発掘倉庫   作:ケツアゴ

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「じゃあさ、交渉の前に少し準備しておこうか、イッセーの価値を上げなきゃね」

 

 イッセーの神器がやばい物だったので、リアス・グレモリー達に紹介して、どうせ眷属に出来ないだろうから他の悪魔に紹介して貰おうと僕のマンションまで連れてきた。今からドライグを起こすんだ。だって僕は面倒臭いから使い方のレクチャーなんてしたくないからね。

 

「相変わらず豪勢な所だな、おい。……一億はしたんじゃねぇの?」

 

「此処? そのくらいしたかなぁ」

 

 龍脈とかの関係上都合がいい所を探して選んだから値段を気にしてなかったけど、オートロックだしソコソコ立地も便利なマンションの一室にイッセーを招待する。普段はここからアジトに直行なんだけど、偽装とかプライベート空間の為に生活するに十分な家具とかは常備しているんだ。

 

 でもまぁ、この部屋を利用するのは僕一人だし、少し勿体ない気も……あれ?

 

「誰か居る」

 

「え? 一人暮らしだって言ってたじゃんか。……まさか泥棒!?」

 

 此所本来の防犯設備と僕が張った結界でその辺は万全の筈だけど、其れを突破できるほどの実力者も居ない訳じゃない。慎重に音のする方に進み、そっと扉を開ける。

 

「よし! クリアー!! やっぱレトロゲーは良いねぇ」

 

 クロロが大量のスナック菓子をパーティ開けして手掴みで頬張りながら僕のゲームをやっていた。どうしよう。頭が痛くなって来たよ。

 

「えっと、知りあいか?」

 

「……僕の助手にして、僕が作った人造生命体」

 

 今のクロロはジャージ姿に丸眼鏡で色気の欠片もないので節操のないイッセーですら反応しない。喪女という言葉が服を着て歩いているような状態だ。因みに眼鏡は能力を抑えるための物。普段はうっかり使ってしまわないように注意してるけど、アレが有れば其の必要もないので作ってやったんだ。

 

「あっ。創造主様、お帰り。友達も一緒なんだ」

 

「……おい。此奴は一般人じゃないからいいけど、説明が面倒くさいから其の呼び方するなよ。ってか、何やってるんだ、僕の部屋で」

 

「ボン○ーマン5。休日だけど、私の部屋のゲームは酔った時に壊しちゃってボス戦まで進めるのは面倒だし、そう言えば創造者様も其処まで進めてたなぁって思い出してさ」

 

「……分かった、もう良いから続けていろ。だけど一言言っておく。……スナック菓子食べた手でコントローラー触るなっ!」

 

 ……疲れた。本当に疲れた。あと、イッセー置いてけぼり。

 

 

 

「えっと、どれだったかなぁ?」

 

 僕の部屋の一室は棚で埋め尽くされているんだけど、其の棚には無数の箱庭が飾られている。ガラスの様な透明のケースの中に浮かんでいる箱庭は全て違う物。雪山だったり、温泉地帯だったり、海水浴場だったりと精密に作っている。

 

「あった」

 

 そんな中から僕が探し出したのは他のと比べて殺風景な品。荒野の中央に祭壇があるだけの寂しい場所だ。僕はそれをイッセーの前のテーブルに置くと手を翳す様に指示する。僕も同じように手を翳し目を閉じる。目を開いた時、僕達は荒野の中央にある祭壇に立っていた。

 

「うおっ!? 此処ってさっきの!?」

 

「そう。僕が作った異空間に繋がる『箱庭』さ。大体がリゾート用なんだけど、研究用に時間の流れを弄っているものもあって……此処は儀式用。強力な力を使ってもグレートレッド……まぁ凄く強いドラゴンを誘き寄せないで済むんだ。じゃあ、神器出して、もう自分の意志で出せるからさ」

 

 僕はそう言いながら右手の指先を変化させる。刃の様に鋭く研ぎ澄まされた指先にイッセーの視線が注がれていた。

 

