ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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なんか間に合いました。と言う訳でリクエスト回です。

まさかの展開!?が待っているかどうかは分かりませんが、取り敢えず例のごとく長いので(2万字ほど)ご容赦ください。


アニポケコラボ特別編 ~超全力Z炸裂~

ここはメレメレ島のとある大木。そしてそこには大きな穴が開いており、中には空洞が広がっている。この大木にはあるポケモンが住処として住み着いているが、そこにはまた別の人物たちも共に過ごしていた。その人物たちは……。

 

「ではこれより、我らロケット団の作戦会議を開始する!」

『ラジャ!』

『ソーナンス!』

 

そう、彼らはロケット団。カントー地方を拠点に世界中のポケモンを手に入れ、世界征服をしようと目論んでいる悪の秘密結社である。だがここにいるのは3人――正確に言えば2人と2匹のポケモン――であり、秘密基地としてその一部を改造し利用しているのだ。

 

そもそもある事情により、そのとあるポケモンの元を離れることが出来ずにやむを得なくここを基地にした、という理由もあるのだが、本人たちは割と現在の状況にも満足しているようだ。

 

「まず、以前出会ったニンフィア使いだが……」

 

赤髪の女性はそこで一度言葉を止める。すると……

 

「なんなのよアイツ!もうちょっとのところでジャリボーイのピカチュウを奪えたってのに!」

 

突然机をバンッと叩き立ち上がり、激昂し始めたのだった。彼女はムサシ。そしてムサシが以前邪魔をされたニンフィア使いと言うのが紛れもなく別世界からやってきたシンジだ。ムサシは短気な性格で、上手く行かない事があると人に当たりたくなってしまうのだ。

 

しかしそんな彼女でも、人のポケモンを奪おうとすることはあろうとも自分のポケモンを責めることは決してない。彼女もまた、心優しいトレーナーの一人という事なのかもしれない。

 

「でもアイツのニンフィア強かったよな。たった一撃で俺の作った特製の檻を壊したんだもんな。」

 

青髪の男性、コジロウがそう呟いた。コジロウは主に発明担当で、その発明品は中々興味深いものが多い。前回もあるポケモンを捕まえようと頑丈な檻を作成し破壊不可能かと思われていたが、それでも突然現れたシンジのニンフィアにあっさりと破壊されてしまったのだ。

 

「あのニンフィアちゃんは可愛かったのニャ~」

『ソーナンス……』

 

目がハートマークとなってそう呟いたのはニャースだ。紛れもなくカントー地方に生息するニャースだが、ある事情により人間の言葉が喋れるようになった。そのことについては割愛するが、彼は雌ポケモンに惚れやすい傾向にある。今回もいつもと同じパターンであろう。メロメロも使われていないのにメロメロ状態になってしまうとは相当である。

 

そしてもう一匹いるのがムサシの手持ちの一匹であるソーナンス。このソーナンスは特にこれと言って特別なことはないが、強いて言うのであれば頭が良いという点であろうか。ムサシが特に指示を出していないにも関わらず、物理技を跳ね返す“カウンター”と、特殊技を跳ね返す“ミラーコート”を使い分けるのである。

 

これはムサシがかつてあるトレーナーに教えてもらったのだが、ムサシ自身判断するのが難しいと割り切ってしまったため、ソーナンスは自分で判断するしかなくなってしまったのだ。それでも自分で未だに判断し使い分けているため、流石と言うべきだろうか。

 

彼らが狙っているのはマサラタウンからこのアローラまでやってきた一人の少年トレーナー、サトシの相棒であるピカチュウだ。そのピカチュウとは初めて会った時に敗北して以来、彼らはピカチュウをずっと追いかけ捕まえるために努力しているのである。もちろん人のポケモンを勝手に捕まえのは犯罪であるが、彼らは悪の秘密結社ロケット団。そんなことはお構いなしなのだろう。

 

「あ~、ニャースの事は放っておいて、あのニンフィアは使えない?」

 

ニンフィアに惚れ込んでいるニャースを無視し、ムサシは作戦会議を継続する。

 

「ああ、あの強さはもしかするとメガシンカにも匹敵するかもしれない。ピカチュウと共にロケット団ポケモン精鋭部隊を結成すれば、俺たちに敵はいないな!」

 

そう怪しげな笑みを浮かべたコジロウは「それに」と言葉を続けた。

 

「あの時一緒にいたキュウコンも使えるよな?」

「確かにあのれいとうビームは強力ね。」

 

そして2人の言葉を聞いたニャースは我に返る。

 

「そうニャ!ニャーにいい考えがあるニャ!」

 

主に作戦担当のニャースがいい案を思いついたと、ムサシたちに耳打ちをする。ムサシとコジロウもニャースの作戦を聞き、黒い笑みを浮かべてニャースの意見に賛同した。

 

「なるほど、いいわねそれ!」

「よし!それじゃあ早速!」

「行動開始ニャ!」

『オー!』

『ソーナンス!』

 

3人で同時に拳を天に突き上げる。それに対しソーナンスも彼らに相槌を打つ。こうして彼らロケット団の悪巧みが再び始まろうとしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーん!これがアイナ食堂特性の“幻のアローラシチュー”だよー!」

 

そう言って緑髪のツインテールの女の子、マオは美味しそうな香りの漂うシチューを運んでくる。相棒であるアママイコもマオのお手伝いとして共にシチューを運ぶ。

 

ここはアイナ食堂。マオとその父親が共に経営している人気ある食堂である。彼女はクラスメイトであるサトシたちを招き、アイナ食堂で自慢の料理を振舞っていたというわけだ。

 

「待ってました!」

「僕もうお腹ペコペコだよー」

「相変わらずうまそうだな!」

 

サトシに続き、小太りな少年であるマーマネがそう呟いた。さらにその後、こげ茶色の肌をした少年、カキもまたマオの運んできた料理を見た感想を言う。彼らはこの店によく訪れることもあり、マオが振舞ってくれる料理が大好物なのである。

 

「久しぶりですね!マオの作った“幻のアローラシチュー”!」

「うん!あの時と変わらないいい香り!」

 

淡く長い金髪の少女、リーリエと小柄で青髪の少女、スイレンが幻のアローラシチューを目にして感動した様子で見つめている。彼女らもまたマオの作る料理が大好きなのだ。

 

そんな彼らと共に食事をしようと、ある人物たちがその場にいた。だがその彼らはと言うと……。

 

(ほ、本当に食べても大丈夫なのだろうか……)

(見た目も香りもすごく美味しそうなのですが……)

 

彼らはこの世界とは別の世界からやってきたシンジとリーリエである。かつての出来事以降、偶に2人でこの世界へと立ちよりサトシたちと触れ合うことも多くなったのだ。別の世界であるとはいえ、彼らもまだ子供と言える年なので友達と遊びたい年頃なのだろう。

