ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
シンジとRR団の黒幕、サカキがバトルを繰り広げていると、そこに突如として光の柱が降り立ち一匹のポケモンが姿を現した。そのポケモンとは、シンジとリーリエが以前カントー地方で出会ったこの世界のミュウツーなのであった。
「ミュウツー、どうしてここに?」
『私に似たサイコパワーを感じたが、不思議と違和感を覚えたのでな。奴からは、邪悪な気を感じる。』
どうやらミュウツーはサカキの操る同族につられこの場所に訪れたらしい。自由を手に入れたミュウツーと闇に染まってしまったミュウツー。本来出会うはずのなかった2人が一つに世界にて出会うこととなった。
ミュウツーは険しい顔でアーマードミュウツーを見つめる。その表情は操られてしまった自分を見る苦しみからなのか、それとも自分を生み出し道具として扱うロケット団に対しての怒りなのか。
ミュウツーはその大きな尻尾で床を叩きつける。その衝撃によって発生した大きな音が室内に響き渡り、その音が開戦の合図となり両者の姿が同時に消える。
互いのミュウツーの素早さは異常なほどであり、目で追いかけようとしても限界があった。両者がぶつかり合う衝撃がシンジたちに襲い掛かり、彼らはその衝撃で飛ばされないように耐えるので精いっぱいだった。
なんどもミュウツー同士がぶつかり合う衝撃が収まると二人とも姿を現し、次第に拮抗状態に変化が訪れる。
吹き飛ばされてしまったのはミュウツーであった。ミュウツーは地面に叩きつけられる直前に受け身をとりダメージを少しでも抑える。鎧の影響で強化されたアーマードミュウツーの方が一枚上手であったようだ。
力の差を思い知らせるかのようにアーマードミュウツーは見下ろしていた。ミュウツーはそんなアーマードミュウツーを見つめ更に顔をしかめる。その瞳からは、怒りよりも悲しみに近い感情をシンジは感じ取ることができた。ミュウツーはそんなシンジの想いを心で感じ取り、彼に一つの疑問を問いかけた。
『……人間。あの時の石は持っているか?』
「え?メガストーンのこと?」
以前シンジとミュウツーが出会ったとき、彼と心を通わせることができるキッカケとなったメガストーン。シンジはバッグの中に大切に保管していたメガストーンを取り出してそれをミュウツーに見せる。するとメガストーンはシンジとミュウツーを結び付けるように強い光を輝かせる。
「この光は……」
『まさか私がまた人間と協力することになるとはな……』
「ミュウツー」
『人間よ。その力、今一度貸してもらうぞ。』
「……分かった。行くよ!ミュウツー!」
シンジはあの時と同じようにメガストーンを掲げる。するとメガストーンの光が先ほどよりも更に強まり、シンジとミュウツーの信頼を形にしていく。大きな光がミュウツーの身体を包み込み、彼の姿を次第に変化させていく。
光から解き放たれたミュウツーの姿は通常よりも小柄になっており、大きな尻尾は後頭部から伸びている異質な形状へと変化した。ミュウツーがメガシンカした姿、メガミュウツーYである。通常時よりも更にサイコパワーが上昇し、その衝撃は形となって現れグラジオたちも肌で感じ取れるほどのものへとなっていた。
「ほう?これは……」
サカキは驚きと同時にそのミュウツーの姿に興味を抱いていた。自分の持つミュウツーは人間の技術力によって生み出したポケモンが、更に人間の力によって無理やり力を増幅させた姿である。しかし目の前にいるミュウツーは人間による力ではなく、本来恨んでいるはずの人間との信頼関係が秘めたる力を覚醒させると言う、作り出したサカキたちロケット団からしたら皮肉な姿なのである。
しかしミュウツー自身はそれを受け入れ、人間とともに協力し元凶であるサカキを倒すために全力の力を使おうとしている。もし世界が違っていれば、自分は自分の世界で目的を達成させることなどできなかっただろうと心の中で確信する。
「面白い。ならば我々の技術の結晶であるミュウツーと君たちの絆の結晶であるミュウツー。どちらが強いのか決着を着けようではないか。」
「僕たちは負けない!ミュウツー!」
シンジの声にミュウツーは頷いて答える。サイコパワーの引き上がったミュウツーの心の声が、メガストーンを通じて声にせずともシンジの心にも伝わっていた。
「ゆけ、アーマードミュウツーよ。お前の力を見せつけてやるのだ!」
アーマードミュウツーは腕に集中させたサイコパワーを、思い切り振るうことで解き放った。強力なサイコパワーは地面を引き裂きメガミュウツーに迫りくる。
しかしミュウツーはバリアを展開し、アーマードミュウツーの強力な攻撃をいとも容易く防御する。サイコパワーが上昇したミュウツーにとって、この程度の防御など造作もない芸当であった。