「これ? 実の親に実験台にされてね。……不気味だろ?」

 

「いや、なんか格好いいな。ダークヒーローぽくてさ」

 

「サンキュ。……じゃあ、手を出して」

 

 左の掌を軽く切り、籠手の宝玉に血を垂らす。その際、僕の中にある一番強い存在の力が流れ出すようにしてだ。効果は直ぐに現れた。宝玉が光り輝き、声が聞こえてくる。

 

 

『随分と強引に起こされた物だ。……此奴が宿主か』

 

「何だよ、其の外れっぽい言い方はっ!?」

 

『いや、実際外れに近い……む?』

 

 僕が血を垂らした宝玉がグラグラと動き、籠手から外れて落ちる。そのまま地面を転がり、僕が其れを拾い上げた。

 

「少し力が強すぎたみたいだね。あっ、どうせ直るからこれ貰うよ。手数料としてさ」

 

 

 

 

 

 

「……って感じで手に入れた宝玉を使って複製したんだ」

 

 話したら不味いところは省いて説明したけれどサーゼクス・ルシファー達は唖然としている。まっ、宝玉一つで神滅具を複製するなんて僕じゃないと出来ないから仕方ないね。あのアジュカ・ベルゼブブですら無理でしょ。

 

「量産は?」

 

「無理。結構貴重な素材を使ったし、暫くは無理だね」

 

 絶対に出来ないとは僕のプライドが許さないから言わないけど、簡単に出来るとも言わない。戦争に反対する現魔王に警戒され過ぎても駄目だし、あえて濁しておく。

 

 後は話は終わりとばかりに画面に視線を向けた。

 

 

「其れにもう一つ欠点が。……ドライグが居ない分、能力の発動には其れなりのエネルギーが居るんだ」

 

「彼女は其のエネルギーを出せるのかい?」

 

「ミッテルトが出す必要はないよ。……ほら、彼女の手元を見てごらん」

 

 ミッテルトの腕に出現した籠手は力こそ発するが宝玉から光が失われている。中の龍が居ないからで、それは向かい合う二人も気付いているようだ。アレは恐れるに足らず、とね。

 

 

 

 実にその通り。だからこそ感謝しよう。君達が優秀だからこそ最高のプレゼンテーションになったとね。

 

 

「アンタらの力、使わせて貰うっすよ!」

 

 叫ぶなりミッテルトは暴食の盃(グラード・グラトニー)を傾ける。黄金に輝く液体が宝玉に吸い込まれた瞬間、力強い輝きが宝玉から放たれた。

 

 

「倍化!」

 

 その声と共にミッテルトの力が二倍になる。この時になって二人の顔から余裕が完全に消え去った。三つ巴という本来のゲームでは有り得ない状況に対し二人は即座に協力態勢をとる。だが、遅過ぎた。

 

「もういっちょ倍化!」

 

 宙を華麗に舞うようにミッテルトは放たれる魔力を避け、盃で吸収し、負った傷は即座に癒す。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の所有者に必要不可欠なのは生存能力。だからこそ、オーフィスや黒歌に協力して貰って回避能力を・・・・・・・あっ。黒歌で思い出した。

 

 

(悪戯が過ぎるから媚薬投与して箱庭に閉じこめたままだった。食料も寝床も一応あるけど・・・・・・・アーサーにでも迎えに行って貰おう)

 

 

 

 

「あはははは! 今のウチは最上級堕天使一歩手前っすよ! そーれ!」

 

 ミッテルトの背後に無数の光の球が出現し、姫島朱乃とユーベールーナに殺到する。

 

 

 

『リアス・グレモリー様の女王(クィーン)一名 ライザー・フェニックス様の女王(クィーン)一名 リタイア』

 

 

 

 

「無敵無敵ぃ!」

 

 うん、頑張ったね。後で反動が来て体がガタガタになるだろうけど、今は少ない胸を張って喜んでいたら良いよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったらご褒美と・・・・・・・お仕置きかな?」

 

