ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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サンブレイクのアプデやらマスターデュエルのイベントやらで結構時間とられてます


シンジVSリーリエ!激闘の果てに待つもの!

「す、すごい……」

「ああ、確かにすごいな。」

 

シンジとリーリエがこの大舞台で激闘を繰り広げている中、そう呟いたのはリーリエと初戦で争ったヒナであった。そしてその横で同意したのは共にリーリエの試合を観戦していたグラジオだ。

 

二人は知り合いではないが、互いにリーリエと戦って敗北してしまった共通点、そして何よりどちらもリーリエと縁のある人物であるため、成り行きで共に観戦することとなったのだ。

 

「ここまで拮抗した激しい試合になるなんて思ってませんでした。」

「……ヒナはリーリエとあいつ……シンジの関係について聞いているか?」

「いえ……ですがリーリエさんの言っていた大切な人、と言うのがチャンピオンだと言うのはなんとなく……。」

「そうか。リーリエは元々、ポケモンをバトルさせることに苦手意識を持っていた。」

「え?そうなんですか?」

 

ヒナはグラジオの言葉に衝撃を受ける。あれだけの実力を持っていて自分が憧れていたトレーナーが、バトルに対して批判的な感情を抱いていたとは想像できなかったからである。

 

「だが、シンジと出会ってからリーリエは変わった。様々な困難がリーリエに襲い掛かったが、そんな妹をシンジは幾度となく守り、そしてリーリエの進む道を導いていった。兄である俺ができなかったことを、あいつは平然と成し遂げてくれた。ふっ、全く、大層ムカつく奴だな。」

 

そう言いながらグラジオは口角を上げてどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。前髪で目元が隠れてしまっているので表情は掴めないが、彼の声色などからリーリエだけでなく、シンジに対しての信頼も感じ取れる。

 

「そしてある時、リーリエは自分の目的の為にアローラを発った。行先はアローラ地方とは真反対に位置しているカントー地方。」

 

カントー地方に行っていた事実はヒナも彼女から直接聞いているため、頷いてグラジオの話を聞いていた。

 

「リーリエは無事目的を果たした。数年が経ったある時、リーリエは旅に出ることを決意した。理由は……約束のためだ。」

「約束……ですか?」

「リーリエはある時シンジと約束をした。必ず一緒に旅をしよう、と。その約束を果たすため、リーリエはポケモンと共に旅に出て、シンジとの約束を果たすための一歩を踏み出した。」

「……そしてその約束を自ら果たすため、チャンピオンはカントー地方に向かった、と言うことですか?」

「ああ、そうだ。そして旅が終わった時、今度はまた別の約束を二人は交わしたらしい。」

「もしかして、その約束が。」

 

グラジオは察したヒナの言葉に頷いて答えた。その時交わした約束こそが、今のバトルなのである。

 

シンジとリーリエは今、約束の舞台でバトルをしている。二人にとって、このアローラリーグは他のトレーナー以上に大切な舞台なのだ。だからこそ、二人はこのバトルを全力で戦い、心の底から楽しんでいる。この戦いがずっと続けばいいのに、と切実な願いを抱きながら。

 

自分が憧れ、自分に勝ったリーリエには勝ってほしい。しかし、チャンピオンのシンジが負けるところも想像できず、負けて欲しくないと思ってしまう自分もいる。複雑な感情を抱きながら、ヒナはただただこの試合を最後まで見届けようと心に決める。それに一トレーナーとして、こんなにも熱い戦いを見逃すなんてこと、出来るはずもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挑戦者リーリエとシンジの壮絶なバトルは後半戦を迎える。シンジのエーフィが倒れ、現在シンジの手持ちは残り3匹。対してリーリエの手持ちは傷付いたカイリューとフシギバナ、そしてマリルとシロンの2匹計4匹である。

 

「エーフィ、お疲れ様。よく頑張ったね。ゆっくり休んでて。」

 

相手はリーリエの頼れるパートナー、カイリューだ。アローラリーグで彼女を支え続け実績を残してきたのだから桁外れに強いのは明白。そんなカイリューを相手に健闘したエーフィを労り、シンジは心から感謝と労いの言葉を贈る。

 

そしてシンジが繰り出す次のポケモンは……。

 

「お願い!イーブイ!」

『イッブ!』

 

