ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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新作FEの風花雪月を買ったら思いのほか超絶面白くて投稿が遅れる主です。風花雪月はいいぞ~!

本日はみんなの物語ですが、キミにきめたに比べると複数キャラからの視点が多いので前作に比べると意外に短くなりました。ですが一応前編後編に分けて投稿します。もうしばしお付き合いください。

キミにきめた同様内容は対して変更は加えてません。あくまで本作の主人公がいたら?という捏造に過ぎないのでご了承ください。


掲載二周年記念特別編 前編 ~みんなの物語~

とある場所に、海と山に囲まれた一つの大きな街が存在していた。

 

かつてその街があった土地はかなりやせており、今に比べ街も小さく殆ど人も住んでいない土地であった。

 

ある時、伝説のポケモンであるルギアがその街に姿を現した。

 

人とポケモンが協力し支え合って暮らしているのを見たルギアはその街に風を送った。

 

その後人間たちはルギアと約束を交わし、一年に一度ルギアを称えるために風祭を開くことにした。

 

そしてその風祭りの最終日、ルギアに風を送ってもらうことになったのだ。

 

街は発展していき、人間とポケモンたちは幸せに暮らしていた。

 

しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。

 

ある事件を境に、知られざる一匹のポケモンと人間たちの間に亀裂が入ってしまったのだった。

 

この物語は、そんな一匹のポケモンと2人の少年が紡いだ、始まりの物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはフウラシティ。風と共に暮らす街と呼ばれ、一年に一度風祭りが開かれ街中が賑わう大イベントが行われる。

 

そんなフウラシティの道路に敷設されたレールの上を、一本の電車が走っていた。いわゆる路面電車である。

 

そんな路面電車に、ある一人の少年と一匹のポケモンが満面の笑みではしゃいでいた。

 

「見ろよピカチュウ!すっげぇ楽しそうだぜ!」

『ピカチュウ!』

 

その少年、マサラタウンのサトシ。ポケモンマスターになるのを夢見てピカチュウと共に旅をしているポケモントレーナーである。そしてもう一人……。

 

「2人とも、あんまり騒ぎすぎると迷惑だよ。」

『イブブイ……』

 

サトシとは正反対で席に座り彼に注意を促す少年がいた。彼はシンジ。サトシと共に相棒のイーブイを連れてポケモントレーナーとしての腕を磨いている。

 

「だって風祭りだぜ?全力で楽しまなきゃ損だろ!」

『ピッカチュウ!』

 

シンジの忠告などお構いなしと言わんばかりに落ち着きがない様子のサトシとピカチュウ。しかし普段この様な祭りに参加することなど滅多にないため、一年に一度開かれるといわれているこの風祭りに来れば大はしゃぎしても仕方のないものだろう。

 

「……まあ、その気持ちは分かるけどね。」

『イブ!』

 

シンジも小さな声でそう呟く。普段は落ち着きのないサトシと違って冷静な彼だが、実際は彼もこの祭りが楽しみで仕方がなかったのだ。実際、この電車が駅に着くのを今か今かと待っている。

 

一方のイーブイは、シンジの膝の上で彼に気持ちよさそうに撫でられながら寛いでのんびりと過ごしている。イーブイは人見知りな部分があるが、シンジの傍にいると落ち着くようだ。

 

サトシのピカチュウはそんなイーブイと違い、サトシと一緒に大はしゃぎの真っ最中だ。ペットは飼い主に似る、とよく言うが、それはポケモンも同じようである。

 

暫くすると電車は駅に辿り着き彼らはそこで降りる。サトシは真っ先に走り出し、風祭りの屋台が並ぶ通りに向かっていった。

 

『ピカピ!ピカチュウ!』

「おいピカチュウ!あっちにもっと面白いものがあったぜ!」

『ピカ!?ピカッチュ!』

 

ピカチュウが珍しい商品が並んでいるガラスを眺めていると、サトシがそう言ってピカチュウを誘った。ピカチュウは真っ先に反応し、サトシの元へと走り出した。

 

「ちょっとサトシ!どこ行くの!」

「俺はピカチュウと一緒に色々見て回る!後でまた合流しようぜ!」

 

