ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
相棒ニンフィアとの協力の末、暴走するキングバサギリの騒動を鎮圧させることに成功したシンジたち。その日の夕刻、いつもの日課でシンジは茶屋に訪れいももちの注文を済ませて待っていたのだが、その間にシンジは疲労から机に突っ伏していた。
しかしその理由はバサギリとの戦いで疲弊したから、ではなかった。一般人であるサレナを重要任務に同行させたことをシマボシ隊長にバレてしまったからである。一応任務を無事成功させたことと、サレナ本人からの口添えもあり今回は不問にさせてもらったが、隊長からの説教など諸々長時間に渡る疲労が響き今こうして力尽きているのである。
「さ、さすがに疲れた……」
「まあ二時間ぐらい説教が続けばね」
「シマボシ隊長の無言の圧力は精神的にくるからな」
常日頃から無表情のシマボシ隊長に無言で睨まれてしまったら、流石のシンジでも精神的に追い詰められてしまう。それも長時間に渡れば余計ダメージはでかくなったのであろう。その原因ともなったサレナは、シンジに対して申し訳なさそうに頭を下げて謝ってきた
「シンジさん!今回は私の我儘のせいですみませんでした!」
「ううん、今回は僕の独断だったし、サレナが気にすることないよ。」
「で、ですが、私が無理してお願いしたからシンジさんにも迷惑をかけてしまって。」
別に気にしなくてもいいと言うシンジだが、それでもサレナは罪悪感から何度も頭を下げて謝ってくる。お互いに譲らないためこのままでは埒が明かないと、シンジはそれならとある提案をする。
「だったら今日のイモモチ、サレナが奢ってくれないかな?それで今回の件は無かったことにしよ?」
「え?そ、それだけでいいんですか?」
サレナの返答にシンジも大丈夫だと答える。彼がそう言うならと、サレナはシンジの提案を快く受け入れてイモモチを提供した。そんな二人のやり取りを、テルとショウは笑顔で眺めていたのだった。
それから翌日。シンジは改めて調査を開始しようと村の外へと出たところで、テルとショウがある人物を連れてシンジに呼びかけてきた。
「シンジ!」
「テル?それにショウまで。どうかしたの?」
「実は今日はシンジに紹介したい人がいて連れてきたんだ。」
「紹介したい人?」
そうしてテルたちの前に歩み出てきたのは、身長が非常に高く中性的な見た目で、金髪の長い髪に左目が隠れた男性であった。その人物は笑顔で微笑みながらシンジに話しかける。
「あなたがシンジさんですね?ジブンはイチョウ商会に所属しているウォロと言う者です。以後お見知りおきを。」
ウォロにそう丁寧にあいさつされたので、シンジも自己紹介を返答する。するとウォロはどこか興味深そうにシンジの姿をじろじろと凝視していた。
「ふむふむ。なるほどなるほど、あなたが……。」
シンジを見ながらぶつぶつと小さく呟いているウォロ。シンジに対する人間観察が終わったのか、ウォロはニヤリと口角を上げて再びシンジに話しかけた。
「アナタ、とても面白いです!別の場所からやってきたと言うのも実に興味深い。」
好奇心旺盛なウォロはモンスターボールを取り出しながらシンジに提案をする。
「突然ですが、ジブンのポケモンとバトルしてはいただけませんか?」
「バトル、ですか?」
「ええ。ぜひあなたの実力を見せていただきたいのです。なにせジブンはあなたの実力に興味津々ですので♪」
ウォロは笑顔でシンジにそう頼み込んだ。おそらく彼は単純な興味本位でシンジにバトルを申し込んだのだろう。しかしシンジはどことなく彼が興味だけでなく、なにか別の意味を求めてバトルを申し込んできたのではないかと薄々ではあるが勘ぐってしまう。
だがそれは彼が悪意を持ってなのか、それともまた別の感情があるのかは不明だが、どんな理由にせよシンジがバトルの申し込みを断るはずもなく、快く彼のお願いを受け入れた。
「いいですよ。それではバトルしましょうか。」
「おお!感謝します!」
そうしてシンジもモンスターボールを手に取り、相棒であるニンフィアを繰り出した。ウォロもまた、自分のモンスターボールからポケモンを繰り出した。ウォロが繰り出したポケモンははりたまポケモンと呼ばれるポケモン、トゲピーであった。
「では始めましょうか。ウォロさんからどうぞ。」
「さすが余裕がありますね。では遠慮なくいかせてもらいますよ!トゲピー!たいあたり攻撃!」
『トゲッピ!』
