ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
準決勝第一試合。リーリエ対コウタの息も詰まるような攻防戦は遂に終盤を迎えようとしていた。
その攻防戦は互いの精神力にも大きな影響を与え、2人の額には数滴の汗が浮かび頬を伝って滴り落ちる。2人の感じている緊張感は観客たちにも伝わるほどで、その戦いの結末を見届けている人たちも熱気がピークに達していると同時に同じ緊張感に包み込まれている。
「リーリエもコウタ、どっちも一歩も引きませんね。」
「意外だった?」
呟くブルーにシンジがそう聞き返すとブルーは静かにうなずき言葉を続けた。
「正直、あたしはリーリエがここまでやるとは思っていませんでした。」
ブルーがそう思った理由はバトルスタイルの相性にある。
リーリエが得意とする戦術は相手の動きを逆に利用し誘導したうえで隙を見つけ攻撃する、という珍しい戦法だ。相手からしても咄嗟に対応するのは難しく、勝負を焦ってしまえばリーリエの作戦にまんまと引っ掛かってしまう。
一見隙の少なそうなリーリエの戦術だが、それでもやはり弱点はある。それは通常のポケモンに比べ力が僅かに劣ってしまう事だ。リーリエの場合、特にコウタのようなパワーファイターに対しては相性が最悪と言ってもいい。
コウタとの戦いを見ているとそれほどパワー負けをしている印象は見られない。だがそれはリーリエの巧みな戦術で強引に補っているに過ぎない。単純な殴り合いであれば確実に負けている。コウタの力で圧倒する戦術は一度ペースを掴むと一方的に手を出すことができず、相手側が敗北に直結してしまうからだ。その分自分もペースを掴めない場合は負けてしまうこともあるため諸刃の剣と言える戦術なのだが。
「本来であればブルーの言う通り、リーリエはコウタに既に負けていても不思議ではないよ。」
「え?」
シンジから出た意外な言葉にブルーは思わず素っ頓狂な声をあげる。リーリエを信頼し、成長を促してきた張本人と言ってもいい人物から出る言葉とは思えなかったのだ。そんなブルーに、シンジは一つの質問を返した。
「じゃあ一つ聞くけどどうしてリーリエはコウタについて行けてると思う?」
「それは……」
自分もリーリエと戦ったためにリーリエの強さは分かっている。だが自分はリーリエの強さも戦い方も知っているため勝てる自信があった。しかし結果は敗北。
コウタは自分以上にリーリエにとって相性が悪い相手だ。それでも彼女はコウタについて行くどころか追い詰めることにも成功している。実力がほぼ拮抗しているのだ。
力がやや不足気味なリーリエがコウタと互角の勝負を繰り広げている理由をブルーは考える。コウタがリーリエの戦い方に慣れていないから?いや、シンジの戦術に似ているリーリエに対しそのようなことは起こりえないだろう。
では彼女とポケモンの信頼関係?それであれ自分やコウタも負けていないと自負できる。他に思いつくことと言えばその原因はリーリエ自身にあるんだろうが、自分では全く検討がつかない。
頭を抱え悩ませるブルーにシンジは自分の考えを伝えた。
「これは僕の勝手な推測だけど、リーリエの驚異的な成長力にあるんだと思う。」
「成長力……ですか?」
意味を理解できず未だに疑問符を浮かべているブルーにシンジはその言葉の意味を説明した。
「恐らくリーリエは自分でも気づいていないと思うけれど、相手の戦い方を分析する能力にかなり長けている。だけどそれだけでなく、相手の戦術を理解し分析を繰り返すことで、自分の中でそれらを吸収し成長に繋げているんだよ。」
バトルにおいて重要なことは努力だが、それと同じくらい重要なのが成長である。成長とは才能にも近いものだが、才能があるからといって成長するとは限らない。成長は自分では気づくことができない要素だ。