 

だが、そんな彼らは目の前に運ばれてきた料理を食べるのを躊躇っている。確かに見た目も香りも美味しそうなシチューだ。しかし彼らは、自分たちの世界に存在しているマオの料理を食べ、身をもって体験してしまっていることがある。

 

(僕たちの世界のマオの料理って……)

(なんと言うか……独特なんですよね……)

 

彼らの言うとおり、彼らの世界にいるマオは料理が下手、というわけではないのだろうが、独特な料理をしてしまうのだ。彼らは一度そんな料理を口にしてしまい、果てしなく後悔してしまったことがある。

 

以前彼らが元の世界で彼女の店に立ち寄り食べた事があるが、その時に食した“Z定食スペシャル”と呼ばれるものは例えることができないほど癖のある味だったらしい。一部それを完食する人物もいたが、少なくともシンジとリーリエにはそれを食べきることができなかったらしい。

 

そんな味を知っていては、食べることも戸惑ってしまう。だが、目の前に出されたからには少なくとも口に入れなくては失礼に値してしまう。そう思ったシンジとリーリエは、シチューをスプーンで掬い口に運ぶ。思わず力が入ってしまい目を閉じるが、暫くしてから予想外の味に感動を覚える。

 

「!?これすっごく美味しい!」

「本当です!ピリッとした辛さに香ばしい香りが口の中に広がって、後から味わい深い甘さが蕩ける食感。凄く美味しいです!」

「そ、そんな大げさだよー!でも2人が喜んでくれて私も嬉しいよ!」

 

まるで食レポのようにシチューの感想を語るリーリエに、マオは照れくさそうな仕草をする。幼少のころから豪華な食事をしていたであろうリーリエだが、最近ではシンジの作る料理もよく食すことがあるため彼女の舌も充分に肥えてしまったのだろう。

 

周囲のクラスメイトたちに加え、彼らのパートナーポケモンたちも美味しそうにポケモンフーズを頬張っている。

 

「お代わりってある?」

「ごめん!今日はもうこれくらいしか作れないんだ!」

 

マーマネがお代わりを求めるが、マオは手を合わせて謝った。

 

マオ曰く、幻のアローラシチューに使う素材はやまぶきのミツと呼ばれるものが必要なようで、探したはいいもののあまり回収することが出来なかったようだ。

 

やまぶきのミツは、オドリドリと呼ばれるポケモンの姿を変化させる特別な花の蜜で、特定の場所で特定の時期、特定の時間と入手できる時が限られている。そのため、現在の時期では入手できることはあるものの数が少なく、1人一杯分しか集めることが出来なかったのだとか。

 

マーマネもマオの話を聞き、残念だけど仕方がないと諦めた。そこでリーリエが立ち上がり、シンジにある提案をしたのだった。

 

「シンジさん!でしたら私たちが料理を振舞いましょう!」

「僕たちが?そうだね。分かった。じゃあそうしようか!」

 

リーリエの提案にシンジも乗っかり、彼女と共に料理を作ろうとマオにキッチンを使用していいか許可を求める。マオも問題はないと許可を出し、席に座って彼らの料理を待つことにした。

 

「シンジたちの料理か……どんなのが出てくるんだろうな!」

「な、なんだかわたくしが料理していると考えると違和感が……。」

 

サトシはシンジたちの作る料理をワクワクしながら待機している。逆にリーリエは、別世界の自分とは言え普段料理を作ることのない自分がキッチンで料理していることに、少なからず違和感を覚えているようだ。姿がそっくりな自分が普段の自分と違う事をしているとどうしてもそう言った違和感を感じても仕方がないだろう。

 

「リーリエはそっちをお願い。僕はこっちをやるよ。」

「分かりました!」

 

シンジが指示を出して分担を決め、リーリエはシンジの指示通りに動く。その様を見ると、やはり2人は息がピッタリなのだという事がよく分かる。

 

「やっぱりあの2人って仲いいよね。」

「ああ、料理している姿を見るだけでそう思わせるな。」

 

マオとカキが2人の様子を見てそう感想を漏らす。他のみんなも2人の言葉と同意見なようで同時に頷く。

 

「あの2人って喧嘩するのかな?」

「喧嘩するほど仲がいい、って言うけどあの2人を見た限りじゃとても喧嘩するようには見えないよ。」

 

マオが気になったことを呟くが、マーマネは2人のそんな姿は想像できないと否定する。確かに喧嘩するほど仲がいいとは言うが、仲がいい者が誰しも喧嘩するというわけではない。もちろん喧嘩しないからと言って仲が悪いわけではない。それはあの2人が証明している。

 

「喧嘩しなくても仲がいいのって、なんだか羨ましい。」

 

スイレンは小さくそう呟いた。スイレンには双子の妹がいるのだが、彼女たちはスイレンの言う事を中々聞いてくれない。姉妹仲が悪いわけではないが、時折言うことを聞いてくれない時は叱ることもあるため喧嘩をしない彼らが羨ましいのだろう。

 

みんながシンジとリーリエの関係について考えていると、シンジとリーリエに加えシンジの持つエーフィとニンフィアも一緒に料理を運んできてくれた。エーフィはエスパータイプ特有のサイコパワーで、ニンフィアは自分の特徴でもあるリボンの触手を使って器用に運ぶ。

 

「お待たせ!と言っても単純にカレーにしてみたけど。」

 

シンジたちが運んできたのは一般家庭でも人気のあるカレーライスだ。料理の材料は常に自分がいつでも作れるように確保しているため、材料不足になることはなかった。サトシとマーマネは待ちきれないようで、料理が運ばれるのを確認した瞬間に既にスプーンを所持して待機していた。

 

「おっ!うっまそう!」

「早速食べていい!?」

「うん、もちろん遠慮なく食べていいよ。」

 

みんな涎が垂れそうになるのを我慢しながら、同時に“いただきます”と手を合わせて食前の挨拶をする。それとほぼ同時のタイミングでサトシとマーマネがカレーを口へと運ぶ。

 

「んっまい!」

「なにこれ!?すっごく美味しい!」

 

シンジとリーリエの作ったカレーはサトシとマーマネに大好評なようだ。彼らはその味に満足しているのか、次々と皿に盛られたカレーライスを次々と消費するほど驚異的なスピードで食べていく。

 

「もー、サトシもマーマネも行儀悪いよ!」

「マオも食ってみろって!すっげぇ美味いぜ!」

 

マオの制止も聞かないサトシに呆れつつも、マオはカレーを掬って口に運んだ。すると先ほどとは表情が変わり、彼女の瞳に星が映っていると錯覚させるほどの感動を彼女は感じた。

 

「なにこれ!?すっごく美味しい!」

「ああ!これはうまい!」

「すごい!シンジとリーリエの作ったカレー!」

「こんなに美味しいカレー初めてです!」

 

