ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
本日プリコネの6周年記念&超大型アップデートですぞ
ここはアローラ地方、アーカラ島にあるオハナタウン、そのポケモンセンターである。ポケモンセンターにて、自分の手持ちであるポケモンを回復させてもらっている一人の少女がいた。
「おまたせしました。お預かりしていたポケモン、すっかり元気になりましたよ。」
「あっ、ありがとうございます、ジョーイさん。」
そうして預けていたポケモンの入ったモンスターボールを受け取る少女。少女の名はユメミ。そう、以前アローラ地方チャンピオン、シンジのバトルに感銘を受けて旅に出ることを決めた、18歳の新米トレーナーである。
彼女は旅に出ると決めた時、しまキングのいるコニコシティにて初めてとなるポケモンを受け取り共に旅を始めたばかりである。ユメミは回復したばかりである初めてとなるポケモンを、モンスターボールから出した。そのポケモンとは……。
「出てきて、コソクムシ」
『……ムッシッ!?』
コソクムシは出てきた瞬間、周囲に人が大勢いることに驚いてしまい、即座にユメミの腕の中に潜り込んでしまった。ユメミが受け取ったのはモクローでもアシマリでもニャビーでもなく、なんとむし・みずタイプであるコソクムシである。
コソクムシはアローラ中の海辺であればどこにでも生息している適応力の高いポケモンであるが、非常に臆病な性格であり、常に群れで行動して周囲を警戒している小心者なポケモンとして知られている。その上地面に落ちているものなら何でも食し、腐ったものであっても喜んで食べてしまう海の掃除屋と呼ばれており、アローラでは重宝されているポケモンだ。
だが説明した通り小心者であり、食べるものも特殊すぎるため初心者にはあまりにも不向きなポケモンである。それなのにユメミがコソクムシを受け取った理由だが、運が悪いことにユメミが到着した時には本来渡されるはずの初心者用ポケモンが既に配られてしまっており、残念なことに受け取りができなかったのである。
仕方ないのでメレメレ島のしまクイーンのところで受け取ろうとしたところ、しまキングに呼び止められてしまい、半強制的にコソクムシを薦められてしまい受け取らざるを得なかったのである。しまキングの圧がすごかったので自然と断れなかったと言うのもあるのだが……。
ポケモンの事に関する知識が全くないユメミにとって、初めてのポケモンと言うだけで嬉しかったので特別疑問を持つことも文句を言うこともなかった。(そもそも文句があっても言い返すことなどできなかっただろうが……)
しかしいざ旅に出てみると困ったことに、コソクムシは非常に弱いのである。と言うのも野生のポケモンを見つけても逃げ出してしまいユメミの懐に潜り込んで隠れてしまい、初心者同士のトレーナーとバトルすることとなっても、軽い攻撃で簡単に倒れてしまうほど貧弱なのである。全くバトルにならない上に、新しい仲間を手に入れることすらできないのは新米トレーナーとして致命的な弱点である。
「……はぁ、これじゃあチャンピオンみたいに強いトレーナーになるなんて夢のまた夢だなぁ。」
『むしぃ……』
「あっ、ご、ごめんごめん!別にコソクムシが悪いわけじゃないから!」
椅子に座って溜息を吐く。その溜息を見たコソクムシはごめんなさいと言ったように落ち込んでいた。コソクムシに気を遣わせたことを逆に申し訳ないと思ったユメミは慌てて君のせいじゃないと否定した。
確かにコソクムシが原因なのは間違いないかもしれないが、ユメミにとっては初めてのポケモンであり、この子がどうしようもなく可愛いと思ってしまっている。そんなコソクムシのことを悪く思いたくないし、コソクムシのせいでなどと責任を押し付けたくない。ユメミは大丈夫大丈夫とコソクムシの頭を優しく撫でた。
