ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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多分タイトルから大体の展開は分かると思います。そしてまた前回投稿場所間違えてたのに気付きました。まあ各話入れ替えなどがあるからすぐ直せるので楽ですけどね。いやぁ、便利ですね!

正直ナツメさんのしゃべり方や性格が分かりません。作品によりバラバラだったりアニポケでも言うほど出番無かったので。……あれ?それだと殆どのジムリーダーが当てはまるか?なら全然問題ないですね(開き直り)

割り切れよ、でないと死ぬぞ?


押忍!VSヤマブキジム!?

ヤマブキシティに到着したシンジとリーリエ。早速ヤマブキジムに挑戦!……と思いきや、彼らはポケモンセンターにてとある人物と連絡を取っていた。その人物とは……

 

「お久しぶりです!グラジオお兄様!」

『ああ、久しぶりだな。リーリエ。』

 

そう、その人物とはリーリエの兄であるグラジオだ。元々こういったことは好まないであろうグラジオも、今回に限っては満更でもないようで小さく笑みを浮かべる。

 

「私達は今ヤマブキシティに来ているんです。」

『ヤマブキシティ……もうそんなところまで辿り着いたのか。』

「はい!ジムバッジも2つゲット出来ました!」

 

リーリエは嬉しそうに自分の功績をグラジオに伝える。久しぶりに兄と話すことができたため喜びを隠すことができないのだろう。シンジもリーリエの様子を見て微笑ましく見守っている。

 

『ポケモンジムに挑戦しているのか?』

「はい。ジムリーダーと言うだけあって凄く強い方ばかりですが、次のジムも勝って見せます!」

『……そうか。お前も成長しているんだな。』

 

リーリエの成長にグラジオも感慨深い様子で微笑む。やはり兄貴面が出来ないと言いながらも、妹の成長は素直に嬉しいと言う事なのだろう。そんな兄の言葉にリーリエも照れ臭そうに頬を少し赤くして微笑む。

 

「それとこの子たちが私が今までゲットしたポケモンさんたちです!」

『コォン!』

『ソウソウ!』

 

リーリエはそう言ってポケモンたちを紹介するように一歩下がる。それと同時にリーリエのポケモンたちがグラジオの映る画面の前に出る。ルリリはまだリーリエ以外に慣れていないためか、リーリエの腕の中に飛び込んだ。

 

『みんないい顔をしているな。ポケモンたちのこと、大切にしろよ。』

「はい!」

 

何よりポケモンが大切な存在だと思っているグラジオは、そうリーリエに一言伝える。その後、グラジオは『まあ、お前なら心配いらないだろうがな』と一言付け加える。

 

『シンジ、リーリエのことは任せたぞ。』

「うん、任せてよ。」

『……ふっ、偶にはこういうのも悪くないな。』

 

そのセリフのあと、グラジオは何かを思い出したようにシンジにその内容を伝える。

 

『シンジ、ある人物がお前に会いたいと先ほど俺に連絡があったぞ。』

「ある人物?」

『会ってみればわかるさ。その人物からは、できればリーリエは連れてこないでほしい、との事だった。』

 

ある人物と言われその人物の正体が気になるシンジたち。リーリエを連れてくるなと言う指示も引っかかるが、グラジオが言う人物なのであれば、信用に足りる人物と言う事だろうと、シンジは推測する。リーリエには心苦しい気持ちもあるが、一旦ここで分かれるしかないだろうと思い彼女の方へと振り向く。

 

「そう言う訳だから悪いけど少し待っててもらってもいいかな?」

「気にしないでください。少し心細いですが、私一人でもジムまで行けますから。」

 

リーリエはそう言うも、やっぱり心配だと感じるシンジ。しかし、リーリエも旅を通して成長しているのも事実であり、信用しないのも本人に対して悪いので、ここは彼女を信じて任せることにした。

 

「分かった。なるべく早めに合流できるように心がけるよ。」

「もう、心配し過ぎですよシンジさんは。」

 

