ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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リクエスト回であるポケモンの回を書いて欲しいとあったので書きました。

番外編でもないのに長くなってしまいました。それに加え色々とオリジナル設定も付け加えています。原作の設定も入れているつもりですがご了承くださいませ。


過去の過ち、知られざる伝説

――数年前――

 

 

 

 

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とある地域のジャングルにて科学者たちがあるポケモンについて研究を重ねていた。

 

そこにいたのはフジ博士と呼ばれている一人の科学者。彼はポケモンの遺伝子について研究しており、ここには全てのポケモンのDNAを持ち合わせていると言われる非常に珍しいポケモンが存在していた。

 

そのポケモンは世界に一匹しか存在せず、人前に現れることも非常に稀であるため存在を知っている人すら少ない希少なポケモンである。

 

フジ博士はそのポケモンと親交を交わすことに成功する。そのポケモンは意外にも友好的で、姿を現すことが少なくとも研究をするには充分であった。

 

ある日、そのポケモンは子どもを産んだ。世界を探しても番のいないそのポケモンが何故子どもを産むことが出来たのかは不明であったが、そのポケモンの子どもと言うだけで彼にとっては朗報であった。

 

子どもとして産まれたポケモンは非常に興味深いポケモンであった。親の遺伝子を引き継ぎ、潜在能力が非常に高いことが分かった。戦闘能力だけで言えば親すらも超えていた。

 

しかしその研究の最中、彼の研究成果を知ったある組織が彼とそのポケモンたちを利用しようと企んだ。その組織は彼を自分の組織に取り込もうと交渉する。

 

怪しい組織ではあったが、研究者のフジ博士からすれば高い技術力を所有する彼らの申し出は魅力的であった。故に彼らの誘いを断ることなどフジ博士にはできなかった。

 

フジ博士は彼らの申し入れを受け取り彼らのために研究することを決意する。だがその決断が、のちに数多くの悲劇を生み出すことになるとはこの頃の彼には想像できなかった。

 

最初の悲劇は研究していたポケモンとの別れであった。フジ博士と交流を深めたそのポケモンは、欲望に負けてしまった彼に絶望したのか、彼の前から姿を消してしまう。フジ博士は当時気に留めることはなかったが、いずれこの別れを深く後悔することとなる。

 

親がいなくなってしまったものの、研究対象としている子どもはまだ存在している。彼はそのポケモンを組織の元に連れて行き研究を続けることにする。

 

フジ博士はそのポケモンの研究を組織と共に続ける。そのポケモンの研究は組織の科学力が極めて高かったこともあり順調に進んでいた。彼はそのポケモンの研究に没頭してしまい、遂にはマッド・サイエンティストとしての道を突き進んでしまう。

 

その結果、フジ博士はそのポケモンにある細工を組み込んでしまった。神にすら許されない行為、そう、遺伝子の改造だ。フジ博士はそのポケモンの特殊な遺伝子を自ら改造してしまい、ポケモンの潜在能力を引き出しさらに顕界を超えた強さを与えようとしたのだ。

 

その実験は見事成功。ポケモンの力は通常のポケモンを遥かに超越した力を得た。そのポケモンに特殊なアーマーを装備させ、組織はそのポケモンを制御することにも成功した。

 

そしてそのポケモンの研究が約7か月が経過したとき、新たな悲劇が彼に襲い掛かる。

 

産まれてから研究対象として生きてきたそのポケモンは、ある日疑問に感じるようになる。何故自分は生まれたのか?自分は何者なのか?自分は何のために存在するのか?しかし、その疑問に答えられるものはいない。

 

研究内容を聞いて入れば自然と自分にも伝わり知識として蓄えられる。そうしてそのポケモンは自ら成長し賢くなっていった。

 

そんなある日、フジ博士を第二の悲劇が襲う。今まで組織はそのポケモンを制御していた。しかしそのポケモンは強すぎる力が故に遂に暴走し、自らの意思で研究所から抜け出してしまった。

 

そのポケモンの力はあまりにも強力で、フジ博士や組織の想像すら遥かに超えていた。フジ博士はそのポケモンの力を目の当たりにし、今までの自分の行動に激しく後悔した。もし彼が外の世界で暴れてしまえば全てを破壊しつくしてしまう可能性すら存在する。

 

何故自分は組織に協力してしまったのか?何故自分はこのような取り返しのつかない過ちを犯してしまったのか?何故自分は仲の良かったポケモンを裏切ってしまったのか?

