発掘倉庫   作:ケツアゴ

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 ウチの一日は少し前に比べたら平和なもんになったっす。……テロリストになったのに平和になったとはこれ如何に。

 

 まず、朝起きたら正義と一緒にお風呂に入って、まぁ色々な物を落とす。その際、少しだけ……それなりに晩の続きをするんだから我ながら爛れているとは思うっす。最初はハニトラの積もりだったんっすけどねぇ。ウチ達堕天使は誘惑も仕事の内だし、体もそれ用に成長しやすい。だから知識はあったんっすけど、冷戦状態の今じゃ余計なイザコザを避ける為にって上の方針でそういう仕事が回ってこなかったので知識だけっすけど。

 

 いや、彼奴だって知識だけなのになんでウチが一方的に落とされるんっすかねぇ。もしかしたらそっちの方面に特化した何かの血でも引いてるんじゃないかって聞いたら、母親に関しては父親が記録を徹底的に破棄したから分からないし、あまりに色々混ざってるキメラなので自分の腕を切り落としたり心臓を取り出して調べてもよく分からない、だそうっす。

 

 ……うん。ウチ、彼奴に惚れちゃったっす。好きだって言って貰えて、夜は楽しくって、手や頬に触れて貰えたら嬉しい。小っ恥ずかしいから言わないけど。……夜、事の最中に叫んでる気がするけど記憶が飛んでるからノーカンっすよね?

 

 学校は……楽しいっすね。人間の娯楽は好きな方だったし、勉強は面倒だけど知識が増えるには悪い気はしないし、ウチって美少女だからチヤホヤされて楽しいっす。あっ、アーシアとはそれなりに上手く行ってるっす。彼奴、お人よし過ぎないっすか? 因みに殺そうとした事は言ってるのに。……変な奴。調子狂うっすよ。

 

 まぁだリアス・グレモリーにはすれ違いざまに睨まれるっすけど。こっちが普通っす。

 

 学校帰り、日常生活も実験の内だからって寄り道……デートして、たまに他の友達と遊んで帰ったらアジトに転移。機材で体を調べたり、神器の適合訓練をしたりと少し大変っす。

 

 んで、夜は……まぁ天使が堕天使になる理由のそれなりを占める性欲に関する実験。淫欲に溺れて奉仕したり奉仕されたり、何度も何度も気持ち良くして貰って、もう元の生活には戻れないっすよね。まぁ未だその時じゃないからって初めてを貰って貰えないけど。

 

 

 

 

 

 

「そりゃ殺されてたっすね。いや、グレモリーは情愛深いらしいっすから(タマ)取られずに(タマ)取られるだけで済んだかもしれないっすけど」

 

 何か昨日、リアス・グレモリーがイッセーを誘惑して婚約を破談にしようとしたらしい。いや、そんな事したら口封じとかで此奴が殺されるし、本人も自由を減らす事に成りかねないって。結婚する際にも下級悪魔相手に純潔を散らしたとあっちゃ、どんな条件要求されるやら。少なくてもウチが親ならガチガチに監視を付ける。

 

 抑も婚約破棄に繋がるくらいには欲望に忠実な悪魔にとっても大切な物っすよね? 短絡的すぎるっすよ。

 

 それにしても今日の弁当のサンドイッチは美味いっす。魔術で手を加えた空間でホムンクルスに栽培させた新鮮野菜にミノタウロスのローストビーフが具っすけど、朝早くからオーフィスが手伝っていたのには驚いたっすよ。親だから、って言われてダーリン泣いてた。

 

「タマじゃなくてタマ、ですか? あの、どういう違いが?」

 

 あっ、アーシアは分かっていないっぽい。命と玉、どっちも言葉ではタマっすからね。イッセーは理解したのか股間を押さえて青ざめてる。そりゃリアス・グレモリーは綺麗だけど、その一回で抜かれたらねぇ。

 

 さて、其れはそうとしてアーシアにどう教えるか。うん! 此所は面白さ優先でっ!

 

「……つまりさぁ」

 

「はぅ!?」

 

 ゴニョゴニョと耳打ちすれば真っ赤になるアーシア。あー、駄目だ。こりゃ癖になりそうっすね。こういう純粋無垢な奴に性的知識を教えるのってさ。

 

 

「なぁ九龍。部長って俺達の事を可愛がってはくれるけど……ペットみたいなもんなのかな?」

 

「でしょう。強い力を持つ眷属ってのは珍獣のペットや貴重なコレクターズアイテムって認識が殆どだもん。あっ、僕が言っていた事は秘密ね。自覚無いっぽいし五月蝿そうだから」

 

 うわっ、キッツ。イッセーの悩みにど直球だよ。でもまぁ、あれは飼い主に近いっすよねぇ。其れも可愛い可愛いって言いながら必要以上に餌を与えたりするタイプのね。契約を取った褒美に胸を触らせてくれたらしいけど、それって男として意識してないって事だろうし。下々の者なんて動物と同じって所っすかね?

