それから半年程グリゴリで過ごした。
「今日も講師か?」
アザゼルが聞いてきた。
「ああ、日本支部だ。」
「ん?日本支部は初めてじゃないか?」
訝しげな表情をして聞いてくる。
「まあ気持ちは分かるが、奴らは魔法使いと繋がりは無いから大丈夫じゃないか?」
「そうなんだが今迄なかったからな、少し気になってな。軽く警戒はしておいた方がいい。」
「大丈夫だと思うが気に留めておこう。」
そのままアザゼルとは別れて日本支部に向かうことにした。
それから講義は問題無く終わり控室で帰る支度をしていた。
「ん、なんだ?」
周辺に違和感を覚える。これは────
考えるより先に防御結界を張る。
ドドドドドドド!!
直後に爆発音と振動が伝わってくる。
直感が働かなったら危なかった。まさかここで攻撃されるとはな。
煙が晴れた後周囲を見回せば既に十人程に囲まれていた。
「全くご苦労さんなことだ。いい加減諦めたらどうだ?そんなにしきたりや体裁が大事か?」
「姫島朱璃、戻る気は無いのか?」
「そういうのは攻撃する前に言って欲しいんだがな。」
私の言葉に詰まる。
「ここまでこじれたら仮に戻ったって軟禁、もしくは監禁されるのがオチだからな戻るつもりはない。」
私の言葉に構えを取る追手。
とはいえこの状況は不利だな。もっと広ければどうとでもなるのだが・・・向こうもだからこそここで仕掛けてきたんだろうが。
仕方無い、使うのは憚られるが
「朱雀!」
言葉と共に私を中心に炎が広がる。
「くっ!」
向こうが防御結界を張っている隙に私は部屋から出る。
廊下の窓から飛び降り逃げながら考える。
これは最初から罠だったらしいな。アザゼルの予感が当たっていた訳だが要請は正式に協会から来たものだ。となると奴等と繋がっていると考えるより内通者がいたと考えるべきか。
とはいえまずは逃げることを考えないとな。
既に周囲に複数の気配が追ってきている。転移の魔法陣を作っている時間も無い。そうなると倒すしか無いんだが人数が多い上に色々準備している可能性もある。
ふと思い出し携帯の通話を入れる。これで気付いてくれればいいのだが。
「止まれ!観念しろ!」
気付けば前方にも奴等がいて叫んできた。
待ち伏せか。私は諦めて足を止める。
「用意周到な事だな。」
「貴様がここで講義をすると聞いてな、色々準備させてもらった。事はもう姫島だけではなく五大宗家の問題になりつつある。観念しろ!」
「そんなにしきたりや面子が大事か。その為なら法を犯そうが問題無いと?今代の姫島家は大変だな。禄な世継ぎがいなくて。」
溜め息をひとつして更に続ける。
「お前等の言いなりになるのがまともだというのなら、お前等五大宗家全体が禄なもんじゃないな。」
「なんだと!」
「だってそうだろう?従わなかったら力づくで従わせる。それでも駄目なら排斥だもんな。くだらん。」
さてさて言い合いしてる間にすっかり囲まれてしまったな。太一位の力があれば余裕で抜けられるのだろうがどうしたもんかな。
流石に十五人相手はきついな。
考えている間も包囲は狭まってきている。
仕方無い。一点突破でいってみるか。
「ふふっ。」
自然と笑ってしまった。こんな作戦とも呼べないようなものしか思いつかないとは情けない。
「いくぞ!朱雀!」
今度は周囲では無く前方に集中して放つ。
何人かは防御していたが二人爆発に巻き込まれその空いた所を突破しようとしたが即座に埋められた。
「やはり伏兵がいたか・・・十人位いるな。分が悪いな。」
「諦めて投降しろ。」
「はっ!誰かの言いなりになって生きるくらいなら死んだ方がマシだ。」
「じゃあ、お望み通りにしてやる!」
そうして一斉に攻撃魔法が飛んでくる。
せめてあいつ等に再会したかったな。アザゼルに礼をもうちょっとしたかったな。
ドドドドドドドドドド!!