 成果は上げたけど、今回のプレゼンテーションに来ていない貴族の為に自分で使う力を言う必要があるとかの説明をしなきゃ駄目じゃないか。

 

 

「今回お見せしました複製神滅具ですが、量産のためには莫大な研究費用が必要です。是非ご支援のほどを・・・・・・・」

 

 さて、お仕置きだけど、どんな事をしようかな? ・・・・・・・最近Mっ気が出て来たし、並大抵の内容じゃ僕とミッテルトが楽しいしかメリット無いしなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、今回って一応リアス・グレモリー達が主役だったっけ? すっかり忘れてた。

 

「ジェノサイドスパイラルっ!!!」

 

 ロボットと言えばロマン武装。その一つはやっぱりドリルだろう。高速回転する事によってどんな強固な物質さえも貫き通す、正に男のロマン。僕だって好きだ。

 

 エンプティーの膝から突き出たドリルはライザー・フェニックスの妹であるレイヴェル・フェニックスの腹を貫き、再生のために現れた炎を血肉諸共周囲に巻き散らかし、背中のブースターから()()を放出して高速で飛んでいるので無理に逃れることも出来ない。

 

 不死の特性を持つフェニックスを倒す方法は魔王クラスの一撃か精神が磨り減るまでの波状攻撃。でもまぁ、外傷以外にも生物を殺す方法もあるし、ショーであるレーティングゲームじゃ無理な方法で良いのなら簡単だよね。

 

「このドリルには痛覚が増す呪いが込められている! 幾らフェニックスでも耐えられまい!!」

 

 膝のドリルでレイヴェル・フェニックスの腹を貫いたまま、エンプティーは校庭に急下降、衝撃で地面が割れて新校舎が傾いた。土煙が舞う中、エンプティーは高々に笑う。白目をむいて気を失っているレイヴェル・フェニックスが光に包まれて消えていた。

 

『ライザー・フェニックス様の『僧侶(ビショップ)』一名リタイア』

 

「さて、ドクター九龍の友人はどの武装で倒すべきか」

 

 エンプティーが最後に残ったイッセーにモノアイを向ける中、観覧席は騒然となっている。そりゃそうだ。まさかフェニックスがたった一撃でリタイアになったんだからさ。来ていたフェニックス卿なんか顔面蒼白だけど、ゲームに出る以上は仕方ないし、僕は悪くない。

 

 

 

 痛みを増す呪いを込めたドリルで肉を貫かれ内臓をかき回される。下手に再生する分、フェニックスにこそ有効な武装だね、うん。

 

 

 あっ、因みにもう片方の眷属は超高熱の有刺鉄線のような鞭『ペインウイップ』で皮膚を破り肉を引き裂いてリタイアに追い込んでいるよ。顔には残る傷を付けていない。

 

 

 

『Boost!』

 

イッセーの能力が倍化する。二人がやられている間も神器を発動させていた結果、二十秒も稼げたからね。うんうん、大したものだよ。逃げていたら真っ先にビームの餌食だったからね。

 

 

「ドラゴンショット!!」

 

 人数差のある戦いでは如何に自陣営の被害を抑えつつ敵陣営に損害を与えるかに勝敗がかかってくる。でも、この新校舎にたどり着いた時、既にイッセー側は三人しか居なかった。圧倒的不利なときに有効な手といえば不意打ちが思い浮かぶし、それはイッセーも同じだったんだ。だからリアス・グレモリーを待つ間、ジッとして倍化に努めていた。

 

 今の彼の能力は十三回ほどの倍化によって上級悪魔クラスに跳ね上がり、その全てをエンプティーに放つ。巨体を飲む込むほどの巨大な魔力でエンプティーの姿は見えなくなり、直進し続ける魔力は新校舎を破壊し、生徒会室に居たライザー・フェニックスが飛び出す中、魔力が消え去ってイッセーが元の力に戻ると目の前にいたのは無傷のエンプティーだった。

 

「んなっ!? 無傷かよ!?」

 

 驚くイッセー。そして今の魔力を見ていたライザーも驚いている。いや、妹が倒された時点で余裕が無くなった顔をしたけど、今は更に顔色が悪い。

 

