ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
今回はアニポケとのコラボをしてみました。時系列はだいぶ前ですが……。先週のアニポケでは遂にリーリエがポケモンに触れるようになって感動しました。後グラジオがポケモンと妹思いでいい子過ぎる。グラジオBGMアレンジが神すぎて泣いた。
原作でもアニメでも大体ウツロイドの所為
USUM発売直前記念特別編 ~僕~
この話はシンジがチャンピオンとなり、リーリエと再会する前の不思議な不思議な出来事を綴った記録である。
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リーリエがカントーに旅立ってから数か月が過ぎた。あれから僕は今もチャンピオンとして防衛を続けている。
「ニンフィア!ムーンフォース!」
「なっ!?ケンタロス!?」
チャレンジャーとして今日挑戦してきたタロウ君のケンタロスが目を回して戦闘不能になる。タロウ君はすぐにケンタロスに声をかけ、ボールに戻す。僕はそんな彼に声をかけるために前に出る。
「君のポケモンたち、よく育てられているね。特にケンタロスは力強くていい動きしてたよ。」
「ありがとうございます。でもやっぱりチャンピオンはレベルが違いますね。また、挑戦させていただいてもいいですか?」
「うん。君がまた挑戦してくるのを楽しみにしてるよ。」
タロウ君は頭を下げてチャンピオンの間を後にする。他にも挑戦者として挑んでくる人は数多くいる。僕としても強いチャレンジャーたちとバトルできるのは楽しいけど、やっぱり毎日のようにやってくる挑戦者の相手をするのは少し疲れるかな。
僕がチャンピオンの間にある椅子に座って一休みしていると、四天王のハラさんが僕の元へとやってきた。
「チャンピオン、少しよろしいですかな?」
「ハラさん、今は二人きりなんですからいつもの呼び方で呼んでくださいよ。なんだかその呼び方まだ慣れないので……。」
僕は苦笑いしながらハラさんにそう言う。ハラさんも僕に釣られて笑いながら「それはすみませんでしたな!」と言う。四天王とチャンピオンと言う関係になっても、みんなは僕といつものように関わってくれていて、僕としても凄く助かっている。
「実はシンジ君に少しお願いしたいことがありましてな。」
「お願い……ですか?」
ハラさんはそのお願いを少し深刻そうな表情で伝える。
「先ほどククイ博士から連絡がありましてな。君が以前ウルトラビーストの事件の時に行った日輪の祭壇を覚えていますかな?」
「はい、もちろんです。」
あの時の事は忘れるはずがない。リーリエと共にほしぐもちゃんとルザミーネを助けるために行った場所なんだから。
「そこで何やら強い磁場のようなものが発生しているようでしてな。それをチャンピオンである君に少し調査していただきたいと依頼されたのです。」
「調査ですか?別に構いませんがなぜ僕なのでしょうか?」
「君は以前アローラ地方を救ったという経歴がある。それに私やククイ博士を含め、多くの人が君に信頼を寄せている。危険かもしれないが、どうか頼まれてほしいのです。」
ハラさんは頭を下げて僕に心から頼み込んでくる。そこまで言われたら仕方ないね。元々僕は断るつもりはなかったけれど、最近は平和そのものだったし偶にはこういうのも悪くないかもしれないね。
「分かりました。ですからどうか頭を上げてください。必ず無事に帰ってきますから。」
「シンジ君。ありがとう。君にそう言ってもらえて私もホッとしました。準備ができしだいククイ博士も向かうそうですので、先に行ってて下さいと言っておりましたぞ。」
「分かりました。それでは先に向かってますね。」
僕はハラさんに別れを告げ先にポニ島にある日輪の祭壇に向かう。
ライドポケモンであるリザードンを借りているので直ぐに向かうことが出来た。僕は懐かしの日輪の祭壇へと無事に辿り着くことが出来た。
「ありがとうリザードン。またよろしくね。」
僕がリザードンを撫でるとリザードンは嬉しそうにして再び飛び立つ。そして僕は祭壇の階段を上り始める。頂上に辿り着いた僕は、以前きたときと違う違和感を感じた。
「……なんだろう、この違和感」
僕は空を見上げると空は一面の星空で輝いていて、綺麗な運河が流れていた。今は夜であり、こんなにきれいな星空を高いところが見上げると神秘的な感じがする。
「ん?あれって……」
僕が空を見上げていると、月がいつも以上に輝いている気がした。その月にこそ違和感を感じる。そしてその月から何かが近づいてくるような気がした。少しずつ大きくなってくるそれがハッキリとしてきた瞬間、僕はその正体に気付いた。
見た目は星空をイメージしたように輝く大きな翼に、一度見たことがあるような宇宙を思わせる額。この見惚れる程神秘的な姿をしたポケモンは見間違えるわけがない。そうだ……このポケモンは……
「……ほしぐもちゃん」
彼は正真正銘のほしぐもちゃんだろう。あの時はソルガレオとなって僕とリーリエの前に姿を現した。しかし今度はあの時と全く違う姿をしている。そんなことを考えていると、頭の中に直接声が聞こえてくる。ほしぐもちゃんがテレパシーで話しかけてきているのだ。どうやらこの姿はルナアーラと呼ばれているようだ。ほしぐもちゃんは昼間にはソルガレオ、夜間にはルナアーラと姿を変えるらしい。現在は夜の時間帯であるためルナアーラとして僕の目の前に姿を現したのだろう。
「でもどうしたの突然?」
僕はほしぐもちゃんになぜ僕の前に姿を現したのかを尋ねる。すると脳内に謎の映像が流れくる感覚がする。どうやらほしぐもちゃんが僕に直接見せているようだ。
――『ピカチュウ!10まんボルト!』
僕の脳内に一人の少年とピカチュウが映りだされる。ピカチュウが放った10まんボルトはかなりの威力で、ピカチュウがどれだけ大事に育てられているかがよく分かる。
――『行くぞ!これが俺たちの全力だ!スパーキングギガボルト!』
少年が電気タイプのZ技のポーズを決め、ピカチュウも全力のZ技を放つ。彼もZ技を使いこなすということはかなりの腕を持つトレーナーということだろうか。
僕はハッとなり現実に戻る。目の前には変わらずにほしぐもちゃんが僕の眼を見ている。ほしぐもちゃんがなぜ僕にこの映像を見せたのか尋ねようとすると、ほしぐもちゃんの後ろに歪んだ空間が現れる。あの空間には見覚えがある。あれはウルトラビーストの住む世界、ウルトラスペースへと通じた時に通った空間だ。
「……ほしぐもちゃん。もしかして僕にあの空間へ入ってって言ってるの?」
ほしぐもちゃんは僕の声に頷き僕の元へと寄ってくる。ほしぐもちゃんは以前してきたように僕に頭を擦り付けてくる。見た目は全く違っても、そう言ったところは何も変わらないんだね。なんだかあの時の事を思い出すように少し安心したよ。
「分かった。君を信じるよ。じゃあちょっと行ってみるね。」
僕はほしぐもちゃんに手を振って歪んだ空間へと入ってみる。
ウルトラスペースへの入り口に入る時と感覚自体は変わらないけど、不思議と恐怖や緊張は感じなかった。寧ろ、なんだか楽しい経験が出来る、そんな確信が僕の中に感じ取れた。そしてその空間を通り抜けると、そこはメレメレ島のトレーナーズスクールによく似た場所だった。いや、厳密には雰囲気がよく似た、と言った方がいい。建物自体は全く違う。僕はその校門と思われる場所の前に突っ立っていた。
「……ウルトラスペースじゃない?」
感覚自体はあの時と同じだったため、僕はてっきりウルトラスペースへと出るのかと思ったが、まさかメレメレ島に出るとは思いもよらなかった。だが一つおかしなことがある。それは……。