 

「……そっか。やっぱそう見えるのか」

 

「あ、あの……」

 

 あからさまに落ち込んだイッセーにアーシアはどう励ますか慌てている。うーん。励ます言葉が見当たらない。にしても信用低いっすね。まぁレイナーレ様に殺されて復活させて貰ったとかじゃないし、付き合いがずっと長い友達の方を信用してもおかしくないっすか。

 

 

 

「……別に其れで良いんじゃない? 元々後ろ盾が欲しくて近付いたんだし。イッセーは自分自身が守りたいって思える人を見付ければ良いよ。その人の為に頑張れば? 家族は当然としてね。そう言う相手は原動力になるよ? 主はその為に必要な存在って割り切りなよ」

 

 最後に、僕にとってのミッテルトみたいにさ、と言いながら肩を抱き寄せられる。……あー、駄目だ。今のウチ、顔が真っ赤だわ。

 

 

 

「……うん、そうだよな! 家族とか、まだ出来ていない本当の彼女とか、そう言った人の為に頑張るよ。どうせ上の方の難しい話なんて俺には分からねぇし! ……今の俺にはな。勉強しなきゃ」

 

「うん、君は馬鹿なんだから難しい事は考えない方が良いって。でもまぁ、一度もデートもした事のない君じゃ恋人が出来ても不安でしょ?」

 

「う、うるせぇ! リア充のお前と一緒にすんなっ!」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、放課後ダブルデートでもする? 試しにアーシアさんでも連れてさ」

 

「は、はい! 私、イッセーさんとデートしたいです!」

 

 うんうん。少しだけど前進したっすね、アーシア。ウチも安心っすよ。手を挙げて勢いよく立ち上がったアーシアを眺めながらウチは保護者みたいなことを考えていた。

 

 

 

 因みにイッセーは照れてた。これはくっつくのも時間の問題っすかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、愛しのリアス」

 

 最近、予定されていた婚約が早まった俺は其の相手であるリアスの所まで転移した。正直言って人間の世界の風は嫌い……()()()。だが、あの人がこの世界に居るのなら話は別だ。同じ空気を吸っているだけで気持ちが良いからな!

 

「お茶です」

 

 どうも俺は嫌われているらしくリアスの女王(クィーン)も目が笑っていない。はっ! あの人との逢瀬の為にも、もっと上の地位が必要なんだ。邪魔をするなよ、リアス。

 

 怪しまれないようにと俺はあの人と会う前の俺らしく女誑しの三男坊を演じる。正直言ってあの身体で味わう快楽を知った今じゃ眷属を抱いても詰まらない。あれ程欲しかったリアスさえもどうでも良いと思う。ああ、早く抱きたい。叶うならばあの人を独占したい。あの人相手の腹上死なら大歓迎だぜ。

 

 

 

 

「いい加減にして! 私は貴方と結婚する気はないわ!」

 

「おいおい、純血悪魔は其の血を残す義務がある。この結婚は必要なことなんだ」

 

 次期次期当主であるリアスの甥っ子は魔王の有力候補だし、支持する貴族も多い。つまり、其の子どもが産まれるまでは入り婿の俺が使える権力が大きいって事だ。

 

 ……にしても面倒臭ぇ。こりゃ結婚しても尻に敷かれるだけだな。その辺考えなきゃいけないが……。

 

 

 腹の中では冷め切ったとは正反対にリアスはどんどん熱くなり、俺もフェニックスの一人として黙っているのは不自然な状況に発展する。……ちっ!! 公爵は娘にどんな躾けしてんだ!

 

 

 俺も負けじとヒートアップした振りをした時、現ルシファーでありリアスの兄のサーゼクス・ルシファーの女王であるグレイフィア様が割って入る。

 

 

「流石に此所から先は見過ごせません。双方矛をお鎮め下さい。……こんな事になると当主様方も予想し、一つの案を出していらっしゃいます。レーティング・ゲームでお決め下さい」

 

「お父様達はとことん私の生き方を決めようって言うのね」

 

 いや、散々公爵家の権力や財力を使って、更には貴族の学校にも通っていないくせに何を言ってるんだ、この我が儘娘は? お前が構築しなかった他の領地との関係や学ばなかった事のツケは婿入りした俺が払うってのによ。

 

 

 

 あの人に会いたい。あの人の肉体に溺れたいと、其れだけを考えながらも俺は必死に演技を続け、双方の合意と相成った。

 

