ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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ありえたかもしれない悪夢 後編

気が付くと見覚えのない場所で目が覚めたロウとティア。そこではアクジキングと呼ばれる人間が生み出してしまった悪魔のような存在が名前の通り悪食の限りを尽くし、世界は荒れ果て周囲が廃虚と化してしまっていた。

 

ピンチだった時に助けてくれたのは父のポケモンであるイーブイ。そして少し幼い姿をした母、リーリエと彼女のパートナーであるピクシーであった。

 

現在彼女たちはアクジキングの手の届かない場所まで避難し、奴を討伐するための作戦を考えていた。

 

「リーリエさんの仲間の方々は現在行方不明、なんですよね?」

「はい。アクジキングの暴走を止めるため、多くのトレーナーたちが名乗りをあげました。もちろん私も彼を野放しにしたくなかったので参加しました。ですがアクジキングにいくら攻撃を与えても、吸収されてしまい全く攻撃が通らないんです。おそらくあの大きな口で私たちの攻撃すらも食してしまっているのだと思います。」

 

その事実にロウとティアは驚く。リーリエが仲間たちと言うのだから相当の数のトレーナーが参加したに違いない。しかしどれだけの手数で攻撃を加えようとも、アクジキングの食欲はそれすらも上回るほど驚異的なものであった。

 

「じゃ、じゃあさ!Z技は!?ドッカーンってでっかいの叩きこめばさすがのアクジキングも食べられないんじゃない?」

 

ティアは名案だと思いそう提案した。自分はまだ試練に挑戦できる年齢ではないので使うことができないが、いつも父が試合で使っているのを見て憧れているのと同時に、決まれば絶対無敵の必殺技だと思っている。しかしティアの期待も空しくリーリエは首を横に振り否定の意を示した。

 

「ロウさん、ティアさん。Z技の発動条件は何かご存じですか?」

「え?ポケモンとトレーナーの絆じゃないの?」

「……っ!?そ、そういうことですか……。」

「え?え?どういうこと?」

 

リーリエの悲しげな表情の意味が理解できたロウとは裏腹に、ティアは兄が一体何に理解しているのか分からずあたふたとしていた。ロウは理解できていないティアに説明をする。

 

「Z技はポケモンとトレーナーの絆が必要不可欠。だけどそれと同時に、アローラの太陽や海、そして自然の恵みから力を授かってようやく真価を発揮する大技。でもこの世界では……。」

「あっ!?そ、そっか……ここではアクジキングが……。」

 

そう、環境汚染、そして何よりアクジキングの暴走により自然がほぼ壊滅状態となってしまっている。そんな環境ではZ技を発動することはできない。いや、できたとしても威力は大幅に軽減されてしまい、大技とは言えない程度の威力にしかならないであろう。

 

正直ロウもZ技には大きな希望を抱いていた。しかし非常な現実を突きつけられてしまい、内心かなり落ち込んでしまっている。

 

「……そうだ!アローラの守り神様たちは!」

「それが……。」

 

アローラの守り神。カプ・コケコ、カプ・テテフ、カプ・ブルル、カプ・レヒレ。アローラ四つの島をそれぞれ守護し見守る存在。それぞれ特徴的な性格をしているが実力は申し分なく、彼らであればアローラを守ってくれるのではないかとロウは考えた。しかしその期待すらもリーリエの一言で無に帰してしまった……。

 

「守り神たちは……いません。」

「え?ど、どういうこと、ですか?」

「守り神は恐らく……人間たちに愛想を尽かしたんだと思います。気付いたときにはもう、一切姿が見えなくなってしまったので……。」

 

普段姿を見せることがない守り神とはいえ、かつては人間の危機を何度か救った経歴のある守り神たち。しかし今回に限っては一切助けてくれる様子はなく、それどころか祠にお祈りにいっても音沙汰がなかったのである。今までとは明らかに様子が違い、人間たちの勝手な行いに見限って彼らは姿を消してしまったのではないかと結論付けることとなったようだ。

 

「で、では本当に打つ手は……。」

「残された手段はたった一つ。私たちがアクジキングを倒すのみです。」

「ちゃ、チャンピオンは!?それか別の地方から援軍を要請するとか!」

「この地方にチャンピオンはいません。もちろんポケモンリーグも設立されていませんので、ハッキリ言ってしまえばトレーナーの質は他の地方に比べて低いです。他の地方に援軍を要請するにしても、ご覧の状況では連絡手段が途絶えてしまい、直接伺ったとしても時間がかかりすぎてしまってアローラ地方は……。」