そう言ってサトシはピカチュウと共に人混みの中へと姿を消していった。相変わらずの幼馴染の姿に、シンジは呆れて溜息をつくしかなかった。

 

「はぁ……本当に落ち着きがないんだから。」

『イブブイ……』

 

でもそれがサトシか、と半ば諦め自分たちも折角の祭をパートナーと一緒に楽しもうと屋台を見て回ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、サトシやシンジたちとは別に風祭りに訪れ周りを見渡している少女がいた。

 

「はぁ……」

 

その少女はどこか気だるそうに大きなため息を吐く。彼女の手に握り締められているのは一つのモンスターボールだ。しかし、そのモンスターボールにはポケモンは入っていない。

 

「弟の頼みで風祭りにきたはいいものの、全然見つかんないじゃない。」

 

少女は現在この場にいない弟に愚痴を言いながら再び溜息を吐く。彼女がこの風祭りに来た理由はその弟に頼まれたことが関係している。

 

彼女の弟は現在怪我をしてしまい自分の足で歩くことが出来なくなってしまっている。そのためこの風祭りに来たくても来られない状態なのだ。

 

だがその弟は一つの頼みごとを姉にお願いした。それはとある珍しいポケモンを捕まえてほしいというものであった。

 

しかし彼女はポケモントレーナーではない。そのためポケモンの知識はおろかそのポケモンの詳細すら知らない。一応弟にポケモンの写真を自分が携帯しているスマホに送ってもらったため容姿だけであれば知っている。

 

彼女はそのポケモンを探しにこの風祭りに来たのだが、一向にそのポケモンの姿がない。余程レアなポケモンなのかと半ば諦めかけていると、何かが自分の足にぶつかってしまいその場で転んでしまう。

 

「いったったった……」

「おい、リリィ!大丈夫か?」

 

彼女にぶつかってしまったのはまだ幼い少女であった。男性がその少女の事を心配し駆け寄る。どうやらぶつかってしまった少女の名前はリリィと言うそうだ。その場にもう一人居合わせた女性がぶつかってしまった女性に謝る。

 

「ごめんなさい!大丈夫でしたか?」

「お姉ちゃん、ごめんなさい。」

「あっ、ううん。いいのよ。私もよそ見してたし。」

 

少女は自分にも非があるから気にしなくていいと立ち上がる。リリィは彼女の手に握られていた空のモンスターボールが気になり質問を問いかける。

 

「お姉ちゃん、ポケモンは?」

「ああこれ?ポケモン捕まえに風祭りに来たんだけど全然見つかんないの!きっと超レアなポケモンよ!」

「だった伯父さんに聞くといいよ!すっごいポケモントレーナーなんだよ!」

「ホントッ!?」

 

リリィは隣にいる男性に話題を振った。凄いポケモントレーナーと聞いて少女は目を輝かせ期待の眼差しでその男性を見つめる。リリィもその男性の事が大好きなのか、同じように目をキラキラと輝かせている。

 

当の男性はその期待のプレッシャーからか冷や汗を流している。少女はお目当てのポケモンの画像を男性に見せると、男性は脳裏のある少年の姿が写った。

 

(こ、このポケモンって確かあの時の坊主が連れてた……)

 

その時に彼は良い事を思いついたとそのポケモンの情報を彼女に伝える。

 

「そ、そのポケモンはな、さっき知り合いのトレーナーが連れ歩いてたな~。」

「え!?ホントに!?どこどこ!そのトレーナーはどこにいるの!?」

「あ~えーと……確かあっちの山の方で捕まえたって言ってたな~。」

「ホントに!?ありがとうおじさん!」

 

男性はそう言って遠くの山を指さして答えた。女性はそう感謝の言葉を告げるとその男性の指した山へと向かっていったのだった。

 

「ちょっと。またあんな嘘ついて……」

「いっ!?う、うそじゃねぇよ。は、半分はホントだって。」

 

隣にいた女性は男性に小さく耳打ちをしそう伝えた。その女性の言った通り、彼の言ったことは嘘である。そもそも彼の記憶にある坊主とはシンジの事であり、シンジとこの男性は全く面識がない。

