ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
ヤマブキジムへの再戦のため旅を続けているリーリエ、シンジ、ブルーの3人。そして今、遂にヤマブキジムの前へと戻ってきたのだった。
「いよいよ……ですね……。」
緊張のあまり思わずグッと手に力がこもってしまうリーリエ。やはり立ち直ったとはいえ、以前の敗北は本人にとってどうしても忘れることは出来ない過去なのだろう。そんなリーリエの姿を見たシンジとブルーが彼女に声を掛ける。
「大丈夫だよ。これまで経験した事を活かして戦えば絶対に勝てるよ。」
「そうよ。あんたは私のライバルなんだから、こんなところで躓くなんて許さないからね!」
「シンジさん……ブルーさん……。」
2人の激励を聞き、リーリエは今までの事を思い返す。幾度も苦戦しつつも困難を乗り越え手に入れたジムバッジ、自分の大切なポケモンたちとの出会い、シンジやブルーとの対戦。それぞれが彼女の大切な思い出であり、これまで培ってきた旅の全てだ。リーリエはその思いを胸に、決意を新たにする。
「リーリエは1人じゃない。ポケモンたちに僕たちもいる。」
「……はい!私、必ず勝って、あの時の私を超えて見せます!」
リーリエは手をグッと握り締め、笑顔でそう答える。それは先ほどの緊張とは裏腹に、不安を抱く気持ちは感じられなかった。今のリーリエなら大丈夫だろうと、シンジも彼女に優しく微笑む。
「じゃあ行こう!ナツメさんの元へ!」
「はい!」
シンジの声に続き、3人はヤマブキジムの中へと足を踏み入れる。ジムの内部は暗く電気も付いていない状態で前が見えない。だがその時、突然照明が点き、辺りが眩しく照らされた。
一行が正面を見ると、フィールドには既にナツメが腕を組みスタンバイしていた。彼女は眼を瞑っており、まるで今彼らが着くことを前もって知っていたかのようだ。実際彼女は未来が見えるため、訪れるタイミングを知っていても可笑しくないが。
「ナツメさん……。」
リーリエがそう呟く。その声に反応したナツメは眼を開き、「待っていたわ」と口を開く。
「貴女が今までどれだけの経験をしたかは知っているわ。でもどれだけ成長したかは別。」
ナツメはそう言いながら懐からモンスターボールをサイコパワーによって浮かせる。
「貴女があの時とどう違うのか……それは私の眼で確かめることにします。」
リーリエはナツメの言葉を聞き、覚悟を決めて一歩前に出る。シンジも彼女を心の中で応援しながら、ブルーと共に観客席へと移動する。そして例の如く、審判が所定の位置につき試合の説明を開始する。
「それではこれより、チャレンジャーリーリエ対ジムリーダーナツメによるジムバトルを開始します!使用ポケモンは3体!どちらかのポケモンが全て戦闘不能になればバトル終了です!なお、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます!」
「今回は3体ですか……。」
前回は2対2でのバトルであったが、今回は3対3のスタンダードバトルだ。以前は手も足も出ずに2匹とも倒されてしまったが、今回はどんな結果となるのか。
「私の一体目はこの子よ。」
そう言いナツメは手にしたモンスターボール――実際には浮いているが――をフィールドに投げると、中からポケモンが解き放たれる。ナツメが選んだ一体目は……。
『バリバリ!』
「!?あのポケモンさんは……」
リーリエはナツメが繰り出したポケモンを調べるためポケモン図鑑を開く。
『バリヤード、バリアーポケモン。生まれつきパントマイムが上手く、不思議な波動を使い空気を固めることで人には見えない壁を作り出す。』