 

このアローラ地方は他の地方から大分隔離された場所に位置しているため、船で長い時間をかけて旅をするしかない。しかし往復する時間も考えると、1日2日で帰ってこれるような距離ではないため最適とは言えない。

 

周囲の建物も崩落してしまっているため、当然連絡手段も現状存在しない。危険地域であるためトレーナー以外の人間は全て別世界に避難していることも踏まえると、もはやアクジキングに対抗する手段は一つしか考えられなかった。

 

「……僕たちがやるしかない、か。」

「私たちが……あのデカいのと……。」

 

覚悟は決めたつもりであったがまだ経験が浅く幼い二人ではやはり荷が重い。先ほどアクジキングに食べられそうになってしまった恐怖のトラウマもあって足が震える。自然と手にも力が入るが、そんな震えるティアの手に優しく触れる感触があった。

 

「っ、イーブイ?」

『イブ!イッブイ!』

 

自分よりも小さい身体なのにも関わらず、抱えられているイーブイはキリッとした逞しい顔つきでティアを元気づける。その顔はまるで『僕に任せて』とでも言っているようであった。

 

「……うん、そうだよね!こんなんじゃダメだよね!」

「僕たちはチャンピオンの子ども……このくらいの危機、お父様なら必ず乗り越えられる。僕達だって!」

「お兄様と私、それにイーブイがいる!大丈夫!大丈夫!」

 

大丈夫だと自分たちに言い聞かせるロウとティア。そんな二人と一匹の様子を見て、出会ったばかりの幼い少年と少女のはずなのに頼もしい姿だと心の中で思うことができた。あれだけ絶望的な敵が相手であっても、彼らがいれば大丈夫なのではないかと感じたのだ。そしてその瞬間、見知らぬはずの男の姿がリーリエの目に映ったのであった。

 

(っ、い、今の人は……)

 

どこか懐かしい気がする、と男の正体が気になるリーリエだったが、次の瞬間、予期せぬ現象が目の前で発生してしまったのである。

 

現在リーリエたちがいるのは廃墟ビルの内部だが、周囲の建物と同様に崩落しているため天井には大きく穴が開いてしまっている。違和感を感じたリーリエが空を見上げると、そこには空間の裂け目ができており何かが姿を現した。

 

「っ!?アクジキング」

 

 

 

『あああああああああああああああアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!』

 

 

 

それはなんとつい先ほどロウたちに恐怖を植え付けた元凶、アクジキングの姿であった。アクジキングは周囲全体が震えるほど甲高く大きな声で咆哮する。その声は聞くもの全てに恐怖感と嫌悪感を同時に与えるほど不愉快なもので、ロウたちは思わず耳を塞いだ。

 

「っ!?マズいです!今すぐビルの外に!」

 

アクジキングの咆哮は周囲にも影響を与えた。巨大な咆哮によってビル全体が振動し、既に半分近くが崩落していたビルが耐えられるはずもなく更に崩壊を進めていく。リーリエの咄嗟の指示によりロウ、ティア、イーブイとピクシーもビルの外まで脱出する。

 

リーリエたちが脱出に成功すると同時に先ほどまでいたビルは完全に崩落した。崩壊したビルの残骸を目にしたロウとティアは、少しでも脱出が遅れてしまったらどうなっていたのかと、最悪の結末を想像したら血の気が下がる気がした。

 

脱出したロウたちと違い当の原因であるアクジキングはビルの残骸に埋まった。もしかしてこれでやれたのか、と淡い期待も胸にしていたが、当然そんな期待は一切叶うことがなかった。

 

ビルの残骸から黒い手が飛び出してきた。そして手に瓦礫を大きく握りしめると、残骸から姿を現したアクジキングが瓦礫を口にしたのだった。どうやらダメージと呼べるものは一切なく、自分の身体よりも食欲を優先するほど余裕があるようだ。

 

「くっ、想定外の展開ですが、これ以上逃げることはできないみたいです。やるしかないですね!」

 

