丁度お昼休みの中頃。

 

 そんな太陽が高くで輝いている時間帯に、街中の学園に無数の光の槍が突き刺さった。

 

 

「イッセー、あんたも早く倍加を進めてウチに譲渡するっす。……畜生、イカれているって聞いた事はあるっすけど、此処までとは思わなかったっすよ!!」

 

 吸い込みきれなかった光の槍は屋上中に突き刺さり、校舎内からは貫かれた生徒の断末魔の叫びやパニックに陥った人の悲鳴が響く。平和な日常は一転して恐怖の非日常へと変わり、その元凶は宙に浮かんで学園を見下ろしていた。

 

 凶悪そうな顔に堕天使に証である黒い翼。此奴こそが今回の騒ぎの元凶、聖書に名を記された堕天使コカビエルだ。

 

 

 

 

 

 

「魔王の妹達よ、出て来い!! このコカビエルが相手をしてやる!!」

 

 これは警告だとばかりに宙に出現した巨大な光の槍。十枚の黒い翼を広げたコカビエルは腕を振り上げ、まだ混乱醒めやらぬ校舎目掛けて振り下ろす。

 

「な、何だアレっ!?」

 

「あの化物、あれを放つ気か!?」

 

 一般人の多くを巻き込んでの魔王の妹への宣戦布告。三大勢力間どころか他の神話さえも敵に回す行為だけどコカビエルに迷いはない。むしろ楽しんでいるくらいだ。事実、顔に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

『スパイラルニー!!』

 

「なっ!?」

 

 だが、その笑みはすぐに困惑へと変わる。特大の、それこそミッテルトの通常時の槍が爪楊枝なら鉄棒くらいありそうな其れはドリルによって正面から削り砕かれた。

 

 

 

 

「ロ、ロボット!?」

 

「これ、何かの撮影!? ドッキリ!? ドッキリなの!?」

 

 当然、学園は更なる混乱に陥るけど、ソーナ・シトリー達が暗示を使って避難誘導を始めたから問題ないだろう。

 

 

「皆、私達では邪魔にしかなりません。それよりは生徒の避難が優先です!」

 

 この辺は食えない姉と同様に優秀で厄介だと思う。そしてエンプティーは屋上へと着地した。

 

 

『ミッション開始。目標、コカビエルの生命停止……エラー発生! エラー発生!!』

 

「な、何が起きたっす!?」

 

 

 

 

 

 

 

『コカビエルは生存していません! コカビエルは既に死亡しています!』

 

 五体満足で宙に浮くコカビエルに向け、エンプティーは混乱した声でそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして僕はというと……。

 

 

 

 

 

 

 

「約束は分かってるよね? 彼の死因を解明する代わりに遺体から筋繊維を三割、血管を二割、皮膚と脳と臓腑を三割貰う」

 

 僕の目の前にあるのはライザー・フェニックスの遺体。誰にも死因が解明できなかったからと漸く僕に依頼が回ってきたんだ。

 

 

 

 

 

(……早く終わらせよう。今日は上手く進めばミッテルトとお楽しみだし)

 


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