ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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完成いたしました!最後に慌てて書いてしまったのでやっつけ感あるのは申し訳ない……。

恐縮ながらパラドファンさんとのコラボ回を書かせていただきました!別作品様を書くのは難しく大変でしたが、その分自分も凄い楽しかったです。パラドファンさんありがとうございました!

書いてる途中にロトム図鑑とか色々忘れかけてたのは内緒です。多くのキャラを書くのって大変だと感じる今日この頃です。

追記
実はロケット団かスカル団の下りを入れようか迷いましたが、実際入れたらえらい長くなってしまったので全てカットしました。ロケット団だけで1万字はさすがに……。
後内容も以前と同じで完全にぐだってしまいました。できるだけ2人のバトル中心に書きたかったのでそこはご勘弁を

ちなみにアニポケコラボとは関係ない為サトシたちとは初対面です


コラボ外伝 サンムーン~ifストーリー~ × もう一つのサン&ムーン

ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界に住む不思議な不思議な生き物。

 

空に、森に、山に、海に、そして街にさえも存在し、この世界のいたるところでその姿を確認することが出来る。

 

人とポケモンは互いに助け合い、共に暮らしている。時にはポケモンを悪用しようとするものもいるだろう。しかし、人にとってポケモンはなくてはならない存在であり、ポケモンにとってもまた人はいなくてはならない存在である。

 

だがこの世界にも様々な可能性が含まれている。それが並行世界と呼ばれる世界……可能性そのものを体現した世界だ。

 

いつもと違う自分、いつもと違う友人、いつもと違う大切な人、いつもと違うパートナー。そんな存在ともし出会うことがあればどのような物語が紡がれるのだろうか?

 

この話は、もしそんな世界と交じり合ったら?と言う可能性の物語である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはエーテルパラダイス。エーテル財団と呼ばれるポケモンや環境の保護を目的としたアローラでも随一と呼べる団体が存在している巨大組織である。そしてこのエーテルパラダイスに、2人の少年と少女が呼ばれてやってきていたのだ。

 

「失礼します。」

「いらっしゃい。よく来たわね。シンジ君、リーリエ。」

 

大きな一室にノックをして入る少年と少女。そして奥の椅子に座っていた女性はすぐに立ち上がり2人の事を歓迎した。

 

少年の名はシンジ。このアローラ地方において就任した初代のアローラリーグチャンピオンである。現在もアローラのチャンピオンとしての務めを毎日こなしている。

 

少女の名はリーリエ。かつてシンジと共にカントー地方を旅し、アローラでは島巡りを突破して今ではポケモントレーナとして立派に成長を遂げた。

 

そして2人を歓迎した女性の名はルザミーネ。ここエーテル財団の代表を務めており、リーリエの母親でもある。以前はある事情により代表の座を退いていたが、ある人物の意向により再び代表の座へと就くことにしたのだ

 

「私たちに用事とは、何かあったのでしょうか?お母様?」

 

なぜ自分たちを呼び出したのか分からなかったリーリエはその理由を母親であるルザミーネに尋ねる。ルザミーネを早速本題に入ろうとリーリエの質問に答えるために口を開く。

 

「実は、あなたたちに調査してほしい事があるの。」

「調査……ですか?」

 

ルザミーネの意外な頼みにシンジは首を傾げる。

 

ハッキリ言えばシンジとリーリエは調査に関しては全くの素人同然だ。何をすればいいのか右も左も分からない。そんな2人に依頼するよりもエーテル財団の人間を使った方がよっぽど効率がいいだろう。シンジは疑問に思いながらもルザミーネのその内容を尋ねた。

 

「調査とは、いったいどんな内容なんですか?」

「それにはついては私が答えるわ。」

 

ルザミーネがシンジの質問に答える前に背後の扉が開き2人は振り向く。するとそこには一人の女性が立っていた。

 

「バーネット博士!」

 

リーリエが驚きの声をあげる。彼女の名はバーネット。リーリエがかつてお世話になった人物で、彼女にとってもう一人の母親的存在である。

 

「どうしてバーネット博士がここに?」

「今回の依頼、私からもお願いしたい事なの。」

 

バーネットはルザミーネの横に立ちそう答える。そしてバーネットはシンジたちの疑問に答えるために口を開き以来の詳細を話す。

 

「実は最近、アローラの各地で空間が不安定になっている箇所があることが私たちの調査で判明したの。」

「空間が……ですか?」

 

意味が理解できずリーリエは思わずバーネットに聞き返す。バーネットはそんなリーリエに一つ質問をした。

 

「リーリエ、あなたはこの世界とは別に違う世界が存在すると言ったら……信じる?」

「別の世界?」

 

リーリエはあまりに突拍子もない話に目が点になってしまう。

 

バーネットは自分たちの住む世界とはまた別の世界があるのだと説明する。そんな非現実的なことがあるのだろうか?突然明かされた非現実的な話にリーリエは頭を悩ませる。

 

「じゃあ並行世界(パラレルワールド)……って知ってるかしら?」

「確かこの世界とは違う別の可能性の世界……ですよね?」

 

シンジの曖昧ながら話した説明にルザミーネは頷いた。ルザミーネとバーネットは並行世界についての説明を2人にする。

 

並行世界。この現実とは別に、もう一つの現実が存在する可能性の世界だ。別の歴史を辿った世界、あり得るかもしれなかった世界とでも言えばいいのだろうか。

 

ルザミーネは未だに理解が追い付いていないシンジとリーリエに例え話で説明する。

 

「例えばそうね……シンジ君がこのアローラを訪れなかったとするわ。」

 

シンジとリーリエはルザミーネの言葉に頷き耳を傾ける。

 

「そうすればリーリエはシンジ君とあっていなかったかもしれないし、シンジ君はリーリエとあっていなかったかもしれない。そうすればシンジ君は私たちとも会っていなかった可能性だってあるし、私はウツロイドの毒にやられて永遠に支配されていたかもしれない。」

 

今だから思えることだが、そんな現実は受け止めたくないと心の中で思うリーリエ。シンジとの出会いが彼女を変え、ウツロイドの神経毒に侵されていたルザミーネを救ったのは事実だ。もしシンジとアローラで出会えなかったと思うとゾッとする。

 

「この世界には様々な可能性が秘められているの。人との出会い、夢、もし一つの選択が違えばそれだけで未来は大きく変わる可能性もあるのよ。」

 

バーネットはそれこそが並行世界なのだと説明する。その言葉でシンジとリーリエは深く頷き納得する。とても信じられる話ではないが、彼女たちの可能性の話を聞いたら信じられずにはいられない。彼らにとって、今の話は説得力のある説明だったのだ。

 

「この不安定な空間の歪みは、別の世界と繋がっている可能性があるわ。それをあなたたちに見てきて欲しいのよ。」

「でもなぜ僕たちなんですか?」

 

シンジが最もな質問を返すと、その理由をルザミーネが真剣な眼差しで説明したのだった。

 

「私たちが懸念しているもう一つの問題はUBの存在よ。」

「UB……。」

 

リーリエはその言葉を聞きかつて味わった悲劇を思い出した。

 

UBはこの世界とは全く別の世界……ウルトラホールと呼ばれる空間からやってきたこの世界に存在しないものたちだ。その非生物的異形な姿からポケモンとは違う存在だと思われていたが、研究の結果別世界のポケモンの一種だと判明した。

 

ルザミーネを神経毒に侵して狂わしていたウツロイドも同じUBで、彼らは人間に対して害を与える存在である可能性が高かった。そのUBたちの能力はアローラに存在する島の守り神たちにも匹敵するほどである。

 

バーネットが言うにはその不安定な空間からはウルトラホールに似た波を感じ取れ、もしかすればUBによるかつての悲劇が起きてしまう可能性も高いとのことだ。彼らに対抗できるのは同じ力を持つポケモンだけである。

 

だが彼らは極めて強力で危険な力を持ち合わせている。生半可なトレーナー、それも島巡り中のトレーナーでは簡単に返り討ちにあってしまうだろう。

 