そう言って心配するシンジにリーリエは笑いかけた。アローラにいた頃と違って、ポケモンたちもついてくれてるため彼女の不安も半分になると言うものだろうか。彼女自身、あまりシンジに頼り過ぎるのも内心ではよくない気がして少し気が引けていたのも事実ではあるが。

 

『話は纏まったようだな。俺はそろそろ行くが、何かあればまた連絡してくれ。』

 

そう言ってグラジオは通話を切る。エーテル代表代理となった彼は、ビッケたちが手伝ってくれているとはいえ、今でも仕事が忙しいと言う事なのだろう。しかし、それでも充実した日々を過ごせているのだろうと思わせる兄の姿を見ることができて、リーリエはどこか嬉しい気持ちを感じていた。

 

「じゃあ僕達も行こうか。」

「はい!また後で!」

 

シンジは別れ際に、『ヤマブキのジムリーダーはかなりの強敵だから油断しないで』と一言激励する。リーリエもその言葉に頷き、ヤマブキジムへと歩みだした。シンジもそんなリーリエの姿を確認すると、自分もある人物が待つと言う場所まで歩みだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっと……ここがヤマブキジムでしょうか。」

 

方向音痴だと自覚しているリーリエは、道行く人にヤマブキジムへの道を確認しつつ、ヤマブキジムへと思わしき建物に辿り着いた。ヤマブキシティはカントー地方屈指の大都会であり、通行人も多く通りがかったため比較的道に迷う確率は低かったのだろう。

 

「ふう……やっぱり緊張します。」

 

この時、リーリエはカスミに言われたある一言を思い返す。ヤマブキジムはカントー地方の中でもかなり強敵であると宣言されたため、今の自分で勝てるのかと言う不安が頭をよぎった。リーリエは数回深呼吸して気持ちを落ち着かせる。そして覚悟を決めた様子でヤマブキジムへと足を踏み入れようとすると、後ろから声を掛けられた。

 

「ん?君はヤマブキジムの挑戦者かね?」

「ひゃ!?」

 

突然後ろから声を掛けられ、リーリエは咄嗟に変な声をあげてしまう。緊張しているところに知らない人から急に声を掛けられれば、驚きもすると言うものだろう。

 

「失礼、驚かせるつもりはなかったのだが。」

 

驚いた様子を見せたリーリエに気付いたその男は一言謝る。リーリエはその男の姿を確認すると、柔道などで見る白い道着と、赤い帯を巻いたガタイのいい一人の男性だった。その男の放つ謎のプレッシャーに押されそうになるが、リーリエは勇気を振り絞って用件を尋ねる。

 

「えっと、どちら様ですか?」

「度々失礼、私はヤマブキジムの者ですよ。」

「そうでしたか。あっ、私はリーリエと言います。」

 

男が自己紹介をすると、それに釣られる形でリーリエも自己紹介をする。

 

「ヤマブキジムはそこの向かって左の建物ですよ?」

「え?」

 

男はそう言って左の建物を指さす。リーリエも聞いていた話と違い、思わず驚いてしまう。しかし、ヤマブキジムの人がそう言うならそうなのだろうか、と男の言う事を信用してしまう。男が『折角なので案内しましょう』と言ってくれたため、彼についていこうと判断する。

 

男が言うヤマブキジムと思われる建物に入ったリーリエ。しかしそこは真っ暗であり何も見えない状況であった。そう思った瞬間、突然電気がつき眩しさのあまり手で目を塞ぐが、正面を見ると案内してくれた男と同じような姿をした男たちが、帯を締めながら待機している姿が確認できた。

 

「押忍!ヤマブキ道場(ジム)へようこそ!押忍!」

 

何だかいつものジムと全く違う雰囲気を感じたリーリエは呆気にとられていた。とは言えまだ2つしかジムに挑戦していないため、こういったジムもあるのかもしれない……と頭の中で思う。

 

「今回の挑戦者は君か!押忍!」

「は、はい!ジム戦よろしくお願いします!お、押忍!」

 

雰囲気に飲み込まれていつも以上に緊張してしまうリーリエ。そのせいか、彼らのペースに巻き込まれるかのように同じ挨拶を交わしてしまう。思わずやってしまったことを思い返し、恥ずかしさで顔が熱くなる。その姿を見たジムリーダーと思わしき人物は、早速ジム戦に入ろうとモンスターボールに手を掛ける。