 うん。サーゼクス・ルシファーも深刻そうな顔色だね。可愛い妹が嫌がる婚約をしなくちゃならないのが耐えられないんだろうね。だってイッセーはこの時点でリタイア確定だもん。

 

 身内を贔屓したがる気持ちは分かるし、僕だって贔屓する。でもさ……彼女だけが望まぬ形で結婚しなくてもいいって理由は欠片も無いんだぜ? 君の先祖も、他の貴族も代々そうして来たんだからさ。

 

「耐魔装甲! 今程度の魔力ならば傷一つ付かない!」

 

 正確に言うならば光力や聖剣などのオーラも今程度の出力なら耐え切れるんだけどね。流石に魔王級だと傷が付くけど、自己再生能力も与えているし、破壊するのは困難だ。

 

 

「どうだい? エンプティーは凄いだろ。あれ作るの苦労したんだ。……ん?」

 

 

 

「イッセー!」

 

 この時になって漸くリアス・グレモリーが到着。さて、此処からどうするか。王には攻撃しないってルールだし、今のイッセーを倒しても兵器の強さは伝わりにくい。……うん、アレだ。

 

 エンプティー、第二まで開放を許可する。君の強さを此奴らに示せ。

 

 

 

 

「了解、ドクター九龍。第一、第二魔力生成炉稼働。安全装置解除」

 

 エンプティーの体から光の柱が立ち上り、胸部に魔法陣が浮かび上がる。

 

 

 

「……ねぇ、魔力ってのは悪魔独自の力だけど、どうして量や質に個人差があると思う? 僕もそれが気になって、捕獲した奴らで解剖や実験を繰り返して漸く突き止めた。……心臓に魔力を造り出す機関に関わる場所が備わっているんだ。家によって魔力に特徴があるのは其処が違うんだよ」

 

「一族の特性を持たないで産まれた悪魔はその働きの異常みたいなものかい? 何らかの要素でその機関が上手く働かないとか」

 

 サーゼクス・ルシファーは年の離れた従兄弟、サイラオーグ・バアルを見る。ごく微小な魔力量の上に一族の特性である滅びの魔力を持たずに生まれてきた彼が気になるんだろうね。

 

「まっ、そんな所。……そして僕はそれを人工的に作り出し、エンプティーに搭載している。あと五年、五年以内に外部取り付け式の小型魔力生成炉を実用化の段階まで進めてみせる」

 

 実際は既に完成してるのは内緒。これで労せずに強大な魔力が手に入ると貴族達は投資をするだろうね。後は利権の関係で自分達が独占できれば今まで以上に力で下の者を押さえつけられる。それこそ、他の勢力に戦争を仕掛けてくれるかも知れない。

 

 オーフィスは悪魔に協力を求めたいけど、僕は上手く行くとは思っていない。精々グレートレッドの力を測る為の物差しになってくれよ?

 

 

 ……だけどまぁ、そんな貴族たちの行動を予測してかサーゼクス・ルシファーの表情は硬い。例え止められなくても、其の動きを遅くすることは出来るからね。ああ、セラフォルー・レヴィアタン程じゃないけど此奴も厄介だよ。

 

 

 そんな事を考えている間にエンプティーのチャージが完了する。三人が止める暇もなく胸部の魔法陣が輝き、上空目掛けて極大の魔力の波動が放たれた。

 

 

滅殺灰燼砲(めっさつかいじんほう)!!」

 

 僕が特に名前を付けておらず適当に超ビームと名付けている(こういう奥の手はあえて名前を付けないことで対策会議の時に即座に呼び方が決まらず嫌がらせになる)最終兵器の名前を高々と叫ぶエンプティーが放った緑の魔力は遙か上空まで進み、拡散、作られた空間を歪ませた。

 

 

「さて、このままではゲームが強制的に終わってしまう。最後はこれで締めるとしよう」

 

