発掘倉庫   作:ケツアゴ

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 一目惚れって言葉は知っているけど、僕は生まれてこの方体験した事はない。僕の人生は親であるオーフィスの為にあるし、今の楽しい生活は其の序でのオマケ程度の認識だ。

 

 身体に電流が走る感覚とか、その人の顔が頭に浮かぶとか信じられないよ。

 

 

 でもこの日、僕は其れを体験する。そして其れは紛れもなく初恋だった……。

 

 

 

 

 

「……うげっ! 悪魔社会ってそんなにひでぇの?」

 

「悪魔って他種族見下してるからね」

 

 翌日、僕の研究について聞いたためか食ってかかってきたイッセーだけど、親切丁寧に洗脳混じりに説明したら納得してくれた。友達って良いね!

 

 まぁ適当に納得させたから良しとしようと思ったその時、ヴェールが飛んでくる。見ればシスター服の少女が転んでいた。イッセーは慌てて駆け寄るけど僕は立ち止まって其の様子を眺める。見知らぬ男二人が駆け寄ってきてもアレだし……って言うか、この街の教会って未だ堕天使が根城にしてる所だけだしね。

 

 多分他にターゲットが居ると思うんだけど、あの子、何処かで見たことがあるような。喉まで名前が出かけていた時、丁度イッセーと話しているのが聞こえてきた。

 

 

 

「アーシア・アルジェントといいます」

 

 あっ、堕ちた聖女、『魔女』アーシア・アルジェントだ。聞けばこの街の教会に赴任してきたとか。イッセーのも危険だからと堕天使が居ることを教えているし顔が微妙に強ばっている。道を尋ねられたが、目の前の善良そうな女の子を見捨てる訳にもいかず困ってそうだ。

 

 仕方ない。……押し付けよう!

 

 

 

 僕はそっとイッセーに耳打ちをした。

 

 

「……その子、聞いたことがある。教会の敷地内で悪魔を癒して追放された聖女だよ。因みに新撰組の隊員が屯所内で重傷を負った坂本龍馬を発見して、仲間に報告せずに傷の手当てをするみたいな物ね。……間違いなく君を狙った堕天使の仲間。傷を癒す神器を持ってるし戦いをするのかも知れない」

 

 忘れ物を取りに戻る振りをしてリアス・グレモリーに報告させに行き、僕は探るために道案内をすることにした。

 

 道中したのは何気ない会話。話す途中で認識したけど、この子は筋金入りのお人好しで世間知らずだ。善良な行為が絶対に正しいと思ってるタイプ。……だから騙されるんだよね。確か旧魔王派(負け犬)と繋がってる奴が聖女マニアだっけ。……あ~、成る程ね。

 

 引っ掛かっていた物全てが組み合わさり、一つの絵が出来上がる。この子の運命も大体予想が付いた。

 

 

 

 

「じゃあ、僕は此所で」

 

 関係ないし、探る意味もないから廃教会まで案内したから帰ろう。この子の神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』なら闇オークションで何個も買ったし興味湧かないし。

 

「あっ。お礼に中でお茶でも……」

 

 

 

 

 

「んー? 漸く来たんっすかー?」

 

 お茶の誘いを断ろうとした時だった。その子が中から現れたのは。金髪のツインテールに青の瞳。

 

 

 

 

 あっ、やばい。これが一目惚れか。この日、僕は一人の少女に恋をした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何処に、何処に居るの? 私の私の私の私の私の私の私の、愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい、大切な大切な大切な大切な大切大切な―――」

 ウチの組織には僕とオーフィスを除いて三種類居る。まずは旧魔王派の様に目的の為に利用する気だけの奴ら。次に英雄の子孫を中心とした人間の集まりである。英雄派はグレートレッドを自己満足の為に倒す気はあるようだけど、承認欲求と名誉欲の固まりだからオーフィスに牙を向く可能性も高い。

 

「にゃん! 暇だし何か手伝えることある? 頭脳労働以外で」

 

 最後に他の組織から追われたりしたはぐれ者達。この元猫妖怪でSS級はぐれ悪魔の黒歌も其れに該当する。仙術っていうリスクの高い技術を妹に強要することを企んだ主を殺し、仙術で暴走したとして指名手配されてるんだ。因みに妹は一緒に逃げても共倒れだからと一縷の望みに懸けて置き去りにした結果、殺されそうになったけどリアス・グレモリーの眷属になって助かった。

 

 まぁ、魔王の妹の眷属だから厄介事に巻き込まれやすいけどね。

 

「取りあえず集中してるから邪魔しないでくれる? 其の邪魔くさい脂肪の固まりを押し付けてないであっち行ってよ」

 

