ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
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カントー地方のマサラタウン。そしてその近くにあるトキワシティ。更にトキワシティとその先にあるニビシティを結ぶように、多くの草木が生い茂った森が存在した。そこはトキワの森と呼ばれ、トレーナーでないものは殆ど入ることがないとも言われている森だった。何故ならそこには多くの野生のポケモンが生息しており、中には気性の荒いポケモンも存在しているため危険だからだ。
しかしそんな森に、一人の少年が立ち寄っていた。彼こそが幼いころのシンジ。まだ7歳になったばかりであり、ポケモンと共に旅をしているわけではない。彼はポケモンが大好きであり、ただの興味本位でトキワの森へと足を踏み入れてしまったのである。だが彼はまだ幼いためこの森がどういった場所なのかを理解していない。彼の頭にあるのはどんなポケモンが存在するのかと言う期待だけだった。
シンジがポケモンを探しキョロキョロと辺りを見渡していると、一匹のポケモンの影が地面に映し出された。一体何の影かと確認するために上空を見上げると、そのポケモンの姿が明らかとなった。
「あれはオニスズメかな?」
シンジが影の正体を確認すると、オニスズメは何かを見つけたように一気に急降下してくる。しかし狙いはシンジではなく、別の何かに向かって飛びかかっているように見えた。シンジはオニスズメの向かっている方角を確認すると、そこにはキャタピーがオニスズメに気付いた様子を見せずにゆっくりと歩いている。恐らくオニスズメにとっては丁度良いエサということなのだろう。このままでは危険だと感じたシンジは、自然と体が動いたかのようにキャタピーへと向かって走りだす。
シンジはキャタピーへと飛びついて抱きかかえる。対象を失ったオニスズメはそのまま滑空して再び上昇し、シンジの姿を見据える。キャタピーは一瞬何が起きたのか分からない様子だったが、シンジの様子とオニスズメの姿を見て現在の状態を把握することが出来た。
「大丈夫だった?僕が守ってあげるからね。」
シンジはキャタピーに対して優しく言葉をかけながら頭を撫でる。キャタピーはシンジのその言葉に嬉しさを覚え、少し落ち着いた表情を見せる。自分の獲物を横取りされたと勘違いしたオニスズメは激昂し、再びシンジとキャタピー目掛けて急降下する。手持ちに自分のポケモンが一切いないシンジは、キャタピーを守るために走って逃げようとするも先ほどの飛び込みで膝を擦りむいた事に気付き上手く力が入らなかった。
「っ!?」
やはりまだ幼い子供では限界があるということなのだろう。もはや目前にまで迫っていたオニスズメからキャタピーを守るため、覆いかぶさって自分が盾になろうと考える。自分が傷ついてでもキャタピーは守ろうと思ったのだ。しかしその瞬間、一つの影が飛び出してきてオニスズメを吹き飛ばした。シンジも何が起きたのか分からずその姿を確認すると、一匹のポケモンが立っていた。
「イー……ブイ……?」
彼を助けてくれたのはなんとイーブイだった。イーブイはカントー地方でも珍しいポケモンであり、生息している数も決して多いポケモンではない。しかもトキワの森に生息していると言う話も一切ない。と言うことはこのイーブイは誰かのポケモンなのだろうかと、シンジは頭の中で推測する。
オニスズメも、イーブイのたいあたりでかなりダメージを負ったのか、一目散に飛び去っていく。その様子を見て、キャタピーもシンジにお礼を言うかのように頷いてその場を立ち去っていく。自分もお礼を言わなきゃと思い、イーブイに近づいて助けてくれたお礼を言おうとする。しかしその瞬間に、イーブイはその場に倒れこんでしまった。
「い、イーブイ!?」