 ぐっと右の前部の腕をイッセー目掛けて突き出せば肘の辺りから激しい音が聞こえる。この時、この観覧席の殆どの者とライザー・フェニックス、そして今から其れを受けるイッセーが何が起きるかを直感で理解した。

 

 ほんの僅かだが心が踊ったことだろう。ロボットロマンの代表格を目の当たりにするのだから。

 

 

 

 

 

 

「ロケェェェェェトパァァァァァァァンチィィィィィィィィッ!!」

 

『キターーーーーーーー!』

 

 

 

 

 歓声が上がる。其れと同時にイッセーの身体が跳ね飛ばされた。……うん、まさか此所まで盛り上がるとは思わなかった。軽く引くね、正直。

 

 

 

「……(馬鹿ばっかだねぇ)

 

 おい、聞こえてるぞ、クロロ。猫被るならちゃんとしろ。

 

 

『リアス・グレモリー様の『兵士(ポーン)』一名リタイア』

 

 此所で眷属最後の一人がリタイアし、飛んでいったロケットパンチがエンプティーの腕に戻る。フィールドは超ビームによって崩壊を始め、最早まともにゲームが続けられる状態ではないだろうね。実際、後は仕切り直しで一騎打ちをするって流れになってるしさ。

 

 

 

 まあ今回のメインは僕の作品のプレゼンだし、用事が終わったから帰ろうと僕は席を立った。

 

「見ていかないのかい? 今からリアスの一騎打ちがあるけど」

 

「時間の無駄だよ。最初から分かっていただろ?」

 

 少し力がある程度の素人が十日やそこら頑張った程度で其れなりの実力のプロに勝てる筈がないって。プロになって活躍することを夢にしている奴への侮辱だよ、そんな甘い考えは。

 

 魔王級の一撃か絶え間ない攻撃なら勝てる。確かにそうだけど、可能性があるのと実際に出来るってのは別なんだし、どんなに強くても殺すことが出来れば勝てるって言ってるのと変わらないよ。

 

 

 

 この後、当然のようにライザー・フェニックスが勝って婚約は成立。僕も結婚式には呼ばれたけど興味がないから欠席することにした。

 

 

 そんなことよりも重要なことがある。黒歌の件だ。最初はアーサーに押し付けようと思ったんだけど、頼むなり嫌な顔をされた。

 

 

「嫌ですよ、馬鹿馬鹿しい。私は彼女に襲われたくないですからね」

 

「えー。良いじゃん。どうせ実家に残してきた恋人とはくっつけないんだしさ」

 

 このアーサーは実家で使用人と恋に落ちたんだけど、其れが発覚したら彼女が追い出されるからって家出をして、序でに強い相手と闘うためにテロリストになったらしい。妹のルフェイは兄を追って家を出たって話だ。

 

 ……あー、高い確率で近しい使用人は責任を問われるだろうね。教育係やらお付きのメイドとか。組織内では其れなりに話す方だからあえて黙っているけど気付いてるのかな? 其れにテロリストになったって知られたら下手すれば家にも……。

 

 

 

「大体、貴方は考え無しに他者を実験台にしすぎなのですよ。私もオカマ口調にされたり二時間に一回一発ギャグを言わされたり変なパンダに付きまとわれたり」

 

 最後のは僕は関係ないんだけど。ってか、パンダ?

 

「自分で行くかホムンクルスにお任せすればいいのでは? それかクロロさんとか」

 

「ホムンクルスは二十四時間フル稼働で働かせてるし、クロロには頼んでみたけど『いや、幾ら創造主様の頼みでも無理。尻ぬぐいとかあり得ない』って言われてね。後腐れ無く頼めそうなの君しか居ないんだ」

 

「嫌です」

 

 そう言うなりアーサーは去っていく。

 

 

 

 

 

 

「……仕方ない。クロロとの再戦を餌に彼奴に行って貰うか」

 

 丁度神器の破片も欲しいところだしね。僕がどうするか決まったので胸を撫で下ろすと不意に袖を引かれる。振り返ればミッテルトがモジモジしながら此方を見ていた。

 

 

 

「あ、あの……」

 

「トイレなら一人で行ってね」

 

「違うっすよ!? ご褒美っす、ご褒美!」

 

 ミッテルトは周囲を見渡し誰も居ないことを確かめると深呼吸を数度繰り返し、意を決した様子で言った。

 

 

 

 

「ダ、ダーリンって呼んで良いっすか?」

 

 え? どうしたかって? 拒否する理由がないし、勿論承諾してそのまま何時もの通り可愛がったけど?