 

しかし、過去に行った行動を悔やんだところで時間が戻ることはない。彼は一生自分が犯してしまった過ちを背負う事となる。

 

幸いにもそのポケモンが暴れたと言うニュースをフジ博士は聞かなかった。不幸中の幸いだが、彼はそのことに安堵し、組織を離れることを決断する。二度と彼らに狙われることが無いよう、彼らの目が届かない場所に身を潜めるのだった。

 

だがそれ以降そのポケモンが一体どこに行ってしまったのか、それを知る者は誰もいなかった。

 

 

 

 

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カントーリーグが終わり数日が経過した。シンジとリーリエは平穏な時を過ごし、コウタとコウミは更なる高みを目指し各々特訓を繰り返している。

 

そんな時、リーリエは研究所にてある書物に興味を示していた。その書物は決して分厚くなく、内容も少なかった。本を読むことが好きなリーリエにしては珍しかった。

 

その本に夢中になっているリーリエの姿を目にしたシンジは気になり彼女に声をかけることにした。

 

「リーリエ、なに読んでるの?」

「あっ、シンジさん。ちょっと気になる本があったので……」

 

そう言いリーリエはシンジにその本を差し出してきた。その本はどちらかと言うと日記と言った方がいいだろう。どうやらとあるポケモンに関しての観察日記のようだ。

 

「観察日記?オーキド博士が書いたのかな?」

「それが著者は不明みたいです。内容もところどころ掠れているので、一部の記録しか読めませんし……。」

 

中身を確認してみると、確かに内容が掠れてしまっていてとても日記と呼べるものではない。

 

「ちょっと読んでみますね。」

 

リーリエはそう言ってシンジにその日記の内容を読んで聞かせた。

 

『7月5日。ここは南アメリカのギアナ。ジャングルの奥地で新種のポケモンを発見。』

 

新種のポケモン。それだけでトレーナーにとってはとても魅力的なものに感じる。しかし日付だけで年が表記されていないためいつ書かれたのかは不明だ。

 

リーリエは続けて日記の内容を読み上げる。

 

『7月10日。新発見のポケモンをわたしはミュウと名付けた。』

 

日記に記載されていたのはミュウという名前のポケモンだ。だがシンジはその名前を聞いてもそのポケモンに心当たりがない。いつ書かれたかは分からないが、もしかしたらこれは世紀の大発見とも言えるべきものなのかもしれない。

 

だが次に書かれている内容に、2人は疑問に感じる事があった。

 

『2月6日。ミュウが子供を産む。産まれたばかりのジュニアをミュウツーと呼ぶことに…』

 

そこに書かれていたのは聞いたことのないミュウツーと言う名前のポケモンであった。ミュウに加えミュウツー。2人はそのポケモンの名前を聞いて興味を抱いたのだった。

 

だがそれ以上に一つ気になる点がある。それは日記に記載されている日付である。掠れて読めない部分が多く、7月から飛んで2月となってしまっている。一体何が原因でここまで飛んでしまったのだろうか。

 

そして最後の内容には、短くも衝撃的な内容が記載されていたのだった。

 

『9月1日。ポケモンミュウツーは強すぎる。ダメだ…私の手には負えない!』

 

それがこの日記の最後の内容であった。それ以降は空白のページが続いているだけである。

 

この日記を書いたのは誰か分からず仕舞いであり、最後の内容以降本人がどうなったか安否も分からない。間違いなくオーキドが書いたものではないだろう。

 

ならば誰が書いたのか疑問に思う。その時、その日記の最後のページから一枚の写真が落ちる。

 

その写真は古く傷だらけで、昔の写真故に色褪せていた。そこに映っていたのは研究服を着ている一人の男性と、一匹の不思議なポケモンであった。

 

そのポケモンは小さく、不思議なバリアのような球体を身に纏い宙に浮いていた。もしかしたらこのポケモンがここに記載されているミュウと言うポケモンなのかもしれない。

 

とすると一緒に写っている男性は恐らくこの日記の記載者なのだろう。その男性はとても楽しそうに笑顔を浮かべており、写真から見てもそのポケモンと仲がいいように思える。

 

2人がその写真を眺めていると、背後から足音が聞こえてきた。オーキド博士かと思い振り向いていると。オーキド博士とは違う見覚えのある人物がそこに立っていた。

 

「それはワシの友人だよ。」

『カツラさん!?』

 

そこに立っていたのはグレンジムのジムリーダーであるカツラだった。カツラは写真を手に取り、懐かしそうにその写真を見つめていた。

 

「こやつはワシの友人のフジ。昔は研究者として仲良くやっていたのだがな。」

 

そのカツラの目はサングラスで見えなかったが、シンジとリーリエにはカツラが遠い過去の事を思い返しているのだというのだけは伝わった。

 

