ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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お久しぶり


とある少年と少女のお話

ここはメレメレ島にあるポケモントレーナーズスクール。今日も今日とて、ロウとティアの兄妹は授業を受けていた。そして現在行っている授業はバトルの実践授業なのだが……。

 

「うー……また負けた……」

「お、落ち込まないで、お兄様。」

 

現在進行形でロウは落ち込んでいた。勉学の方は学内トップクラスの成績を収めているロウではあるが、バトルの実践に関しては下から数えるのが早いであろう順位である。ティアはそんな兄のロウを慰めているのだが。

 

「大丈夫!いつかお兄様もお父様みたいなバトルができるようになるから!」

「そう言うティアこそ勉強の方はからっきしだけどねぇ。」

「うっ、あっ、そ、それは……」

 

ロウの言葉にティアは視線を逸らした。ロウは勉学で良い成績を残している反面、ティアは実技で非常に良い成績を残しているのである。つまりその逆も同じで、ロウが実技を苦手としているのに対し、ティアもまた勉学を苦手としているのである。ある意味似た者同士であるところが兄妹の証拠と言えるだろうか。

 

お互いに現実を突きつけられたところで同時に大きな溜息を吐く。父親はみんなから憧れる最高のチャンピオンであり、知識も実力も兼ね備えている理想の人物。そんな彼の顔に泥を塗るかのような自分たちに心底呆れかえってしまう。

 

もちろん自分たちが最も尊敬している父が楽をして今の地位や実力を身に付けただなんて思っていない。しかし尊敬する父の子どもとして、せめて恥じない知識や実力くらいは身に付けたいものだと思っている。

 

しばらくして授業が終わり、今日一日の終わりのベルが鳴り響いた。先生や生徒たちに別れの挨拶をしたロウとティアは、まっすぐ自宅へと帰るのであった。

 

『ただいま帰りました、お母様』

「お帰りなさい、ロウ、ティア。お疲れ様です。冷蔵庫におやつのプリンを用意してあるので、手を洗ってうがいをしたら食べてもいいですよ。」

『はーい!』

 

家ではエプロン姿で家事をしていた彼らの母親、リーリエの姿があった。リーリエが笑顔で二人を迎えると、早速おやつのプリンを食べることを楽しみにしながら持ち物を自室に置いて、母親の言う通りに手洗いうがいをキチンとしてプリンを食べる。

 

また二人が帰ってきたことに気付いたイーブイもロウとティアの元に擦り寄ってきたのであった。イーブイはロウとティアの間に座り込み、二人は母の用意してくれたプリンを食べ始めた。

 

「お二人とも。今日のスクールはいかがでしたか?」

「楽しかったです。ただ……」

「ただ、どうかしたのですか?」

「いえ、その……」

「お兄様はバトルが苦手なので相談したいんだと思います。」

「ちょ!?てぃ、ティア!」

 

バトルが苦手なことを暴露するティアに顔を赤くして怒るロウ。恐らく大好きな母親にバトルが苦手なことを知られるのが恥ずかしかったのだろう。なにせ母親であるリーリエはかつて、チャンピオンである父親とあれだけの激闘を繰り広げることのできた優秀なトレーナーなのだから。

 

幻滅されてしまわないだろうか、と少し不安になってしまい俯くロウであったが、そんな息子にリーリエは優しく声をかける。

 

「ロウ」

「は、はい!」

「あなたはトレーナーとして強くなりたいのですか?父親であるシンジさんのように?」

「はい、それはもちろん……」

 

憧れである父親でありチャンピオンであるシンジ。しかし彼の背中は今のロウとは遠く及ばない雲の上の存在。そんな彼の背中を少しでも見たいと言う欲はもちろんある。だが逆に自分の才能でその気持ちを抱くのは父に対して失礼なのではないかとも卑屈になってしまう。

 

そんな彼の気持ちを悟って、リーリエはロウにある話を聞かせることにした。

 

「……少し昔話をしますね。ある時、一人の少女がいました。その一人の少女は、ポケモンバトルが苦手でした。理由は、ポケモンが傷つくのを見るのが辛い、ということでした。」

 

母親の語る昔話に、ロウだけでなくティアも静かに聞いている。その少女が誰のことかは分からないが、自分と理由が違うとはいえバトルが苦手だという点はロウの現状と一致している。

 