そう、ナツメが繰り出したのはバリヤードだった。前回のように最初からフーディンではない事を少し意外だと感じるリーリエだが、ナツメはそんな彼女の疑問に答えるように口を開く。
「言ったでしょう?貴女の成長を私の眼で確かめるって。チャレンジャーの本気を引き出すのもジムリーダーの務め。だからこそ私はこのバリヤードを選んだの。今の貴女には私の全てを見せるのが一番だと思ったからよ。」
リーリエは彼女の言葉を聞き納得する。ならナツメの望み通り、自分もあの時の自分とは違うのだという事を証明しようと、モンスターボールを手にする。
「だったら私も……私の全力の姿をナツメさんに見せます!お願いします!マリルさん!」
『リルル!』
最初にリーリエが繰り出したのはマリルだった。互いの準備が出来たと確認したところで、審判が試合開始の合図をする。
「ではバトル開始!」
審判の合図でバトルが開始される。それと同時に先に動き出したのはバリヤードの方だった。以前と同様、ナツメは声に出して指示を出していない。フーディン以外でも言葉にせず意思疎通ができることを考えると、彼女の持つサイコパワーと実力は間違いなく本物だという事だ。
だがリーリエもあの時とは違う。バリヤードはサイケこうせんでマリルに先制攻撃を仕掛けるも、タイミングが分かっていたかのようにリーリエはマリルに指示を出した。
「ジャンプして躱してください!」
マリルはリーリエの指示に従いジャンプすることで攻撃を回避する。その行動にナツメも驚きはしないが感心する。
リーリエが考えたのは、自分がポケモンたちの眼となり的確な指示を出す、という極めて単純なものだった。ポケモンたちが咄嗟に動けないような動きでも、自分が状況に応じて判断し指示を出すことで、ポケモンたちも安心して行動に移すことができる。リーリエはそう考えたのだ。もしかしたらシンジの言った『1人じゃない』という言葉で思いついた作戦かもしれない。
「マリルさん!バブルこうせんです!」
マリルは空中から無数のバブルこうせんでバリヤード目掛けて反撃を仕掛ける。バブルこうせんはバリヤードを捉え勢いよく迫るが、バリヤードもナツメも慌てる様子は見せなかった。
次にバリヤードが取った行動は虹色の壁を作り出すことだった。以前見たリーリエにはその行動がひかりのかべなのだとすぐに分かった。特殊攻撃を半減させるひかりのかべはかなり厄介な技だが、それでもまだ策はあると続けて攻撃を仕掛ける。
「続けてアクアテールです!」
バブルこうせんに続き、アクアテールで怒涛の攻めを見せるリーリエ。マリルはアクアテールは物理技であるためひかりのかべの影響を受けない。故に決まればダメージも期待できる。しかし、ナツメもそう簡単にその攻撃を通してくれるはずもなかった。
次にバリヤードはひかりのかべを張った時のように何か見えない壁を作り出す。ひかりのかべではないその技も、リーリエには見覚えがあった。自身の防御力を高める技、バリアーだ。バリアーはマリルのアクアテールを弾き返し、バリヤードに傷をつけることを許さなかった。
「特殊技はひかりのかべで防ぎ、物理技はバリアーで固め守る。鉄壁の布陣だね。流石はナツメさんだ。」
「ええ。リーリエはこの状況、どう対処するのかしら?」
「どうだろうね。でも、すぐに結果は分かると思うよ?」
シンジの意味深な言葉に、ブルーは首を傾げる。まるでシンジにはリーリエの考えが読めているような物言いだったからだ。だがシンジの実力を知るブルーは、彼の言葉を信じリーリエの次の行動を見守ることにした。
(アクアテールはバリアーで、バブルこうせんはひかりのかべで防がれる。まさに鉄壁です。ですが、完璧は存在しません!)
