ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
満足していただけたら幸いですが、もし『なんか違う』とか思ったりした場合は言ってください。修正するか場合によっては別に作り直しますので……。
個人的にパソコンでタイピングするとスピード的に結構楽です。逆にスマホだと3倍以上時間かかってマトモに書けませんが。
と言うわけで本編です。どぞ!
新しい仲間、チラーミィをゲットしたリーリエ。次なる目的地、タマムシシティに向けシンジと共に旅を続けていた。リーリエはゲットしたチラーミィを他のみんなに紹介しようとしていた。
「みなさん!出てきてください!」
『コォン!』
『ソウソウ!』
『リルル!』
『チラミ!』
リーリエがポケモンたちの入っているモンスターボールを一斉に上空に投げ、ポケモンたちを外に出した。彼女のポケモンたちは今日も元気いっぱいのようだ。
「紹介しますね。新しく仲間になったチラーミィさんです!仲良くしてくださいね!」
リーリエはチラーミィを抱きかかえてみんなに微笑みながら紹介する。チラーミィは抱きかかえられたのが恥ずかしいのか、少し顔を赤くしながら視線を外している。ルリリも緊張した様子だが、少し慣れてきたのかチラーミィの仲間入りを歓迎している様子だ。フシギソウとシロンも笑顔で迎えている。
「シンジさん、少しよろしいでしょうか?」
「?どうしたの?改まって……」
チラーミィの紹介を終えたリーリエはシンジの方へと振り返る。その眼差しはいつもと違い真剣な表情そのもので、何か覚悟を決めたような顔をしていた。
「……思い切って言います。私とバトルしてください!」
「!?……理由を聞いてもいいかな?」
リーリエははっきりとシンジにバトルをしてほしいと懇願した。シンジはその理由を知るためリーリエに尋ねる。リーリエはシンジの視線から目を逸らすことなく、真っ直ぐ見つめその理由を告げた。
「……次のジムはエリカさんです。エリカさんは間違いなく強い、それは私でも分かります。」
シンジは無言のままリーリエの語る覚悟に耳を傾ける。過去の戦いを思い出しながらその覚悟をシンジに伝える。
「勿論、今まで戦ってきたジムリーダーさん、それに他のトレーナーさんもみんな強敵でした。今まで勝てたのもポケモンさんたちが頑張ってくれたおかげです。」
リーリエはその後、歯を食いしばるようにしながら語り続ける。リーリエのその珍しい姿に、シンジはどこか見覚えがあると感じながら黙って続きを聞くことにした。
「ですが、これからも強い人たちとたくさん出会うと思います。その人と戦う為に、ポケモンさんたちだけでなく、私も強くならなくては意味がありません。それに、このままではエリカさんやナツメさんに勝つことは出来ないと思います。」
リーリエはどうやら不安を抱いているようだ。ヤマブキジムでの圧倒的敗北、それこそが彼女を芯から変えたいと思わせるきっかけになったのだろう。
「だからお願いです!シンジさんに勝てないと言う事は重々承知しています!でも私は!」
「うん、分かった、それ以上言わなくていいよ。但し、一つだけ忠告しておくよ。」
「忠告……ですか?」
シンジは右手の人差し指を立て、リーリエの言葉を遮った。手合わせの前の忠告がどのような内容かは分からないが、シンジの表情からそれはとても重要なことなのだろうとリーリエはシンジの言葉を聞き逃すまいと注意して聞くことにした。
「バトル前に“勝てない”なんて思っちゃだめだよ。ポケモンバトルは気持ちで負けたら勝負にも負ける。必ず“勝つ”、そんな強い意志を持ってなければ勝者にはなれない。そのことは忘れないでほしい。」
「!?は、はい!」
シンジの忠告を、リーリエはとても大事なことだと感じ肝に銘じた。シンジもそんなリーリエの姿を見ると、彼女なら更に強くなれるだろうという希望を感じ、バトルすることを承諾した。
「バトルは3対3の3本勝負でいいかな?」
「はい!よろしくお願いします!」
こうしてリーリエの初めての特訓が始まることとなった。
私とシンジさんは距離を離し、再び互いの姿を見据えました。いつもは応援してくれたり後ろで見ていたりしていただけなので分かりませんでしたが、こうして立ってみると威圧感が半端ではありません。あの優しいシンジさんからは想像できないプレッシャーが私を押してきます。立っているのがやっとです。
「大丈夫?」
「!?は、はい!問題ありません!」
いけません、先ほどシンジさんから忠告をしていただいたばかりなのに最初から気持ちで押されてしまってました。集中しなくてはいけませんね。
「準備はいいかな?そろそろ始めるよ。」
「はい!いつでも大丈夫です!」
シンジさんの言葉に私はそう答えました。チャンピオンであるシンジさんに今の私がどれだけ食らいつけるか分かりませんが、それでも私は強くなるために、憧れの人の背中に追いつくために、大切なものを守れるようになるために、今の自分の壁を乗り越えなくてはなりません。
シンジさんは私の返答を聞くと同時に、自分のモンスターボールを手にしました。そしてそのボールを投げると、中身から最初のポケモンさんが姿を現しました。
「お願い!グレイシア!」
『グレイ!』
シンジさんの最初のポケモンさんはグレイシアさんでした。グレイシアさんはこおりタイプ、私の手持ちに相性のいいポケモンさんはいません。ならばこちらのポケモンさんはこの子です!