 

彼は悪い人間というわけではないが、嘘をつくのが癖になってしまい、リリィの期待に応えるためについつい嘘をついてしまうのだ。とは言え知らずに彼の言うことを鵜呑みにしてしまった女の子が少々気の毒でもあるが。

 

何はともあれなんとか窮地を脱したと彼は再び姪であるリリィと共に風祭りを楽しむことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び視点は戻り風祭りを楽しむシンジとイーブイ。屋台で綿あめを買いパートナーと共に食している時であった。

 

『まもなくポケモンゲットレースが開始されます。どなたでも参加自由ですので、こぞってご参加下さいませ。』

 

祭り会場全体に放送が流される。その内容を聞いたシンジは、サトシであれば間違いなく参加するんだろうなと考えながらイーブイに話しかける。

 

「折角だし僕たちも参加しようか?」

『ブイブイ!』

 

どうやらイーブイも乗り気なようで、シンジの意見に賛同してくれた。互いの参加の意思があると確認したシンジとイーブイは、ポケモンゲットレースが開催される舞台へと向かう。

 

そして場所は変わりポケモンゲットレースの舞台へとたどり着いたシンジたち。そこには当然と言わんばかりにサトシとピカチュウの姿も確認することができた。

 

「おっ!?やっぱりシンジも参加するのか!」

「サトシこそやっぱり来てたんだね。」

「当ったり前だろ!こんな面白いイベント、参加しなくちゃもったいないぜ!」

『ピカピカチュウ!』

 

サトシとピカチュウはゲットレースが開始される前からやる気に満ち溢れている。参加する以上二人には優勝しか頭にない様子だ。そんなサトシは、シンジに対してある提案を出したのだった。

 

「シンジ!どっちが多くポケモンゲット出来るか勝負しようぜ!」

「サトシならそう言うと思ってたよ。やるからには僕たちも負けないからね!」

「俺だって負けねぇぜ!」

『ピカチュピ!』

『イブブイ!』

 

シンジとサトシはお互い認め合っているライバル同士拳を突き合わせて正々堂々バトルの挨拶を交わす。イーブイとピカチュウもパートナー同様お互いにライバルであり親友である両者と声を合わせて挨拶をする。

 

そして司会者の合図によりポケモンゲットレースの開会式が開かれる。

 

『それではこれより!ポケモンゲットレースを開始したいと思います!』

 

司会者によりポケモンゲットレースのルールが説明される。

 

この風祭り会場全域にポイント対象となる印であるマークをつけたポケモンが放たれており、彼らを多くゲットした者が優勝となる至ってシンプルなルールだそうだ。

 

司会者からルールの説明があったところで、遂にゲットレースの開始が宣言されようとしていた。

 

『それではポケモンゲットレース……レディー・ゴー!』

 

司会者の言葉と同時にポケモンゲットレースがスタートし、サトシやシンジを含む参加者が一斉に飛び出す。

 

「サトシには負けられないね。一匹でも多くゲットするよ!イーブイ!」

『イブイ!』

 

イーブイと共にサトシとのバトルに燃える2人。そんな2人の前にあるポケモンが姿を現した。

 

『エッパ!』

「あっ!エイパムだ!」

 

そのポケモンは紫色の体色をしたおながポケモンのエイパムであった。ゲットレースの印であるシールが貼られていたため、ゲットレース対象ポケモンに間違いない。

 

出会って早々、エイパムは自慢の尻尾を突き出して攻撃してくる。エイパムの得意技であるダブルアタックだ。

 

しかしその直線的な攻撃をイーブイは冷静にジャンプして回避する。

 

「スピードスター!」

『イーブイ!』

 

イーブイの放った星形の弾幕、スピードスターが攻撃後の隙を晒したエイパムにクリーンヒットする。その衝撃で大きく吹き飛ばされたエイパムにチャンスが生まれ、すかさずシンジはゲットレース専用のモンスターボールを投げつける。

 

そのモンスターボールはエイパムを捕らえ、抵抗する間もなくゲットに成功する。専用のモンスターボール故か、野生のポケモンをゲットするよりもあっさりと捕獲することができた。