 彼女のことは嫌いではない。その場凌ぎにしか成らなかったけど、家族を守ろうと自分を犠牲にしたからだ。結果、妹には嫌われたけど。何か訳が有った筈って信じて貰えない所を見ると姉妹関係は其れほどでもなかったのかな? 主に過重労働させられてコミュニケーションを取る時間が無かったとか考えられるけどさ。

 

「え~? 正義くらいの男の子なら嬉しいでしょ? やっぱロリコ……ごめん、ごめん。でっ、何をしてるの?」

 

「害虫の品種改良。蝗と白蟻の繁殖力を劇的に高めてるんだ」

 

 僕達の目の前の容器にビッシリ入った虫の卵。下で光る魔法陣に反応してか時折蠢いて気持ち悪い。後はこれを所定の場所に置いたら作戦開始だ。

 

「こんなのどうするの?」

 

「現魔王と密接な関係の貴族の工場が河川に薬品を流出させているから、其れが原因で変異を起こした蝗に作物を食い荒らして貰うんだ。白蟻にはドラゴンアップルの木を食い荒らして貰うよ」

 

 確かに今の魔王は強い。サーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブは超越者と呼ばれ世界でも十本の指に入る実力者。……でも、それがどうかした?

 

 幾ら強くても、お腹が減らない訳じゃない。幾ら強くても、疲れない訳じゃない。幾ら強くても、眠らない訳じゃない。幾ら強くても、病気にならない訳じゃない。

 

 

 君達は僕の研究を社会を良くする為に使おうって考えて、僕も其れに協力して権利を任せて居るけどさ……忙しくなって大変だよね。民衆は結果を求めるから被害が出たら非難されて心労がたまりそうだね。

 

 

 

 

 

「そうそう。僕さ……恋をしたんだ」

 

「ロリ?」

 

 訂正。やっぱ此奴嫌いだ。

 

 

 

 

「黒歌、殺す?」

 

「殺さなくて良いよ、オーフィス。……今はね」

 

 取りあえず軽くモンペア気味のオーフィスをどうにかしないと。……って言うか何処から来たんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん~」

 

「どうかしたの、ミッテルト?」

 

 廃教会にて僕が恋した少女、堕天使ミッテルトは腕を組んで考え事をしていた。あの後折角だからとお茶を貰った僕を探るためか数度言葉を交わした彼女は僕に見覚えが有ったのか必死に思い出そうとしていた。

 

「いや、アーシアを案内してきた人間なんっすけど……何処かで覚えがあるような無いような」

 

「そんな奴なんてどうでも良いでしょう。其れより今はアーシアよ。どうも此所を支配する悪魔に怪しまれて居るみたいで使い魔を見掛けたわ。別の場所に移らないと計画に支障が出るかもしれないわ。私がアザゼル様達に愛される至高の堕天使に成る為にも……」

 

 どうもミッテルトの上司でイッセーを殺そうと近付いた堕天使、レイナーレがアーシアの神器を手に入れたいと思ってるみたい。……馬鹿だよねぇ。悪魔の縄張りで上を騙して勝手な行動する奴が神器を持ったところで没収されるだろうけどさ。それが組織ってもんだよ。

 

 

 

「あー! 思いだしたっすよ!」

 

 

 

 

 

「堕天使達は動きを見せないわね。イッセー以外に強力な神器を持っている人間が居るのでしょうけど。……少し興味が有るわね」

 

 僕のアドバイスを受けたイッセーから報告を受けたリアス・グレモリーは使い魔で監視する一方で次のターゲット(多分居ない)を探したいみたいだ。多分眷属にしたいんだろうね。ただでさえ欲望に忠実なのを良しとする悪魔で、更に甘やかされている貴族令嬢。コレクションを増やしたいみたいだよ。

 

 眷属が討伐対象を甚振るのも別に気にしないし、グレモリー家は情愛が深いって話だけど、自分に逆らわない相手に限るって後に付くだろうね。だから造魔には怒ってもはぐれ悪魔への人体実験には憤りを感じないみたいだ。

 

「あの、部長。流石に動きが不穏ですし、上に報告しては?」

 

 女王(クィーン)である姫島朱乃が意見するも首を横に振る。因みに彼女は実は堕天使の幹部であるバラキエルの娘なんだ。今は悪魔堕天使天使間で冷戦状態だけど小競り合いは起きているし、有事の際は人質か密通を疑われて拘束かな?

 

 騎士(ナイト)も元々は教会側の人間だし、イッセーに宿るドライグは各勢力から恨みを持たれている。……爆弾だらけだ。実は領地の悪魔に被害が出にくいように追い出されたんじゃ?