「お願いします!チラーミィさん!」
『チラ!』
私が選んだのはチラーミィさんです。チラーミィさんにとっては初陣ですが、このバトルでどれほどの動きができるか見極めるのも重要です。胸を借りるつもりで挑ませていただきます。
「さあ、先攻はリーリエからでいいよ。」
「それでは遠慮なく行きます!」
私はシンジさんの誘いに乗る形で先に攻撃を仕掛けました。シンジさんほどの相手であれば後手に回れば回るほど不利になっていきます。ならばここは多少強引でも攻めるべきでしょう。
「チラーミィさん!スピードスターです!」
チラーミィさんは体を回転させ、同時に尻尾からスピードスターを放ち先制攻撃を仕掛けました。しかし、シンジさんは一切動じることになく、瞬時にこちらの攻撃を対処する行動に移りました。
「こおりのつぶて!」
グレイシアさんはこおりのつぶてでスピードスターに迎え撃ってきました。しかしその攻撃は驚くべきもので、なんと全てのスピードスターを狙い撃つように的確に撃ち落としてきたのです。ポケモンとの信頼関係と培ってきた経験を活かしているからこそできる技なのかもしれません。
「続けてれいとうビーム!」
グレイシアさんは休む暇なくれいとうビームで攻撃を仕掛けてきました。先ほどの反撃に驚いていた私とチラーミィさんはすぐ反応することが出来ず、れいとうビームの直撃を受けてしまいました。
「チラーミィさん!?大丈夫ですか!?」
『チラ……ミィ!』
チラーミィさんは私の声に反応し、辛うじて立ち上がってくれました。流石シンジさんのポケモンさんです。たった一発の攻撃でチラーミィさんは致命傷を負ってしまいました。牽制攻撃にすら冷静に対処し、すかさずに隙を逃すことなく攻撃を確実に当ててきました。ですがまだ始まったばかりです!