「でもあなたたちは違うわ。あなたたちにはUBとの戦いの経験がある。もしもの時のために、あなたたちにはその場所に出向いてもらいたいの。それに私たちはあなたたちの事を信頼しているわ。」

「お母様……。」

 

ルザミーネはシンジたちの目を真っ直ぐ見てそう答える。リーリエはそんな母の顔を見て本当に信頼してくれてるんだと心の底から思う事ができた。だからこそ、自分も母のために自分の出来る限りのことをしたいと思ったのだ。

 

シンジとリーリエはルザミーネの覚悟を買いその依頼を承諾する。元より引き受けるつもりではいたが、その理由を聞いては断ることなど彼らに出来るはずもない。ルザミーネとバーネットはそんな2人に頭を下げて感謝する。

 

「すでにグラジオとミヅキちゃん、他にも優秀なトレーナーたちに声をかけて調査を依頼しているわ。」

「お兄様たちもですか?」

「ええ。実はその不安定な空間……出現しては消えるのを繰り返しているの。だから正直な話、正確な位置は掴めていないわ。」

 

ルザミーネはその後「だけど」と言いその続きをバーネットが答えた。

 

「一つだけ、集中して頻繁に空間が不安定になっている場所が存在しているの。」

「一つだけ?それってどこですか?」

 

シンジの質問にルザミーネが一呼吸おいてその場所の名前を口にした。

 

「……場所はメレメレ島。リリィタウンの奥にあるマハロ山道よ。」

 

シンジとリーリエは急ぎルザミーネが指定した場所、メレメレ島にあるマハロ山道へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたね、マハロ山道。」

「うん。懐かしいね。」

 

マハロ山道の橋の前に辿り着いたリーリエとシンジ。そんな2人は昔のことを懐かしみ思い出していた。

 

マハロ山道は2人が出会った思い出深い場所だ。かつてリーリエが必死で守っていたほしぐも……コスモッグと呼ばれるポケモンを助けた際に2人は出会ったのだ。2人にとって、ここは始まりの場所と言っても過言ではないだろう。

 

「カプ・コケコさん……元気にしてるでしょうか。」

 

メレメレ島の守り神、カプ・コケコ。当時ほしぐもとシンジを助けてくれたため、2人感謝してもしきれない恩がある。だがカプ・コケコは気まぐれで人前にも中々姿を見せず、時には島の人々にイタズラをしていることもある。そうそう会える存在でもない。

 

だがその時、2人の横を強い風が横切っていった。あまりの勢いに頭を抑える2人だが、風が収まり落ち着いたときの正面を確認する。するとそこには驚くべきポケモンの姿がいたのだった。

 

「!?カプ・コケコ!」

 

そう、そこにいたのは島の守り神であるカプ・コケコ本人だ。カプ・コケコは戦神と呼ばれるほどの存在だ。風のように素早く駆けることも彼にとっては造作もない。

 

そんなカプ・コケコの登場に驚いていると、カプ・コケコの背後にじわじわと何かが出現してきた。その存在は少しずつ巨大化し、そこにあったのはウルトラホールにも似た空間であった。それを見た時、2人にはそれがルザミーネたちの言っていた不安定な空間なのだと理解した。

 

カプ・コケコは無言でその空間を指差す。カプ・コケコの示している意味が理解できない2人だが、今は取り敢えず自分たちのするべきことをしようと何が起きてもいいように身構える。

 

「な、なに!?」

 

しかしその時、突然シンジとリーリエだけがその空間に引き寄せられる。2人も必至に抵抗して逃れようとするが、その引き寄せる力は凄まじくリーリエの体が浮き始める。

 

「キャッ!?」

「リーリエ!」

 

浮かび上がったリーリエの手を握り締めシンジは耐えようとする。だがリーリエがいくら華奢で軽いとはいえ、1人の人間でそれを支えながら空間の引き寄せる力にあらがうのは限界がある。

 

徐々に耐え切るのが難しくなり、リーリエだけでなくシンジも足が宙に浮いてしまう。

 

「きゃああああああ!」

「うあああああああ!」

 

そして耐え切れなくなった2人は、遂にその空間へと吸い込まれてしまう。その様子をカプ・コケコは静かに見ていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはメレメレ島のとある砂浜。ここで一人の少年がポケモンたちと共に特訓をしていた。

 

「ニンフィア!でんこうせっか!」

『フィア!』

「ニャビー!躱してほのおのキバ!」

『ニャブ!』

 

ニャビーはニンフィアの攻撃は上手く躱しほのおのキバで反撃した。ニンフィアもニャビーの攻撃を咄嗟の判断でまもるを使用し上手く防御する。

 

「よーしそこまで!2人とも調子いいみたいだね」

『フィーア!』

『ニャブ』

 

ニンフィアとニャビーは自身のトレーナーに撫でられて笑顔を浮かべる。大好きなトレーナーに褒められて撫でられればどんなポケモンでも嬉しいものだろう。

 

『フィア?』

「え?ニンフィア?どこ行くの?」

 

すると突然ニンフィアが何かに気付いたように走り出した。少年は何故ニンフィアが走り出したのか分からなかったが、すぐにニンフィアの後を追いかけた。

 

ニンフィアが浜辺に打ち上げられている何かに近づく。その何かを少年が目を凝らして確認すると、それは紛れもなく人間であった。大変だと感じた少年は、慌ててその人物の元へと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫!?」

 

少年がその人物に近づくと、少年はあまりの衝撃に目を見開いた。

 

「り、リーリエ!?」

 

その人物は彼のよく知る少女、リーリエであった。だが少年には疑問に感じる事があり、その少女の服装と髪型が知っている彼女のものと一致しないのだ。しかし彼女は一向に起き上がる気配がない。どうやら気を失ってしまっているようだ。

 

そんな衝撃にとらわれていると、ニンフィアが少年に呼びかけてきた。

 

『フフィーア!』

「!?そ、そうだね!取り敢えずククイ博士の家まで運ぼう!」

 

そして少年はその少女を背負い、急いで自分がお世話になっているククイ博士の研究所へと運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

わ、私……気付かない内に寝ていたのでしょうか……。た、確か……シンジさんと一緒にマハロ山道に着いたらカプ・コケコさんが現れて……。そしたら急に変な空間に……。

 

……そうです!シンジさんは!?

 

『フィア?』

「え?ニンフィア……さん?」

『フィーア!』

 

私がソファーから起き上がると、横からよく見知ったポケモンさんがひょこっと顔を出してきました。シンジさんのパートナーでもあるニンフィアさんです。ですがこのニンフィアさん……シンジさんのとは色が違います。シンジさんの持つニンフィアさんはピンク色をしていますが、この子は全体的に水色をしています。正確に言うと通常のニンフィアさんとは色が完全に逆転しています。

 

「あっ、起きた?無事に目が覚めたみたいで安心したよ。」

 

私がニンフィアさんの事を頭の中で考えていると、部屋のキッチンの方から一人の男性が声をかけてきました。その人の姿を見た時、私は驚きのあまり大きな声を出してしまいました。

 

「し、シンジさん!」

「え?シンジさん?」

 

私がつい大声を出してしまうと、その人は驚き疑問符を浮かべて固まってしまいました。私も冷静になってよく見てみると、その人は全くの別人だという事が分かりました。

 

「す、すいません///人違いでした……。」

「ううん。別にいいよ。でも意識はハッキリしてるみたいだね。」

 

その男性は私の安否を気遣い優しい言葉をかけてくれました。

 

ですがその人を見ていると、どことなくシンジさんの面影がしてなりません。姿や服装は全然違いますが、優しいところや雰囲気がシンジさんに似ている気がしたのです。

 

その人の容姿は青い帽子に黒色のシャツ、白を基調としたパンツに左腕にはZリングを付けているのが確認できました。それを見た私は、その人も島巡りをしているトレーナーなのだという事が分かりました。

 

「はい。お腹減ってるでしょ?軽食だけど作ったからよかったら食べて。」

「あっ、いえ、私は……」

 