シンジが次に繰り出したのは色違いのイーブイであった。イーブイは彼のパーティの中ではまだまだ未熟ながらも彼を信頼し、彼に信頼されて数々の戦いを乗り越えてきている。他のポケモンに比べてバトル経験が少ないとは言え、強敵であることに間違いはない。

 

リーリエのカイリューは今のエーフィとの戦いでかなり無茶をしていたため肩で息をするほど疲弊してしまっている。このまま続投してイーブイと戦うか、それとも交代するか、どちらの選択を取るか悩んでいた。

 

そんな時、リーリエのモンスターボールの一つが自動で揺れる。するとモンスターボールの中から、突如として彼女のポケモンが姿を現した。

 

『リルル!』

「え?ま、マリルさん?」

 

そのポケモンはマリルであった。モンスターボールから飛び出したマリルは、振り向いてリーリエの顔を見つめると、胸をポンッと叩いてキリッとした表情を見せている。どうやら自分に任せろ、とでも言っているようであった。

 

その姿には何やらデジャブを思わせるものがあるが、マリルが任せろと言うのであればリーリエは彼女の意思を尊重することを優先する。それに実際、シンジのイーブイとリーリエのマリルは仲が良い。それこそマリルはイーブイの事を兄のように慕っていて、自分の成長を兄であるイーブイに見て欲しいと思っているのかもしれない。妹であるリーリエも、その気持ちはよく分かっているつもりだ。

 

「分かりました。お願いします!マリルさん!頑張ってください!カイリューさんは戻って休んでてください!」

『バウッ』

『リル♪』

 

リーリエはカイリューを一時モンスターボールへと戻し、マリルとバトンタッチすることにした。マリルはフィールドに立ちイーブイの姿を真っ直ぐと見つめる。イーブイも少し困惑しながらシンジの方へと振り向いた。

 

「イーブイ。マリルは君と戦いたいみたいだ。だから君もマリルの気持ちに応えてあげて。」

『イブ……イブッ!』

 

本当はあまり戦う気は起きていない様子だが、シンジの言葉を聞いてマリルと戦うことを決意する。イーブイがマリルの姿を再び見ると、彼女の表情はやる気に満ち溢れていた。どうやらイーブイと戦う気力は万端のようである。

 

であるならば自分も彼女の気持ちに応えなくてはと、イーブイも胸を張って前にでる。それと同時に、なかよし二匹による戦いが幕を開けた。

 

「マリルさん!バブルこうせんです!」

『リルゥ!』

「イーブイ!スピードスター!」

『イッブイ!』

 

開幕バブルこうせんで攻撃を行うマリル。対してイーブイはスピードスターで対抗する。マリルの放った複数のバブルこうせんを、イーブイのスピードスターが次々と的確に撃ち落としていった。

 

「続けてアクアテールです!」

『リィル!』

「躱してアイアンテール!」

『イッブ!』

 

マリルはアクアテールで薙ぎ払うが、イーブイはその攻撃を冷静に回避しアイアンテールで反撃する。その攻撃はマリルの胴体にクリーンヒットし、マリルの体を大きく吹き飛ばした。

 

「マリルさん!大丈夫ですか?」

『リル!』

 

マリルは態勢を立て直し持ちこたえる。みずタイプであるマリルに対してはがねタイプのアイアンテールは効果がいまひとつだ。ダメージとしてはそこまで大きくないようである。

 

「もう一度バブルこうせんです!」

『リルゥ!』

「スピードスター!」

『イッブイ!』

 

マリルは再びバブルこうせんで攻撃するが、先ほどと同様にスピードスターであっさりと撃ち落とされてしまう。このままでは何度やっても結果は同じであり、この状況を変えることはできない。

 

「でしたら……マリルさん!ころがるです!」

『リル!』

 

マリルはころがるで勢いよく接近する戦法に切り替える。しかしシンジが接近することを黙って見ているはずはなかった。

 

「イーブイ!スピードスター!」

『イッブイ!』

 

イーブイは連続でスピードスターを放ちマリルの接近を妨害する。だがマリルはころがるをしながら左右に動き、スピードスターを的確に回避していた。

 

「アイアンテール!」

『イッブ!』

 

今度は接近してきたマリルをアイアンテールで直接迎え撃つ。ころがるを正面から叩きつけ、強力なアイアンテールがマリルを真っ向から弾き返した。しかしリーリエもまた、これだけで終わるほど甘いトレーナーではない。