サトシとマーマネだけでなく、他のメンバーからも絶賛の嵐だ。これにはさすがのシンジとリーリエも照れずにはいられない。

 

「リーリエが手伝ってくれたから楽に作れたよ。」

「い、いえ!私は何もしていませんよ。」

 

シンジの言葉にリーリエは謙遜するも、その表情はまんざらでもない様子だ。彼女もシンジに料理を教わっていたため、今では一人でも作れるまでには上達している。だからこそ褒められた気がしてリーリエも自然と嬉しい気持ちが出てきたのだろう。

 

サトシたちがおいしそうに食事をしているのを眺めているポケモンたちも、涎を垂らしながら食べたそうにしている。特にサトシのモクローはその匂いに釣られ、いつも寝ているにも関わらずに今は目を見開いている。今にも飛びつきそうな様子だが、そんなポケモンたちにシンジはポケモンフーズを差し出した。

 

「みんなにはこっちだよ。」

 

ポケモンフーズを差し出されたポケモンたちは、すぐに飛びつき漁るかの如く食していく。シンジの作った特製のポケモンフーズは味だけでなく、栄養のバランスも考えられているためどのポケモンにも好評であった。

 

味付けにも勿論工夫してある。例えばでんきタイプのピカチュウには刺激のあるマトマのみをちょっぴり加え、甘いのが好きなアママイコにはナナのみとモモンのみを小さく切って混ぜるなどだ。こうすることによってポケモンたちの好みの味にし、誰でも簡単に食べられるようにしてポケモンたちの健康を保つことが出来るのだ。

 

「シンジってポケモンフーズも作れたんだね。」

「あの、今度ポケモンフーズのレシピを教えてもらってもいいですか?」

「うん、もちろんだよ。」

 

マオがシンジの腕前に改めて感心し、こちらの世界のリーリエがシンジにポケモンフーズのレシピの教えを乞おうと頼む。シンジもその頼みを断る理由がないため、快く了承する。

 

シンジとリーリエの作った料理に満足した一行は、一度アイナ食堂を後にすることにした。因みにサトシ、マーマネ、カキは一杯で満足できなかったのかカレーのお代わりを注文していた。シンジはその食欲旺盛な3人組に苦笑しながら、次々と彼らの皿にカレーを盛っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイナ食堂でお腹いっぱいになった一行は、ポケモンスクールへと戻ってきた。そこではククイがある準備をして、彼らの事を待っていた。

 

「おっ、戻ってきたか。どうだった?アイナ食堂の方は?」

「マオの作ったシチュー、凄く美味しかったです!」

「シンジの作ったカレーも美味しかったですよ!」

「シンジも飯作れるのか?俺も食べてみたかったぜ。」

 

そう言って羨ましがるククイに、シンジは大きな器に入ったカレーを差し出した。

 

「よかったらこれ、作り置きしておいたので後でバーネット博士と食べてください。」

「おっ!気が利くなー!じゃあありがたく後でいただくよ!」

 

シンジはククイのために用意していた作り置きのカレーを渡した。元の世界でよくお世話になったククイに恩返し、というわけではないが、そういった意味も込めて彼に渡したかったのかもしれない。

 

こちらのククイは最近になってバーネット博士と結婚したようだ。元の世界ではシンジやリーリエと出会う前に結婚していたが、こちらとは世界観が少し違うようだ。

 

因みに、以前来た時に出会ったほしぐもちゃん……コスモッグの姿もない。サトシたちの話によると、彼はソルガレオの姿となり去っていったのだとか。

 

また、こちらの世界でもリーリエの母親であるルザミーネを救うため、サトシたちと協力して彼女を救い出すことに成功したという。だがこちらの世界のルザミーネはシンジたちの世界の彼女と違い、ウツロイドの神経毒による後遺症が残ることはなかったようだ。その話を聞いたシンジとリーリエは、彼らに話すことはなかったが心の中では大きく溜息をつき一安心していた。

 

それにこちらの世界のリーリエも、以前はポケモンに触れることができなかったのだが、ある事がキッカケで再び触ることができるようになっていた。前に進むことのできた彼女に、もう一人のリーリエもそのことを知らされた時には自分の事のように喜んでいた。

 

今日は偶々シンジとリーリエがこちらの世界にやってきたため、折角だから彼らにこの世界のアイナ食堂へと案内してあげようというククイの粋な計らいだ。サトシたちもその意見にはノリノリであり、先ほどまでアイナ食堂でゆっくりと過ごしたと言う訳だ。

 

「ところで博士?今から何をやるんですか?」

「折角シンジたちが来てくれてるんだ。ポケモンバトルについていろいろと教えてもらおうと思ってな。」

 

ククイの言葉にサトシを筆頭としたクラスメイト達が盛り上がる。特にサトシはポケモンバトルと聞いたら黙っていることが出来ない主義だ。強い相手と戦うことが出来ればそれだけでも嬉しいのだろう。その相手がシンジとなれば尚更だ。

 

「よし!じゃあ早速俺とバトルしようぜ!」

「ズルいぞサトシ!俺ともバトルしてくれ!」

「そんなに焦らなくても僕は逃げたりしないよ。じゃあ今日はカキとリーリエがバトルした後に僕とサトシがバトルしよう。それでいいかな?」

 

本音で言えばもう一度シンジと戦いたかったカキだが、リーリエも決して油断できる相手ではないため相手としては不足はない。そのため異論はないと頷くことでシンジの意見に賛同する。

 

リーリエも問題はないようで、折角なら私も色々と経験したいという事でシンジの提案に乗っかる。島巡りをして強くなった自分を試す絶好の機会だと考えた。

 

そしてシンジの提案通り、カキとリーリエがお互いに向かい合ってフィールドに立つ。他のクラスメイト達も離れてリーリエとカキの応援をしようと見守る。女性組はどちらを応援しようか迷っているようだが。

 

「行け!ガラガラ!」

『ガラガァラ!』

 

カキは前回と同じでガラガラを出してきた。ガラガラは気合十分と言った様子で骨を持った拳を突き上げる。リーリエも出すポケモンを決め、モンスターボールを手に取った。

 

「お願いします!シロン!」

『コォン!』

 

優雅にフィールドに降り立ったのはリーリエの相棒であるアローラのキュウコン、シロンだ。シロンのその美しい姿は見るものを見惚れさせ、背後には雪結晶が降り注いでいるような錯覚に陥るほどの優雅さを醸し出している。

 

だが今のシロンは美しさだけではない。今のシロンのそれらに加えて強さも充分に兼ね備えている。カントーでの旅やアローラでの島巡りが彼女を強く育て上げたのだ。

 

「相性は圧倒的にこちらが有利だが……。油断するなよ!ガラガラ!」

『ガラ!』

 

