ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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我慢できずに書いた。後悔はしていない。今は反省している。

タイトル通り“劇場版ポケットモンスター キミにきめた”とのパロと言うかコラボと言うかそんな感じです。ただあまり内容は変えていないです。一部変更点はありますけど。いつも通りの勝手なオリジナル設定とかね。

当然ですが劇場版と同じで、全く本編とは関係ない話になっております。平行世界的なものです。

それと今回は以外に話が長くなったので、前後編で分けます。劇場版のクオリティを甘く見ていた……。ですが実際にとても面白い話なので、みていない人は劇場版を見ることをオススメします。ポケモン知らない人でも楽しめるかと思います。いや、ポケモンを知っているからこの小説を読んでいただけているのか……。


ピカブイ発売直前記念特別編 前編 ~キミにきめた!~

ポケットモンスター……縮めてポケモン。この星の不思議な不思議な生き物。

 

海に、森に、山に、町に、彼らはこの世界の至る所に存在している。

 

ポケモンと人間は共に協力し合って暮らしている。人が笑えばポケモンも笑い、ポケモンが悲しい時は人も悲しい。

 

そしてここ、カントー地方にも当然ポケモンたちは存在し、人間と共存している。

 

このカントー地方のマサラタウンでは、10歳になると最初のポケモン、ヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメのいずれか一匹を貰い旅に出ることが出来る。そして遂に今日、10歳となり遂にポケモンを貰い旅に出ようとしている少年がいるのだ。

 

「ちょっとシンジ~?早く起きないとポケモン貰えないわよ~?」

「う~ん……ポケモン?…………っ!?しまった!?」

 

その少年、シンジは母親の声により目が覚め慌ててベットから落ちてしまう。急いでいつもの服(青いポロシャツと黒色のズボン)に着替えて準備をし1階へと降りた。

 

「なんで起こしてくれなかったの!?」

「起こしても起きなかったじゃないの。それに10歳になったら自分で起きるんじゃなかったの?」

「うっ、そうだった……。と、とりあえず行ってきます!」

 

シンジは母親の抑止を聞かずに飛び出すように家を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……まだ……ポケモン残ってるかな……。」

 

シンジは全力で走りポケモンを貰うことができるオーキド研究所へと辿り着いた。だがその時には既に息は切らしてしまい、肩で息をしている状態だ。

 

そんなシンジの元にもう一人ダッシュで走ってきている少年の姿があったのだった。

 

「やばい!遅刻遅刻~!」

 

その少年は薄緑色の服をきてまさかの裸足でやってきていた。慌てすぎてパジャマのまま家を出てしまっていたようだ。もっとも、現在の彼らはそんなことを気にしている余裕はないようだが。

 

「さ、サトシも遅刻したんだ……。」

「シンジ……お前もか……。」

 

その少年の名はサトシ。シンジとは幼馴染で、共に旅に出ようと約束をしていたのだ。だが二人とも仲良く遅刻をしてしまったようだ。似た者同士だからなのか、2人とも気が合い昔からよく遊んでいる仲である。

 

「と、とにかく早くポケモン貰いにいこう!」

「あ、ああ!そうだな!」

 

サトシとシンジは再び走り出しオーキド研究所の敷地内へと入る。するとそこには草ポケモンに水をあげているオーキド博士の姿があった。

 

『博士!』

「ん?おおサトシくんにシンジくんか!ようやくきおったの!今日旅に出る新人は5人で聞いていたが、君たちで5人目じゃの。」

 

博士は二人の存在に気付き水やりを中断し彼らへと振り向いた。

 

『ぽ、ポケモンは残ってますか?』

「とりあえずここではなんじゃ。中に入りなさい。」

 

シンジとサトシはオーキド博士にそう言われ、博士のあとを着いていくことにした。

 

「シンジは貰うポケモン決めてる?」

「僕?実はまだ迷ってるんだ。本物を見てから決めようかなって思ってるから。」

 

サトシの質問にシンジはそう答える。実際、初めにパートナーとするポケモンは誰にとっても思い出深く悩んでしまうものである。そうやって悩んだ末、選んだポケモンと旅をするからこそより楽しみも増えることだろう。

 

そんな中サトシは指をパチンと鳴らし、最初のパートナーにしたいポケモンの名を口にした。

 

「俺はもう決めてるぜ?ゼニガメ!君に決めた!」

「ゼニガメは時間通りに来た子が連れて行ったよ。」

 

サトシの言葉にオーキド博士の無慈悲な言葉が刺さる。その言葉はシンジの胸にも突き刺さる言葉であった。

 

「じゃ、じゃあフシギダネ!君に決めた!」

「フシギダネも遅刻しなかった子が持って行ったぞ。」

 

再び放たれたオーキド博士の言葉に2人はダメージを受けてしまう。だがサトシはめげずに最後のポケモンの名前を言った。そしてポケモンの貰える部屋のある二階へと行くために階段を上りはじめる。

 

「だ、だったらヒトカゲ!俺のパートナーは君しかいない!」

「通勤電車もポケモンも、一秒の遅れが人生を変える。」

 

部屋に辿り着くと、そこでは最後に残ったヒトカゲがモンスターボールに入れられ、そのトレーナーとなった男の子が挨拶をして退室していく瞬間に出くわした。

 

「そ、そんな~。」

「では僕たちがもらえるポケモンはいないってことですか?」

「いるにはいるのじゃが……」

 

サトシはガックリと項垂れた。シンジは冷静にオーキド博士に尋ねるが、その様子はどこか不安気な表情であった。やはり最初に貰えるポケモンであるため楽しみにしていたのだろう。とはいえ遅刻をした自分に非があるため、文句を言う訳にもいかなかった。

 

オーキド博士はポケモンがいることにはいると言うが、どこか苦い顔をして渋っている様子だった。

 

「その二匹は少し気難しくてな。扱いが難しいポケモンなんじゃよ。」

「遅刻をした僕たちに問題があります。」

「そうだな。そのポケモンたちを俺たちにください!」

 