「必ず突破口はあります!マリルさん!走ってください!」
『リル!』
リーリエはマリルに走るように指示を出す。マリルもリーリエを信じ、ただひたすらに全力で走り出す。
ナツメは再度テレパシーでバリヤードに指示を出す。バリヤードはエナジーボールを乱れ打ち、マリルの進行を阻害しようとする。マリルはそれを次々と躱していき、徐々にバリヤードとの距離を縮めていく。
「今です!ジャンプして躱してください!」
最後のエナジーボールを高くジャンプすることにより躱し、バリヤードの頭上へと跳ぶマリル。
「バブルこうせんです!」
マリルは上空からバブルこうせんでバリヤードに攻撃を仕掛ける。対するバリヤードもサイケこうせんで反撃する。互いの攻撃は中央でぶつかり合い、大きな爆風が発生する。その爆風はかなり大きく、地上にいるバリヤードはその衝撃で身動きが取れない状態だ。それこそがリーリエの狙いだ。
「全力でアクアテールです!」
爆風を振り払うように薙ぎ払われたアクアテールは、対抗できないバリヤードに見事ヒットする。バリヤードは今の奇襲にも似た攻撃でダウンし、戦闘不能となった。その出来事に、初めてナツメは驚きの表情を浮かべる。彼女にとっても今の戦いぶりは予想外だったのかもしれない。
『バリ……』
「バリヤード、戦闘不能!マリルの勝ち!」
ナツメはバリヤードをモンスターボールへと戻す。
リーリエの狙いは、バリヤードの動きにあった。バリヤードは防御こそ完璧なものの、その分自らの俊敏性にはどうしても難がある。その弱点を見事見抜き、バリヤードから勝利をもぎ取ることができたのだ。相手は違うが、前回とは裏腹にダメージを与え、初めて勝利できたことはリーリエにとって大きな意味を持つことになるだろう。
「やっぱり人とポケモンの強さは自分の眼で見ないと分からないわね。今のは流石に驚いたわ。」
「!?あ、ありがとうございます!」
初めてナツメの心を動かすことができたと、リーリエは思わず彼女に感謝する。基本的に素直なリーリエは、成長を褒められて嬉しさが先に来てしまうのだろう。だがナツメは、「次も上手くいくとは限らないわよ?」と次のポケモンを繰り出す。そのポケモンは……
『エーフィー!』
「!?エーフィさん……」
次に出てきたのはリーリエもよく知るエーフィだった。だがシンジのエーフィと戦ったことがあるとはいえ、油断できる相手ではないのは重々承知している。リーリエとマリルは再び気を引き締めてバトルに臨む。
そして再びバトルが再開される。ペースを乱される前に前に出ようと、先に攻撃を仕掛けることにした。
「バブルこうせんです!」
バブルこうせんがエーフィを目掛け一直線に飛ぶ。しかし、エーフィに直撃したかに見えた攻撃は、虹色の見えない壁に阻まれる結果となった。
「っ!?ひかりのかべですか……」
バリヤードの発動したひかりのかべがエーフィを守ったのだ。バリヤーの効果は自身にしか影響を及ぼさないため効果が消えてしまうが、ひかりのかべは味方にも影響する技。ここにきてバリヤードがエーフィを守っているとは、仲間同士の絆が深いようにリーリエには見えた。だが、それならば私たちも負けていないとリーリエは更に攻勢に出る。
「なら今度はアクアテールです!」
アクアテールがエーフィに迫りくる。物理のアクアテールならばひかりのかべの影響は受けない。だが、エーフィはその攻撃を自慢の身のこなしで優雅にジャンプし、あっさりと躱す。
エーフィは着地と同時に、サイコパワーを高め周囲に複数の球体を発生させる。しかしその攻撃はマリルに向かうのではなく、空中に現れた謎の空間に吸い込まれ消えて行った。何が起きたか分からないリーリエは戸惑うが、現状他に手がない以上攻撃するしかないと判断する。