こおり・フェアリータイプのシロンに対し、ほのお・ゴーストタイプのガラガラは相性がこの上なくよい。だが、例えどれだけ相性が良くても油断するのは素人のやることだ。カキはそれを理解しているからこそ、油断するなとガラガラと自分に言い聞かせる。

 

「それではカキのガラガラ対リーリエのシロン、バトルはじめ!」

 

審判を務めているククイの合図で2人のバトルが開始される。開始されると同時に動いたのはカキのガラガラであった。

 

「ガラガラ!ホネブーメラン!」

「躱してください!」

 

ガラガラは持っている骨をシロン目掛けて投げる。ガラガラの投げた骨は弧を描いて遠回りにシロンを狙う。しかしシロンはあくまでも冷静にジャンプすることで簡単に避ける。

 

だがガラガラは骨を投げた後も走ってシロンとの距離を縮めていく。ホネブーメランに気をとられている内に接近して自分の得意な距離にしようとするのが彼らの本当の狙いだ。

 

「シャドーボーン!」

 

戻ってきたホネブーメランをキャッチし、ガラガラは次の攻撃へと移る。次は骨に魂の宿った力を付与し、シロンに殴りかかる。その攻撃は素早さだけでなく、威力もかなりあるものだと言うのが伺えた。だが、それでもリーリエとシロンはうろたえることなく冷静に対処する。

 

「こおりのつぶてです!」

 

シロンは接近してきたガラガラにこおりのつぶてを至近距離で当てる。動き回られては当てにくい技でも、目の前まで接近してきた相手であれば確実に当てることが出来る。リーリエはカキの狙っていた作戦を逆手にとって逆に利用していたのだ。

 

至近距離のこおりのつぶては避けることが出来ずにガラガラを直撃する。だが至近距離という事もありガラガラにダメージは入ったものの、衝撃によりシロンも少し後ろに下がらされる。

 

「大丈夫か!?ガラガラ!」

『ガラガァラ!』

 

それでもガラガラは大丈夫だと言わんばかりに再び拳を突き上げカキに応える。カキもその姿には少し一安心した。

 

「リーリエすごい……」

 

スイレンの言葉にみんなも同意する。通常どれだけ冷静を装ったとしても相手の策略を利用するのは難しいものだ。だがそれをリーリエはいとも容易く行ってしまった。それは状況判断に長けているだけでなく、これまでそういった戦い方を続けてきた結果体に染みついたからだろう。

 

「リーリエはこれまで多くのライバルたちと戦って強くなってきたからね。リーリエの強さは折り紙つきだよ。」

 

シンジの評価に全員が納得する。こちらの世界のリーリエも自分では到底真似できないだろうなと感じさせられた。また、この世界のシロンも主人の指示に的確に動き期待に応えている姿に憧れを感じていた。

 

「今度はこちらから行きます!れいとうビームです!」

 

次はシロンから攻勢に出た。シロンのれいとうビームは強力で、鋭さも相まって躱すことが困難であった。避けれないと判断したガラガラは骨を使って受け止める。しかし、次第の押され始めてしまい遂には弾かれてガラガラは飛ばされてしまった。

 

「ガラガラ!?」

 

カキの声に反応し、ガラガラはダウンを拒否してなんとか持ちこたえる。まだまだこれからだとガラガラは自らを鼓舞し、骨を力強く握りしめた。

 

「その意気だ!フレアドライブ!」

「こおりのつぶてです!」

 

炎を纏い突っ込んでくるガラガラに、今度は真っ向から迎え撃とうとこおりのつぶてで対抗する。だがタイプ相性の差がもろに出てしまい、ガラガラは無数のこおりのつぶてを次々とフレアドライブで掻き消していった。最終的にはフレアドライブがシロンへと直撃する。

 

弱点であるほのおタイプの技を正面から受け流石にダメージを隠しきれないシロンだが、それでもリーリエの期待に応えるために倒れることなく踏みとどまった。

 

「今の一撃でもダメか……。やっぱあっちの世界のリーリエもかなりの強さだな。」

 

シンジだけでなく彼の傍に長くいたリーリエもまたかなりの強者だと改めて感じるカキ。そんなカキはリーリエに勝つにはあれしかないと、自身の持つ最大の技で対抗することにした。

 

「やるしかない!行くぞガラガラ!」

『ガラ!』

 

カキはそうガラガラに呼びかけ、手を目の前でクロスさせる。リーリエも間違いなく来る、とシロンと共に身構える。

 

「俺の全身、全霊、全力!全てのZよ、アーカラの山のごとく、熱き炎となって燃えよ!」

「出た!カキの全力のZ技!」

 

カキのセリフと共にガラガラを熱い炎を感じさせるオーラが包み込む。サトシの言った通り、これはカキの全力のZ技が放たれる前兆だ。

 

カキは右手を前に突き出し、左手で右手を支えるポーズをとる。そのポーズはほのおタイプのZ技を出すためのポーズだ。それと同時に、ガラガラの纏っていたオーラが解き放たれ、ガラガラが全力の一撃を撃ち放った。

 

 

 

 

 

――ダイナミックフルフレイム!

 

 

 

 

 

全力のZ技、ダイナミックフルフレイムが解放される。その強大な炎の弾丸は強力な一撃となりシロンへと近付いていく。

 

「シロン!れいとうビームです!」

 

回避が困難だと考えたリーリエとシロンはれいとうビームでZ技に対抗した。しかしそのれいとうビームはZ技に対して正面から対抗したわけではなく、地面に放つという驚くべき行動であった。カキを含めクラスメイト達も驚くが、その間にれいとうビームは氷の壁を作ってZ技を遮った。

 

その壁でZ技を完全に止めることは出来ず、Z技は氷の壁を簡単に破壊して更に接近してくる。だが、リーリエはまだ手を緩めることはなかった。

 

「ムーンフォースです!」

 

今度はムーンフォースで対抗するシロン。しかしその攻撃も地面へと放たれたものだった。そのムーンフォースは地面を抉り、砂を巻き上げて再びZ技の行く手を阻む。当然Z技を抑えることは出来ないが、それでもその攻撃で確実にZ技の勢いを多少は抑えることが出来た。また、それらの妨害でZ技の大きさが心なしか小さくなっているようにも感じる。

 

「今です!躱してください!」

 

シロンはその瞬間に高くジャンプして回避する。技範囲も狭まり、勢いも殺された技であればたとえ強力な技であっても回避するのは容易だ。リーリエの狙っていたのはこのタイミングであった。ガラガラも戦闘のダメージが抜けていなかったため、Z技の威力が通常よりも弱くなってしまったのも原因の一つだ。それがなければここまで上手くことを運ぶのは難しかっただろう。

 

当然この結果にはカキが一番驚いている。まさかこんな方法で自分の自慢のZ技が破られるとは思っていなかったためだ。

 

「れいとうビームです!」

 