「チラーミィさん!おうふくビンタです!」
チラーミィさんはボロボロな体に鞭をうち、グレイシアさんに向かって急接近しました。そのスピードは決して衰えておらず、チラーミィさんの突進力を物語っているようでした。これなら決まった、と思った私ですが、そんな期待も意味を成しませんでした。
「グレイシア!バリアー!」
グレイシアさんは自分の正面を守るよう頑丈な壁を貼り、チラーミィさんの攻撃を跳ね返しました。攻撃ではなかったためチラーミィさんにダメージはなく、上手く受け身をとることが出来ましたがこのままでは手の打ちようがありません。
「シャドーボール!」
「っ!?シャドーボール!?」
シャドーボールはゴーストタイプの技、ノーマルタイプのチラーミィさんには全く効果はないはずです。シンジさんがそのことを知らないはずがありません。なにか考えがあっての事でしょうが、私には一切検討がつきません。
グレイシアさんはシンジさんの指示通りにシャドーボールを撃ちました。しかし、それはチラーミィさんに一直線に向かったのではなく、チラーミィさんの目の前で地面に着弾しその場で爆発しました。その爆発によって発生した煙に視界が奪われ、私もチラーミィさんもグレイシアさんの姿を見失ってしまいました。
「チラーミィさん!スピードスターで煙を払って下さい!」
チラーミィさんは再びスピードスターを放ち目の前の煙を払いました。しかしそこには……
「グレイシアさんがいません!?」
そうです。その場にはグレイシアさんの姿が見当たりませんでした。どこに行ったのかと周囲を見渡してみるも、全然姿が見えません。
「今だ!こおりのつぶて!」
「っ!?もしかして!?」
シンジさんの言葉にハッとなった私はチラーミィさんと共に上空を見上げました。そこには高く飛び上がったグレイシアさんの姿があったものの、時すでに遅しと言うものでした。グレイシアさんは既にこおりのつぶてを撃ち、鋭くチラーミィさんを捉えました。その攻撃はチラーミィさんに直撃し、大きな爆風と共にチラーミィさんは飛ばされて目を回していました。
「チラーミィさん!」
『チラ……』
「……お疲れさまでした。後はゆっくり休んでいてください。」
チラーミィさんは戦闘不能となってしまい、先ほどまでの元気が無くなっていました。私はチラーミィさんに感謝の言葉を述べながらモンスターボールへと戻しました。
「確かにシャドーボールはチラーミィに効果のない技。でも使い方によっては有効な攻撃手段にも変わるんだ。工夫次第で戦術はいくらでも増えるってことは覚えておいた方が良いよ。」
「はい、とても勉強になります!」
シンジさんの言葉に納得するように私はそう返事をしました。確かに相手の視界を奪うと言うのは戦術としてかなり有効でしょう。それに効果のない技で攻撃することによって相手を油断させることもできます。シンジさんとの戦いは学べることが多そうですね。
「グレイシア、お疲れ様。よく頑張ったね。」
『グレイ!』
シンジさんは自分の元へと戻ってきたグレイシアさんの頭を撫でました。グレイシアさんも嬉しそうにしながらモンスターボールの中へと入っていきました。
「では私の二体目はこの子です!フシギソウさん!お願いします!」
『ソウソウ!』
「じゃあ僕のポケモンは、リーフィア!お願い!」
『リーフ!』
続いて私が繰り出したポケモンはフシギソウさんです。対するシンジさんはリーフィアさんでした。リーフィアさんはくさタイプのみ。フシギソウさんはくさタイプに加えどくタイプを持っています。相性だけで言えばこちらが圧倒的に有利でしょうが、シンジさんは常識で勝てるほど甘いトレーナーさんでは無いことは分かっています。
「次のジム戦、エリカさんはくさタイプ。同じくさタイプのリーフィアなら練習相手に持って来いなんじゃないかな。」
シンジさんの言う通り、くさタイプのリーフィアさんであれば次のジム戦の練習相手として申し分ありません。それどころかこれ以上ないくらいの練習相手です。このバトルでジム戦の突破口を見つけるのも重要なことですね。
「フシギソウさん!つるのムチです!」
フシギソウさんはつるのムチで先制攻撃を仕掛けました。対してシンジさんが取った行動は……
「つばめがえしではじき返して!」
「ひこうタイプの技!?」
リーフィアさんが繰り出したのはひこうタイプのつばめがえしでした。リーフィアさんの額にある草が青白く光り、つるのムチをあっさりとはじき返してしまいました。ダメージがあるわけではありませんが、攻撃を一手潰されてしまったのは大きいです。
「ならはっぱカッターです!」
「エナジーボールで撃ち落して!」
フシギソウさんが放ったはっぱカッターはリーフィアさんに接近していきますが、リーフィアさんの一発のエナジーボールで見事なまでに撃ち落されてしまいました。はっぱカッターを貫通するようにしてこちらに接近してきますが、フシギソウさんはその攻撃を冷静に回避しました。流石にはっぱカッターが壁になっていたことによってスピードは少しでも低下していたようです。