 だが、此所で予想外の事態に突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此所で補足事項が御座います。今回のゲームですが、只のゲームでは詰まらないとして九龍様の作品のお披露目会も同時に行うことに成っています。あの方側の選手は第三勢力としお二方の妨害をしたら面白いのではないかとサーゼクス様の提案が御座いまして」

 

 

 ……はあ!? 何考えて居るんだ、あのシスコン魔王!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと言う訳で、イッセー達に与えられた十日間の訓練期間の後でレーティング・ゲームに出てよ。僕は助手と一緒に見学するからさ」

 

「はあっ!? いや、何其れ急過ぎるっすよっ!?」

 

「大丈夫大丈夫。もう一人……一体も一緒に出るし。あっ、そうだ。活躍したらご褒美あげるよ。何が良いか決めて置いて。……遠慮は要らない。全力で闘ってね。其れだけの力はあげたからさ」 傲慢な悪魔が妾腹とはいえ、繋がりの為に子を差し出そうとする程に天才な僕、大切な事だからもう一度、天才な僕でも造魔を作るのは一苦労だ。

 

 まず、核となる悪魔の駒を用意する。次に魔獣等の生物のパーツと共に特殊溶液の混合液に入れ、最後に起爆剤替わりに何らかのアイテムを入れるんだけど、混合液の割合が小数点5桁の違いやパーツやアイテムの相性で生まれてくる奴の能力に差が出てくる。

 

 尚、最悪の場合はパーツやアイテムが無駄になるんだ。……クロウクルワッハの爪と最上級死神の鎌が無駄になった時は意識が飛んだよ。心配したオーフィスに少し怒られた。

 

 

 そして、今僕の目の前で混合液に入れられているのは今までで最上級の素材。古代メソポタミアの都市ウルクを滅ぼす為に女神イシュタルが放った天の牛(グアンナ)の角の欠片と玉手箱。そして駒は女王(クィーン)。あー、これで失敗したらまた意識飛ぶかも。闇オークションで何とか手に入れた一品だからね。

 

「数値安定しています」

 

「合成開始しました。完了までおよそ十秒……数値が振り切ったっ!?」

 

 研究員用ホムンクルスが騒ぐ中、カポセルの中で混合液が沸騰する。やがて目も眩むほどに発光し、光が収まるとカプセルの中には赤い結晶だけが残っていた。

 

 

「……成功だ! はははは! これは最高傑作ができたよ。少し自由を与えてやろうか。うん! 此処まで優秀ならそっちの方が良い」

 

 結晶を拾い上げると触手の様な物が伸びてきて僕の頭に触れる。そして脳内に直接語りかけてきた。

 

『創造主様、どんな姿になれば良い?』

 

 僕が答えると結晶はイメージを読み取り、その姿へと変わっていく。……うん。自由を与えたし、番号で呼ぶ他のとは違って名前を与えよう。さて、どんな名前が良いかな?

 

 

 

 

 

 

 

「グレモリー所有の別荘で合宿か。トレーナーとかは……無理か。流石に其処まで寛容じゃないだろうし、グレモリー先輩が依頼するにしても、グレモリーとフェニックスの両家を敵に回す事になるもん」

 

 トレーニングってのは我武者羅にやれば良いわけじゃない。その為にスポーツ医学があって、トレーナーって職業が有るんだ。根性論なんて古臭いよ。ちゃんとして指導者による研究に基づいたトレーニングこそが一番さ。

 

「じゃあアーシアは家で居残りっすね」

 

「……はい。部長はこの機に悪魔に成らないかって誘ってくださったのですが、どうしても踏ん切りが……」

 

 落ち込むアーシア・アルジェントだけど、悪魔になる事の教徒としてのデメリットは大きいからね。まず、聖水や十字架に触れたらダメージ。聖書を読んだり祈ったらダメージ。ミサにも出席出来ないし、将来子供が出来たととしても教会で祝福を受ける儀式も受けさせられない。天使や悪魔祓い、神父やシスターとも敵対。

 

 まぁ学歴も職歴も住処も身内も充分な蓄えも着替えも社会常識もロクにない状態で追放されたんだから敵対しても良いと思うけど、信仰を捨てられないから無理だろうね。……っていうか改めて思い出すど酷いな。こんなのよほど親切な相手に会わない限り野垂れ死ぬか体を売るかしかないじゃんか。……実際、堕天使に騙されて神器を奪われる所だったし。

 

 いや、よく信仰を続けられるね、この子。……神なんて既に死んでるけど、赤穂浪士が忠義を貫いたように、死を知っても信仰を続けそうだよ。

 