 

「押忍!ルールは二体同時に戦うダブルバトル!使用ポケモンは当然二体の一本勝負!」

「わ、分かりました!」

 

経験したことの無いダブルバトルに不安を抱くも、シンジとのマルチバトルは経験しているため少しは気を楽に持てる。マルチバトルで活かした経験をダブルバトルでも活かそうと気を引き締め、自身もモンスターボールを手に取る。

 

「お願いします!フシギソウさん!シロン!」

「行くぞ!エビワラー!サワムラー!」

 

リーリエがフシギソウとシロンを繰り出すと同時に、ジムリーダーはエビワラーとサワムラーを繰り出す。どちらもカントー地方では有名な格闘タイプであり、ジムの雰囲気的にも予想していた通り格闘タイプのポケモンであった。エビワラーとサワムラーも気合十分なようで、シャドーボクシングなどをして体を(ほぐ)している。

 

「試合始め!」

 

審判の合図によりジムバトルが開始される。それと同時に、エビワラーが素早いスピードで先制攻撃を加えてくる。

 

「押忍!先手必勝!エビワラー!ロコンにマッハパンチ!」

 

その素早い動きに対応することができず、シロンは正面からマッハパンチを受けてしまう。氷タイプのシロンにとって格闘タイプは効果抜群の技。ダメージはでかいだろうが、シロンはリーリエに心配かけまいと持ちこたえて首を振り再び前に出る。

 

「大丈夫ですか!?シロン!」

『コォン!』

 

シロンの返事にリーリエは安心し、エビワラーの素早さにどう対処するか思考を巡らせる。その時、エビワラーに続きサワムラーも動き始める。

 

「サワムラー!フシギソウにメガトンキック!」

「!?躱してください!」

 

サワムラーの強烈なメガトンキックをフシギソウは難なく躱す。先ほどのエビワラーのスピードに比べればまだ対処可能な動きではあった。しかしそれこそが彼の狙いであった。

 

「エビワラー!ほのおのパンチ!」

 

躱した直後で態勢が崩れていたフシギソウに炎を纏ったエビワラーの拳が炸裂する。草タイプのフシギソウに炎タイプの技はよく通る。シロンと同じでこちらもダメージが相当なものだろう。しかし、フシギソウもリーリエに心配させるわけには行かないと少しノックバックする程度で済ませる。

 

「見事な連携ですね。とても勉強になります。」

 

リーリエは二体の連携に感心し、ダブルバトルの奥深さを痛感する。しかし初めてのダブルバトルとは言え簡単に負けるわけには行かないと、自分のポケモンたちを鼓舞する。リーリエの言葉に一層気合を入れるポケモンたち。その姿に感心したように、ジムリーダーも感嘆の声をあげる。

 

「押忍!その心意気やよし!ここからが本番だ!」

 

その言葉に周囲の男たちにも緊張が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここら辺のはずだけど……。」

 

リーリエがバトルをしている一方、シンジはその人物が待つと言う場所に辿り着いた。何だか怪しげな裏路地ではあったが、グラジオが信頼しているであろう人物の事を自分も信じることにした。

 

「来てくれたのね。シンジ君。」

 

シンジは聞き覚えのある声がした方へと振り向く。そこにはグラジオだけでなく自分も……そしてリーリエも良く知っている人物の姿があった。その人物の名は……。

 

「ルザミーネさん!」

「ごめんなさいね。わざわざ呼び出しちゃって。」

 

そう、彼らの母親でもあるルザミーネだ。しかしマサラタウンからこのヤマブキシティまでは結構な距離がある。ヤマブキにいると連絡を受けてから来ようにも、少なくとも一日はかかってしまうだろう。シンジは何故ルザミーネがここにいるのかを尋ねる。

 

「何故ルザミーネさんがここに?」

「このヤマブキにはシルフカンパニーと言う大きな会社があるのは知っていると思うのだけれど、私はエーテル財団前代表として招かれたと言う訳。」

 