「一発一発慎重に攻めるのも大事だけど、技と技の組み合わせも重要なテクニックだよ。」
「組み合わせ……ですか。」
「単発の攻撃であれば読まれてしまう。でも技を組み合わせることによって相手を惑わせることもできるんだ。」
なるほど、確かにそれは大事かもしれません。よく考えれば今まで私は技の組み合わせと言うものを余り使ってないかもしれません。実戦でいきなりやるのは難しいかもしれませんが、それでもやらなければ始まりませんね。
「フシギソウさん!とっしんです!」
『ソウ!』
フシギソウさんは勢いをつけ、とっしんでリーフィアさんに真っすぐ接近していきます。しかしシンジさんも黙って攻撃をさせてはくれません。
「リーフィア!近付けさせないで!連続でエナジーボール!」
正面から突進して近付いてくるフシギソウさんに対し、リーフィアさんはエナジーボールを連続で撃ってきました。簡単には近付けさせてくれないようですが、それでもフシギソウさんは上手く回避しながら勢いを緩めません。幸いにもエナジーボールは直線的な技であるため、冷静に対処すれば回避は決して困難ではありません。
「今です!つるのムチ!」
「つばめがえし!」
充分に接近したところでフシギソウさんはつるのムチで攻撃しました。つるのムチは先ほどと同様につばめがえしで跳ね返されてしまいました。しかし、それこそが私の狙いでもありました。
「まだです!はっぱカッターです!」
つるのムチをはじき返したことにより一瞬の隙が生じたリーフィアさんに無数のはっぱカッターをフシギソウさんは放ちました。流石のリーフィアさんこれを回避することが出来ず、確実にダメージを与えることが出来ました。リーフィアさんはダメージを受けるも、綺麗に受け身をとることでダメージを最小限に減らしました。流石の対応ですね。
「とっしんで接近し、つるのムチで牽制、そして本命のはっぱカッターで攻撃。いきなり成功させるなんて流石だね。これは僕も一本取られたよ。」
「あ、ありがとうございます!ですが……」
「まだバトルは続いているからね。僕達も行くよ!」
シンジさんに褒められ私は少し気を緩めてしまいましたが、シンジさんの言葉で私は目が覚めたように再び気を引き締めることが出来ました。特訓とは言えシンジさんとのバトル。一瞬の油断が命取りとなってしまいます。
「とっしんです!」
「もう一度エナジーボール!」
リーフィアさんは再びエナジーボールを連続で撃ち迎え撃ってきました。しかし先ほどとは違い、こちらを的確に狙っている攻撃ではありません。エナジーボールを避けるように迂回しながらフシギソウさんは接近していきます。この戦術、どこかで見たことがあります。
私はその時、どこで見た戦術かを思い出しました。ですが気付いた時には既に遅く、シンジさんの術中に嵌ってしまいました。
「リーフブレード!」
リーフィアさんはフシギソウさんが充分に近寄ったところで、リーフブレードによって切り裂いてきました。牽制攻撃によって相手を誘うようにルートを作り、接近してきたところで確実に技を当てる。まさにクチバジムでのマチスさんと同じ戦術でした。
「フシギソウさん!?」
フシギソウさんは疲労による体力の限界がきたのか、今の一撃で戦闘不能になってしまいました。つるのムチを弾かれ続けていたのも大きな要因かも知れません。何よりリーフィアさんの技がとても強力でした。それだけシンジさんとポケモンさんは厳しい試練を乗り越えてきたという事なのでしょう。
「お疲れさまでした。ゆっくり休んでください。」
「違う相手だからと言って同じ戦術を使ってこないとも限らないよ。戦術の幅は無限大、常に警戒は怠らないようにね。」
「はい!」
シンジさんの言う通りですね。決して油断していたつもりはありませんでした。でもシンジさんは私の予想の遥か上を行っています。これがチャンピオンの強さなのでしょうか。ですがそれ以上に何か重要なものがある気がします。それさえわかれば私も強くなれるかもしれません。
それにしても流石はシンジさんです。今まで戦ったどのトレーナーさんよりも戦い方が上手いです。一度見た戦術を自分のものの様に使い、ポケモンさんの特徴を熟知しそれを最大限に活用しています。的確なタイミングでの指示、戦法の切り替え、テクニック、どれをとっても最高峰のトレーナーでしょう。まだまだ未熟な私でさえそう思えます。
「リーフィア、お疲れ様、よく頑張ったね。」
シンジさんはリーフィアさんの頭を撫で、モンスターボールに戻しました。そして次のポケモンさんが入ったモンスターボールを手に取り準備をしました。
「次がラストだよ。準備はいいかな?」
