ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
寝違えて首が痛い
ここはアローラ地方のメレメレ島にあるポケモンスクール。と言ってもシンジたちのいる世界のスクールとは違う。もう一つのアローラ地方、サトシたちの通うポケモンスクールの様子であった。
この世界でもアローラポケモンリーグが開催され、大きな盛り上がりを見せたのち決勝戦はサトシVSククイ博士のカードで争った。最終試合はメレメレ島の守り神であるカプ・コケコとククイ博士が共闘し、サトシのピカチュウと熱いバトルを繰り広げお互いの全力のZ技が炸裂。初のアローラリーグでありながら歴史に残る激闘の末、サトシが優勝し彼が初代のアローラチャンピオンに就任して幕を閉じた。
それも遂先日行われた夢のような時間であった。アローラリーグ・マナーロ大会での熱い余韻が残る中、ポケモンスクールにてもうすぐやってくる長期休みの目標で盛り上がっていた。
マーマネは将来宇宙飛行士になるのが夢であり、ホウエン地方にあるトクサネ宇宙センターを見学しに行くと息巻いていた。カキはリーグ戦で戦うことのできなかったサトシとガチバトルしたいと熱くなっており、スイレンは父の海洋調査を手伝い、幻のポケモンであるマナフィを追いかけるそうだ。
マオは父が経営するアイナ食堂をプチリニューアルし、人間だけでなくポケモンたちも楽しめる食堂に成長させることを夢見ており、リーリエは未だに眠り続けてしまっている父が残したマギアナを絶対に目覚めさせるのだとやる気に満ち溢れていた。
一方でサトシはどうしようかと悩んでいた。当初の目標であるリーグ優勝を果たすことができチャンピオンになることができたサトシ。カキとのバトルをするのはサトシにとっても大切なことではあるのだが、それでもそれはあくまで目標の一つでしかない。ではそれが終わったら?今まで色々な地方を旅してきたサトシだが、この先何をするべきかいい目標が思いつかずに悩んでいた。
その時、彼の脳裏にたった一人のトレーナーの顔が思い浮かんだ。チャンピオンになった彼にとって唯一の心残りでもあり、大きな目標。今なら彼に追いつけたのではないかと淡い期待を抱き、もう一度だけでもいいから彼に会いたい。彼と戦って自分の今の実力を確かめたいと思ってしまった。もう一つの世界に存在する自分と同じチャンピオン、シンジに。
「サトシ」
「ククイ博士?」
「彼に、会いたいんだろ?」
「……うん」
サトシのことを自分の息子のように可愛がっているククイ博士がそう口にすると、サトシは静かにうなずいて答えた。彼と言うのが一瞬誰なのか分からずマオたちは「彼?」と疑問に思って首を傾げる。
「サトシは今の自分を試したいんだよ。それにこの先の目標のために、サトシは彼に会う必要がある。」
「もしかしてその彼って……」
「ああ。サトシと同じアローラ地方チャンピオン。シンジだよ。」
その名前を聞いてクラスメイト達は思いだす。かつて別の世界からやってきた友人のことを。アローラ地方チャンピオンシンジ、そして彼の想い人である別の世界のリーリエのことを。
「私も会いたい!」
「私も!」
「僕も!」
「俺もだ!」
マオ、スイレン、マーマネ、カキが順番にそう口にした。そしてリーリエも心の中でもう一度彼らに会いたいと思う。
(それにシンジやもう一人の私なら、マギアナを目覚めさせるヒントを知っているかも……)
彼女もまた自分の目標のために彼に会いたいと願う。全員の願いが一致したのを確認したところで、ククイ博士が一つ提案をした。
「じゃあ明日、早速会いに行くか!」
「え?で、でもそんな簡単に……」
彼らは自ら伝説のポケモンであるソルガレオの力を利用してこの世界にやってきた。しかし彼らとのつながりはそれ以外になく、当然別の世界であるため通信手段も存在しない。その上自分たちは彼らの世界に訪れたことがないため会いに行く手段が思いつかない。
だがそんな彼らにククイ博士は一つの希望を提案する。
「彼らがソルガレオの力でこの世界にやってきたのであれば、今の俺たちにも決して不可能なことではないだろう?それにエーテル財団やバーネットたちに頼めば可能性はあると思うぜ?」
確かにエーテル財団のウルトラホールに関する研究はUBの事件を通してかなり進んでいる。それにエーテル財団の技術を用いれば、彼らの世界と繋がることも夢ではないのかもしれない。
「……よし!行こう!」
そう口にしたのはサトシだ。考えるよりまずは動いてみる。その考えが体現したように口にしたサトシに、相変わらずだと呆れるクラスメイトたちだが、実に彼らしいと自分たちも乗ってみることにした。