「しかしその少女は、ある時一人の少年と出会いました。その少年はバトルがとても強く、様々な強敵と戦い、試練を突破し、すべての脅威を退きました。少年は少女のことを幾度となく助け、少女は少年に幾度となく助けられてきました。少女は少年に憧れを抱きました。バトルが苦手だった少女は、いつの日か少年のように強くなりたいと願うようになりました。いつか彼の背中に追いつけるように、隣に立ちたいと願い、旅に出ることを決意します。ですがそのためには、少年との別れを決意する必要があったのです。」

「え?その人、もしかして好きな人と別れちゃったのですか?」

 

ティアが悲しそうな表情で尋ねる。リーリエもティアの言葉に静かに頷き、話を続ける。

 

「少女にはやるべきことがあったのです。それは大切な母の病気を治すこと。少年が少女のことを助けたように、自分もまた大切な人を自分の手で助けたいと強く願っていたのです。だから少女は意を決し、少年の元を離れることにしたのです。」

「そ、そのあと、二人は出会うことはできなかったのですか?」

 

ロウが不安そうに尋ねる。折角巡り合うことができた二人なのに、永遠の別れが訪れてしまうなんてストーリーとして悲しいなんてものでは済まない。最終的な展開にロウとティアは不安な気持ちでいっぱいであった。しかしその疑問に、リーリエは笑顔で答える。

 

「少女は、努力の末母親を病から救い出すことができました。大切な母を救い出し、少女は母と共に幸せに過ごすことができました。そして少年と別れて2年が経った時、ある決断をすることになります。それは、少年との約束を果たすこと。」

「男の子との約束?」

「はい、大切な約束です。その約束は、いつか一緒に旅をしたいというもの。ですが今の自分では彼と一緒に旅をするなんてできるはずもない。だから少女は自分のポケモンと共に旅に出ました。しかし少女は一人で旅をするにはまだまだ未熟で、絶体絶命のピンチに陥ってしまいます。」

「そんな!女の子はどうなっちゃうんですか!?」

 

慌てて身を乗り出すロウとティア。子どもらしくお話の中にのめり込む姿に小さく苦笑しながら、リーリエは「大丈夫ですよ」と答えてお話をつづけました。

 

「そんな時現れたのは、かつて約束をしていた少年だったのです。少年は別れた時と変わらず、少女をピンチから救い出したのです。少女は泣きました。自分が誰よりも会いたい相手と出会えて、2年前と同じように助けてくれて嬉しかったのです。二人は思いがけぬ形で、2年ぶりの再会を果たしました。それと同時に、これまた思いがけぬ形で約束も果たすこととなったのです。」

 

まさかの形で再会した二人に嬉しくなり二人はホッと安心した溜息を吐いた。

 

「それから少年と少女の旅が始まりました。しかし少女はバトルに関しては素人でした。途中で挫折しそうなこともありましたが、少年やポケモンと共に成長を繰り返し、バトルの腕前も少しずつ、少しずつ上げていくことができました。」

「ポケモンが傷つくのが嫌だったのに、怖くなかったんですか?」

「少女はそれでもポケモンが傷つくのはやっぱり怖い、と思っていました。ですがこうも思うようになったのです。ポケモンバトルはただ傷つけあうためのものではない。トレーナーとポケモンが一つとなり、心を通わせあうもの。トレーナーはポケモンのために、ポケモンはトレーナーのために。だから少女は、少年とポケモンのために強くなろうと思うようになりました。ポケモンバトルを通して、自分も成長することを決意することができたのです。」

「ポケモンと……一つに……」

「少女は旅を通して大きく成長しました。旅の中で多くの人と出会い、多くのことを学び、多くの景色を見てきました。そして旅が終わりを迎えた時、少女は少年にもう一つの約束を交わされました。今度は自分とバトルしよう、と。」

「男の子と女の子のバトルってことですか?」

 

ティアの問いにリーリエもはい、と頷く。

 

「少年と少女はその後、自分たちの故郷とも言える場所に帰りました。しかしそこでは、新たな脅威が待ち構えていました。その正体は、少女を苦しめていた悪夢だったのです。」

「そんな!?女の子は大丈夫なんですか!?」

「少女は最初不安で不安でいっぱいでした。ですが少年や他にも多くの仲間たちの助けを借りながらも、悪夢を打ち破ることができました。かつて少女を苦しめていた悪夢の霧は晴れ、少女もようやく前を向いて歩くことができるようになりました。」