 

「そのままハイドロポンプです!」

『リィルゥ!』

『イブッ!?』

 

マリルは吹き飛ばされながらころがる状態を解除し、ハイドロポンプを発射する。鋭いハイドロポンプの一撃がイーブイに届き、マリルの攻撃を無理やりにでも当てることで試合の流れを強引に変えてきた。

 

「イーブイ、大丈夫?」

『イブイ!』

 

体に纏わりついた水をブルブルと体を震わせてふるい落とす。シンジは今回とってきているリーリエの戦術に少し違和感を感じていた。

 

リーリエは普段ポケモンたちの特徴や環境を活かして戦うことが多い。しかし今回リーリエがとってきている戦術は、どちらかと言うと力押しで戦う戦術の方が目立っている。

 

恐らく彼女はシンジに対していつもの戦術、小細工を弄しても勝つことはできないと考えているのだろう。だからこそ彼女とポケモンたちが使えるあらゆる手段、そしてシンジの知らない戦いをすることで不意を突き、彼に少しでも食らいつこうと努力している。それは彼女が彼との旅、そして島巡りで様々なトレーナーと戦い、学び、成長してきた証明である。

 

だからこそシンジはリーリエの成長を実感し、もっともっと彼女のバトルを堪能したい。彼女と全力でバトルをし、バトルを通じて会話を交わしたいと感じている。シンジにそう思わせるほど、リーリエは今回の旅で成長してきたのである。

 

「……イーブイ、まだ行けるよね?」

『イッブ!』

 

シンジの問いかけにイーブイは元気よく返答する。ハイドロポンプの直撃は喰らったが、態勢がやや不安定であったため致命打を与えるほどのダメージは出なかったようだ。

 

「今度はこっちが見せる番だよ!イーブイ!スピードスター!」

『イッブイ!』

 

今度はシンジから仕掛けてくる、と警戒するリーリエ。しかしイーブイの使用したスピードスターは先ほどと一風変わっていたため、リーリエも驚きを隠せなかった。いや、それは観客も同じようだ。

 

イーブイの放ったスピードスターはイーブイ自身の周囲に浮遊し、イーブイを守るように周回している。普段は攻撃技として使用するはずのスピードスターをこのような形でりようするのは、驚かずにいる方が無理と言う者だろう。

 

「君たちが旅している間、僕もただ待っていただけじゃない。僕とイーブイもまた進化してるんだよ。イーブイ!ダッシュだ!」

『イブイ!』

 

イーブイはスピードスターを身に纏ったまま走り始めた。驚いている場合ではないと、リーリエはマリルに攻撃の指示をだした。

 

「マリルさん!バブルこうせんです!」

『リル!』

 

マリルは接近してくるイーブイをバブルこうせんで迎え撃つ。しかしバブルこうせんはイーブイを守るスピードスターに阻まれて防がれてしまう。それどころか攻撃モーションに移行していない関係上イーブイの勢いも止まることなく、マリルとイーブイの距離もみるみると縮んでいった。

 

「っ!?ハイドロポンプです!」

「シャドーボール!」

 

マリルはハイドロポンプで対抗し、その攻撃をシャドーボールで跳ね返して相殺する。威力の高い技が衝突し衝撃によって両者の視界が奪われるが、晴れた際にはそこにイーブイの姿はすでになかった。

 

「っ!?しまった!?」

 

リーリエは急いで上を見上げる。一瞬の隙、たった一瞬の隙ではあったが、それだけあればシンジたちにとってそれは充分すぎる時間であった。

 

「これでフィニッシュだ!とっておき!」

『イッブイッ!』

『リルッ!?』

 

イーブイは大きな星を放つ。とっておきは非常に威力が高い技ではあるが、発動条件が自分の所持技を全て1回以上使用しなければならないと言う条件付きの技である。このバトル中所持技であるスピードスター、アイアンテール、シャドーボールの全てを発動したため条件を満たし、懐に飛び込んだタイミングで使うことができたのである。

 

イーブイのとっておきがマリルの体を包み込む。マリルはその攻撃で仰向けに倒れ込み、目を回していた。これ以上の戦闘は不可能なようである。

 

『り……るぅ……』

「マリル!戦闘不能!」

 

