ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
「バシャーモ戦闘不能!リザードンの勝ち!よってポケモンリーグカントー大会優勝は、コウタ選手!」
『ポケモンリーグカントー大会!激戦に次ぐ激戦!数々の死闘を勝ち抜き見事優勝に輝いたのは、コウタ選手だぁ!』
決勝戦の激闘の末、優勝と言う名の栄光を勝ち取ったのはコウタであった。コウタ本人は今までの緊張が一気に解放されたからかその場にドサッと座り込んだ。
「優勝……したのか?」
あまりにも現実味の無い事にコウタは自分自身にそう問いかける。その疑問を晴らすかのように相棒であるリザードンは彼の元まで戻り咆哮を上げる。
『ザァ!』
「リザードン……。そうか……俺は……俺たちは勝ったんだな!」
リザードンの嬉しそうな雄叫びにこれは夢ではなく現実のものだと言う確証を得る事ができた。そう、自分はこの大きな舞台に立ち、自分と同じように数々の試練を戦い抜いた猛者たちを破り、その上に立つことができたのだと。
「おっしゃぁぁぁぁ!」
コウタは感極まって会場中に響き渡るほどの大声を張り上げてガッツポーズをとる。それと同時にリザードンも空に向かって炎を吐き共に喜びをあらわにする。
「バシャーモ、お疲れ様。」
『バッシャ……。』
コウミがバシャーモに近づいて呼びかけると、バシャーモは顔を俯かせコウミに謝る。一緒に戦ったパートナーの力になることができなくて申し訳なく感じているのだろう。
「そんなに落ち込まないでよ。悔しくないって言ったら嘘になるけど、後悔はしてないんだ。」
『バシャ?』
「あなたと一緒にここまでくることができた。そしてコウタと全力でバトルすることができたんだ。」
コウミは手をギュッと強く握りしめ、真っ直ぐとバシャーモの目を見つめて言葉を続けた。
「今回は負けたけど、それでも新しい目標ができた。私たち、もっともっと強くなって、いつか必ずコウタたちに勝とう!そして、シンジさんやワタルさん、チャンピオンみたいに凄いトレーナーたちにも負けないくらい強くなろうよ!」
『……バッシャ!』
バシャーモもコウミが抱いている想いを感じ取り、力強く頷いた。そうだ、これは決して終わりなんかではない。それぞれのトレーナーが一つの通過点を通過しただけに過ぎない。
バシャーモは今回の敗北を糧に、更に強くなることを誓ってコウミと共に立ち上がった。
「コウタ」
「コウミ……」
コウミはコウタに近づき手を差し出した。
「優勝おめでとう。でも、次本気で戦うときは絶対に負けないからね!覚悟しててよ?お兄ちゃん!」
「……ああ!だけど、俺も負ける気はないぜ?まだまだ妹には負けられないからな!」
『バッシャ!』
『ザァド!』
コウタとコウミは互いに握手を交わし再戦を誓い合う。トレーナーたちと同様、バシャーモの差し出した手をリザードンは強く握りしめ健闘を称え合った。
『激しい戦いでしたが、バトルが終わり両者共に互いに実力を認め合っております!今一度、素晴らしいバトルを見せてくれたトレーナーとポケモンたちに盛大な拍手を!』
健闘を称え合う両者に拍手の雨が降り注ぐ。その拍手を聞いた2人は、これだけの人が見ているなかでこれだけに人の心を動かすほどのバトルが出来たのだと実感することができた。
そしてその後、コウタは多くの観客、トレーナーたちに見守られながら、チャンピオンワタルから優勝記念トロフィーを授与し正式にポケモンリーグカントー大会の優勝者となったのだった。
コウタがワタルから優勝記念トロフィーを受け取ったころ、リーリエたちは観客席にて他の人たち共に拍手を送り感銘を受けていた。
「素晴らしいバトルでしたね。私感動しました!」
リーリエが感動のあまり強くそう訴えた。決勝戦に残った2人のバトルと言うだけはあり、まさに優勝を争うのに相応しいバトルと言えただろう。こんなバトルを見せつけられて、燃え上がらないトレーナーはいない。
「2人とも強くなったね。なんだか僕も嬉しいよ。」
2人にとって兄にも近い存在であるシンジも心から2人の成長を嬉しく思う。顔には出していないが柄にもなく熱くなり、最後まで興奮が冷めない様子であったのは言うまでもない。
「確かに良いバトルだったわ。でもあたしはこのまま終わるトレーナーじゃないわよ。」
ブルーは今よりももっと強くなり、必ず今度は自分があの場所に立って見せると決心する。リーグにて優勝してこそ、トレーナーとして強くなることができた証となるからだ。