「ある日突然姿を消して以来、ワシも今フジがどこで何をしているのかは分からない。噂では死んだという話も聞く。」

 

熱血クイズ親父として有名なカツラにしては珍しく、声のトーンが低く感じた。少し気まずい雰囲気ではあったが、フジが残したであろう日記の内容が気になったのもまた事実であるため、シンジはカツラに問いかけることにした。

 

「カツラさん。一つ聞いてもいいですか?」

「むっ?なんだ?」

「これ、多分フジさんが残した日記だと思うのですが、ここに気になるポケモンの名前が書いてあったんです。」

「どれ、見せてみなさい。」

 

カツラはシンジから日記を受け取り中身を確認する。しかしカツラもその内容には首を傾げるばかりであった。

 

「ミュウにミュウツー?聞いたことないな。だがこれは間違いなくフジの字だ。」

 

どうやら予想通りこれはフジの日記に間違いないようだ。しかしそのポケモンの詳細は結局不明なままだ。謎は深まっているばかりである。

 

「むっ、そう言えば……」

「何か心当たりがあるのですか?」

 

なにか思い出した様子のカツラにリーリエが問いかける。カツラはリーリエの質問に答えた。

 

「ハナダにある洞窟から最近妙な音が聞こえてくると話題になっておる。関係しているかは分からんが、そこには昔から強力なポケモンが隠れているのではないかと噂がある。」

 

それはカントーの住人からすればとても有名な話だ。しかしその洞窟の中のポケモンたちは非常に強敵で、探索するには危険が伴ってしまうため認められた者しか入ることを許されていない。それ故にその真実を知る者はいない。

 

「実は今日ここに立ち寄ったのは、その洞窟の件でオーキド君に相談しようと思ったからなのだ。しかし肝心のオーキド君は留守のようだな。」

 

オーキド博士はフィールドワークで外に出てしまっている。そのことをカツラに伝えると、仕方がないと再び出直すことにしたのだった。カツラはシンジたちに、「おぬし等はまだ若いのだから無茶だけはするなよ」とだけ伝え研究所を後にした。

 

その後ろ姿を見届けたシンジは、顎に手を当てて考え事をする。

 

「シンジさん、さっきの件気になりますか?」

「うん。ハナダの洞窟の話は僕もカスミさんから聞いたことがあるんだ。でも今までに変な音が聞こえたなんて話は聞いたことないんだ。」

 

シンジはカツラから聞いた話を思い返す。もしカツラの話とフジ博士の件に繋がりがあるのならば、放置しておくのは危険かもしれない。しかし、もし自分たちが関わったことが引き金となりハナダシティだけでなくカントー全域を危険に晒してしまう可能性もないとは言い切れない。これは判断に悩む問題だ。

 

「っ!?」

 

その時、シンジの頭に激痛が走る。シンジはあまりの痛みにその場で頭を抱えて倒れ込む。

 

「し、シンジさん!?どうしたんですか!?」

「くっ、あ、頭がっ!?」

 

シンジはその瞬間、脳内に映像のようなものが流れ込むのを感じた。まるで時間が止まったかのような瞬間だったが、自然と痛みは無くなり先ほどの痛みが嘘のように冷静さを取り戻した。

 

『こ、これは?』

 

シンジの脳内に流れ込んでくる映像。その中で見たことのないポケモンの存在が確認できた。そのポケモンに拘束具が装備されており、捕らえられているということが分かった。

 

『あのポケモン……それにあの人は……フジ博士?』

 

捕らえられているポケモンの周りには研究員が数人。その中心には先ほどの写真の人物、フジ博士が映っていた。

 

『私は誰だ……』

 

そのポケモンは確かにそう言葉を発した。

 

『誰が生んでくれと頼んだ?誰が造ってくれと願った?』

 

そのポケモンは拘束具越しにも伝わるほど力を増大させていく。どの力は周囲一帯の機械にすら影響を与える程増幅され、次第にそのポケモンを制御していた拘束具すらも破壊する。そしてそのポケモンの姿が露わになった。

 

その見たことのないポケモンは、先ほどの写真に映っていたミュウというポケモンによく似ていた。ただしミュウよりも大柄であり、ミュウの穏やかな印象に比べこちらは見て分かるほど圧倒的なプレッシャーを放っており簡単に近づけるような雰囲気ではない。恐らく彼が、フジ博士の日記にも載っていたミュウツーというポケモンだろう。

 

『……私は、私を生んだ全てを恨む。お前たち人類に、人間に操られる気などない。』

 