 

「やったね!早速一匹ゲット!」

『イブーイ!』

 

シンジとイーブイはお互いにハイタッチをしすぐに次のポケモンを探しに走り出す。時間制限があるため少しの時間ロスも減らさなくてはいけないため中々にハードである。

 

その後も順調にポケモンのゲットに成功していく。同時にサトシもシンジと同率で争っていると実況解説から耳に入ってくる。

 

だが彼らの上にポケモンを次々と捕獲している選手がいるそうだ。その選手の名はカガチという男性トレーナーで、パートナーのヒトデマンの特性である“はっこう”を利用しポケモンたちを引き寄せているようだ。間違いなく今大会の最大のライバルになるであろう彼に追いつくため、シンジとサトシも必死にポケモンを探し続ける。

 

「イーブイ!シャドーボール!」

『イッブイ!』

 

街の路地裏にて、イーブイのシャドーボールで遭遇したデルビルの足元を狙い怯ませる。その攻撃で怯んだデルビルの隙を狙い、シンジはモンスターボールで捕獲する。

 

順調にゲットしていくシンジであったが、その時何か大きな物音が聞こえた。そちらをふと確認すると、そこにはこちらに向かって爆走してくるバンギラスの姿があった。

 

シンジはバンギラスに引かれないようにイーブイと共に端に退避する。しかしその時、バンギラスの首元に異変があったのが確認できた。

 

「!?あれって!」

「シンジ!」

 

バンギラスの異変に気付いたシンジの元にサトシが慌てた様子で走ってきた。そのサトシの姿を見たシンジは、ある程度の現状を理解することができた。

 

「サトシ、あのバンギラスって……」

「ああ、間違いなく首に巻き付いたロープで苦しんでる。」

 

そう、バンギラスの首には祭りの会場にぶら下がっている屋台などを結ぶロープが巻き付けられており住宅地を爆走していたのだ。おそらくゲットレースの際に何らかの拍子で衝突してしまいロープが絡まり取れなくなってしまったのだろう。

 

シンジとサトシは2人でバンギラスの後を追いかける。バンギラスの爆走で住民たちはかなりのパニック状態に陥ってしまっている。実況の内容からその様子が伝わってくる。

 

「このままじゃ街中が大混乱だよ」

「シンジ!あのバンギラスをあの広場に誘導できるか!?」

 

サトシが指を指したのは大きく開けた広場だ。サトシの幼馴染であるシンジにはサトシの考えが読め、相変わらず無茶なこと考えるなと思いながらも、力強くサトシの質問に頷き答えたのだった。

 

「ピカチュウ、イーブイ。2人とも力を貸して!」

『ピカピカチュウ!』

『イブイブブイ!』

「頼んだぜ!相棒!」

 

シンジとサトシは互いの役割を理解し拳を突き合わせ、バンギラス救出のためにその場で分散した。サトシは広場に向かって真っすぐに進み、シンジはバンギラスを追いかけ住宅の裏道へと進んでいく。

 

「ピカチュウは10まんボルト!イーブイはスピードスターでバンギラスを誘導して!」

 

シンジの指示通りピカチュウは10まんボルト、イーブイはスピードスターで上手くバンギラスを裏道から広場に向かって誘導していく。もちろん住宅を破壊しない程度にピカチュウとイーブイは軽く技を放っているため民家に被害はない。

 

ピカチュウとイーブイの連携によりバンギラスを広場に誘導することに成功する。タイミングを見計らったシンジはサトシの名前を呼び合図を送る。

 

その合図を受けたサトシは歩道橋から勢いよくジャンプしバンギラスの背に飛び乗る。サトシはバンギラスに必死に呼びかけるも、バンギラスは一向に止まる気配がない。それどころかバンギラスはその影響で余計に暴れてしまう。それでもサトシが抑止力となり先ほどに比べ勢いは収まっている。

 

しかしバンギラスは未だ我に返らず広場を暴れまわっている。その正面には人だかりができてしまっており、このままでは多くの人に被害が出てしまうであろう。

 

「!?イーブイ!バンギラスの足元にシャドーボール!」

『イブ!』

 