シルフカンパニーとは主にモンスターボール生産していることで有名な大会社である。アローラで有名なエーテル財団の前代表がカントーにいることが知られれば、呼ばれても当然おかしくないと言う事なのだろう。正直まだ子供であるシンジにとっては、会社の事情はよく理解できないのが現状だが。

 

因みに、シルフカンパニーは昔、一時的に悪の組織ロケット団に乗っ取られてしまったと言う過去も持っている。その時に偶然居合わせた、一人のトレーナーのおかげで何事もなく事を終えたのだが、当時は大事件として騒ぎになっていたのをシンジの記憶にも残っていた。

 

「ところでなぜ僕をここに呼んだんですか?リーリエも呼べば彼女も喜んだのでは?」

 

ルザミーネはシンジの言葉に対して首を横に振り、その答えを口にする。

 

「寧ろ逆効果よ、シンジ君。私はリーリエの事が心配であの子の様子をシンジ君に尋ねに来たの。だけどあの子にこのことを言ったら、多分子ども扱いしないでって怒られちゃうわ。」

 

ルザミーネは苦笑しながらリーリエのその時の姿を想像する。確かにあり得そうな光景だと思うのと同時に、アローラにいたときと違い、理想的な親子関係になれた二人の姿に、シンジは内心喜ばしくも思っていた。

 

「それでシンジ君。リーリエの様子はあれからどうかしら?ちゃんとやっていけてる?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。旅の中でリーリエも少しずつ成長しています。次に会った時はルザミーネさんもビックリするかもしれませんよ。」

「そう、それは楽しみね。」

 

ルザミーネはシンジの言葉に安心した笑みを浮かべる。今まで自分の言う通りに強制してきてどこか後ろめたい部分もあったのだろう。しかし、今はリーリエも自分の意志で前に進んでいることにルザミーネは母親として言葉にできないくらい嬉しいと感じている。

 

「これだけの事で呼び出してごめんなさい。」

「構いませんよ。リーリエも今頃、ジムで熱いバトルを繰り広げていると思いますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロン!こなゆき!」

 

シロンのこなゆきでエビワラーとサワムラーの動きを同時に防ぐ。ダブルバトルであるため、如何にどちらか一方の相手に狙いを定めるか、戦術や判断力がより重要となってくる。リーリエもそのことはシンジの戦いを見てきたため十分に承知しているつもりだ。エビワラーは拳を振り払う形でこなゆきを無効化する。

 

「押忍!エビワラー!フシギソウにマッハパンチ!」

「つるのムチで抑えてください!」

 

接近してくるマッハパンチをフシギソウは冷静につるのムチを腕に巻きつけ、動きを止める。確かにスピードは中々のものだが、一直線に迫ってくると分かっていればそれほどの脅威ではないとリーリエは判断した。

 

「押忍!サワムラー!ブレイズキック!」

 

サワムラーは先ほどのエビワラーと同じように、足に炎を纏って飛び上がる。そしてそのままフシギソウ目掛けて足を振り下ろし攻撃を仕掛けてくる。しかし、飛び上がったのが仇となり逆効果となってしまう。

 

「エビワラーさんをぶつけて止めてください!」

 

つるのムチで押さえつけたエビワラーを、ぶん回す形でサワムラーに当てる。その衝撃でサワムラーの動きが止まったのと同時に二体に大きなダメージを与えることに成功する。

 

「押忍!中々やるではないか!だがこのままでは終わらぬ!エビワラー!スカイアッパー!」

 

エビワラーは直ぐに立ち上がり、フシギソウの顎元を捉えて自慢の拳で勢いよく打ち上げる。その隙を逃すまいと、すかさずサワムラーに攻撃の指示を出す。

 

「押忍!とびひざげりで追撃!」

 

サワムラーは再び飛び上がり、フシギソウ目掛けて勢いよく膝蹴りで飛び掛かってくる。このままでは危ないと思い、リーリエもシロンに援護の指示を出す。

 

「シロン!こおりのつぶてでフシギソウさんを助けてください!」

 