「時間ならまだまだいくらでもあるんだから、私たちのペースでゆっくりゆっくり歩いていこ。ね?」
元々毎日のように寝坊するほどマイペースなユメミは、コソクムシにそう優しく語り掛けた。まだ自分は18歳であり旅に出たばかりの新米だ。慌てることなくゆっくり強くなっていけばいいんだとコソクムシに語り掛けた。コソクムシもユメミの言葉に小さく頷いた。
そう意気込んだユメミとコソクムシだが、そんな時にポケモンセンターの外がガヤガヤと騒がしくなってきて、人がポケモンセンターの外に集まっていくのが室内から見えた。一体どうしたのだろうかとユメミもコソクムシを抱いたまま外に出る。
するとそこは既に大盛り上がり状態となっており、視線の先に目をやるとどうやらトレーナー同士がバトルフィールドにてバトルをしているようであった。戦っているのはぱちぱちスタイルオドリドリと、マケンカニのバトルであった。
「マケンカニ!クラブハンマー!」
男性トレーナーの指示に従い、マケンカニはその小さな体に見合わない大きな腕を振るってオドリドリに襲い掛かる。その攻撃をオドリドリはまるでダンスでも踊るかのように躱して反撃に出る。
「オドリドリ!めざめるダンス!」
『ドリィ!』
オドリドリはめざめるダンスで攻撃を仕掛けた。めざめるダンスはオドリドリのみが覚える専用の技で、使い手のタイプによって技のタイプも変化する。ぱちぱちスタイルのオドリドリはでんきタイプであるため、めざめるダンスのタイプもでんきタイプになるのである。
オドリドリのポンポンのような腕から電撃が放たれ、攻撃を外してしまったマケンカニに直撃する。マケンカニはその攻撃を受けてしまってダメージが限界に達し、目を回してその場で倒れた。戦闘不能であり、この瞬間に勝者はオドリドリに決まった。
「お疲れ様オドリドリ。ゆっくり休んでね。」
「マケンカニ、ご苦労様。よく頑張ったな。」
お互い勝負で力を尽くして戦ってくれたパートナーを労いモンスターボールへと戻す。そしてトレーナーとしての礼儀として、向かい合って握手をする。その戦いを見届けていた周りの人たちも2人に称賛の言葉を贈り、次々とその場を後にするのだった。
戦っていたトレーナーもまた会おう、と挨拶してその場を後にする。その時ユメミは急いで今の戦いに勝利したオドリドリのトレーナーに声をかけた。
「す、すみませーん!」
「ん?えっと、あなたは?」
「すみません、急に呼び止めてしまって。私はユメミって言います。えっと……さっきのバトルすごかったです!」
「あはは、ありがとうございます。と言っても私も最近トレーナーになったばかりなんだけどね。」
女性の一言にユメミは驚きの声をあげる。彼女は自分と同じ駆け出しの新米トレーナーであるにも関わらず、あんなに冷静な判断といい動きをしていたのだからある程度の経験はあるものだと思っていたのだ。
それからユメミとその女性トレーナーは意気投合し暫く二人で旅をすることになった。女性の名前はアミといい、ユメミより3歳年下の15歳であった。アミから敬語はなしでいいと言われたのでユメミは敬語をやめ、自分に対しても気軽に話していいと言うことになったので、二人は友だちのような感覚で会話するようになった。
「ところで、ユメミはどうしてポケモントレーナーになろうと思ったの?」
「ありきたりなんだけどね、実は私、友達に誘われてチャンピオンの試合を見に行ったんだ。」
「え!?チャンピオンの試合を生で見に行ったの!?いいなぁ!」
突然興奮気味に前のめりになって早口になるアミ。この人もチャンピオンマニアなのかと、まるで自分の友人を見ているように思えて思わず苦笑いをしてしまった。
「おっと、ごめんごめん。つい興奮しちゃったよ。」
ハッと我に返ったアミはユメミに謝って距離をとった。ユメミは気を取り直して自分がトレーナーになるきっかけを語りだす。