その強大なポケモンは空へと飛び出し組織から抜け出した。そこにはガックリと項垂れるフジ博士とその他の研究員たちが取り残され、シンジの脳内に流れてきた映像はそこで途切れたのだった。

 

「っ!?今のは?」

「シンジさん、大丈夫ですか?」

 

シンジがハッと意識を覚醒させると、そこには心配そうに顔を覗き込ませるリーリエの姿があった。

 

「リーリエ……今のは一体?」

「今の?どういうことですか?」

 

リーリエは不思議そうに首を傾げる。どうやら今の不思議な映像は自分だけが見えていたもののようだ。シンジはこれ以上心配をかけないように何でもない、大丈夫だと伝えた。

 

「僕、ハナダの洞窟に行ってみるよ。」

「え?でもハナダの洞窟は……。」

「うん。間違いなく危険な場所だよ。でも、何故か無視できないんだ。だからリーリエはここでまってて。」

「そ、そんな!シンジさんがいくなら私も一緒に行きます!絶対に足手まといにはなりません!」

「い、いや、でも……」

 

シンジの言葉に対しリーリエは珍しく反対しシンジの眼を真っ直ぐ見つめた。その瞳には一切の迷いは感じられず、なにがなんでもついて行くのだと言う強い意思を感じた。

 

「……言っても聞かないよね。じゃあ僕が言うのもなんだけど、君は無茶なことはしないでね。リーリエに怪我だけはして欲しくないから。」

「むっ、それはシンジさんもですよ!そう言いながらいつも自分ばかり無茶するんですから!」

 

事実を突きつけられ反論できないシンジ。その様子になんだかおかしくなりお互いには笑いだしてしまう。なんだかんだで似た者同士な2人は、共にハナダの洞窟へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがハナダの洞窟よ。」

 

ハナダシティに辿り着いたシンジとリーリエは、ハナダの洞窟の場所を聞くためにカスミの元へと訪れた。カスミも最初は渋っていたのだが、2人の意思は本物だと感じ取ったため仕方なく案内したのだ。

 

「いい?ここからは私も把握していない場所よ。何があるか分からないから、細心の注意を払って行動してよね。あんたたちに何かあったら、攻められるのは私なんだからね。」

 

カスミの言葉にシンジとリーリエは「はい」と答え頷く。2人は同時に洞窟へと入っていき、暗闇の中へと溶け込んでいった。

 

「……急にハナダの洞窟に行きたいなんて、物好きな子たちよね。ま、シンジがそんなことを言い出すのは今に始まったことじゃないけど。」

 

カスミはそう言って、彼らが無事に帰ってくるようにと心の中で祈りながらその場を去っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「洞窟の中なのに明るいですね。」

 

リーリエの言った通り、この洞窟の中は視界が確保できるくらいに明るい。オツキミやまと違ってポケモンの力を借りる必要もなかった。

 

「この洞窟は水で潤っているみたいだからね。岩についたコケが水を栄養分として吸い取って、それを光と同じように反射させることで光って見えるから明るくなっているんだよ。」

 

シンジの言葉になるほどと頷くリーリエ。確かにここは水の町と言われているハナダシティの近隣だ。みずポケモンが多く生息し、活き活きと過ごしている環境の水がこれだけ流れていれば洞窟内であっても自然も潤うと言うものか。

 

しかしシンジには一つ疑問に思っていることがあった。

 

「ポケモンの姿が見当たらない。」

「シンジさんも変だと思ってたんですね。」

 

どうやらリーリエもシンジと同じ疑問を抱いていたようだ。そう、2人の言ったようにここにはポケモンの姿が見当たらない。

 

これだけ潤っていて環境の整った場所であればポケモンが生息していてもおかしくはない。それどころかここは一部のポケモンが暮らす環境としては最適と言ってもいいくらいだ。

 

いわタイプのポケモンやみずタイプのポケモン、暗闇を好むポケモンに鉱石を食べるポケモン。それらのポケモンがいても何ら不思議はない。

 

「間違いなく様子がおかしいことに変わりはない。注意していこう。」

「はい、分かりました。」

 

シンジの忠告にリーリエも強く頷いた。警戒はしないに越したことはない。特に未知の場所であれば寧ろ警戒し過ぎてもいいくらいである。

 

シンジとリーリエも周囲の様子に注意しながら先に進む。だがやはりと言うべきかポケモンの姿は一匹も見当たらない。2人はそのまま最深部に向かって歩みを進める。

 

すると突然モンスターボールが揺れ、中からポケモンが飛び出した。そのポケモンは、シンジの相棒であるニンフィアであった。

 