シロンはリーリエの指示通り、飛び掛かってくるサワムラーに対してこおりのつぶてを命中させる。その攻撃にサワムラーは思わず向きが変わってしまい、そのまま膝を床に打ちつけてしまう。とびひざげりは強力な技ではあるものの、外してしまえば自分に大きなダメージが降りかかってしまうデメリットも持ち合わせている。今回は見事な連携を決めようとしたが、その技が寧ろ仇となってしまったと言う事だ。

 

「今です!はっぱカッター!」

 

スカイアッパーの打ち上げから着地したエビワラーとサワムラーにはっぱカッターが直撃する。ダメージがかなり溜まっていた二体は今の一撃で目を回し、同時に戦闘不能となってしまう。

 

「さ、サワムラー!エビワラー!戦闘不能!」

「あ、あれ?勝っちゃい……ました?」

 

カスミとシンジからはかなりの強敵と聞いていたため、かなりの苦戦を予想していたリーリエだったが、予想とは違い大きな苦戦をせず勝ってしまったため、少し意外だったと感じてしまう。しかし勝つことは出来たため、共に戦ってくれたポケモンたちと共に勝利の余韻に浸る。

 

「う、うむ。中々に見事な腕前であった。ワシは感服した。」

「あ、ありがとうございます。」

 

ジムリーダーはそう言うも、何だか冷や汗を流しているようにリーリエには見えた。そこで突然、ジムの扉が開かれ一人の女性が入ってきた。その女性は短めのタンクトップの様な赤い服を着ており、何故か腹部を出しているスタイルだ。ロングストレートの髪から、どこか大人な雰囲気を感じさせる女性である。

 

「私の“見た”通り、ここにいたのね。」

 

彼女の見た、と言う言葉に疑問を感じるが、彼女の姿を見た瞬間に男たちが一斉に動揺し始める。

 

「!?ナツメ!」

 

ナツメと呼ばれた女性は、髪を掻き分けて男たちを見下した様子で見つめる。しかしそのナツメの姿に、リーリエは何故か恐怖などを感じることはなかった。

 

その二人のやり取りを見ていると、再びジムの扉が開かれる。そこには自分の良く知る人物の姿があった。

 

「あれ?リーリエ?なんでここに?」

「シンジさん!」

 

その人物の姿はまぎれもなくシンジだった。しかしシンジの言葉はここがヤマブキジムではないと表しているように感じさせる言葉だった。

 

「何故って……ここはヤマブキジムなのではないのですか?」

「え?ヤマブキジムはここじゃなくて隣だよ?」

「…………え~!?」

 

そのシンジの言葉にリーリエの動きが一瞬止まる。暫くすると驚きのあまり大きな声をあげる。どういうことなのかとシンジに尋ねる。

 

「ここはヤマブキ道場だよ。よくヤマブキジムだと騙されて入る人もいるんだけど、彼らはただ強い人と戦って精進したいって思いが強いみたいなんだけどね。」

 

『まあ今どき道場に入門したいって人も少ないみたいだし』と一言付け加え、シンジはリーリエに説明する。しかしリーリエは、もう一つだけ疑問に思っていたことをシンジに尋ねる。

 

「ではなぜシンジさんはここに?」

「ここに入っていくナツメさんの姿が見えたからね。ちょっと気になったから僕も来てみたんだ。」

「シンジさんはこの方とお知り合いなんですか?」

「うん。ナツメさんこそ正真正銘のヤマブキジムジムリーダーだよ。」

「え!?そうなんですか!?」

 

そのシンジの言葉に再びリーリエは驚く。そしてナツメの方を見ると、どうやらナツメと道場主とでバトルをしようとしているようだ。

 

「まだこんなことをやっている貴方たちに、ちょっとお仕置きしないといけないわね。」

「うぐっ、か、返り討ちにしてやる!……押忍!」

 