突然の出来事にシンジは驚き、イーブイを抱きかかえると、イーブイはかなり傷付いて弱っている様子だった。
「酷い傷!?この子のトレーナーは!?」
シンジが辺りを見渡すも、それらしい人影は全く見えない。もしトレーナーがいれば、勝手にこの場から動かすのはまずいかもしれないが、トレーナーが実際にいると決まったわけではない。イーブイの呼吸も荒く、このまま時間が過ぎてしまえばより危険な状態になってしまうのは明らかであるため、シンジは抱きかかえたままトキワシティへと走りだした。イーブイを助けたい思いで一杯だったため、自らの怪我の事も忘れてしまっていた。
「ジョーイさん!!」
シンジは慌ててトキワシティのポケモンセンターへと駆け込む。シンジの慌てた様子を見たジョーイさんも、慌ててシンジに何があったのか尋ねながら近づく。
「この子を!この子を助けてください!」
「酷い傷!?すぐに手当てしてあげないと!」
「ジョーイさん!イーブイは治るよね!?大丈夫だよね!?」
焦りを見せるシンジをジョーイは落ち着かせようと一声かける。シンジもその一言で少し冷静さを取り戻したのか、ジョーイに一言謝る。
「……治るよね?イーブイ……」
「大丈夫よ。必ず直して見せるから。」
「……うん」
ジョーイはそう言って助手のラッキーの持ってきた担架へとイーブイを乗せて奥へと運んでいく。シンジの不安が消えることはなかったが、先ほどのジョーイの言葉を思い返し、信じて待つことにした。自分が慌てても状況が変わるわけではない。イーブイなら大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら。
それから数分、彼にとっては数時間経ったようにも思えたが、しばらくするとジョーイがロビーへと戻ってきた。シンジは不安を抱きながらイーブイの容態を尋ねる。
「ジョーイさん!イーブイは……」
ジョーイはシンジの問いかけに対して笑顔で頷いて答えてくれる。その様子を見てシンジは一安心したようにホッと息をつく。シンジの一先ずの憂いはこれで晴れた。
「今はゆっくりと休んでいるわ。しばらくしたらすぐに良くなりますよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「ところであのイーブイは君のポケモン?大分体力を消耗していたみたいだけれど……。」
ジョーイのその質問にシンジは先ほどの出来事を包み隠さず全て話す。勝手にポケモンも連れずにトキワの森に入ったことで少し怒られてしまったが、その後にジョーイは顎に手を当てて一つの疑問を指摘する。
「でもおかしいわね……。」
「何がですが?」
「イーブイは野生で出現することは珍しいポケモンだと言うことは知っていると思うけど、トキワの森での発見例は一度もないわ。その上、シンジ君の話によればイーブイのトレーナーはいなかったのよね?」
ジョーイのその言葉にシンジは肯定の意味を込めて頷きながら答える。
「だとすると最悪あのイーブイは……」
深刻そうな表情を浮かべるジョーイに対し、まだ幼いシンジにはその言葉の意味が理解できずに首をかしげる。すると、奥から慌てた様子でラッキーがジョーイさんを呼びに来た。イーブイの身に何かがあったのだろうか、とまた不安になったシンジはジョーイたちと共にイーブイの元へと向かう。そしてイーブイが休んでいるという部屋まで行くと、窓ガラスが破られておりイーブイの姿は見当たらなかった。
「大変!?イーブイが窓から逃げ出してしまったみたい!」
「え!?」
「早く探しに行かないといけないわ!少なくとも完全に治ってはいないからそう遠くへは行けないはずよ!」
状況が把握しきれていないシンジは慌てて走り出した。ジョーイはシンジを止めようと声をかけるが、頭が真っ白になったシンジにはその言葉が耳に入らなかった。シンジはそのままポケモンセンターを飛び出して、イーブイを探し始める。