サトシの言葉と同時に一匹の影がシンジの近くを通っていった。その影に気付いたシンジはゆっくりとその影を追いかけるように視線をやる。

 

「今のって……。」

 

追いかけた視線の先には、物陰に隠れこちらの様子をじっと見つめているポケモンの姿があった。

 

そのポケモンの姿は全体的に茶色い姿をしており、首元がモフモフとしている可愛らしい姿であった。だがその様子は彼らの事を警戒しているのかプルプルと震えて怯えているようであった。

 

それと同時に、サトシの目にも一匹のポケモンの姿が目に入った。そのポケモンは黄色い姿で、頬には赤く丸い模様がある姿だ。だがシンジの見かけたポケモンとは違い警戒心はないものの、良からぬことを考えているかのような笑みを浮かべていた。

 

「もしかして博士の言っていたポケモンは……」

「まあそのポケモンたちなのじゃが……」

 

博士はそう言ってそのポケモンたちの説明をする。

 

「サトシ君の見つけたポケモンはピカチュウじゃ。」

「ピカチュウ?可愛いじゃないですか!俺、このポケモンに決めました!」

「……果たしてそうかな?」

 

博士は小さく誰にも聞こえない声でそう呟きピカチュウの説明をしようとする。だがサトシはお構いなしに笑顔でピカチュウへと近づいた。

 

「俺はサトシ!今日からよろしくな、ピカチュウ!」

『ピカ?チュピ~!』

「あばばばばばばば!?」

 

サトシがピカチュウを抱え上げると、ピカチュウは頬の赤く丸い部分、電気袋から強力な電気を放った。ピカチュウの得意技である10まんボルトだ。ピカチュウを抱えているサトシは勿論直撃し、全身が激しく痺れてしまった。

 

「通称でんきねずみ。恥ずかしがり屋で人に慣れづらく、下手に触るとそうなってしまうのじゃ。」

「そ、それを早く言ってくださいよ……。」

 

サトシは黒焦げで痺れた状態でそう言った。そんなサトシを心配するように苦笑いをしていたシンジもサトシに声をかけた。

 

「さ、サトシ大丈夫?」

「だいじょぶだいじょぶ……」

 

どう見ても大丈夫ではないが、サトシはその状態からなんとか復帰し起き上がった。その様子を見ていたシンジは、さすがはサトシと呆れにも近い言葉をつぶやいた。

 

そしてシンジは自分も声を掛けてみようと、先ほどのポケモンにゆっくりと歩み寄る。そのポケモンの様子は、サトシとピカチュウのやり取りが原因なのか先ほどよりも怯えている様子であった。

 

「君の名前はなんていうの?」

『イブ……』

「そのポケモンはしんかポケモン、イーブイじゃ。」

 

怯えているポケモン、イーブイに代わりオーキド博士がポケモンの紹介をした。

 

「イーブイ?このポケモンにも何か問題があるんですか?」

 

すぐに近づいたサトシと違い、シンジはオーキド博士に質問する。オーキド博士はそんなシンジにイーブイの説明をした。

 

「イーブイは少々、いや、かなり臆病な性格でのぉ。中々人に心を開いてくれないんじゃよ。」

 

シンジはオーキド博士の話を聞き、イーブイが先ほどから怯えている理由が分かった。臆病であるイーブイは、初めて会ったシンジたちの事が怖くて物陰に隠れて恐怖で出てこれなくなってしまったのだ。

 

「怖くないよ。僕は君と仲良くなりたいだけなんだ。」

 

シンジはイーブイに手を差し出して優しく語り掛けるも、イーブイはそれでも怯えてしまいすぐには出てこれそうもない。そんなイーブイの姿を見て、シンジはある決断をしたのだった。

 

「博士、イーブイを僕のパートナーにしてもいいですか?」

 

博士は彼ならきっとそう言うだろうと、静かに頷いた。そしてオーキド博士は二人にそれぞれのパートナーを入れるためのモンスターボールを渡したのだった。

 

サトシにはピカチュウの、シンジにはイーブイ専用のモンスターボールを渡した。ピカチュウのモンスターボールには小さく雷マークが描かれており、イーブイのモンスターボールにはピカチュウのボール同様、星のマークが描かれていた。

 

「これがピカチュウとイーブイのボールじゃ。難しいかもしれないが、上手くやるんじゃぞ?」

『はい!ありがとうございます!』

 

サトシとシンジはそれぞれ自分のパートナーとなるポケモンを入れるモンスターボールを受け取る。それと同時に、2人の女性が彼らの元へと訪れたのだった。

 

「サトシ!ポケモンを貰ったらそのまま旅に出るつもりだったでしょ?」

「シンジ!ポケモンは貰えた?」

「ママ!?」

「お母さん!?」

 

その女性はサトシとシンジの母親であった。サトシの母親は彼の着替えと帽子、それからリュックを持っていた。シンジの母親も同じくシンジに渡すリュックと帽子を持ってきていたのだ。

 

「ほら、折角旅に出るんだから新しい帽子よ。」

 

シンジに手渡されたのは青いモンスターボールが描かれたキャップであった。シンジはそれを受け取ると早速頭に被り、それを確認した母親は彼の後ろに回り腕を通して黒色のリュックをかけたのだった。

 

「必要なものは全部入れておいたから。」

「ありがとう、お母さん。」

 

シンジは丁寧に用意してくれた母親に感謝する。

 

それと同時にサトシも旅立ちの準備が完了した。サトシは先ほどのパジャマ姿から変わり、黒いシャツの上に青を基調とした服を羽織り薄水色のズボン、黒と白のスニーカーを履き緑色のリュックを背中に背負っている。そして帽子はローマ字のCにも似た形の緑のマークが入ったキャップであった。

 

「ところでポケモンはモンスターボールに入っているものなんじゃないの?」

「あっ、もちろんだよ!」

 

母親に言われハッとなったサトシは、ピカチュウをモンスターボールに入れるため屈みモンスターボールを構えた。

 

「これからよろしくな、ピカチュウ!」

 