 

少年と少女の波乱万丈な日常にハラハラしながらも、ロウとティアはどこかワクワクした様子で話しの続きを楽しみにしている。そんなお話もそろそろ最終局面。リーリエは少年と少女の最後の物語を語りだした。

 

「少女は少年との約束を果たすため、再び旅に出ました。以前の旅で出会ったポケモンたちと力を合わせ、かつて少年が乗り越えた試練を自分も乗り越え、一歩、また一歩と少年の背中に近づいていきました。かつて少年と共に見た景色は、改めて眺めてみるとまた違って見えていました。それがまた楽しくて、少女の中でまた一つ特別なものとして根強く残り続けました。」

「それで、男の子とはどうなったのですか?」

 

ロウとティアが最も気になる結末。それは紛れもなく少年と少女の約束である。その約束はもう目の前であり、その時が来たのだとリーリエも語った。

 

「少女は約束の舞台に足を踏み入れました。そこには他にも多くのライバルが集結しており、全員が少年と戦うことを夢見てやってきた猛者たちでした。少女は多くのライバルたちと戦うことになりましたが、苦戦を強いられることは逃れられませんでした。試合に勝てば勝つほど相手は手強さを増しましたが、少女は勝利をもぎ取り遂に少年との約束の場所へとやってきたのです。」

 

そこまで来るとロウとティアは口を開くことなく、リーリエの語る物語に耳を傾けていた。

 

「少年と少女の戦いは激しく熱いものでした。多くの人々が見守る中、二人は自分たちの世界に入り、バトルの中で多くのことを語り合いました。お互いが出会うことがなかった空白を埋めるかのように、バトルを通して何分も、何時間も、何日も経過しているのではないかと思うほど、長い時間語り合うことができました。結果、少女は少年に勝つことはできませんでした。しかし少女は心の底からバトルを楽しむことができました。かつてはポケモンが傷つくことが苦手だと感じていた少女も、少年との戦いの中で新しい自分を見つけることができました。」

「そのあと、少年と少女はどうなったのですか?」

「約束を果たした少年と少女はその後、結ばれました。長いようで短い、短いようで長い恋が実り、少年と少女は二人の子どもに恵まれ、幸せに暮らしています。」

 

その言葉を聞いて二人は確信した。そのため、ロウはその最後の疑問を母親に問いかけた。

 

「それってもしかして、お父様とお母様のお話でしょうか?」

「ええ、そうです。お母さんがお父さんと出会い、結婚して共に暮らすまでの長い長いお話ですよ。」

 

意外だった。あれだけ父と激戦を繰り広げた母が元々バトルが苦手だったとは思わなかったのだ。父との出会いがきっかけでバトルを始め、トレーナーとして成長するきっかけになっただなんて誰も思うまい。

 

「ロウ、それにティアも、あなたたちはまだ小さい。今はまだバトルが弱くても学べることはたくさんありますよ。初めから才能がないなんて諦めず、コツコツと小さな努力を続けて行くことが大切です。努力を重ねたのはお父さんも同じなのですから。」

「お父様も?」

「私も昔のシンジさんを全て知っているわけではありません。ですがあの人も昔から全てが上手くいっていたわけではありません。失敗を重ね、後悔をし、それでも諦めずに歩いてきた。そして今もポケモンさんたちと共に成長しているんです。だからあなたたちも現状に嘆くことなく、ゆっくりとでいいんです。前を向いて歩き続けてください。あなたたちはあのチャンピオン、シンジの息子と娘なんですから。もし躓くことや悩み事があれば、お父さんやお母さんに相談して一緒に解決していけばいいんです。」

『っ!?はい!』

 

その一言で元気付いたロウとティアは力強く返事をした。確かに今はまだお互い苦手なことがハッキリしている。それはかつての父と母も同じであり、様々な経験を経て今のように立派な大人に成長したのだ。どのような経験も決して無駄になることなんてない。

 

ロウとティアは母親の貴重な経験を元にしたお話を胸に深く刻み込み、慌てることなく父親の背中を追いかけることにするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ロウとティアの努力が実を結び隠れた才能が花開くのはまだまだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

 




今回は過去の総集編みたいな話になりました

今ランクマッチに集中してて中々他の時間がとれてないです
もうちょいで最高ランク行けそうなんだけど……

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