リーリエのマリルは健闘したものの、残念ながら戦闘不能になってしまった。しかし慕っていたイーブイに一撃を加え、更に彼の本気を引き出したと考えるとマリルの成長は間違いなく感じられるバトルであった。それはイーブイも同じようで、マリルのことを心配しながらもどこか嬉しそうに笑みを浮かべていたのであった。

 

「お疲れ様です、マリルさん。ゆっくり休んでください。」

 

これでリーリエの残り手持ちはフシギバナ、カイリュー、そしてシロンの3体である。しかしカイリューとフシギバナは傷付いており、戦力としては五分五分かやや不利といったところか。

 

「……いや、まだ手はあります。フシギバナさん!もう一度お願いします!」

『バァナ!』

 

リーリエが繰り出したのはフシギバナであった。小柄なイーブイ対巨体を持つフシギバナの対格差は歴然。小柄なイーブイは小回りが利き、巨体のフシギバナは高い耐久力で立ち向かえると言ったメリットが存在している。果たして両者はどう立ち回るのか、注目が集まる。

 

「……イーブイ!シャドーボール!」

『イーブイッ!』

 

イーブイは開幕シャドーボールで先制攻撃を仕掛ける。体重の重いフシギバナは俊敏に動くことができないため、受け身の態勢をとりイーブイの攻撃を受け止め持ちこたえる。ダメージが蓄積してはいるが、持ち前の耐久力でイーブイのシャドーボールを凌いでいた。

 

「フシギバナさん!こうごうせいです!」

『バナァ』

 

フシギバナはイーブイの攻撃を耐えきると、日の光を浴びて体力の回復を図る。太陽の恵みがフシギバナを包み込み、フシギバナの傷を癒していく。このまま体力を回復され続けるのはさすがにマズいと、シンジは攻撃の手を緩めなかった。

 

「スピードスターで畳みかけて!」

『イッブ!』

 

イーブイは連続でスピードスターを放ち続ける。回復量を超える攻撃を与える。単調だが回復技に対しての対抗策として非常に有効な手段の一つである。実際フシギバナも体力を回復してはいるものの、やはり攻撃を耐えるだけでもかなり限界が近いようだ。

 

無数のスピードスターによる弾幕でフシギバナの姿が包み込まれ見えなくなる。攻撃の連続によりイーブイはスタミナが切れてしまい、攻撃の手を止めて一時休息をする。しかしその一瞬の隙を突き、フシギバナが動き出した。

 

「フシギバナさん!はっぱカッターです!」

『バァナ!』

「っ!?イーブイ!躱して!」

『イッブッ!』

 

フシギバナのはっぱカッターによる反撃をイーブイは咄嗟にジャンプして回避する。だがリーリエもまたそう簡単にチャンスを逃すトレーナーではない。

 

「続けてつるのムチです!」

『バナ!』

『イブ!?』

 

イーブイの回避先につるのムチを放ちイーブイを叩き落とす。地面に叩きつけられ大きなダメージを受けたイーブイは立ち上がろうと足腰に力を込める。しかしスタミナ切れの影響もあり、力尽きてしまい立ち上がることができず力なくその場に伏せてしまった。

 

『い……ぶい……』

「イーブイ!戦闘不能!」

 

不利な状況かと思いきや、フシギバナの耐久力を活かしてなんとか勝利をもぎ取ったリーリエたち。シンジは健闘虚しくも倒れてしまったイーブイをモンスターボールへと戻した。

 

「頑張ったね、イーブイ。ゆっくり休んでね。」

 

しかしながらマリルを倒し、フシギバナを追い詰めたのは非常に大きい功績だ。シンジはイーブイにありがとうと感謝の言葉を贈り懐に戻した。

 

シンジの残りポケモンはこれで2体。次にシンジが繰り出したポケモンは……。

 

「お願い!ブラッキー!」

『ブラッキ』

 

次に繰り出したポケモンはあくタイプのブラッキーだ。ブラッキーの耐久力はリーリエも知っている。生半可な攻撃ではそう簡単に倒れてはくれないだろう。ならば今のフシギバナにできることは一つしかなかった。

 

「フシギバナさん!ソーラービームスタンバイです!」

『バナァ!』

 

フシギバナの体力も残りわずか。ここでこうごうせいによる体力の回復を狙っても結果的にジリ貧となってしまうのは明白。であるならば多少強引にでも大技を放ち、ブラッキーの体力を削る方が最も優先すべきことであり可能性が高い戦術だと考えたのだ。

