ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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※詳しくは後編で

実は結構前から考えていた内容ではある


ありえたかもしれない悪夢 前編

「んっ……あれ?ここは……」

 

ある日の休日、ロウは目を覚ます。しかしそこはいつもの自室ではなく、何故か見覚えのない外の景色であった。ロウが体を起こすと、横で寝ていた妹のティアが寝返りを打ったのに気づき彼女の体を揺らして起こす。

 

「ティア!ティア起きて!」

「んっ……お兄様?どうかしましたか?」

 

ティアはまだ覚醒しきっていない頭を無理に起こしてまだまだ眠そうに目をこする。しかし目の前に広がる光景を見て、一瞬で目を覚ますことになったのである。

 

「え?こ、これって……」

 

そこには思わず絶句してしまう光景が広がっていた。まるで廃虚のように建物が崩壊していて、ポケモンはおろか人が一人もいる気配すらない。本当にここは現実なのか?アニメやドラマの世界なのではないか?と疑ってしまいたくなる光景であった。

 

「っ!?お父様とお母様は!?」

 

自分は家で寝ていたはず。ならば近くに父と母がいるのではないかと探し始めた。しかしどこにも大好きな彼らの姿は見当たらず、誰一人として人間の姿をみることはなかった。

 

「そ、そんな……お父様とお母様は……」

 

大好きは父と母が見当たらない。そんな最悪な状況にティアの顔色は真っ青になっり今すぐにでも泣き出してしまいそうになってしまう。ロウは兄としてそんな絶望的な表情をするティアのことを慰める。

 

「だ、大丈夫!お父様とお母様が簡単にいなくなるわけない!きっと今頃僕たちを探してるよ!だから僕たちもあきらめずにお父様とお母様を探そう!」

「う、うん!」

 

ティアはあふれ出しそうになる涙を拭き取り、兄の手をとって立ち上がる。早速両親を探そうと決意した矢先、どこからか瓦礫の動いた音が聞こえた。もしかしたらそこに誰かいるのかもしれないと思い、二人は手を繋ぎながら走り出した。

 

二人は音がした場所まで走り続ける。瓦礫の音が大きくなってきて、ここに確実に誰かがいると確信して二人は辺りを見渡した。すると黒い影がごそごそと動くのが見えた。しかしなんだか様子が変だとロウとティアは警戒して、倒壊したビルに隠れて覗き込んだ。するとそこには想像を絶する存在がいたのである。

 

「え?な、なに、あれ?」

 

あまりにも想定外な存在にティアは思わずそう口にした。その存在を後ろからでしか確認できないが、大きくも黒い色をした丸い背中、両肩から見える大きな手、よくよく見るとその存在は何かを口にしているのが分かった。どうやら倒壊した建物の瓦礫を食しているようだ。

 

その悍ましい光景にロウとティアは一歩後ずさる。その瞬間、地面に転がっている石を踵で飛ばしてしまい、廃虚にコロコロと響いてしまう。その音に気付いた黒いデカブツは動きを止め、時間をかけて後ろへと振り向いた。その瞬間、そのデカブツの顔があらわとなり彼らに更なる恐怖を植え付けた。

 

そのデカブツの腹部はとてつもないほど大きな口が広がっており、何本もの牙が生えている上にまるでブラックホールのように奥底が見えない。そして両端からも竜を思わせるような口みたいなものが二本生えており、まるで悪魔をイメージさせるようなその見た目はロウとティアの動きを封じるには充分な見た目であった。

 

「っ!?」

 

デカブツと目が合った。そう思った二人は恐怖から腰が抜けて動けず、デカブツはこちらを見下ろしてくる。そして大きな二本の口を二人に伸ばしてきたのであった。

 

二人はもう駄目だと恐怖から思い目を瞑る。現状に訳も分からず死ぬなんて嫌だと父と母の顔を思い浮かべながら。その時彼らの耳に入ってきたのは甲高くも苦しそうな叫び声であった。

 

一体何があったのかと二人は勇気を出して目を開いた。そこには自分たちのよく知る小さな存在で、それでも今の自分たちには大きく頼もしいと感じる存在であった。

 

『イッブ!』

『い、イーブイッ!』

 

そこにいたのは色違いのイーブイ、つまり父の手持ちでロウとティアにとって仲の良い大切な友だちであった。

 

どうしてイーブイが突然ここに現れたのかは不明だが、二人はそんなことを考えている余裕はなかった。それよりもイーブイがいくら強いとは言え、相手とのサイズ差を改めて見比べてみるとあまりにも雲泥の差であり、とても勝てるビジョンが見えなかった。

 

それでもイーブイは自分にとって大切な友だちであり弟、妹分的なロウとティアのことを守ろうと自分よりも遥に大きな相手に立ち向かう。ロウも何か策はないかと思い思考を巡らせるが、未知の相手が敵で知識も全くないためいい案が思い浮かばず焦りだけが出てしまう。