「リーリエの戦い方は間違いなく僕に似ている。それは彼女が僕の近くでバトルを見届け、自分自身の能力として自然と吸収していたからに他ならない。」
ブルーはシンジの言葉の意味を理解しつつ、続けて彼の話に耳を傾ける。
「コウタとの戦いの中でもリーリエは成長している。コウタの戦術や癖を無意識の内に理解し、その対策を自然と頭の中で組み立てて実行している。リーリエ自身は気付いていなくても、それは簡単には出来ないことだよ。」
その言葉でブルーはようやく理解した。リーリエがこれまで自分よりも手強い強敵にも劣勢になりながらも勝つ事ができたのかを。
ブルーが以前に見たヤマブキのジム戦によるナツメとの戦い。能力を加味しなくともナツメの実力はリーリエ以上。寧ろ彼女に勝てるトレーナー自体が少ないだろう。しかしリーリエは苦戦しながらも勝つ事ができた。それは前回に味わった敗北、そしてシンジとの練習試合によってナツメの戦い方を自然と体に染み込ませ一つの成長を遂げたからだ。
ルナとのジム戦に関してもそうだ。リーリエは戦いを繰り返すことでその経験を知らず知らずの内に自分の中に取り込んでいっているからこそ、明らかな格上であるルナにも勝つことができたのだ。
もっと身近なもので言うならばシンジとの戦いだ。彼女は初め全くシンジに手も足も出なかった。しかし彼との対戦を重ねていくたびに少しずつではあるものの追いつけるようになってきている。これに関しては彼女にとってシンジが憧れの存在であり、ポケモンバトルに関して特に意識している人物であるのも一つの要因だが、彼女の成長が関係しているのは言うまでもない。
「……強くなったわね、リーリエ。」
ルザミーネは娘の成長した姿を誰にも聞こえない声で嬉しそうに呟いた。
彼らがそんな話をしていると、残りが2体と追い詰められたコウタは5体目のポケモンが入ったモンスターボールを手にしフィールドに投げたのだった。
「頼むぜ、相棒!リザードン!」
『リザァ!』
『なんとコウタ選手が繰り出したのはエースであるリザードンだぁ!』
するとモンスターボールから出てきたのは彼のエースポケモンであるリザードンであった。最後ではなく5体目として出てきたことに会場からはどよめきの声が聴こえる。しかしそれと同時に彼のリザードンの強さを全員が目の当たりにしているためエースの登場に歓声が響き渡る。まさにこの戦いも最終局面を迎えたのだと実感させる瞬間であった。
「リザードン!かえんほうしゃ!」
「っ!?かわしてください!」
リザードンはシロン目掛けて一直線にかえんほうしゃを放つ。こおりタイプのシロンにほのおタイプのかえんほうしゃが当たってしまっては一溜りもない。シロンはジャンプすることで上空に逃げかえんほうしゃを回避した。
「ドラゴンクローだ!」
『ザァ!』
リザードンは竜の鱗を爪に纏わせドラゴンクローによりすかさず近接戦に移る。
「シロン!こおりのつぶてです!」
『コン!』
近接戦に持ち込まれては明らかにシロンが不利になる。そのためシロンはこおりのつぶてを無数に放ち近づかせないように弾幕を張る。
しかしリザードンは翼がある分空を自由に飛べるため、空中戦では圧倒的有利な立場にある。リザードンはシロンのこおりのつぶてを物ともせず次々と切り裂き、強引に自分の得意な距離に潜り込んだ。
リザードンの鋭く素早い動きから繰り出されるドラゴンクローにシロンは直撃してしまい、真下に吹き飛ばされてしまった。
「シロン!?」
『コォン!』
シロンは地面に叩きつけられながらもなんとか耐えしのぎ立ち上がる。だがそれでもリザードンの強力なドラゴンクローと叩きつけられた際の衝撃、更にはエレキブル戦でのダメージも蓄積しているため、いつ倒れてもおかしくない様子だ。
「シロン!れいとうビーム!」
「リザードン!かえんほうしゃ!」