 

「イッセーさんが無理強いは良くないって反対して下さって、取り敢えず保留に成りましたけど……」

 

「別に良いんじゃない? 確かに学校に通わせて貰ってるけど、その分癒しの力で貢献すれば良いし、家はイッセーの所にホームステイしてる訳だしさ」

 

「其れはそうとアーシアって出掛けるイッセーにキスしちゃったそうっすよ」

 

「ミ、ミッテルトさん!? あれは事故だって言ったじゃないですか! 貴女が応援の為にほっぺにチューしたら良いって昨日アドバイスするから……うぅ」

 

 此れはくっつくのも間近だと思いつつもディオドラの件があるから一筋縄では上手く行かないとも想う、そこまで世話するのもアレだし、知った事じゃないけどさ。

 

 

 

 そしてゲーム当日までの十日間、二人とお昼を食べたり、ミッテルトとデートしたり、ミッテルトに裸エプロン着せたり、チャイナドレス着せたり、スクール水着着せたり、メイド服着せたり、ついでに女教師の格好させたけど似合ってなかったり、ベヒモスのクローンが完成したり、其れをサイボーグにしたり、魔神丸を量産したり、オーフィスとお昼寝したり遊びに行ったり、助手からとある堕天使の血液を受け取ったりして有意義に過ごした。

 

 

 

 

 そして十日後、僕はゲームを観戦すべく観戦用の貴賓室までやって来た。両家に関係する貴族が集まって使用人達が手早くながら優雅に動いている中、僕の姿を見るなり近付いて来た悪魔が居た。

 

 

「ドクター! ドクター九龍、お久しぶりです!」

 

「やぁ、サイラオーグさん」

 

 彼の名はサイラオーグ・バアル。貴族の中で最も身分が高い大王家の次期当主。そんな彼が真っ先に僕に挨拶して来たかというと、僕が悪魔に近づく為に創り出したのは眠りの病の初期治療薬だけど、彼の母親は重度だから意味がない。だから僕が重度の治療薬を完成させるのに期待しているって訳だ。

 

 まぁ後は造魔に興味を示している貴族達の相手を適当にして席へと向かう。隣には魔王であるサーゼクスが居たけど、これは僕への期待を示している。其れ程重要ってことさ。

 

 

「ルシファー様、久しぶり」

 

「うん。久しぶりだね。……君は今回のゲーム、どちらが勝つと思うかい?」

 

「ライザー・フェニックスの勝率は九割以上かな? 難しいけど妹さんが勝つ方法もあるけどさ」

 

 イッセーが譲渡を使えるようになっていたら、最大まで倍化して王か女王に譲渡。全力の魔力を叩き込んで、さらにダメ押しで残った方が最大の一撃。ただし、外したら終わりだし、最低でもイッセーとリアス・グレモリーの消耗を最低限に抑えてライザー・フェニックスの所まで向かう必要がある。

 

 つまり理想としては残りの三人で十五人を相手して姫島朱乃がある程度の余裕を残す事が必要。ライザーの炎を防ぐ為には木場祐斗が冷気を放つ魔剣を作って同時に冷気の魔力を放つ位じゃなきゃ。障壁張れるの、つまり盾役に成れるのがやられたら負けのリアス・グレモリーだけってのが痛いね。

 

 理論上は可能だけど実際には無理な机上の空論って奴だ。はい、負け決定。イッセーが暴走して覇龍を使うか奇跡が起きて禁手に至った上に隠された力が覚醒するでもしないと無理。……彼女達が嫌がってる力を使えばワンチャンあるかな? セラピーでも受けて立ち直ってりゃ使ったかもね。

 

 

 

「あははは。手厳しいね。……じゃあ、君の部下が勝利の鍵かな?」

 

 あっ、うん。僕の説明を聞いて笑ってるけど、ミッテルト達が情から妹に有利に動くのを期待してるのかな? 建前は娯楽の為って聞いてるけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ誰が相手でも容赦なく叩き潰せって言ってるし、今回のルール上、王とは戦わないけど他は全部倒すくらいの力は与えてるよ」

 

 ……馬鹿が。僕はお前なんかに踊らされたりしない。利用するのはこっちの方だ。……今回は趣味の品ばかりだけどね。「レーティング・ゲーム? 軍事パレードの役割を持つプロレスだよ。堕天使に密かなファンが居るらしいね。……まあ公爵家の次期当主で魔王の妹ならそこそこ上に行けるんじゃない?」

 

 悪魔について勉強中の俺はゲームについて九龍に尋ねたんだけど、悪魔社会での盛り上がりとは正反対に冷めた口調だった。

 