先ほど逃げられたのはアクジキングが鈍足だと言う事が前提だ。しかし偶然か意図的かは不明だが、いずれにしてもワープできる可能性が出てきてしまうとこれ以上逃げても無駄に体力を消耗してしまい最終的に食べられてしまうだろう。だったらここで抵抗して食べられる前に倒してしまうしか道はない。リーリエはそう決断した。

 

「ロウさん、ティアさん。ここでアクジキングを止めます。ですが危なくなったら、あなたたちだけでも逃げてください。」

「そんな!でもリーリエさんは!」

「先ほど約束したはずです。絶対に逃げてください。いいですね?」

『っ!?』

 

ロウとティアはリーリエの事を知っている。彼女が自分たちの大好きな優しい母親なのだから当然だ。実際の彼女でも恐らく同じことを言うだろう。

 

しかし現在目の前にいる彼女は自分の知っている優しい母親とはどこか違う。見た目が幼いから、と言う理由ではない。彼女の表情は温厚なものでは一切なく、凄んでいる目つきであり、どこか悲しそうな険しい表情をしていた。その顔を見たら、ロウとティアは反論することができなかった。初めて彼らは自分の母親ことを怖いと感じたのだった。

 

「さあ、行きますよ!」

 

リーリエはアクジキングに向かい合う。するとアクジキングはリーリエと向かい合い、彼の目は獲物を見る目から完全に敵対視している警戒した目つきへと切り替わった。リーリエのことを食事の対象としてでなく、自分に仇なす敵だと認識したのだ。

 

アクジキングは大きな口から黒い波動をリーリエに向かって放った。あくタイプの技であるあくのはどうだ。

 

「ピクシーさん!ひかりのかべです!」

『ピックシ!』

 

ピクシーはリーリエの前に出ると、ひかりのかべで彼女をあくのはどうから守る。そしてピクシーはすぐさま反撃に出た。

 

「ムーンフォースです!」

『ピィ!』

 

ピクシーはムーンフォースで攻撃する。しかしピクシーのムーンフォースは、無情にもアクジキングの口の中に吸引され、無力化されてしまった。

 

「僕たちも!イーブイ!シャドーボール!」

『イブッ!』

 

次はイーブイのシャドーボールがアクジキングに迫る。だが結果は変わることなく、アクジキングがシャドーボール吸引し食すという同じ結末であった。

 

「お兄様!ここは私が!イーブイ!走って!」

『イブ!』

 

ロウに代わってティアがイーブイに指示を出す。ティアの指示通り、イーブイは走り始める。小さな身体、そしてスピードと小回りの良さを生かして走り回る。アクジキングはあくのはどうを連続して放つが、イーブイを捉えることはできない。

 

イーブイはアクジキングの怒涛の攻撃を躱しながら接近する。アクジキングの足元まで辿り着くと、ティアはイーブイに次の指示を出す。

 

「アイアンテール!」

『イッブ!』

 

イーブイは尻尾を硬化させ、アイアンテールでアクジキングの足を薙ぎ払う。当然アクジキングは大きすぎるためイーブイの力では完全に崩すことはできない。しかしアクジキングのスピードは反応速度、移動速度、どちらをとってもかなりの鈍足であり、軽くでも怯めば態勢を整えるのにも時間がかかるだろう。

 

ティアは兄であるロウに比べてバトルセンスが高い。だが彼女は知識の量では下回ってしまっており、殆どなんとなくで戦っている感覚派のトレーナー、いわゆる天才肌と言うやつだ。今回の作戦も彼女自身、アクジキングの足を崩せないかな程度の考えだったのだろうが、結果的に功を奏したのだ。

 

「っ!?今です!もう一度ムーンフォース!」

『ピィ!』

 

ピクシーは態勢を崩したアクジキングの牙目掛けてムーンフォースを放った。怯んで動けないアクジキングは抵抗することができず、ムーンフォースの直撃に苦しみ悲鳴をあげる。絶妙なコンビネーションで大きなダメージを与えることに成功するが、アクジキングは苦痛からなのか、それとも苛立ちからなのか、さらに大きな雄たけびをあげる。

 

 

 

『アアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァああああああああああああああああ!!!!!!!!』

 

 

 