イーブイはシャドーボールでバンギラスの足元に攻撃する。バンギラスはその攻撃に驚き僅かに動きを止める。今がチャンスだと思ったサトシはピカチュウに指示を出した。

 

「ピカチュウ!ロープに向かってアイアンテール!」

『ピカピカッチュピ!』

 

ピカチュウはサトシの指示通りロープをピンポイントで狙いアイアンテールを振り下ろす。そのアイアンテールでロープは千切れ、バンギラスの首から離れる。

 

ロープによって苦しんでいたバンギラスは疲労でその場に倒れこむ。サトシとシンジはそんなバンギラスに近寄り優しく声を掛ける。バンギラスは力なく2人の問いに答えるも、体調に大きな影響はないようで2人も一安心する。

 

「ありがとな、ピカチュウ。」

『ピッピカチュウ!』

「ありがとね、イーブイ。」

『イブブーイ!』

 

期待に応えてくれたパートナーを撫でるサトシとシンジ。ピカチュウとイーブイも撫でられたことが嬉しいように笑顔を見せる。

 

「立てるか?バンギラス!」

「僕たちの肩に捕まって」

『バンギィ……』

 

サトシとシンジの肩に捕まり疲弊したバンギラスはゆっくりと立ち上がる。実況解説からもゲットを超えた熱い友情と称され、バンギラスを無事に運営に引き渡したのだった。

 

その後ゲットレースは無事に終わりを迎え、サトシとシンジはバンギラスを助けたことを称え市長から市長賞を受け取ることとなった。

 

「バンギラスを助けてくれてありがとう。」

「シンジとピカチュウが一緒ならできると思ったんです!」

「サトシとイーブイが一緒だからできると思ったんです!」

 

サトシとシンジは惜しくも優勝することは出来なかったが、それでもパートナーたちとの友情を確かめることができたのだと実感することができた。優勝こそできなくとも、それ以上に大切なことを知ることができて良かったと感じる2人であった。

 

そして同率の2人を超え優勝を手にしたカガチに優勝トロフィーが贈られる。そんなカガチに、司会者からある質問が投げかけられる。

 

「ちなみに、今後ゲットしたいポケモンはいますか?」

「いっ!?え、えっと……」

 

シンジは一瞬カガチと目があったと感じたが、特に気に留めることもなくカガチの話を聞いた。

 

「ど、どうやらこの辺りには超レアポケモンがいるみたいですね。」

 

カガチは折角風祭りに来たのだからその超レアポケモンをゲットしたいと語る。その言葉を聞きここの集っているポケモントレーナーたちはざわざわとしはじめる。やはりポケモントレーナーたるもの、レアなポケモンと聞いたら黙っていられない性分なんだろう。

 

サトシとシンジも同じように珍しいポケモンの存在が気になるざわつき始める。しかしそのインタビューを聞いていた一人の少女が、心の中で強い決意を燃やしていたのは誰も気付くことはなかった。

 

(わたしが守ってあげないと!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は変わりとある宿泊施設

 

「今日は何する?ピカチュウ!」

「イーブイ、今日はどこ見て回ろっか。」

 

サトシとシンジは相棒に今日は何をするか聞きながらエレベーターが到着するのを待つ。そして『チーン』という音と共にエレベーターの扉が開く。

 

しかしそこには疲労のせいかボロボロになった女性が乗っており、2人の姿を見ると彼女は目を輝かせながら近づいてきた。

 

「や、やっと……やっと見つけた!」

 

何を見つけたのか不明だが、ゆっくりと近付いてくる。シンジの肩を掴み迫ってくる。

 

「あ、あの……」

『イブ……イブ!』

 

状況がよく分からず戸惑うシンジ。そんな彼に反し臆病な性格のイーブイは驚きのあまり尻尾でその女性の頬を叩いてしまう。

 

女性はそのダメージでその場で倒れてしまう。余程怖かったのかイーブイは涙を浮かべながらシンジの腕にうずくまり震えている。とりあえずこのままにしておくわけにはいかないと彼女を起こし事情を聞くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーブイがさっきはごめんねって。」

『イブブイ……』

「ああ、あんなの気にしなくていいって!私の方こそ驚かしちゃってごめんね。」

 

現在シンジは彼女の頼みに応えるために一緒に街から少し離れた野原に来ている。先ほどのトラブルは和解できたようで、イーブイも彼女に対する警戒は解いている。

 

彼女の名前はリサ。リサの頼みとは、弟に頼まれあるポケモンを捕まえたいから手伝ってほしいとのことであった。そのポケモンの正体を聞いたシンジは、そのポケモンであれば自分の方が適任であるだろうと自分が引き受け、サトシには先に祭に行ってくれと言ったのである。

 

サトシもお人好しなシンジであればそういうだろうと思い、これ以上の事は何も言わずに先に風祭りに行くことにしたのだ。

 

「ゲットレース準優勝者に手伝ってもらえるなんて、私ツイてる!」

「そんな、大げさだよ……。」

 

その後リサはシンジにも聞こえない声でぶつぶつと何かを言ったが、その時に何か物音が聞こえたのかイーブイは耳をピクリと動かせ、シンジの腕から飛び降りて茂みを覗いた。イーブイが何かを見つけたのだと分かったシンジは、リサに『しっ』と静かにするように伝える。

 

シンジとリサがイーブイの見ている場所を一緒に覗くと、そこにはリサの目的であるポケモンの姿があった。

 

「いたいた、イーブイだよ。」

 

彼女のお目当てのポケモン。それはシンジのパートナーと同じイーブイであった。今彼らの目の前にいるのは野生のイーブイだが、この辺りには危険がないのか全くの無警戒で欠伸をしている姿が確認できる。

 

「よくやったね、イーブイ。」

『イブ!』

「リサ、ポケモンは?」

「え?持ってないけど……」

 

リサはポケモンの知識すらない全くの初心者であるためポケモンを所持していない。ならば仕方がないと、屈んだ状態でイーブイ話しかける。

 

「イーブイ、リサの初ゲットに協力してくれるかな?」

『イブ……イブブイ!』

 

イーブイは自分のパートナーの意図を理解したのか、強く頷き返答する。シンジはその答えを聞くと、その場でスクッと立ち上がりリサの手を引っ張る。

 

「え?」

「後は実践あるのみだよ!」

「ええ~!?」

 

リサはシンジの突然の行動にイマイチ飲み込めず驚きの声をあげる。突然目の前に人間が姿を現したため野生のイーブイも警戒し戦闘態勢をとる。

 

野生のイーブイは先ず自分の身を守るためにすなかけをする。野生のイーブイが蹴り上げた砂埃がイーブイの顔に当たってしまい、イーブイは一瞬視界が悪くなってしまう。

 

「い、イーブイごめん!」

『イブ!』

「僕の指示通り動けば大丈夫だから、リサも同じように挑戦してみて!」

「う、うん!」

 

シンジの声に頷き答えたリサは、野生のイーブイと向かい合う。すると野生のイーブイが先に動き出し攻撃を仕掛けてきた。

 

『イブ!』

「リサ!回避の指示を!」

「イーブイ躱して!」

 

まずは基本的な攻撃、でんこうせっかでの牽制だ。シンジの言う通りにリサも指示を出し、イーブイもリサの指示に従い野生のイーブイの攻撃を冷静に回避する。

 

「次はでんこうせっか!」

「イーブイ!でんこうせっか!」

『イブイ!』

 

イーブイは野生のイーブイよりも早いスピードで接近し攻撃の後隙を狙ってでんこうせっかを決める。その攻撃のダメージが相当なのか、野生のイーブイも大きく仰け反り怯んだ。

 

「今だよ!モンスターボールを!」

「うん!おっとっとっと!それっ!」

 

懐からモンスターボールを取り出し、初心者らしいたどたどしい動きでリサはモンスターボールを投げる。そのボールはイーブイにヒットし、数回左右に揺れるも中から飛び出しゲットに失敗してしまう。

 

「惜しい!でももう少しでゲットできるよ!」

 

後少しでも野生のイーブイの体力を削れば確実にゲットできる範囲になることは確信できた。

 