さすがに食事をいただくのは悪いと思い私は断ろうとしました。しかし、その時タイミングの悪いことに私のお腹がキュルキュルと鳴ってしまいました。

 

「……ふふ、やっぱりお腹空いてるんだね。遠慮しなくていいから食べてよ。」

「は、はい///で、ではお言葉に甘えて……」

 

私は恥ずかしさで顔を赤くしながらも、やはり誘惑に逆らえずに作ってくださったご飯に手をつけました。

 

そのご飯はシンジさんの作ったご飯と同じくらい美味しく、どこか温かい気分になれました。作ってくれた方も、私が美味しく食べたことに満足してくれたのか笑顔で眺めていました。

 

私が食事を食べ終わると、私がどうしてここで寝ていたのかを聞かせてくださいました。

 

私はどうやらこの近くの浜辺で倒れてしまっていたようです。原因はあの空間に吸い込まれたときに起きたのでしょうが、私自身詳しい理由は分かりません。それより、私には一番気がかりなことがあります。

 

「あの……ひとつ聞いてもいいでしょうか?」

「なに?」

「私の他に……もう一人倒れていたりしなかったでしょうか?私と同じくらいの年の男の人なんですけど……。」

「いや、僕が見かけたのは君だけだったよ?」

「そうですか……」

 

そんな気はしていましたが、やっぱりその人から事実を聞いてしまうとショックが大きいです。シンジさんの事ですから無事だとは思いますが、それでもあれだけの衝撃で吸い込まれてしまえばどうしても心配になってしまいます。

 

「あっ、自己紹介がまだだったね。僕はコウヤ!君の名前を聞いてもいい?」

「私はリーリエです。よろしくお願いします、コウヤさん。」

「!?う、うん!よろしくね!」

 

コウヤさんが丁寧に挨拶をしていただいたため、私も自己紹介をして頭を下げ挨拶をしました。一瞬私の名前を聞いたときに驚いていたように見えましたが、そのことを気にする前にコウヤさんが私に質問をしてきました。

 

「リーリエは何であそこで倒れていたか覚えはある?それとさっき言ってたシンジって……。」

「そうですね。少し長くなりますが……。」

 

隠すことでもないので私は私自身の事を詳しくコウヤさんに説明しました。お母様に依頼されたこと、空間に飲み込まれたこと、それからシンジさんが私にとって大切な人だという事も。

 

私の説明を聞いてコウヤさんは顎に手を当てて考え事を始めました。あまりに突然すぎる話に混乱しているのでしょうか。だとしても私自身でも信じられないため仕方のない事だとは思いますが……。

 

(リーリエの言っていることは正直信じられないことだけど、彼女が嘘を言っているとも思えない。僕の知っているリーリエと違う事を考えると……もしかすると……)

 

コウヤさんは暫く考えるそぶりを見せると、私の目を見て結論付けたことを口にしました。

 

「リーリエ、まず君の話から推測するとここは君の知っている世界とは別の世界の可能性がある。」

「別の世界……ですか?」

「先ず一つ目の根拠だけど、君は僕の知っているリーリエじゃないんだ。」

「ど、どういうことですか?」

 

未だに疑問符を浮かべる私に、コウヤさんは簡単に説明をしてくださいました。

 

「僕の世界にも君にそっくりの人物、同じ名前のリーリエって女の子がいるんだ。君のお母さんの言った並行世界と言うものを信じるのであれば、君はこの世界とは別の世界のリーリエって考えるのが妥当だと思う。」

 

なるほど、と私はコウヤさんの言葉に納得しました。

 

コウヤさんの知り合いにも私そっくりのリーリエと言う女の子がいるのだそうです。ただそのリーリエは私と髪型も服装も違い、喋り方も若干差があるそうです。

 

特に大きな違いは、ポケモンを触れるかどうかだそうです。私は問題なくコウヤさんのニンフィアさんに触れますが、この世界のリーリエは自分の所持するポケモンさんと、クラスメイトのピカチュウさんと言った一部のポケモンさんにしか触れることができないそうです。この話を聞いていると、私との違いは明らかと言っていいです。

 

それに辺りをよく見てみると、私にとってもここは見覚えのある場所でした。私が以前よくお世話になっていた場所、ククイ博士の研究所に間違いありません。ククイ博士の姿が見えないのでご本人は留守のようですが。

 

お母様とコウヤさんの言っていることが正しいのであれば、私はこの世界とは別の世界から来たリーリエという事になります。私にとってはここが別の世界という事になるので少々ややこしいですが……。

 

『フィアー!』

 

私が現在の状況を頭の中で整理していると、ニンフィアさんが私に頬を摺り寄せて甘えてきました。甘えん坊さんなのでしょうか?

 

「ははは、ニンフィアもリーリエに懐いたみたいだね。」

「そうなんでしょうか?」

 

私はニンフィアさんの頭を優しく撫でてあげました。するとニンフィアさんは私の膝の上に乗っかりました。

 

「……なんだかシンジさんのニンフィアさんに似てる気がします。」

「シンジって人もニンフィア持ってるの?」

「はい。色は違いますけど、人懐っこくて甘えん坊で、それでもすごく強くて頼りになるシンジさんの相棒です。」

 

私はニンフィアさんとシンジさんの事を思い出すと、声のトーンが自然と下がってしまいました。やっぱり心の中では不安で仕方ないのかもしれません。だってシンジさんは……

 

「その人、リーリエにとってすごく大事な人なんだね。」

「……はい///」

 

シンジさんは私にとって、とても大切な方ですから。私は顔熱くなるのを感じながらコウヤさんの言葉に頷きました。

 

その時、家の扉が開いて男の子と女の子が一人ずつ家に入ってきました。一人は白のラインが入った青いシャツに赤い帽子、下部が赤の黒いパンツ。それと男の子の肩にはカントー地方で有名なポケモンさんであるピカチュウさんと、背負っているリュックサックの中にはアローラの初心者用であるモクローさんが気持ちよさそうに寝ていました。

 

女の子はブロンド色のショートヘアーに赤の中折れ帽、ピンクのワンピースに赤のロングカーディガンを着用していて首元には青のリボンをつけていました。私は服装のことについては良く分かりませんが、それでもその女の子がおしゃれには気を遣っているのだという事は伝わってきます。

 

「ただいまー!」

「2人ともおかえりー!」

 

3人は挨拶を交わすと、帰ってきた2人は私を見て目を見開き驚いた表情を浮かべました。

 

「あれ?り、リーリエ?」

「あっ、いえ、私は……」

 

女の子が私の顔を見て私の名前を口にしました。先ほど聞いたコウヤさんの話からすると、女の子は私の事をこの世界のリーリエと勘違いしているのでしょう。私がその勘違いを正す前に、コウヤさんが立ち上がって口を開きました。

 

「セレナ、サトシ、この子はリーリエじゃないよ。あ、いや、リーリエと言えばリーリエなんだけど……。」

 

コウヤさんは少し頭を抱えながらこれまでの経緯を2人に説明してくれました。

 

正直私でさえ信じがたい話でしたが、2人とも疑うことなく私の事を笑顔で迎えてくれました。コウヤさんもそうですが、ここにいる人たちは優しい方々ばかりなのですね。

 

複雑な話だったので男の子は理解が追い付いていない様子でしたが、それでも最終的には私は悪い人ではないと結論づけてくれたようです。

 

「てっきり私はリーリエがイメチェンしたのかと思ったわ。あっ、私はセレナ!よろしくね!」

「俺はサトシ!それとこっちが相棒のピカチュウ!」

『ピカ、ピカチュウ!』

『僕はロトム図鑑ロト!ヨロトシク!』

「リーリエです。よろしくお願いします。サトシさん、セレナさん、ピカチュウさん、ロトム図鑑さん。」

 

自己紹介をしてくれた私も改めて挨拶をしました。

 

「そうだ。サトシとセレナはここに来る途中にシンジって人に会わなかった?」

「いや、会ってないけど……。」

「そ、そうですか……」

 