 

その時デカブツがイーブイの姿を視認すると、先ほど攻撃された恨みなのかデカブツはイーブイに向かって甲高い咆哮をすると共に再び二本の口を伸ばしてきた。イーブイも反撃の態勢を取るが、それと同時に今度は女性の声と共に別の攻撃がデカブツの動きを止めるのだった。

 

「ピクシーさん!ムーンフォース!」

『ピックシ!』

 

やってきたのは白いピッチリとしたスーツを着た金髪の若い女の子と大きな体をしたピンク色のポケモン、ピクシーの姿であった。しかしその女の子はどことなくロウたちにとって見覚えがあり、雰囲気も知っているような気がした。

 

すると記憶の中にいるとある人物の姿が彼女の姿と一致した。そう、自分たちの大好きな母親であるリーリエであった。だが自分たちの知っている美人で優しい母親とは裏腹に、その少女は母親よりも若く小さい上に、勇ましいと言う表現がある表情を浮かべていた。

 

「お母様!」

 

ティアは咄嗟に母親に似たその少女のことをいつものようにお母様と呼ぶ。その言葉を聞いた少女は首を傾げながらロウとティアに呼びかける。

 

「お母様?あなた達!とにかくこちらに!早く!」

「っ!?は、はい!」

 

少女が自分たちを呼ぶ呼び方に違和感を感じたロウだが、今はそんなことを気にしている場合ではないと妹のティアの手を引いて少女の指示通り彼女に着いていった。イーブイもまたロウとティアの後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ここまでくれば安心ですかね。」

 

少女に着いて行き辿り着いたのは、崩落しているもののまだ僅かに原型を留めている建物の内部であった。ピクシーのムーンフォースでデカブツが怯んでいる内にかなりの距離を走ったので今ならば少しは安全であろう。少なくともあれ程の巨体であればすぐに追いつくことは不可能だ。

 

少女は華奢な見た目から想像できないくらいの体力の持ち主だったようで、あれだけ走ったにも関わらず呼吸が乱れていなかった。対してロウとティアは年齢的に幼いこともあって肩で息をしている状態だ。周りには敵と呼べる存在はおらず、安心したのかロウとティアはその場に座り込んだ。彼らの様子を見た少女も土台になっている瓦礫に座り込む。

 

「とりあえず、いったんここで落ち着いて話しましょう。」

「は、はい、ええっと、助けていただいてありがとうございます。」

「ありがとうございました。イーブイもありがとね。」

『イッブ♪』

 

ロウは助けてくれた少女にお礼を言う。ティアはイーブイにもお礼を言い、抱きかかえたイーブイの頭を優しく撫でた。イーブイは気持ちよさそうな声を出して目を細める。

 

「まずは自己紹介を。私はリーリエと言います。こちらが私のパートナーのピクシーさんです。」

『ピクシッ!』

 

ロウとティアは少女の名前を聞いて驚き目を見開いた。リーリエは二人にとって大切な母親と同じ名前である。そのうえ彼女のパートナーはアローラの姿をしたキュウコン、シロンなのである。しかも自分たちの知る母に比べて若いというよりも、かなり幼く見える。自分たちよりも少し年上のお姉さん、といった印象だ。

 

「あの、どうかしましたか?」

「い、いえ!えっと、僕はロウと言います!そしてこちらが妹の……」

「は、はい!ティアです!」

 

どこか様子のおかしいロウとティアに少女、リーリエはどうしたのかと尋ねると、慌てて二人は自己紹介をする。ロウはお互いの自己紹介を済ませると、一つ気になることをリーリエに尋ねる。

 

「え、えっと、つかぬことをお伺いしますが、シンジ、と言う人はご存じですか?」

「シンジ、さんですか?お二人のお友達ですか?」

「いえ、僕たちの父、なのですが。」

「お父様ですか……申し訳ありませんがご存じないです。」

「そう、ですか……。」

 

ロウの質問にリーリエは少し悩んだ素振りを見せるも、自分の記憶にそのような人物は思い浮かばなかった。その解答にティアは暗い表情を浮かべていた。

 

頭の良いロウはその解答で可能性のある結論を思いつく。一つは父と出会う前の母の過去の世界であること。非現実的ではあるがなんらかの理由が原因で過去にタイムスリップした可能性だ。しかしタイムスリップしたにしてはあまりに世界が荒廃しすぎていて寒気すら感じてしまう。それになにより父のポケモンであるイーブイがいることも説明がつかない。

 