魔法が一斉に着弾し派手な爆発音が響く。
「な〜に観念してるんだよ、らしくねぇなぁ。」
「アザゼル!!」
声に驚いて見ると攻撃は障壁で遮られ前にアザゼルが立っていた。
「まあ、この状況じゃ仕方無いか。間に合ってよかったぜ。」
「ああ、助かった。ありがとう。」
私の言葉にアザゼルは照れながら
「おう。こっちでもキナ臭かったから調べてな、罠だと分かった時に朱璃から連絡あったんでな、焦って飛んできたが間に合って良かったぜ。」
一旦アザゼルは息を吐き奴等を見据える。
「ま〜だお前等は古臭いしきたりに縛られてるんだな。まあ、うちの関係者に手を出したんだ、きっちり落とし前は着けさせてもらうぜ?」
そう言い背中に十二枚の漆黒の翼を出す。
「堕天使だと!?」
「アザゼルだ死んでも覚えておけ。」
言葉と共に光の槍で全員串刺しにする。
「さてと、詳細は後だ。一旦帰るぞ。」
そう言い魔法陣を展開して私はアザゼルと共にグリゴリに帰った。
グリゴリにもどり一度落ち着いてから話そうという事になり一度シャワーを浴びてからアザゼルの元に向かった。
「落ち着いたみたいだな。」
部屋に入るなり私の心配をしてくる。
「ああ、さっきはすまなかったな。」
「気にするな、こっちの落ち度でもある。ある程度は予想してるだろうが、日本支部の割と上の方に内通者というかスパイがいたらしく、そいつが朱璃が魔法使いに講義をしていると知ったらしく、それを利用したらしい。」
「講義中はそんな気配も素振りも無かったが?」
「ああ、それは講義を受けていたのは奴等の仲間では無く普通の魔法使い達だったらしい。奴等は控室の段取りや警備員のシフトに口を出していたみたいだ。」
「そして講義が終った後の油断を付くか。」
「そういう事だ。罠と分かったのはメフィストに頼んで調べてもらったからだ。」
「大物が出て来たな。」
「昔からの知り合いでな、割とウマが合うんだよ。まあそんな訳で調べてもらったんだが支部長は知らなかったらしくてな、それで罠と気付いたんだよ。」
「そうか、流石に今回は死を覚悟したよ。助かった、ありがとう。」
「気にすんな、朱璃を失うのは惜しいし人類の損失だ。才能ある奴を見殺しになんか出来ねぇよ。」
また照れてるな。可愛いとこあるじゃないか。
そこでふと思いついた事を聞くことにした。
「アザゼルはなんで結婚しないんだ?」
「は?なんだよ唐突に。」
「いや、これだけお節介焼きで良い奴なのになんで結婚してないんだろうな?とな。」
アザゼルが見るからに焦っている。
「俺は元々研究者だからな、結婚したってそっちに没頭して放置とかするからな。実際付き合ってそれが嫌で別れたことも多い。それに堕ちた天使の総督が結婚なんてな。悪の親玉はこれくらいで丁度いいんだよ。」
なる程。ならば
「なあアザゼル。戦争してたなんてずっと昔の話だ。今更悪の親玉は無いだろう。それに実際に質が悪いのは私からしたら人間の方が多い。所詮私からしたら種族の違いだけで、善悪を決める物では無いだろう。」
アザゼルは困った顔をして
「俺もそう考えているが、世間はそう考えている奴の方が圧倒的に少ないからな、だから俺は悪の親玉ポジションでいいんだよ。」
ふふ、そういう考えは割と好きだ。
「ならば私がその悪の親玉の妻になろうじゃないか。」
「・・・・・は?」
「だから私と結婚しようと言ったんだよ。」
私は重ねて言う。
「お前本気か?」
「ああ。お人好しでお節介焼きで周りの事をきちんと気付かえる優しい悪の親玉が好きだ。」
「なっ!?」
アザゼルの顔が真っ赤になっている。
「私も人を好きになるなんて思わなかったがこういう気持ちなんだな。それから断るならキッパリ断ってくれ。そうなったらここを出て行く。」
アザゼルは暫く考えた後
「だ〜っ!まったく、直ぐ結婚じゃなくて暫く付き合う感じでいいか?俺も朱璃を気に入ってるし好きだと思う。だが、もう少しお互いの相性を見たい。結婚してから相性最悪だったとか結構あるからな。」
「それは私の為か?」
「お互いだよ、お互い。大体お節介でわざわざ助けに行くわけ無いだろ?俺も朱璃が好きだし上手くやれると思うが後悔はしたくないからな。」
「ヘタレか?」
「慎重と言え。そうだな、半年。今年一杯付き合って問題なかったら結婚しよう。それでいいか?」
よし、言質は取った。
「ああ、問題無い。これからよろしく頼む。」
それから半年後約束通りアザゼルと結婚した。
実際には予想に反しあれから更にお互いが必要であると認識した半年間だった。嬉しい誤算だった。
おかげでグリゴリの連中からは祝福もされたがお互い自分で思うよりもベタベタしていたらしく、せめて家位外に建てろと言われグリゴリで管理していた神社に新居を構えることになった。
後から私達のベタベタ振りをビデオで見せられ二人して赤面したのもいい思い出になった。
新居に移ってから一年後私は朱乃を妊娠した。
アザゼルが泣いて喜んでたのを今でも覚えている。
ちなみに私が異世界からの転生者だということは付き合い始めた頃に話した。割と簡単に受け入れられたが理由としては私の使う魔法や魔力運用の仕方がこの世界ではあまり見られなかったかららしい。
それから数年後イッセー達と再会したり学園の先生になったりとなかなか退屈しない日々を送れているが、あそこでアザゼルに会わなかったらこの未来はやってこなかっだろう。
まだまだ退屈しないで済みそうだ。
番外編は後1か2話予定です。