最初はまぁ、僕も一人になるのが怖かったからだし、オーフィスも僕の中の力に興味を持っただけの希薄な関係だった。取りあえず僕の家で一緒に暮らすことになって、代々造って来た命令に従うだけの感情も自我も存在しない
力の使い方は研究資料や、僕と同じ研究対象だった母さんの日記で知って覚えた。そうしないとオーフィスは僕の側から居なくなるって思ったから。人形同然の使用人を除けば僕の周囲には誰も居なくなったから、会ったばかりでも僕を見てくれたオーフィスが居なくなって一人になるのが嫌だった。
「ん、正義、手を繋ぐ。このくらいの身長差の時、よく手を繋いでた」
子供の頃は大きく見えた父親の背中が成長したら小さく見えたって感じの歌詞があったけど、まさか本当にそうなるとは思わなかったよ。幼女になったオーフィスの手は小さく、昔とは逆に僕の手が包み込んでいる。相変わらず無表情だけど、今の僕にはオーフィスの機嫌が良いって分かるよ。きっと勘違いじゃなくって、本当に絆を結べたんだと思う。
少なくても僕にとってオーフィスは親なんだ。だから僕だけはオーフィスを裏切らないし、どんな結果が待っていたとしても願いを叶えて上げたいと思う。其れが僕なりの親孝行だ。
「おい、小僧! 例の物は出来ているのだろうな!」
だから、其のオーフィスを利用しようって奴らは僕の敵だ。例えばこのシャルバ・ベルゼブブ。先の大戦で魔王が死んだ際、此奴等は先見の明を持たず、感情のまま戦争続行を唱えてクーデターを起こされた。結果、名だけの役職すら与えられず、危険視して処刑も抹殺もされずに辺境で特に監視もなく放置されていた。
まぁ同情はするけど、血筋以外に武勲とかの誇れる物が無くて、プライドと部下の数だけは多い負け犬さ。オーフィスの故郷を奪ったグレートレッドを倒す手伝いをするって近付いて来たけど、嘘だって事は理由付きでオーフィスに伝えてある。
え? ならどうして処分していないかって?
「はい、これがオーフィスの蛇に改良を加えた『
「ふん! 多少頭がキレるだけの人間に責任など求める事態に陥るはずがないだろう。下らぬ事を言う暇が有るなら馬鹿な偽りの魔王共から金を更に巻き上げる方法でも考えていろ!」
僕が渡した紙袋の中の黒い丸薬を見詰めながらシャルバは偉そうな態度で去っていく。これが僕が奴らを放置している理由。被験者は多い方が良いし、大っぴらに動いてくれれば僕にも都合が良い。今のままじゃ入手できる研究材料の種類も頻度もたかが知れているからね。
「正義、シャルバ消して良い?」
「駄目。その内ね。・・・・・・・そんな事よりも『
オーフィスの力を利用したい奴らが作った組織の名は『
「さあ今日も頑張って準備をしよう。例え世界を滅ぼしてもオーフィスの願いを叶えてみせる!」
「ん、頼りにしてる」
その結果、一人になっても、死んでしまっても構わない。僕は大切な家族の為なら何だって我慢してみせるさ・・・・・・・。
「昨日、イッセーが告白された。悪戯に三千円」
「罰ゲーム・・・・・・・は悪戯と同じか。 ドMもしくは破滅願望に五千円」
「・・・・・・・なら僕は大穴で本気に一万円」
「テメェらぁああああああっ!」
昨日、他校の生徒にまで変態が知れ渡っているイッセーが告白されたという話題になって、中学からの付き合いの僕達三人の反応がこれだ。我ながら酷いとは思うけど、事実はもっと残酷だから怒らないでよ、イッセー。
先日、街に堕天使が侵入して廃教会に潜伏してる。でっ、堕天使は、聖書の神が見境無しに人に宿した不思議な道具である
でっ、イッセーに告白してきたのは堕天使。はい、イッセーが狙われてるね、確実に。これが他人なら狙う理由も理解できるし放置か横取りだけど、友達なら話は別だ。
・・・・・・・街を管轄してるリアス・グレモリーがもう少しちゃんとしていればなぁ。廃教会は何処の管轄でもないから居座るのは拙いのに放置しているし。・・・・・・・侵入には気付いているけど、もしかして居場所は分かっていない?