 

「駄目よ。此処は私の縄張りだもの」

 

 にしても貴族の学校で領地経営とかを学んだりする物だろうけど、家にも頻繁に帰っていない彼女は何処で学んでいるんだろう? 仕事を任された以上、未熟とかは言い訳には成らないよ、お嬢様。ほう・れん・そうを怠るなんてさ。

 

 

 誰かが巻き込まれたら、其れは君が加害者同然なんだからさ。

 

 

 

「でもまぁ、最終的に悪魔になるのを選んだのはイッセーだし、試用期間後に正式に眷属になったら其処から先は知らないや。……友達だから命は助けるかもしれないけどね」

 

 盗聴の魔術を切り、グッと背を伸ばす。研究用の植物を育てている『箱庭』のメンテナンスも終わったし、宿題でも終わらせて少し休もう。

 

 ……あれ? そういえば今日は何曜日だっけ? 確か昨日オーフィスが食べたがったコンビニスイーツの商品入れ替えが……。

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、確かアザゼル様が興味を持っていた研究者ね。……頭さえあれば良いし、手足をもいで連行しようかしら? 傷口はアーシアに癒させれば良いし」

 

 少しだけ眠りつもりがしっかり寝てしまい、夜ご飯を楽しみにしていたオーフィスに不満を口にされてしまった其の日の夜中、次の日が商品入れ替えだったと思い出し急いでコンビニを回ったんだけど、その帰り道に気紛れで徒歩で帰ったのが拙かったみたいだ。

 

 僕を挟む様に堕天使が三人。ミッテルト以外の堕天使で、矢張り人を見下しているのか僕を侮っている。あっ、よく見れば若白髪の神父と、彼に抱えられたアーシア・アルジェントがやって来た。

 

 

「へいへーい! レイナーレ様、その男をぶっ殺すんですか? こうスパっっと。さっき悪魔君を殺し損ねたからむしゃくしゃしてんっすよ、僕ちゃん」

 

「殺しちゃ駄目。此奴は生かして連れて帰るわ。手足だけにしておきなさい、フリード」

 

「正義さんっ!? 止めて下さい、レイナーレ様っ!」

 

 あー、うん。止めようとしてくれているけど、無駄だよ? 其奴ら、君を殺して神器を奪うつもりだし。レイナーレの許可と同時に僕に振るわれた光の剣や撃ち込まれる祓魔弾を躱しつつ、どうやって切り抜けようかと考える。そういえば堕天使を使った実験をしたかったけど、上が騙されている以上はぶっ殺したら拙いよなぁ……。

 

 って言うかフリードから人の血の香りがするし、何やってるんだよ、管理者。

 

 

「畜生っ! さっさとぶっ殺されやがれ!」

 

「何やってるの、フリード!」

 

「やれやれ、仕方ない。私が出よう」

 

「さっさと捕縛しましょう」

 

 あっ、他の二人も出てきた。あまり戦うとウザい紅髪が居るし、スイーツを早く持って帰らなきゃだし……よし、転移で逃げよう。……魔王に襲われたの知られると、護衛やら秘書やらを付けたがりそうで嫌だから黙ってようっと。

 

 

「なんだっ!? 爆発っ!?」

 

「町外れの様だぞ!」

 

 

 あ、はい。どうやら魔王以上に知られてはいけない相手に昨日の事が知られたようです。昨日、悪魔の仕事である契約の仕事に行ったら相手がフリードに殺されていて、更には襲われたイッセーの為に抗光力薬を渡したんだけど、持ち出した際に黒歌に見付かって何があったかを話したら……オーフィスにうっかり話しちゃったってさっき連絡してきた。因みに廃教会が吹き飛んだ。おかげで振動と音が学校まで伝わって教室がパニックだよ。

 

 

 あまり関わりすぎると次元の狭間を奪い返した際に影響が出るって言っているのにさ。一応気配を変容させるアイテムは渡してあるけど、一応様子を見に行かないと。

 

 僕は急いで廃教会まで転移する。リアス・グレモリー? 体の不調を理由に休んでいるイッセーが心配で探しに行ったみたい。眷属が向かう前にオーフィスの痕跡を消さないとね……。

 

 

 

 

 

 

「……不発弾って事で誤魔化せるかな? フリードの一件は迷宮入りかな?」

 

 それなりに広かった廃教会は瓦礫一つ残さずに消え去り、地面は深く抉れて水道管から水が溢れ出して底に溜まっている。土砂が周囲に舞い上がり、周辺の建物は窓ガラスが割れたり飛んで来た土砂で汚れたりと散々だ。……さて、オーフィスが居た証拠は消したし僕も帰ろう。少し疲れたよ……。

 

 

 

 これも全部あの我が儘姫のせいだっ! 何易々と侵入されているんだよ!