ルザミーネはそんな3人を、まるで自分の子どもの成長を喜ぶ親のように温かく見守っていたのだった。
優勝トロフィーの授与が終わると、私、リーリエを含むリーグに参加したトレーナーやお客さんたちみなさんが一堂に会して閉会式と言う名の一夜限りのパーティが開かれました。そこには先日まで殺伐としており、全員がライバルとして戦っていたことが嘘のような光景が広がっておりました。
みなさん思い思いに語り合っており、今まで経験した旅の思い出、自分のポケモンさんたちの自慢、ポケモンさんを育てるコツなど、まるで友人と話をするかのように情報交換をしておりました。
その場にハジメさんがいなかったのは残念ですが、今も高みを目指して早速修行に明け暮れている事でしょう。次に会った時、私が勝てるかどうかが不安です。
お母様は自宅にポケモンさんたちを留守番させているとのことで心配だから帰ると言い先に帰られました。私もマサラタウンに帰ったらお母様のポケモンさん達と話をしたいです。
ブルーさんは夜が明け次第すぐに旅立つとのことでした。今日のバトルに刺激を受けいてもたってもいられなくなったのでしょうか。でも、私もトレーナーとしてここまできたのでその気持ちは何だかわかる気がします。今度再会した時、私も負けないようにもっともっと強くならなくてはいけませんね。
コウタさんとコウミさんは私たちと一度マサラタウンに戻るのだそうです。そして一度休息をとり次第、他の地方に旅にでるのだそうです。優勝者、準優勝者ではありますが、ここがトレーナーとしての終点ではないという事でしょうか。
それに旅を続けて、それぞれ探しているものがあると言っていました。それが何なのかは分かりませんが、2人にとってそれはとても重要なことのようです。私もその探し物がみつかるように祈っております。
ワタルさんはチャンピオンとして多くのトレーナーにアドバイスを送っておりました。王者の風格、というのでしょうか。その姿はどこか様になっておりチャンピオン特有の雰囲気を感じました。まだまだシンジさんの背中は遠そうです。
皆さん、全員が次の目標をもって凄いと私は心の中で感じました。しかし肝心の私は…………
私は多くのトレーナーたちがいるパーティから抜け出し、1人風に当たっています。少々人混みに当てられてしまったためゆっくりと休みたかったからです。
私が座って休んでいると、後ろから誰かがゆっくりと近付いてくる気配がしました。私がその人物の正体を確認するために振り向きました。外は暗いため顔は確認できませんでしたが、その人物の声は私もよく知っているものであったため誰なのかはすぐに分かりました。
「リーリエ、ここにいたんだ。」
「シンジさん?」
「となり、いいかな?」
「はい、もちろんです。」
私の許可を確認すると、シンジさんは私の隣に腰を下ろしました。そこには一時の静寂が流れ、聞こえるのは水の上を吹き抜ける風の音だけでした。
「カントーリーグお疲れ様。」
「ありがとうございます。でも、優勝はできませんでした。」
私がぎこちない笑顔で笑いかけると、シンジさんはそのまま言葉を続けました。
「でも初参加でベスト4は相当な成績だよ。もっと自信もっていいんだよ。」
「シンジさん、ありがとうございます。」
そう言ってくれるシンジさんの言葉が嬉しくて、私は改めて感謝の言葉を贈りました。
「……リーリエ。」
「?なんでしょうか?」
「もしかして悩み事でもあるの?」
「え?」
「さっきから元気がないから、もしかしたら何か悩んでるのかなと思ってさ。もし何かあったら相談に乗るよ?」
シンジさんは私の顔を覗き込みながらそう言いました。思わずその姿にドキッとしてしまいましたが、それ以上に私の考えが見透かされているようで驚きました。やっぱりシンジさんに隠し事は出来ないみたいです。
「……やっぱり凄いですね、シンジさんは。聞いていただいてもいいでしょうか?」
私の言葉にシンジさんは「うん」と小さく頷きました。私はそんなシンジさんの優しさに甘え、気が付けば自分の悩みを打ち明けていました。
「私、今回初めて大きな目標に向かって頑張ることができたんです。これもシンジさんやお母様、ブルーさん、それに他にも多くの方々に支えられてここまできました。」
シンジさんは私の話を静かに聞いて下さってます。私はそのまま話を続けました。
「皆さん、これからも大きな目標を持っていることを私は羨ましく感じ同時に凄いと感じました。ですが私はカントーリーグが終わってからの事を一切考えてませんでした。」