ジャンプした高所かられいとうビームを放ち、その攻撃はガラガラを襲う。ガラガラはダメージが溜まっていることに加え、強力なZ技の反動で動けなくなってしまっている。そのため、シロンのれいとうビームに対抗することが出来ずに直撃してしまった。

 

流石のガラガラも効果の薄い技とは言え、これ以上耐え切ることが出来ずに戦闘不能となってしまった。

 

「そこまで!ガラガラ、戦闘不能!リーリエとシロンの勝ち!」

「ガラガラ!?」

 

カキはガラガラの身が心配となり、急いで走って近づく。頑張って戦ったガラガラにお疲れ様と言葉をかけ、モンスターボールへと戻した。

 

「カキさんのガラガラさん、凄く強かったです。正直危なかったです。」

「Z技で決まったと思ったんだけどな。だがどうしてZ技に直接攻撃を加えなかったんだ?」

 

カキの疑問も最もである。Z技に対して直接攻撃を加えれば、先ほどのように手間をかけることなく止めることが出来たのではないか。クラスメイトも同じ疑問を抱いている。その疑問にリーリエは迷いなく答えた。

 

「Z技だからですよ。」

「Z技だから?どういうことだ?」

「Z技は通常の技をとても凌駕する強力な技です。そんな強力な技に直接攻撃を加えれば、下手をすればその技を吸収されて力を高められてしまう可能性もあります。だからこそ、私は間接的な方法で対処させていただきました。」

 

カキはリーリエの説明に納得した。Z技の強大さは自分もよく知っているつもりだ。その力は時には自分の想像すらも超えてしまうものだ。だからこそ、リーリエの対応には感心しか覚えない。

 

あれだけ追い詰められた状況でも冷静な状況分析、臨機応変な対応、これだけの実力を見せられれば島巡りに成功したと聞いても疑う余地はない。

 

「完敗だ。今回はいい勉強になった。また俺とバトルしてくれ。今度は負けないからな。」

「私も同じです。もっともっと強くなって、いつか必ず……」

 

そこで言葉を止め、リーリエはシンジの方へと視線をずらした。島巡りを終えた今でも、必ず目標の人物に追いついて見せると決意を固めながら。

 

「よし!次は俺の番だ!バトルしようぜ!シンジ!」

「うん。僕も全力で迎え撃つよ!」

 

今のバトルで興奮がピークに達したサトシは、もう待ちきれないと言った様子でシンジに呼びかけた。シンジもサトシと気持ちは同じようで、全力で戦うと彼に誓う。

 

そしてサトシとシンジはフィールドで向かい合う。その時、サトシとシンジは最初に初めて戦った時の事を思い出した。

 

「あの時は俺が負けたけど、今度は絶対勝って見せる!」

「僕もそう簡単に負けるつもりはないよ。君に全力で挑んで勝つ!」

 

シンジはそう言い放って、モンスターボールを手に取る。そしてそれをフィールドに投げると、中からは彼の相棒であるポケモンが姿を現した。

 

「行くよ!ニンフィア!」

『フィーア!』

 

彼の相棒であり最高のパートナーであるニンフィアだ。サトシはやはりニンフィアで来たかと、自分も相棒で戦うべきだと相棒の名を口にした。

 

「ピカチュウ!君に決めた!」

『ピカ!ピカチュウ!』

 

サトシの呼び声に答え、ピカチュウは頬袋で電気をバチバチと鳴らして気合を入れながら前に出る。両者ともに気合充分だと感じたククイは、再びバトル開始の合図を出した。

 

「それでは、シンジのニンフィア対サトシのピカチュウ、バトルはじめ!」

「ピカチュウ!でんこうせっか!」

「ニンフィア!こっちもでんこうせっか!」

 

ククイの合図と同時にお互いが動く。ニンフィアとピカチュウはフィールドを駆け抜け、互いの距離が急速に縮まる。やがて中央でぶつかり合い、お互いに元の位置まで戻る。お互いに準備はバッチリだという意思を伝えあい、挨拶もかわしたところで今度はピカチュウから仕掛けた。

 

「ピカチュウ!10まんボルト!」

『ピッカ!』

 

ピカチュウはジャンプして飛び上がり、10まんボルトを放つ。

 

「ようせいのかぜ!」

『フィア!』

 

全力で放たれた10まんボルトは、ニンフィアはようせいのかぜを壁代わりにして簡単に阻む。ようせいのかぜと10まんボルトの衝撃で爆風が発生するが、サトシはこうなることを予測して次の行動へと移った。

 

「ピカチュウ!アイアンテールだ!」

 

ピカチュウは瞬時に尻尾を硬化させ、アイアンテールをニンフィアの頭上から先ほどの爆風を振り払って振り下ろしてきた。誰もがこれは決まると思ったが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「リボンを使って防いで!」

 

ニンフィアはなんと二つのリボンの触手を交差させ、ピカチュウのアイアンテールを防いだ。正確には防いだというよりもダメージを抑えたと言った方が正しい。技を受けた衝撃でニンフィアは後退させられるも、直撃を受けた時よりもはるかにダメージは少ない。

 

「サトシ、最初から全力だね。」

「ああ。だがシンジもさすがだ。ニンフィアの特徴を上手く活かしている。やっぱりとんでもなく強いぞ。」

 

マーマネとカキの言葉にこの場にいるみんなが頷く。それだけ最初から激しい戦いが繰り広げられている。互いの熱気が観戦している者たちにも伝わる程に。

 

「シンジさんは強いですよ。それに、シンジさんはあのカプ・コケコさんにも勝ちましたから。」

 

リーリエのその言葉にこの場にいる全ての者が絶句する。メレメレ島のカプ・コケコの強さはみんなが目の当たりにしている。そのうえ、その絶大な強さも知っているつもりだ。

 

実際、サトシもカプ・コケコと2回程対戦したことがあるが、そのどちらも負けている。2戦目はZ技を使ってカプ・コケコに一矢報いることができたものの、それでもカプ・コケコには力が及ばなかった。パワー、スピードに加え耐久力まで兼ね備えたカプ・コケコに勝つのは至難の業だ。

 

それを乗り越えたシンジの強さは想像を絶する。だが、そのカプ・コケコと戦って苦戦を強いられたことくらいは想像に難くない。だからこそ、全員が言葉を失ってしまったのだ。

 

「私もその場に居合わせましたが、当時の素人である私から見ても凄い戦いでした。」

 

そんなシンジの戦いを間近で見てきたからこそ、自分は彼を目標として頑張ってこれたのだとリーリエは語る。この世界のリーリエも、そんな高い目標を掲げる彼女を心から凄いのだと称賛する。

 

みんながリーリエの話を聞いている間もバトルは続いている。シンジの強さは桁外れだが、それでもサトシも以前に比べ強くなっているのも確かである。現在も以前の敗北の時とは違い、シンジのニンフィアに食らいつけているのが確認できた。

