ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
「……そうか、分かった。ビッケ、引き続き調査を続けてくれ。」
「畏まりました、グラジオ代表。」
俺、グラジオは代表である母様の代理としてエーテル財団を率いている。今は俺の側近として働いてくれているビッケにある調査を依頼したところだ。
「グラジオ坊ちゃん、少々よろしいですか?」
「……ザオボ―、その呼び方はやめろと言っているだろう。」
「それは申し訳ありません。私にとって坊ちゃんはいつまでも坊ちゃんですから。」
この緑色の大きく特徴的なサングラス身に着けている男はザオボ―。正直言って俺はこいつを信用していない。以前エーテル財団での騒動の時、こいつは俺たちの事を平気で裏切っていた。母様がウツロイドの神経毒に侵されていたからと言って許される行為ではない。それに……こいつが過去に、ヌルにやった行いを、俺は許すことは出来ない。
「……まあいい。ザオボ―、俺に何の用だ?」
「最近何やら調査をされているようですね?」
「ああ、ウルトラホールの調査の事か。」
ザオボ―の言う通り、俺は今ウルトラホールの調査を部下たちに依頼している。あの事件以来
それに、いつまでもアイツに頼ってばかりって訳にもいかないからな。
「そうですそうです。ウルトラホールの調査をしていることは私もご存知です。」
「それがどうかしたのか?」
「ではなぜ私には声を掛けて下さらなかったのですか?」
こいつはどうやらウルトラホールの調査に加われなかったことを根に持っているようだ。そんな小さなことのために俺の元を訪れるとは、相変わらず器の小さな奴だ。
「私も調査の一員に入れて下されば、必ずや成果を出して見せます。私の出s……ではなく、エーテル財団のためにも私を調査に加えた方がよいと思われます。」
全く、こいつは本当に考えが読みやすいな。こいつの事は気に入らないが、考えがすぐに表に出やすい事に関しては感謝するべきか。
「それには及ばない。」
「それはどういうことですか?」
「既に協力者は手配している。ビッケや一部の財団員に含め、ポケモン研究家のククイ博士に加え、空間研究所所長のバーネット博士にも依頼した。お前が心配することではない。」
「ぐぬぬ……。」
バーネット博士はククイ博士の妻であり、ウルトラホールやUBを含む空間に関わる研究をしている。彼女もよく財団に顔を出すため、この話を聞いたバーネット博士が自ら志願したのだ。俺自身その申し出には断る理由がなく、過去にリーリエが世話になったことを知っているため彼女の人柄は信用に値するだろう。
ザオボ―は悔しそうに歯をギリギリと鳴らしながら代表室を後にした。
「……俺もたまには外に出るか。」
一通りの仕事を終えた俺は息抜きのために少し外へと出かけようと代表室を出た。代表としての務めは嫌いではないが、ザオボ―のような奴を相手にすると流石の俺でも少し疲れる。ふっ、偶に旅をしているあいつらが羨ましく感じるよ。
エーテル財団の外へと出た俺がやってきたのはメレメレ島だ。偶にはあいつに会うのも一興だろう。
「ハリテヤマ!つっぱりです!」
「アシレーヌ!アクアジェット!」
メレメレ島のリリィタウンを訪れた俺が初めに目にしたのは、2人のトレーナーがポケモンバトルをしている姿だった。バトルフィールドの中央にてハリテヤマとアシレーヌが正面からぶつかる。左手でハリテヤマがアシレーヌを押さえていると、続けて空いている右手でアシレーヌを押し返す。アシレーヌはその一撃に跳ね返され、戦闘不能となった。
「アシレーヌ!?」
「そこまで、のようですな。」
どうやら今ので決着がついたようだ。そのタイミングを見た俺は、2人の元へと近付いた。
「悪くないバトルだったな、ミヅキ。」
「グラジオ君!?どうしてここに?」
俺が声を掛けた相手、ミヅキは目を見開き驚く。人の顔を見て驚くとは相変わらず失礼な奴だ。だが、こいつの事は何故か嫌いになれないな。
「偶々立ち寄っただけだ。」
「そうなの?もしかして今の戦い見てた?」
「最後だけだがな。」
「そうなんだ。でもやっぱりおじいちゃんには敵わないや。」
ミヅキはそう言い、ハリテヤマと共に歩いてくる人物へと目を移す。
「ハッハッハ!まだまだ孫に負けるわけには行きませんですから!」
ハリテヤマのトレーナー、ハラさんはそう言いながら大笑いする。ハラさんは四天王の1人であり、その強さは四天王として恥じないほどの実力者だ。俺でも勝てるかどうかは怪しいだろう。