もう一つは自分自身が見ている夢であること。自分の持っている記憶が混ざり合って、辻褄のあわない夢を見てしまうことは珍しいことではない。だがその場合でも違和感は生じる。あまりにも自分の意識がハッキリしすぎている点だ。しかも呼吸や見ている景色、走った時に感じた疲労感、どれをとっても夢と思えない要素が揃いすぎている。なにより夢に母親が出てきているならば、なぜ父親はでてこないのだろうか。結局ロウとティアの疑問は晴れないままだが、今はこの状況を理解し何とか解決するしかないであろう。

 

「おか……リーリエ、さん。先ほどの大きなポケモン?は一体……。」

「あれは……人間のエゴが生み出してしまった悪魔です。」

「悪魔?」

「コードネーム“GLUTTONY”。通称アクジキング。」

「アクジ、キング……。なんだか怖かった。」

 

ポケモンとは思えない先ほどの異形な姿にイーブイを抱きかかえるティアの体は震えていた。イーブイは恐怖で震えるティアに優しく触れてなだめていた。

 

「人間のエゴってどういうことですか?」

「……もともとこのアローラ地方には大きな街がありました。自然も豊かで、人間たちもポケモンたちも多く住んでいて、とても平和でした。ですが……」

 

リーリエは過去の出来事を思い出しながら顔色を暗くする。

 

「人間は一度便利なものを手に入れると簡単に手放すことはできません。そして更に便利にしようと努力を重ね研究します。それがいけなかったのでしょう。研究が進むにつれ、世界の環境汚染もともに進んでいきました。環境汚染問題を解決するべく生み出したのが、あのアクジキングなのです。」

「え?でもさっきのは……」

 

ロウが疑問に思ったのは恐らくリーリエの言わんとしていることと同じだろうと、彼女も頷いて話を続ける。

 

「汚染された空気や排出されたゴミを食べるために、アクジキングが生まれました。なんでも食す大食漢、それがアクジキング。ですが彼の食欲は人間が想定していたものよりも遥かに悪食だったのです。」

「さっき、ビルの瓦礫を食べていたのも。」

「はい。彼自身の食欲を満たすための行為です。ただただ周りにあるものを無差別に食べ尽くす。そこには善意も悪意もなく、ただただ食欲という一つの欲を満たすためだけの存在。」

「もしかしてさっき、イーブイや私たちのことも……」

「食べようとしていたのでしょうね。彼にとって、周りの生き物すらも食べ物に見えているでしょう。」

 

その衝撃の真実にロウとティアはショックを受ける。まさか人類が研究の末に生み出した存在が人類にとって最大の敵になってしまうなどと想定しているはずもなかっただろう。

 

しかしだとすると一つ疑問が残ってしまう。その想像は一切考えたくもないものであったが、ここは聞くしかないとロウは勇気を出してリーリエに聞くのだった。

 

「も、もしかしてこの世界の人たちって、みんな……。」

「いえ、アクジキングに食べられたわけではありません。殆どの人間はみな別の世界に逃げて移住しています。ただ、私のように一部の人間はアクジキングを止めるために、ここに残っただけです。皆さんの現在の所在は、一切不明ですが……。」

 

リーリエと共に残ったメンバーはもしかしたら、と最悪な想像が三人の頭を過る。そんなこと、考えたくもないが先ほどのアクジキングを見ると、その可能性も否定できない。だがリーリエは屈することなく、二人にある決意を告げた。

 

「私は、なんとしてでもあのアクジキングを止めます。例え皆さんが倒れてしまっていたとしても、無事であったとしても、私には彼を止める義務があります。でないと、私は……。」

 

その彼女の瞳には悲痛の感情と強い信念を持った想いが込められていた。ロウとティアも正直あんな怪物と戦うなんて怖い。当然だ。自分たちよりも遥かに大きく、周りの物を食べ尽くすような怪物が怖くないわけがない。大人だって怯えて逃げてしまっても仕方のないような存在だ。しかしここで逃げてしまっては、尊敬する父に笑われてしまう。だったらロウとティアの考えは一つであった。これが夢だろうが現実だろうが、二人には関係がなかったのである。

 

「リーリエさん!僕たちも協力します!」

「少し怖い、けど、みんなの平和のために私も戦います!」

『イブッ!』

「で、ですがアクジキングは危険です!お二人の様な小さな子どもにまで戦わせるわけにはいきません!」

「小さな子どもじゃありません!僕たちはチャン……シンジの息子と娘です!」

「絶対に足は引っ張りません!お願いします!」

 

ロウとティアは頭を下げて頼み込む彼らの両親もまた正義感の強いトレーナーであったため、両親の血は無事子どもたちにも分けられたと言うことなのだろう。リーリエもそんな二人の姿を見て、頷いて答えた。

 

「……分かりました。ですが危なくなったらあなた達だけでも逃げる事、それだけは約束してください。」

『は、はい!』

 

こうしてリーリエ、ロウ、ティアによるアクジキング討伐作戦が決行されることになったのであった。




ここがどんな世界なのかは後編で分かります(タブンネ)

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