 

「ピカチュウ!でんこうせっか!」

「躱してムーンフォース!」

 

ピカチュウの素早いでんこうせっかをニンフィアはジャンプして躱す。そしてそのままムーンフォースの態勢に入り、ピカチュウの背中から攻める。それでもピカチュウは反撃の態勢に入ったのだった。

 

「後ろからくるぞ!エレキボールで迎え撃て!」

『ピカ!』

 

後ろから接近してくるムーンフォースに対し、ピカチュウは一回転して尻尾から放たれる電気の塊、エレキボールで反撃をする。強力なムーンフォースを、また強力なエレキボールで相殺することに成功した。やはりサトシはあの時よりも確実に強くなっていると、シンジも心から実感することができた。

 

「もう一度エレキボール!」

 

先ほど放ったエレキボールの反動を利用し、今度は逆回転で再びエレキボールを放つ追撃を行う。先ほどのエレキボールよりも明らかに勢いがあるが、それでもシンジとニンフィアには焦りと呼ばれる感情が全く見えなかった。

 

「でんこうせっか!」

 

華麗に着地したニンフィアは、でんこうせっかでエレキボールを容易く回避して接近する。ピカチュウとサトシもこれには驚きを隠せず、回避行動にとる前に腹部にでんこうせっかを受けてしまう。

 

ピカチュウは今のダメージが効いたのか、一瞬膝を折りそうになるもののなんとか耐える。このままでは絶対に勝ち目がないと感じたサトシは、一度感じた違和感を再び感じて自分のZリングを見つめた。

 

「!?これって!?」

 

かつてカプ・コケコを含むアローラの守り神たちから貰った黒いZリング。そこには普段付けているはずのでんきZが無く、見慣れない形のZクリスタルがはまっていた。そのZクリスタルは通常のZクリスタルであるひし形とは異なり、まるでピカチュウの尻尾を模したかのような不思議な形をしていた。

 

見慣れないZクリスタルではあるが、サトシはこのZクリスタルがどんな技なのか、どれだけ強力な技なのかを知っている。かつて、ルザミーネを助ける際に暴走していたウツロイドを倒したことがある。だからこそ、これならば行けるかもしれないとピカチュウに大きな声で呼びかける。

 

「ピカチュウ!」

『ピカピ?』

「俺たちの全力……シンジたちに見せてやろうぜ!」

『ピカチュ!』

 

ピカチュウはサトシの言葉に強く頷き、サトシの元へと駆け寄る。そして近寄ってきたピカチュウにサトシは自分の帽子を被せて拳を突き合わす。その後、互いにハイタッチをして同じポーズをとりピカチュウはオーラを纏う。

 

その二人の姿からは固く結ばれた絆が感じられる。これは少しまずいかもしれないとシンジたちは身構えた。

 

「10まんボルトよりでっかい100まんボルト!いや、もっともっとでっかい俺たちの超全力!行くぞピカチュウ!」

『ピカチュウ!』

 

 

 

 

 

――1000まんボルト!

 

 

 

 

 

ピカチュウは高く飛び上がり、10まんボルトを越えた全力のZ技を放つ。そのZ技は黄色の電撃ではなく、カラフルな電気がまるで虹のように見え、相手を追い込むようにニンフィアへと迫る。そのあまりにも絶大な技の威力とスピードに、ニンフィアは成すすべもなく直撃を受けてしまう。その衝撃は、観客席の方へと響き渡る程のものであった。

 

これは流石にまずいかもと感じてしまったリーリエが心配になり思わず立ち上がる。目の前でシンジが負ける姿を想像することができないため、心の中では誰にも負けてほしくないと思っているからだ。

 

とてつもない威力のZ技、1000まんボルトが直撃し、全員が勝負がついたと確信していた。サトシも「やったぜ!」、と肩に乗ったピカチュウと共に再び拳を突き合わせる。

 

しかし、衝撃から発生した土煙が晴れたところに映った光景は、想像を覆すものであった。

 

『ふ、フィーア!』

「!?そ、そんな!?」

 

そこにはボロボロになりながらも勇ましく立っているニンフィアの姿があった。カキやククイ、リーリエも含む全ての者がまさかの光景に言葉を失う。だが、シンジの表情にはまだ諦めと呼べるものが一切なかった。

 

「ニンフィア!まだまだ行けるよね!」

『フィア!』

 

ニンフィアはシンジの言葉にそう答え、ピカチュウを見据える。どうやらまだ戦う意思を潰えていないようだ。あれだけ強力なZ技、それも直撃したにもかかわらず立っていられるニンフィアに驚きつつも、ピカチュウはサトシに帽子を返して再び戦闘態勢をとる。

 

恐らくニンフィアが耐えられた理由は、シンジの期待に応えようとする心、二人の絆の力であろう。精神の力は時に、肉体を凌駕する力を発揮することもある。昔から培われた二人の絆が、不可能と思われたことを可能にしたのだろう。

 

「ニンフィア!でんこうせっか!」

「ピカチュウ!こっちもでんこうせっかだ!」

 

ニンフィアとピカチュウは開幕と同じようにでんこうせっかでぶつかり合おうとする。しかし、互いの攻撃が交じり合おうとした瞬間、第三者の手によって妨害されてしまう。

 

『ピカ!?』

『フィア!?』

「なっ!?ピカチュウ!」

「ニンフィア!いったいなにが!?」

 

ニンフィアとピカチュウが大きなマジックハンドによって捕らわれてしまった。そのマジックハンドはみるみると縮んでいき、そのいく先には2人組が巨大なメカの両肩に乗って腕を組みポーズをとっていた。

 

その一人が口を開き、彼らは次々とセリフを発していく。

 

「『いったいなにが!?』と言われたら」

「聞かせてあげよう我らが名」

「花顔柳腰 羞月閉花 儚きこの世に咲く一輪の悪の花……ムサシ!」

「飛龍乗雲 英姿颯爽 切なきこの世に一矢報いる悪の使途……コジロウ!」

「一蓮托生 連帯責任 親しき仲にも小判かがやく悪の星……ニャースでニャース!」

「ロケット団!参上!」

「なのニャ!」

「ソーナンス!」

 

「ロケット団!またお前たちか!」

 

そこにいたのはピカチュウを付け狙うロケット団たちの姿であった。ロケット団は巨大なニャース型のメカの肩に乗ったまま、自分たちの目的を話し始める。

 

「作戦大成功。」

「お前たちが戦い傷付き疲れたところを狙う作戦だったが、こうも上手くいくとは思わなかったぜ!」

 

ムサシとコジロウは2人が戦うことを読んでいたらしく、この絶好なタイミングを見計らってピカチュウたちを捕まえたというわけだ。ピカチュウとニンフィアも抜け出そうともがくが、ガッチリと掴まれてしまっては抜け出す事も出来ない。