「バブルこうせんです!」
マリルはバブルこうせんでエーフィに攻撃する。対してエーフィはスピードスターでバブルこうせんを次々と打ち消していった。だがその行動は不思議と攻撃を加えるというよりも、時間を稼いでるように見える。リーリエはそのことに気付いておらず、必死になって攻撃の手を緩めなかった。
「走って撹乱してください!」
リーリエはシンジとの戦いと同じように、走り回ることでサイコキネシスの餌食にならないようにする。だが、サイコキネシスを警戒するあまり、他の行動に対しての反応が遅れてしまうことがある。
マリルは走り回りエーフィに近づいていく。しかし、エーフィは一切微動だにしない。マリルがエーフィの目の前に近づいたとき、ナツメは自身の眼を少しだけ細めた。その瞬間、エーフィはバックステップすることでマリルとの距離を一瞬だけ離す。
その時、マリルの周囲には先ほどと同じ空間が出現した。マリルはその空間から飛び出してきた球体に襲われ、吹き飛ばされる。距離を離したエーフィは一切のダメージを負っていない。
「マリルさん!?」
『リル……』
「マリル、戦闘不能!エーフィの勝ち!」
今の一撃はとてつもない威力で、マリルは一撃で倒されてしまった。そしてマリルがダウンしたのとほぼ同時にひかりのかべの効力が消える。
今の攻撃の威力、特徴により、リーリエは今の技の正体が何なのか理解した。
「みらいよち……」
リーリエの呟いた通り、今の技はみらいよちだ。名前の通り、未来に攻撃を予知することで、時間をずらして相手を攻撃する厄介な技だ。ナツメの真の狙いはこれであり、エーフィは相手の気を逸らしつつみらいよちに集中するため、本気で攻撃を仕掛けなかったというわけだ。
「戻ってください、マリルさん!お疲れさまでした。」
リーリエは戦闘不能となったマリルをモンスターボールへと戻す。その後、次のポケモンが控えるモンスターボールを手にし、フィールドに投げた。
「お願いします!ミニリュウさん!」
『ミリュウ!』
次にリーリエが繰り出したポケモンはミニリュウだ。強力なみらいよちにどう対応するのか、シンジたちにも緊張が走る。
そして開幕早々、エーフィはみらいよちで未来に攻撃を予知する。リーリエはみらいよちが来る前に決着を急ごうと早速攻撃態勢に入る。
「ミニリュウさん!れいとうビームです!」
ミニリュウはれいとうビームで攻撃を仕掛ける。しかしエーフィはその攻撃を宙返りして難なく回避する。
「たつまきです!」
次にミニリュウは大きな竜巻を発生させてエーフィを攻撃する。だがその攻撃も、エーフィはサイコキネシスであっさりと弾き飛ばしフィールドから消し去る。
「それならアクアテールです!」
ならば今度はとジャンプをしてアクアテールで攻めるミニリュウ。だがその瞬間、再びナツメが眼を細め、ジャンプしたミニリュウの周辺に空間が開かれ、そこからみらいよちによる攻撃が降り注ぐ。四方から降り注ぐみらいよちを回避できるはずもなく、その攻撃がミニリュウに直撃する。
みらいよちをまともに受けたミニリュウは吹き飛ばされダウンするも、戦闘不能とまでは行かなかった。だが現在は立ち上がることが精一杯で、戦闘続行は困難と言った様子だ。そう判断したリーリエは、一旦ミニリュウを戻そうとモンスターボールを手にする。
「ミニリュウさん!戻ってください!」
リーリエはミニリュウに「必ずチャンスはあります」声を掛け、その時が来るのを待つことにした。
だが、今度はリーリエはナツメの動きを見逃すことはなかった。
(シンジさんと戦っていなかったら恐らく分かりませんでした。これならチャンスは必ずあります!)