シロンのれいとうビームとリザードンのかえんほうしゃが中央で激突する。しかし互いの力だけでなくタイプ相性でもその差は歴然。シロンのれいとうビーム次第にリザードンのかえんほうしゃに押し戻されていく。
「シロン!」
『コン!』
だがリーリエはれいとうビームが押し負けてしまう事を読んでいた。シロンはリーリエの合図に合わせリザードンのかえんほうしゃが自分に当たる直前に高くジャンプして回避する。そして即座に反撃の態勢に入った。
「今です!ムーンフォース!」
シロンは集中力を高め力を溜め込む。リザードンの一瞬の隙を突き攻撃を叩きこむ絶好のチャンスだ。
『コォン!』
シロンは溜め込んだ力を一気に解き放ちリザードン目掛けて放出する。その渾身のムーンフォースはは勢いよくリザードンに接近する。
「リザードン!はがねのつばさで切り裂け!」
『リザァ!』
しかしリザードンは鋼化させた翼を展開させ、はがねのつばさによりムーンフォースに向かって突撃することでいとも容易く切り裂いた。
その衝撃の威力に驚いたのも束の間、ムーンフォースを切り裂いたリザードンはそのままの勢いを維持し、シロンに接近しはがねのつばさで貫いた。
シロンは今までのダメージの蓄積もあり、今のはがねのつばさによる一閃により力尽き戦闘不能となってしまった。
「シロン!」
『コォ……ン……』
「ロコン戦闘不能!リザードンの勝ち!」
リーリエはシロンをモンスターボールへと戻す。
『リザードンの怒涛の攻撃に耐え切れず遂にロコンダウンだぁ!これでリーリエ選手の残りポケモンは最後の一体を残すのみです!』
そしてリーリエのポケモンは最後の一体となり後がなくなる。リーリエは覚悟を決め、最後のポケモンに思いを託し強く握りしめフィールドに投げた。
「お願いします……ハクリューさん!」
『クリュー!』
リーリエの残る最後の一体は当然ハクリューだ。ハクリューのしなやかな体が太陽の光で美しく煌めき、満を持してフィールドに舞い降りる。その姿には観客すらも魅了されていた。
「リザードン、戻れ!」
『おっと!ここでコウタ選手がリザードンを戻したぞ!コウタ選手の最後の一体はなんだぁ?』
コウタはエースのリザードンを戻し、今までの対戦でも見せていない最後の一体が入ったモンスターボールを手にした。
「行くぞ!リングマ!」
『グマァ!』
コウタが最後に選出したのはリングマだ。見るからにパワータイプのリングマは一撃が命取りとなってしまう。現在後がないリーリエにとってはここが正念場と言ったところだ。
「リングマ!きあいだま!」
『グマァ!』
「躱してください!」
『クリュ!』
最初からきあいだまで全力の攻撃を仕掛けるリングマだが、その攻撃をハクリューは飛び跳ねる形で上手く回避する。その勢いを利用しハクリューは反撃の態勢に入った。
「ハクリューさん!ドラゴンテールです!」
『クッリュ!』
ハクリューは高度から勢いよく降下しドラゴンテールをリングマに叩きつける。リングマは即座に腕をクロスさせ防御に入りドラゴンテールの直撃を免れる。
「アームハンマーだ!」
『グマ!』
リングマは自分の両手を合わせ握りこぶしをつくり、アームハンマーでハクリューの頭上から叩きつける。大振りであるためハクリューの柔軟な動きを捉えることができずにするりと躱される。
しかし結果は空振りに終わったものの、リングマのアームハンマーは地面に突き刺さり大きな衝撃を発生させた。間違いなく一発でも当たったらただでは済まないであろうその攻撃は、ハクリューに大きなプレッシャーを与えるには充分であった。
「アクアテールです!」
「きりさくだ!」
ハクリューはアクアテール、リングマはきりさくで攻撃を交える。互いの技の威力はほぼ互角で、衝撃の余波を発生させながら弾き合う。
「きあいだま!」
『グマ!』
リングマはすぐさまきあいだまで追撃を仕掛ける。突然のきあいだまに冷やりとするが、ハクリューはその攻撃を間一髪のところで避けた。