 

 

 

 

 

 

「……其れで、どうして彼女が?」

 

「黒歌から聞いた。正義、この堕天使が欲しいって」

 

 アジトの僕の部屋まで戻るとソファーに座ってお菓子を食べるオーフィスと、角で震えているミッテルトの姿があって意味が分からない。取り敢えず黒歌は媚薬でも大量に摂取させたあとで無人の『箱庭』に閉じ込めよう。

 

 

「えっと、大丈夫? 御免ね、色々と」

 

「ひぃっ!?」

 

「オーフィスも意味が違うから。一目惚れしたけど無理やり連れてくるのは……分からないか」

 

 態々言った僕が馬鹿だった。オーフィスは首を傾げている。そうだよね。分からないよね。……さて、この子どうするか。アジトまで連れてきちゃったし、このまま記憶を消して帰しても拙いよね。

 

 

 

「あ、あの、何でもするので命だけは助けて欲しいっす!」

 

 何でも……か。いや、邪な事は少しし考えてないよ? 僕も龍の因子混ざってるから通常よりも女の子が好きだけどさ。

 

 

 

「じゃあ三食と休日付きで実験体になって。命の保証はするし、後遺症が残る実験も……」

 

「するんっすか!?」

 

「取り敢えず秘密を話さないように術掛けるから」

 

「どっちなんっすかぁあっ!?」

 

 あっ、この子ツッコミだ。まぁ好みだしそれなりに大事にしよう。……オーフィスの邪魔にならない限りはね。

 

 

 

 

 

「……ってな訳で、この子を学校に通わせてね」

 

「急な話ね……。その子、堕天使でしょ」

 

 翌日、僕はリアス・グレモリーの所にミッテルトを連れて行った。どうやら抜け出していた様でアーシア・アルジェントが何故か本拠地である旧校舎の部室に居た。聞く所によるとイッセーと街で出会して、教会が吹き飛んだから仕方なく保護したらしい。

 

 

 

「実は僕、堕天使に襲われてね。其れで捕らえたから実験体にしようと思って。既に魔王側から向こうに話を通したら、イッセーを殺す以外は独断行動だから追放だってさ」

 

 嘘は言っていないよ? 昨日、この子以外の堕天使に襲われたのは本当だもんね。

 

「ちょっと待てよ、九龍!? 其奴、危ないだろ!? あのフリードって奴の仲間なんだぞっ!」

 

「力なら僕が許した条件以外で使えないようにしてるから大丈夫大丈夫。大体、それを言ったら君の仲間にもさ……」

 

 そう言いながら姫島朱乃に視線を向けたら睨まれる。怖い怖い。イッセーは訳が分からないって顔してるし、聞かされてないのかな?

 

 

「あっ、これ魔王様方の許可書」

 

「……何よ。もう手続きは終わらせてるんじゃない」

 

 自分の頭を通り越して話を通されたからか不機嫌そうだけど、知った事じゃないね。

 

 

 

「まぁ、そう怒らないでよ。……この研究はそれなりに重要だからね。ほら、ミッテルト」

 

「はいっす!」

 

 さっきから黙っていたミッテルトが背中の翼を広げる。でも、黒い翼じゃない。純白の天使の翼だった。

 

 

 

 

「堕天使を天使に戻す術式の経過観察及び、学校という集団の場で過ごす事による堕天防止薬の効果実験。天界と交渉を行う際に大きな切り札になる重要案件。……まぁ、この子を傍に置くのは別の理由もあるけどさ」

 

 むしろそっちの方が重要かな?

 

「別の理由?」

 

 

 

 

「僕を取り込もうと秘書やら何やらの名目で女の子を差し出そうとする貴族が多くてね。……正直言ってうんざり」

 

「リア充爆発しろっ!」

 

 パーティに呼ばれたら明白に色仕掛けを受けたりとか大変なんだよ。気苦労も多いし、睨まないで欲しいなぁ、イッセー。アーシア・アルジェントが君に向ける視線、少しだけど恋愛が混じっているし其れで良いでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 しかし勝手な行動をした下っ端とは言え、あっさり実験動物に差し出すとか思わなかったな。もっと交渉が長引くと思ったのにさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「総督、宜しかったのですか? 戻って来ても処刑でしょうが、何があったか聞き出す必要もあったのではないかと……」

 

「こんな時に悪魔との関係を悪化させてまでする事じゃねぇ。……あの性悪女が復活した今はな」

 

