暗く湿り気を帯びた部屋、其処に巨大な薔薇が存在する。いや、薔薇みたいな奇妙な植物と言った方が正しいかな?
「また沢山出来た。これ飲んだら我も強くなる?」
オーフィスは茨に生った一抱えもある巨大な実をもぎ取ると興味深そうに見詰めながら二つに割る。中は空洞になっていて、虫が卵を植え付けた実の様に中で黒い物が蠢いていて気持ち悪かった。
少し前、ヘラクレスって奴が所属していたんだけど、僕が栽培していた虫を育てる為の果物を勝手に食べて……うげぇ。噛み潰されて出た体液とヘラクレスの涎に塗れた大量の虫を口から吐き出した姿を思い出しちゃった。
「それは無理かなぁ。元はオーフィスから産まれた物だし、これを幾ら摂取しても元よりは強く成らないんだ」
蠢く物体を摘みオーフィスに手渡す。試しに飲んでみたようだけどやっぱり強さに変動はない。この蠢いているのはオーフィスの蛇の劣化品。だけど通常よりも強めのを用意して貰ったからシャルバ達が有り難がっていた物と同等かな?
「むぅ。残念。……次は『
「そう言えば暫く食べてないね、ミノタウロス」
僕が指を鳴らすと天井に魔法陣が出現し、研究用に捕獲していたミノタウロスが転移してくる。そのまま重力に従って床に激突……する前に薔薇の中央から伸びてきた舌に絡め取られ飲み込まれる。丸呑みにされたミノタウロスは断末魔を上げる暇もなく溶けて行った。
「何時頃出来る?」
「ミノタウロスなら半日かなぁ。味を落とさない為に其れくらい掛かる」
この薔薇みたいな植物こそが僕が創り出した人工神器『
「じゃあ、オーフィス。少し付いてきて。……面白い物を作り出したんだ」
「面白い物?」
オーフィスは首を傾げながらも疑う事無く僕と手を繋いで其の部屋に向かう。……気に入ってくれたら良いんだけど。
「……此処、次元の狭間?」
「正確には其処を模した空間かな? 寛げる部屋が欲しいかなって思ってね」
オーフィスを連れて来たのは僕達しか入れない通路の先に新しく作った部屋。其処には静寂と闇が広がっていた。オーフィスの目的は故郷である次元の狭間をグレートレッドから奪い返す事。其れには戦力が必要で。集まった戦力はオーフィスを利用したいだけなのが殆どだ。
だからまぁ、僕の準備が整うまで気晴らしに使って貰えたら良いなってこの部屋を用意した。広さは駒王学園の敷地位しか無いけどね。
最悪、此処を更に広くした空間にグレートレッドを閉じ込めるってプランも考えている。次元の狭間で泳げていたら満足らしいし、上手く騙せるなら其れで良いんじゃないかな? あっ、オーフィスに妥協させる気はないよ?
「どうかな?」
少し不安になりながらも尋ねると、何を思ったのかオーフィスは僕の体に攀じ登り、小さな手で頭を撫でてきた。
「ん。感謝する。我、正義を拾って良かった。我の自慢の子。……どうした? 何処か痛むのなら我が摩る」
「……大丈夫。人ってのは嬉しくても泣くものなんだ」
……あ〜、やばい。久々に涙が出た。自慢の子かぁ。頑張って創ったかいがあったね。
「じゃあ、一緒に少し休む。次元の狭間に似た此処と、正義。この両方で我、凄く落ち着く」
「はいはい。少しお昼寝しようか。……其れ共今代の赤龍帝について話そうか?」
さてと、最近研究で忙しかったしのんびり話そう。親子の会話って大切だもんね。
思えば父とはあまり話をしなかった。死んだって聞かされている母は顔も知らない。……ただ、少し疑問がある。写真も絵も一切家には残っていなかった。日記は書庫に紛れ込んでいた一冊だけ。まるで何かに怯えるかのように、あの人は自分の妻の存在を抹消しようとしていた……どうしてだろう?
「……私は眷属にするのは無理ですね。駒が足りないでしょう」
ソーナ・シトリーは然程残念でもないようにそう言い切る。あぁ、最近眷属増やしたんだっけ? 確かに神滅具は魅力かもしれないけどイッセーは素行がアレだし、叶えたがっているって聞いた夢には向かないか。じゃあ、リアス・グレモリーはどうだろう。
「……ねぇ、お兄様から聞いたのだけど、例の腕輪って今有るかしら?」
まぁ、そうなるよね。イッセーの校内での評判は最悪だし、何か切っ掛けがあって興味を惹かれない限り。この人、身内になったら甘いけど、そうじゃないと無関心な所があるし。
「……あの腕輪なら私もお姉様から聞いています。少し興味がありますね」
「うん。一個だけ有るよ。っと、イッセーに説明しなきゃね」
僕は魔法陣を出現させて腕輪を一つ取り出す。表面がツルツルとしていて小さな液晶画面が付いている白い腕輪。此れは悪魔貴族の要望を叶える為、多額の研究資金や成功報酬の代わりに創り出した一品。其の名も『
貴族は『
でも、駒は一人一セットまでだから取り返しは付かない。交換もある程度制限があるしね。
「この腕輪を嵌めて液晶画面に
不正防止の為に使用限度期間があるし対象一人に一回しか使えない上に、完成品は政府が管理して貸し出すらしいけどね。これは完成品で誰かに試験運用して貰おうと思っていた所なんだ。
「……此れがあればもっとチャンスが」
「じゃあ、早速試して良いかしら、兵藤君?」
「は、はい!」
ソーナ・シトリーが興味深そうに腕輪を見詰める中、リアス・グレモリーの胸をマジマジと見ていたイッセーは言われるがままに腕輪を取り付け駒が翳される。結果は……『八個』
「……うわぁ。君の神器『
「酷いなっ!?」
此処まで低いとは思わなかったよ。多分足りないからそれなりに身分の高い悪魔に紹介されて、僕は其奴に恩を売る気だったのにさ……。
「兎に角此れから宜しくね、イッセー! 私の事は部長と呼びなさい」
「はい、部長!」
……さてと、僕は早く帰らないとね。余計な事を言われる前に。
「貴方もこんな便利な腕輪が作れるのにどうしてあんな非道な研究をするのかしら?」
遅かったか。イッセーは疑問符を浮かべる中、お嬢様方二人は不満そうだ。あれだね。死の商人呼ばわりされたノーベルの気持ちが分かるよ。
「……あの研究は四大魔王の支援を得ている。世間知らずのお嬢様には分からないだろうけど、其の腕輪よりもずっと悪魔の為になるのさ」
さてと、帰るか。其れにしても腹立つなぁ。夢の為であるソーナ・シトリーは兎も角、我が儘で貴族の学校に通わないお嬢様に僕の研究の何が分かるのさ。
……まっ、本当は悪魔の為じゃなくってオーフィスの為なんだけどね。