 

そのまま二人は抵抗も意味をなさず、ニャース型のメカの中央にある丸い穴の中に放り込まれて閉じ込められる。彼らを助け出そうと、他のメンバーたちも協力して戦う為にポケモンたちに指示を出した。

 

ピカチュウとニンフィアはメカの内部から逃げ出そうとするが、先ほどの戦闘で疲労してしまった2人は上手く力を出すことができずに脱出することができなかった。

 

「ピカチュウたちを離しなさい!アママイコ!マジカルリーフ!」

「アシマリ!バブルこうせん!」

「シロン!こなゆきです!」

「バクガメス!かえんほうしゃ!」

「デンジムシ!ほうでん!」

「モクローこのは!ニャビーはひのこ!ルガルガンはいわおとしだ!」

 

サトシとそのクラスメイト達が一斉に攻撃を仕掛ける。しかし……

 

「ニャース!あれ、よろしく!」

「ほいニャ!」

 

メカを操縦しているニャースが目の前にあるスイッチを押すと、電磁ネットが作動してそれが六角形の形となり電磁バリアとしてポケモンたちの攻撃を阻んだ。全ての攻撃があっさりと防がれてしまい戸惑う一行。

 

「シロン!私達も行きますよ!」

『コォン!』

 

それならばとシロンとリーリエが前に出る。その時を待っていたといわんばかりに、ロケット団たちは口角を上げてにやりと微笑む。

 

「シロン!れいとうビームです!」

「おっとそうは行かないぜ?ニャース!」

「任せるのニャ!」

 

今度はニャースは目の前のレバーを手前に引く。するとマジックハンドがシロンのれいとうビームを阻害し、シロンの体を掴み取った。

 

『コォン!?』

「シロン!?」

 

リーリエは連れていかれるシロンに手を伸ばすが、残念ながらその手は届かずにシロンもニンフィアたちと同じ運命にあってしまう。

 

「わーはっはっは~!」

「驚くほどに上手くいったな!ニャース!長居は無用だ!」

「了解ニャ!撤収!」

『と言う訳で帰る!』

 

ロケット団はそう言ってメカの底が噴出して飛び上がる。サトシが待てと制止して追いかけようとするが、ロケット団は最後のダメ押しをしてきた。

 

「ほぅら!おみやげよ!」

 

ムサシが投げたのは正方形の小さな機械であった。サトシの目の前に落としたその機械は、暫くすると爆発して中から黒い煙幕がばら撒かれた。

 

そしてその後、煙幕が晴れた時にはその場にロケット団の姿は見当たらなかった。サトシたちの視界を奪っている内に逃げてしまったようだ。

 

「くっ、逃げられた!」

「急いで追いかけよう!」

「うん、まだ遠くには行っていないはず!」

 

サトシが悔しそうに呟く中、カキとスイレンが追いかけようと走り出そうとする。しかし、そんな彼らを意外な人物が制止したのだった。

 

「待って!」

「シンジ?どうした?早くしないと!」

 

カキがなぜ止めるのか疑問に思う中、シンジは目を瞑って何かを感じ取るかのように精神を集中させる。何をしているのかとみんなが聞きたくなるが、声をかけてはいけない気がしてシンジを見守る。

 

(ニンフィア……君は今どこにいる?答えて……)

 

シンジが精神を集中させて耳を傾ける。すると彼にだけ、ニンフィアの声が聞こえてきた。もしかするとあくまで聞こえた気がしただけかもしれないが、シンジにはそれがニンフィアの声だという確信があった。

 

「!?ニンフィアの声が聞こえた!」

「え?僕には何も聞こえないけど……」

 

マーマネは聞こえないというが、シンジはそれでも聞こえたと断言する。2人のリーリエとサトシだけはシンジの言葉に納得していた。

 

「わたくし、本で読んだことがあります。心の繋がったポケモンとトレーナーは、離れていても心が離れることはないと。恐らく、シンジとニンフィアの絆が二人を繋げているのでしょう。」

 

リーリエの言葉にみんなも納得する。確かにそう言ったことは例外はないわけではない。この世界でも一部のトレーナーやポケモンたちはそのような現象を経験した人たちもいる。サトシも旅を続けてきてそんな経験があるため、シンジの言葉を信じることにした。

 

「なら俺は校長にこのことを伝えてくる。みんなも充分に注意してくれ!」

『はい!』

「よし、行こう!僕についてきて!」

 

そしてシンジたちはニンフィア、ピカチュウ、シロンを助けるためにロケット団の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、ここまで上手くいくとわね~!」

「頑張って作った甲斐があるってもんだぜ!」

「これでニャーたちの出世も間違いなしニャ!」

『ソーナンス!』

 

ロケット団は逃げた先の森の中で一時の休息をしていた。だが檻に捕らえられているポケモンたちはご立腹な様子だ。特にピカチュウはアイアンテールで今も檻を破壊しようと抵抗している。

 

『ピカッ!ピカッ!』

「無駄ニャ無駄ニャ!今のおみゃーさんたちの力じゃその檻は壊せるわけないニャ!」

 

ロケット団はそんなピカチュウを嘲笑うかのように高笑いをする。ピカチュウはそんなロケット団に悔しい思いを抱き苦い顔をする。

 

だが、そんなピカチュウを落ち着かせるためにニンフィアは彼の肩にリボンで触れて優しく言葉を掛ける。

 

『フィア。フフフィーア。』

『ピカチュ?』

『コォン。』

 

ニンフィアはピカチュウに「シンジたちが必ず助けに来てくれるから大丈夫」だという。ピカチュウもその言葉を聞いて先ほどまでの焦りは少しとれる。シロンもニンフィアの言葉に同意し、シンジとリーリエ達が来てくれるのを待つことにした。

 

その時、高笑いを繰り返すロケット団の背後から、ニンフィアたちの見知った声が響いたのだった。

 

「見つけたぞ!ロケット団!」

「ニンフィアたちは返してもらうよ!」

「ゲッ!?ジャリボーイ!?」

「お前ら来るの早すぎだぞ!」

 

彼は紛れもなくシンジとサトシたちであった。ロケット団はあまりにも早く発見されたことに焦るが、こうなっては仕方がないとポケモンたちを繰り出して対抗した。

 

「ミミッキュ!行きなさい!」

『カカッ』

「ヒドイデ!お前もだ!」

『ドイデー!』

 

ムサシはミミッキュを、コジロウはヒドイデを繰り出した。しかしヒドイデは(いつも通り)コジロウの頭部に張りついた。コジロウも抵抗はするが、暫くすると力が抜けたように地面に座りヒドイデが頭部から離れる。コジロウの頭部はヒドイデのようにひどい有様であったが、暫くすると元に戻った。

 

「……ミミッキュ!シャドーボール!」

 