ジムリーダー改め道場主は、焦っているからか何時もの挨拶を忘れていたようで慌てて言葉にする。そして再び道場主とジムリーダーナツメとのバトル(粛清)が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、二人のバトルはナツメの圧勝に終わった。ナツメが繰り出したのは相棒であるフーディン。対する道場主が繰り出したのはカイリキーだった。しかし相性的に考えても、格闘タイプのポケモンがエスパータイプに勝てる確率はかなり少ないだろう。その上、カントージム屈指の実力者であるナツメの相棒、フーディンが相手だ。勝てる可能性などほぼ0に近いと言ってもいいだろう。

 

「くっ、俺は結局ナツメに勝てないのか。」

「貴方じゃいくらやっても勝てないわよ。いい加減諦めなさい。」

 

圧倒的な結末に項垂れる道場主。その道場主を置いて道場を後にするナツメについていく形で、シンジとリーリエも外に出る。

 

「さてと、まずは久しぶりとでも言っておきましょうか。」

「はい、お久しぶりです。ナツメさん。」

 

振り向いて声をかけてくるナツメに対し、シンジも久しぶりと挨拶を交わす。

 

「貴方たちが来ることは分かっていたわ。ジムまでいらっしゃい、そこで相手してあげる。」

 

ナツメは先に本当のヤマブキジムへと戻っていく。リーリエは先ほどのナツメの言葉に疑問を抱き、その内容についてシンジに尋ねる。

 

「シンジさん、さっきのナツメさんの言葉の意味って……。」

「僕達が来るのを分かってたって話?」

「はい。」

 

シンジはリーリエの問いかけに少々困った様子でどう説明しようか悩む。正直に言えば彼女の過去が関係しているのだが、人の過去を勝手に話すのは忍びない。ここは簡潔に済ませるべきだと判断し、シンジはリーリエに質問に答えることにした。

 

「信じられないかもしれないけど、ナツメさんは少し先の未来が見えるんだ。」

「え?」

 

シンジのその言葉に、開いた口が塞がらないと言った様子で困惑するリーリエ。それはそうだ。人の過去や未来が見える人など、想像したこともなければ出会ったこともない。しかし、先ほどナツメが道場に入ってきたときの言葉をリーリエは思い返す。あの時彼女は確かに『私の“見た”通り』と言っていた。普通の人間であれば“思った”と表現するだろう。だが、あの言葉にそういった意味が含まれているのであれば、シンジの言葉の意味にも納得がいく。

 

「僕も当然苦戦させられたけど、ナツメさんはその能力を活用して戦う。注意してどうにかなるようなものではないけれど、どれだけ強力な力にも弱点はある。だから最後まで諦めないで戦ってね。」

 

シンジのその言葉に、リーリエは再び今まで以上の強敵だと改めて感じる。先ほどのバトルを見ても、パートナーとの意思疎通が完璧であり、エスパータイプの特徴を最大限に利用した隙の無い戦いだった。あれほどの凄腕トレーナーに勝てるのだろうか、と言う不安は勿論リーリエの心の中に潜んでいるが、それでもシンジから激励をもらった以上、最初から弱気になって挑むのは彼に対しても、自分のポケモンに対しても失礼だと思い不安な気持ちを抑え込む。

 

「はい!頑張ります!」

 

リーリエは不安を押し殺し、シンジに対して覚悟を決めた表情で両手をグッと握りしめる。シンジもそんな彼女の姿を見て、過度な心配は不要だと思い、静かに見守ってあげようと心の中でそう決意する。彼女の意志の強さならば、例え困難が待ち受けていようと乗り越えられると。

 

そうして二人はジムリーダーナツメの待つジムへと向かい歩みを進めるのだった。




リーリエは一人でいると割と騙されやすそうなイメージがあります。お嬢様キャラにはありがちな設定。

そこでちょっとした小話

「ところで先ほど会いに行かれたのは相手はどなただったのですか。」
「ああー、えっと……」
「……まさか私に言えない人……ですか?」
「!?いや違う違う!そんな人じゃないよ!」
「そ、そうですか?なら良かったです。」
(今のリーリエの表情……やっぱり親子の血は争えないと言う事だろうか。……少し注意しておこう……。)

と言う話があったりなかったり……。



因みに途中で挟もうと思った没ネタ↓
「何故ルザミーネさんがここに?逃げたのか?自力で脱出を!?」

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