外から返ってきた2人も見ていないとなると、いよいよ私も不安がどんどん募ってしまいます。しかし不安で俯いてしまう私を見て、サトシさんが笑顔で声をかけてくれました。

 

「じゃあみんなでそのシンジって人を探そうぜ!」

「え?で、ですが……」

「困ったときはお互い様よ!それに同じ女の子としてリーリエの事は放っておけないもの!」

「サトシさん……セレナさん……」

 

サトシさんとセレナさんは私の事を励ましてくれて協力してくれると言ってくれました。今の私にとってこれ以上頼もしい事はありません。

 

「決まったね。じゃあまずは……」

『フィア?』

「え?ニンフィア?どこ行くの!」

 

コウヤさんがシンジさんを探すための方針を言おうとした瞬間、ニンフィアさんが何かに気付いたように駆け出して行ってしまいました。

 

「ニンフィアが勝手にどこかに行っちゃうなんて珍しいわね。」

『ニンフィア、どこに行くつもりロト?』

「何か見つけたのかも?」

「とにかくニンフィアの後を追いかけよう!」

「は、はい!」

 

私たちは突然駆け出したニンフィアさんの後を追い、ククイ博士の研究所を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはメレメレ島のアイナ食堂と呼ばれる場所だ。今ここに一人の少年と少女がいるのだが……。

 

「さっきは助かったよ、マオ。」

「いいのいいの!困ったときはお互い様でしょ?」

 

マオと呼ばれた少女はお礼を言う少年に笑顔でそう告げる。

 

「それより、ごめんね。私の方こそシンジにお店のこと手伝って貰っちゃって。」

「それくらいお安い御用だよ。それに、さっきのマオの言葉を借りるなら困ったときはお互い様、だからね。」

 

この少年はリーリエと共に自分の世界からこの世界へと飛ばされてしまったシンジだ。何故彼がアイナ食堂にいるのかと言うと、森の中を散策していたマオが偶然にも倒れているシンジを見つけたのだ。

 

最初は倒れていることに驚き焦ったマオだが、このまま森の中に置いておくことができずに自分の家までシンジを運ぶことにした。

 

シンジは自分に起きたことを全てマオに話した。とても現実離れした信じがたい話ではあったが、マオはシンジの言っていることを疑う事はなかった。シンジがそんな嘘をつく人物ではないと感じたことも一つの要因だが、彼女にはシンジの姿が自分のよく知る彼の姿と重なったのだ。そんな人物の事を疑うことは彼女にはできなかった。

 

『フィア!』

「ニンフィアもありがとう!おかげで助かったよ。」

 

シンジと共に店の手伝いをしてくれたニンフィアの頭を撫でてお礼を言うマオ。そんなマオにニンフィアも頬を擦り付けて喜んでいる。人懐っこいニンフィアの姿を見て、ますます彼女の目に彼の姿が浮かび上がる。

 

「リーリエ……大丈夫かな……」

 

シンジが不安そうにそう呟いた。マオも最初にその名を聞いたときは自分の耳を疑ったが、彼は間違いなくリーリエと言っていた。

 

しかしシンジの話を聞くと、彼の探しているリーリエは自分の知るリーリエとは全くの別人なようだった。シンジの話によると彼の言うリーリエは彼の世界にいる別のリーリエだ。そして彼にとってもかけがえのない大切な存在だと。

 

マオもシンジの力になってあげたいが、彼の倒れていた付近に誰かがいる気配はなかった。手がかりがない状態では探しようがないし、探そうにも人手も足りない。

 

そんな時、アイナ食堂の扉が開きベルの音が鳴る。

 

「あっ、お客さんかな?いらっしゃいませ!」

「マオちゃん!」

「遊びにきました。」

「スイレン!リーリエ!」

「リーリエ!?」

 

マオが飛び出して接客の準備をすると、そこにいたのは彼女の友人のスイレンとリーリエであった。その言葉を聞いたシンジがすぐさま飛び出すが、人違いだと気付くと突然名前を呼ばれ驚いているリーリエに謝った。

 

「あっ、ご、ごめん。人違いだった……。」

「い、いえ。マオ、この方は?」

 

リーリエは困惑しながらマオにシンジの事を尋ねる。マオも一から彼の事情を説明した。スイレンとリーリエも疑うことなく、自分の親友が信じた彼の事を自分の信じることにした。女の勘というやつだろうか。

 

「それであなたはわたくし……ではなくて、リーリエの事を探しているというわけですね?」

「うん。さっきは間違っちゃってごめんね。」

 

さきほどのことを謝るシンジに、リーリエは気にしなくていいと首を振る。

 

「……うん!私たちも探そう!もう一人のリーリエの事!」

「スイレン?」

 

立ち上がってギュッと手を握り締めるスイレン。そんなスイレンの姿を見て、マオとリーリエも同じく笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「そうだね!2人だと難しくても、4人ならすぐに見つかるよ!」

「はい!みんなで手分けして探しましょう!」

「で、でもみんなに迷惑かけるわけには……」

「さっきも言ったでしょ?困ったときはお互い様!」

 

笑顔でそう言うマオの言葉にスイレンとリーリエも同時に頷いた。それを見たシンジは、みんなにありがとうと一言感謝して答える。

 

早速リーリエを探しに行くためアイナ食堂を出ようとシンジが扉を開けようとしたとき、扉に触れる前に自然と開いた。そして何者かがシンジに飛びかかり、シンジは突然のことで反応することができずに押し倒される。

 

シンジはそれが何かを確認すると、そこには自分もよく知っているポケモンの姿があった。

 

『フィーア!』

「に、ニン……フィア?」

『フィア?』

 

そのポケモンは自身の相棒でもあるニンフィアであった。しかしそのニンフィアは明らかに自分のニンフィアとは違っていた。自分のニンフィアは通常のピンク色が主な色であるのに対し、そのニンフィアは水色なのである。まさしく色違いのニンフィアだ。

 

シンジが突然現れたニンフィアに困惑していると、そこに4人の少年と少女が息を切らしてやってきた。

 

「はあ……はあ……あ、あれ?ここってアイナ食堂?」

「コウヤ!サトシにセレナも!」

 

そこにはマオたちのクラスメイトで友人のコウヤ、サトシ、セレナの姿があった。そしてもう一人、探していた少女の姿もそこにあった。

 

「!?リーリエ!」

「し、シンジさん!?///」

 

リーリエを見つけたシンジは感極まって思わず彼女に抱き着いた。突然のことで驚くリーリエだが、シンジが無事だと分かり心の中に募っていた不安が完全に消え今では無事だと分かった事実に安心していた。

 

最も周囲の女性陣はシンジの大胆な行動に顔を赤くしているが。

 

「よかった……リーリエが無事で……。」

「シンジさん……。シンジさんも無事でよかったです……。」

 

その時リーリエはハッとなり、多くの人に見られているのに気付き顔を赤くする。

 

「え、えっと……シンジさん///そ、そろそろ離していただけると///」

「え?あ、ああ///ご、ごめん///」

 

シンジも今の状況に気付きリーリエと同じくらい顔を赤くして慌ててリーリエから離れた。

 

「2人は仲がいいんだな!」

 

サトシは笑顔でそう言うが、恐らく彼が言ったのは純粋な意味であろう。サトシの発言にみんな呆れている様子だが、当のサトシは全く理解していないだろう。

 

「と、とりあえずよかったね、リーリエ。目的の人と再会できて。」

「は、はい!ありがとうございます!コウヤさん!」

 

リーリエはそう言ってお世話になったコウヤに頭を下げて感謝する。その後、コウヤたちを紹介するためにシンジの方へと向き直った。

 

「シンジさん!この人が私を助けてくれたコウヤさんと、その友達のサトシさんとセレナさんです!」

「僕はコウヤ!それとこっちが僕のパートナーのニンフィアだよ!」

『フィーア!』

「俺はサトシ!それとこっちが相棒のピカチュウ!」

『ピカ、ピカチュウ!』

「はじめまして!私はセレナ!よろしくね!」

「僕はシンジ。それとこっちが僕の相棒のニンフィアだよ。」

『フィーア!』

 