そう言ってウォロとトゲピーから先に動く。トゲピーは早速ニンフィア目掛けて一直線に突撃していった。
しかし当然ニンフィアはその攻撃をひらりと簡単に回避する。その動きを見てウォロはまたしてもニヤリと笑みを浮かべていた。それは別に余裕があるから、などと言う理由ではない。ただ単純にシンジとニンフィアに対する興味故のものだろう。
「でしたら今度はようせいのかぜです!」
『トゲピッ!』
今度はようせいのかぜでニンフィアに追撃を加える。だがその攻撃がそう簡単に通るわけもなく。
「ニンフィア!こっちもようせいのかぜ!」
『フィア!』
ニンフィアも同じくようせいのかぜで反撃をする。同じようせいのかぜであっても当然威力は全く異なり、トゲピーのようせいのかぜはあっさりと押し返されてしまいトゲピーは吹き飛ばされてしまった。
「っと、大丈夫ですか?トゲピー。」
『トゲピ』
飛ばされたトゲピーをウォロが優しく受け止める。ウォロが受け止めたことにより、思った以上のダメージもなくトゲピーはまだまだ元気であった。
しかしお互いの力量差は圧倒的であり、これ以上戦っても意味がないと悟ったウォロはトゲピーをモンスターボールに戻した。
「いやぁ、さすがですねシンジさん。ジブンでは手も足も出ませんでした!」
ウォロは笑顔で参った参ったとシンジの実力を称賛する。そして彼の実力を知ったところである頼みを彼にするのだった。
「実はあなたの実力を見込んで、折り入ってお願いしたいことがあるのです。」
「お願い、ですか?」
「ええ。その件について色々とお話をしておきたいので、ジブンがお世話になっている場所へと案内したいと思います。ジブンを信頼して着いてきてくれませんか?もちろんテルさんとショウさんも。」
突然着いてこいと言われて怪しくないわけではない。しかし元よりシンジたちは彼のお願いを聞くつもりであった。特に彼の事を怪しむことなく、シンジ、テル、ショウの一行はウォロの後を着いていくのであった。
ウォロに案内された場所は一つの家が建ててある小さな里であった。里と言うには些か小さすぎるとは思うのだが、ウォロの話からするとここは古の隠れ里と呼ばれる、外からは隔絶された場所であるのだそう。ここには彼がお世話になっている一人の人物が住んでいるらしいのだが……。
「コギトさん、ただいま帰りましたよ。」
「ふむ。おぬしはいつも突然帰ってくるのお。しかも珍しく客人を連れてくるとは。」
そこには黒いドレスを着た一人の女性が優雅にティータイムを楽しんでおり、ゆっくりとウォロたちの姿を見まわした。その女性の雰囲気は一言で言うとミステリアス、と言った風貌で、間違いなく世間一般的に言えば美人の部類に入るのであろう。
「それで、彼らは一体誰なのじゃ?」
「ええ。彼らはジブンの協力者となってくれるかもしれない方々ですよ。」
「ほう。おぬしはまだ諦めていなかったのじゃな。」
「もちろんです。ジブンは執念深い方なのでね。」
彼女の言葉にウォロは冗談っぽく返答すると、協力者となってくれるシンジたちの事を彼女に紹介しはじめる。
「彼らはギンガ団に所属している者たちです。」
「初めまして。僕はシンジと言います。」
「俺はギンガ団のテルです。」
「えっと、テル先輩の後輩のショウです。」
「ふむ、なるほど。わらわはこの家の家主であるコギトと申すものじゃ。よろしく頼むぞ。」
「彼女は……まあジブンにとって母親みたいな存在ですかね。」
「これこれ何を言う。わしはまだそのような年齢ではない。せめて姉と呼ぶのじゃ。」
「あなたは見た目以上の年齢でしょうに……」
と彼女に聞こえない程度の声量で呟くウォロ。誤魔化すように咳ばらいをし、早速本題に入ることにした。
「あなた方は神話をご存じありますか?」
「神話?」
ウォロの問いかけにシンジは疑問符を浮かべる。記憶を失くしているシンジにはそんな話を知っているはずもない。しかしこの世界の住人であるテルとショウには思い当たる節がある。
神話に深く関わりのあるシンジュ団、コンゴウ団の長であるカイやセキから聞いたことある。彼らによるとシンオウ様と呼ばれる存在がこの世界の時間、空間を創造したのだとか。だがおかしなことに二人の言い分にはスレ違いがあり、カイは空間を司ると語っていたが、一方でセキは時間を司ると語っていたのだ。シンジュ団とコンゴウ団は互いにいがみ合っている関係であるため、信仰対象のいがみ合いは発生してしまうものなのだろうが、神話としての信憑性は少し薄くなってしまっている。