一瞬捕らわれているピカチュウを狙うが、ピカチュウを狙いたい衝動をグッと抑えてミミッキュはサトシたちに攻撃する。

 

「サンダース!10まんボルト!」

『ダース!』

 

シンジはサンダースを繰り出すのと同時に指示を出す。サンダースは10まんボルトでミミッキュのシャドーボールを相殺し、サトシたちへの被害をゼロにした。サトシもシンジとサンダースに感謝しながら、自分もポケモンを出す。

 

「行け!ルガルガン!」

『バウ!』

 

サトシが出したのは黄昏の姿をしたルガルガンだ。エメラルドグリーンに光るその瞳は、ロケット団たちを捉え睨みつけていた。

 

「ここは俺たちに任せてくれ!」

「リーリエはみんなのことをお願い!」

「分かりました!」

 

シンジの言葉にリーリエも頷いて答える。他のみんなも、ここは二人に任せようと一歩下がった。

 

「調子に乗るんじゃないわよ!ミミッキュ!シャドークロー!」

「ヒドイデ!とげキャノン!」

「ルガルガン!アクセルロック!」

「サンダース!ミサイルばり!」

 

ルガルガンはアクセルロックでミミッキュのシャドークローを弾いて防ぎ、サンダースはミサイルばりでヒドイデのとげキャノンに対抗する。サンダースのミサイルばりの方が威力が高いようで、とげキャノンを貫通してヒドイデにダメージを与える。

 

『ドイデ!?』

「なっ!?ヒドイデ!」

 

倒れてしまったヒドイデにコジロウが呼びかけると、ヒドイデも反応して起き上がる。思い通りにはさせないと、ムサシとコジロウは畳みかける。

 

「ミミッキュ!連続でシャドーボール!」

「ヒドイデ!ヘドロばくだん!」

 

ミミッキュはシャドーボールを無数に放ち、ヒドイデはヘドロばくだんで絶え間ない攻撃を続ける。サトシとシンジは互いに目線だけをチラリと合わせて、先にサトシが攻撃を仕掛けた。

 

「ルガルガン!いわおとし!」

 

いわおとしでヒドイデのヘドロばくだんを防いだ。そしてその衝撃をかいくぐり、ミミッキュのシャドーボールが接近してくる。その攻撃にはシンジのサンダースが対応した。

 

「シャドーボールで撃ち落して!」

 

サンダースはミミッキュと同じくシャドーボールを無数に発射し、問題なく撃ち落し。だが、一発だけミミッキュの放ったシャドーボールが流れ弾としてリーリエ達に接近する。リーリエは危ないと悟り、モンスターボールからポケモンを繰り出した。

 

「フシギバナさん!はっぱカッターです!」

『バナァ!』

 

リーリエが繰り出したのはフシギバナで、はっぱカッターを壁にしてシャドーボールを防いだ。

 

「ありがとう!リーリエ!フシギバナ!」

「皆さんが無事でなによりです!」

 

みんなの無事を確認したシンジも安心し、続けてサンダースに指示を出した。

 

「サンダース!ワイルドボルト!」

 

サンダースは電気を纏い、ワイルドボルトで素早く駆ける。だがその攻撃対処はミミッキュでもヒドイデでもなかった。その先にあるのはニンフィアたちを捕えている檻で、ロケット団たちが気をとられている隙に壊そうというのだ。

 

ロケット団たちもその攻撃を阻もうとするが、そのサンダースの驚異的なスピードについていけずに檻は無残にも破壊された。

 

『ピカ!ピカチュウ!』

『フフィーア!』

『コォン!』

 

ピカチュウ、ニンフィア、シロンの三匹は檻を抜け出し、自分のパートナーの元へと走っていく。シンジたちはそんなポケモンたちを抱いてそれぞれ無事を確かめた。

 

「こ、これってマズイ予感?」

「なんだか……」

「とっても……」

『そ、ソーナンス……』

 

ロケット団一同が全員一致して危険を察知する。だがそんな暇も与えないと、シンジ、リーリエ、サトシは同時に前に出る。

 

「行くよ!ニンフィア!ムーンフォース!」

「シロン!れいとうビームです!」

「ピカチュウ!10まんボルト!」

 

三体のポケモンが同時に攻撃を放つ。それらは交差して交じり合い、更に強力な技へと変貌してロケット団たちを襲った。ロケット団の顔は絶望の色に染まりながら、抵抗できずにその攻撃を受けてしまい空高く舞い上がる。

 

「あー!また失敗するなんてー!」

「次はこうは行かないぞー!」

「覚えてろニャー!」

「やなかん」

 

そこで言葉を遮るかの如く、あるポケモンの影が彼らを覆った。

 

『キイイイイイイィィィィィィィィ!』

 

その正体はキテルグマであった。木をバネにして勢いよく飛んできたキテルグマは、ロケット団たちを抱えて森の中へと姿を消していく。

 

『なにこのかんじー……』

 

ロケット団たちはどこか残念そうにキテルグマに連れ去られていったのだった。シンジたちもその様子には唖然と見送るしかなかった。

 

「……まあとにかくニンフィアたちが無事でよかったよ。」

『フィア!』

 

改めてニンフィアが無事だと確認したシンジは、安心してニンフィアの頭を撫でる。ピカチュウとシロンも、自分のトレーナーの頬に自分の頬をこすり合わせて互いに無事を確認した。

 

「シンジ!」

「?」

 

肩に乗ったピカチュウを支えながら、サトシは言葉を続けた。

 

「今回は決着つかなかったけど、次に会う時は俺が絶対に勝つぜ!」

「……ふふ、僕も絶対に負けないからね。そうは行かないよ!」

 

サトシとシンジは互いに微笑みながら握手を交わす。いつかこの強いトレーナーに追いついて見せると決意を新たにしながら、サトシは更に強くなると心に誓う。

 

サトシたちとシンジ、リーリエは再び再会しようと約束をし、今回はこれで別れることにした。リーリエも、再びこの世界に来るまでには今よりも腕を上げていようと決意し、元の世界へと戻っていったのだった。。




ちょっとバトル展開強引だったかなと反省。まあでもサトシのピカチュウも「電気を足場に使って登れ!」とか荒業使ってたからいい気はします。

結局決着つかずでしたが、何度もサトシが負けるのはなんか変というか納得できなかったのでこんな展開にしました。それにこうするしかロケット団を出すタイミングが無かったです。話を伸ばす展開で考えるとロケット団はすごい便利。

今回一番感じたのは、キャラが多いとセリフ回しが凄く難しくなることですね。話は広げられるけど誰がいるのかとか誰にしゃべらせるかとか悩むことが多かったです。何だかマオとカキがしゃべらせやすかったので少し多めかも。逆にスイレンが結構難しいです。

ハロウィン仕様のニンフィアが可愛い(なでなで

ではまた次回お会いしましょう!ではではノシ

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