コウヤ、サトシ、セレナに続いてシンジも3人に挨拶する。その後コウヤの方へと振り向いて口を開いた。

 

「僕からも礼を言わせて。リーリエの事、助けてくれてありがとう、コウヤ。」

「気にしなくていいよ。僕も困っている人は放っておけないんだ。」

 

その後、「でも」とコウヤはシンジに出会ってから感じていたことを不思議な感情を彼に伝えた。

 

「シンジ……なんだか君とは初めて会った気がしないんだ。」

「奇遇だね。僕もそう思っていたところなんだ。なんて言うか……コウヤとは他人の気がしない。」

 

確かに2人は初対面だ。それは間違いない。しかし、2人には以前からずっと一緒にいたような不思議な感覚がしてならない。

 

不思議な感覚にとらわれ見つめあう2人だが、その時キュルキュルと音が鳴る。デジャブのような光景に思わずクスッと笑うリーリエ。その音の正体はシンジとコウヤのお腹の虫であった。

 

「……ははは、お腹鳴っちゃったね。」

「……ふふっ、そうだね。」

「だったら折角だから家で食べていきなよ!とびっきりの料理をごちそうするからさ!」

「じゃあ折角だしカキとマーマネも呼ぼうぜ!シンジたちを紹介しなきゃな!」

 

そうして一同カキとマーマネも加え軽いパーティのような催しを開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?コウヤってシンオウ地方の次期チャンピオンなの?」

「うん、そうなんだ。でも今はもっとポケモンたちの事学びたいし、それにサトシたちといるとすごく楽しいんだ。」

 

シンジはどこか嬉しそうに語るコウヤの姿を見て、自分とどこか似ていると感じていた。するとシンジはクスッと笑い、今度はシンジが口を開いた。

 

「やっぱり僕たち似てるね。」

「え?」

「僕も自分の世界では、アローラ地方のチャンピオンなんだ。」

「アローラの!?」

 

コウヤはシンジから聞いた事実に驚きを隠せない。こちらの世界ではアローラにリーグは存在せず、チャンピオンであるという事はアローラで最も強いトレーナーだという事だ。

 

それと同時にコウヤは、シンジとバトルをするとどんな勝負になるのかという興味が湧いてきた。自分はまだ正式に継いだわけではないが、実質的にチャンピオン同士の戦いになるわけだ。どんな結果が待っているのか興味が出ないわけがない。

 

この人と戦ったらどうなるのか、どんなバトルをするのか、そんなことを考えると胸の鼓動が鳴りやまない。気が付けば、コウヤはシンジにある提案をしていた。

 

「シンジ!」

「ん?どうしたの?」

「僕と……僕とバトルして欲しい!」

「!?コウヤ……」

「僕は次期チャンピオンとして、今よりもっともっと実力をつけなくちゃいけない。それにシンジとバトルしたらどうなるのか、単純に興味が尽きないんだ。こんな気持ちのなったのは久しぶりなんだ……。だからお願い!」

 

コウヤは手を合わせ頭を下げて懇願する。突然のコウヤの頼みに戸惑うシンジだが、対するシンジも同じことを考えていた。

 

直感ではあるがコウヤは間違いなく強いことは分かっていた。そんな彼とバトルをしてみたいと心の中で願う自分がいた。だからこそ、コウヤの願いに対する答えは決まっていた。

 

「……うん。こちらからもお願いするよ。僕も同じことを思っていたんだ。僕と君で全力のバトルをしよう!」

「!?うん!でも僕は負けないよ!」

「それはこっちも同じだよ。」

 

そうして2人は後日、ポケモンスクールにてお互い全力のバトルをすることを約束したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジとリーリエがこの世界に迷い込んで翌日。ポケモンスクールにてシンジとコウヤがフィールドで向かい合いバトルの準備をしていた。

 

「2人とも、準備はいいか?」

『はい!』

 

ククイが2人にバトルの準備ができたかと確認を取る。今回の話を聞いたククイは、快く2人の戦いの審判を買って出てくれたのだ。

 

昨日シンジの正体とバトルの話を聞いたクラスメイト達は、今回のバトルの話で持ち切りだ。

 

「ねえ、シンジがアローラのチャンピオンって本当?」

「私も昨日聞いてビックリしたけど、本当みたいよ。」

『これはすっごいスクープロト!最初から最後まで見逃せないロト!』

「すごい!実質的なチャンピオン同士のバトル!」

 

マーマネの質問にセレナが答え、ロトムとスイレンが興奮気味にそう言う。普段バトルをする彼女ではないが、これほどのビックカードであれば興奮しない理由がない。バトルが大好きなサトシとカキもこの対戦には興味津々だ。

 

「カキはどっちが勝つと思う?」

「正直なところ分からん。だが、一つ言えることは間違いなく激しいバトルになるって事だけだな。」

 

冷静に答えるカキだが、内心ではうずうずして落ち着かない様子なのがすぐにわかる。だが、一番ワクワクしているのは当の本人たちだろう。2人はバトル開始の時を今か今かと待っている。

 

「こちらに誰よりも興奮している2人がいるのですが……」

「シンジさーん!頑張ってくださーい!」

「コウヤー!絶対勝ってよー!」

 

リーリエが指を指した方を見てみると、そこにはもう一人のリーリエとマオが2人の事を応援していた。コウヤとシンジは微笑みながら無言で手をあげ対応するが、予想外の光景に他のみんなは苦笑するしかないようだ。

 

「それではこれより!コウヤ対シンジのバトルを始める!ルールは3対3の3本勝負!先に2回勝った方が勝ちとする!2人もそれでいいな?」

 

コウヤとシンジは頷き承諾する。そして自身のモンスターボールをそれぞれ手にし、バトル開始の合図を待つ。

 

「それでは両者、ポケモンを!」

「僕の最初のポケモンは……」

「もちろんこの子だよ!」

 

そして2人は同時にモンスターボールをフィールドに投げる。すると中から出てきたのは……

 

『フィーア!』

 

互いにパートナーとしているニンフィアであった。初めからぶつかるパートナー同士の戦いに、周囲の熱もさらに熱くなる。

 

「バトル始め!」

『ニンフィア!でんこうせっか!』

 

バトル開始の合図と同時に互いにでんこうせっかを繰り出す。ニンフィアは中央でぶつかり合い、互いのでんこうせっかが炸裂する。お互いの威力はほぼ互角で、どちらも元の位置まで戻らされる。挨拶は充分と言ったところか、今度はシンジが先に動いた。

 

「ニンフィア!シャドーボール!」

「まもるで防ぐんだ!」

 

シンジはシャドーボールで攻撃を仕掛けるが、コウヤはまもるを指示し的確に防ぐ。まもるは連続で使用すると失敗してしまうため、シンジはその隙を狙って追い打ちを仕掛けることにした。

 

「でんこうせっか!」

『フィア!』

 

シンジのニンフィアはでんこうせっかで接近戦を仕掛ける。しかしコウヤのそう易々と攻撃を受ける程甘くはない。

 

「ハイパーボイス!」

『フィアー!』

 

コウヤのニンフィアはハイパーボイスで反撃する。シンジのニンフィアはハイパーボイスによって動きを止められ、接近する前にその場で怯んでしまった。

 

「今だ!でんこうせっか!」

 

ハイパーボイスによって動きを止められたシンジのニンフィアは、回避できずにでんこうせっかの直撃を受けてしまう。

 

「ニンフィア!大丈夫!?」

『フィア!』

 

ニンフィアは頭を振りダメージを抜き取る。シンジはやっぱりコウヤたちは強いのだと確信した。

 

「ニンフィア!ムーンフォース!」

「躱してでんこうせっか!」

 

コウヤのニンフィアは力を溜めてムーンフォースを解き放つ。シンジのニンフィアはその攻撃を上手く躱しでんこうせっかで再び接近する。

 

「もう一度ハイパーボイス!」

「そのままようせいのかぜ!」

 