 目覚ましのけたたましい音に目を覚まし、僕はベッドから上半身を起こす。少し虚脱感を感じたけど、多分昨夜のせいだろう。オーフィスは次元の挾間を模した部屋が気に入ったのか最近は彼処で過ごす。朝ご飯を終えて僕が学校に行った後、帰るまでずっと過ごし、僕が寝る前にまた入っていく。

 

 まぁシャルバ達も服用したらどの様な事になるか知らないで魔神丸に満足しているからか何も言ってこない。いや、むしろ居たら目障り位には思っているのかな? 利用する気しかないからね。

 

「……う~ん。……あと五時間」

 

「駄目だって。遅刻どころじゃないよ、ミッテルト」

 

 めざましのアラームを止めようと伸ばされる手を掴んで止めると、渋々と言った様子でミッテルトが起き上がる。眠そうに目を擦り、昨日放り出した兎柄のパジャマとピンクの下着を探していた。

 

 そう。今の彼女は全裸で、更には僕と同じベッドだ。何故こうなったのか、簡単に説明するとこうだ。

 

 まず、旧魔王派やら英雄派とかの存在でアジトの居心地が悪いので研究中以外も僕の側に居ることが多い。オーフィスが怖いが僕の側が一番安全だと思ったらしい。

 

 次に打算が働いた。要するに色仕掛けで僕の中での自分の価値を上げようとしたのだろう。積極的に話しかけて来るようになったんだ。……其れでまぁ、最初の時にオーフィスから庇った事から吊り橋効果が現れたり、ストックホルム症候群の効果もあってさ。

 

 

 

「か、勘違いするなっす! ただの色仕掛けっすからっ!」

 

 とか言いながら真っ赤な顔でベッドに入って来て、堕天使って男を誘惑するのも仕事の内だし、知識はあったらしい。……あっ、うん。知識はね。どうもこういった体型に欲情する相手と偶々会わなかったせいで知識ばっかり高まって、僕も経験はないから、二人ともおっかなびっくり……恥ずかしいね、思い出すと。

 

 

 あっ、『本番』は未だだよ? 怖いって言ってるし、僕も無理にはしない。手や口、胸……もまぁ寄せて上げれば? で、僕も指とか舌とか使ってね。そんなこんなで関係は続いている。

 

 

「……うぇ。体が汗やら何やらで臭いっすよ」

 

「シャワー浴びる? お先にどうぞ」

 

「一応ウチはアンタの研究材料っすからね。先に浴びるって訳にはいかないし、其れに臭いのはアンタのせいなんだから背中くらい流せっす。……ウチも流してやるから」

 

「背中だけで良いんだ?」

 

「……馬鹿、スケベ。両面お願いするっす」

 

 この遣り取りも初めてじゃない。結局、前も後ろも洗いあったけど、計算して起きてるから遅刻はしないんだ。其れにしても意地悪な質問をした時のミッテルトが顔を逸らした時の表情は可愛いなぁ。……ついつい苛めたくなっちゃうよ。

 

 

 あっ、これも堕天を防止する実験の一貫だから。実験はパターンを変えながらも何度も繰り返さなきゃね。……今晩は何が良いかな? 一昨日は黒歌の馬鹿が用意したナース服で、昨日はシンプルに全裸だったけど。

 

 

 

「しっかしウチが学校にねぇ。考えたことも無かったっすよ」

 

「その割には授業態度も悪くないって聞くけど?」

 

「そ、それは、その・・・・・・・(アンタの顔を潰さない為に)

 

 思わず抱きしめて頭を撫でくり回したい衝動に襲われるも我慢我慢。今晩、弱いところを重点的に撫で回すとして、忘れる前に渡す物を渡さなきゃ。

 

「はい、これあげる」

 

「あっざーす! ……って指輪ぁぁああっ!?」

 

 そう。ミッテルトに渡したのは指輪型の神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』。アーシア・アルジェントのと同じだ。まぁ、彼女のは他のよりも強力みたいだけど、本人の気質や信仰心でも関係してるのかな? その辺は要実験だとして、ミッテルトの様子がおかしい。

 

 何故かブツブツ何かを呟きながら顔を逸らしてるよ。

 

 

 

(こここ、これはアレっすよねっ!? プロポーズ!? いや、組織に捨てられて唯一の味方だし、一目惚れされてるし、篭絡しようとしたら逆にされた気もしないでもないっすけど。守って貰ったし? 生活も前より良い暮らししてるし……あっ。婚約ってことは夜は……何故昨日の内にしてないし。今日一日悶々と過ごす事になるっすよっ!?)