 曰く、貴族同士の試合だから家の関係が勝敗に関係するし、上層部の意向も反映される。抑も民衆に力を示す為の物で、堅実で地味な戦いよりも魅せる派手な戦い方の方が評価が高くなる。要はお偉いさんに気に入られる奴が良い評価を貰えるんだとよ。なんか色々聞いてると利権が絡むから其れ程夢がある物じゃないらしい。結局、政治的駆け引きが大切だそうだ。部長なら上に行けるってのは……そういう事なんだな。上からすれば活躍は都合が良いから。

 

 政治的駆け引きとか良く分からねぇし、冷静に考えれば無理に眷属にするでもしなけりゃハーレムメンバーを眷属という形で集める必要はないんだよなぁ。俺を好きって子を集めれば良いんだしさ。強さが格好良さな悪魔なら強さを示せばモテるらしいし……。

 

 でもなぁ、ハーレムは抜きにしても出世したいよなぁ。悪魔って出生率が異様に低くて、不妊治療とか試しても百年掛かる例もあるそうだし、両親に孫の顔を見せてやれないかもしれない。だから少しでも出世して良い思いをさせてやりたい。其れくらいしか親孝行が出来そうにないし……。

 

 

 其れはそうとして……今はアーシアの方が重要だ。合宿に行く前、キスされた。いや、応援替わりにほっぺにしようとして失敗したらしいけど……幾ら世間知らずでも友達程度にしないよな、普通。言葉の方は九龍が提供してくれた道具(有料)で学んで、今は日本の常識を頑張って覚えているし……。

 

 やっぱ、好かれてるのかな、俺? そうなら嬉しいと思う。やっぱ年頃だしエロい事に興味津々だけど、同年代の美少女との甘酸っぱい青春に興味がないわけじゃないしさ。でも、そうなのかって聞いて違ったら気不味いよな。家にホームステイしてるから毎日顔を合わせるし。

 

 

 ……うん。逃げちゃ駄目だよな。でも、今は切っ掛けが欲しい……。

 

 

 

 

 

 

 

洋服崩壊(ドレスブレイク)!!」

 

 ゲームの舞台は駒王学園をコピーした空間。互いの拠点の中間にある体育館ではイッセーと塔城小猫がライザー・フェニックスの兵士三人と戦車一人と戦っていた。

 

 ……う〜ん。イッセーの神器が鍵だって分かってるはずだよね? 自分達も魔力を全力で放ったら疲れるし連発は出来ないって位理解してるはずだし、神器を使った際の継続戦闘力を試してないのかな? ……馬鹿だねぇ。無理に本来の数十数百倍の力を出すってのが体に何れ程負担を掛けているか想像しないのかよ。まさか。極めれば神も殺せる道具って話だしノーリスクよね、とでも思ってた?

 

 

「……馬鹿だねぇ」

 

 因みにこの言葉は我が儘姫とイッセーに向けて放った物だ。画面には十日間必死に頑張って女の子の服を破壊する技を誇っているイッセーの姿が映り、多くの貴族が唖然としていた。僕だって唖然とするよ!

 

「あははは! 彼、面白いね。君の友達だろ?」

 

サーゼクス・ルシファーは笑っているよ。奥さんの目が冷たいのに気付いてる?

 

「今は友達とは思いたくないよ」

 

 ……にしても無理に脱がして何が面白いんだろう? 焦らすようにしたり、羞恥心を感じながら一枚一枚脱いでいく姿の方が良いだろうに。瞬時に全裸にするなんて面白くもない。……彼とは性癖に関しては分かり合えなさそうだ。

 

 

「まっ、品性は兎も角、装備を奪う技ってのは有効なんじゃない? 後は鎧とか頑丈な防具や神器にも有効かどうか。動きを止める効果もあの通り。……お前はどう思う、助手?」

 

 

「大衆向けの娯楽としての面からすれば一定の需要はあると思われます、創造主様。……ですが数を重ねれば飽きられるし度を越せば引かれます。下ネタばかり連発する芸人と同じでしょう」

 

 彼女が口を開いた途端に唖然としていた貴族達、正確にはその中の男性陣が注目する。もう彼らの注目はコイツにしか集まっていない。闇夜の様な黒の長髪に月明かりの様に輝く瞳。美という言葉が人の姿をとったと言うべき美貌。純白のドレスの露出は多く、其処に魅惑を感じているんだろうね。

 

 名をクロロ。製造番号九百六十六番、故にクロロ。僕が初めて名を与えた作品だ。因みに名前じゃなくって役職で呼んでいるのは名を付けた時、そのままですね、と言われたから。この大人しそうな態度は演技である。うん! さすがは僕の最高傑作。演技も中々だ。