ピカチュウをモンスターボールに入れるため軽く投げるサトシ。しかし……

 

『ピカッ!』

 

なんとピカチュウにモンスターボールを尻尾で跳ね返されてしまったのだ。サトシはそのボールを綺麗にキャッチし、もう一度投げる。だがそれでも弾き返されてしまい、暫くそのラリーが続いた。すると遂にピカチュウが強力な一撃で返しそれがサトシの顔に直撃してしまう。それをみたピカチュウはクスクスと口を押えて笑った。

 

「まぁ!キャッチボールするほど仲が良くなったのね!」

「!?そうさ!俺とピカチュウは友達なんだ!なっ?ピカチュウ!」

 

ピカチュウを抱きかかえたサトシ。だがそれに痺れを切らしたのかピカチュウの頬がビリビリと鳴り始める。それを見たシンジは何だか嫌な予感がすると母親と共に下がる。

 

そしてシンジの嫌な予感が的中し、電撃がサトシだけでなくオーキド博士とサトシの母親も巻き込んで放たれてしまった。ピカチュウの電気を受けて無事な所を見る限り、流石としか言いようがない光景であった。どうやらピカチュウはモンスターボールに入るのが嫌らしい。

 

「そういえばシンジのポケモンはどこにいるの?」

「ああ、僕のポケモンは……」

 

シンジは自分のポケモンがいる場所に目をやる。そこにはやはり怯えて丸くなった状態のイーブイがいた。先ほどと同様、どうしてもまだ慣れないようだ。

 

「この子なの?可愛いじゃない。」

「うん。さあイーブイ。このボールの中に入るんだ。」

『……イブ』

 

シンジはイーブイの元にモンスターボールを転がす。しかし、イーブイはその尻尾でモンスターボールを転がし返したのだった。

 

「?もしかしてモンスターボールに入るのが嫌?」

『イブ……』

 

イーブイはシンジの言葉に小さく頷く。どうやらピカチュウ同様、イーブイもモンスターボールに入るのが嫌なようだ。もしかしたらモンスターボール内の方がイーブイにとって恐怖をかんじてしまうものなのかもしれない。

 

「……そっか。」

 

だったらとシンジはイーブイに手をさし伸ばし、優しく抱きかかえた。

 

「暫くこうしててあげるよ。」

 

イーブイはシンジに抱きかかえられるが、緊張からか恐怖からか固まって動けない状態であった。だが逃げる勇気がないためか、その場からは一切動こうとしない。

 

そして二人は問題を抱えたまま、母親に見送られマサラタウンを後にし旅に出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……サトシ?いつまでそうやってるつもりなの?」

 

シンジはサトシに尋ねた。サトシは今、ピカチュウをロープで縛って引きずりながら歩いているのだ。ピカチュウはいやそうな顔をしているが、そうでもしないと動こうとしてくれなかったのだ。

 

一方イーブイは、みたことの無い外の世界を見てプルプルとしている。やっぱり知らない世界を見て恐怖が増してしまったのかもしれない。心を開いてくれてはいないが、シンジはそんなイーブイを落ち着かせるために常に頭を優しく撫でている。

 

「……なぁピカチュウ。いつまでこれ続けるつもり?」

『ピカッ』

「君は俺が嫌い?」

『ピカチュウ』

「俺は君が好きだよ?」

『ピッカ……』

「参ったな……」

 

ピカチュウはどうやってもサトシに心を開いてくれない。取り敢えず仲良くなりたいと、サトシはピカチュウを縛っていた縄を解いた。ピカチュウはやっと解放された、とうんざりした表情をしていたが、サトシはどうやってピカチュウと仲良くなれるかを頭の中で考える。

 

するとそんな二人の前に、一匹のポケモンの姿が現れた。小さな鳥型のポケモン、ポッポだ。サトシは早速ゲットしようと前へと出る。

 

「おっ?ポッポだ!早速ゲットだ!」

 

しかしピカチュウは無視し続け、一向に捕まえる手助けをしようとしてくれない。

 

「いいよ、一人で捕まえるから!いけ!モンスターボール!」

 

サトシはモンスターボールを投げてポケモンを捕まえようとする。モンスターボールに当たったポッポは一瞬ボールの中に入るが、直ぐに外へと出てしまう。

 

「サトシ!ポケモンは弱らせてからじゃないとゲットは難しいよ!」

「っと、そういえばそうだった……」

 

サトシはシンジの指摘により気付きしまったという。それと同時にピカチュウに指示を出すが、ピカチュウはそっぽを向いてしまい一向に手を出す素振りは見せない。

 

「仕方ないな。いいよ、俺が自分でやるから。」

 

サトシの発言にシンジは首を傾げる。どうするつもりだろうと疑問符を浮かべるシンジだが、サトシは足元に落ちている小石を拾い構えた。

 

「ちょ!?サトシ!」

「そら!」

 

サトシはその小石をポッポ目掛けて投げた。だがそれに気付いたポッポはサトシが投げる前に気付き飛び去る。それを追いかけるように投げた小石はポッポに当たることはなく、その奥にいる何者かに当たった。そのの頭上にたんこぶができ、そのポケモンの姿が明らかになった時サトシは腰を抜かしたように転んだ。

 

「オニスズメ!?」

 

そのポケモンの正体はオニスズメであった。オニスズメは周りを見回し犯人を捜す。するとタイミングの悪いことに、ピカチュウが腹を抱えて笑ってしまっていた。そのピカチュウの姿を見たオニスズメは、小石をぶつけたのが彼だと勘違いしすぐさま飛び掛かって襲い始めた。

 

『ピカッ?ピッカ!』

 

ピカチュウは軽やかな身のこなしでオニスズメの攻撃を回避した。そしてすぐさま10まんボルトでオニスズメを追い払ったのだ。

 

だが、更に悪いことに一本の木へと飛び去ったオニスズメは、大勢の仲間を連れて再び飛んできたのだ。気性が荒く執念深いオニスズメは、今一度ピカチュウを標的として飛び掛かってきた。

 