「すごく明るい。」
そう、僕があの空間を通る前は夜中だったのに対し、今はすごく明るい。どうやら朝日が昇ったところのようだ。そこに色々な人が集まってくる。もうすぐ授業が始まるところだろうか。初めはここが昼夜逆転の世界である可能性も考えたが、この賑わいを見ると恐らくその仮説は間違っているだろう。
「わあ!遅刻遅刻!」
一人の少年が走ってこっちに向かってくる。僕は咄嗟の事で避けることが出来ずにその子とぶつかってしまう互いに頭を抑えて倒れてしまう。
「いたたた。ご、ごめん!ちょっと急いでて前見てなかった!」
「い、いや、こちらこそボーとしてて……ってあれ?」
僕はその少年を見て少し驚いた。その少年はほしぐもちゃんに見せてもらった映像に映っていた少年だったからだ。同じくあの時に映っていたピカチュウも少年の肩から降りて心配そうに声をかける。少年もピカチュウの頭を撫でて落ち着かせると、ピカチュウも嬉しそうな顔をして身を委ねている。それだけでこの二人からは信頼関係がどれだけすごいかがよく伝わってくる。
そこにチャイムが鳴り響く。恐らく授業開始の合図なのだろう。
「あっ!やばい!遅刻する!じゃ、じゃあな!お前も急げよ!行くぞピカチュウ!」
少年はそう言ってスクールに向かって走っていく。ピカチュウも後を追いかけるように付いて行く。と言うか僕も生徒と間違われてたのかな?とは言え今はこの状況がよく理解できない。先ずは状況を確認してみよう。そう思い僕は近くにあったベンチに腰を掛けて考える。
ここがメレメレ島ということは僕が暮らしている島。そこで僕がチャンピオンなったというのは祭りを行ったため島中に知られているはず。それなのに今の少年は僕がチャンピオンだと知らなかった。それどころかここの生徒だと勘違いしていた。それに僕はトレーナーズスクールに特別講師として招かれたことがある。でもその時にさっきの少年を見た覚えはない。スクール全部を見て回ったため見逃している生徒はいないはずだ。
「ん?あれってさっきの?」
「どうしたの?サトシ?」
「いや、あそこに座っている人、さっき俺とぶつかった人なんだ。」
と言うことはここは僕の知っている世界とは全くの別世界ということか?でもそんなことがあり得るのか?いや、しかしそうでも思わないと説明がつかない。もしくは過去の世界である可能性もあるか。例えば僕がアローラに来る前の世界であるなら僕の事を知らなくても無理はない。
「おーい!聞こえてるー?」
「ねえサトシ、この人考え事してるみたいだし止めた方がいいんじゃない?」
とにかくこの世界の事を少し調べないと話にならないよね。ハラさんにも祭壇の調査をすると約束したし、ほしぐもちゃんに誘われた世界だとしたらそこにはきっと意味があるだろう。僕には僕の成すべきことをしないと。
「二人とも、どうかしましたか?」
「!?」
僕が考え事をしていると僕のよく知った声が耳に入ってきた。その声に釣られて正面を見ると先ほどの少年とマオ、そしてなんと初めて会った時と同じ姿のリーリエが立っていた。
「り、リーリエ!?」
「え?なんでわたくしの名前を?」
リーリエが首をかしげる。僕はリーリエのその反応を見て確信した。ここは僕の知っている世界ではない。目の前にいるマオもリーリエも違う世界の二人だ。そしてこの反応を見る限りでは僕はこの世界に存在しないのだろう。でも違うリーリエだと分かっても、彼女に忘れられているような気がして少し悲しかった。
「あ、えっとごめん。ちょっと色々あって気が動転してたみたい。」
「そ、そうですか。」
リーリエに警戒されちゃったかな。それはそうだ。突然初対面の人に自分の名前を呼ばれたら誰でも驚くし警戒もする。
そしてさらに奥からは別の見知った顔の人たちが続々と集まってくる。
「サトシ、遅いぞ。みんな待ってるんだからな。」
「そうだよサトシ!早く授業に行こう!」
「早くいこ!博士も待ってる!」
「ああ悪い悪い!すぐに行くよ!」
集まってきたのはカキ、マーマネ、スイレンだった。そしてピカチュウを連れた少年はサトシと言う名前なのだろう。このメンバーがクラスメイトなのだと考えるとなんだか楽しそうな組み合わせだと考える。最も僕の世界の人たちと同じ性格ではないと思うが。さきほどのリーリエの一人称が“わたくし”であったためその可能性が高い。
と言うかスイレンが博士って言ったけど、もしかしてこっちのククイ博士は先生もやってるのかな?それはそれでなんだか新鮮で面白いね。
「そうだ、もしよかったらお前も一緒に来るか?」
「え?僕?」
「ああ!なんだか分かんないけど、すっごく悩んでたみたいだったし、悩んでたってなにも始まらないしな!」
サトシは鼻の下をかきながら僕を誘ってくる。この世界の事をよく知らない僕にとっては都合がよかった。みんなを騙す形なのは少し心苦しいが、言っても信じてもらえないと思うので今は黙っておく。いずれは話せればいいなとも思ってはいるが、今は大人しく彼らについて行くのが無難だね。
「うん。じゃあ僕も行ってもいいかな?」
「勿論だぜ!な?みんな!」
皆はサトシの言葉に異論がないようで賛成してくれている。こうなった以上、僕も自己紹介をしようとベンチを立つ。……そろそろリーリエの警戒を解いておかないとなんだか再起不能になりそうな気がするし。
「僕の名前はシンジ。よろしくね。」
「俺はマサラタウンのサトシ!そしてこっちが相棒のピカチュウ!」
『ピッピカチュウ!』
「私はマオ!そしてこの子がアママイコだよ!」
『アーマイ!』
「炎タイプ専門のカキだ。」
「私はスイレン。そしてこっちがパートナーのアシマリ!」
『アウアウ!』
「僕はマーマネ!そしてこっちがトゲデマルだよ!」
『マキュキュ!』
「わ、わたくしはリーリエと申します。この子はシロンです。」
『コォン!』
僕に続きみんなが自己紹介を終える。それにしてもこの世界のリーリエはアローラのロコンがパートナーなんだ。僕の世界のリーリエにもロコンのタマゴを渡したからなんだか不思議な気分だね。
「おーい!みんな!」
少し遠いところから手を振りながら走ってくる人がいる。あの服装は間違いなくククイ博士だ。みんなもそうだけどこの世界でも容姿や服装だけは僕の世界と変わらないんだね。
「全く、みんなして授業に遅れるとはどういう……ん?その子は?」
「あっ、僕はシンジです。ちょっと訳があってみんなと話していました。みんなを止めてしまって申し訳ありません。」
「そ、そんな!シンジは悪くないよ!」
博士に頭を下げて謝る僕に、マオが僕のせいではないと強く発言してくれる。この世界のみんなも優しいみたいで僕は少しホッとした。
「(見た感じみんなと年が離れているように感じないのにできた子だな)いや、そういうことなら別に構わないが、シンジはこの学校の転入生か?」
「いえ、少し道に迷ってしまって気がついたらここにいました。先ほどサトシ君に授業に参加してみないかと誘われたので参加しようとしていたところです。もしご迷惑でなければ少し見学させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、俺は構わないぜ。それとそこまでかしこまらなくてもいいぞ?なんだかよく分からないけど、敬語使って話すの疲れるだろ?」
「……分かりました。博士がそう言うのであればそうさせてもらいます。」
僕はククイ博士にそう言われ少しいつものような口調に戻す。周りのみんなもさっきの僕の喋り方に驚いているようだ。流石に僕も見知った顔であるとは言え、実質初対面である相手にあまり悪い印象を持たれたくない。だがククイ博士がそう言ってくれたので僕は少し楽に話したいと思う。正直敬語はあまりなれないため変な言葉遣いになってしまいそうで不安だ。