 

(あっ、自画自賛してる顔)

 

 

 

「さて、そろそろ試合が動くかな?」

 

 体育館では服を失って蹲っているのが三人、拳を受けて動けないのが一人。……それにしても連携とかしてなかったな。いや、これからするのかもしれないけど。まさか僅か十日間で強くなる肉体トレーニングばかりして、連携とかを初めとした勝つ為の訓練をしてない訳ないし。

 

「うん。そろそろ動く頃合だね。……僕の手駒がさ」

 

 ・・・・・・・其れにしてもイッセー張り切ってるな。悪魔社会で出世なんて目指さないで良いように色々教えたのにさ。君の力は負担が大きすぎるから、出番の少ない下っ端のまま安寧に過ごすのが一番だよ?

 

 

 

 

 

 

「予定通り! そろそろ朱乃さんが……」

 

 イッセー先輩が最低な技で三人の動きを封じ、私が一人を叩きのめすなり体育館を脱出。此処は重要拠点……故にこの作戦は相手の裏を掛ける。

 

 

「お二人共ご苦労様ですわ。では仕上げです!!」

 

 

 体育館上空で待機した朱乃先輩が溜めた魔力を放ち特大の雷撃を放つ。それで体育館は完全に破壊……其のはずだった。

 

 体育館に落ちる寸前、朱乃先輩の雷の魔力は大きく軌道を変えて飛んでいく。その先に居たのはミッテルトさん。彼女が持った盃に吸い込まれるようにして全力の雷の魔力は消え失せました。

 

 

「……あら、何の真似かしら? 元堕天使さん?」

 

「いや、ウチは両チームの敵っすから。雇い主の意向通り、作品のお披露目に全力を尽くすだけっすよ」

 

 堕天使に対する憎悪が込められた声に動じる様子もないミッテルトさんはヘラヘラ笑いながら盃を揺らす。アレが恐らく作品とやらでしょうが、他にも驚くべきことが。確かに下級堕天使だった彼女の背中の羽。天使の純白の羽になってるのは知っていましたが、数が増えて四枚になっていました。

 

 

 

「これっすか? 体を弄って強化して貰ったんっすよ。強い力はお手軽に、欲しい力はお気軽に、其れがあの人の売り文句っす。っと、まだ使い慣れてないから失敗したっすね」 

 

 

 見れば僅かに電撃で負った火傷跡が有る。でも、緑の光に包まれると即座に修復しました。アレはアーシア先輩と同じ・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「今回ウチが渡されたのは三つ。オークションで手に入れた『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』。そして人工神器『暴食の盃(グラード・グラトニー)』、最後は・・・・・・・後のお楽しみっす」

 

「随分余裕ね!」

 

 指を三本立てて説明する姿を挑発と取ったのか朱乃先輩は激しい口調で再び雷を放ち、背後に迫った爆炎共々、再び盃に吸い込まれる。アレはライザーの女王!?

 

 

 

 

 

「んー。役者は揃ったっすね。じゃあ・・・・・・・蹂躙を開始するっす!」

 

 二人の魔力の威力は恐らく上級悪魔に匹敵する。なのにあの余裕は一体・・・・・・・。私が底知れぬ不安を感じた時、突如地響きが起き部室棟の方面から煙が上がります。彼処は祐斗先輩が向かった方向のはず。・・・・・・・まさか先輩に何か!?

 

 

 

 

 

『リアス・グレモリー様の『騎士(ナイト)』一名 ライザー・フェニックス様の『兵士(ポーン)』三名リタイア』

 

 流れたアナウンスは無情にも私の不安が正解だと告げていました。

 「ねぇ、ミッテルト。強化案だけど、サイボーグとキメラと魂レベルの改造と新しい肉体に魂を移植するの、どれが良い?」

 

「ロクでもねぇ選択肢ばっかっすね!?」

 

 正直言ってダーリンは頭の良い馬鹿だと思う。後、ナチュラルで外道。頭に浮かんだ案を試しているだけであえて非道な手を使おうとしている訳じゃないけど、浮かぶのがアレな内容ばっかなんっすからさ。

 

 でも、好きっす。大好きっす。

 

 黒歌とははぁまぁ仲良くやってる……そういや最近見かけないけど、何処に行ったんっすかねぇ?

 

 オーフィスともそれなり。……うん。嫌われたら確実に消されるっすね。これが嫁姑戦争って奴か。噂には聞いていたが怖い。いや、マジで。戦争って言うか一方的な虐殺だけど、こう龍が蟻をプチッと行くみたいな。

 

 だけどまぁ、今の生活は充実してる。ウチも頑張ってお仕事お仕事!

