発掘倉庫   作:ケツアゴ

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無限龍の子 1

「お前の病気は私が絶対に治してやる」

 

 あの頃、慕っていた父は僕の肩に手を置きながらそう言った。幼い子供にとって親は絶対的な信頼の対象で、母親は僕を捨てて逃げたと聞かされていたから、幼い僕にとって父は唯一無二の存在だったんだ。

 

 僕が父に連れて来られて過ごす事になったのは一面真っ白で無機質な部屋。重く硬い扉に取り付けられた食事を通す穴以外は外と繋がっている物といったら監視カメラとスピーカー。部屋の中にあるのは机と椅子とベッドとトイレだけでまるで囚人の様だったけど、これが普通だと聞かされていた僕は父の言葉だからとすぐに信じた。

 

 今は辛いけど、父は僕の為に頑張ってくれるんだから我慢しよう。純粋な幼心でそう決意した僕だけど、この日から僕の地獄は始まった。

 

 

「投薬開始します」

 

 手術室の様な部屋のベッドに拘束された僕の腕に注射針が刺さる。痛くて泣きそうになったけど、僕のためだからと聞かされていたから我慢した。だって、我侭を言って唯一の家族である父に嫌われたくなかったから……。

 

 最初は薬を注入されて様子を観察するだけだった。体の中に赤く熱せられた鉄芯を埋め込まれたみたいな熱を伴う激痛や、全身が凍りついたかのような寒さを感じ、其れでも僕は我慢した。

 

 だって、父は相変わらず僕に微笑みかけてくれていたから……。

 

 

 でも、毎日繰り返される投薬に僕の心は擦り切れていったよ。お前は強い子だから我慢できる、そう言った父の期待に応えたかったけど、痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが痛みが、徐々に僕の心を犯していった。

 

 実は薄々気付いていた。僕は病気なんかじゃなくって、父はテレビの悪の組織みたいに僕を実験台にしているんじゃないかって。でも、父を信じたかった。いや、信じるしかなかった。だって、たった一人の家族を失ったら僕は誰を信じて良いか分からなかったから……。

 

 

 

 

「今までよく頑張った。今日で手術は終わりだ、少し痛いけど頑張れるな?」

 

「うん! 僕はお父さんの息子だもん!」

 

 今でも偶に夢に見る光景。父は何時もよりも厳重に拘束された僕の頭を撫で、何時もの様に笑っていた。だから僕も笑い返したんだ。……父が僕を見る目が道具を見る目だって既に気付いていたのにさ。

 

 

 

 

 

 

「これで実験も終了ですね。成功すれば良いのですが」

 

「良い、じゃない。絶対に成功させるんだ。()()には貴重な研究素材を費やしたのだぞ」

 

「しかし所長も運が良いですよね。奥さんが絶好の素材だって分かったのに実験の途中で自殺されたけど、息子がそれ以上の適合率だったんですから。それで麻酔はしなくて良いんですか? 多分激痛で精神ぶっ壊れますよ?」

 

「貴様は馬鹿か? 後で洗脳するのだから心は壊していた方がやり易くて都合が良い。……始めろ」

 

 これは後々知ったことなんだけど、父は何処かの魔術師組織の研究者だったらしい。一部の者と繋がっていたからか何処の神話や勢力と繋がっていたかは分からないんだけどね。

 

 

 まず、最初に変化が起きたのは骨だった。肥大化し先端を鋭く枝分かれさせた骨は急成長をしながら肉や皮を突き破り、体内では内臓を貫通した。そりゃ痛いってモンじゃなかったよ。当時の僕はまだ四歳で声も上げられなかった。次に風船が破裂するように皮膚が弾け、肉が蠢き肥大する。粘土細工のようにウネウネと姿を変え、龍の鱗が現れたり、鋭い牙を持つ無数の口が体中に出来たり、目玉が瞬時に沸騰したり、今でもハッキリ覚えているよ。

 

 痛かった。死にたいとさえ思った。でも、其れでも僕は死ねなかった。破裂した皮膚は無理矢理折りたたまれるように動いて癒着して、目玉も物を押し出すように新しい物が作り出される。死は何よりも恐ろしいって言うけれど、死にたいのに死ねないってのも恐ろしものだよ?

 

 

 

 

「ははははは! 見ろ、お前達! あの再生力! そして体中に現れ続ける千差万別な特徴! アレの身体を調べた時に確信したよ! 天は私に究極のキメラを創り出せと言っていると! 悪魔、天使、魔獣、そして龍の細胞すら適合してみせるアレの存在こそがその証明だ!!」

 

 僕が、実の息子が苦しんでいるのに父は笑っていた。まぁ、父である前に研究者だったって事だろうね。偶にこの時のことを思い出すけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……あっ、でも研究資料は有り難く相続させて貰ったけど。血縁者だもん、構わないよね。

 

 

 父も幸せだったんじゃないかな? 研究者として最高の瞬間、長年の研究が上手く行ったその瞬間に……死ねたんだからさ。

 