アクジキングの悲鳴により周囲に衝撃波が発生する。その衝撃波により、アクジキングに近くにいたイーブイは大きく吹き飛ばされ、ロウとティアは慌ててイーブイの元に駆け寄る。

 

「イーブイ!」

「大丈夫!?」

『いぶっ』

 

衝撃波によって飛ばされたイーブイは、ロウとティアの呼びかけに応じてゆっくり立ち上がり。しかし衝撃波と同時に周辺の瓦礫も飛び散ったため、その破片がイーブイに当たってしまい傷を負ってしまったようだ。思いのほかイーブイに対してのダメージも大きいものとなってしまっている。

 

続いてアクジキングは上空を見上げる。するとアクジキングの口に光が集中し空目掛けて放たれた。頂点まで達すると、光は周囲全域に分散しところかまわず襲い掛かった。ドラゴンタイプ最強の技、りゅうせいぐんである。あまりの破壊力と無差別な攻撃に、ロウとティアはイーブイを抱えて伏せて目を瞑る。

 

「くっ!?ピクシーさん!」

『ピクシッ!』

 

ピクシーは急いでロウとティアの前に立つと、上にひかりのかべを展開して彼らをりゅうせいぐんから守る。リーリエも急いで彼らの元へと駆け寄った。

 

「二人とも、大丈夫ですか!?」

「は、はい……」

 

ピクシーに守られていることで少し安心感を感じられたため、なんとか落ち着いて声を振り絞るロウ。しかしやはりまだ幼い少年と少女、声は震えており冷や汗が止まらない様子だ。恐怖心を抱くのも無理はないだろう。

 

そんな二人を見て、リーリエはある決断をして口にした。

 

「……ロウさん、ティアさん、りゅうせいぐんが止んだらすぐにここから避難して下さい。」

『っ!?』

「危険になったらすぐに逃げること。これは私たちの約束です。私とピクシーさんなら大丈夫ですから。」

『ピックシ!』

 

リーリエの言葉に反応し、ピクシーも笑顔で振り返り返答する。リーリエは立ち上がり、ロウとティアの前に出る。

 

「すいませんピクシーさん。最後まで付き合っていただけますか?」

『ピクシッ!』

「……ありがとうございます。」

 

リーリエの問いにピクシーももちろんだと言った表情で答える。その返答にリーリエも満足そうな表情を浮かべる。

 

(お母様……お父様……お兄様……どうか見守っていて下さい)

 

リーリエはそう心の中で空に願いを込める。一方ロウは……。

 

(っ、結局僕は何もできてない。助けるって言いながら、戦ったのはほとんどティアとイーブイで、お母様とピクシーに守ってもらって、僕は……)

 

ロウは悔しさから手をギュッと握りしめる。例え知識があったとしても、未知の相手や世界では何も意味をなさない。バトルセンスのない自分では全くの役不足であり、足手まといにしかならない。無力な自分に腹が立つ。

 

(こんな時、お父様なら……)

 

幾度もアローラを救い、みんなの希望であり続けた父の姿を思い浮かべる。その背中は頼もしく、信頼するパートナーと共にどんな敵に対しても臆することなく立ち向かい勝ち続けてきた憧れの存在。父のような立派なトレーナーになりたい。世界を救いたいなんて大それたことは言わないが、それでもせめて、せめて目の前で苦しんでいる人だけでも助けたい。大好きな父のように。

 

ロウがそう願った次の瞬間、握りしめていた拳が突然光始めた。それと同時に、イーブイの体の中心もまた反応するかのように光り輝いていたのだった。

 

「えっ?えっ?なになに?」

 

突然の現象に戸惑うティア。リーリエも一体何が起きたのか分からず驚いた表情をしていた。

 

ロウは自分の光る拳を恐る恐るゆっくりと開き確認する。するとそこに握りしめていたものは見覚えがあるものであった。黒い色をした腕時計のようなリング。そして中央にはひし形の何かを嵌めることのできる穴。これは紛れもなくZ技を発動するために必要なZリング。それも父が愛用している特殊なZリングであった。

 

「イーブイ、これって……」

『イッブイ!』

 

イーブイは理解しているのか、ロウの方へと振り返って頷いた。正直突然のことでロウ自身まだ理解が追い付かない。だがここに父のZリングがあり、それを信じろとイーブイは返事をしてくれた。ならば自分は父とイーブイを信じる。そう結論付けたロウは覚悟を決めてZリングを腕に装着した。

 

まだトレーナーではないロウはアローラの試練に挑戦できない。つまりZ技を発動した経験は皆無だ。しかしZ技自体は幾度となく見たことがあるため、自分の目に焼き付いている。その姿をしっかりと脳裏に思い浮かべ、ロウは集中し深呼吸をする。

 

(Z技……アローラの島巡りを乗り越えることで使用することができる必殺技とも言える大技。それに必要なのは、ポケモンとの信頼関係、絆。僕とイーブイには充分!)