「ドラゴンテールです!」
『クリュー!』
攻撃を回避しチャンスだと感じたリーリエはドラゴンテールで反撃する。
「受け止めろ!」
『グマ!』
リングマはその攻撃を自身の体を盾に受け止める。ハクリューの一撃を体で受け止めるとは思わずリーリエとハクリューも驚きのあまり隙を晒してしまう。
「リングマ!きりさくだ!」
『グマァ!』
『クリュ!?』
リングマは隙を晒したハクリューにきりさくを確実に決めていく。ハクリューはきりさくの直撃を受けるも痛みに耐えつつ踏ん張り堪える。
「リングマ!はかいこうせん!」
『グゥマァ!』
リングマは最大パワーではかいこうせんを解き放った。この直撃を受けてしまえばハクリューと言えどただでは済まないだろう。
「ハクリューさん!アクアテールです!」
『ハクリュ!』
ハクリューはアクアテールをリングマのはかいこうせんにぶつける。このままではパワー負けしていずれはかいこうせんに飲み込まれやられてしまうだろう。
「今です!ハクリューさん!」
『クリュウ!』
ハクリューはリーリエの合図と同時に一瞬だけ力を込める。するとはかいこうせんをまるで踏み台にするかのように飛び上がった。
「なっ!?」
『グマッ!?』
まさか自分の最大の技が利用され驚きのあまり言葉を失うコウタ。そして強力なはかいこうせんを放ったリングマはその行動の反動により動きが止まってしまい逆に隙を晒す結果となった。
「ハクリューさん!れいとうビームです!」
『クリュー!』
ハクリューは上空から無防備状態のリングマにれいとうビームを放つ。リングマも反動により動けないため防御態勢に移ることができずれいとうビームを浴びてしまう。
大きな隙に強力な一撃を受けてしまったリングマは耐える事ができずにその場で仰向けに倒れ戦闘不能となったのだった。
「リングマ!?」
『グマァ……』
「リングマ戦闘不能!ハクリューの勝ち!」
『リーリエ選手の反撃によりコウタ選手も残り一体となったぁ!これはいよいよどちらが勝利を手にするか分からなくなったぞぉ!』
リーリエに続きコウタも残り一体と追い詰められた。コウタはリングマをモンスターボールに戻し、最後のポケモンを繰り出した。
「……行くぜ!リザードン!」
『ザァド!』
大きな咆哮と共に出てきたのはコウタのエースであるリザードン。ここまで驚くほどの戦績を上げたリザードンとハクリューのぶつかり合いに観客もヒートアップする。
これで互いに最後の一体のみ。泣いても笑っても最後の戦いとなる。長く感じた激戦のラストに2人は覚悟を決め向き合った。
「リザードン!ドラゴンクロー!」
「ハクリューさん!ドラゴンテールです!」
バトル開始のゴングが鳴るように、リザードンとハクリューの攻撃が衝突する。互いの攻撃は反発し合い、再び元の位置まで弾かれる。
「かえんほうしゃ!」
「アクアテールで弾いて下さい!」
かえんほうしゃを放つリザードンに対し、ハクリューはアクアテールを振りかざし防御する。タイプ相性もありリザードンの強力なかえんほうしゃはハクリューのアクアテールに阻まれ、輝きながら散っていった。
「れいとうビームです!」
『クリュー!』
「飛べ!リザードン!」
『ザァ!』
ハクリューのれいとうビームをリザードンは空高く舞い上がり回避した。
「ハクリューさん!アクアテールです!」
『クリュ!』
ハクリューはリザードンを追いかけアクアテールで追撃の態勢に入る。ハクリューは翼はなくともシロンに比べれば空での自由が多少なりとも利く。それゆえに空中戦でも一方的に不利と言うわけではない。
「ドラゴンクロー!」
『リザァ!』
リザードンはドラゴンクローで反撃する。ハクリューは反撃してきたリザードンにアクアテールを振り下ろす。
互いの攻撃は空中で何度も行きかい交じり合う。ドラゴンクローがハクリューに当たったかと思えば、ハクリューのアクアテールがリザードンを捉えどちらにも確実にダメージが蓄積されつつあった。