「はい!最後の戦い、よろしくお願いします!」
シンジさんは最後のポケモンさんが入ったモンスターボールを上空に投げました。その中から出てきたのは、私の想像していた通りのポケモンさんでした。
『フィーア!』
そう、最後のポケモンさんはシンジさんの相棒でもあるニンフィアさんでした。ニンフィアさんはモンスターボールから出てくると、すぐにシンジさんの元へと振り向き足元に近寄りました。シンジさんも姿勢を屈め、近寄ってきたニンフィアさんの頭を優しく撫で声を掛けました。
「お願いね、ニンフィア」
『フィア!』
その姿はまさに相棒、パートナーそのもの。その姿を見た私は、自分もこの子との絆なら負けないと思いながら最後のモンスターボールを手にしました。
「……お願いします!シロン!」
『コォン!』
私が最後に繰り出したのはシロンです。私の最初のパートナーであり、最も信頼するポケモンさんです。まだ発展途上かも知れませんが、それでも確かな絆はあると確信しています。
「最後はやっぱりシロンできたね。ニンフィア、気を引き締めていくよ!」
『フィーア!』
どうやらシンジさんも本気で来るようです。こうして対峙してみると、いつものニンフィアさんとは全くの別人に感じます。シンジさんに甘え、可愛らしい姿を見せる時とは裏腹に、今では圧倒的な威圧感を感じさせます。特別のポケモンさんの纏う特殊な雰囲気と言うものでしょうか。
ですがここで退いてしまっては意味がありません。私はニンフィアさんの放つプレッシャーに耐えながら、雰囲気に呑まれないようにするため先手を取ることにしました。
「シロン!こなゆきです!」
「ようせいのかぜ!」
初めはこなゆきで先制攻撃を仕掛けました。しかしニンフィアさんのようせいのかぜにより、こなゆきはあっさりと相殺されてしまいました。その隙の無いようせいのかぜは素人目の私から見ても完成されていて、威力も相当高いことが伺えました。
「なら今度はこおりのつぶてです!」
続いては無数のこおりのつぶてをニンフィアさん目掛けて放ちました。シロンも成長しているのか、そのこおりのつぶては今までのよりも素早く、鋭さも増していました。これなら少しはシンジさんたちに一矢報いることが出来る、と感じた私ですが、その考えは甘かったのだと思い知らされることになりました。
「ニンフィア!でんこうせっか!」
ニンフィアさんはでんこうせっかを繰り出しました。私はその動きに驚かされました。何故なら正面から無数に襲いかかるこおりのつぶてを躱しながら接近しているのです。しかもその間、ニンフィアさんのスピードは一切衰えることがありません。殆どこおりのつぶてと同じスピードで回避に成功しながら接近してくるニンフィアさんの動きに、私は思わず見惚れてしまっていました。
自分の渾身の攻撃を躱され驚いたシロンは、回避行動が間に合わずにニンフィアさんのでんこうせっかを正面から受けてしまいました。そしてニンフィアさんは休む暇もなく続けて攻撃を繰り出してきました。
「ムーンフォース!」
シンジさんのニンフィアさんが持つ最大の大技、ムーンフォースです。上空に上がり月の力を借りるそのムーンフォースの威力はかなり強力です。それをシンジさんのポケモンさん、それもニンフィアさんの放つムーンフォースの威力は計り知れません。それを直撃すれば流石のシロンも一溜りもないでしょう。私は慌ててシロンに回避の指示を出しました。
「シロン!躱してください!」
私の言葉に反応し、シロンは回避行動の態勢に入りました。それと同時に、ニンフィアさんが力を解き放ち、ムーンフォースが放たれました。勢いよくシロンに接近してきたムーンフォースを、シロンは横に大きくステップする形で回避しました。
しかし確実な回避には至らず、着弾時に発生した爆風に巻き込まれてしまいました。ダメージは抑えられたと思いますが、それでも吹き飛ばされた反動のダメージは勿論あるでしょう。それほどまでの凄まじい威力でした。あれがもしZ技であったらと思うとゾッとします。
「シロン!?大丈夫ですか!?」
『コォン!』
シロンはなんとか立ち上がり、私の声に返事をしてくれました。しかし、それでもダメージはあるようで少し足元がふら付いています。
シンジさんはこちらの様子を静かに見守っているみたいです。シンジさんとニンフィアさんのコンビネーションはバッチリです。正直、私はこれ以上打つ手が思いつきません。
『コォン!コンコォン!』
「シロン?」
私が悩んでいる時、シロンが訴えかけるように声を掛けてきました。シロンの眼を見ると、その眼はキラキラと輝いて、真っ直ぐ私の事を見つめていました。それほど私の事を信頼してくれているという事なのでしょうか。パートナーが私の事をここまで信頼してくれているのであれば、私もシロンの信頼を裏切るわけにはいきません。最後までがんばリーリエです!