再びハイパーボイスで攻撃を止めようとするコウヤだが、シンジのニンフィアはでんこうせっかをしながらようせいのかぜを放ちハイパーボイスを阻害する。いくら範囲が広く厄介な音技のハイパーボイスと言えど、強い風を発生させることで妨害させることが可能だ。

 

ハイパーボイスを止められコウヤのニンフィアに隙が生じ、今度は逆にでんこうせっかの直撃を浴びてしまう。だがこちらも同じくこらえ凌ぎきる。

 

「ニンフィア!まだいけるよね!」

『フィーア!』

 

コウヤの呼びかけにニンフィアも答える。コウヤもシンジとの戦いに気分が高揚し、いつも以上にバトルの楽しさを感じていた。

 

「シャドーボール!」

「躱して!」

 

コウヤのニンフィアはシャドーボールを上手く回避する。

 

「ムーンフォース!」

「こっちもムーンフォース!」

 

その後ムーンフォースの力を同時に解き放ち、互いのムーンフォースが交差する。どちらの威力もすさまじく、交わった衝撃がフィールド全体を包み込む。視界が奪われ、コウヤには打つ手がなくなった。

 

「ようせいのかぜ!」

「っ!?かわして!」

 

シンジのニンフィアはようせいのかぜで煙を振り払いコウヤのニンフィア目掛けて攻撃する。コウヤのニンフィアは咄嗟の判断によってジャンプをして回避する。

 

「でんこうせっか!」

「まもる!」

 

コウヤのニンフィアはでんこうせっかをまもる防いだ。しかしシンジのニンフィアはその反動を逆に利用し、怒涛の攻めで追撃をする。

 

「今だ!ムーンフォース!」

 

シンジのニンフィアは弾かれた反動から流れるように態勢を整え、そのままムーンフォースの構えに入り瞬時に力をため解き放った。コウヤのニンフィアは咄嗟によけることが出来ず直撃してしまう。

 

「っ!?ニンフィア!」

『フィア……』

「コウヤのニンフィア、戦闘不能!シンジのニンフィアの勝ち!」

 

コウヤのニンフィアは奮戦したが戦闘不能となり、惜しくも敗れてしまう。コウヤはニンフィアの身が心配になり傍まで駆け寄る。

 

同じポケモン同士の場合実力の差以上に経験の差が物を言う。シンジとコウヤの差よりも、ニンフィアの戦闘経験がバトルの結果につながったのだ。

 

『フィア……』

「ううん、君はよく頑張ったよ。これからもっと強くなろう。」

『……フィア!』

 

申し訳なさそうに表情を暗くして謝るニンフィアだが、コウヤはニンフィアを咎めることはなかった。コウヤの優しい言葉にニンフィアも自然と表情が明るくなり、もっともっと強くなることを誓う。

 

「ニンフィア、お疲れ様。ゆっくり休んでね。」

『フィア!』

 

シンジもニンフィアをモンスターボールへと戻す。その後、次のポケモンを決めモンスターボールへと手にした。

 

「次は君に任せたよ!お願い、ブースター!」

『ブスタ!』

 

シンジは手にしたモンスターボールをフィールドに投げる。すると姿を現したのはほのおタイプのポケモン、ブースターだ。そのブースターの姿を見たコウヤは、次に出すポケモンを決めモンスターボールを手にする。

 

「なら僕は……お願いドダイトス!」

『ドダァイ!』

「ドダイトス!?」

 

コウヤが選抜したのはドダイトスだ。ドダイトスを見たサトシが予想外のポケモンの姿に驚く。

 

「あのドダイトスね、今日の朝にコウヤが研究所から送ってもらったんだって。シンジとは本気で戦わないと勝てないからって。」

「本気で勝ちに行ってるんだな、コウヤは……。」

「あのドダイトスさん……強いですね。」

「分かるの?リーリエ?」

「なんとなくですが伝わってきます。」

 

マオの説明にカキはコウヤがこのバトルにかける思いを感じ取る。リーリエもあのドダイトスを見てその強さを察する。ポケモントレーナー同士、どこか通ずるものがあるのだろう。

 

ドダイトスはコウヤが初めてパートナーにしたポケモンだ。見ただけでその強さを感じ取れるのはそれだけドダイトスに秘められた力が強いということだ。シンジも決して油断しないようにブースターと気を引き締める。

 

「ブースターはほのおタイプ。対してドダイトスはくさタイプ。相性的に言ったらコウヤのほうが不利だよね?」

「だけどドダイトスはじめんタイプも持っているわ。」

「勝負は相性だけでは決まらないね……。」

 

相性だけで決まるのがポケモンバトルではない。それはこの場にいるみんなが散々見てきたからわかっていることだ。クラスメイト達は静かに2人の戦いを見守ることにした。

 

「ブースター!かえんほうしゃ!」

 

まずはあいさつ代わりにほのおタイプの基本的な技、かえんほうしゃで先制攻撃を仕掛ける。コウヤとドダイトスもその攻撃に冷静に対処する。

 

「ストーンエッジ!」

 

ドダイトスは力強く地面を踏み、青く光る巨大な岩を隆起させかえんほうしゃを防ぎながら攻撃する。

 

「っ!?躱して!」

 

シンジはその強力なストーンエッジに驚きながらも回避の指示を与え、ブースターは被弾することはなかった。

 

「今度はシャドーボール!」

 

あきらめずにシャドーボールの連続技で攻め立てる。だがドダイトスは決して怒涛の攻撃にも動じることはなかった。

 

「ウッドハンマーで跳ね返せ!」

 

その連続で放たれたシャドーボールをウッドハンマーで跳ね返す。その一つがブースターに向かうが、ブースターはジャンプして間一髪に回避する。

 

「今だ!ストーンエッジ!」

『ドッダァ!』

 

隙を逃すまいとドダイトスは再びストーンエッジを放ち追い打ちを仕掛ける。ブースターも態勢が崩れた状態では回避することが出来ず、ストーンエッジの直撃が突き刺さる。

 

「ブースター!?」

 

ブースターはストーンエッジによる直撃を受け吹き飛ばされる。しかしシンジの言葉に反応し、上手く受け身を取ることに成功した。それでも弱点であるいわタイプの技を受けダメージは隠せない様子だ。

 

「たたみかけるよ!じしん!」

 

ドダイトスはその巨体を利用し、地面を大きく揺らした。その衝撃によりブースターは思う様に態勢を整えられない。

 

「もう一度ストーンエッジ!」

 

三度ストーンエッジで攻め立てるドダイトス。ピンチだと感じたシンジは、仕方がないと諦め奥の手を出す。

 

「ブースター!オーバーヒート!」

『ブスタ!』

 

ブースターは体内の熱を集め力を込め、その熱を一点に集中して放出する。その攻撃はストーンエッジを打ち破り、ドダイトスまで貫通し見事命中した。あまりの威力にコウヤも目を見開いた。

 

「っ!?ドダイトス!」

『ドダイ!』

 

ドダイトスは強力なオーバーヒートの一撃を受けてしまうも、なんとか踏みとどまり耐えしのぐ。オーバーヒートの威力はすさまじいが、ドダイトスの耐久力も天下一品だ。そう易々と倒れることはない。

 

オーバーヒートは強力な分使えば使うほど威力が下がってしまう技だ。恐らくコウヤ相手に撃てるのはこの一回が限界だろう。

 

「楽しい……このバトルすっごい楽しい!」

 

その時、コウヤは心の底からこのバトルがこれ以上ないくらい楽しいと感じていた。これまで多くのトレーナーと戦ってきたが、自分と対等に戦えるものは数えられるほどしかいなかった。

 

だがシンジは、間違いなくコウヤと同等の実力者だ。そんな相手と全力で戦えるのは次期チャンピオンとして、いや、1人のポケモントレーナーとしてこれほどまでに嬉しい事はない。

 

「僕もだよ。僕も君との戦いはすごく楽しい。もっともっとぶつかり合おう!全力で!」

 