「ミュウツー!シャドーボール!」
ミュウツーは無数のシャドーボールを連続で放つ。アーマードミュウツーはその攻撃の軌道をサイコパワーで逸らすが、それでもメガミュウツーの強力なシャドーボールを完全に受け流すことは出来ず、いくつかのシャドーボールがアーマードミュウツーの鎧にヒットし、少しずつ破壊されミュウツーの姿があらわになっていく。
「素晴らしい力だ。まさかこれほどまでの力を持つとは。だが!ミュウツー、サイコブレイクだ!」
「ミュウツー!」
『!?』
アーマードミュウツーは更にサイコパワーを高め全身から解き放った。そのサイコパワーは実体化され、メガミュウツーを取り囲んだ。逃げ場を失ったミュウツーの身体を、サイコブレイクが襲い掛かる。
メガミュウツーを包み込む衝撃にリーリエやグラジオたちは不安を駆られてしまう。しかし当のシンジは一切顔色を変えていない。その様子からは彼が無事なのだと言う確信を持っている表情であった。
衝撃が晴れると、そこには全体にバリアを展開し攻撃をアーマードミュウツーの攻撃を防ぎ切ったメガミュウツーの姿があった。本来のミュウツーであればアーマードミュウツーの攻撃を耐えるようなバリアを展開することなどできるはずもないが、メガシンカによって高まったサイコパワー、そして何よりシンジとの信頼関係、絆が彼の底に眠る真なる力を解放し形となったのが目の前に広がる光景なのである。
「ミュウツー!サイコブレイク!」
ミュウツーは一点に集中させたサイコパワーを解き放ち、アーマードミュウツーを攻撃する。アーマードミュウツーは同じようにバリアを展開させるが、鎧が部分的に欠けてしまっているせいかバリアの出力が低下してしまっている。
なんとかメガミュウツーの攻撃を凌ぎ切ったアーマードミュウツーであったが、それでも想定以上のダメージを喰らい、鎧からの力の供給も落ちてしまったため体力が低下し膝をつく。やるならばチャンスは今しかない。
(人間)
(っ!?ミュウツー?)
ミュウツーはテレパシーを使用してシンジに心の中で語り掛ける。驚くシンジに、ミュウツーはある提案をするのだった。
(最後はお前がケリをつけろ。私の力を引き出したお前なら奴を解き放つことぐらい可能であろう。)
(ミュウツー……君は……)
(私はお前に助けられた。ならば私は、もう一人の私も過去の呪縛から解き放ってやりたい。)
(……分かった)
闇に染まったミュウツーを救う手段。それはネクロズマを救った時と同様、アローラに伝わる光の力、Z技しかない。シンジは自身の持つ全力を放つため、相棒であるニンフィアと目を合わせて心を一つにする。
ミュウツーの願いを叶えるため、そして何より自分が救いたいと思うミュウツーを助けるため、シンジはZ技を放つためZリングにZパワーを集中させる。Zリングの光がシンジとニンフィアを結び付け、互いの気持ちをZ技となって解き放った。
「ミュウツー!僕たちの想い、君に届ける!」
『フィーア!!』
――ラブリースターインパクト!
ニンフィアはフェアリータイプのZ技、ラブリースターインパクトを解き放つ。メガミュウツーの攻撃でかなり体力を消耗していたアーマードミュウツーであったが、本能的に危険だと感じたのか最後の抵抗を見せてきた。
アーマードミュウツーは残った力を使い再びサイコブレイクで反撃してくる。体力を失くしてしまっているとは言えアーマードミュウツーはロケット団によって生み出された伝説のポケモン。そのサイコブレイクはニンフィアの攻撃を止めるのには充分すぎるほどであった。
ニンフィアにアーマードミュウツーのサイコブレイクが直撃するかと思ったその時、突然ニンフィアが加速しサイコブレイクの嵐を潜り抜けた。一体なにが起きたのか説明すると、メガミュウツーがサイコパワーの衝撃をニンフィアに撃ち込み、その衝撃によってニンフィアが瞬間的にブースト効果で加速してスピードを増したのである。
サイコブレイクを潜り抜けたニンフィアのZ技が、アーマードミュウツーの鎧に直撃する。光と絆の結晶であるZパワーがアーマードミュウつのー闇である鎧を全て砕き、ミュウツーの肉体を解放した。闇の力から解き放たれたミュウツーはその場で倒れ、気を失っていたのだった。しかし彼の姿を見たミュウツーは、小さく微笑んでいた。その表情から、もう一人のミュウツーが無事元に戻ったのだと言うことがシンジたちも理解できた。
「……ふふふ。はっはっは、これが君の……いや、君たちの力か。素晴らしいものだ。」
サカキは笑いながら称賛の拍手をシンジに贈る。彼のその余裕からこれ以上なにかあるのかと警戒するが、サカキは抵抗する気はないと手をあげて降参の意思を示していた。