「シロン、行きますよ!私たちはまだ諦めません!」
『コォン!』
私が決意を固めシロンに言葉をかけると、シロンも覚悟を決めたように正面へと向きなおりました。シンジさんもそんな私たちの姿を見て、微笑みかけてくれました。
「シロン!オーロラビームです!」
「ようせいのかぜ!」
シロンのオーロラビームに対し、ニンフィアさんはようせいのかぜで反撃してきました。互いの技は中央でぶつかり合います。しかし、自分でも驚いたことに、次第にようせいのかぜをオーロラビームが破っていきました。私たちの覚悟が勝ったのでしょうか。シンジさんも一瞬顔を歪めましたが、ニンフィアさんは難なくオーロラビームを回避しました。
「なら次は……!?」
私はシロンに次の指示を出そうとしました。しかし、その時シロンにある異変が起きました。なんとシロンの体が突然白く輝き始めたのです。シロンが進化するためには進化の石が必要です。そのためこれは進化の光ではありません。だとしたら何なのだろうと疑問に思ったわたしですが、シロンは次の瞬間高くジャンプしました。
「この力、この感じ、もしかして!?」
シンジさんは何かを察したようです。何が何だか分からない私は、ただただシロンのその姿を見ているしかありません。
シロンはジャンプした後、顔を上に向け何か力を溜めているような仕草をしました。纏っている白い輝きも次第に大きくなり、その力が解放されようとした瞬間に、再び異変が起きました。
シロンの纏っていた輝きが、突然消えてしまったのです。その後、シロンは糸が切れた人形のように力が抜け、地面へと落ちてしまいました。私はそんなシロンが心配になり、急いで近づき抱えました。
「シロン!?大丈夫ですか!?」
『コォン……』
元気はありませんが無事なようです。シンジさんはニンフィアさんと一緒に私たちの元へとやってきました。
「シロンは慣れない力を使おうとしたせいで、疲れ果てたみたいだね。」
「慣れない力……ですか?」
「恐らくあれはムーンフォース。ニンフィアの技を見た影響で何かを掴んだのかもしれないね。」
「ムーンフォース!?」
ムーンフォース。ニンフィアさんの使う強力な技であり、フェアリータイプの技の中で最高クラスの威力を持つ大技です。しかし一つ疑問があります。
「ですが慣れない技と言うのはどういうことですか?以前オーロラビームを会得した時は問題なく使うことが出来たのですが。」
「オーロラビームはこおりタイプの技、シロンもこおりタイプだから相性としてもバッチリだったんだ。でもシロンはフェアリータイプの技を覚えておらずシロンもフェアリータイプを持っていない。ムーンフォースはフェアリータイプの技の中でも特に強力なこともあって、今のシロンに扱いきることが出来なかったんだと思うよ。」
シンジさんの言葉に私は納得しました。私とシロンもまだまだ力不足と言うわけですね。ですが希望は見えてきました。シロンはまだまだ強くなれると言う兆しだけでも見えただけこのバトルには意味がありました。
「シロンもこんな状態だし、特訓はここまでかな。」
「そうですね。シンジさん、ありがとうございました!今回のバトルは私にも、ポケモンさんたちにも大きな意味がありました!」
「力になれたようなら何よりだよ。また、特訓したかったらいつでも付き合うから言ってよ。出来る限り力になるから。」
「はい!ありがとうございます!」
親切な言葉をかけてくれるシンジさんに私はシロンを抱えたまま頭を下げお礼を言いました。しかしバトルをしている最中にもう一つ気になることがありました。それをシンジさんに尋ねてみることにしました。
「シンジさんは凄く強いです。当然ですが全然歯が立ちませんでした。でもそれだけ強さはどうやって会得したのか、バトルの秘訣が何なのか気になります。もしよかったら聞かせて貰えませんか?」
「……僕にはバトルを教えてくれた人がいたんだ。」