シンジとコウヤはもはやチャンピオン同士と言う立場を完全に忘れ、この楽しいひと時を味わっていた。その2人の姿を見て、クラスメイト達も唖然としている。

 

「何て2人だよ、本当に……」

 

カキの言葉にみんなが頷く。これほど強力な技の応酬をしていれば、どちらが倒れても可笑しくはない。そんな2人は今、笑いながらこのバトルを心の底から楽しんでいる。見ている方がハラハラする勝負だ。

 

特にリーリエとマオは、このバトルに夢中になりすぎて目が離せない状態だ。これだけのバトルであれば当然と言えば当然だが、いつどっちが倒れるかが不安で自分の心臓の音が聞こえてしまうほどに緊張している。

 

「ブースター!フレアドライブ!」

「ドダイトス!ハードプラント!」

『ブースタ!』

『ドダァイ!』

 

ブースターは炎を身に纏ったフレアドライブを、ドダイトスは地面から巨大な蔦を多数出現させるハードプラントを使用した。互いに自身の持つ最大の大技であるため、これで決着をつけようと踏んだのだろう。

 

ドダイトスのハードプラントが容赦なくブースターを襲う。ブースターはフレアドライブの勢いを一切殺すことなく距離を縮めていく。だが、次第にドダイトスのハードプランが勢いを増し、ブースターは遂にドダイトスに触れる前に飛ばされ倒れてしまう。

 

「っ!?ブースター!」

『ブスタ……』

「ブースター、戦闘不能!ドダイトスの勝ち!」

 

さすがにダメージの限界がきたのか、ブースターは堪らず戦闘不能になる。シンジはブースターに駆け寄り、ブースターを抱えた。

 

「ブースター、お疲れ様。あとはゆっくり休んでね。」

 

シンジは最後まで戦ったブースターに優しく言葉をかけモンスターボールへと戻す。

 

「ドダイトス、お疲れ。よく頑張ったな。」

『ドダイ』

 

ドダイトスの頭を撫で、コウヤは頑張ってくれたドダイトスを褒める。ドダイトスもこれには嬉しそうに微笑んだ。

 

この2人には相性の差なんて関係ない。バトルの中でも互いに成長し、底知れない力を発揮する。そんな2人を見て、クラスメイトのみんなは息を呑む。もはや声を出すことすら難しくなってきたのだ。

 

しかしこれで勝負は1対1。お互いに後がなくなり、次で勝った方がこのバトルの勝利者となる。泣いても笑ってもラストバトルだ。

 

シンジとコウヤは、お互いに負けられない、負けたくないと言う感情が心の底から溢れてくるのを感じる。2人はこの思いを最後のポケモンに託し、お互い同時にモンスターボールを投げた。

 

「お願い!リーフィア!」

「頼むよ!ラランテス!」

『リーフ!』

『ララーン!』

 

シンジはリーフィアを、コウヤはラランテスを繰り出した。お互いのタイプはどちらもくさタイプ。タイプで優劣はつけられないが、先ほどの戦いを見ていれば誰にでもそんなことは関係ないのが分かる。この勝負はどちらに転んでも可笑しくないのだ。

 

「全力で行くよ!シンジ!」

「僕も全力で迎え撃つよ!コウヤ!」

 

互いにラストバトルへの意気込みはバッチリだ。互いに準備が出来たことを確認し、完全に同時に動き出した。

 

「リーフィア!リーフブレード!」

「ラランテス!リーフブレード!」

 

リーフィアとラランテスは同時に走り、中央でリーフブレードを使い交じり合う。

 

リーフィアは尻尾と額の葉を駆使し、ラランテスは鎌状の腕を振るう。斬っては防ぎ、斬っては躱しを繰り返した激しい鍔迫り合いだ。互いに仕込んでいた刀を振るっているかのように鋭く、力強く攻撃していた。

 

だがこのままでは埒が明かない。そう思ったリーフィアとラランテスは一度元の位置に戻って距離を離す。

 

「リーフィア!エナジーボール!」

「シザークロスで切り裂け!」

 

ラランテスはエナジーボールをシザークロスによって簡単に切り裂く。むしタイプのシザークロスであれば、くさタイプの技であるエナジーボールを切り裂くことも容易だ。

 

「ラランテス!はっぱカッター!」

『ララン!』

 

ラランテスははっぱカッターで攻め立てる。だが、今度はシンジとリーフィアが見せる。

 

「リーフブレード!」

『リッフ!』

 

リーフィアはリーフブレードで無数に放たれたはっぱカッターを全て落とした。簡単に出来ることではない芸当にみんなが驚く。その隙を見てリーフィアはラランテスに素早く接近する。

 

「つばめがえし!」

『ララ!?』

 

ラランテスの懐に潜り込んだリーフィアは、アクロバットな動きでつばめがえしをラランテスに命中させる。くさタイプであるラランテスにひこうタイプのつばめがえしは効果抜群だが、ラランテスも決して負けていなかった。

 

「ラランテス!シザークロス!」

『リフィ!?』

 

今度はラランテスが反撃し、シザークロスがリーフィアを直撃する。つばめがえしがラランテスに効果抜群だったのに対し、シザークロスもまたリーフィアに効果抜群だ。大きなダメージを受けても冷静に判断し弱点で反撃する。実力があるトレーナーだからこそ焦らず的確な対応が出来るのだ。

 

(やっぱり楽しい……シンジとのバトル!サトシ以外で熱くなったのっていつ振りだろう。でも、だからこそ……)

 

僕たちは負けない。そう心の中に湧き上がる闘志を感じるコウヤ。ラランテスもコウヤと目を合わせ頷いた。そしてコウヤとラランテスは遂に気持ちがシンクロし、不思議な力がみなぎってきた。

 

「僕たちは負けない!ラランテス!僕たちは、今を超えて強く!行くぞ!」

『ララーン!』

 

コウヤがラランテスと気持ちを同調させそう叫ぶと、ラランテスの周囲に風が巻き上がり、木の葉がラランテスを包み込んだ。姿はハッキリとは見えないが、ラランテスの姿はいつもと違う様子にみんなの目には映っていた。

 

「っ!?これって!」

「出た!キズナ現象!」

 

キズナ現象。みんなが口にするその言葉にシンジ、そしてもう一人のリーリエは驚きを隠せない。ラランテスのこんな姿は教科書や図鑑にすら載っていない。

 

(キズナ現象……僕の見たことのないラランテスの姿。メガシンカとは違う?)

「コウヤはやっぱり凄いや。でも……僕だって負けられない!行くよ!リーフィア!」

『リーフ!』

 

シンジの言葉にリーフィアも気合を入れなおし身構える。するとすぐさまコウヤとラランテスが攻めの態勢に入っていた。

 

「ラランテス!ソーラーブレード!」

『ララン!』

 

姿が変わり、間違いなく威力が通常よりも上がっているソーラーブレード。だが何よりの変化は、コウヤの動きがラランテスと完全にシンクロしているところにある。

 

ソーラーブレードは通常隙が大きい分強力な技だが、ラランテスはすぐにソーラーブレードを振り下ろしてきた。巨大なエネルギーの剣はリーフィアに振り下ろされるが、リーフィアはなんとかその攻撃を回避した。こんな強力な技をまともに受けてしまえば一溜まりもないだろう。

 

「くっ!?リーフィア!つばめがえし!」

 

リーフィアの素早さを活かし、確実に弱点の技でダメージを与えようとするシンジ。しかし……

 

「ラランテス!リーフブレード!」

 

ラランテスの剣と交じり合い、拮抗するも弾き返されてしまい逆にダメージを受けてしまう。攻撃力だけでなく、ラランテスの素早さまで上昇しているようで簡単に攻めさせてはくれない。

 

「ラランテス!はっぱカッター!」

「躱してエナジーボール!」

 

リーフィアははっぱカッターを回避し、すかさずエナジーボールで反撃する。エナジーボールはラランテスに命中し、ラランテスはその一撃で怯みを見せた。シンジはその隙を見て長引かせては危険だと感じ、一気にケリをつけようと考える。

 

「リーフィア!つるぎのまい!」

 