彼処が放棄されているなんて直ぐに分かるし、一年の頃から居るはずの管轄者が知らないわけがないか。
「・・・・・・・仕方ないか」
三人に聞こえない程度の声で呟く。出来れば平穏に過ごして貰いたかったんだけどなぁ。
「イッセー・・・・・・・」
「ん? うぉおおおおおおおおお!?」
帰る途中、人気のない所で背後から話しかけるなり共に転移する。場所は摩天楼の如きビルが建ち並ぶ異国の遥か上空。勿論見えなくしているし、空中で止める。普通なら夢か幻と思うけど、頬を打つ風や行き交う車の音が否が応でも現実と教えてくれる。
「実は僕は魔法使いなんだけど・・・・・・・信じてくれるかい?」
「・・・・・・・お、おう」
うん。やっぱり論より証拠。分かり易い説明は実践だね。只頷くしか出来ないイッセーを見ながら僕はそう思った。
「夕麻ちゃんが俺を狙ってる!? そのセイク・・・・・・・何とかいう奴の為に!?」
取り合えずとカフェに入り話を始めること数分。最初に分かり易い形で例を見せたからかイッセーは此方の世界、ファンタジー小説みたいな話をすんなり信じてくれた。
「いや、魔法使いが居るなら堕天使も居るんだろうけど・・・・・・・」
「半信半疑なのは分かるけど・・・・・・ 友達の僕と初対面で惚れた理由も言わない彼女のどっちを信じてくれるんだい?」
「・・・・・・・お前?」
少し間があったし疑問符が付いているけど、友達になって長いから何とか信じてくれて一安心。さて、次の段階だ。僕は何を宿しているか確かめる為、僕は魔法陣を出現させてイッセーの頭に手を翳す。・・・・・・・結果、予想以上に事態は最悪だった。
「きゅ、急に深刻な顔で黙り込むなよ。・・・・・・・ヤバい物なのか?」
「・・・・・・・端的に言うと世界最強クラスの赤いドラゴンを宿した籠手で、多分このままだと暴走して死ぬか、宿主は関係ないのに毎回の様に争ってる白いドラゴンを宿す奴に殺される。・・・・・・・其奴は堕天使の仲間だし、堕天使に取り入って暴走しないように鍛えても貰えない」
流石にテロリストになれとは言えないし、感情で動く奴だから組織には向かないから居てほしくないし・・・・・・・あっ、うん。恩を売るついでに押し付けよう。敵になっても殺さないでおける力だし。
「・・・・・・・ねぇ、イッセー。人間辞めるのと死ぬの、どっちが良い?」
僕の説明を受けて絶望で固まっている友人に対して言った其れは正しく悪魔の囁きだったんだろうね。
「・・・・・・・お、おい。本当にこの二人が?」
夜、僕は魔法使いとして呼び出した二人の前にイッセーを連れてきた。一人は二大お姉様と呼ばれて男女問わず人気のリアス・グレモリー。もう一人は生徒会長の支取蒼那ことソーナ・シトリー。どっちも実は悪魔の貴族だ。
「じゃあ、急な話だけど訊かせて貰うよ。・・・・・・・伝説の二天龍の片割れが欲しくない?」
冥界で行っているとある研究のせいで僕に対して敵意さえ向けている二人だけど、その表情が驚愕に染まった。
「ちょっと待って! 話が急すぎて・・・・・・・」
「じゃあ、本人ならぬ本龍に説明して貰おうか。頼むよ、ドライグ」
『非常に遺憾だがこの小僧は俺を宿している。・・・・・・・非常に遺憾だがな』
イッセーの腕に出現した赤い籠手。その宝玉が光って発せられた声に二人は固まる。・・・・・・・うん。やっぱり無理に起こして良かった。僕は信用されて居ないし嫌われて居るけど、こうやって証拠を示せば楽で良いや。