街中の人に話を聞きながらイーブイの居場所を探すが中々見当たらず、知らず知らずのうちにトキワの森へと再び足を踏み入れてしまう。しかしその時、すぐ近くのところからポケモンの鳴き声が聞こえた。シンジにはその鳴き声を聞き間違えることはなかった。確信と共に鳴き声のした場所へと走っていくと、そこには傷付いたイーブイと、イーブイを取り囲むように飛んでいるオニスズメたちがいた。先ほどのイーブイの攻撃で傷付いたオニスズメも確認できたため、その仲間たちと一緒に仕返しに来たというところだろう。
オニスズメは気性が荒く、執念深い事でも有名だ。シンジは少し恐怖を感じたが、それでもイーブイを見捨てることが出来ないと考え、オニスズメを潜り抜けるようにイーブイの元へと駆け出す。
「君にはさっき助けられたんだ!今度は僕が助けなきゃ!」
シンジはイーブイを助けるために必死になって庇うようにオニスズメの前に立ちふさがる。イーブイもシンジの突然の行動に驚きを隠せない。イーブイ自身もシンジの行動は予想外だったようだ。
「これ以上イーブイに手出しさせない!僕が絶対に守って見せる!」
イーブイのその言葉を聞いて目を見開く。イーブイの心の中で何かが芽生えた瞬間だった。対してオニスズメ達は興奮した様子でシンジ目掛けて一斉に突っ込んでくる。シンジは恐れを感じていたが、それでも目を瞑ることはなかった。イーブイを必ず守ると約束したから。
しかしその瞬間、イーブイがシンジの肩を伝ってジャンプする。そしてオニスズメ達に向かい星型の弾幕、スピードスターを放つ。見事その技は全てのオニスズメに命中した。オニスズメ達はその攻撃に耐え切れずに、あの時と同じように一目散に飛び去って行った。
「イーブイ……どうして?」
イーブイがなぜまた助けてくれたのかシンジには分からなかった。いや、最初に出会った時はイーブイ自身に助ける意志などなかっただろう。助けたシンジと顔を合わせずにポケモンセンターを抜け出したのがその証拠だ。
イーブイはシンジの方を見て近づいてくる。しかし彼の元へとたどり着いた瞬間、彼に寄りかかる様に倒れてしまう。シンジもイーブイが倒れないようにそっと支える。そしてイーブイはこの時初めてシンジに笑顔を見せてくれた。その瞳からは先ほどまでの敵意がある眼ではなく、信頼を置いているかのような眼差しだった。シンジもイーブイの笑顔に釣られるかのように笑顔を見せる。
そしてシンジはイーブイを再び抱きかかえ、ポケモンセンターへと向かう。イーブイは先ほどとは違い安心した表情をしてシンジに身を委ねてくれている。
ポケモンセンターへと戻ったシンジは、ジョーイにイーブイを預けて再び回復をしてくれる。しばらくすると今度は担架の上で元気な笑顔を見せてくれるイーブイの姿がシンジの瞳に映った。シンジの姿を確認したイーブイは、突然シンジの胸へと飛び込んでくる。突然の事で驚いたが、シンジもイーブイの笑顔に応えるようにイーブイを受け止める。
「元気になったんだねイーブイ!よかった!」
『イブイ!』
シンジの呼びかけにイーブイも元気に応えてくれる。ジョーイにはその姿がまるで友達のように見え、相棒のようにも見えた。
「イーブイはすっかり元気になりましたよ。」
「ありがとうジョーイさん!」
ジョーイに心からの感謝を伝えるシンジ。しかしシンジは一つだけ疑問に思っていることを呟く。
「でもなんでイーブイはトキワの森に一人でいたの?君のトレーナーは?」
『イブイ……』
シンジの言葉にイーブイは悲し気な声を出して俯く。もしかしたら聞いてはまずい事だったのかと思いシンジの表情も暗くなる。しかしジョーイがイーブイに変わってその理由を説明してくれる。
「恐らくイーブイはトレーナーに捨てられてしまったんだと思うわ。」
「え?」