「じゃあ早速行くか。シンジも俺についてこい。」
僕たちは博士について行くことにした。そして博士について行って辿り着いたのが校庭のトラックだった。ケンタロスが配備されているところを見ると、今からやる授業はアレしかないだろう。
「今からケンタロスレースの授業をするぞ。あくまで授業だから順位だとかタイムはあまり気にせず、怪我しないようにやれよ。」
やはりケンタロスレースだった。博士はああ言っているが、こちらではサトシとカキがどっちが早いかを競い合おうとしている。どうやらこの二人勝負好きなようだ。そう様子を見て、博士も苦笑する。
にしても、ケンタロスを見ていると今日挑戦しに来てくれたタロウ君の事を思い出すな。彼もまた強くなって僕の前に現れてくれるのだろうか。
「じゃあ最初はサトシとカキにやってもらおうか。」
『はい!』
サトシとカキがケンタロスにまたがり配置につく。
「あの時は負けたけど今度は負けないぜ!」
「望むところだ!」
二人は以前にも競ったことがあるようだ。そして博士の合図でレースが開始される。序盤はサトシが優勢なように思えたが、後半からカキが巻き返し、僅差でカキが勝利する結果となった。
「くっそー!また負けちゃったか!」
「今回はギリギリだったな。」
「次は負けないぜ!」
「それは俺も同じだ!」
サトシの顔には悔しさが見えいたが、その表情にはどちらかと言えば楽しかった気持ちの方が強いように思える。二人はライバルであると同時にいい親友でもあるんだね。なんだか僕とグラジオみたいだね。……戻ったら一度訪ねてみようかな。最近忙しいみたいだけど、偶には一緒にバトルしたいしね。
「じゃあ次はマオとスイレンでやってみるか?」
「はい!手加減しないからね、スイレン!」
「私だって負けない!」
この世界ではマオとスイレンも仲がいいようだ。いや、むしろこのクラスのみんな全員が仲がいいみたいだ。なんだか新鮮な気分だけど、みんなとこうして楽しく過ごせるのも悪くないかもと思えてしまう。
今度はマオとスイレンのレースが始まる。マオもスイレンも女の子とは思えないほどにケンタロスを巧みに操る。しかし次第にテクニックの差が広がりスイレンが前に出る。よく見るとスイレンの表情が真剣そのものである。僕の知ってるスイレンと違ってなんだか少し怖く感じてしまうのは気のせいだろうか……。
「ああ、悔しい!まけちゃったよ!」
「えへへ、私の勝ちだね!」
「うん、じゃあ次はバトンタッチだ。マーマネとシンジ。シンジの実力見せてもらおうかな。」
「は、はい。」
実力ってあまり持ち上げるようなこと言わないで下さいよ。とは言えあのマーマネが相手でも僕は負ける気はないけど。
「僕たちの番だね!絶対負けないからねシンジ!」
「あっ……うん!僕も負けないよ!」
マーマネもみんなと同じで勝負前提で話す。だがその言葉が僕にはすごく嬉しかった。最近では挑戦者とばかり戦っていて、いつも「対戦よろしくお願いします!」と硬い表情で挑まれていたので、楽しんで戦ってくれる相手がいなかったのだ。今マーマネは僕と対等に戦ってくれようとしているのが、僕にとっては嬉しい事である。僕もその気持ちに全力で答えよう。ライバルとして!
「じゃあ位置について!よーい!……ドン!」
ククイ博士の合図に僕とマーマネは同時にスタートする。僕が外側からのスタートであるため、僕にとっては不利だろう。そして早くも初めのコーナーに差し掛かる。
「ケンタロス!」
僕はケンタロスに呼びかけ足で軽く合図を送る。僕が送った合図にケンタロスが答えてくれて、すぐにマーマネの後ろに回る。マーマネもこの行動には戸惑ったようだが、変わらずそのままコーナーを回ろうとする。その時僕はマーマネの左側に回りインコースを取る。
「なっ!?インコースギリギリだと!?」
「ど、どうしたんだ?カキ?」
「インコースを走るのはレースにおいて最も基本となるが難しいコースでもある。何故ならポケモンとの意思疎通が出来なければならない上に、インコースを走ること自体が危険だからだ。ポケモンと共に重心をかなり傾ける必要があるからな。だがあいつはそれを平然と熟している。まるでケンタロスの事を理解しているようにな。」
「す、すごいです。初めてあったポケモンとこんなことが出来るなんて。」
ケンタロスが難しいインコースを走ってくれたことに感謝しながらレースを続行する。マーマネも頑張っているが、今のコースで少し差に余裕が出てきた。僕は真っ直ぐのコースを少しペースを落として進むように指示を出す。あまり全力で走ってはインコースを走る体力が残らない可能性も出てくるからだ。
そして再びインコースを走りマーマネよりも前に出た僕はそこで全力でゴールを目指すようにケンタロスに指示を出す。そして見事にケンタロスは最後まで走りぬいてくれる。
「よし!僕の勝ちだね!」
「はあ、僕の負けか~。シンジ強すぎだよ~。」
溜息をつくようにマーマネが言葉を出す。最後まで僕についてきてくれたケンタロスに感謝しながら頭を撫でる。ケンタロスも気持ちよさそうにしてくれて僕にとってもそれは嬉しいことだ。
「じゃあレースの授業はここまでだな。一旦休みにしていいぞ。」
「あれ?リーリエはやらないの?」
「あっ、えっとわたくしは……。」
「えっとね、リーリエはシロン以外のポケモンに触れないんだ。だからちょっと……ね?」
「お、お恥ずかしながら……」
戸惑うリーリエに変わりマオが説明してくれて、リーリエも顔を赤くして俯いている。しかしその後にリーリエが「でも!」と言葉を続ける。
「私はポケモンの事が大好きなんです!学びの対象としてとても魅力的ですし!」
「……うん。その思いだけはなんとなく分かるよ。だってポケモンを見てる時のリーリエの眼、すごく輝いてるから。」
「え?」
同じ『リーリエ』……だからかな。なんだかそんな感じがするんだ。喋り方も性格も違いはあれど、やっぱりリーリエだってことに変わりはないんだしね。
「きっと触れるようになるよ。ゆっくりでいいから慣れていこ、ね?」
「は、はい///ありがとう……ございます///」
僕も余計なこと言ったかな、とも思ったが、でもリーリエをそのままにしておくのはなんだか気が引けた。そしてそんな僕たちに水を差す声が聞こえた。
「おうおうおう!今日は仲良くレースの授業かあ?微笑ましいかぎりだなあ!」
「!?お前たちは!?」
声は違うがあの姿には見覚えがある。……と言うかあの特徴的でなんというか……変わったセンスの服装はむしろ忘れることは出来ないだろうなあ。
「スカル団!?あんたたちまた来たの!?しつこいわね!」
スカル団……僕の世界では既にいい人集団になっているが、こちらでは全然懲りてないみたいだね。こっちの世界でもグズマさんがリーダーなのだろうか?プルメリ姉さんも存在しているのか少し気になるところではある。それにしてもこのスカル団は男性二人に女性一人か。何故だろう……謎のかませ臭がしてしまう。まるであの時のスカル団のように……。
「ん?兄貴、なんだか見慣れない男がいるスカ!」
「ん?ホントだな。あいつのポケモンもゲットしてやるぜ!」
「さっすが兄貴!今日も強気ですね!」
……なんだろ、あの時のスカル団よりも別の意味でひどい気がする。まあここまで喧嘩売られちゃ黙ってられないよね。じゃあ僕も折角だし少し本気出しちゃおうかな。
「みんな、ここは僕に任せてくれるかな?」
僕は一歩前に出ながらそう言う。その言葉にみんな驚くが、サトシだけは僕の事を信頼の眼差しで見てくれている。
「……分かった。俺はお前を信じてるぜ!」
「……うん、ありがと。」