そして次のポケモン、3体目のポケモンを繰り出した。
「お願いします!シロン!」
『コォン!』
リーリエが最後に選出したのはシロンだ。まだまだバトルはこれからだという事を証明するように、シロンは力強く咆哮する。
だがまたしても開始早々、エーフィはみらいよちにより下準備をする。リーリエも「来た!」と内心で思いながらその時を待つことにした。
みらいよちを発動させたエーフィは、次にスピードスターでシロンを攻撃する。
「こおりのつぶてです!」
スピードスターはこおりのつぶてにより行く手を遮られる。先ほどのバブルこうせんの時のお返しという事だろうか。
「続いてこなゆきです!」
更にこなゆきで攻撃を仕掛けるシロン。こなゆきは床を凍らせながらエーフィへと迫る。エーフィはバックステップで距離を離しこなゆきを回避する。そしてそのままサイケこうせんで反撃しこなゆきを相殺する。
(防がれてしまいましたがこれで準備は万端です。後は……)
その時が来るまで待つのみ、とリーリエが思った矢先、その瞬間が訪れたナツメが三度眼を細める。それこそがみらいよちが来る合図だと判断したリーリエは、シロンにある指示を出す。
「床を滑って前に出てください!」
『コン!』
そのリーリエの指示と同時に、空間が開かれみらいよちが発動する。だが、シロンはリーリエの指示通りに先ほどのこなゆきにより凍った床を滑り前に出る。すると四方から出るみらいよちはシロンに当たることなく、シロンの背後でぶつかり合い爆発する。リーリエが待っていたのはこの瞬間だった。
その激しい爆風により、滑って前方に出たシロンは一気に加速する。爆風の勢いを利用し、回避と同時に最大の攻撃チャンスを作り出したのだ。これにはナツメも表情を曇らせ、焦りを伺える様子だった。
『エフィ!?』
すぐさまエーフィの目の前へと近付いたシロン。エーフィも突然の事で対処が遅れ、防御行動に移れなかった。自慢のサイコキネシスすらも撃つ余裕がないほどに焦っているのだ。
「こおりのつぶてです!」
この状況でも素早く繰り出せるこおりのつぶてでダメージを与える。エーフィは近距離で放たれるこおりのつぶてを避けられるはずもなく、直撃して確実なダメージを受ける。その攻撃により、エーフィは怯んで次の行動に移ることができなかったが、衝撃によって距離が離れたシロンには余裕があり、続けて攻撃してエーフィを攻め立てた。
「オーロラビームです!」
虹色の光線、オーロラビームにより怯んだエーフィは態勢を整える間もなくオーロラビームの直撃を受けダウンする。そしてそのダメージが決定打となり、目を回して戦闘不能状態となった。
『エフィ……』
「エーフィ、戦闘不能!ロコンの勝ち!」
戦闘不能となったエーフィをモンスターボールへと戻すナツメ。予想外と言った様子だが、それでも結果だけは自分も知っていたようだ。
「こうなる未来は充分予想できていた。でも、彼女の成長ぶりは想定外ね。ふふ、これだからポケモンバトルはやめられないのよ。」
そう誰にも聞こえない声でナツメは呟く。未来を見通せる彼女だが、その能力も決して万能ではない。だからこそ、彼女はポケモンバトルと言うものを心から楽しむことができているのだろう。現に、今もいつもの冷静な彼女とは違い、小さく口角が上がっていた。彼女が今こそポケモンバトルを楽しんでいる証なのだろう。
(正直言って賭けでした。ですが、シロンを信じているからこそ成功したことなのだと思います。シンジさんの言っていたポケモンとは一心同体……今ならその言葉の意味が分かる気がします!)
先ほどの行動はリーリエがポケモンを信じ、ポケモンがリーリエを信じているからこそ成せた技だろう。ナツメもポケモンとの絆は当然深いだろうが、リーリエもポケモンとの絆であれば負けているなどはこれっぽちも思っていないのだから。
ナツメは最後のモンスターボールをサイコパワーで前に出す。そこから出てきたポケモンは……
『フディー!』
当然彼女のエースポケモン、フーディンであった。再び向かい合ったリーリエはフーディン威圧感に押されてしまう。これほど強力なプレッシャーを放つポケモンであれば、思わず怯んでしまうのも無理はない。
だが、それでも過去の自分を乗り越えるために踏みとどまった。これが今の自分に課せられた大試練なのだと、自分自身に言い聞かせながら。
「遂にナツメさんのフーディンが登場だね。前回は手も足も出なかったけど……」
「前回リーリエは何もできずに負けたんですか?」
「うん。正直言ってボロボロだったよ。」
シンジはその後、「でも」と付け加えて言葉を続ける。
「リーリエはあの時とは違うからね。結果はどうなるか分からないよ。」
ブルーはその言葉を聞き、彼のリーリエに対する信頼はこれほどまでに厚いのかと改めて感じる。羨ましい反面、リーリエのこの戦いにおける成長ぶりが楽しみだと期待している。
フーディンはその場から一切動こうとしない。こちらの動きを待っているのだろうか、と判断したリーリエは、ならば望み通りにと言わんばかりに先制攻撃を仕掛けた。
「こおりのつぶてです!」
こおりのつぶてをフーディン目掛けて放つシロン。しかしその攻撃は、フーディンのサイケこうせんによって阻まれる。サイケこうせんはこおりのつぶてを貫き、シロンに接近する。スピードが速いとはいえ、距離が離れているため回避するのは決して難しくなかった。
「今度はオーロラビームです!」
オーロラビームがフーディンに迫るが、直撃するかに思えた瞬間、フーディンの姿が消える。テレポートだ。そのテレポートにリーリエが反応する前に、フーディンは攻撃を放つ。
フーディンのサイコキネシスが発動し、シロンを壁まで吹き飛ばした。シロンは叩きつけられダメージを負ってしまうも、再び立ち上がり態勢を整える。
(少し油断していました。ですが今度こそは!)