『フィア……』

「ニンフィア?どうしたの?」

 

ニンフィアは身体を震わせながら心配そうにシンジの顔を見上げる。ニンフィアの珍しい姿に戸惑うシンジだが、もしかしたらニンフィアはこの先に強大な何かがいるのだと感じ取ったのかもしれない。

 

得体のしれないその存在は、ニンフィアすらも怯えさせるものを持っているのだろうか。いずれにしても言って確かめなければならないのは変わりない。ここまできたら引き返すことはできない。

 

「ニンフィア、大丈夫だよ。僕がついてるから。」

『フィア……フィア!』

 

シンジはニンフィアの頭を撫でて気持ちを落ち着かせる。ニンフィアも自分のトレーナーにこれ以上心配をかけるわけにはいかないと感じ、自分が守るのだと決意して気を引き締めた。

 

シンジとリーリエは更に奥へと進んでいく。するとそこには、背を向けて立っている何かがいた。

 

そのなにかは人間のような形状をしていたが、シンジにはその正体がなんなのかすぐに理解した。何故ならそのポケモンは、シンジにとって最近見た記憶のある存在なのだから。

 

そのポケモンはゆっくりとこちらに振り返る。ポケモンが自然と放つ威圧感に押されるシンジとリーリエだが、グッとこらえてそのポケモンを見つめ口を開いた。

 

「君がミュウツー……だね?」

「あれがミュウツーさん……ですか?」

『何故私の名を知っている?お前たちは何者だ?あの人間たちの仲間か?』

 

シンジがミュウツーに呼びかけると、ミュウツーはシンジにそう質問を返した。ポケモンが喋ると言う衝撃の事態に驚くリーリエだが、シンジは冷静にその質問に答えた。

 

「あの人間たちって言うのはよく分からないけど、少なくとも僕たちは君の敵じゃないよ。」

 

シンジはそう言って自分はミュウツーに対して敵対心を持っていないことを伝える。

 

『私は人間を信用しない。人類は私たちポケモンの敵だ!』

 

ミュウツーは声を荒げ強く答えた。どうやら人間のことは全く信用してはくれなさそうだ。

 

ミュウツーはその後、シンジの足元にいる存在に目をやり質問を投げかける。

 

『何故お前はそこにいる?』

『フィア?』

 

質問を投げかけられた存在、ニンフィアは首を傾げる。イマイチミュウツーの言っている質問の意味が分からないようだ。

 

『何故お前は人間と共にいると聞いているのだ。』

『フフィア』

 

ニンフィアはその質問に対してシンジに擦り寄る形で答える。このポケモンが目の前の人間の事を信頼していることは理解したが、何故人間の事をそこまで理解できるのかが分からなかった。なにせ自分は過去に行われた実験により人間の事を全く信用しなくなったのだから。

 

『人間はすぐに裏切る。自分の欲望だけを優先し、ポケモンを傷つけ、罪を犯す。あのフジと呼ばれていた人間もそうであった。』

 

ミュウツーは自分が最も憎いと思う人間の名前を挙げる。

 

『この場所にいるポケモンたちは皆、人間に捨てられ行き場を失ったモノたちだ。皆心も身体も傷付いている。それも身勝手な人間たちの行いが原因だ。』

 

ミュウツーの言葉がシンジたちの胸に突き刺さる。確かに人間たちはポケモンと共に苦楽をするトレーナーばかりではない。

 

中にはポケモンを悪用するもの、悪事に利用するもの、金儲けの道具としてしか見ないもの、弱いという理由で見限るものたちもいる。人間全員が善人というわけではない。

 

恐らくそういった目にあってきたポケモンたちがこの洞窟内に住んでいるのだ。だからこそシンジたちが入ってきたことにより警戒して身を潜めたため姿が見えなかったのだろう。

 

『ここのモノたちはこんな私を受け入れてくれた。私に正しい居場所を与えてくれた。ならば私のするべきことはただ一つ。』

 

ミュウツーはそう言ってシンジたちに向かって構える。

 

『私はここのポケモンたちを守る!私に存在する理由を与えてくれたモノたちに害を成すモノは……排除する!』

 

ミュウツーは完全に戦闘態勢をとる。しかしシンジとリーリエはミュウツーとバトルなどするつもりもなければしたいとも思わない。なんとかして彼と分かり合いたいと考えるが、もはや話し合いの余地はないのだろうかと悩む。

 

するとその時、誰かが走って近づいてくる音が聞こえる。ふと振り向くと、そこには見覚えのあるRのマークがついた黒服を着た集団がシンジとリーリエ、そしてミュウツーを取り囲んでいた。