 

 

 

「取り敢えず……邪魔者は排除っすね」

 

 右手を天に掲げると光の槍が五本現れる。指先を体育館目掛け振り下ろすと天井を突き破って床に刺さった。勿論、こんなんじゃ中に居る奴らは倒せない。威力は兎も角、見えない相手に槍を刺すには数が足りないし、気配を読んで居場所を探るスキルは未習得っすからね。

 

 でも倒すだけなら直接ぶっ刺す必要は無いんっすよ。……爆ぜろ。

 

 天井に空いた穴から光が漏れる。ウチが放った槍は形成する光力を解放し体育館の内部に行き渡った。

 

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士(ポーン)』三名『戦車(ルーク)』一名リタイア』

 

「うっし!」

 

 思わず拳を握り締めてガッツポーズ。んふふ〜。これは褒めて貰えるっすね、確実に。

 

 

「随分と余裕ですわね」

 

「あの四人を倒したくらいで調子に乗らない事ね」

 

 さて、本番は此処から。眷属の中で最も強いのは基本的に女王(クィーン)。三つ巴だけどヘイトは稼いだしウチが優先的に狙われる可能性は高い。……望む所っすよ! ダーリンから貰った力、存分に見せてやるっす!

 

 

 

 

 

 

「朱乃さん! 俺達も力を貸します!」

 

 ……五月蠅いっすねぇ。ウチが珍しく真面目モードに入ってるって言うのに横合いから。下で叫んでいるイッセーに視線を向け、急に飛んできた爆炎を盃で吸い込むと光の球を放って牽制。正面から相殺された。

 

 ってか、飛ぶのが基本なのに飛べない奴が出るって……犬掻きしか出来ない奴がママチャリでトライアスロンに出る様な物っすよね。これで降りて来いとか叫んだ日には失笑物っす。まっ、流石に自分は神滅具なんて反則クラスの物を使っておきながら、出来て当たり前のことをやってる相手に其れをやめろとか言うほど恥知らずじゃないか。

 

「イッセー先輩、此所は任せて私達は先に……うっ!?」

 

「小猫ちゃんっ!?」

 

 冷静な判断だと評価してやるっすよ、小猫。だけど其れは相手が並の相手だった場合っす。ウチが視線を再び向けた時、イッセーの袖を引っ張り連れて行こうとしたその時、彼方から放たれた光線が腹を貫通した。

 

 

『リアス・グレモリー様の『戦車(ルーク)』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

「あははははははっ! 流っ石! 頑強さが特性の戦車を一撃だなんてさ。あっ、お酒飲めないからソーダ持って来てよ、秘書。ついでにローストビーフ」

 

「畏まりました、創造主様。(……ちっ、面倒くさい)

 

 座り心地の良い椅子に背を預けて拍手しながら笑う。隣のサーゼクス・ルシファーは少し複雑そうだけど、顔に出しちゃ駄目だって。僕はニヤニヤ笑いながらクロロが持ってきた物を受け取る。……小声は聞かなかったことにしよう、うん。

 

「ねぇ、さっき彼女が小声で……」

 

「さて、そろそろ使うかな?」

 

 ……うーん。やはりウチのホムンクルスに作らせた物の方が美味しいかな? イッセーは一端この場所から離れ、ライザー・フェニックス側の陣地近くで隠れている。今は通信機で連絡を取っている所だ。

 

 

 

 

「部長、今ライザーの陣地の近くです」

 

「……そう。なら、朱乃が勝ったら直ぐに合流するわよ!」

 

 リアス・グレモリーは自分の側近の勝利を確信してるみたいだね。……馬~鹿。

 

 

 

 

 

「敵発見! 敵発見! ミッション開始します!」

 

 僕の作品を舐めすぎなんだよ!

 

 突如、物陰に隠れていたイッセーの目前に其奴は現れた。三メートルに迫る碧い巨体。ずんぐりとしたボディと一体化した頭部の中心では緑のモノアイが妖しく光り、四本の逞しい腕を組み、足裏のブースターから魔力を噴射しゆっくりと地に降り立つ。

 

 

「ロ、ロボットォオオオオオオオッ!?」

 

「否! 我は魔導機兵! 名をエンプティー! 偉大なるドクター九龍を創造主とする誇り高き騎士なり!!」

 

 そう! 其の姿はまさにロボットだった! ……いやぁ、昔のロボアニメを一気に観たら作りたくなってね、ロボットをさ。魔法と機械のハイブリットなんだっ!