「シロン!こなゆき!」
シロンはこなゆきでフーディンに果敢に攻めていく。範囲の広いこなゆきを避けるのは中々に難しい。だが、フーディンは自慢のテレポートにより再び姿を消す。
(姿を消してもそれはほんの一瞬です。必ず弱点は存在します。)
シンジの言葉を思い出しながら、自分の神経を集中させる。その瞬間……。
(!?今です!)
「シロン!後ろにこおりのつぶてです!」
『コン!コォン!』
『フディ!?』
シロンはすぐに後ろを振り向きこおりのつぶてを放つ。するとそこには、こおりのつぶてでダメージを負ったフーディンの姿があった。フーディンは驚いた表情を浮かべながら、こおりのつぶてにより吹き飛ぶが、受け身をとってダメージを抑える。
リーリエはテレポートで消え相手の姿が見えないのならば、自分が自らポケモンの代わりに目となり、フーディンの居場所を特定すれば行けると考えたのだ。ヤマブキジム戦で最初に見せた戦術の応用という事だ。
しかしフーディンは受け身をとるとすぐさま反撃の態勢に入る。その姿はダメージを負った者の動きには見えず、サイケこうせんによりシロンを攻撃する。シロンはサイケこうせんが直撃し、今まで溜まっていたダメージもあり限界を迎え、遂に戦闘不能となってしまった。
「シロン!?」
『コォン……』
「ロコン、戦闘不能!フーディンの勝ち!」
リーリエはシロンを労いながらモンスターボールへと戻す。だが、今の状況はリーリエの方が不利と言える。
「フーディンにダメージを与えたとはいえ、それはあくまで少量。リーリエには手負いのミニリュウが一体。」
「大丈夫ですかね?このままじゃヤバイ気が……」
「リーリエは逆境に強いからね。それに、彼女の眼は諦めてないよ。」
シンジの言葉にブルーはリーリエの眼をじっと観察する。そのリーリエの眼に灯る輝きは消えておらず、寧ろ更に輝きが増しているようにも見えた。
「これが最後です……お願いします!ミニリュウさん!」
『リュウ!』
最後となったポケモン、ミニリュウに全ての思いを託すリーリエ。その姿を見たナツメは、懐かしさに以前出会った挑戦者の姿を思い出す。
――『これで最後……お願い!』
(あの時の彼も今の挑戦者に似た眼をしていたわね。印象的だったから、忘れることはないわよ。)
そう言いながら、目の前の挑戦者の姿を見据える。かつての挑戦者の姿を重ね合わせながら、最後の戦いを開始する。
フーディンはサイケこうせんでミニリュウを攻撃する。休んだとはいえダメージを回復しきることは出来ていないミニリュウに回避することは困難だろう。リーリエはそのため、攻勢に出ることが最も妥当だろうと判断し攻撃の指示を出す。
「たつまきです!」
たつまきによりサイケこうせんを防ぐミニリュウ。だがたつまきが弾けた時、そこには既にフーディンの姿がなかった。
「!?上です!アクアテール!」
視界の悪さを利用し、テレポートで奇襲攻撃を仕掛けるフーディン。そのフーディンを薙ぎ払うようにアクアテールが放たれる。だがその瞬間、なんと再びフーディンの姿が消えたのだ。
アクアテールが空を切り、隙をさらしてしまったミニリュウの背後にフーディンの姿があった。フーディンはサイケこうせんで至近距離からミニリュウを吹き飛ばす。元よりダメージの溜まっていたミニリュウにこれは致命的なダメージだ。
「ミニリュウさん!?」
『み……リュ……ミニリュ!』
ミニリュウはリーリエの声に反応して立ち上がる。絶対に彼女の思いを裏切らないと心に消えない炎を灯しながら。
「ミニリュウさん!私は……あなたを信じています!だから、ミニリュウさんも私を信じてください!」
『ミリュ!』
リーリエの言葉に反応し、ミニリュウの心の炎はどんどん燃え上がっていく。やがてその炎は青白い光となり、ミニリュウの姿を包み込んだ。