かつてソルガレオ……ほしぐもやべベノム、リーリエの母親であるルザミーネたちを助けるためにウルトラホールを通って別世界に行ったことがある。ならば今回も意外となんとかなるのではないかと言う確信が心のどこかで生まれていた。
「リーリエのママやバーネット博士に頼んで明日!シンジの世界に行ってみようぜ!」
『おー!!』
みんなの心が一致し、早速関係者たちに今回の件を依頼して明日にでも行ってみようと決断する。ルザミーネやバーネットたちからは相変わらず救難だからと呆れられていたが、それでも快く承諾されたため後日シンジたちの世界に行くための準備に取り掛かるのであった。
後日、サトシ、リーリエ、マオ、スイレン、カキ、マーマネ、ククイ、バーネット、さらにエーテル財団のルザミーネ、秘書のビッケ、ザオボーにサトシのライバルであるグラジオも同行しポニ島にある日輪の祭壇に訪れていた。彼らの到着に気付いたソルガレオが空からやってきたのに気付いたサトシたちは笑顔で迎え入れた。
「久しぶりだなソルガレオ!元気にしてたか?」
『グルゥ♪』
ソルガレオはほしぐも時代のように育ての親であるサトシに甘えるように額を擦りつける。彼の過去を知っているここのメンバーたちはその様子を微笑ましいと笑顔で眺めている。
「ソルガレオ」
『グルゥ?』
ソルガレオの名前を口にすると、サトシは手をソルガレオの額に優しく触れる。サトシの手からソルガレオは彼の気持ちを読み取り理解する。俗にいうテレパシーと言う能力である。信頼し合っているサトシとソルガレオだからできる芸当だ。
サトシの願いを読み取ったソルガレオは小さく頷いて承諾した。そしてシンジたちの世界に行くために必要なことをルザミーネが説明する。
「サトシ君以外のみんなはZ技を発動させてZパワーを集約させるわ。Zパワーを高めてウルトラホールを通常よりも更に遠くの世界に繋げるために範囲を広げるの。」
「じゃあ俺はどうすれば?」
「サトシ君はソルガレオのZ技を使ってウルトラホールを切り開いてほしい。先にZ技を使ってしまうと必要なソルガレオのZ技が正常に発動しない可能性があるからよ。」
ルザミーネの説明にみんなが頷いてそれぞれの役割を理解する。サトシ以外のメンバー、カキ、マーマネ、マオ、スイレン、リーリエ、グラジオたちが自分のパートナーポケモンと並び立った。ククイ博士を含むサポートメンバーはZパワーの出力を確認するために彼らの動向を見守っていた。
「行くぞ!」
グラジオの合図に合わせて全員が構える。それぞれがZリングと自分のポケモンに集中してZパワーを高めていく。そしてZ技を祭壇の中央部に解き放ち、集約した力はみるみると膨れ上がって膨大なZパワーとなり空間の歪みが発生していた。
「Zパワー、既定の数値まで到達しました!」
「ええ。ではみんな、ソルガレオの背中に乗って頂戴。」
ビッケとルザミーネの合図に合わせて全員が一斉にソルガレオに乗り込んだ。しかし一人だけ、ソルガレオに乗らない人物がいたのだった。
「グラジオ?お前は行かないのか?」
「俺はそのシンジと言う奴を知らないからな。それに、俺は少しやりたいことがあるから今回は遠慮させてもらう。戻ってきたらあっちの世界の話でも聞かせて貰うさ。」
「……分かった!ちゃんと土産、持って帰ってくるぜ!」
サトシとグラジオは拳を突き合わせて約束を交わす。そんなサトシたちに対し、バーネットは最後の忠告をする。
「みんな。あんまり長居しすぎるとこっちの世界に戻ってこれなくなる可能性があるわ。だからあっちに行ってから24時間以内に戻ってきなさい。私たちも初めての経験だから想像できないの。」
バーネットの忠告に全員が「はい!」と元気よく口にする。今までのウルトラホールへの冒険とは異なり、今度はもう一つの世界と結ばれる前代未聞の実験。いわば幻のポケモン、せレビィの行える時渡りにも似た現象を人間の手で行おうとしている。正直言ってバーネットもあまりに危険すぎる実験であるため無茶はさせたくないが、だからと言って彼らが大人しく聞く性格であるとは思えない。ならばこちらは彼らの危険を最小限に抑えるために、こちらの世界からZパワーの管理などのサポートに徹底しようと判断したのだ。
「よし!じゃあ行くぞ!ソルガレオ!みんな!」
『ああ!』
『グルォ!』
そしてサトシはZ技のポーズをとる。サトシのZリングから発せられるZパワーのオーラがソルガレオを包み込み、どんどんと熱量を引き上げていく。
――サンシャインスマッシャー!