「まずい!早く逃げよう!」

「あ、ああ!」

 

シンジの誘導に従いサトシとピカチュウも逃げ出した。だが、オニスズメはそんなシンジやサトシたちに目もくれず、ピカチュウを集中的に狙っていた。

 

『ピッカ!?ピカ……』

「っ!?ピカチュウ!?」

 

ピカチュウは大勢のオニスズメに襲われ、地面に伏せてしまう。さすがのピカチュウも数で圧倒されてしまっては成すすべがない。

 

「やめろ!石をぶつけたのは俺だ!やるなら俺をやれ!」

 

 

ピカチュウの危険を察知したサトシは、オニスズメの大群を掻い潜ってピカチュウを庇うように覆う。そのせいか、オニスズメの標的にサトシも加わってしまい同時に狙われてしまう。

 

「サトシ!ピカチュウ!」

 

サトシは傷付いたピカチュウを抱きかかえ走り出す。シンジもサトシたちに呼びかけるが、シンジたちに興味を示さないオニスズメ達は標的であるサトシとピカチュウをしつこく追い掛け回す。

 

シンジもサトシたちの後を追いかける。オニスズメの大群を見たイーブイは、シンジの腕にうずくまっている。あれだけのオニスズメを見れば誰だって恐怖心を抱くだろう。臆病なイーブイであればなおさらである。

 

サトシはピカチュウを抱きかかえたまま、崖に追い込まれる。だがサトシは迷うことなく崖を飛び下り川に飛び込んだ。

 

「サトシ!まずい……このままじゃ……。」

 

川に流されてしまえば下手をすれば大惨事になりかねない。その上弱ったピカチュウを抱きかかえたままでは逃げ切るのは困難であろう。オニスズメは簡単に諦めることなくサトシたちを追いかけた。

 

シンジもサトシたちを追いかけるため川を下る。すると川から這い出るサトシたちの姿を確認した。

 

シンジはサトシたちに追いつくために急いで飛び込み後を追う。そして次第に天気が悪くなり、大雨が降りそそぐ。

 

その時、イーブイは何故シンジがここまで必死になれるのだろうかと疑問に思う。なぜ彼の為に躊躇なく危険なことに首をつっこめるのだろうかと。

 

シンジがサトシたちの姿を見つける。しかしそこでは地面に這いつくばった状態のサトシがいた。このままではかなり危険な状態だ。オニスズメ達にも囲まれ、サトシたちには既に逃げ場がなかった。

 

「イーブイ……」

『イブ……?』

 

その光景を見ていたイーブイは恐怖により震えていた。だが、それでもこんなことを頼めるのはイーブイしかいないとシンジは覚悟を決めて語り掛けた。

 

「お願い、イーブイ。君の力を貸して。」

『イブ!?イブイイブイ!』

 

イーブイは首を振り全力で否定する。シンジにはイーブイがそういう反応を示すことは分かっていた。だけど……それでも……。

 

「……怖いってのは分かってる。でもこんなことを頼めるのはイーブイしかいないんだ。」

『イブ……』

 

それでもイーブイはやはり無理だと首を振る。だが、次のシンジの姿を見てイーブイの気持ちが揺らいだ。

 

「お願いイーブイ。僕はサトシを……大切な友達とそのパートナーを助けたいんだ。」

『イブ?』

 

その瞬間にシンジの頬を一つの涙が伝う。その涙はシンジの頬から滴り落ち、イーブイの頬へと伝った。それを見たイーブイは彼の思いに突き動かされ、覚悟を決めたのだった。

 

イーブイはシンジの頬に伝う涙を舐めとる。するとシンジの涙は自然ととまり、イーブイの顔を見つめた。

 

「イーブイ……手伝ってくれるの?」

『イブ!』

 

イーブイは頷いた。シンジもそんなイーブイに小さく感謝の言葉を伝えた。

 

「よし!じゃあ行くよ!イーブイ!」

『イブイ!』

 

イーブイはシンジの腕から解放され、オニスズメ達の姿を捉える。

 

「イーブイ!スピードスター!」

 

イーブイは尻尾から星型の弾幕、スピードスターを放つ。スピードスターはオニスズメ達を捉え数匹ではあるが追い払うことに成功する。数匹のオニスズメがいなくなり、ハッキリとサトシの姿を確認したシンジは彼に近付き彼の前に立つ

 

「サトシ!」

「!?」

「君はポケモンマスターになるんだろ?こんなところで立ち止まっちゃてもいいの?」

「シンジ……」

「大切なものは自分の手で守れ!ポケモンマスターを目指すなら!」

 

サトシはシンジの言葉に目を見開く。そして立ち上がり口を開いた。

 

「へっ、誰に向かって言ってんだよ。」

 

口を緩めたサトシを見たシンジは、安心したのか同じく口元を緩ませた。そしてサトシは仁王立ちをし、オニスズメ達と対峙する。

 

「オニスズメ!俺を誰だと思ってるんだ!俺は世界一のポケモンマスターになる男だ!お前たちになんか負けない!」

 

その覚悟を見たピカチュウもまた目を見開く。そしてオニスズメは一斉に彼らに飛び掛かった。

 

その時、なんとピカチュウがサトシの肩を伝ってジャンプし、強力な10まんボルトを放った。その10まんボルトはオニスズメ達を包み込み追い払ったのだった。

 

サトシたちはその場で全員力尽きたように倒れこむ。ピカチュウはサトシの頬を舐め、サトシはピカチュウの手を取る。どうやら互いにパートナーとして認め合えたようだ。

 

一方、シンジの元にもイーブイがゆっくりと歩み寄った。ピカチュウの電撃に巻き込まれてしまいボロボロのシンジたちだが、イーブイは彼の体にすり寄った。

 

「僕で……いいの?」

『イブ……。イブイ!』

 

イーブイはシンジの言葉に笑顔で頷いた。どうやらイーブイもシンジのことを認めてくれたようだ。先ほど震えていたのが嘘のように彼の体にすり寄る。

 