 

 

 

 

 

 

 

 

「……其れで彼奴は何って?」

 

「構わないってさ。元々前に会った時から目を付けてたし序でに勧誘もするつもり」

 

「しゃーない。そういう話なら受けてあげるよ」

 

 うん、やっぱり持つべきは有能な部下だ。少し前に調査に出かけた時に闘った教会のポンコツコンビみたいのじゃなくって良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所で結婚式の前日に消えたライザー・フェニックスだけど、三日後にミイラになって発見されたそうだよ。物騒だし、創造主様も気を付けな」

 

「不死のフェニックスがミイラか。……遺体を解剖してみたいね」

 

 最近は大王家の方から興味深い物が送られてきたし、この世界は最高だよ、やっぱりね。

 

  有望な若手だったライザー・フェニックスの失踪からの変死というショッキングなニュースは冥界全土を騒がせ……る程では無かった。

 

 誰しも思ったんだ。犯人はリアス・グレモリーじゃないかってさ。だからあえて騒がれなかった。期待されていた魔王や公爵家との繋がりが帳消しになったフェニックス家の味方をした場合に得る利益よりも、不確定な話を騒ぎ立てて魔王や公爵家に睨まれるデメリットの方が大きいからだね。僕だって彼らの立場ならそうするよ。

 

 まぁ、其れは貴族の多くがリアス・グレモリーが黒幕だって思っているんだけど。……あのお嬢様にそんな知恵や繋がり有るのかな? ……もしかして浅からぬ仲のセラフォルー・レヴィアタンが何かしたとか。

 

 そんなことを考えて遅くまで起きていたからか、この日の僕は少し寝坊した。目覚まし時計を破壊し睡魔に身を任せようとした時、胸の上に何かが乗って顔をペチペチと叩かれるのを感じた。

 

「正義、起きる。我が起こしに来た」

 

「……うん」

 

 ムクリと起き上がるとオーフィスが掛け布団の上に少し雑に畳んだ着替えを置いてくれる。昔は自分の服にさえ無頓着だった事を考えると進歩したよね。

 

「今日の朝ご飯、何?」

 

「フレンチトースト。オーフィスが好きなバターも蜂蜜もタップリで、飲み物はアイスミルクティー」

 

次元の狭間にしか興味がなさそうなオーフィスではあるけれど、僕や一部の相手、そして美味しい食べ物には興味がある。あまり変わりすぎると取り戻した後で次元の狭間に影響が出るから偶に僕が体を調整しているんだ。いや、流石に無限龍の体を解析した上で手を加えるのは毎回大変だよ。

 

「我、今日はココアの気分」

 

「分かったよ。煎れる」

 

 僅かだけど後ろ姿を見れば喜んでいるのが分かる。……少し懐かしいな。僕の実家で暮らしだした頃、食べ物のお礼がしたいって言われたっけ。

 

「ねぇ、オーフィス。僕が初めてしたお願い覚えてる?」

 

「我、忘れない。正義、家族が欲しいって言った。だから我、親になった」

 

 まぁ最初は親になるって言ったのは良いけど、親ってのがどんな物か分からないからって無茶苦茶してたよね。落語でご隠居の話を聞いて真似をしたがった八っつぁんが状況が違うのにそのまま押し通そうとするみたいにさ。

 

 でも、知らない事は知ればいい。補い合うのが家族だもん。

 

「うんうん、そうだね。じゃあ、急いで作るからお皿出していてよ」

 

 オーフィスは分かったって言いながら食器棚に向かっていく。さて、偶にスープ皿を持ってくるから注意しておかないとね。

 