眩い光に包まれたソルガレオが先ほど開いた空間の歪みに突撃していく。パリンッとガラスが割れるような音と共に空間が大きく広がり、その先にあるウルトラホールへと突入していく。サトシたちの姿はすぐに見えなくなってしまい、この世界に残ったククイたちはサトシたちの無事を祈るのであった。
ウルトラホールに突入してから暫く経過した時。右も左も歪な空間が続いているため何分、何時間経過したかが感覚が狂ってきてしまう。あまりに風景の変化がなく、以前と違ってなんだか不思議な不安が彼らの心を蝕むように襲い掛かってきた。
「一体いつまで続くのでしょうか。」
不安に耐え切れずそう口にしたのはリーリエであった。その声に反応するかのように周囲の風景が変化してくる。しかしその風景はサトシたちが期待していたものとは大きく違っていた。
空間には稲妻が走り周囲は真っ暗になり、ソルガレオを通じてサトシたちにも衝撃が伝わってしまう。一体なにが起こっているのか分からず、その衝撃に苦しむ声を一同はあげる。
「い、一体何がっ!?」
これは流石にマズイと直感する一同。ソルガレオもサトシの気持ちをテレパシーで感じ取り、限界の力を振り絞って空間を駆け抜ける。稲妻空間を通り抜けると、奥には真っ白な空間が広がっていた。その先がようやく出口なのだと分かりソルガレオが抜け出すと、一同は安心感と一瞬の疲労感からプツリと意識を手放すのであった。
ウルトラホールを抜け出したサトシたち。意識を失ってしまった一同だが、手持ちのポケモンであるピカチュウが先に目を覚ましてサトシに呼びかける。
『ピカピッ、ピカチュウ』
しかしサトシは起きる気配がない。元々朝が弱く寝坊しがちなサトシがその程度で起きるわけはない。ピカチュウはやっぱりと呆れた溜息を出すと、頬の赤い電気袋をバチバチと鳴らして電撃を周囲に放った。
『ピィカァヂュウ!!』
電撃はサトシだけでなく、周囲で一緒に意識を失っていたクラスメイト達も巻き込んで一斉に目を覚ます。体中に襲い掛かる電撃の痺れを感じながら、サトシは起こしてくれたピカチュウに声を振り絞って「ありがとう」と口にした。ピカチュウもその言葉を聞いて笑顔になるが、彼には決して悪気はないので全員悪態をつくことなどできるはずもなかった。
「えっと、ここは?」
そこは草むらで生い茂っており視界も悪い場所であった。現在地がどこなのか分からなかったが、力を使い果たしたソルガレオが休んでいる姿だけは確認できた。
「ソルガレオ、お前はここで休んでいてくれ。元の世界に戻る時にまた力を使うことになると思うから。」
『グルゥ……』
本当はサトシと一緒に行きたい気持ちはあるのだが、サトシの気持ちを汲み取り力を蓄えるため彼の言うことに従うことにした。今現在彼らがやるべきことは、この世界は本当にシンジたちの世界であるのかの確認だ。そもそも先ほどの空間の出来事はなんだったのか気になるが、一先ずはこの茂みから抜け出そうとサトシたちは行動に移す。
茂みをかき分けて一行は外に出る。するとそこには少しだけ見覚えのあるような気がする大都会の光景が広がっていた。どことなくメレメレ島にあるアローラ一の大都会、ハウオリシティによく似ていたが、本来のハウオリシティに比べて一回り、いや二回りほど大きく感じられる。もしかしたらここがシンジたちの世界なのかと希望を持つことができた。