 

「行くよ!イーブイ!」

『イーブイ!』

 

ロウは集中する。初めてのZ技とこの土壇場の状況で緊張もするが、それ以上にどこかワクワクし気分は高揚していた。自分も父と同じZ技ができる。憧れの存在に一歩近づけるのだと。

 

ロウはワクワクしながらも冷静さを欠かず集中力を乱さない。バトルセンスは低くても、スクールの成績上位なだけはあり集中力は幼い子どもとは思えないほどだ。ロウのZリングとイーブイの体にオーラが纏い、その力は解き放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ナインエボルブースト!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イブーイ!』

 

イーブイがオーラを纏い空に向かって吠える。するとその咆哮に呼応してか、青、黄、赤、紫、黒、緑、水、桃の色をした球体が彼方より迫ってきた。球体がイーブイの頭上で円を作り浮遊すると、うっすらとその姿が浮かびだされていた。

 

「っ!?こ、この子たちって!」

 

『シャウ!』

『ダース!』

『ブッスタ!』

『エフィ』

『ブラッキ』

『リィフ!』

『グレイ!』

『フィーア!』

 

そこに浮かび上がったのはイーブイの進化系、シャワーズ、サンダース、ブースター、エーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシア、そしてニンフィアであった。それぞれのポケモンたちがイーブイに力を分け与えると、イーブイの纏っていたオーラが更に大きくなっていき、それと同時にニンフィアたちも自然と消滅して気付けばいなくなっていた。

 

ロウとティア、そしてリーリエにはイーブイの力が大幅に増加しているのがよく分かる。その力を見たアクジキングも怯んでいる様子で、恐怖を感じているのか一歩後退りをした。

 

「イーブイ!スピードスター!」

『イブィ!』

 

ロウがイーブイに指示を出す。イーブイがスピードスターを放つと、スピードスターがアクジキングの周囲を取り囲んだ。アクジキングは煩わしそうに腕や牙を振るって薙ぎ払おうとするが一向に離れる気配はない。

 

「す、すごい……。」

 

ふとそう零したのはリーリエであった。まさかイーブイがここまでの実力を持っているなんて思わなかったのもあるが、その実力は明らかに自分よりも上だと悟った。そのイーブイの実力は、彼女にとって尊敬するに値するものだった。

 

「ティア!」

「うん!お兄様!」

 

二人は互いに確認し頷く。条件を満たした今、イーブイにとっての切り札を解き放つ時である。その切り札とは……。

 

『とっておき!』

『イッブイッ!』

 

文字通りのとっておき。自分の所持している技を全使用することで初めて発動することができるとっておきの技。イーブイはスピードスターとは比にならない大きな星を生成し、アクジキングに向かって解き放った。その星はアクジキングでさえとても吸収するほどができない程強大なもので、アクジキングの全身を光が包みこんだ。

 

 

 

『アアアアアアアアアあああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』

 

 

 

アクジキングは光に包まれると、その大きな巨体ごとゆっくりと姿を消し次第に消滅していった。アクジキングは光の柱へと変化し、光がアローラ全域に広がり包み込んだ。

 

光の柱から一粒の光がリーリエの足元にゆっくりと落ちた。光の粒子が地面に吸収されると、そこから緑の芽が出てきた。環境汚染とアクジキングの影響で完全に消滅したと思われた植物が、目の前に再び誕生したのである。その姿にリーリエは温かい気持ちになり、そっと涙を流していた。

 

次の瞬間、先ほどまで汚染され汚れていた空が晴れ渡り、リーリエ、ロウ、ティアの三人は再び空を見上げる。するとそこには人間を見限って消えたはずの守り神、カプ・コケコがこちらを見下ろしていた。