 

 取り敢えずこの他に人工神器を二つほど渡そう。ヘラクレスの一件で僕を直接狙う事はなくなったけど、僕の周囲を狙う可能性はあるからね。助手は僕が造った中でも特に優秀だし、僕に次ぐ他の造魔への指揮権も渡してあるから大丈夫だけどさ。

 

(……こうなったらアンタとかじゃなくってラブラブな呼び方にするべきっすかっ!? ダーリン・ 呼び捨て? ……あ、貴方、とか言っちゃうすか、ウチ!?)

 

「取り敢えず他の神器と合わせて性能実験を帰ったらしようか」

 

「はい、貴方……ふぇ? 性能実験?」

 

あー、どんなこと考えてたのか理解したぞ。少し惜しかったかな? そのまま押し通して学校はサボってマンションで……まぁ、オッケーはして貰えるっぽいし、このまま今の関係をもう少し楽しもうか。

 

 顔を真っ赤にして逃げていくミッテルトを眺めながら僕はそんなことを考える。さて、同じ教室で隣りの席だし、どんな顔するのか楽しみだ。

 

 

 

 

 

「なあ、部長の様子が最近おかしいンだけど、何か知らなねぇか?」

 

 昼休み、自分を殺そうとした奴らの一人なのに平然とミッテルトも加えてお昼を食べる中、最近正式に悪魔になったイッセーが急に聞いてきた。隣に座るアーシア・アルジェント(まだ悪魔になるかどうかは決めていないが、取り敢えず能力が有用なので保護状態)も気にしている様子だ。

 

「そりゃ大学卒業後だったはずの結婚が早まったからだね。まぁ、イッセーみたいな爆弾が加わって眷属が危険因子だらけになったから仕方ないよ。子を想う親心だね」

 

 結婚すれば向こうの家と繋がりが大きくなるし、束縛も増えるけど安全になる。状況が変われば約束が変更されるのも当然だって。給料だって会社が赤字になれば減るもんね。

 

「部長が結婚んんんっ!? まぁ、貴族のお嬢様だから居るのか……」

 

 イッセーのはどうも貴族云々は理解出来ないみたいだから時代劇で分かりやすく説明しておいた。藩主、つまり殿様が貴族の当主で、貴族令嬢は姫様だと思えば良いってね。時代物の官能小説も読んでるみたいだから少しは理解出来たいみたい。

 

「まあ下級悪魔で眷属悪魔のイッセーは足軽みたいなもんだし、気にしても仕方ないよ」

 

「なんか足引っ張ってばかりな気がするな、俺」

 

 まぁ、他にもって言うか堕天使やらはぐれ悪魔が短期間に侵入して犠牲者も出ているし、楽観視して放置とかありえないんだけど、黙っていよう。ドライグを宿す事への危険性は教えたし、少しは自覚して貰わないとね。

 

 

 

 ぶっちゃけ、友達としては戦いの場に出て欲しくないな。レーティング・ゲームも含めてね。十秒毎に能力を倍加して動いた際の負担は体に残っている。あの能力は強靭なドラゴンだからこそ耐えられるのであって、悪魔の長い長い一生の殆どを日常生活すらままならない程に故障した体で過ごすのは可哀想だからね。

 

 だからさ、早く結婚して領地に篭っていてよ、お嬢様。

 

 

 

 

 

 

 

 

「所で次の授業は……げっ! あのパンダっすよっ!」

 

「ミッテルトは安野雲先生が苦手だからね。あの人…‥人? の歴史の授業って面白いのに」

 

 歴史を担当する教師は何と喋るパンダだ。まるで見てきたかのように豊富で詳細な歴史の豆知識に加えてパンダだから生徒の人気も高い。なんでパンダが喋るのかは分からないけど、胸に『教員免許を持っているパンダ』って書いた名札を貼っているし喋っても不思議じゃないのかな?

 

「あーもう! 今日は帰りにケーキでも食って帰るっすっ!」

 

「デートのお誘い? 良いよ」

 

「違っ……わないっすけど」

 

 イッセーが嫉妬の視線を送るけど構わない。うん、照れてるミッテルトは可愛いいや。

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、正義。……お土産?」

 

 マンションから魔法陣を通ってアジトに戻ると既に部屋から出て居たオーフィスがトコトコと寄ってくる。その視線はケーキの箱に注がれていた。

 

「フルーツタルト買ってきたからお茶にしようか。紅茶とココア、どっちが良い?」

 

「我、アイスココア」

 

「ウチも」

 

「じゃあ助手を呼んで……あっ、今居ないのか」

 

 英雄派のジークの経過観察の為に同行させてたっけ。少し文句言われたけど。うん。他の造魔に口答えする機能を付けないで良かった。

 

 僕がココアの用意をする中、オーフィスはミッテルトの正面に座ると顔をジッと見つめる。どういう存在か既に知っていて、それが無表情で顔を見て来ているから怖いだろうね。僕はオーフィスは怖くないけど。あっ、捨てられるのは怖いかな?