 

『またお前たちか。』

「ミュウツー!今日こそ貴様を捕らえてやる!」

 

「シンジさん!この人たちって!」

「ロケット団!」

 

その集団はかつてカントー地方を裏で牛耳っていたロケット団だ。恐らく解散したはずのロケット団の残党だろう。ミュウツーの言っていた人間たちはロケット団のことだったようだ。

 

完全に彼らを包囲したロケット団員たちの背後から、もう一人の影が姿を現した。その人物は黒服の団員たちとは違い白の服を着用しており、薄い水色の短髪の男性であった。

 

ロケット団としては規則正しく歩き紳士的な印象を与える男性だ。

 

「おや、ミュウツー以外にも誰かいますね。お初にお目にかかります。私はロケット団の幹部、アポロと申します。」

 

そうロケット団とは思えない丁寧な対応をするアポロ。そんな彼は深く礼をして自己紹介をするが、すぐに顔をあげて言葉を続けた。

 

「おっと、自己紹介をしていただく必要はありません。何故なら……あなたたちにはここで消えてもらうからです。」

 

そう言ってアポロは黒い笑みを浮かべる。

 

「ミュウツーは当時サカキ様がいた頃にロケット団が生み出した最強のポケモン。しかし、そんなミュウツーまで辿り着いたあなた方は知りすぎてしまった。よって、この場で消えてもらうというわけです。」

 

アポロ達ロケット団がミュウツーを生むだのだと語る。彼らはミュウツーを手に入れてサカキを見つけ出しロケット団の再建を企てているに違いない。

 

シンジとリーリエはそんなことさせるわけにはいかないとモンスターボールを手にし、対抗する意思を見せる。

 

「そんなこと、絶対にさせません!」

「うん!ミュウツーは僕たちが守る!」

『なに?』

 

シンジとリーリエの言葉にミュウツーは疑問を感じた。シンジたちはモンスターボールを投げ、ポケモンをボールから解き放った。

 

「お願いします!シロン!フシギソウさん!ハクリューさん!」

『コォン!』

『ソウ!』

『クリュー!』

 

「行くよ!イーブイ!ブラッキー!」

『イブイ!』

『ブラッキ』

 

「抵抗する気か。ならばお前たち!行け!」

 

アポロの合図とともにロケット団員たちもポケモンを繰り出した。そのポケモンは大量のゴルバットたちであった。個々の能力はそれほど高くないだろうが、それでも数が多く苦戦することは間違いない。

 

ロケット団員たちからミュウツーを守る戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロン!こおりのつぶて!フシギソウさんははっぱカッター!ハクリューさんはアクアテールです!」

「イーブイ!スピードスター!ニンフィア!ようせいのかぜ!ブラッキー!シャドーボール!」

 

シンジとリーリエのポケモンたちのがゴルバットを次々と撃ち落とす。しかしまだまだ相当数のゴルバットが残っており、ポケモンたちの体力もそろそろ限界まで近づいていた。

 

「くっ、さすがにこれ以上は厳しいね。」

「はい、ポケモンさんたちにも疲れが見えてます。」

 

よく見ると彼らのポケモンたちは肩で息をして疲れているのが分かる。さすがに数が多すぎて疲労も溜まってしまっている。ニンフィアとハクリューはまだ少し余力があるようだが、これ以上戦わせるのは難しいだろう。

 

「イーブイ!ブラッキー!戻って!」

「シロンとフシギソウさんも戻ってください!」

 

シンジとリーリエはそれぞれのポケモンを戻し休ませることにする。しかしこれ以上戦いを続けるのはジリ貧だろう。それにこれらのゴルバットを撃退しても、まだアポロのポケモンが残っている。

 

「ふっ、さっきまでの勢いはどうしましたか?」

 

ならばこのタイミングで畳みかけてやろうとアポロは自身のモンスターボールを手にした。

 

「行きますよ!ヘルガー!」

『ガウッ!』

 

するとアポロはモンスターボールを投げ、中からヘルガーを放つ。このタイミングで彼のポケモンを出されるのは非常にマズイ。

 

「私はヘルガーはただのヘルガーではありませんよ。これを見なさい!」

 

そう言ってアポロは袖を捲る。すると腕には大きなリングとそのリングにはめ込まれている石があった。それは紛れもなくリーリエとシンジにも見覚えのある物であった。

 

「あれは……メガリング!?」

「ということはもしかして!?」

「そうです!さあヘルガーよ!解き放ちなさい!メガシンカ!」

 