リーフィアの周囲を3本の剣が舞い、リーフィアの攻撃力を格段に上昇させる。だったらこっちも一気に決めるために決断した。

 

「これで決めるよ!ソーラーブレード!」

『ララン!』

 

ラランテスはリーフィアの上空からさらに巨大になったエネルギーの塊である剣を振り下ろす。

 

「リーフィア!リーフブレード!」

『リーフ!』

 

リーフィアはそのソーラーブレードに立ち向かい、リーフブレードで迎え撃つ。

 

空中で交差する互いの大技。どちらの力も互角で、遂に反発し合った力が爆発を引き起こしフィールド全体にその音が轟きフィールドを爆風が包み込んだ。

 

リーフィアとラランテスの姿が見えなくなり、勝敗がどっちに転んだのか分からない状況となった。ゴクリと喉鳴らし結果を待つ両者。しかし爆風が晴れた時には、そこには驚くべき結果が待っていた。

 

『リフ……』

『ララン……』

「っ!?リーフィア!」

「っ!?ラランテス!」

「り、リーフィアとラランテス!両者ともに戦闘不能!よってこの勝負引き分け!」

 

リーフィアとラランテス、2人ともフィールドで目を回し倒れていたのだ。ダブルノックダウンである。ラランテスもバトルが終わり、元の姿へと戻っていた。

 

シンジとコウヤはすぐにリーフィアとラランテスの元までかけつける。あまりの強力な技のぶつかり合いだったため2人とも力を使い果たしている様子だ。

 

『ララン……』

「ううん、謝る必要ないよ。シンジは強かったし、君もよく頑張ったんだから。」

「リーフィア、大丈夫?」

『リーフ……』

「うん。コウヤ、すごく強かったね。僕たちももっともっと強くなろう!」

 

コウヤとシンジ、ラランテスとリーフィアも今よりさらに高みがあることが分かり、悔しさよりも逆に嬉しさが込み上げてきた。だがその時、コウヤは苦痛により顔を歪め膝を崩す。

 

「うっ!?」

「コウヤ!大丈夫!?」

 

すぐさまマオがコウヤの身を案じ駆け寄った。キズナ現象と呼ばれるこの姿はポケモンだけでなくトレーナーに対しての負担も大きいものとなる。ポケモンの感じた痛みもトレーナーに伝わり、バトルが終わると溜まっていた疲れが一気に伝わってしまうのだ。

 

コウヤは心配するマオに、大丈夫だと伝える。だがそれでもマオは体の疲労が癒えないコウヤに肩を貸し、彼を支えてあげた。

 

「シンジさん、今回は残念でしたね。」

「バトルは引き分けだったけど、いい経験は出来たよ。」

 

リーリエの言葉にシンジはそう答え、「それに」とさらに言葉を続けた。

 

「もしあの力が真にコウヤのものになっていたら、僕は負けてたかもしれないしね。」

「え?」

 

コウヤはシンジの言葉に疑問を感じた。キズナ現象にはさらに上があることをシンジは知らない。それなのになぜそのことを知っているのか気になったのだ。

 

「さっきの力、戦ってる時になんだか違和感を感じたんだ。ラランテスとコウヤには、もっともっと高みがあるんじゃないかって。」

「僕とラランテスの……高み……。」

「もしその力をコウヤたちがものにしたら、もう一度全力でバトルしよう。僕も負けない様に、もっともっと腕を磨いて強くなってるよ。」

「……僕も、今度はシンジたちに勝てるように強くなる!今度は絶対に負けないから!」

 

シンジとコウヤは互いに称え合い握手を交わす。その姿を見たリーリエは、自分もいつか2人のようなバトルが出来るようにしたいと思い見つめていた。

 

「……ぷはぁ!心臓止まるかと思ったぜ……」

「本当だよ……。僕なんか寿命が縮んだよ……」

 

まるで息をするのを忘れていたかのように息を吐きだしたカキ。そんなカキの意見に同意し、マーマネは苦しさを感じた胸を抑える。

 

「チャンピオン同士のバトル……すごすぎ!」

『バッチリ記録に残したロト!こんなバトル二度と体験できないロト!』

「わたくし感動しました!こんなにも素晴らしいバトルがあるなんて!」

 

スイレン、ロトム、リーリエも激しいバトルに感動していた。

 

「すごいバトルだったわね……。私緊張しすぎてちょっと危ないかも……。」

「すっげえバトルだったぜ!2人とも!」

 

同じようにセレナとサトシも2人のバトルに感動する。セレナの場合は緊張のあまりその場に座り込んでしまったが。

 

だがその時、シンジとリーリエを不思議な光が包み込む。その突然の現象にみんなが驚くが、2人はもう時間かと悟った。

 

「どうやらもう元の世界に戻らなきゃいけないみたい。」

「残念ですけど、これでお別れみたいですね。」

 

みんなは折角友達になれたのに、と残念そうな表情を浮かべる。そこで最初に口を開いたのはコウヤだった。

 

「……また、会える?」

「……わかんない。」

 

今回の原因が分からない以上、また会えるかどうかもシンジとリーリエには不明だ。だが、「それでも」とシンジは続けて口を開いた。

 

「……なんだか会える気がする。僕たちがポケモンと共に歩んでいる限りね。」

「!?うん!また会おう!シンジ!リーリエ!」

 

コウヤの言葉にシンジとリーリエも笑顔で頷く。すると徐々に2人を包んだ光が強くなり、その場から一瞬の内に消えてなくなった。

 

「……絶対に会おうね。」

 

僕たちは友達だから、コウヤは最後にそう呟き、どこまでも続くアローラの青空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戻ってきた……のかな?」

「そうみたい……ですね」

 

シンジとリーリエは周囲を見渡す。するとそこは見覚えのあるマハロ山道であった。

 

ハッとなり背後にあるつり橋を確認してみるも、そこには空間の歪みは完全に消失していた。

 

だが、そこではカプ・コケコがシンジたちの様子をじっと見ていた。暫くすると、カプ・コケコはその場を飛び去りマハロ山道から姿を消した。

 

「……一体何だったのでしょうか?」

「分からない……分からないけど……」

 

充実した日々が過ごせた気がする。シンジはそう感じた。リーリエもシンジのその言葉に同意し、笑顔で頷いた。

 

カプ・コケコは2人をあの世界に連れて行きたかったのか、それとも空間の歪みの件を解決してほしかったのか、それは謎に包まれたままだが、それでももしカプ・コケコが連れて行ってくれたのであれば、2人は守り神に感謝するだろう。

 

「……さあ、僕たちはルザミーネさんに今回の事を報告しよっか。」

「そうですね。でも、どうやって報告しましょうか……」

 

非現実的な現象であったため、どうルザミーネに報告しようか迷う2人。だが悩んでいてもしょうがないと、2人はエーテルパラダイスに向け歩みだした。

 

その後エーテルパラダイスに辿り着き包み隠さず報告するシンジとリーリエ。ルザミーネとバーネット博士も、2人の報告を受け取り納得し感謝した。一先ずUBが関係していないという事には安心するルザミーネたちであった。

 

そして報告を終えたシンジたちは、それぞれいつもの日常に戻る。だが、あの日の体験は彼の頭からなくなることはないだろう。

 

(もしかしたらコウヤって……)

 

シンジはその日の出来事を思い出す。もしかしたらコウヤはあの世界の自分自身なのかもしれないと考える。

 

(……まさかね。でも……)

 

シンジはコウヤも見ているかもしれない空を見上げ呟いた。

 

「僕たちは友達だよ、コウヤ」

 

また会う日を願い、シンジは友達の姿を思い浮かべたのだった。




なんとか間に合ってホッとしてます。でも楽しかったので個人的には満足でした。コウヤ君だけじゃなく他の原作キャラも含め難しかったですが、ちゃんと表現できているでしょうか。

兎に角改めてパラドファンさんありがとうございました!また機会がありましたらよろしくお願いいたします!

では私は少し疲れたので休ませていただきます。また次回お会いしましょう!ではではノシ

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