僕はそのサトシの言葉に背中を押されるように前に出る。
「ちょっとサトシ!ホントにいいの?」
「相手は三人もいるんだよ!?」
「こんなの無謀!早く止めないと!」
「いや、あいつなら大丈夫さ!」
「なぜそう言い切れる?」
「……なんかあいつさ、すっげえトレーナーな気がするんだ。さっきカキが言っていたように、レースではすごいテクニックを見せていた。それにレースが終わった後、ケンタロスを撫でてただろ?なんだかその時、ケンタロスがシンジに信頼を置いているような顔をしている気がしたんだ。だからあいつはすごい奴なんだよ。」
サトシが僕の事について説明してくれているような声が聞こえる。僕はその言葉を聞きながら心の中でサトシに感謝する。
「たったそんだけのことでお前……」
「……わたくしも信じてもいいかもしれません。」
「リーリエ?」
リーリエの発言にマオが疑問符を浮かべる。いつものリーリエらしくないと感じているのかもしれない。
「シンジのレースを見ている時の彼の表情……なんだかすごく楽しそうな表情をしていたんです。心からポケモン愛しているような気がしました。それに先ほど声をかけてもらった時思ったんです。シンジは悪い人じゃない。凄く芯が強くて、それで頼れる人なんじゃないかって。」
「リーリエがそんな事を思うなんて……でも二人がそう思うなら私も信じるよ!シンジの事!」
「僕も!」
「私も!」
「もちろん俺もだ!」
みんなの言葉に僕は支えられる。やっぱり僕はみんなの支えがあるからこそ頑張れる。あの時もそうだった。ルザミーネを救った時だってみんなの思いを抱いて頑張ることが出来た。それこそが僕の最大の長所だよね。ククイ博士も言葉にはしていないが、僕の方を見て頷き、心配していないと言った表情で見ている。僕もみんなの思いに応えるようにモンスターボールを手にする。
「友情ごっこを見せつけやがって!こうなったら容赦しないぜ!いけヤトウモリ!」
「頼むぞ!ヤブクロン!」
「お願い!ズバット!」
スカル団は三体ずつポケモンを出し合計九体のポケモンで対峙するつもりだ。全く、盛り上げてくれて感謝しなきゃいけないね。
「ちょっと!9体1なんて卑怯よ!」
「卑怯もひったくれもあるか!俺たちは泣く子も泣かすスカル団だぜ!」
「くっ、こうなったら俺も!」
「いや、僕一人で大丈夫だよ。」
「なっ、しかし!」
僕は激昂するカキを止めて一つのモンスターボールを上に放り投げる。そして僕がこの状況で選んだポケモンは……。
『イブイ!』
「白い……イーブイ?」
「白いイーブイってことは色違いか!?これは珍しいものをみたな!」
スイレンとククイ博士が感想を言ってくれる。なんだかこの反応ってデジャブ?
まあいいや。この状況ではイーブイが一番適任だろう。振り返って歩いてくるイーブイに僕は屈んで声をかける。
「イーブイ、相手は9体だけど大丈夫かな?」
『イブイ!』
イーブイはキリッとした表情で答えてくれる。大丈夫だと言ってくれているのだろう。これは頼もしい限りだ。
「相手が九体でくるなら、僕もみんなの力を合わせて戦うだけだよ。」
「あっ?何言ってんだ?」
僕はその言葉通りの意味を体現しようとある技のポーズを取る。ノーマルZのポーズだ。
「なっ!?そのポーズはまさか!?」
「さあ行くよ!これが僕たち全員の力を集結させた全力!」
――――ナインエボルブ―スト!
その合図と共に僕のボールから全てのポケモンたちが飛び出してくる。そう、僕のポケモン…………通称ブイズ達。ブースター、サンダース、シャワーズ、エーフィ、ブラッキー、グレイシア、リーフィア、そしてニンフィアだ。
「す、すっげぇ!イーブイの進化形が全部そろった!」
「さあ!行くよ!みんな!」
ブイズ達は僕の声に応えるように返事をして空中へと浮かぶ。そしてそれぞれの色に対応したオーラを纏い、それをイーブイに分け与える。イーブイもその波動を受けて力が溢れてくる感覚が伝わってくる。この技は全てのブイズの力をイーブイに集結させ、イーブイの力を最大限に引き出す専用のZ技だ。
「な、なんだなんだ?ただのハッタリか?野郎ども憶するな!やっちまえ!」
スカル団が一斉に攻撃を仕掛けてくる。しかしイーブイは既に力を受け取り準備は万全になっている。
「一撃で決めるよ!シャドーボール!」
イーブイは複数のシャドーボールを一度に放つ。スカル団のポケモンたちはシャドーボールの直撃をまともに受けてしまい、トレーナーの元まで吹き飛ばされる。
「なっ!?ヤトウモリ!」
今の一撃でスカル団のポケモンたちは全て戦闘不能になる。三人は急いでポケモンたちをモンスターボールに戻す。
「あ、あれだけのポケモンたちを……たった一瞬で!?」
「す、すごい……」
「くっそ!なんなんだよお前!ずらかるぞ!お前たち!」
「あっ!?兄貴!待ってくださいよ!」
「お、覚えてろよー!」
スカル団はすごい勢いで走って去っていく。逃げ足は僕の知ってるスカル団と同じみたいだね。
「すごい!すごいよシンジ!」
「あはは、ありがとう。イーブイもお疲れ様。」
僕はイーブイの頭を撫でる。イーブイも褒められて喜んでるみたいだ。この表情を見ていると僕も癒される。
「す、すげぇなシンジ。あんなに精錬されたZ技は初めてだ。」
「そんなにすごかったのか?」
「ああ、俺も島クイーンのZ技を見せてもらったが、その時のZ技も凄いものだった。だが今見せて貰ったZ技は更に桁が違う。数多くの試練を超え、磨きに磨かれ極められたZ技だ。ポケモンたちとの強い絆も感じ取れた。見るだけで色んなものが伝わってくる!あんた一体何者なんだ!俺にもZ技の極意を教えてくれ!頼む!」
カキが僕に血相を変えて頼み込んでくる。と言うかそこまで褒められると流石に照れる。でも僕の正体を言って信じてもらえるのだろうか。ここにいる時間があとどれ位か分からないけど、伝えてもいいのだろうか。
「おいおいカキ。そこまで言ったらシンジが困るだろう。……とは言え俺も君に興味があるのは事実だ。Zリングを持っているということはシンジも島巡りを達成したか、島の守り神に選ばれたトレーナーだということ。それだけの実力を持っていれば、嫌でも噂は聞こえてくるだろう。だが君の事は聞いたことがない。もしよければ君の事について聞かせてくれないだろうか?もちろん君が教えられないというのであればそれでも構わない。」
「ククイ博士……」
僕の一番の恩人であるククイ博士にこんなことを言われたら僕も弱い。やっぱりみんな、どの世界でも優しい事だけは変わらないんだね。僕もこれ以上隠すのはもう嫌だな。なにより……
「……………………」
リーリエにあんなに不安そうな顔をされるのがとても辛い。これ以上リーリエを悲しませたくはない。……やっぱり打ち明けるべき……だね。
「……分かりました。では僕の事、全部お話しします。」
僕は真実を話す決意をし、みんなと向かい合って話す。みんなも真剣な表情で話を聞いてくれた。僕が別の世界からきた人物だということ。その世界にもサトシ以外のみんなが存在していること。僕がその世界のチャンピオンであると言うこと。そして……リーリエが僕の大事な人であるということも。
「そ、そんなことが起こり得るのか?いや、先ほどの実力を見ればチャンピオンだということも頷ける。それに今の話が作り話であるとも思えない。これは真実として受け止めるしかないな。」
「これならさっきのリーリエに対する反応も頷けるね!リーリエも隅に置けないねえ!」
「ちょ、ちょっとマオ///やめてくださいよ!」