バトルを教えてくれた人、シンジさんはそう答えました。そのことは初耳ですが、シンジさんにバトルを教える程の方だったら余程強い方なのでしょう。
「僕はその人にバトルの基礎から様々なことを教えてもらったんだ。戦いのいろはをね。ある時その人に、基礎以上に大事なバトルの秘訣を教えてもらったんだ。」
「……そのバトルの秘訣とは……何でしょうか。」
私は緊張のあまり喉を鳴らしました。それほどの人物が言う言葉なのだから、余程重要なことなのだろうと疑いませんでした。しかしシンジさんが口にしたことはいたって単純で当たり前のことでした。
「……最後の最後まで自分のポケモンたちを信じること。そしてポケモンたちの信じる自分を信じること。」
その言葉は確かに単純かつ当たり前の事でした。ですがその言葉は簡単そうに聞こえて最も難しい事なのだろうと私は感じました。
ポケモンさんを信じることはトレーナーとして当たり前の事です。苦楽を共にするパートナーは信頼しなければならない存在です。ですがポケモンさんの信じる自分を信じると言うのは簡単そうに思えて難しいものです。
「そのことを教えてくれた人は、どんな人だったのですか?」
「前にも話したよね?ヤマブキで敗北した話。」
以前私がヤマブキジムで敗北した際に話してくれたことを私は思い出しました。シンジさんもかつてヤマブキジムで敗北しました。どうやら今回話してくれた出来事もその時の人と同一人物の様です。
「その人は赤い帽子を常に被っている寡黙な人でね。僕はその人に一度も勝てたことがなかったんだ。」
その衝撃の真実を聞いた私は驚きのあまり言葉が出ませんでした。これだけ強いシンジさんが一度も勝てなかった相手、それほどまでに強い人だという事です。
「……今のシンジさんでも難しいのでしょうか?」
「どうだろう。でも、多分厳しいと思うよ。あの人は際限なく強くなっていく。僕が強くなればあの人も更に強くなる。」
シンジさんはその人の姿を思い出すように語っていきました。その後『でも』と言葉を続けました。
「あの人がどれだけ強くなっていても、僕は負ける気はないよ。」
『フィア!』
シンジさんは私の顔を真っ直ぐと見ながらそう自信満々に答えました。ですがそのシンジさんの眼は自信があると言うよりも、その奥深くに秘めた何かがあるように思えました。
「やっぱり凄いです……シンジさんは……。」
私の言葉にシンジさんは照れくさそうに眼を逸らしました。ですが私は素直にシンジさんの事を凄いと思います。私ではとても真似できないと思いますが、シンジさんの言葉を胸に、私は私を信じ、私の信じるポケモンさんのために、もっともっと強くなろうと心に誓いました。
こうして私の特訓は一度幕を閉じました。まだまだ未熟ですが、私はこれからもっと強くなっていきます。もちろんポケモンさんたちと共にです。がんばリーリエです、私!
いかがでしたか?リーリエ視点ばかりでしたが、今回は書いてて楽しかったです。自分でも満足しました!
それとツクモリさん、NOアカウントさん、新たに評価してくださってありがとうございます!3日坊主のヌシがここまで続けれられたのは読んでくださる方々がいるからです。
また何かリクエストなどがあれば遠慮なく言ってください。可能な限り要望には応えるつもりです。
さ、まじめな話はここまでにして、次回は(恐らく)タマムシジム回になります。原作と違いクチバからヤマブキ経由でタマムシに行っているつもりです。表現が足りず申し訳ないです……。シオンはまたその後です。……この小説では原作のような暗い町にするつもりはありませんが。
因みに、主人公の師匠的な人は特徴だけで名前だけは明かしません。多分赤い帽子ってだけで分かるとは思いますが、伝説的な人と言う事で名前表記は控えます。一応同じマサラ出身なので面倒見てもらった兄貴的存在って設定(のつもり)です。元から原作とかけ離れているのでご了承ください。後付け設定?何のことかな?
ではでは、また次回お会いしましょうノシ