「私、元々はポケモンに特別興味もなくて、夢なんかも持ってなかったんだ。特別何がしたいわけでもなく、ただ適当に働いて、適当に人生を全うして、それで別に満足なんだって思ってたんだ。でも、チャンピオンの試合を見て考え方が変わったんだよね。」
ユメミの話を聞いてアミはうんうんと頷いていた。ユメミは続けてその時の自分の心情を話す。
「チャンピオンのバトルはとてもすごかったんだ。言葉で表せない程繊細で、それでいて豪快で、華麗で、ポケモンバトルを初めて見た私でも分かるぐらい、なんと言うか凄いものだった。それを見たときから、私の中で何か変化が起きたのを感じたんだ。こんなバトルが出来たら一体どんな気持ちなんだろうって。今まで見てきたテレビ番組とは違う、心の奥を突き動かす何かがチャンピオンのバトルからは感じられた。私にもこんなバトルが出来るのかな?ポケモンってこんなに神秘的なポケモンなんだなって。」
「分かる……分かるよその気持ち!」
「あ、アミ?」
ユメミの話を黙って聞いていたアミは、突然再び興奮モードになりユメミに自分の過去を話し始めた。
「実は私も、ついこの間までは引きこもりだったんだ。学校ではいじめにあって、ポケモンには襲われて、外は危険なことでいっぱいなんだって思ったら、気付いた時には外に出られなくなっていたんだ。」
「……そうだったんだ。」
意外だった。先ほどは楽しそうにオドリドリとバトルしていたトレーナーがそんな辛い過去を持っていたなんて思わなかったからだ。
「そんな時なんだ。ふと見ていたテレビにチャンピオン……シンジさんが映ったのは。シンジさんがニンフィアを出した時、ポケモンなんて二度と見たくない、そう思ってテレビの電源を切ろうとした。でも、切れなかった。だってその時シンジさんは、ニンフィアの頭を優しい顔で撫でてたんだもん。それに対してニンフィアも嬉しそうに微笑んで、そのやり取りが二人にとっては当たり前で、日常的な行為なんだってことがすぐに分かった。それと同時に、どうして全く別の生き物なのにこんなに分かりあえているのだろうかと不思議で不思議でしょうがなかった。」
ユメミにもその気持ちは分かる。ユメミもまたシンジのバトルを見学しに行ったとき、彼はニンフィアの頭を撫でていた。チャンピオンがバトルをする時は必ず行う恒例の儀式。その当たり前とも言える行為は、どこか引き付けるような魅力がユメミにも感じられた。
「それから私は気が付いたらテレビを食い入るように見つめてたんだ。ジブンでも何分か、何時間か経ったか分からないくらい、暗い部屋の中でテレビだけをずっと見ていた。シンジさんとニンフィアの息はバッチリで、不思議と彼らは絶対に負けないだろうと確信を持つことすらできていた。そして何より、彼らの戦いからは目を離せなかった。いつの間にやら私はあの人たちの戦いに魅了されていた。そしてバトルを見終わっていた私の手には、凄い量の汗が握り締められていたんだ。精神的に追い詰められ、感情を殆ど失ってしまっていた私にも、こんなに興奮できるものが、夢中になれるものがあったんだって思えたら嬉しくて、泣けてきて、なんだか最高な気分だった。」
「アミ……」
「私もいつかこの人みたいに強い人間になりたい。精神的にも、トレーナーとしても強くなりたい。そしていつか、あの人に追いついて認められるような人になりたいって思うようになってたんだ。何より、自分よりも幼いはずの人があんなに頑張っているのに、自分もいつまでもくすぶって何ていられないって、そう思わされたんだ。」
「それでチャンピオンを目指してポケモントレーナーになることを決めたの?」
「うん。それが私のポケモントレーナーになる理由。そしてチャンピオンと戦うことが私の目標。その時、チャンピオンに少しでも近づけたその時、私はアナタのお陰でこんなに変わることができましたって報告して、ありがとうって感謝したいって思ったんだ。」
