発掘倉庫   作:ケツアゴ

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無限龍の子 4

「人だ、人が食いたい」

 

 悪魔は眷属を増やすけど、其の全てが絶対忠実滅私奉公って訳じゃない。僕の目の前にいる獣の下半身に人の上半身の怪物の様な悪魔みたいに主を裏切って逃げ出した『はぐれ悪魔』も存在する。

 

 まぁ、悪魔社会って中世っぽい考えが未だ残ってるし、あの頃は貴族以外は家畜同然って考えだったし、実際、眷属悪魔を大切にしていない貴族は多い。理不尽な契約で眷属になったり、奴隷同然の扱いで耐えかねたり、元々いかれた奴で力を得て調子に乗った奴とか色々居るけど、今の冥界じゃ全部罪人ってのが基本。

 

 だって貴族に逆らったからね! 理不尽な様だけど、貴族社会だから仕方ないよね! 実際は使ったら責められたそうだけど日本にだって切り捨て御免とかあったし。

 

 

「一応確認するけど、君って元眷属悪魔で間違ってないよね? 使われた駒は……どっちでも良いや」

 

 そう、あまり関係ない。駒を宿しているかどうかが問題だからね。

 

「あぁ? お前、何を言って……」

 

 異形の存在であるはぐれ悪魔の前で僕の腕が蠢き変形する。目の前の巨体を掴める程に巨大になった腕の色は緑で無数のトゲが生えていて、相手が動くより前に全身を握りしめた。皮膚が破け肉を貫いて骨までトゲが届き、激痛で声すら上げさせない。

 

「苦しいかい? でも、魔王の捕縛許可リストに乗るくらい調子に乗った君が悪いんだからね」

 

 調べた結果、この悪魔はそれなりの数の人間を食べているらしい。典型的な調子に乗って力に溺れた例で、多分此奴が潜伏している街の管理者であるリアス・グレモリーにそろそろ討伐令が出る頃だろうね。だから早い内に済ませようと思って僕自ら来た。

 

 そろそろ腕の中で暴れなくなって来たので目当ての物を回収する。懐から取り出した小型のケースの中身は薬品が入った注射器。其れを血塗れになった相手目掛けて突き刺し注入すると異変は直ぐに現れた。もがき苦しみ、口からチェスの駒を吐き出すと、其処に居る奴からは悪魔の気配が消え失せた。

 

「……戦車(ルーク)か。出来れば女王(クィーン)が欲しかったんだけど」

 

 まぁ我が儘言っても仕方がないので瀕死の元はぐれ悪魔を研究所に転移させ、一応の礼儀としてリアス・グレモリーに討伐した事を書いた手紙を送りつけた。

 

 さて、帰ろうか。オーフィスと遊ぶ約束があるし、面倒だけど手紙に付けた盗聴機能で話を聞いておかないと……。

 

 

 

 

 

 

「巫山戯ないでっ!」

 

 手紙をグシャリと潰す音が聞こえてくる。これはかなり怒っているな。さっきから聞こえる声からして今夜は契約に誰も向かっていないみたいだけど、眷属達は主の怒りを遠巻きに眺めているみたい。

 

 

「まぁ落ち着いて下さい、部長。研究に使うからってリストに載っているはぐれ悪魔なら無条件で好きにして良いって魔王様が許可しているんですから」

 

「此処は私の縄張りよ! まず私に話を通すのが筋って物でしょう!」

 

 あ〜、明日煩く言って来そうだな、と僕が思っていた時、イッセーの声が聞こえてきた。

 

「あの、部長。九龍の奴がしてる研究が気に入らないからって嫌っているそうですけど……どんな研究なんっすか?」

 

 

 

 

「…悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を核にした人造悪魔『造魔(ぞうま)』、其れを造り出す為の研究をしているのよ。好きな力を持たせた好きな見た目の忠実な部下を人工的に作るだなんて、そんなの絶対に許せないわ!」

 

 リアス・グレモリーは怒っているし、ソーナ・シトリーも同様だけど、ちゃんと魔王や貴族達は支援してくれているんだから、其の理由を考えて貰わなきゃ。

 

 貴族悪魔は強く美しく忠実な眷属が手に入って満足。魔王達は無理な契約や、其れに伴う眷属のはぐれ悪魔化によって考えられる被害を減らし、それらによって受ける他種族からの反感を軽減できるって苦肉の策と思いながらも支援してくれているんだからさ。

 

 あっ、いや、ソーナ・シトリーはそんなの認めたら、唯でさえ少ない下級悪魔に与えられるチャンスが更に減るって思っているのかな?

 

 

「神だって天使を作ったし、人もクローンの研究を進めている。奴隷狩りを黙認するしかない現状よりはマシだと思うけどなぁ。……現実を知らないんだね、きっと」

 

 魔王二人は妹に甘いらしいし、そういった汚い部分をまだ知らなくて良いって思っているんだろうな。貴族の学校に通って情報を得たら違ったんだろうけどさ……。

 

 

 楽しみだなぁ。僕の造魔達が悪魔社会で重要な戦力になるんだ。……実に都合が良い。研究費も貴重な素材も魔王の支援があるから使い放題。グレートレッドを倒す為の戦力が揃うのが本当に楽しみだよ。


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