「ハラさん、ご無沙汰してます。」
「グラジオ、久しぶりですな。今日はいかがされたかな?」
「いえ、今回はただ立ち寄っただけです。」
「そうですか。ならばゆっくりとしていくといいですぞ。」
俺の言葉に納得したようにハラさんが頷いた。その時、今度はミヅキが俺に声を掛けてきた。
「そう言えばエーテル財団の調子はどう?グラジオ代表。」
「その呼び方はやめてくれ。俺には合わない。」
恥ずかしいからと言う意味ではない。エーテル財団の代表は俺よりも、母様にこそ似合う称号だ。その時が来れば、俺は母様に再び代表について欲しいと考えている。それこそがエーテル財団のためにも、アローラのためにもなるだろう。
「あはは、ごめんごめん。」
「……エーテル財団は順調だ。以前に比べ、信頼も活気も戻りつつある。」
「そっか。グラジオ君も頑張ってるんだね。」
「お前こそ、しまクイーンとしての仕事はどうなんだ?」
以前メレメレ島のしまキングを務めていたハラさんに代わり、今ではミヅキがしまクイーンとして活動している。エーテル財団の代表を務めている俺が言うのもなんだが、しまクイーンとしての役職も簡単にいくものではないだろう。
「うん!こっちは楽しくさせてもらってるよ。島の人たちもよくしてくれるし、おじいちゃんも色々と教えてくれてるからね。」
「ふっ、そうか。」
「グラジオ君、なんだか変わったよね。」
「?そうか?」
ミヅキに変わったと言われたが、俺には見当がつかなかった。それほど変わったという自覚なんてない。俺が疑問に感じていると、ミヅキがその疑問に答えるように言葉を続けた。
「だって最初に会った時はムスッとしてたのに、今ではよく笑うようになったんだもん。なんだか人が変わったみたい!」
「……ほっとけ。」
ミヅキはニヤニヤしながらこちらを見る。俺は何だか気恥ずかしくなり顔をそむけた。
だがミヅキの言うように俺は変わったのかもしれない。昔は母様の変わりように戸惑い、ヌルと妹であるリーリエを助けたいがために強くなりたいという思いを抱いて、ただひたすらに孤独と戦ってきた。だが、アイツと出会ってからは違った。
アイツは守りたいもののため、助けたいもののため、そして自分が強くなりたいと思い、仲間を信じて戦いつづけていた。どれだけ傷付いても、決して諦めることなく。そんなアイツを見たから、俺も変わることが出来たのかもしれない。ふっ、不思議なやつだよ、アイツは。
俺は心の中でそんなことを考えながら空を見上げた。俺の最大のライバルであり、最高の親友の姿を思い浮かべながら。
「……リーリエの事を頼むぞ、シンジ。」
「しかしあんたがこんなことをするなんて想像がつかないね。」
「ほっとけよ。それより、こんなところでなにか用か?プルメリ。」
「なに、あんたのしまキングっぷりを見に来ただけさね。」
「……ふん。」
俺様、グズマの元を訪れたのは元スカル団の幹部であるプルメリだ。俺も元はスカル団のボスとして部下たちを率いてきたが、そんなスカル団も今では解散。俺についてきた奴らには悪いが、今では好きなことをやらせてるさ。
今俺はしまキングと言う地位についているが正直な話、自分でも俺がしまキングをしているなんて違和感しかねえ。俺もスカル団になる前はしまキングやキャプテンなんて柄でもねえことを目指したりもしていたが、カプ・コケコだけじゃなく、島の人々やしまキングをやっていたハラにも認められなかった。誰にも認められなかった俺はそれが納得できず、師事していたハラの元を飛び出しスカル団を結成するぐらいに昔の俺はぐれていた。
だが、アイツと出会ってからはそれも変わった。誰にも認められなかった俺を、ルザミーネ代表に利用されているだけで、彼女にすら認められなかった俺を、アイツは認めてくれたんだ。
……そうだあれはアイツがチャンピオンになってからの事だった。
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『クッソ!?なぜお前は壊されない!』
『グズマ……』
『今まで俺様に壊せないモノなんて存在しなかった!だがお前だけだ!お前だけは何度やっても壊せない!こんなの納得できねえ!こんなんじゃ、誰も認めてなんてくれねえ!ルザミーネ代表も、結局俺を認めてはくれていなかった!だれも……俺の事を……。』
『……グズマ、僕はあなたの事、本当にすごいって思ってるよ。』
『!?お前、何言って……』
『あなたはスカル団という一つの組織を動かしていた。例えその組織がどんなに悪い集団であったとしても、あれだけ慕われるなんてことは中々出来るものじゃない。』