どうやらククイ博士は僕の言葉に信じてくれたようだ。リーリエもマオの言葉に赤くなる。サトシはその意味を理解していないみたいだが。スイレンはその事実に顔を赤くしている。女の子は恋バナに花を咲かせる、と聞いたことがあるがそれと関係があるのだろうか。……自分で考えてて少し恥ずかしくなってきた。
「先ほどのZ技。これでやっと理解できたな。あんたが……いや、あなたがチャンピオンだと言うのであれば全て説明がつく。」
「本物のチャンピオンに会うの僕初めてだよ!少しデータを取らせてほしいかな……なんて」
僕の正体を知ったみんなが思い思いの言葉を告げる。……やっぱりもうチャンピオンになったらみんなは普通には接してはくれないのだろうか。正直なんだか寂しい気がするな。
「……?シンジ?どうかしましたか?」
「え?」
「だってシンジ、なんだか悲しそうな顔をしています」
リーリエの言葉に僕はハッとなり気付く。リーリエはいつも僕の様子を気にかけてくれていて、僕の一番の心の支えになってくれていたことに。今でも変わらず、彼女はいつも僕とチャンピオンとしてではなく、『シンジ』として接してくれていることに。
「……ううん!なんでもないよ!心配してくれてありがとう!リーリエ!」
「///い、いえ!お気になさらないでください///」
僕が笑顔でリーリエに感謝すると、リーリエは照れたように下を向く。その様子を見たマオは茶化すようにリーリエを弄る。リーリエも更に頬を赤くして否定する。僕もそのリーリエの姿を見て、また必ず会いに行こうと決意する。……約束を守るためにも。
僕たちがそんな話をしていると、すぐそばに歪んだ空間が現れた。みんなはそれに驚くが、僕にはそれが何なのかすぐに分かった。少し待っていると、中からソルガレオの姿をしたほしぐもちゃんが現れた。
「なっ!?ソルガレオ!?」
「は、博士?ソルガレオって?」
「ソルガレオはアローラの二大伝説のポケモンの内一体だ。太陽の化身とも言われていて、守り神たちと共にこのアローラを見守っているポケモンだ。まさかこの目で見られるなんてな。」
『え~!?』
博士の言葉にこの場にいる全員が声をそろえて驚く。それは伝説のポケモンが目の前に現れたら驚くものだろう。当時の僕とリーリエは状況が状況であったため、驚くことは全くなかったが。
「にしてもほしぐもちゃん?なんでここに?」
僕がほしぐもちゃんに声をかけると、いつものようにほしぐもちゃんはテレパシーで僕に語り掛ける。どうやらほしぐもちゃんは僕を迎えに来たようだ。……もう少しみんなと話していたかったような気がするけど、仕方ないね。
「……ほしぐもちゃんは僕を迎えに来たみたい。そろそろ行かなきゃ。」
「え?ソルガレオの言葉が分かるの?」
「うん、ほしぐもちゃんは僕の脳内に直接テレパシーで声をかけてくれるんだ。だからよく分かるよ。」
僕はほしぐもちゃんの言葉をみんなに伝える。みんな別れに悲しそうな顔をするが、サトシだけは何か決意をしたような表情をして口を開く。
「その前に俺とバトルしてくれませんか!」
「サトシと?」
「はい!俺、ポケモンマスターを目指していて、そのためにはどうしても強い人と……チャンピオンとバトルしなくちゃダメなんです!だからお願いします!」
サトシは僕とのバトルを頭を下げて頼み込んでくる。僕は脳内でほしぐもちゃんにバトルをしてもいいか尋ねてみる。ほしぐもちゃんは全然問題がないと答えてくれる。いや、むしろ本当の目的は彼と戦わせることだったのかもしれない。もしかしたら彼と戦うことで、僕自身何か答えを見つけ出せるのではないかとも思えてくる。じゃあ答えは一つしかないね。
「うん、分かった。僕も本気で相手させてもらうよ。」
「!?ありがとうございます!」
「なっ!?チャンピオンの本気のバトル!?これは楽しみだ!」
シンジとサトシは校庭にあるバトルフィールドで向かい合う。そしてククイが審判を務める。
「それではこれより、シンジ対サトシのポケモンバトルを開始する!使用ポケモンは……」
「博士、少しいいですか?」
「お?どうした?」
ククイがルール告げようとした瞬間シンジは一つの提案をしようとする。シンジの真剣な様子にみんなが「なんだろう?」と思い聞き耳を立てる。
「……サトシ、今回僕はチャンピオンとして対峙させてもらう。だがポケモンの使用数は全てのポケモンを使ってほしい。僕は相棒一体のみで相手をする。」
「なっ!?サトシのポケモンは今4体!」
「つまり4対1の戦いってこと?そんな無茶な!」
「……僕は君の全力を見てみたい。どうだろうか。」
「分かりました。それがチャンピオンの望みであるなら俺も全力で行きます!」
「……ありがとう」
シンジは自分の望みを聞いてくれたサトシに小さな声で感謝する。シンジはそんなサトシに全力で応えるために相棒の入ったモンスターボールを手にする。
「では4対1の変則バトルでいく!両者、ポケモンを!」
「じゃあ行くよ!お願い!ニンフィア!」
シンジはククイの合図とほぼ同時にポケモンを繰り出す。モンスターボールから出てきたのはニンフィアだった。ニンフィアはボールから出てきてすぐにシンジの足元に寄ってきて頭を擦り付ける。よっぽど一緒に戦うことが嬉しいのだろうか。シンジもニンフィアの頭を撫でて応える。
「チャンピオンの相棒はニンフィアか。じゃあこっちの一体目は、ニャビー!君に決めた!」
サトシが繰り出したのはニャビーだった。フェアリー技は炎タイプに対して効果が薄いため、セオリー通りの選択と言えるだろう。
「それでは……バトル開始!」
博士の合図でバトルが始まる。先に動いたのはサトシだった。
「先ずは先手必勝!ニャビー!ほのおのきば!」
「ニンフィア!ジャンプして捕まえて!」
ニャビーはほのおのきばで先制攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃は空を切り、ニャビーの胴体にニンフィアのリボンが巻きつけられ捕らえられる。
「り、リボンにそのような使い方が!?こんな戦い方、本でも読んだことがありません!」
「さすがはチャンピオン。ポケモンの特徴を熟知している。当然だが一筋縄には行かないぞ。」
リーリエとカキが感嘆の声を漏らす。シンジはすかさずに指示を出して畳みかける。
「ニンフィア!そのまま叩きつけて!」
ニンフィアはリボンで縛り付けたニャビーを地面に叩きつける。
「あっ!?ニャビー!」
「ムーンフォース!」
ニンフィアはムーンフォースを放ちニャビーを襲う。そのダメージは例えいまひとつでも、態勢が整えられていないところに直撃すれば一溜りもない。煙が晴れるとニャビーは目を回して倒れていた。
「にゃ、ニャビー戦闘不能!ニンフィアの勝ち!」
「な、なんて威力だ。ニャビーがたった一撃で……」
「くっ!戻れニャビー!ゆっくり休んでくれ。」
サトシはニャビーをモンスターボールに戻して次のボールを手にする。
「モクロー!君に決めた!」
次に繰り出したのはモクローだ。ニャビーとモクローは共にアローラの初心者用ポケモンとして知られている。
「モクローこのは!」
モクローは回転しながらこのはを放つ。だがそう簡単に喰らうわけには行かないと、シンジも攻撃の指示を出す。
「ようせいのかぜ!」
ニンフィアはようせいのかぜでモクローのこのはは無残にも散っていく。しかしその先にはモクローの姿はなかった。
「……そう言うことか」
「よし!後ろを取った!モクロー!たいあたり!」
モクローが既にニンフィアの後ろに回っていた。モクローは獲物に気付かれないよう静かに飛ぶのが得意なポケモン。さっきのニンフィアと同じく上手くポケモンの特徴を活かしている攻撃と言える。
「宙返りで躱してシャドーボール!」
ニンフィアはシンジの指示に従いすぐさま宙返りをしてモクローの攻撃を躱す。そしてその態勢のままモクローの背後からすかさずシャドーボールで反撃する。