そう言ってアポロの持つメガリングとヘルガーの角に備え付けられていたメガストーンが共鳴する。するとヘルガーは光に包み込まれ、次第に姿を変えていった。

 

その光から解き放たれたヘルガーは、体が一回り大きくなり鎧を纏ったかのように体の一部分も本体に合わせ大きくなっていた。より地獄の番犬感が増した姿だ。

 

「さあ、君たちには私のヘルガーの餌食となってもらいます。だいもんじ!」

 

ヘルガーはだいもんじを放つ。その威力はすさまじく、メガシンカをしたことで威力だけでなく範囲も通常より広くなっている。躱すことは困難であるため、ここは2人で対抗するべきだと判断した。

 

「ハクリューさん!れいとうビームです!」

「ニンフィア!ようせいのかぜ!」

『クリュウ!』

『フィア!』

 

ハクリューとニンフィアは同時に渾身の一撃を放つ。しかし体力も残り少なく、威力は通常よりも遥かに劣ってしまっていた。先ほどの戦いで体力が削れてしまったのが原因だ。

 

その上ヘルガーはメガシンカをしてより強大な力を手に入れてしまった。ハクリューとニンフィアの合わせ技も虚しく、ヘルガーの攻撃に打ち消されてしまった。

 

「マズいです!このままじゃ!?」

「くっ!?」

 

迫りくるだいもんじの中、シンジは必死に対抗策を考える。しかし考える時間もなく、だいもんじは目の前まで迫っていた。

 

ニンフィアとハクリューは大切なトレーナーを守ろうと前に出る。万事休すかに思われたその時、横からシャドーボールが飛んできてヘルガーのだいもんじを相殺した。

 

「なんだ!?」

 

アポロが慌てた様子を見せると、シンジとリーリエの目の前にあるポケモンがテレポートで姿を現した。

 

『……』

「!?ミュウツー!?」

 

そのポケモンはミュウツーであった。ミュウツーは僅かに振り返り、シンジに語り掛けた。

 

『私は人間は信用しない。だがお前たちの言葉が嘘ではないことは伝わった。』

 

ミュウツーはそう言いながら前をみてアポロとヘルガーの姿を見据える。

 

『それに、どうやらお互いの敵は同じようだ。今回だけは協力してやろう。』

「ミュウツー!」

「ミュウツーさん!」

 

自分たちの思いが伝わり分かりあえたのだと嬉しく感じたシンジとリーリエ。そんなミュウツーから、シンジはある物を渡された。

 

「ミュウツー、これって!?」

『偶然拾ったものだ。私では使いこなすことは出来ないが、お前たち人間ならばこれの使い道も分かるだろう。』

「!?ま、まさかそれは!?」

 

ミュウツーの言葉にシンジは一呼吸おき頷いて答えた。自分を信じてくれたミュウツーを裏切らないために、覚悟を決めてミュウツーから渡されたものを掲げた。

 

「行くよミュウツー!メガシンカ!」

 

次の瞬間、ミュウツーは光に包み込まれヘルガーと同様に姿を変えていく。尻尾の部分がなくなり逆に頭部が尻尾のように長く伸びた。更に体は以前に比べ少し小柄になった。これは紛れもなくメガシンカだ。

 

ミュウツーから渡されたものはミュウツーをメガシンカさせるためのメガストーン、ミュウツナイトだ。

 

本来メガシンカをする場合、トレーナー側がキーストーンと呼ばれる石を所持し、ポケモンにそれぞれ対応するメガストーンを持たせることにより初めてメガシンカをすることができる。

 

しかし今はシンジがミュウツナイトを受け取り、メガシンカに必要なキーストーンを所持していないチグハグな状態だ。ではなぜミュウツーがメガシンカできたのだろうか。

 

理由は単純だ。ミュウツーを思うシンジの祈りがキーストーンを通じてミュウツー自身に伝わり、メガシンカを可能にさせたのだ。メガシンカに重要なのはポケモンとの絆。それを得ることが出来たミュウツーとシンジの信頼関係が不可能を可能にしたのだ。

 

「馬鹿な!?メガシンカだと!?だ、だが今更そんなもの!ヘルガー!あくのはどう!」

 

エスパータイプの弱点であるあくのはどうで的確にダメージを狙うヘルガー。しかしミュウツーの元々高かったサイコパワーが更に増幅されたミュウツーは、腕を振るうだけで放った衝撃波によりあっさりとあくのはどうを掻き消した。

 

「ミュウツー!シャドーボール!」

 

シンジの指示に従い、ミュウツーはシャドーボールを放つ。そのシャドーボールはとてつもなく強力で、あくタイプのヘルガーを問答無用で吹き飛ばし、一瞬で戦闘不能に追いやった。