先ほどの大雨が嘘のように晴れ渡った空に鮮やかな光が照らされる。その光を見た2人は虹だと思い立ち上がるが、その正体は大きく羽ばたく見知らぬポケモンの姿であった。

 

そのポケモンから一枚の羽が2人の前に舞い落ちた。2人は羽を同時に優しく受け取ると、その羽は強く輝きを示した。その羽からは温かさが感じられ、虹色に輝く神々しい羽であった。

 

「……シンジ。」

「どうしたの?」

「いつか、あいつに会いに行こうぜ!」

「!?うん!からなず会いに行こう!」

『ピカチュ!』

『イブブイ!』

 

シンジとサトシは共にハイタッチをする。ピカチュウとイーブイも同意見なようで、お互いのパートナーの言葉に相槌を打った。こうして、2人と2匹の冒険が幕を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人が冒険に出てから様々なことがあった。あの一件以降、ピカチュウとイーブイも完全に二人に心を開いている。

 

まず、サトシは初めのゲットとしてキャタピーを、シンジはポッポを捕まえた。互いにゲットしたポケモンを羨ましがったりもしたが、同時に祝福もしていた。自分のポケモンの方がいいだろうと自慢し合ったりもしたが、それも互いにポケモンが好きで仲がいい証でもあった。

 

さらにキャタピーは華麗に舞うバタフリーを、ポッポは大空を羽ばたくピジョットの姿をみて憧れの眼差しを向けていた。やはり自分の進化形ともなれば憧れの感情を抱くものだろう。その感情は子どもが早く大人になりたいと願うものと同じかもしれない。

 

次に2人はカントーリーグ公認のポケモンジムに挑戦している。ポケモンジムは全国に多数あり、それぞれ一つのタイプに精通しているジムリーダーがいる。彼らを倒し認められることによりジムバッジを貰う事ができる。それらのジムバッジを8つ集めると強力なトレーナーたちが集うカントーリーグに参加する資格を得る事ができる。

 

二人もジム戦では順調に勝ち進むことができ、時には協力し、時には競い合っている。

 

お互いの腕を磨き合うため、偶に模擬戦として2人でバトルをすることもある。戦績はお互いに五分と五分で、実力は拮抗している。それでも、勝っても負けても互いの健闘を称えることは忘れない。

 

そして2人は旅の道中、ポケモンセンターへと立ちより一休みをしていた。2人は旅に出てしばらく連絡をとっていなかった母親へとそれぞれ連絡していた。

 

「サトシ!やっと連絡くれたのね!」

「うっ、ママ……。」

「あなたの行きそうなポケモンセンターに伝言残すの大変だったんだから。」

「ご、ごめんってママ。」

 

サトシは久しぶりに連絡をとった母親に叱られている様子だ。サトシの母は自分の息子に色々質問をしていた。汚れたシャツは着ていないか、食事はちゃんとしているか、シンジに迷惑はかけていないかなど、まさに母親らしい事を聞いていた。旅の出来事よりも、サトシの身を案じる辺り結構な親バカなのかもしれない。

 

因みにシンジは母親とあまり話すことはなかった。シンジの母親は気まぐれな性格で、特に心配はしていなかったようだ。だが最後には応援しているから頑張りなさいと一言だけシンジに伝えていた。今シンジはイーブイに食事を与え、それを笑顔で眺めている。シンジは大切なイーブイの事を溺愛しているようであった。

 

だがそんなのどかな時が流れているなか、不穏な空気が立ち込めてしまう。

 

一人の少年が自分のポケモンであるシャワーズを抱えてポケモンセンターを訪れた。だがその様子はおかしく、シャワーズは傷だらけの状態で運び込まれた。

 

「ジョーイさん!こいつを……シャワーズを治してください!」

「!?酷い怪我……。一体何があったの?」

「エンテイが現れて……」

「!?エンテイ!ママ!ごめん、一旦切るね!」

「えっ!?ちょっとサトシ!」

 

少年の言ったエンテイと言う言葉に反応したサトシは母親の制止を聞かずに連絡を切った。

 

「捕まえようとしたんだけど、強すぎて、俺のシャワーズが……」

 

どうやら少年はそのエンテイと戦ったようだ。

 

エンテイはカントー地方と隣接しているジョウト地方に伝わる幻のポケモンである。その姿を見たものは少なく、報告例も少ないとかなりレアなポケモンだ。エンテイはほのおタイプで、シャワーズはみずタイプだ。相性でいえばエンテイの方が悪いにも関わらず、一方的にシャワーズがやられてしまった事を考えるとどれだけエンテイが強力なポケモンかが伝わるだろう。

 

サトシはエンテイの詳細が気になり、その少年に声をかけた。

 

「なあ、エンテイを見たって……。」

「ああ。この先の森で偶然会って。絶対にゲットしてやるって思ったんだけど、あまりに強すぎて歯が立たなかった……。」

 

エンテイを見たという話を聞いたトレーナーたちが一斉に動き出す。「まだ近くにいるぞ」や「絶対に捕まえてやる」などといった声が聞こえる。その声を聞く限りトレーナーとして幻のポケモンをどうしてもゲットしたいのだろう。気持ちだけでどうにかなるほど、生易しい相手ではないが。

 

「俺たちも急ごうぜ!シンジ!」

「あっ!ちょっと待ってよサトシ!」

 

ピカチュウとエンテイゲットに張り切るサトシを、イーブイとシンジは慌てて追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

『いた―!』

 

森の中に入りエンテイを探していると、そんなに時間もかからない内にエンテイの姿を見つけた。しかし、それと同時に一人の少女もエンテイを指さしサトシと同時に叫んだのであった。

 

その少女は軽く笑みを浮かべてサトシよりも先に走り出した。サトシも「あっー!」と叫びながら後を追うように走り出す。それをシンジは後ろから呆れたように眺めていた。

 

「全く、本当に無鉄砲なんだから。」

『イブイ……』

 

シンジはそう言いながらも、イーブイと共にサトシの後を追いかけて行った。

 