「なっ!?モクロー!」
「なんて無駄のない流れるような動きだ。」
カキの言葉にみんなが納得し、ニンフィアの動きに見惚れている。なによりあの二人の信頼が厚いことがみんなにもよく伝わってくる。
「そのままでんこうせっか!」
飛ばされたモクローが態勢を整える前にすかさずでんこうせっかを決める。モクローもこれには耐え切れずにフィールド外で戦闘不能となる。
「モクロー戦闘不能!ニンフィアの勝ち!」
「モクロー戻れ!お疲れ様。」
「も、モクローまで負けちゃった。」
「もうすぐでダメージを与えられたのに惜しかったね。」
「こ、これがシンジの実力……なのでしょうか。」
サトシはモクローをボールへと戻す。だがサトシの眼は昔のシンジの眼にに似ている。過去のポケモンバトルを純粋に楽しんでいる姿に。シンジは彼の姿をかつての自分に重ねて見ていた。
「まだまだこれからだ!イワンコ!君に決めた!」
サトシが次に繰り出したのはイワンコだ。シンジはイワンコの目から熱い闘争本能を感じ取り、気を引き締める。
「イワンコ!いわおとし!」
イワンコは複数の細かい岩をニンフィア目掛けて放つ。いわおとしは岩タイプの基本的な技だ。ならばこっちもと、シンジもフェアリータイプの基本的な技で対処しようとする。
「もう一度ようせいのかぜで防いで!」
ニンフィアはこのはの時と同じようにようせいのかぜではじき返す。
「あのようせいのかぜ、思ったよりも厄介だぞ。基本的な技とは言え、ニンフィアの技全てが完成されている。一体どんな育て方をしたっていうんだ。」
「それほどまでなの?」
カキはこの中でもバトルにはかなり慣れている方だ。マオの質問に続けてカキが説明をする。
「ああ、あのようせいのかぜ、無駄な前動作が一つもない。それどころかパワーもスピードも、基本技とは思えないほど精錬されている。何度も使いこなさなければあそこまでにはならないだろうな。」
「で、でもZ技を撃てばさすがのニンフィアにもダメージは与えられるんじゃない?」
「どうだろうな。さきほどから俺もチャンスを探ってみてはいるが、Z技を撃ち込む隙が見つからないんだ。あのニンフィアには隙がなさすぎる。闇雲に撃っても避けられるのが落ちだろうな。」
「そ、そんな。それじゃサトシはこのまま……」
カキの言葉にみんなが不安そうな声をあげる。しかしリーリエは彼の表情を見て少し違和感を感じていた。
「なぜ……でしょうか……」
「リーリエ?どうかした?」
「あっ、いえ、ただシンジの表情がなんだか浮かないようでしたので……」
リーリエのその言葉に反応してみんなもシンジの顔をよく確認してみる。するとシンジの顔はというと……。
「……笑ってない?」
そう、スイレンの言う通りシンジの顔には笑顔がないのだ。
「彼が先ほどケンタロスレースをしている時は笑顔を浮かべていました。まるで友達と遊んでいる時の子供の様に。スカル団との戦いのときもそうでした。イーブイを撫でていた時、彼は心の底からイーブイの事が大好きで、ポケモンバトルを楽しむ一人のトレーナーの顔をしていました。今のサトシの様に純粋な笑顔を。」
リーリエの言葉を聞いてサトシとシンジの顔を見比べてみる。確かにサトシは不利な状況だと言うのに戦いを純粋に楽しんでいる表情を崩していない。しかしシンジの場合は、楽しむというよりも何かに突き動かされているかのように表情が硬くなっている。今までサトシのポケモンたちを圧倒しているにもかかわらず、その顔からは余裕と言うものが見られない。
――――『今回僕はチャンピオンとして対峙させてもらう』
「あの言葉を言った時から彼の顔には余裕を感じられなくなりました。」
「そう言えばあの時リーリエも……」
――――『だってシンジ、なんだか悲しそうな顔をしています』
「はい、シンジはあの時も無理に笑顔を作っていた感じでした。」
「チャンピオンとして…………もしかしたらあいつ、チャンピオンとしての責任を感じているのかもしれないな。」
「チャンピオンとしての…………責任?」
カキの発言にマーマネが疑問に思う。
「そっか、チャンピオンってことは一番強いってことだもんね。」
「ああ、それに俺たちとあまり変わらない若さだ。そんな早くにチャンピオンになれば、気負いもするってもんだろう。」
「それにさっきシンジが話してくれた。あっちの世界のリーリエの事。」
リーリエはスイレンの言葉に少し顔を赤くする。リーリエは照れながらも先ほどの話を思い返す。
――――『リーリエは僕の支えとなってくれた大事な人だった。でも今は……』
「……やらなければならないことのために離れ離れになってしまった。」
「分かっていることとはいえ、支えてくれた人が遠くへ行っちゃたら、不安にもなるよね。」
「その気持ち……なんとなくだけど分かる気がする。私もアシマリやみんなと別れることになれば絶対に耐えられない。」
スイレンは抱いているアシマリとみんなを見渡しながら言う。みんなもその言葉に同意する。それだけ彼は辛いことを乗り越えてきたんだと実感しながら。
「イワンコかみつく!」
みんなの意識が再びバトルへと移る。イワンコが丁度ニンフィアにかみつくを決めようと接近しているところだ。
「ニンフィア!ようせいのかぜ!」
イワンコはようせいのかぜで吹き飛ばされてしまう。強力なようせいのかぜのせいでサトシのイワンコは全く接近できない状態だ。そしてシンジは反撃の隙を与えまいとさらに畳みかけようと指示を出す。
「でんこうせっか!」
ニンフィアのでんこうせっかによりイワンコはモクローと同様に大きく吹き飛ばされてしまう。流石のイワンコもこれ以上は立ち上がれずにダウンしてしまう。
「イワンコ戦闘不能!ニンフィアの勝ち!」
「イワンコ戻れ!いいバトルだったぜ。後は任せろ。」
サトシはイワンコを戻す。そして最後のポケモンに全てのポケモンたちの思いを託そうと屈む。
「ピカチュウ、後は頼むな!」
『ピカッチュウ!』
ピカチュウはサトシの思いに答えようと気合を入れる。
「よし!ピカチュウ!君に決めた!」
『ピッカァ!』
その掛け声と同時にピカチュウもフィールドに出る。そして今、最後のバトルが始まる。
「ピカチュウ!でんこうせっか!」
ピカチュウは物凄い勢いでニンフィアに迫る。しかしシンジも読めていたと言わんばかりにその動きに冷静に対処する。
「ようせいのかぜ!」
ようせいのかぜによりピカチュウは接近できぬまま飛ばされてしまう。しかしサトシも読めていたようで、ピカチュウに更なる指示を出す。
「そのままエレキボール!」
ピカチュウは空中でエレキボールの態勢に入る。シンジはその状態でも技を繰り出せることに驚きを隠せない。しかしシンジも負けじと攻撃を止めることはない。
「シャドーボール!」
エレキボールとシャドーボールがぶつかり合い、大きな爆風が起こる。その爆風で互いに前が見えない状況になるが、サトシはチャンスと思い攻撃の手を緩めない。
「ピカチュウ!アイアンテール!」
ピカチュウが尻尾を硬化させて爆風の中から飛び出してきた。そしてニンフィア目掛けて振り下ろす。シンジとニンフィアは予想外の動きに対応しきれず、ついにダメージを貰ってしまう。アイアンテールは鋼タイプの技であるため、フェアリータイプのニンフィアには効果が抜群だ。さすがにこれはダメージもデカいだろう。
「!?ニンフィア!」
シンジはダメージを受けたニンフィアを心配して声をかける。しかしニンフィアはシンジに心配かけまいと首を振り、再びピカチュウを見据える。シンジもそのニンフィアの様子を見て安心する。
「(サトシとピカチュウは凄まじいくらいに戦いなれている。それにあの二人の顔は……まるで……)」