シンジはジョーイのその言葉に自らの言葉を失ってしまう。ポケモン研究家として有名なオーキド博士から、実際にそう言う話は聞いてはいたが、本当にそんなトレーナーがいるとは思ってもいなかったのだ。まだ幼いシンジにはその現実が受け止めきれず、心の中の感情には悲しさが溢れてきた。
「最近はそう言ったトレーナーも少なくないの。弱いポケモンはいらない等と言う理由をつけたりしてね。悲しいことだけれど……。恐らくポケモンセンターを飛び出していったのも、捨てられたと言う現実を受け止めたくなくてトレーナーを待ちたかった、ってところでしょう。」
ジョーイの話を聞いて、それが本当の事なのかとイーブイに尋ねる。イーブイは悲しそうな表情のまま小さく頷く。シンジもイーブイの気持ちに同情し、同時に生まれて初めて腹立たしさを感じた。特に純粋にポケモンが大好きだと思っているシンジにとってはとても辛い現実だった。
「でもこの子はシンジ君によく懐いているようね。シンジ君に一つお願いがあるのだけれどいい?」
「え?なんですか?」
シンジはジョーイの頼みごとを尋ねる。すると彼女の口からシンジにとって驚きの言葉が告げられた。
「この子の面倒を見るのを頼めないかな?私達ジョーイは場合によってはポケモンの保護も請け負っているのだけれども、やっぱりポケモンを大切にしてくれる人と一緒にいるのがこの子にとっても幸せだと思うから。」
イーブイはその言葉に嬉しそうに笑顔を取り戻し、シンジの胸に顔を擦り付ける。シンジも驚きはしたものの、やっぱり心の中ではイーブイと一緒にいたいと望んでいる。
「……僕でいいかな?」
『イブイ!』
イーブイはシンジの顔を舐めて肯定の意志を表す。イーブイが自分と一緒にいたいと望んでくれて心の中では言葉にできない感情を抱いていた。シンジにとって初めてのポケモンとその出会い、どちらも一生大切にしたいものだと噛み締めながら。
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これが彼ら二人の運命的な出会いだった。幼いころの出来事ではあるが、この出会いは二人にとって忘れられないものであり、決して切れることのない絆が生まれた日でもあった。ポケモンとトレーナーの出会いには必ず出会いがある。その一つ一つが“奇跡”であり“運命”なのである。だからこそシンジは、自分のポケモンたちをより大事にし、これまで共に旅をして、共に学び、共に歩み、共に苦しみ、共に笑い、共に過ごしてきたのである。
リーリエもシンジの話を聞き、感動のあまり涙を流していた。シンジも改めて思い返すと、その時の出来事を話すのは少し照れ臭く感じた。
「ニンフィアさんもシンジさんも、とってもつらい思いをしていたんですね。だからシンジさんはポケモンさんのことをとても大事にしてるのですね。」
「あの時は僕もまだ小さかったから正直辛い気持ちが強かったよ。でも小さかったからかもね。僕とニンフィアが出会えたのは。僕が興味本位でトキワの森に入らなかったら出会えなかったかもしれないし。」
『フィア!』
シンジは再びその時の出来事を思い返しニンフィアの頭をなでる。ニンフィアも気持ちよさそうにシンジの元へと寄り添う。出会った時からの信頼と絆が、リーリエの心の中で深く感じることができた。自分たちもポケモンたちとの旅と出会い、そして思い出を一つ一つ大切にしようと誓う。
二人は食事を済ませ、今日は早く休むことにした。リーリエも今日は良い体験の話を聞くことができ満足したようだ。シンジも自分のポケモンたちと出会った時のことを思い返す。その話はまたいずれ話すかもしれないが、今は明日の為に寝ることにした。二人の旅はまだ始まったばかりなのだから。
途中でオニスズメの鳴き声を入れようと思ったけど、アニメの奴の鳴き声が少々あれなのでやめました。いや、急に『キエエエエエエ!』とか『クエエエエエエ!』なんて叫ばれたら絶対感動ぶち壊しでギャグにしかならないやろなと……。
ではではまた次回にお会いしましょう!