「ポッチャマ!バブルこうせん!」

『ポチャ!ポチャマー!』

 

少女はモンスターボールを投げ相棒であるポッチャマを繰り出す。そしてそのままポッチャマに指示を出し、バブルこうせんをエンテイへと放った。そのバブルこうせんのスピードとキレは中々で、良く育てられていることが分かった。

 

だが、エンテイはそれを軽くジャンプすることで軽々と躱した。そしてサトシの背後に降り立つ。そしてサトシの眼を暫く見つめて、何かを見定めているようであった。

 

サトシもまるで時間が止まったかのように感じていたが、ハッとなりピカチュウに攻撃の指示を出した。

 

「ピカチュウ!10まんボルト!」

『ピカチュビ!』

 

ピカチュウは10まんボルトを放つも、それすらも簡単に躱される。そして今度はシンジの目の前に降り立ち、彼の眼を見つめた。

 

シンジの中でも時間が停止したようであったが、エンテイの放つ威圧感は凄まじくただ見つめているだけであった。イーブイも怯えてしまい、シンジの後ろに隠れた。幻のポケモンとはそれだけのプレッシャーを持つ存在なのだ。

 

「ポッチャマ!もう一度バブルこうせん!」

 

少女が再びポッチャマにバブルこうせんの指示を出した。そのバブルこうせんを躱したエンテイは最初に見つけた岩の上まで戻り、サトシたちに向かってかえんほうしゃで反撃した。

 

「あっつ!あっつあっつ!」

 

サトシのお尻が僅かに燃え、サトシは必死にその火を消した。サトシ程の頑丈さがなければ無事じゃなかったかもしれない。

 

エンテイのあまりの強さに怯んでしまう一行だが、その横から第三者の攻撃が加えられた。

 

「ルカリオ!はどうだん!」

『バウッ!』

 

そこには一人の少年とルカリオがおり、ルカリオははどうだんでエンテイに攻撃する。だがやはりエンテイはその攻撃を軽くいなし、かえんほうしゃで反撃する。

 

「くっ!ルカリオ!」

 

ルカリオはかえんほうしゃの直撃を受けてしまい大ダメージを受けてしまった。ルカリオははがねタイプを持つポケモン。ほのおタイプの技は効果抜群で、ルカリオは今の一撃で瀕死の状態だ。幻のポケモンであるエンテイの攻撃をもろに食らえば一溜まりもないだろう。

 

エンテイはそんな彼らの姿をチラリと確認した後、ふわりとジャンプして姿を消した。サトシたちはそんなエンテイの姿をただ眺めているだけしかできなかった。

 

「……ちょっと!あんたのせいで逃げられちゃったじゃない!」

「俺のせい!?お前のせいだろ!」

「あんたがいなければ今頃エンテイをゲットできていたのよ!」

 

エンテイがいなくなって早々、サトシと少女が喧嘩を始める。そんなサトシたちを止めるために、シンジは2人の間に割って入った。

 

「ストップストップ!エンテイは元々強力なポケモンなんだから、捕まえられなくても仕方ないよ!」

「そ、それはそうだけど……。」

「それより、自分たちのポケモンだけでも無事だっただけ運がいいと思わなきゃ。」

「……それもそうだな。」

 

シンジの言葉にサトシは納得する。確かに自分の大切なポケモンが傷ついてしまったら例え幻のポケモンとは言えゲットどころではないだろう。そう思いながらサトシはピカチュウの頭を撫でた。ピカチュウも嬉しそうに微笑んでいる。

 

少女も自分のポッチャマを抱きかかえて頭を撫でる。

 

「あなたの言う通りね。さっきは怒ったりしてごめんね。」

「こっちも悪かったよ。ついカッとなっちゃって。」

「自己紹介がまだだったわね。私はフタバタウンのマコト!」

「俺はマサラタウンのサトシ!それでこっちが幼馴染の……」

「シンジだよ。」

 

2人は無事に仲直りをすることが出来た。そしてお互いに自己紹介を終え、シンジは先ほど助けてくれた少年の方へと振り向いて感謝の言葉を告げる。

 

「君もさっきはありがとう。おかげで助かったよ。」

「礼なら気にしなくていいよ。僕はトバリシティのソウジ。」

 

ソウジはそう言いながらルカリオをモンスターボールへと戻した。

 

「一つ忠告しておく。これから嵐が来る。どこか雨宿りできる場所を探したまえ。」

 

ソウジはシンジたちにそう忠告し、その場を立ち去った。

 

「嵐?……まさか。」

 

マコトはそう言って笑った。今は少し雲はあるものの澄み切った青空が見える程の晴れだ。嵐が来ると信じる方が難しいであろう。

 

だが、シンジはそうとは言い切れないかもしれないとサトシとマコトに説明をした。

 

「森の中をよく見て。ポケモンたちの姿が見当たらないよ。」

 

シンジの言う通り辺りを見渡したサトシとマコト。確かにシンジの言った通り周囲にはポケモン達の気配はするものの、姿を確認することができない。

 

「野生のポケモンたちは危機的な情報を察知する能力があるって聞いたことがある。もしかしたらソウジの言った通り、嵐がやってくる前兆なのかもしれない。」

 

シンジの言葉にサトシとマコトも納得した。危機的な状況であれば、エンテイが姿を現したことも関係するかもしれないが、エンテイは明確な敵意を出さない相手に対して牙を向けることはない。そのため野生のポケモンたちにとっては脅威となりえないだろう。であれば、一番の可能性はソウジの言った嵐が最も可能性が近い。であればと、シンジたちは森を出るために歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くすると、ソウジの言った通り嵐が吹き始め天候が荒れた。サトシたちもなるべく濡れないようにとリュックなどで頭を庇いながら雨宿りの場所を探すために走り出す。

 

するとその道中、サトシはあるポケモンに目を奪われた。そのポケモンはとかげポケモンのヒトカゲである。雨の中佇んでいるヒトカゲにサトシは声をかける。しかし、ヒトカゲはそんなサトシに見向きもせず、まるで何かを待っているかの様子であった。