 

 

 

 

「正義、学校ではどう?」

 

「う、うまくやってるっすよ? 友達も多いし……」

 

「……ん、安心した。我、安心」

 

 微かだが嬉しそうな顔になったオーフィスを見てミッテルトはホッと胸をなでおろす。昔は僕にも少ししか興味がなかったオーフィスだけど十三年も一緒に居たかそれなりに重要だと思って居てくれているみたい。

 

 

 

 

 

「ミッテルト、これからも正義と仲良くして欲しい。あれ、我の子だから心配」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もし裏切ったら魂さえ消し飛ばす。正義が許しても、我が許さない」

 

 ……あー、駄目だ。泣きそうだよ。

 この世界には僕の興味を引く物が溢れている。例えば聖書に記された三匹の怪物。四大魔王の一角であるレヴィアタンに謎の怪鳥ジズ、そしてベヒモス。レヴィアタンの子孫は余計な不純物である悪魔の血が混ざってるから其れほど興味は無いけど、残りの二匹は是非解剖して調べ尽くしたいな。

 

 

 

「あはは。正義ちゃんのお陰で天界との話し合いがうまく行きそう。最近、小競り合いが増えてて困ってたんだ☆」

 

 今日、僕は苦手な女と食事をしている。貴族御用達で紹介がなければ入店拒否される老舗の高級店。どうせならオーフィスかミッテルトと来たかったけど、変わりに目の前にいるのは現魔王のセラフォルー・レヴィアタン。計算なのか天然なのか、考えが読みづらいので苦手だ。

 

 大体、自分主演の魔法少女番組を放送するって誰か止めろよ!? 王なんだから仕事以外でも襟を正すのが普通なのに、子持ちが同世代にいる年齢なのに少女って・・・・・・・何かの作戦かな? うん。矢張り最も警戒すべきは此奴だな。

 

「其れは良かったよ」

 

「其れにしても匿名で眠りの病の初期治療薬を発明して送って来たのが実は十歳の子供だったと知ったときはビックリしたけど、その後の六年で沢山貢献してくれたよね」

 

「・・・・・・・まぁ、報酬さえ貰えたら僕は構わないから」

 

 正直言って早く帰りたい。オーフィスとトランプしたり、ミッテルトを風呂場で隅々まで洗ったり、捕らえたはぐれ悪魔に薬物を注入したりしたいのに、セラフォルー・レヴィアタンは僕の望みに気づく様子もなく話を続けた。

 

 うん。此奴だけは絶対に殺そう。さっきから自分の番組の話に移って終わらせないし、こんなのが外交担当って、人材不足極まったね、悪魔。仕事を部下に丸投げしてる奴は論外。特別顧問とかで良いじゃん。他の奴に任せなよ。

 

 

「其れでさぁ、リアスちゃんも大変だね。結婚が早まるなんてさ。サーゼクスちゃんの恋愛話って有名だから小さい頃から憧れていたのに」

 

「愛なんて捧げるもので育むものだよ。貴族なんて大概政略結婚だし、其れでも上手く行ってる所は行ってるでしょ」

 

 恋愛がしたいと、決められた婚約に反発して冥界の貴族の学校に通わないらしいけど、只嫌だ嫌だと反発するんじゃなくて、貴族の学校で恋人見つけて、だから嫌だと両親を説得すれば良いのにさ。人間の世界でどうやって貴族に相応しい相手を見つけるんだ? 貴族学校で作るべき関係性や、学ぶべき知識を手に入れ損ねて居るんだから、其れを補う相手が必要なのに・・・・・・・。

 

 

「まぁ、あの子も青いよね。新しいルシファーと、旧ルシファーの側近の一族の結婚に政治的意味が無いはずが無いのにさ。恋仲だってだけで許されるほど当時の情勢は甘くないのにね☆」

 

 ・・・・・・・本当、此奴は苦手だよ。敵の多い悪魔が攻め込まれて居ないのは此奴の貢献が多い。なのに道化を演じてヘラヘラ笑ってさ。腹にどんな怪物飼って居るのやら。

 

 此奴に王座を奪われたカトレアは何故か侮って居るけど、レヴィアタンと並んで記されるベヒモスを眷属にしている時点で気付こうよ。此奴は前魔王より強いってさ。ねぇ、前魔王より弱い正当なる血統さん。

 

 

 

「其れで次の御披露目の場なんだけど、サーゼクスちゃんに何か考えが有るみたい」

 

「そんな事よりベヒモスの血を採取させて。大きいし二~三リットル」

 

 御披露目がどんな場か何て興味ない。演出したければすれば? どうせ馬鹿な貴族が絶賛して金をつぎ込むのは何時もの事なんだしさ。

 

 そんな事よりもベヒモス、ベヒモス! 悪魔の駒程度の影響なら簡単に取り除けるし何に使おうかな? 魔獣の材料? 造魔の強化素材? 先ずはクローンを作って実験だよね。テンション上がって来たー!