『だが、あれはアイツらが勝手にやったことだ!』
『そうだったとしても、彼らは心の底からあなたの事を尊敬していた。それに、僕はあなたの事、既に認めているつもりだよ。』
『なに?』
『グズマ、あなたのポケモンバトルは荒っぽくもあるが、同時に力強さを感じる。それにあなたは、ポケモンバトルに負けても決してポケモンの所為にはしないだろう?あなたはそれだけポケモンを大事にしているってことだよ。』
『……負けたのは俺が弱いだけだ。』
『自分の弱さを認められるのも一つの強さだと思うよ。』
『お、お前に俺の何が分かるって』
『それに、僕やスカル団のメンバー以外にも認めている人はいるよ。』
『!?』
『ハラさん。あの人は、僕にこう言ったよ。「もしグズマが改心することが出来たのであれば、もう一度私の元へ連れてきてくれないか。彼には才能がある。」って』
『!?ハラ……』
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アイツからその話を聞いてから、俺は目を覚ますことが出来た。俺は決して認められてなかったんじゃない。認めてもらおうとしてなかっただけだってな。それから俺はハラの元に戻り、したこともない努力をやったさ。今度こそ誰かに、いや、みんなに認めてもらうためにな。そして俺はアーカラの守り神カプ・テテフに認められ、遂にアーカラのしまキングになることが出来た。
「グズマさん!」
「ああ?」
俺が昔の事を思い出していると、アーカラ島のコニコシティの子供が俺の元へと走ってきた。
「グズマさん!これ!」
「あん?何だよこれ?」
子供が差し出してきたのは似顔絵だった。中央には笑顔で笑っている男描かれていた。男に額には歪んだサングラスが掛けてあり、その姿には見覚えがあった。
「これ、グズマさんの絵!町の子供たちみんなで書いてみたの!」
「!?これが……俺?」
「うん!」
これが俺……はっ、こんなの……
「……全然似てねぇじゃねえか。」
「そうかな?」
「あたりめぇだろ。俺様はな、もっと凛々しくて強い、破壊って言葉が最も似合うグズマ様なんだからよ。」
俺がその子供にそう言うと、子供は笑顔で手を振りながら走り去っていった。ったく、これだからガキは嫌いなんだ。人を見る目もろくにないでよ。
「……ふふ。」
「あ?何だよプルメリ。何笑ってんだよ。」
「わるいわるい。だってあんたが柄にもなくにやけてるからさ。」
「!?う、うっせぇ///」
ったく、こんなことで口が歪んじまうとは、流石の俺様も気を緩めすぎちまってるかな。だが、何故だろうな。人から感謝されるのは、存外悪いもんじゃねえ。
まさか壊す側である筈のグズマ様が逆に壊されちまうなんてな。
「……こうなったのもテメェの所為だぜ、シンジ。」
俺は俺が変わるきっかけを与えたムカつく男の顔を思い浮かべながらそう呟いた。
「へクシュ!」
「大丈夫ですか?シンジさん。もしかして風邪ですか?」
「いや、寒気はないから風邪ではないと思うけど。」
「あまり無理はしないでくださいね?」
「うん、ありがとう、リーリエ。」
「お兄様たち、元気にしてますかね?」
「グラジオたちならきっと元気にやってるよ。」
「そうですよね。」
「さ、僕たちも先に進もう!」
「はい!」
シンジとリーリエは互いに手を繋ぎ、次なる目的地へと歩みを進めた。彼らのカントーを巡る冒険は、まだまだ続く。
グラジオ君、グズマさんの二人の話でした。何故この二人かって?個人的に好きなキャラだからです。ただそれだけ。でも書いてて楽しかったので満足です!
因みにリーリエとシンジは手を繋ぐまでなら躊躇なく出来るようにはなった感じです。地味なところで少しずつ進展があったりしてます。
どうでもいいことですが、グラジオ君はやせ我慢で苦い物を食べて実は甘いものが好きと言う印象。
一つ質問がありましたが、ウルトラサン・ムーンの設定は反映するのかと言う疑問がありました。自分は設定と言うよりも、のちにウルトラサン・ムーンのストーリーを書こうとは考えています。カントー編が無事終了しなければ話になりませんが……。
それともう一つですが、カントー入りしたリーリエのストーリーも見てみたいとのことでした。元々考えていた話ではあるので、いずれ書く予定ではあります。遠くない内に書くとは思うので、気長に待っていていただけたら幸いです。
では次週までに間に合うように頑張ります。……今度こそ大丈夫なはず……です←自信なし