 突如起きた振動。何が起きたか、いや、何が現れたか外に居た警備の魔導師だけが研究所の人間の中で唯一知れたんだ。突如空いた次元の穴から現れた巨大な赤い龍。その存在を知っていたのに。知っていたからこそ恐怖で混乱したのかな? どうも攻撃しちゃったみたいなんだ。

 

 蚊に刺された以下、何も感じない程の力の差が有ったけど、まぁ資料によれば見ていただけで怒りを買った奴も居るらしいし、当然の結果なんだろうね。一瞬、否、刹那で研究所は消し飛ばされた。跡に残ったのは大きなクレーター。其処には生物が居た痕跡すら残っていない。誰一人として生き残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……僕を除いてね。そんな中、僕だけは生き残った。うん、父さんに感謝だね。あの人の実験のお陰で不死身に近い再生能力を……あれれ? 抑も実験がなければ巻き込まれなかったのかな? ……別に良いや!

 

 

 ボロ雑巾以下の体は赤い龍が去った其の場所で再生を終えた僕の前に其れは現れた。僕の人生は此処から始まったんだ。

 

「グレートレッド追ってきたけど遅かった。・・・・・・・お前、何?」

 

「僕は・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ! 俺だけおっぱい見れなかったのにたこ殴りだよ、納得行かねぇ!」

 

「相変わらずイッセーは駄目だなぁ」

 

 近年共学化した駒王学園、僕も通う其処には三名の変態がいる。その中の一人が僕の前で愚痴をこぼす兵藤一誠、通称イッセー。覗きや猥褻な品の校内持ち込みの常習犯で女の子からは蛇蝎の如く嫌われている有名な変態だ。

 

 根は悪人じゃないんだけどエロが絡むと常識とか倫理が飛んでいくのが欠点だね。僕とは中学の時から残りの二人と共に仲良くやってる。イケメンだなんだって目の敵にするような事を言ってくるけど、其れでも遊びに誘ってきたりするんだ。

 

「覗きで退学にでもなったらオバさん達泣くよ?」

 

 ぷいって顔を背ける辺り、悪いことだって自覚は有るんだろうね。でも 、どうして捕まらないのかな? やっぱり共学化したばかりで性犯罪が発覚したり、其の制裁で暴力事件が起きてるからかな? 私刑も合法じゃ無いからね。

 

「汚い。教育機関汚い」

 

「どうしたんだよ、九龍?」

 

「いや、現代日本の教育における腐敗が嫌になってね」

 

 イッセーは訳が分からないって顔だけど、僕からすれば君の胸への執着こそ訳が分からないよ。実に興味深い。できれば脳を解ぼ・・・・・・・ゲフンゲフン。

 

 あっ、九龍ってのは僕の名字。僕は九龍 正義(くりゅう まさよし)って偽名を名乗ってるんだ。本名は捨てたから覚えてないや。

 

 

「よく分からないけど、学校経営者が隠蔽してるから俺達は退学にならないって事だな?」

 

「あ、うん。たぶん被害者の保護者が騒いだりするまではね。でも、続けてたら彼女できないよ? あっ! 実は松田や元浜とデキていて、覗きとかはカモフラージュとか?」

 

「阿呆かぁあああああっ!」

 

 無論冗談。にしても退学にも停学にも成らない理由って・・・・・・・昼と夜に分かれて管理してる彼女達の為かな? 汚点を作らない為にって・・・・・・・どうでも良いか!

 

 

 

「んな事よりも帰りに四人でカラオケ行かねぇ? お前が居るとナンパが成功しやすいんだ」

 

「でも、女の子達は結局僕の周囲に集まるよね? 拗ねた君達の相手面倒臭いし、今日は用事が有るから一人で帰るよ」

 

 何度も繰り返してるのに懲りないなぁ。其れでも遊びに誘ってくれる辺り、友達って認識に間違いないんだろうけどさ。

 

 

 

 

 

 帰り道、校庭で擦れ違った紅髪の悪魔に少し敵意の籠もった視線を向けられたけど気にせずマンションへと戻る。一通りの生活の道具や趣味の品が有るんだけど、実は此処は本当の家じゃない。常人には見えない魔法陣を使い転移した先、其処こそが僕の家であり、家族が居る場所なんだ。

 

 

 

「えっと、負けい・・・・・・・旧魔王派からの依頼の品は三番の引き出しに入れていて、中二病達から経過報告を纏めたら・・・・・・・後回しで良いや! ただいま、オーフィス」

 

 面倒なことは後回し! 今は大切な家族の顔を見るのが先決だ!

 

 

 

 

 

「ん。おかえり、正義」

 

「あっ、姿変えたんだ」

 

 出会った時お爺さんだった家族がロリになってた。・・・・・・・取りあえず前面露出で胸にバッテンシールとか僕の趣味と思われたくないから別の服を着せよう。

 

 

 あっ、僕は高校生兼魔術師兼テロ組織の研究者をやってるよ。たった一人の家族の為にね。

 

 

 

 


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