だが次第に拮抗が破られ、ハクリューが大きく弾き返されてしまった。
「ハクリューさん!」
『ハクリュ!』
『な、なんという攻防だ!どちらも衰えを知らない技の応酬が繰り広げられております!これは目が離せません!』
この場にいるトレーナーだけでなく全ての者がこの試合に釘付けとなり言葉を失うほどに集中している。リーリエとコウタも張り裂けそうなほどの緊張の中、この壮絶なバトルを継続していく。
「畳みかけろ!ドラゴンクロー!」
「ドラゴンテールです!」
チャンスと見たリザードンはドラゴンクローで急降下し追撃する。対するリーリエは回避が間に合わないと判断しドラゴンテールで反撃の指示を出した。
ドラゴンクローを正面から受け止めるハクリュー。その互いの攻撃は凄まじく、発生した衝撃で彼らの足元の地形を崩すほどであった。
「今だ!ちきゅうなげ!」
『ザァ!』
リザードンは即座にハクリューの体を掴みちきゅうなげの態勢に移行する。流れるような動きに皆が魅了されるが、リーリエ相手にそう簡単に上手く決まることはなかった。
「ハクリューさん!れいとうビームです!」
『っ!?クリュ!』
ハクリューはリザードンにがっしりと掴まれながらも、れいとうビームで抵抗する。リザードンは完全に攻撃の態勢であったため無防備の状態であり、れいとうビームが顔に直撃し怯み力が緩んでしまう。その隙にハクリューはリザードンの手から脱することに成功し、リザードンはそのままちきゅうなげが失敗に終わってしまい墜落してしまう。
「アクアテールです!」
『クッリュ!』
墜落した隙を狙いハクリューはアクアテールを確実に決めていく。アクアテールを受けたリザードンは苦い顔をしながらも踏んばり堪えた。
「かえんほうしゃ!」
「れいとうビームです!」
炎のかえんほうしゃと氷のれいとうビームがぶつかり相反作用によって蒸発する。
「ドラゴンテールです!」
「ドラゴンクローで受け止めろ!」
今度は形勢が逆転し、蒸発した衝撃からハクリューが飛び出しドラゴンテールを叩きつける。その攻撃をリザードンはドラゴンクローで受け止めた。
その際に弾かれた反動でハクリューは空へと飛びあがり、反動に勢いを利用して次なる攻撃へと移る。
「ハクリューさん!アクアテールです!」
「かえんほうしゃだ!」
ハクリューは今度は水を纏いアクアテールで攻撃するも、その攻撃はかえんほうしゃによって弾かれ再び相殺し合う。
「れいとうビームです!」
『クリュ!』
れいとうビームを一直線に放つハクリュー。攻撃の後隙によりこれは決まったと誰もが思ったが、リザードンは咄嗟の機転を利かせその攻撃を回避した。
「そ、そんな!?」
『クリュ!?』
『なんとリザードン!咄嗟にはがねのつばさを利用しれいとうビームを防いだぞぉ!』
リザードンははがねのつばさを盾にし、れいとうビームの直撃を回避したのだ。これには思わずリーリエも驚きのあまり声をあげるが、このチャンスをコウタが逃すはずがなかった。
「リザードン!かえんほうしゃ!」
『ザァド!』
『ハクリュ!?』
リザードンのかえんほうしゃがハクリューを正面から捉え直撃する。その一撃による再び形勢は逆転しハクリューは空中から脱力したかのように落ちてくる。
「これで終わりだ!ちきゅうなげ!」
「!?ハクリューさん!」
『ハクッ!?』
リーリエの声に反応するハクリューだが、すでに消耗してしまっているハクリューでは遅くリザードンに捕まってしまう。リザードンはハクリューを捕らえ、地球を回るかのように空中を回転し地面にハクリューを投げつけた。
発生した衝撃によりハクリューの姿が見えなくなる。勝負はどうなったのかと会場に緊張が走る中、次第にその結果が見えてきた。
『く……りゅ……』
「!?ハクリューさん!」