 

「守り神……様?」

『…………』

 

カプ・コケコは静かに見下ろす。空を見上げ手を広げるカプ・コケコ。そんな彼から光が放たれ、その光はリーリエたちを含むアローラを包み込んだ。

 

あまりの眩しさに目を瞑る三人だが、リーリエは眩しい中でもゆっくりと目を開いた。するとそこには一人の男の横顔が見え、彼の表情は口元が緩んだ笑顔であった。その表情はリーリエをどこか優しい気持ちにさせ、安心感を与える不思議なものであった。

 

(あなたは、先ほどの……)

 

アクジキングに襲われる前にも見た記憶のある男の後ろ姿。リーリエは手を伸ばそうとするが、その男は歩きはじめどんどんとリーリエから距離を離していく。リーリエも釣られて歩き始めるが、距離は縮まることはなく次第に彼の姿が見えなくなってしまった。

 

彼の姿が見えなくなった瞬間、リーリエは光から解放される。そこにロウとティア、イーブイの姿はなく、残されたのはリーリエとピクシーだけであった。

 

「今のは、一体……」

『ピクシ?』

 

リーリエの脳裏に焼き付くように残った男の姿。はっきりとは見えなかったが、それでも薄っすらとした彼の姿はリーリエの記憶に刻み込まれた。その男を何故か知っているのではないかと、そんな気がした。

 

「……もしあなたに出会えていたら、違った未来もあったのかもしれませんね。」

 

リーリエは久しぶりに澄み切った空を見上げる。大きく深呼吸をし、アローラの空気はこんなにも美味しかったのかと、久しぶりの感覚をじっくりと味わう。以前は当たり前のように感じることのできたアローラの自然。

 

「これからは私が……私たちがこの豊かな自然を守っていかなくてはなりませんね。」

 

彼女は小さくそう呟いた。彼女の決意を歓迎し祝福するように、太陽は温かくアローラの地を照らしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロウ、ティア。そろそろ起きないと遅刻するよ。」

『んっ』

 

ゆっくりと揺らされてロウとティアは目を覚ます。その優しく語り掛ける声は、二人にとってとても聞き覚えのある大好きな声で、とても懐かしく感じる安心感のある声だった。

 

目を開けると、そこに立っていたのは自分の大好きな父、シンジの姿であった。

 

『っ!?お父様!』

「っとと、ど、どうしたの二人揃って……。」

 

二人は父の姿を見た瞬間、感極まって涙を流しながら父に抱き着いていた。突然抱き着かれたことでシンジは反応できず戸惑うが、怖い夢でも見たのだろうかと二人の頭を撫でる。

 

「どうしたのですか?何やら大きな物音が……」

『お母様!』

 

今度は姿を見せた母、リーリエに抱き着いた。当然リーリエも反応できるはずもなかったが、急に甘えん坊になった二人の頭を優しく撫でる。

 

『イッブイ♪』

『イーブイ!ありがとう!』

『イッブブイ♪』

 

今度はイーブイがひょっこりと顔を出すと、二人はイーブイを抱きしめる。イーブイも嬉しそうに笑顔で抱きしめられている。

 

なんだかいつもと様子が違うなと思いながら、それでも怖い夢でも見たのならば大切な息子、娘を慰めてやろうとシンジとリーリエは二人でその温かな腕で優しく包み込んだ。

 

ロウとティアが見ていたのは果たして夢なのか、幻なのか、はたまた……。その正体は結局誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らを、黒い何者かが見下ろしていた。黒い何者かは表情を変えることなく、自らの暗黒の影の中へと姿を消すのだった。

 

 

 

 

 




正直こんなに長い話になるとは思わなかったので今回の話の補足、設定などは次回のお話で書きます。それまで自分の中で考察でもして待っていただけると。

あっ、ありきたりな設定だと思うのであんまり期待しないで欲しいです。期待されすぎると私の胃が……。



因みに現在色イーブイを大量捕獲中です。現状91匹捕まえていて、濃霧の証持ちが♂5匹、♀3匹で♀はドリームボール2、ラブラブボール1で捕まえました。DLC後編配信まで全力で厳選(乱獲)して行きます。

証持ち色ニンフィア♀6匹の歌姫パーティでブルーベリー学園に殴り込みに行く予定

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