私はこのカントーリーグを目標に必死で頑張ってきました。以前まではお母様の着せ替え人形のように言いなりになるだけだった私が、初めて大きな目標を持ちそれを目指して戦う事ができました。ですがそれが終わった今、次に目指す目標が思い浮かびません。
シンジさんはそんな私に、一つの質問を問いかけてきました。
「……リーリエの夢って何かな?」
「私の夢……ですか?」
私の夢……そう言えば私はなんでカントーリーグを目指していたのでしょうか。
「ニビシティでリーリエが言ってたこと、覚えてる?」
「私の言っていたこと?」
「うん。僕が君にこの旅でやりたいことはあるかって聞いた時だよ。」
確か私はニビシティでシンジさんにアドバイスを頂きポケモンジムに挑戦することを決意しました。確かあの時の言葉は……
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「リーリエはこの旅で何かやりたい事でもある?」
「やりたい事……ですか?そうですね、やっぱりシンジさんみたいに強いトレーナーになってみたいです。」
「僕みたいに?」
「はい、シンジさんはすごく強くて、お母様の野望を止めただけでなく、アローラのチャンピオンにまでなって、そしてあの守り神であるカプ・コケコさんに勝ってしまうほどのトレーナーです。私はそんなシンジさんに憧れて、そして今まで守っていただきました。ですから今度は私もなにかを守ってあげれるようになりたいんです!」
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!?そうでした。私はシンジさんのように強くなりたくて、大切なものを守れるようになりたくてジム巡りを始めたんでした。今まで目の前に事ばかりに集中しすぎて、大切なことを忘れていたみたいです。でしたら私のやるべきことはただ一つです!
「……どうやら吹っ切れたみたいだね。」
「はい!シンジさん、ありがとうございました!私、もっともっと強くなって……いつかシンジさんみたいに強くなって見せます。」
シンジさんは最後に私に笑みを浮かべ、大丈夫だと判断したのか立ち上がりその場を後にしようと立ち去ろうとしました。
しかしその時シンジさんは立ち止まりました。私はどうしたのかと気になり立ち上がると、シンジさんはゆっくりと口を開きました。
「……島巡りを達成したトレーナーはジム巡りと同じでアローラリーグに挑戦することができるんだ。」
「シンジさん?」
私はシンジさんがどうしてそのことを話し出したのか疑問に感じました。しかしシンジさんのその後の言葉に、私は思わず言葉を失いました。
「そのアローラリーグで優勝すると、アローラ地方最強のトレーナー…………チャンピオンと戦う事ができるんだ。」
「え?それって……」
私は衝撃のあまり言葉を詰まらせました。その時シンジさんは私の方へと顔だけ振り返り、真剣な眼差しで見つめこう答えました。
「……アローラの最高の舞台で待ってるよ。」
シンジさんはそう一言だけ残し、私の元を立ち去りました。私はその時、シンジさんの後ろ姿が闇に溶け込むまで開いた口が塞がらない状態で見続けていました。
だってその言葉は私にとって、最大の目標であり、終着地点でもあり、憧れの人に認められたようにも感じる言葉だったのですから。
後日、私はブルーさんと別れ、ブルーさんは新たな旅路につきました。私はシンジさん、コウタさん、コウミさんと共に故郷同然のマサラタウンに帰還しました。シンジさんの言葉で次の目標を決めた私ですが、少しの間マサラタウンで休息をとる予定です。
しかし私はシンジさんに言われた言葉が頭から離れませんでした。大きな目標が再びできたのと同時に、少しだけでもシンジさんの背中に近づくことができるチャンスが生まれたからです。
私はこの大きな目標を目指して、決意を新たに旅をすることを誓うのでした。
当小説ラストの展開まで取り敢えずの伏線は張りました。あとは突き進むだけです。
リクエスト回としてデート回が注文されたので、次回はそれを書こうかと思います。もし何かカントーにいる間にやって欲しい回があれば次回投稿までに活動報告の意見箱にて書き込んでください。可能な限り要望にお応えいたします。
特にリクエストがないようでしたら、早速次の章に進む準備をしたいと思います。
また、恐らく逆襲のミュウツー放送直前スペシャルでみんなの物語がテレビ放送されると思うので、その時が来たら2周年記念辺りを境に2話に渡り一部アレンジして書く予定です。内容は以前書いたキミの物語の続きです。