 

「ブラッキー!バークアウト!」

『ブラッキ!』

 

ブラッキーはバークアウトを放った。バークアウトはフシギバナにヒットし、フシギバナは苦しそうな表情を浮かべる。しかしそれは痛みによる苦しさと言うよりも、もっと別のものによる苦しさのようにも感じる。

 

「走って!ブラッキー!」

『ブラキ』

 

ブラッキーはフシギバナ目掛けて一直線に走り出した。その行動は第三者から見ると浅はかな考えであり、大砲に自ら手を突っ込むようなものである。だが、彼が何の考えもなしに突っ込むはずもない。

 

しかし既にソーラービームの態勢に入っている以上、リーリエとフシギバナは止まることはできない。太陽の光を一心に受け、フシギバナはソーラービームの力を解き放った。

 

「ソーラービーム!発射です!」

『バァナァァァ!』

 

体力が限界近いとは言え、フシギバナの強力なソーラービームは地面を抉り、ブラッキーの身体を包み込んだ。さすがのブラッキーもこれを受ければ一溜りもない、と誰もが思った。しかし結果は全員の予想を上回るものであった。

 

「イカサマ!」

『ブラッキ』

『バナァ!?』

 

ブラッキーはフシギバナのソーラービームを物ともせず、フシギバナの足元に現れた。そしてフシギバナの足を払い、彼の態勢を崩し倒した。巨体をそのまま倒されてしまい、体力も限界であったフシギバナは強力なソーラービームの反動も相まって遂に力尽きてしまう。

 

「フシギバナさん!?」

『ば……なぁ……』

「フシギバナ戦闘不能!」

 

リーリエのフシギバナは戦闘不能となった。体力がギリギリの状態からかなり粘ったが、ブラッキーの強固な守りを破ることはできずに倒されてしまった。その上ブラッキーは未だに殆どダメージを受けている様子はない。

 

ブラッキーが最初の使用した技、バークアウトはまくし立てるように相手に怒鳴りつけることで、ダメージと共に相手の特殊攻撃力を低下させる追加効果を持っている。それによりフシギバナの攻撃力が下がり、ソーラービームの威力も低下したためブラッキーは余裕を持って耐えることができたのだ。これには観客たちも盛り上がりをより加速させている。

 

「戻ってください、フシギバナさん。お疲れ様でした。あなたの戦いは無駄にはしません。」

 

フシギバナが倒されたことにより、再び両者のポケモンの数が五分になった。しかし残るポケモンは体力を削られてしまっているカイリュー。リーリエにとっては再びやや不利な状況に戻されてしまったと言える。だがまだ彼女は全く諦めた様子は見せていない。寧ろ先ほどよりも表情が生き生きとしているようにも思える。それは彼女がこの戦いを誰よりも楽しんでいる証拠である。

 

「……カイリューさん……お願いします!」

『バッオウ!』

 

リーリエの繰り出したポケモンは残り体力も少ないカイリューだ。一応休んだことにより体力は少し回復している様子だが、それでも消耗していることに変わりはない。この状況から再び巻き返すことができるのか。それともシンジがこのまま押し切るのか、更なる注目がこの戦いに集まっている。

 

「カイリューさん!れいとうビームです!」

『バオウゥ!』

「ブラッキー!躱して!」

『ラッキ!』

 

開幕のれいとうビームをブラッキーはあっさりと回避する。逃しはしないと、リーリエは一気に畳みかけていく。

 

「カイリューさん!しんそくです!」

『バウ!』

 

続いてしんそくで一気に懐に飛び込んだ。

 

「まもる!」

『ブラキ』

 

しかしその攻撃はまもるで的確に封じてきた。まもるによって弾き返され、カイリューは態勢を崩してしまう。

 

「アクアテールです!」

「イカサマ!」

『バオウ!』

『ブラッキ』

 

カイリューはアクアテールで薙ぎ払う。しかしブラッキーはその攻撃を受け止め、巴投げのように地面に叩きつけた。あの連続攻撃をいなすほどの身のこなしは、さすがとしかいいようがなかった。

 

「カイリューさん!?」

『ば……オウゥ!』

 

イカサマによりカイリューのダメージも更に蓄積してしまうが、立ち上がり咆哮することで自らを鼓舞し威圧感を放つ。どうやら彼も生半可な攻撃では倒れるほど軟な意思の持ち主ではないようだ。