「!?これって!?」
「この光は……この未来は、私が見た未来とはまるで違う……」
ミニリュウの姿が光り輝きみるみると大きくなっていく。その場に居た全員がその現象に驚く。そしてその光から放たれた時、その場には美しく輝くドラゴンポケモンの姿があった。
『クリュー!』
「あ、あの姿は……」
『ハクリュー、ドラゴンポケモン。ミニリュウの進化形。神聖なポケモンとして崇められ、胸の水晶のようなタマには天候を操る力があると言われている。』
そう、ミニリュウはハクリューへと進化を遂げたのだ。リーリエの強い思いがミニリュウをハクリューへと進化させるキッカケとなったのだ。ハクリューはミニリュウの時の可愛らしさとは裏腹に、美しさが備えられ、その背中には以前よりも大きな頼もしさが感じられた。
「進化……進化したんですね!ハクリューさん!」
『クリュ!ハクリュ!』
リーリエもハクリューもその進化に喜びを分かち合う。だが、今は油断できる時ではない。進化したハクリューに警戒し、フーディンも気を引き締める。
フーディンはサイケこうせんで牽制を含めた攻撃を仕掛ける。
「!?来ますよ!ハクリューさん!」
リーリエの声にハクリューは頷く。するとハクリューの尾が緑色の鱗に纏われ、一振りするだけでサイケこうせんを防いだ。今のはまさしくドラゴンテールと言う技だ。
「ハクリューさん!新しい技を覚えたのですね!」
ハクリューは見事ドラゴンテールを覚えた。フーディンもナツメもこの状況に珍しく心の底からワクワクした感情を感じ、それが表情に浮かんでいる。
フーディンは再びテレポートで姿を消す。先ほどのように二度も消えられてしまっては流石のハクリューも打つ手はない。だが、今の力ならばとリーリエはある指示を出す。
「ジャンプしてください!」
ハクリューは床を尾で叩きつけ、空高く飛び上がる。進化したことで力が増し、翼が無くても飛行能力のあるハクリューならではの行動だ。テレポートで姿を消したフーディンはハクリューの元居た場所へと姿を現す。
「れいとうビームです!」
「!?サイケこうせん!」
上空かられいとうビームでフーディンの攻撃を仕掛けるハクリューに対し、ナツメは気分が高まるのと同時に焦りから思わず声に出して指示を出した。ナツメにとってもかなり追い詰められている証拠だ。
れいとうビームとサイケこうせんは両者の中央でぶつかり大きく爆発する。フーディンは爆発による煙が邪魔で視界が悪くなったため、それをサイコキネシスで振り払う。しかしその場には既に攻撃の準備をしていたハクリューがいた。
「ドラゴンテールです!」
高度の高い上空から一気にドラゴンテールを振り下ろしフーディン攻撃する。フーディンは咄嗟にサイコパワーで自らの持つスプーンを強化してクロスすることで防御する。その両者の威力は凄まじく、フィールド全体を爆発が覆う状況だった。リーリエとナツメも思わず頭を押さえるほどだった。
煙が晴れると、そこには距離を離した状態で立っていた2人がいた。しかし互いにボロボロの状態であり、これ以上の戦いは不可能にも見える。リーリエとナツメも喉を鳴らし心臓をバクバクと鳴らしている。
一瞬ハクリューがふらつき倒れそうになるが、なんとか踏みとどまり倒れることを拒絶する。それを見たフーディンは僅かに微笑んだのち、糸が切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。
「フーディン、戦闘不能!ハクリューの勝ち!よって勝者、チャレンジャーリーリエ!」
「かて……た……?やったー!勝てました!」
『クリュー!』