 

「なっ!?ヘルガー!?」

 

戦闘不能になったヘルガーはメガシンカが解除され、通常の姿に戻っていた。アポロはそのヘルガーをモンスターボールに戻した。

 

『あとはお前だけだ』

「なに!?」

 

ミュウツーはサイコパワーを利用し、アポロを含むロケット団員たちを全員気絶させた。それと同時に周囲にいたゴルバットたちも異常なサイコパワーに当てられ次々と墜落していく。比べ物にならないほどの力を持つミュウツーに、シンジとリーリエは少し肝を冷やす。

 

そしてバトルが終わったことによりミュウツーのメガシンカが解除された。

 

「……ロケット団たちはどうするの?」

『私に関する記憶を消す。そうすれば二度と私に近づくことはないだろう。』

 

ミュウツーはロケット団たちの自分に関する記憶を抹消することを決意する。それこそが自分のためにも、そして自分の周りにいるポケモンたちのためにも良い事だろうと判断したのだ。

 

そうして、この場にいるロケット団たちのミュウツーというポケモンがいたという記憶は全て消され、起きた時には自分たちが何をしていたのかさえ忘れてしまっていたのだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミュウツーさん。これからどうするのですか?」

『私はここは去る。この場にいても安全ではないという事が分かった。』

「ごめん、僕たちが来たせいで……」

『お前たちのせいではない。どうせいずれは人間たちにバレていただろう。……寧ろ感謝している。人間にはお前たちのように純粋な心を持ったモノもいるのだと知れて、私はまた一つ知識を身に着けることが出来た。』

 

ミュウツーはそう言って振り返りその場を後にしようとする。

 

『その石はお前が持っているといい。私には不要だ。』

「うん。ミュウツー、また会えるかな?」

『分からない。だが、もしまた会うとしたら……』

 

『協力するのも悪くないかもしれない』

 

ミュウツーはそう誰にも聞こえない小さな声で呟き飛び去って行った。彼が今後どこに向かうのかシンジたちには分からないが、きっと自分の居場所を平和に暮らすことが出来るのだろうと願った。

 

その時、シンジたちの目の前に小さな光が忽然と現れた。

 

「え?これって?」

 

リーリエが疑問に思いそう呟いたとき、その光がハッキリとしたものになり姿をハッキリと現した。そのポケモンにはシンジもリーリエも見覚えがある。そう、そのポケモンは……

 

「ミュウ!?」

「ミュウさん!?」

『ミュミュ』

 

フジ博士と一緒に写真に映っていたミュウであった。2人は突然現れたミュウに驚き一歩後ずさるが、ミュウは彼らに笑顔で声をかけた。

 

『ミュウ!ミュミュミュウ!』

 

ミュウはそのままその場を飛び去りすぐに姿を消した。

 

「なんて言っていたのでしょう?」

 

リーリエはミュウが最後になんと言ったのか気になった。しかしシンジにはその言葉に意味がなんとなくだが理解した。

 

「ありがとうって、そう言ったんだと思う。」

「え?シンジさん、ミュウさんの言葉が分かったんですか?」

「なんとなくだけど、そんな気がするんだ。」

 

もしかしたら過去の映像を見せたのはミュウなのかもしれないと直感的に感じ取るシンジ。彼はもしかすると自分の子ども同様のミュウツーを助けたかったのかもしれない。だからこそシンジたちの目の前に一瞬だけでも姿を現したのだろう。

 

「……僕の方こそありがとう。ミュウ、ミュウツー」

「ありがとうございました、ミュウさん、ミュウツーさん」

 

シンジとリーリエはミュウとミュウツーに感謝しながら、彼らが飛び立った空を見上げたのだった。




というわけでミュウツー回でした。劇場版も近いので大人気のミュウツー様の登場も望む方も多そうです。

ミュウツー様思った以上に書くの凄い難しいです。特にミュウツーの逆襲や我ハココニ在リとかが神だったので少し書くの怖かったです。ですがリクエストとして頂いた以上はなんとか書き上げました。色々とご都合主義な場所とかも多くてすいません。アポロさんは都合のいいロケット団の登場の仕方が思いつかずここで出演していただき(退場してもらい)ました。

他にもデート回と過去回がリクエストされたので次回以降はそれらを書きたいと思います。その後は次のシナリオに進む予定なので一応カントーでの話はこれでリクエスト終了という事で。その他のリクエストは常に受け付けていますので遠慮なく書いて下さい。

ではまた次回お会いしましょう!ノシ

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