「正直言って負ける気などなかったのだが、私は君たちの力を甘く見ていたようだ。ああ、もしも君たちのような子どもが私の目の前に現れていたのなら、別の世界線もあったのかもしれないな。」
サカキからは彼の言葉とは思えないセリフがとんできた。彼は微笑みシンジたちの横を通り過ぎたところで立ち止まる。
「……私を止めてくれたこと、感謝する。」
「っ!?」
シンジたちは振り返る。しかしそこにはサカキの姿はなく、この場には気を失って倒れているミュウツーのみが残されていた。
「……リーリエ。」
「お兄様?」
「さっきの男……アクロマだったか?あいつから貰った機械を使って、ミュウツーを元の世界に戻してやれ。今のミュウツーなら元の世界に戻すことができるだろう。」
「分かりました。」
リーリエはアクロママシーンを起動する。アクロママシーンの光がミュウツーとエーテルパラダイス全体を包み込んだ。
すると光から解放された時、サカキのミュウツーは既にその場に存在せず、悪趣味な部屋へと変更されてしまっていた室内も真っ白な部屋へと元通りとなっていた。アクロマの偉大な発明により、まるでRR団など元よりいなかったのではないかと錯覚してしまうぐらい綺麗に元のエーテルパラダイスに戻っていたのであった。
リーリエは気を失って倒れていたルザミーネを引き起こす。ルザミーネは意識を取り戻し目を開けると、そこにはいつも通りの優しい声で自分の娘と息子の名前を呼ぶ母親の姿があった。何の変化もなく元通りの姿を見せたルザミーネにグラジオは優しく微笑み、リーリエは涙を流して母親を抱きしめていた。
そしてミュウツーは戦闘を終えたことにより元の姿へと戻りシンジに呼びかける。
『また本当にお前と協力することになるとは思っていなかった。』
「僕もだよ。でも、君とまた戦うことができてうれしかったよ。」
『変わった人間だ。だが、不思議と私も心の中で安心している。』
ミュウツーは心からの笑みを浮かべシンジに背中を向ける。
『もう会うことはないと思うが……そうだな。元気でな。』
「ミュウツー……君も元気でね。」
そう言ってミュウツーはシンジと最後の挨拶を交わすとその場からテレポートで姿を消した。シンジは自分たちのピンチ、そして別の世界のミュウツーを救ってくれた彼にありがとうと感謝の言葉を呟く。
こうしてアローラを混沌に陥れたRR団との激闘は幕を閉じる。UB程世間的に知られる事件ではなかったが、それでも一部の者たちにとっては忘れられぬ事件であったのは間違いない。また同じようなことが起きてもこのアローラを守れるようにと、シンジたちはもっともっと強くなれるように努力しようと心に誓ったのであった。
RR団の危機が過ぎ去り、シンジたちは一息ついていた。
久しぶりに出会ったコウタ、コウミとの再会を互いの喜ぶのと同時に、メガシンカの習得を祝福するシンジとリーリエ。そして彼らの今まで培ってきた旅の経験、グラジオやヒナ、ミヅキ、ヨウ、ハウたちも含めてそれぞれの経験話で盛り上がり友好を深める。また、コウタとコウミは暫くこのアローラに滞在し暫くは観光を楽しむようである。
久しぶりに結成したスカル団は一時的なものとは言え、下っ端一同は感動のあまり涙を流していた。今回は悪事ではなかったが、心を入れ替えたスカル団は尊敬しているボス、グズマと共に活動できることが何よりも嬉しかったようである。今でも自分たちを救ってくれたグズマに感謝し称える下っ端たちに、グズマは少し照れくさそうにして顔を背けていた。しかし彼の顔からはまんざらでもない笑みが浮かんでいて、それを横目で見て茶化していたプルメリの姿があったのだった。
そして問題の元凶となったザオボーの処分だが、ルザミーネの有情によりクビになる事態は回避されたが、幹部と言う大きな役職から平社員に降格する事態となった。現在では元々近しい立場であったビッケにコキ使われ、裏で愚痴を言う日常を贈ることになったらしい。その裏ではまだエーテル財団のトップに立つ夢を諦めていないのだとかなんとか。
とは言え今回のような事態があり平社員に降格したため、エーテル財団職員に監視されているザオボーが再び悪事を働くことなど簡単にできるはずもないであろうが。
それにもし再び不測の事態が発生しようとも、ウルトラガーディアンズがいる限りアローラから光が失われることはないだろう。これからもずっと、太陽と月に見守られアローラには平和な時がずっとずっと未来永劫続いていくのであった。
「……ふふふ。さて、次はどの世界に行こうか。」
不穏な男の笑みがアローラから姿を消して……
RR団編は終了となります。もう一話作ろうかとも考えていましたが、次話があまりに短くなりそうだったのでここで切り上げました。
以降は気ままに番外編を描いていきますので気ままにお待ちいただけると幸いです。