 

 ・・・・・・・護衛として連れてきた奴の視線が冷たいような気がするけど無視しよう。其れともバラしてガラクタにしてやろうか。

 

 

「時間の無駄と進言します、ドクター九龍」

 

 ・・・・・・・言葉で指示する手間を省くために僕の思考が伝わるようにしたのは失敗だったね。おのれ、助手。機能の作成中に笑ってたのはこの為か。

 

「その予想を支持します、ドクター九龍」

 

 うん。やっぱり失敗だった。悔しいから直さないけど!

 

 

 

 

 

 

『イッセーは頭悪いし、漫画で勉強した方が良いよね』

 

 って言いながら九龍が貸してきた数冊の漫画。中世の貴族について描かれて居るんだけど、エッチなシーンも有って読み進めてたら真夜中だった。

 

 

「・・・・・・・貴族怖いな」

 

  面白いことは面白いんだけど、『残酷』とか『本当は怖い』とかタイトルに付いているだけあって背筋が寒くなるシーンも有った。うん、貴族舐めてた。刑事物以上の派閥争いとか確執とか、その上基本的人権何其れ状態だもんなぁ。今の魔王様が穏健派だから此よりはマシらしいけど、此みたいな貴族も多くて、そんなのに限って力を持ってるってんだから不安になるぜ。

 

 喧嘩も碌にした事がない俺は組み手で同僚の木場や小猫ちゃんに負けっぱなしだしさ。九龍が言うには力だけで出世しても、その力が振るえなくなったら先はないらしいし、政治とか礼儀作法の勉強もした方が良いよな? 今度部長にお願いして・・・・・・・。

 

 出世してハーレムを築く為、一大奮起したその時、突如俺の部屋に魔法陣が現れて部長が現れた。あれ? 深刻な顔だけど下っ端の俺に相談するはず無いし・・・・・・・俺、何かやらかした?

 

 契約上手く行っていない事とか、今までの俺の悪行が部長の実家にバレたとか? ヤベェ。思い当たりすぎる・・・・・・・。

 

 

「イッセー。今すぐ私を抱いてちょうだい」

 

・・・・・・・マジっすかぁああああっ!? 下着姿になっていく部長の姿からしてそういった意味で間違いないんだろうけど・・・・・・・何で俺?

 

 ぶっちゃけ、其処まで好意を持たれる理由が分からない。いや、可愛がってはくれるけど、あくまで眷属としてだし? デートもしてないからそれほどショックは大きくないけど、初めての彼女に騙されていたから少し不安なんだよな。

 

 

「あの、部長。確か婚約者が居るんじゃ?」

 

 悪魔社会の貞操概念がどんなのかは知らないけど、婚約者が居るお嬢様に手を出すのって拙いよな? 以前の俺なら迷わなかったけど、貴族社会の勉強をしたからか冷静でいられた。いや、直ぐにでも吹き飛びそうですけど、理性。

 

 

「あんな奴が婚約者だなんて私は認めないわ!」

 

 ・・・・・・・あっ、これってアレだ。結婚が嫌だから破談にするつもりだ。・・・・・・・どうする? どうするよ、俺? 此処で手を出せば出世の道は絶たれるかも知れないけど、一生手が届かないかも知れないレベルの美女を抱けるんだぞ!? 

 

 いや、もしかしたらアーシアって俺に好意を持ってるかも知れないし、十分美少女だけど勘違いかも知れないし。

 

 

 そんな事を考えている間にも部長は服を脱ぎ捨て・・・・・・・理性よさらば! だが、俺が手を伸ばすより先に新しい来客があった。

 

「お嬢様、この様な真似はお止め下さい。その様な下賎な男に貞操を捧げるなどサーゼクス様も悲しみます」

 

 非常に惜しいけどセーフ! これ、多分出世じゃなくて命が絶たれてた! 現れた銀髪のメイドさんと口論する部長の様子からしてよっぽど婚約者が嫌いなんだな、と思う。明日にでも九龍に詳しく聞いてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・でも部長。俺が手を出していた場合、どんな事になるか分かってたのかな? 命の恩人だから恩は返すし、出世の為に頑張るけど、少しだけ不安になった・・・・・・・。

 


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