『イブブイ!』

「リサ!こっちもスピードスターだ!」

「イーブイ!スピードスター!」

『イブイ!』

 

野生のイーブイはスピードスターで反撃を仕掛けてくる。対してシンジのイーブイもスピードスターで反撃し互いの攻撃を相殺する。

 

『イッブ!』

「まもるで防御だ!」

「イーブイ!まもる!」

 

野生のイーブイは再びでんこうせっかで接近戦を仕掛けてくる。しかしその攻撃はイーブイのまもるによって完全にシャットアウトされ逆に飛ばされる。その状態はイーブイの反撃する絶好のチャンスとなった。

 

「もう一度スピードスター!」

「イーブイ!スピードスター!」

『イッブイ!』

 

イーブイはスピードスターで野生のイーブイに追撃する。今がチャンスとリサに指示を出し、リサはもう一度モンスターボールを手にして願いを込める。

 

「お願い!」

 

再びモンスターボールが野生のイーブイにヒットする。今度こそ捕まってくれと願いながら、揺れるモンスターボールを全員で見つめる。そして暫くすると、『ピコンッ』と音が鳴り揺れが止まる。ポケモンのゲットに成功した合図だった。

 

「やった!イーブイゲットだよ!」

「え?これでゲットできたの?」

 

初心者であるリサは夢我夢中でやっていたため実際にどうなったのかを把握できていなかった。しかしシンジにそう告げられると、ようやくゲットできたのだと実感することができ額の汗を拭う。一仕事終えたイーブイはシンジの腕に飛びつき再び抱かれる。

 

「あっ……」

「ん?どうしたの?」

「あの……言いにくいんだけど……」

 

汗を拭ったリサにシンジは言いにくそうにしながらもあることを口にした。

 

「……眉毛のメイクとれてるよ?」

「……へ?」

 

それに気付いたリサは急いでその場を離れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ!」

「うん。折角だし捕まえたイーブイ見せてよ。」

 

再度メイクをして戻ってきたリサにそう頼み込むシンジ。リサも同意し、早速捕まえたイーブイを外に解放した。

 

リサの捕まえたイーブイはモンスターボールから出るとすぐに欠伸をした。先ほどの様子から考えるともしかしたらこのイーブイは結構なのんびり屋なのかもしれない。

 

イーブイ同士だからか、リサのイーブイは警戒することなくシンジのイーブイと仲良くなる。

 

「私はリサ!これから仲良くしましょ!」

『イブ』

 

リサは屈みイーブイの仲良くしようと声をかける。しかしイーブイはプイッとそっぽを向き拒絶する。どうやらまだリサには懐いていないようだ。

 

「ははは、そのうち仲良くなれるよ。それより、折角だからリサの話よければ少し聞かせてよ。」

「うん、いいよ。」

 

そう言って2人はベンチに腰を掛け、シンジはリサの話に耳を傾けた。

 

リサはここから少し離れた高校に通っている女子高生だそうだ。ケガをして外出できない弟に代わりイーブイのゲットをお願いされたのだとか。

 

以前リサは陸上競技ばかりをやっていたためにポケモンに関しての知識は全くないのだという。地方チャンピオンでかなりの腕前を誇っていたそうだが、足を怪我してしまい陸上をやめたそうだ。ケガは治り現在異常はないが、それでも当時の恐怖から陸上に戻ることはできないらしい。

 

「そっか。でもさ、イーブイと一緒ならまた走れるかもしれないよ?」

「え?どうして?」

「なんとなくだけどさ、ポケモンと一緒だとなんだってできるって思うんだ。きっと、僕の親友も同じこと言うだろうね。」

『イッブイ!』

 

シンジの言葉を聞きイーブイは彼の元に再び飛びつく。シンジの根拠もないその言葉に、なんだかおかしくなりリサは涙を浮かべながら笑った。

 

「あれ?ジュンサーさん?」

 

しかしその時、治安を守るジュンサーがバイクに跨り目の前を横切っていった。

 

「街でなにかあったのかな?」

「とにかく行ってみよう!」

 

街でなにかしらの事件が起きたのかもしれないと思い、シンジとリサは急いで風祭りの開かれているフウラシティまで戻るのであった。


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