 

 其の姿にイッセーは驚いて立ち尽くし、声を聞きつけてライザー・フェニックスの眷属がやってくる。

 

 

「愚か者、声が丸聞こ……ロボットォオオオオオオオ!?」

 

「しかも昭和臭漂うタイプだぞっ!?」

 

 そう。そうなんだよ! 今時のシャープなデザインじゃなくって、昭和の胴長短足タイプの方が僕の趣味なんだよね。

 

 現れたのは大剣を持ったのと短剣を持った二人。両方騎士で、更に後方には猫の獣人の双子や戦車、そしてライザー・フェニックスが趣味で眷属にした妹や和装の僧侶も居る。王以外の残った眷属達全員が戦闘に突入した瞬間だ。

 

 

 

 

 

「デリート! フィンガービィィィィィィム!!」

 

 イッセーの方に前面を向けたままエンプティーは四本の腕の内、右側後方の指先を向ける。全ての指先からビームが放たれ、僧侶二人以外を貫いた。

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の『騎士(ナイト)』二名『戦車(ルーク)』二名『兵士(ポーン)』二名 リタイア』

 

 

「我はロボットではない! 魔導機兵である! そして最新型のデザインだっ!」

 

 

 

 

 

「ねぇ、ルシファー様。彼奴、どう思う?」

 

「……うん。妹達の敵じゃなかったら手放しで大喜びしている所だよ」

 

「でしょ? やはりロボットは昭和風に限るよ」

 

 ……え? エンプティーの主張? 彼奴、少しプライド高いからなぁ。古臭い呼び方が嫌なんだってさ。

 

 

「……創造主様、そろそろ向こうが決着の頃合かと」

 

 出来ればロボット談義をしてみたい所だけど、どうやらミッテルトが使う気になったらしい。僕のプレゼントの中で最も重要なアレをね。

 

 

 

「んじゃ! いよいよお披露目っす!」

 

 其れを観た途端、姫島朱乃の表情は固まり、僕の隣のサーゼクス・ルシファーは立ち上がる。画面越しに其の姿を観ていて、今も其の姿を目にした貴族達がざわつく中、僕は勿体ぶった動作で立ち上がり、背後の貴族達の方を見る。

 

 

 

 

 

「さあさあ、皆様ご照覧下さい。アレこそが今回のお披露目会の目玉! 闇オークションで手に入れたレア神器でも、一から作った人工神器でもない、複製神器……いや、()()()()()!」

 

 画面の中、見せ付けるように掲げられたミッテルトの腕にはこの世に一つしかないはずの赤い籠手が装着されていた。

 

 

「……名を『赤龍帝の籠手・偽(ブーステッド・ギア・フェイク)』。贋作なれど……真作に迫る性能を保証いたします」

 

 さあ、殲滅の始まりだ。今回の催しの主役が誰か教えて上げるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は私が誰か知りませんでした。何処で産まれ、何処で育ち、どの様な経緯で彼の場所に居たのかも知らず、知ろうとも思いませんでした。只、その日その日の生活の糧を得る為に殿方に身体を許す、俗に言う娼婦が私の生業。

 

 ですが、其の暮らしに嫌悪感を感じる事もなく、達成感も感じていませんでした。只、蟷螂の雌が交尾後に雄を食べるように、カッコウが本来の卵を捨てて託卵をするように、其れは私にとって自然なこと。皆様が呼吸をする程度の認識です。

 

 あの人と出会ったのは何時もの様に殿方の袖を引き、私の身体に溺れて頂こうとした日の事。……ああ、今でも思い出します。アレこそが運命でしたのでしょう。寡黙で笑うことはない方でして、私を買ったのも偶然、仲間と一緒にスラム見物に来て、付き合いで偶々私を選ばれただけ。

 

 

 うふふ、でも、あの方ったら朝起きたら私の手を握って、また会いたいなんて言うのですもの。つい……お屋敷までご一緒してしまいました。それからの日々は本当に幸せで……今となってはどうでも良い日々です。

 

 そう、私が誰か……何かを思い出してからはね。思い出して直ぐ、私はあの方に囁きました。もっと欲望に忠実になって、自制心など捨ててしまいなさい、と。

 

 

 うふふふふ。あんなに私を大切にして下さった方が、其の言葉の後でとても酷いことをするのですもの。ついつい興奮して……流石にはしたないですね。

 

 

 私の本当に幸せ、其れは彼を壊す前に訪れました。ああ、何と素晴らしい瞬間だったでしょう。

 

 

「さて、そろそろ彼も用済みですわね。絶頂の中、安らかに眠って頂きましょう」

 

 今ならあの子の気持ちが分かる。あの強気な子が落ち込んだ理由が。この世界はなんて素晴らしいのでしょう。だって、何よりも大切な宝物が何処かに存在するのですもの。絶対に見つけ出しましょう。例え世界を滅ぼしても……。


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