しかし一番確信に至ることができるのはやはりサトシやリーリエの存在を確認すること。アローラ地方の初代チャンピオンであるならだれでも知っているはずなので、情報を集めることにする。手始めに目の前を歩いている金髪の長い髪をした女性に声をかけてみた。
サトシの呼びかけに答えた人物がこちらに振り返る。だがその女性の顔を見たサトシたちは自分たちの目を疑った。何故ならその女性の顔は誰が見ても見惚れるほど、この世の者とは思えないほどの絶世の美女であったのだ。それは恋愛に疎いサトシですらも例外でなく、女性陣であるマオ、スイレン、リーリエですらも見惚れてしまっていた。
女性の両隣には10歳にならない程度の小さな男の子と女の子がいた。人見知りなのか二人は女性の後ろに回っていたため、子どもたちはその女性の子どもなのだという事が分かった。
ある意味で怯んでしまっているサトシたちの顔を見た女性は、もしかしてと思いだしたようにサトシたちの呼びかけた。
「もしかして……サトシさんたち、ですか?もう一つの世界の?」
「え?俺たちのことを知ってるってことはもしかして……」
「え?うそ?リーリエ!?」
「はい。私はもう一人のリーリエ、ですよ。シンジさんと一緒にそちらの世界に伺った。」
なんと、目の前にいたのはあの時に出会ったもう一人のリーリエだと言う。あの時出会った幼さは一切なく、美しい顔立ちに綺麗な髪、宝石さえも霞むような透き通る瞳。良くも悪くも道行く人々の目を奪っているのがすぐに分かる程目立っているその容姿に、彼らは言葉が出なかった。
「お母様、お知り合いですか?」
「ええ。彼らは私のお友達です。さあ、あなたたちも挨拶して。」
「わかりました。僕はロウと言います。それからこちらが妹の……」
「はい!私はティアって言います!よろしくお願いします!」
年に似合わず礼儀正しく一礼して挨拶をする真面目そうな少年、ロウ。その妹である年相応の天真爛漫っぷりを見せる笑顔の少女、ティア。挨拶を終えると、サトシたちも子どもたちに挨拶を返した。
「俺はサトシ!それとこっちが相棒のピカチュウ!」
『ピカッピカチュウ!』
「俺はカキ、よろしくな。」
「僕はマーマネ、よろしく。」
「私はマオだよ!よろしくね!」
「私はスイレン。よろしく。」
「わたくしは……」
その時にリーリエは思った。いつものように自分の名前で挨拶してしまうと彼らの母親と同じ名前という事で混乱を招いてしまいかねない。であるならばここは一つ偽名で誤魔化した方がいいかもしれないと気転を利かせる。
「えっと、わたくしはリリィと言います。よろしくお願いしますね。」
「リリィさん、ですか?」
「なんだかどことなくお母様に似てますね!?」
「え!?き、気のせいですよ!ほら、世界には同じ顔の人が3人はいると言いますし!」
慌ててリーリエ(以降リリィ)は苦し紛れの言い訳をする。少し苦しいかとも思ったが、相手は子どもであったためなるほどと疑問を持つことなく納得してくれた。
「ここで立ち話するのもなんですし、私たちの家まで案内しますよ。」
「え?あ、ああ、はい、お願いします。」
相手はリーリエだと分かっていても、その美しい容姿と落ち着いた対応力に思わず委縮してしまう一行。彼らは無事にこの世界に辿り着いた安心感と、予想外の展開にドキドキと鳴る心臓を落ち着かせながらリーリエの後ろを着いて行くのであった。
次回はバトル編。正直いつになるかは分かりませんが気ままに進めていきますので何卒よろしくお願いいたします。
大人リーリエは絶対滅茶苦茶美人になる(確信)