 

 

 

 

 

「正義。ミッテルトは?」

 

「感度上げて目隠し拘束の放置プレ……実験の途中。朝ご飯が出来たら呼んでくるよ」

 

 

 

 

 

 

 この日のお昼、僕はたまにはと松田達とお昼を食べていた。ミッテルトは友達と学食に行ってるし、イッセーはアーシア……まぁそれなりに仲が良くなったしさん付けで良いか。アーシアさんと何時もの様に二人でお昼だ。いや、何時もの様にというのは語弊があるか。

 

 

「畜生。九龍は兎も角奴に先を越されるとは」

 

「事故で怪我をして看病から告白に繋がるとは……どこのラブコメだ!」

 

 そう。あの二人、付き合う事になったんだ。エンプティーのロケットパンチを食らったイッセーはそれなりの怪我を負ったんだけど、その治療中にいい雰囲気になったから思い切って告白したってアーシアさんが言ってた。

 

 ……ディオドラの奴はどうするんだろう? 舞台を盛り上げて手に入れる気だったらしいけど、恋人出来ちゃったよ、ざまぁ。ぶっちゃけ、今の僕も繋がりが大きいから彼奴一人が協力しなくてもあまり支障がないんだよね。シャルバ・ベルゼブブ達も僕の邪魔にならないようにと僕の事は話してないしさ。

 

 彼奴、計画性もなさそうだし始末しようかな?

 

 

「まぁ、これを機にイッセーを覗きに誘うのは辞めなよ? 唯でさえ転校時に彼奴と仲が良いって事で、あのイッセーで良いなら俺でもって告白する奴が居たんだし」

 

 つまりは男なら誰でも良いって思われてたって事で、これでイッセーが変態行為を続ければアーシアさんは悪趣味のビッチと噂されかねない。

 

 その辺を伝えると二人は頷いた。

 

「まぁイッセーなら変な噂されても大丈夫だけどあの子はな……」

 

「イッセーだけなら悪評流すけど、アーシアさんまで巻き込まれるのはな」

 

 僕が言うのもなんだけど、この二人って本当に友達なのかなぁ?

 

 

 

 

 

「あの二人、横から見ていてる方が恥ずかしいくらい甘酸っぱい空気醸し出しているっすよ、ダーリン」

 

「あの煩悩だけで生きてそうなイッセーが意外だよね。っと、その聖剣はこっちの棚に飾って。核は抜いているとは言え行方不明の七本目だからさ」

 

 僕にだって趣味はある。最近はミッテルトへの堕天防止の実験が主だけど、収集癖だってあるのだ。集めるのは世界各地の武器防具、当然何らかの力を宿している物ばかり。他の趣味である研究の対象でもあるから、多めに用意した棚には空欄が目立つ。この前も結構使っちゃったからなぁ。

 

 ミッテルトが聖剣を飾った棚に鍵を掛け、次に魔剣に付着した埃を拭き取る。さて、バアル家に頼まれた複製神滅具だけど、普通に同じものを作ったんじゃ芸がないし、何にしようかと悩んでいると、ミッテルトの動きが止まる。指を絡み合わせ何かを期待しているかのような表情だ。

 

 

 

 よし、無視しよう!

 

 

 

 

「あ、あの、ダーリン? ウチ、こうして仕事サボってるし……」

 

「疲れてるの? なら休んでいて良いよ。これは僕の趣味だしさ。クルゼレイさんに貰ったお菓子が有るからオーフィスと先にお茶にしてて」

 

 旧魔王の一人であるクルゼレイ・アスモデウスは他の奴には相変わらずの高飛車な態度なのに、僕に対しては何故か親しげだ。媚を売るとかするタイプじゃないし、油断させようって意図も感じない。何かしたのかって恋人のカテレア・レヴィアタンに問い詰められたぐらいだ。

 

 さて、ミッテルトだけど僕の予想っていうか赤らんだ顔からして何を期待しているのかは一目瞭然だ。特に昨晩から今朝にかけて何時もヤってる事をしてないし、欲望の強い堕天使として生きてきたから堪えるんだろうね。でも翼は点滅しない。