リーリエはその場で飛び上がり、ハクリューはリーリエの元へと駆けつけ抱き合う。それほどまでに接戦であり、リーリエにとっては大きな大きな試練を乗り越え、喜びを表せないほどだったのだろう。
「……フーディン、私たちの負けね。ゆっくり休みなさい。」
フーディンをモンスターボールへと戻すナツメ。だが、そんな彼女の様子は悔しさよりも、楽しかったと思わせる表情の方が強かった。彼女も一人のポケモントレーナーであり人間だ。もしかしたら、普段の彼女よりも今の彼女の方が本当の姿なのかもしれない。
「さあ、これがヤマブキジム勝利の証、ゴールドバッジよ。」
「これがゴールドバッジ……」
リーリエはナツメからゴールドバッジを受け取る。ゴールドバッジはその名の通り金色をしていて、シンプルな二重丸というデザインだった。リーリエはそのバッジを掲げ、自分のポケモンたちと喜びを共にする。
「ゴールドバッジ!ゲットです!」
『クリュー!』
『コォン!』
『リルル!』
今回活躍してくれたポケモンたちも一緒に喜ぶ。そしてリーリエはゴールドバッジをバッジケースにしまった。これで彼女の持つバッジは6個となった。
「いや~、ひやひやしたわよ。もう何回ダメかと思ったことか……」
ブルーはそう言いながらも、その眼には負けられない気持ちから対抗心を燃やしていることがよく分かる。リーリエは応援してくれたシンジとブルーに感謝の言葉を伝えた。
「いいバトルをしてくれたお礼に、貴女の次にいくべき場所を示してあげるわ。」
「本当ですか!?」
ナツメは眼を瞑り精神統一をしてサイコパワーを集中する。リーリエたちが静かにその様子を見守っていると、ナツメは眼を見開き口を開いた。
「次はグレンタウンに行くといい。そこには今までよりも熱いバトルをしてくれるジムがあることでしょう。」
「グレンタウン……ですか?」
グレンタウンはカントー地方のはずれにある小さな火山からできた島だ。当然、そこにもポケモンジムは存在する。
「それに、グレンタウン後にした貴女には、他にも良いことが待っているわ。」
「良い事ですか?」
「ええ、それは行ってからのお楽しみってところね。詳しい事は、その時の楽しみに取っておくのがいいと思うわ。」
ナツメの見た未来を信じ、リーリエは次の目的地をグレンタウンへと決定する。シンジもその意見には賛同し、ナツメに感謝しながらヤマブキジムを後にした。
「これからブルーはどうするの?」
「あたしは勿論セキチクに向かいます。リーリエには負けてられないから。」
シンジの質問に答えたブルーは、リーリエの姿を見つめて握手を求める。リーリエもブルーの握手を快く受ける。
「次会うときはもっと強くなってなさいよ?あたしも絶対に負けないから!」
「はい!もちろんです!また、バトルしましょう!」
こうしてブルーはシンジ、リーリエとは別の道を歩き出す。次に会うとき、彼女は更に強くなっているだろうが、それは自分も同じだと心の中で強い思いを抱く。
「さあ、僕たちも出発しようか。」
「はい!」
こうして無事にヤマブキジムの再戦で勝利を手にし、過去の自分を乗り越えたリーリエ。ナツメの見た未来がどんなものか分からないが、それでも前に進もうと決意を新たにする。リーリエとシンジのカントーを巡る冒険は、まだまだ続く!
いかがでしたか?予想していた人もいるかもしれませんが、ハクリュー進化回でもあります。
ジム戦は楽しいのですが仕様上どうしても長くなってしまって6時間ほどかけて書いているんですよね。まあ苦になるというわけではありませんが。
感想も意見箱もいつでもお待ちしていますので気軽のどうぞです。ヌシもレッツゴーイーブイを全裸待機しながら次話に取り組みます。ではでは!ノシ
あっ、因みにレッツゴーイーブイは2つ予約しました。ピカチュウ?知らない子ですね。