世の中には自分だけではなく、多くの人がチャンピオン、シンジの戦いを見て変わったと言う人が大勢いるのだろう。アミのように人生が大きく変わった人もいれば、自分のように夢を持つことができた人もいる。アローラ初のチャンピオンの影響力は、それだけ多くのトレーナーに与えられてきた大きなものだという証明である。
「あ、あはは、ごめんね、長々と熱く語っちゃって。あれ以来チャンピオンの大ファンでさ。なんだか一度話始めると止まんなくなっちゃうんだよね。」
「いや、寧ろいい話が聞けてよかったよ。ありがとね。」
「……まさかお礼を言われるなんて思わなかったな。でも、そっか、うん。」
どこか照れくさそうに顔を赤くして俯いたアミ。それから暫く歩いていくと、そこには二手に分かれた分かれ道があった。
「どうやら分かれ道みたいだね。私は右に行くけど、ユメミはどうする?」
「私は……私は左に行くよ。」
「お互いに別の道に行くってことだね。じゃあこれからは私たちはライバルって訳だ。」
「ライバル……」
そのたった一言がユメミの心の中に響く。友だちや親友、といったいつも聞く単語とはまるで違うライバル。友であり敵であり、お互いに競い合う存在、それがライバル。その言葉がユメミにとって何より魅力的な言葉のように思えて仕方なかった。
「うん!これからはライバルだ!」
「今度会った時は、必ずバトルしようね!」
「もちろん!」
そう言って二人は熱い握手を交わし、アミは右の道へと先に歩みを進めた。ユメミはそんなアミの逞しい背中が小さくなるのを見届けて、自分の歩く道の先を見つめた。
「……コソクムシ。」
『ムシ?』
「これから先、間違いなく道は長くて険しいものになると思う。アミみたいに強くて、他にも多くのトレーナーがチャンピオンを目指して日々精進してるんだと思う。私たちが目標に辿り着くにはどれだけかかるか分からない。それでも、これからもずっと私と一緒にいてくれる?」
『!?ムッシ!』
コソクムシは今までではないぐらい強く頷いた。自分は弱く、臆病で小心者なコソクムシ。特別取り柄もなく、トレーナーから使えないと見放されてしまうこともあると小さな存在。怖い男のトレーナーに拾われ、初めてトレーナーとして旅に出る少女に引き取られ、全く戦う事もできないままここまで来たけど、それでも彼女は自分を必要としてくれた。ずっと一緒にいたいと願ってくれた。だったらコソクムシの答えは決まっていた。
自分も彼女と一緒に歩き続けたい。今は戦うこともできない弱い自分だけど、いつか弱い自分を変えて、彼女を守れる大きな存在になりたい。自分を必要だと言ってくれたたった一人の少女の力になりたい。そうコソクムシは強く願ったのだった。
「……よし!行こうか!」
ユメミは歩みを進めた。まだまだ長い道のり、まだ自分では歩けない道だけど、いつかは自分が彼女の後ろを歩きたい、いつか自分のパートナーと一緒に歩きたい。ユメミとコソクムシは、お互いにそんな夢を抱きながら、ただただひたすら長い道のりの先を見つめて歩き続ける。もちろん、自分たちのペースで。
そして幾つかの月日が流れた時、ある場所では――
「それではこれより、挑戦者の入場です!」
「――出番だね。」
『ムッシャ』
少女は緊張を解すため深呼吸をする。
「行くよ!相棒!」
『ムッシャ!』
そう言って少女は歩みを進める。その少女の後ろには、少女よりも大きな身体と剛腕を持ったポケモンが、まるで彼女を守る騎士のように付き従っていたのだった。
――少女たちは夢を叶える
いつかは書きたいなと思っていたユメミちゃんのその後のお話です。
パートナーポケモンを何にしようか考えた結果こうなりました
個人的にメッソン→インテレオンみたいな弱い印象のポケモンが滅茶苦茶カッコよくなるの大好きです。