 

「……だましうち!」

『ブラッ』

「っ!?カイリューさん!」

 

迫りくるブラッキーにカイリューは反撃しようとする。だがその攻撃をブラッキーは中断し、別の方面から攻撃を仕掛ける。文字通りのだまし討ちで、カイリューの意表を突いたのだ。

 

その攻撃は見事にカイリューの腹部に直撃……したかのように思えた。実際シンジもこの攻撃はヒットしたと思った。しかしよく見てみると、カイリューはその攻撃を受け止め、ダメージを逃がしていたのである。これには流石のシンジも驚きの表情を浮かべていた。

 

『ブラッキ!?』

「よし!カイリューさん!そのまま投げ飛ばしてください!」

『バオウ!』

「アクアテールです!」

『バッオウ!』

 

カイリューはブラッキーを空中へと投げ飛ばす。さすがのブラッキーも空中で態勢を整えるのは難しく、アクアテールの追撃を受け地面に叩きつけられてしまう。ようやくブラッキーに対して明確なダメージが入り、これはリーリエたちにとって非常に大きな一歩である。

 

この機会を逃すわけにはいかないと、リーリエは更に畳みかけるためカイリューに指示を出した。

 

「カイリューさん!しんそくです!」

『バウゥ!』

「来るよブラッキー!」

『ブラッ!』

 

カイリューはしんそくで怒涛の連続攻撃を決めていく。ブラッキーは咄嗟にまもるで防御する。それでもカイリューはまだ怯むことなく攻め立てる。

 

「行きますよ!げきりんです!」

『バ……オウッ!』

『ブラ!?』

 

カイリューはげきりんで自分の臨界点を突破する。ブラッキーもカイリューの尋常ではない高火力に耐え切ることは出来ず、まもるの上から押し返されてしまう。そしてまもるが破られてしまい、げきりんとしんそくの合わせ技がブラッキーに直撃した。

 

壁まで叩きつけられてしまったブラッキーは限界が訪れてしまい、今の一撃で目を回し力尽きてしまっていた。

 

『ぶらっ……き……』

「ブラッキー!戦闘不能!」

 

まさかあの状況から捲くることができるとは思えず、カイリューの底知れぬ底力に観客たちは心からの歓声をあげる。

 

「お疲れ様、ブラッキー。あとは任せて。」

 

シンジはブラッキーをモンスターボールへと戻した。

 

「まさか僕が先に追い詰められることになるなんて、正直思わなかったよ。」

「私もです。ですが、ここまで戦うことができたのはシンジさんが相手だからです。」

 

お互い正直な感想を言い合う。戦いが始まってからお互いバトル以外で語り合うのは初めてかもしれない。

 

「でも、僕の残りポケモンは君も知っているよね。」

「……はい、もちろんです。」

 

そう、彼の残りポケモンは彼にとって最も信頼しているポケモンであり、旅に出た時から最も長い時を過ごしたポケモンである。この時が来ることは、バトルが始まる前からリーリエも予想していた。この戦いの中で最も緊張しているかもしれない。

 

「……君の出番だよ。僕たちの全力、リーリエに、みんなに見せよう!」

『フィア!』

 

そして彼が投げたモンスターボールから姿を現した。そのポケモンは彼の相棒であり最高のパートナーであるニンフィアであった。

 

姿を現したニンフィアは、笑顔でシンジの足元に歩み寄ってくる。シンジはそんなニンフィアに屈み、頭を優しく撫でる。

 

「今日は僕たちにとって最高に大切な試合だ。最後のバトル、君に託したよ。」

『フィーア♪』

 

シンジに撫でられ上機嫌になり、満面の笑みを浮かべて返事をするニンフィア。しかし今度はカイリューの方に顔を向けたと思うと、彼女からただならぬ威圧感が放たれカイリューとリーリエに襲い掛かる。

 

「っ!?この威圧感……ここからが、本当の勝負ですね。」

 

リーリエはニンフィアから放たれる威圧感に耐えながら、最後の戦いに身を投じるのであった。二人のバトルは遂に、再終幕の佳境を迎えようとしていた。




なんか思いの外内容が長くなってしまったため、最終戦は次回持ち越しにします。本当は今回と次回で最終回にするつもりだったのですが、もしかしたら少し延びるかも?

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