 

それからすぐに、ヒトカゲは何かを見つけ走り出す。その先には一人のトレーナーがいた。ヒトカゲはそのトレーナーに倒れ込むも、ヒトカゲを蹴り飛ばし拒絶した。

 

その様子を見ていたサトシたちは怒りをあらわにし、なんでそんな扱いをするのかと尋ねた。その少年、クロスは弱いポケモンはいらないと信じられない発言をした。パートナーポケモンを大事に思っているシンジ、サトシ、マコトは彼の考えを否定する。だが、彼は考えを改めることはなかった。

 

サトシは苛立ち、クロスの肩を掴んで抑止する。だが、彼のパートナーであるルガルガンがサトシを突き飛ばし仲裁に入った。クロスは最強のポケモントレーナーになると告げ、その場を後にした。

 

残されたヒトカゲは追いかけようとするが、力尽きてしまいその場に倒れ込んでしまう。そのヒトカゲの尻尾を確認すると、その火の力が弱まってしまっており、今にも消えてしまいそうだった。ヒトカゲは尻尾の炎が消えてしまうと死んでしまう。そのことを知ったサトシはヒトカゲを庇いながら走り出す。シンジとマコトもその後を追い走り出した。

 

そしてその後、彼らは洞窟を見つけその中に入っていった。そこでは先ほどであった少年、ソウジの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこんな状態になるまで放っておいた!」

 

ソウジはサトシの抱えているヒトカゲをみて怒鳴るようにそう言い放った。そんなソウジとサトシの間に入り、シンジは彼に説明した。

 

「サトシは悪くないよ。このヒトカゲはトレーナーに捨てられていたんだ。トレーナーが迎えに来るって信じて待ってたんだけど……」

「っ!?とにかく手当てをしなくては。」

 

シンジの話を聞きソウジは洞窟の奥へと案内する。そこでヒトカゲを寝かせ、ソウジは手当の準備をする。

 

「酷い熱だ。」

 

サトシたちは濡れた上着を脱ぎロープにかけ乾かす。ソウジはヒトカゲの額に手を当てる。ヒトカゲの額は熱く、熱の症状が酷く出ていた。シンジは心配になり、ソウジに声をかけた。

 

「治せる?」

「治して見せるさ。トレーナー思いのポケモンを、死なせるわけには行かない。」

 

ソウジはそう言って手当てを開始する。そのソウジの表情には、どこか拭えない過去があるようにシンジには見えた。

 

ソウジはポケモンの熱を冷ますための薬を作り、それをヒトカゲに飲ませる。ヒトカゲは苦みで顔を歪ませる。しかしこれだけで熱が冷めるはずもなく、まだ苦しそうな表情を浮かべていた。ソウジに暖める必要があると言われ、サトシは自分の懐で暖めることにした。

 

暫くするとヒトカゲは一瞬だけ目を覚ます。その時サトシと目が合い、彼に声をかけられるとどこか幸せそうな笑みを浮かべて再び眠りについた。

 

「ジョーイさんみたいだったね。」

「ポケモン博士を目指しているからね。」

 

ソウジが目指すものはポケモン博士なようだ。そのため全国各地を回り、医療に関することや幻のポケモンの知識を蓄えているのだという。そのため、ヒトカゲの治療もスムーズに行うことができたのだろう。

 

「マコトは何か目指していることはあるの?」

「私?えーと、私は特にないかな?」

 

どこかはぐらかすようにマコトはそう言った。その後、話を逸らすためにサトシに話題を吹っ掛けた。

 

「そうだ!サトシは何か目指しているものとかあるの?」

「俺?俺は勿論世界一のポケモンマスターになることさ!」

「ポケモンマスター?」

 

マコトはサトシの目指しているものに疑問符を浮かべた。

 

「最強のトレーナーってこと?」

「もっと上だよ!」

 

サトシのその真っ直ぐな瞳は、いかにもサトシらしいものだと感じたシンジ。マコトもその答えにはサトシらしいねと答えるしかなかった。

 

「シンジは何か目指しているものとかあるの?」

「僕?僕はまだ特にないかな。」

「まだ?」

 

シンジから返ってきた答えに意外だと感じるマコト。このサトシと共に旅をしているのだから何か目的があると思ったのだが、彼はまだ目的を見つけていないようだ。そんなシンジが、でもと言葉を続けた。

 

「いつか、ポケモンと共に夢中になれる夢を見つけられたらいいなって思うんだ。言うならポケモンと一緒に見つける夢が僕の夢ってところかな。」

 

少し臭い事を言ったかと照れるシンジ。だがそんなシンジの言葉に、マコトは感動を覚えた。

 

「ポケモンと見つける夢……。それすっごい素敵じゃない!」

「そうだね。それもポケモンと人の在り方の一つだね。」

 

マコトとソウジもシンジの言った言葉に感動する。サトシもその答えは非常にシンジらしいものだと心の中で感じていた。

 

だがそんな話をしている時、サトシが小さくクシャミをした。いかにも寒そうに震えているが、外は大雨であるため仕方がない。洞窟内で焚火をしているとはいえ、雨の降る夜は余計冷えてしまう。

 

「忠告しておく。モンスターボールに戻したまえ。ポケモン達だけでも、寒さは凌げる。」

「そうね。ポッチャマも戻って。」

 

ソウジの忠告通り、マコトはポッチャマをモンスターボールへと戻す。ソウジもルカリオをモンスターボールへと戻した。

 

「戻したいけど、俺のピカチュウはモンスターボールに入るのを嫌がるんだ。」

『ピカ!?ピカピカ!』

「僕のイーブイも、モンスターボールに入りたがらないんだ。中に入るのが怖いみたいで。」

『イブブイ!イブイ!』

 

ピカチュウはモンスターボールから距離をとり拒否、イーブイはシンジの懐に潜り首を振った。そんな二人のパートナーを見て、ソウジとマコトは珍しいなと心の中で思う。

 