まるで昔の自分のようだと、サトシとピカチュウの姿を過去の自分やポケモンたちの姿と重ね合わせる。しかしシンジはバトルの最中に気付いていたのだ。自分がバトルを心の底から楽しまなくなっていたことに。だけどその理由は自分でも分からない。
「(いつからかな……僕がバトルを楽しまなくなってしまったのは……。)」
シンジが心の中で自分の状態を悩み続ける。そこに一人の少女の声がシンジの耳に入ってくる。
「シンジさん!」
「!?」
その声の正体はリーリエだった。彼女はシンジの知っている彼女ではないが、それでも今一瞬彼の知っている『リーリエ』の姿と重なった。その様子に周りのみんなも驚く。リーリエがこの様に大声を出すことなど滅多にないからだ。
「あなたはあなたです。だから……自分の信じる道を進んでください。それが……“私”の望みです。」
「……リーリエ。」
リーリエの言葉にシンジが気付く。自分が悩んでいた理由が。自分の支えとなる存在が。自分の思いが。
「リーリエの言葉で目が覚めたよ。僕は少し悩みすぎていたのかもしれない。」
シンジは目を閉じて自分の心情をポツリと呟く。そして対戦相手であるサトシを真っ直ぐ見てこう答える。
「サトシ!ここからは一人のトレーナとして戦う!だから君も全力でこい!僕も全力を出してサトシと戦う!」
その眼には先ほどの悩みは一切なかった。サトシもその眼を見て覚悟を決める。彼はさっきまでとは違い、今度こそ本気のバトルを見せてくれると。そしてチャンピオンとしてではなく、自分のライバルとして戦えるのだと。
「……ああ!俺も全力で戦うぜ!“シンジ”!」
「!?うん!気を引き締めていくよ!ニンフィア!」
サトシに名前を呼んでもらえて、今だけでもライバルとして戦えるのだと感じたシンジはチャンピオンとしての立場を忘れて思いっきり楽しめそうだと思い笑顔を取り戻す。
ニンフィアもシンジの気持ちに応えるように一瞬振り向き安心したような顔を見せる。ニンフィアもパートナーとして、トレーナーであるシンジの事を心配していたのだろう。しかしここからは自分もシンジの支えとなるべきだと感じ、一層気合を入れる。
「ピカチュウ!でんこうせっか!」
「えっ!?そんなことしたら!」
先ほどのバトルを見ていたマオはその行動に驚いていた。なぜなら先ほどピカチュウのでんこうせっかはようせいのかぜに止められてしまったのだ。しかしシンジの取った行動は……。
「ニンフィア!こっちもでんこうせっか!」
『え~!?』
シンジの突然の行動にみんなが驚く。さっきの様にようせいのかぜで防げば再び封じることが出来るのではないかと。しかしサトシとリーリエには何故だか理解できた。これが彼の元々のバトルスタイルなのだと。チャンピオンではなく、“シンジ”としての戦い方なのだと。
ピカチュウとニンフィアは中央でぶつかり合う。そして互いに吹き飛ばされ、また所定に位置まで戻されてしまう。しかし互いに休む間もなく次の行動へと移る。
「ピカチュウ!10万ボルト!」
「躱してシャドーボール!」
ピカチュウの一筋の電撃をニンフィアはジャンプして躱す。そこにすかさずシャドーボールをピカチュウ目掛けて放つ。しかしピカチュウもすぐさまその攻撃に反応する。
「アイアンテールで跳ね返せ!」
ピカチュウはアイアンテールでシャドーボールを跳ね返す。しかしシンジは笑みを浮かべて更に攻撃を重ねる。
「ならばこちらも!ムーンフォース!」
ムーンフォースでシャドーボールを相殺する。アイアンテールで撃ち返したシャドーボールは威力が上がっているはずなのに、それを容易く破ってしまうムーンフォースの威力にサトシは驚くが、逆に隙を見つけたと大技を放つ体勢に入る。
「やるぞピカチュウ!」
「!?くるか!」
サトシは腕を交差させ、その動作に合わせて腕にはめてあるZクリスタルが輝く。サトシの全力……電気タイプのZ技が放たれようとしていた。
「これが俺たちの全力だ!」
――――スパーキングギガボルト!
ピカチュウの腕から大きな電気の塊がニンフィア目掛けて放たれる。その威力は普通のZ技の比ではない。どれだけピカチュウが鍛えられているのかがよくわかる。だがシンジもその時には既にZ技のポーズを決めて態勢を整えていた。
「待ってたよサトシの全力!だったら僕も僕の全力で対抗するのが礼儀だよね!行くよ!」
――――ラブリースターインパクト!
ニンフィアも同じようにフェアリータイプのZ技を放つ。そのZ技は弧を描くようにピカチュウのZ技へと向かっていく。そして二つのZ技がぶつかった時、先ほどの爆風とは比べ物にならない爆風が発生した。そして飛ばされない様にサトシが帽子を抑えるが、横を何かが通り過ぎた時にそれが何かを確かめる。しかしそこにいたのはボロボロになって飛ばされていたピカチュウだった。ピカチュウはサトシの後ろで目を回して戦闘不能となっていたのだ。
「ぴ、ピカチュウ戦闘不能!ニンフィアの勝ち!よって勝者シンジ!」
「ピカチュウ!」
ククイの判定で勝負の結末が決まる。サトシはすぐさまピカチュウの元へと行き、ピカチュウを抱きかかえる。クラスメートたちも心配になりピカチュウの元へと駆け寄る。
「さ、サトシ!ピカチュウは!?」
「ああ、ピカチュウなら大丈夫だよ。」
「そ、そっか、良かった……」
サトシの言葉にクラスのみんなが一安心する。そこにシンジとニンフィアがやってきて、一つの木の実を渡す。
「オボンの実だよ。これを食べさせれば少しは元気になるはずだよ。」
「ありがとう。ほらピカチュウ、これ食べな。」
サトシにオボンの実を渡されたピカチュウはそれを食べる。そして安心したようにサトシの腕の中で眠りにつく。さすがのピカチュウも今のバトルは相当堪えたのだろう。
「サトシのピカチュウ、本当に強かったよ。なんだか久しぶりにスッキリバトルすることが出来たみたい。ありがとう。」
「いえ、こちらこそ。今回はいい経験をしました。ありがとうございました。」
サトシはシンジに深々と頭を下げる。
「それにしてもすごいバトルだったね。」
「ホントだよ!僕もう少しで胸が張り裂けそうだったよ!」
「うん!まだ心臓がバクバクしてる!」
「全くだ。最後のZ技対決も熱くさせられたぜ。」
みんな思い思いの感想を告げる。そんな中、リーリエは今の戦いを見て安心したような顔を浮かべる。自分自身もなぜそのような顔をするのか分からないが、もう一人のリーリエの魂が反応しているのかもしれないと、自分の中で思ってしまう。いつもの『論理的結論』とは遠い気もするが、偶にはそういうのもいいのではないかと心の中で感じている。
「リーリエ」
「は、はい!」
シンジに声をかけられ甲高い声をあげてしまう。咄嗟の事とは言え、先ほどは偉そうなことを口走ってしまったために怒られてしまうかもと思ってしまうリーリエ。しかしシンジから返ってきた言葉は彼女の想像していない言葉だった。
「……さっきはありがとう。」
「え?」
「さっきのリーリエの言葉で気付くことが出来たよ。本来の僕を。だからさっき僕の知ってる『リーリエ』の喋り方で言ってくれたんでしょ?」
「へ?そ、それは……」
正直リーリエにもなにがなんだかさっぱりだった。気がついたら立って叫んでいたいたし、気が付けば喋り方も変わっていた。だがこのことを彼に直接伝えていいか分からなかった。
「……ふふ、もう一人のリーリエの魂でも乗り移ったかな?」
「ふえ!?」
「だって僕はリーリエの事は話したけど、リーリエの喋り方までは話してないもんね。」
「あっ」
普通に考えれば気が付くことだった。確かにシンジはリーリエと事については話してくれたが、喋り方までは何も言ってなかったからだ。