「ええ。確かに両者の言い分は間違っていません。しかし正しくもありません。なぜなら彼らの言うシンオウ様は複数存在するのですから。」
その言葉にテルとショウは驚きの余り目を見開いた。まさかそんな神々しい存在が複数存在するなどと誰が想像できるものだろうか。つまり彼の言うことが正しいとするとシンジュ団の信仰するシンオウ様と、コンゴウ団の信仰するシンオウ様はまた別の存在と言うことになる可能性が出てきたのである。
シンジュ団の信仰するシンオウ様は空間を司り、コンゴウ団の信仰するシンオウ様は時間を司る。彼らが大切にしている信念は、まさにそれぞれのシンオウ様の特徴が関係しているのであろう。
「そしてもう一人。それぞれのシンオウ様を生み出したと言われている神、アルセウス。」
「アル……セウス……」
シンジはその名前を聞いてどこか懐かしい響きを感じた。驚きや恐怖と言った感情では一切なく、どことなくアルセウスの事を知っているのではないかと言う記憶に関するものであった。
しかし自分が神である存在を知っているはずもないとその考えを頭の隅に追いやった。ウォロは再び話を続ける。
「アルセウスは自分の分身となるシンオウ様を生み出し、そして更に三つの命を生み出した。そして世界に人間とポケモン、様々な命を生み出し感情が生まれた。ジブンはそう聞いています。」
「わらわの一族に代々伝わっている逸話じゃ。この話をウォロにしたら大層興味を示してのお。わらわとしてはあくまで神話として伝わっているだけで信じているわけではないのだが、こやつはそれ以来アルセウスに会いたいと言い放っておるのじゃ。」
「そのような素晴らしい存在がいるのであれば会いたいと思うのは当たり前でしょう!」
先ほどまでの好青年っぷりが嘘のように興奮するウォロ。取り乱したことを恥ずかしがってか突如冷静になり、コホンと咳をして一呼吸ついた。
「そこで、あなたに見ていただきたいものがあるのです。」
そう言ってウォロはシンジにある物を見せてくる。長方形型の薄い緑色をしたプレートであった。
「これは見た目の通りプレートです。実は先日シンジさんがバサギリと戦ったと言われている場所に訪れてみたところ、これが落ちていました。このプレートは全部で18種類存在し、神話では神の欠片とも呼ばれているそうです。」
「神の欠片?それってつまり……」
なんとなく察したシンジたち。そんな彼らにウォロは笑顔で頷き続けた。
「そうです!この神の欠片を集めることができれば、神であるアルセウスへと繋がる手がかりとなるはずです!そして暴走したバサギリの傍にプレートがあったという事は……」
他のキング、クイーンたちも持っている可能性が高い、そうシンジたちも察した。そしてキング、クイーンが持っている可能性があるという事は、同時にバサギリと同様暴走状態に陥ってしまう可能性もあると言うことである。
「そこで実力者であるシンジさんにお願いしたい事と言うのは、言わなくても分かると思います。キング、クイーンたちの暴走を止めていただきたいのです。彼らを野放しにしてしまってはヒスイの生態環境は大きく変化してしまいます。それに加え彼らを止めることができれば、神の欠片であるプレートも手に入る。一石二鳥だとは思いませんか。」
若干私利私欲も混じっている気はするが、確かにこの話が本当だとすればキングとクイーンを放置してしまうとこのヒスイの地が危険な状況に陥ってしまうのは間違いない。それにバサギリのようにポケモンが苦しんでいるのだとしたら、彼らの事を放置などシンジにできるはずもない。だとしたら、シンジのウォロに対する回答は一つだけだった。
「……分かりました。僕で良かったら協力します。」
「俺もシンジみたいに強くないけど、出来る限り協力するぜ!」
「もちろん私も協力します!」
シンジは協力することを承諾し、テルとショウも彼に協力することを申し出た。
「ありがとうございます!あなた方が協力していただければ、ジブンの夢も実現できそうです!我々イチョウ商会も可能な限りバックアップします!」
「いや、おぬしにそんな権限ないであろうに……。」
心強い協力者を得てご満悦なウォロの発言に、「ギンナンも苦労するな」と呟いて呆れるのであった。
今年はピクミン、アーマードコアの新作、ポケモンのDLC、旧作の移入やリメイク作品と中々忙しい年になって大歓喜。龍が如くも出るし暫くは飽きる事もなさそうでいいですが、その分マスターデュエルやポケモンUNITE、ポケモンSVのオンラインの方も時間が取れなくて厳しいのが現実……。