だがその時、ポッチャマとルカリオが彼らのモンスターボールから出てきた。何故入らないのか、と尋ねるが、ルカリオとポッチャマはモンスターボールへと戻ることを拒む。もしかしたら彼らもトレーナーと一緒にいたいのかもしれない。仕方がないなと諦めるソウジ、風邪を引いても知らないと今一度忠告したマコトであった。

 

その後、何者かが洞窟内へと入ってくる音がした。シンジたちはその音が気になり、一体何なのかを確認するために覗き込む。するとそこにはエンテイの姿があった。エンテイは小さなポケモンたちを引き連れ洞窟の奥に座り込む。着いてきたポケモンたちはエンテイの懐に潜り丸くなる。エンテイの体温で冷えた体を暖めて貰っているようだ。

 

「……エンテイはホウオウに命を与えられたという伝説がある。」

「ホウオウ?」

 

ソウジが言った聞きなれない名前をサトシは疑問に思い口にする。するとソウジは一からホウオウについて説明する。

 

「150年前、ホウオウが接触を持っていたカネのとうが落雷で焼け落ち、突然の大雨で沈下したと言われている。その時、名もなき三匹のポケモンが亡くなってしまった。その時ホウオウが降臨し、彼らに命を与えたと言われている。そのポケモンは塔に落ちた雷、塔を焼いた炎、塔を沈下させた雨、その化身だと言われている。」

 

ソウジはそこで図鑑を開き、その三匹の画像を見せる。

 

「そのポケモンがライコウ、スイクン、エンテイだ。」

「私スイクン大好き!」

 

そしてソウジは再び図鑑を弄り、もう一つの画像を見せた。

 

「そしてこれが、ポケモンの命を司ると言われているホウオウだ。」

「っ!?サトシ!これって!」

「あ、ああ!」

 

サトシはあわっててポケットからある物を取り出そうと駆け出す。ソウジはどうしたのかと尋ねると、それにシンジが答えた。

 

「旅立った日に2人で見たんだ。その時……」

「この羽が落ちてきたんだ!」

 

その羽をサトシが翳すと、ソウジは信じられないものでも見たかのように目を見開いた。

 

「虹色の羽!?」

「えっ?にじいろの……はね?」

「ホウオウは滅多なことでは人前に姿を現さないが、極稀に気に入った人間に虹色の羽を渡すらしい!」

「でも、なんで?」

 

マコトの言葉にソウジは更に説明を続けた。

 

「こんな伝説がある。虹色の羽に導かれ、ホウオウに会うものが、虹の勇者となる。」

「へえ~、なんだか知らないけど凄そうだな。」

「って、それサトシのことだよ?」

 

シンジはサトシに呆れたようにそう言う。だが、ソウジはシンジの言葉に一つ付け加える。

 

「いや、もしかしたら君もそうかもしれないよ。」

「えっ?僕?」

「確かめる方法がある。シンジも虹色の羽に触れたまえ。」

 

ソウジの言う通り、シンジはサトシに差し出された虹色の羽を手にする。

 

すると、虹色の羽が反応するかのように輝き始める。

 

「やっぱり。」

「え?どういうこと?」

「虹色の羽は、選ばれしものが触れた時、輝きを増すと言われている。シンジが触れ、羽の輝きが増したという事は、シンジも選ばれしものだという事だろう。」

「僕も……選ばれし者……。そっか……。」

 

シンジは実感がわかないながらも、嬉しそうに微笑む。普段大人しく夢を描くことがないシンジも、今回のことには嬉しさを感じているようであった。

 

シンジたちは今日は一先ず休むことにした。色々あって全員今日は疲れているのだろう。顔には表れていなくても疲労は溜まってしまうものだ。無理せず、ポケモンたちと共に休むシンジたちであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、目が覚めるとエンテイの姿はなかった。野生のポケモンたちもエンテイと共に姿を消していた。

 

サトシはヒトカゲにこれからどうするのかと尋ねた。ヒトカゲは最初悩んでいたが、サトシが友達になってくれと頼むと、彼の気持ちに答え承諾した。そしてサトシと一緒に旅をする決意をし、彼の持つモンスターボールの中に入った。シンジたちもサトシのヒトカゲゲットを祝福した。

 

外では昨日の大雨が嘘のように晴れ、全員で外に出る。すると、遠くの山には綺麗な虹がかかっていた。

 

それを見たサトシのポケットから音がする。どうやら虹色の羽が何かに反応しているようだ。それをサトシはシンジと共に翳すと、虹色の導きが現れる。

 

虹色の導きは強く輝き、何かを指し示していた。それを見たソウジが、この先にある山の名前を告げた。

 

テンセイ山、険しい山々が連なるライゼン山脈の中にある山の一つだ。テンセイ山の頂上で虹色の羽を翳すと、ホウオウが現れバトルをすることができるのだと言う。

 

サトシは大きな声で、「ホウオウとバトルしたい!」と告げた。続いてシンジもホウオウと全力でぶつかってみたいと自分の覚悟を語った。マコトとソウジも、ホウオウに会ってみたいと、共に旅をすると決めた。

 

こうして4人はホウオウに会うため、ライゼン山脈へと向かうことにしたのだった。

 

「よし!ホウオウに会いに行くぞ!」

「うん!ホウオウに会いに行こう!」




本編を楽しみにしている人には申し訳ありませんが、もうしばらくお付き合いくださいませ。私個人として書いててなんだか楽しいのです。

明日からポケモンピカブイが発売されるため、投稿頻度が減ったりしないかが不安ですが……。とりあえずなんとか頑張ってみます(汗

そう言えばポケモンピカブイではピカニキとイーブイの種族値が変更されるそうです。ピカはスピード特化の攻撃配分重視、イーブイは耐久寄りのバランス配分みたいです。恐らくパートナー限定でしょうが、寧ろワクワクしてきますね。イーブイの♀厳選しなきゃ(使命感

半年前位に注文したイーブイのPC抱きクッションが届いて可愛すぎるためずっと抱きしめながら次話の投稿とポケモン新作のプレイに励みたいと思います。

はやくあしたにな~れ!

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