 

 あれ? 少し思ったんだけど禁欲的な生活をしてきた天使が堕天の危険がなくなったからって欲望に走ったら碌でもない事になるんじゃ? 下手に遊び慣れてないだけにさ……良いね。邪魔者の統率が乱れるのは結構だ。

 

「もー! そうじゃないっすよね。ってか、他の旧魔王には辛辣なのにどうして彼奴には普通に接するんっすか? 向こうも何となく親しみを持ってるみたいっすけど」

 

「さあ? 僕も向こうも何となく親しみを感じてるんだ。どうしてだろう?」

 

 オーフィスを利用する気だけの奴なんて敵のはずなのにさ。誰かに何かされたのかなぁ。でも、それならオーフィスが気付きそうなもんだし。

 

 顎に手を当てて考えていると足元に服が脱ぎ捨てられる。上着もスカートもで、下着にはまだ手を掛けていない。僕は脱がすよりも脱ぐ所を眺める派だと知っているからだろうね

 

 

 

 

「て、天使が聖剣の近くでこういう事するのも背徳的っすよね?」

 

 ミッテルトは聖剣の棚に背を預け、右手の指先をブラに引っ掛けて少しずらし、左手を誘うようにこっちに伸ばす。あまり成熟してるとは言えない体型だけど淫靡だった。

 

「ああ、成る程。そういう口実で虐めて欲しいんだね?」

 

 仕方ないなぁ。今日は夜まで焦らす積もりだったんだけど、計画に固執するのも良くないし。僕が右手の拳を数度開閉すると肘から先が変化する。ウネウネ蠢く伸縮自在の無数の触手。ヌメヌメと湿っていて自分の体ながら気持ちが悪い。

 

 

「うげっ!? それはちょっと……」

 

「これはお仕置き兼何れ程欲に溺れれば堕天するかの実験だし拒否権はないよ? 言いだしっぺは君だ」

 

 さて、オーフィスがお菓子が待ち遠しくて顔を見せに来る前に終わらせなきゃね。

 

 

 

「んにゃぁあああああああああっ!?」

 

 あー良い声。苛めがいがあるなぁ。

 

 

 

 

 結果、夢中になってたら終わらなくってオーフィスが来ちゃった。うん。適当に誤魔化したけど信じるオーフィスが少し心配だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世の何処とも知れぬ場所。僕が存在を知る由もないその場所で会合が行われていた。集まったのは四人。ただし、上座にある一番豪華な席を含めて空席が幾つかあって、座る奴らにも協調性が存在しなかった。

 

 

「今日はどんな集まりだっけ? 千年ほど寝る予定だったんだけど?」

 

ルービックキューブから目を逸らさずに発言したのは幼い子供。少年とも少女とも判断がつかない其奴は今にも眠りそうな寝ぼけ顔だ。だけど他の奴らに其れを注意する気はないようだ。諦めているというよりも興味がないって感じかな?

 

 

「じゃあ近況報告会開始ね! 私は特になーし! オジ様達は相変わらず仲が悪いみたい!」

 

「あれは脳筋が一方的に嫌ってるだけでは? 詰まらない理由で赤白の事も嫌っていましたしね」

 

「……ふぁ。そんな近況報告なら欠席するんだったよ。何人か欠席してるしさ」

 

 元気良く手を挙げて発言したのは頭の足りなさそうな少女。それに反応したのは理知的なメガネの青年だ。そしてさっきの奴は半分寝かけている。

 

 

 そんな空気を破ったのは最後の一人。軍服を身に纏った眼帯の女だった。

 

 

 

 

 

「奥様が目覚めていた事が発覚した。此方に合流せぬ意図は分からぬが……これで我らが主が復活なさる日も近いやもしれん。各自、己が職務を全うせよ。……以上」

 

 瞬時、四人の姿が消える。そしてこれから数日後、世界中で災害が多発しだした……。

 


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