そこには目を回して倒れているハクリューの姿があった。この瞬間、この試合の勝者が決定したのであった。
「ハクリュー!戦闘不能!リザードンの勝ち!よって準決勝第一試合!勝者、コウタ選手!」
長きにわたる激戦に終止符が打たれ、コウタに軍配が上がった。リーリエはすぐにハクリューが心配になり急いで駆け寄った。
「ハクリューさん!?大丈夫ですか!?」
『クリュ……』
目を覚ましたハクリューは申し訳なさそうな表情を浮かべリーリエに謝る。しかしリーリエは首を横に振りハクリューに励ましの言葉を伝えた。
「いえ、あなたはよくがんばりました。寧ろ私はあなたに感謝しています。お疲れさまでした。」
『クリュ……ハクリュ!』
リーリエの笑みに元気づけられ、ハクリューにもまた笑顔が戻る。結末はどうあれ、2人には間違いなくいい結果に繋がっただろう。
「よくやったなリザードン。」
『リザァ!』
コウタは最後まで戦ってくれたリザードンの頬を優しく撫でる。先ほどまで威圧感を放っていたリザードンも、今では可愛らしく微笑み嬉しそうに空へ向かって炎を吐いていた。
コウタはそんなリザードンをモンスターボールへと戻し、リーリエとハクリューの元へと歩み寄った。
「リーリエ。」
「コウタさん……。」
気まずさからか暫くの沈黙が続く。そしてその静寂を破ったのはコウタであり、すっと手を差し伸べた。
「いいバトルだったよ。全力のバトル、ありがとな。」
リーリエはその言葉を聞き、ライバルとして自分も相手の期待に応えられるようなバトルが出来たのだと実感できた。それと同時に、コウタの手をギュッと握りしめ、自分の感じた思いもコウタに伝えた。
「私の方こそ、対戦ありがとうございました!ですが、次に戦うときは負けませんから!」
『ハクリュ!』
「俺たちだってそうさ!今度やる時も勝たせてもらうぜ!」
コウタはリーリエの手を強く握り返す。その2人の姿はまさにライバルそのものであった。
熱いバトルを終え、互いの健闘を称え合う両者に拍手の雨が降り注いだ。それだけこの場にいる者に感動を与え、同時に心から熱くさせたバトルであったのだ。2人は今回の戦いの事を忘れることは決してないだろう。
今回は準決勝敗退という結果に終わってしまったリーリエだが。今回の経験は決して無駄になることはないだろう。このカントーリーグは彼女をより高みへ成長させたことは言うまでもない。
しかし、カントーリーグはまだ終わっていない。次なる戦い、もう一つの準決勝が幕を開こうとしていた!
本来最初の会話シーンはありませんでしたが、話が少し短かったため急遽追加しました。
特にフラグとか伏線って訳ではないので“なるほど”程度に深く考えず理解していただければよいかと。二次創作によくある後付け設定です。
と言うわけで準決勝にてリーリエ敗退です。でも自分で書いといてなんですがリーグ初出場でこれだけの成績を収めたのは相当だよね。
最後に作中でのリーリエのポケモンのリーグ戦績を書いておきます。
○・・・勝利
△・・・引き分け
×・・・敗北
シロン
カメックス・・・×
エレキブル・・・○
リザードン・・・×
フシギソウ
キングドラ・・・○
ライチュウ・・・×
エアームド・・・○
ヨノワール・・・×
マリル
ニドクイン・・・△
キュウコン・・・○
ライチュウ・・・×
ヨノワール・・・△
チラチーノ
グランブル・・・△
ヘラクロス・・・×
ピッピ
マニューラ・・・○
アブソル・・・・○
ライチュウ・・・○
プクリン・・・・△
ヘラクロス・・・○
エレキブル・・・×
ハクリュー
トゲキッス・・・○
カメックス・・・○
リングマ・・・・○
リザードン・・・×
こうしてみるとピッピがヤバイ……。意外とチラチーノちゃんの活躍が少なかったのが心残りです。リーグ編後にでもなんとかして活躍させたいです。
シロンに関しては進化してからが本番……だと思います。