「それでもありがとう。……やっぱりリーリエはリーリエだね。」
「!?」
今の言葉にリーリエは気付く。彼が自分に対して呼びかける時と、自分の世界のリーリエへと呼びかける時の込められている思いが違うことに。“彼女”が彼にとってどれだけ大事なのかということに。だからこそリーリエはこの言葉を伝える。
「こちらこそありがとうございます!」
リーリエは笑顔を浮かべてその言葉を告げる。彼は彼自身であったように、自分も自分だと気づかせてくれたことに感謝を込めながら。シンジも笑顔でリーリエに応える。彼女と、この場にはいないもう一人の彼女に対して。
周りのみんなもその様子を見て笑顔で見守っている。二人が更に前に進めたことに喜びを感じながら。
そしてサトシとシンジの激しいバトルが終わり遂にお別れの時がやってきた。
「……もう行っちゃうの?」
「うん。これ以上ここにいたら帰るのが辛くなっちゃうからね。とても楽しい一日だったよ。なんだか久しぶりに騒いだ気がした。」
シンジはアローラの夕日を見上げながらそう呟く。その表情は曇ひとつない、とても明るいものだった。
「また、会えるよね?」
「……うん。必ず会えるよ。僕たちがポケモンを愛し続けている限りね。」
シンジはみんなとみんなの持つポケモンたちを見渡しながら言う。その眼には何故だか確証があった。またいつか、絶対に会える日が来るだろうと。
「世界は違っても、同じアローラの空の下にいるんだ。会えないわけがないよ。」
「……うん、そうだな!絶対会えるよな!」
サトシもシンジの言葉を聞いて確信を得た。それはみんなも同じようで、先ほどまでの悲しそうな顔から一気に明るくなった。
「……ねえサトシ?」
「ん?」
「……今度会ったら、僕と友達として関わってもらえるかな。」
「……何言ってんだよ!」
シンジの今の発言にサトシは驚きながらもすぐに答えを返す。シンジはその返答に一瞬怖くなったが、すぐにその恐怖は無くなっていった。
「今でも俺たちは友達じゃないか!」
「!?」
「そうだよ!私たちはずっと友達だよ!」
「当たり前だろ!」
「私たちは、友達!」
「勿論僕だって!」
「友達ですよ!シンジ!」
「俺もいるのを忘れるなよ!」
全員が笑顔でシンジの事を友達と認めてくれた。その事実にシンジは泣き出しそうになるが、グッとこらえてみんなに心の底から感謝する。友達と言う存在の大切さを噛み締めながら。
「うん!僕たちは友達だよ!」
「ああ!もちろんだぜ!」
「今度会ったら俺とバトルしてくれ!」
「今度は私のお店、アイナ食堂にも食べに来てね!」
「次はシンジのポケモンのデータも取らせてよ!」
「私のお気に入りの場所、案内してあげる!」
「いつでも遊びに来いよ。ここはみんなの場所なんだからな。」
「待ってますから!シンジ!」
みんなはシンジに最後の別れの挨拶を告げる。しかしこれは最後ではなく、必ず再開できると信じて自分の言葉を伝える。そして最後に、シンジは伝えなければならないことをリーリエに伝える。
「……リーリエ、最後に一ついいかな。」
「はい?何でしょうか?」
――――『がんばリーリエ』
シンジはその一言だけ伝え、ソルガレオと共に歪んだ空間を潜り抜ける。リーリエには一瞬意味を理解できなかったが、シンジの姿が見えなくなった瞬間、頭にその意味が浮かび上がってきた。
「がんばリーリエ……か……。ふふ、“シンジさん”らしいですね。」
その彼女の姿はどちらの『リーリエ』かは誰にも分からない。
「……戻ってこれたね」
僕はルナアーラに姿を変えたほしぐもちゃんと共に祭壇に立っていた。今日はすごく長い時間をあっちで過ごした気がするのに、こっちの世界は真っ暗だ。時間があまり進んでいないように感じる。
「……ありがとう、みんな。ほしぐもちゃんも」
今この場にはいないみんなに感謝の言葉を呟く。当然ほしぐもちゃんにもお礼をいう。するとほしぐもちゃんの声が直接頭の中に響く。ほしぐもちゃんは『もう大丈夫そうだね』と言ってくれる。
「こうなることが分かってたのかな?だから僕をあっちの世界に?」
ほしぐもちゃんは頷いて今回の意図を説明する。ほしぐもちゃんは最近空元気しか出していなかった僕を心配してあっちに送り出してくれたみたいだ。もう一人のリーリエと出会わせ、サトシと戦わせることで本来の僕を取り戻させてくれようとしてくれたみたいだ。本当に僕たちの事を見守ってくれたんだね。
「そっか。ありがとう、ほしぐもちゃん。」
僕はほしぐもちゃんの頭を撫でる。ほしぐもちゃんも嬉しそうに跳ねてくれる。ふふ、こういうところは昔と変わってないんだね。僕も見習わないといけないかもしれないね。
「じゃあね、ほしぐもちゃん。また会おう。」
ほしぐもちゃんと別れを告げ、ほしぐもちゃんは月へと向かって羽ばたいていく。太陽と月、二つの姿を持つほしぐもちゃんは、僕たちアローラの事を昼も夜も見守ってくれるのかな。そう思うと力が湧いてくる感じがする。ほしぐもちゃんに恥ずかしくないよう、僕も前に進まなきゃね。
「おーい!シンジ!」
その時に博士の声が聞こえてきた。声のする方を向くと博士が階段を駆け上ってきて丁度頂上に着いたところだった。
「はあ……はあ……すまない、準備に手間取って遅れてしまった。結局磁場の正体は何だったんだ?」
博士の疑問に僕は今までにあったことを説明する。博士も初めは信用できないようだったが、それでも僕の言うことなのだから間違いないだろうと最終的には信じてくれた。
「取り敢えずシンジに何事もなくて良かったぜ。今回迷惑かけたお詫びにご馳走おごってやるよ。」
「え?いいんですか?」
「ああ!もちろんだ!好きなだけ食べてくれ!」
博士の気前の良さに僕は思わず笑顔を浮かべる。どっちの世界の博士も優しくて、僕の最大の恩人だ。
「……博士」
「ん?どうした?」
「……ありがとうございます」
「おいおいどうしたんだよ改まって。奢ることくらい別に……」
「いえ、そうではなくて。……なんとなく伝えたかったんです。」
「……そっか。じゃあ素直に受け取っておくよ。」
僕は博士に今思っている言葉を一言だけ伝える。一言だけだけど、この言葉には色んな意味が込められている。博士にはどれだけ感謝してもしきれないけど、伝えずにはいられなかったから。博士も笑顔を浮かべて僕の言葉を受け取ってくれる。
僕はアローラの夜空を見上げてあっちの世界の事、そしてリーリエの事を思い返す。みんなも同じ空を見上げてくれているのだろうか。今度会った時は、一緒にこの星空を眺めたいなと、そう心の奥で感じ取りながら。
こうして彼の不思議な一日は幕を閉じた。彼自身もこの一日で大きく成長できたと実感した。まだまだチャンピオンとしての実感は少ないけど、それでも自分は自分なのだと気付き、これからは自分の道を進むのだと固く決心する。彼女の隣に立っても恥ずかしくならないように。そして、いつか彼女と“シンジ”として再開できるように…………。
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アニポケとのコラボ回でした!時系列的にはシロンが産まれて少しした辺りですかね。やはりキャラが多いと表現や役回りが難しいですね。まあバトル表現の練習も兼ねてね?やはりアニメ制作人は凄いと改めて感じました。ん?サトシのロトム図鑑はどこかって?家でアローラ探偵ラキでも見てるんだよ(適当)。
まだソルガレオやルナアーラの正確な立ち位置がいまいち分からないので勝手に表現しました。
次回は普通に話を進める予定です。ではまた来週~!
あっ、活動報告にて意見箱なるものを作っておきましたので何かあればそちらに書き込んどいて下さい。