ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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この前アニメのスパイファミリー見たら面白かったから漫画全巻買いました。


シンジVSリーリエ!約束を果たす最後の戦い!

ポケモントレーナーにとって最大の祭典、ポケモンリーグ。アローラリーグにおいて優勝したトレーナーには、アローラ地方最強のトレーナーであるアローラ初代チャンピオンへの挑戦権を得ることができる。

 

そして決勝戦、激闘を制し念願のアローラリーグ優勝を見事勝ち取ったリーリエは今まさに、夢と約束の地へと足を踏み入れようとしていた。

 

「それではこれより!アローラリーグ最後の戦い!チャンピオンバトルを開催します!」

 

戦いの審判を務めるアローラリーグ建設者、ククイが司会を開始する。その宣言に会場の人たちは盛り上がりを見せ歓声をあげる。

 

「まずはチャレンジャー!数々の激闘を勝ち抜き、見事チャンピオンへの挑戦権を得たトレーナーの名は……挑戦者リーリエだ!」

 

ククイの紹介により派手なスモークとスポットライトの演出から姿を現したリーリエ。彼女の姿に全員が拍手を送って盛大な歓声をあげて迎え入れた。大げさな紹介に恥ずかしさを感じるのか、彼女の頬は少し赤く染まっているようにも見える。しかしここからは自分が望んだ場所。このような気持ちでは今から戦う彼に失礼だと、頬をパンパンッと叩いて気合いを入れなおす。

 

「そして、我らがアローラ地方が誇る初代チャンピオン!2年間彼のチャンピオンの座を脅かすトレーナーは現れず、今日、果たしてチャンピオンの座は揺らぐのだろうか!?初代王者、シンジの登場だ!」

 

挑戦者リーリエと同じく派手な演出の中からチャンピオンでありリーリエの憧れのトレーナーであるシンジが姿を現す。堂々とした立ち振る舞いから、彼のチャンピオンとしての威圧感、プレッシャーがリーリエにも伝わってくる。

 

初代チャンピオンであるが故に、アローラにおいて絶大な人気を誇るシンジ。登場しただけでリーリエを超える歓声が彼に対して降り注がれた。名前を呼ぶ声や黄色い声援、待ってましたと言う声まで様々だが、誰もが彼の事を慕い、目標とし、憧れを抱いていることが分かる。それがリーリエにとって不思議ととても誇らしく感じてしまい、何より自分はこれからチャンピオンと戦うのだと改めて実感させられる。

 

シンジとリーリエはフィールドに立ち向かい合う。やはりチャンピオンとしての彼は他の誰よりも威圧感が強く、リーリエの額から汗が滴り落ちるのを感じる。先ほどまで緊張はあまり感じていなかったのだが、ここに来て先日感じていた緊張感がぶり返してきた。

 

だがそんな彼女に、チャンピオンであるシンジが口を開いて語り掛けてきた。

 

「……リーリエ、よくここまで来たね。」

「シンジさん……。」

「チャンピオンとしてここに立った以上、僕は全力でチャレンジャーを迎え撃つ。そう言う心構えでいつも戦ってきた。だけど今は……今回だけは、一人のトレーナーとして君に挑みたい。だからリーリエ……君の全力、僕に見せてくれ!僕も全力で君と戦う!」

「……はい!私の全力!チャンピオンに……シンジさんにぶつけます!」

 

シンジと全力で戦える。彼の言葉だけでリーリエは不思議と緊張が解れて行った。こんな時まで彼に助けられるのが少々情けないと感じながらも嬉しくもあり、これで心置きなくリーリエとして、彼と全力で戦うことができると覚悟が決まる。

 

二人の準備が整ったと判断したククイは、二人の姿を交互に見て確認すると、試合のルール説明を開始した。

 

「使用ポケモンは両者共に6体のフルバトル!チャンピオンは交代することは出来ず、チャレンジャーは交代自由!どちらかが6体全員戦闘不能となったらバトル終了だ!」

 

ククイの説明に両者理解したという意思表示のために頷いて答える。

 

「それでは、チャンピオンからポケモンを!」

 

「行くよ!リーフィア!」

『リッフィ!』

 

ククイの合図と同時に出したシンジの最初のポケモンは、くさタイプのリーフィアであった。シンジのポケモンはイーブイとその進化形だが、その数は現在合計9種類に及んでいる。その内6種類が今回のバトルに選出されているのだろうが、彼がどのポケモンを選出しているのかは不明だ。相性のいいポケモンはとっておきたいところだが……。

 

いや、そんなことを言っていては彼には勝てない。彼に勝つには、自分の信じるバトルを貫くのが最も近道となるだろう。ならば自分は、自分のポケモンを信じて戦うだけだと最初のポケモンを選びモンスターボールを手に取った。

 

「チラチーノさん!お願いします!」

『チラッチ!』

 

リーリエが最初に選出したのは彼女にとっての切り込み隊長的存在、チラチーノだ。いつも通りの戦術で来るか、とシンジは少し嬉しそうに小さく微笑んだ。

 

「それではチャンピオンバトル……開始!」

 

ククイの合図により誰もが待ち望んでいたチャンピオンバトルが幕を開けた。しかし誰よりもこの戦いを待ち望んでいたのは当の本人である。ここはリーリエが迷わず先手で攻めるのだろう、と思いきや、最初に動き出したのはシンジたちであった。

 

「つるぎのまい!」

『リフ』

「っ!?」

 

最初からつるぎのまいで勝負を仕掛けてきたシンジ。つるぎのまいは自身の攻撃力は大幅に上げる技で、これによりリーフィアの攻撃性能が飛躍的に上昇した。無暗に突っ込んでしまっては間違いなくリーフィアの剣の餌食になってしまう。

 

しかし彼を相手に後手に回ってしまっては倒されてしまうのも時間の問題。危険性は高いが、ここは大胆に攻めるしかないと彼女は判断したのだった。

 

「チラチーノさん!あなをほるです!」

『チラ!』

 

初めからあなをほるで地中に姿を消し不意打ちを狙う作戦で行くリーリエ。シンジはその状況でも落ち着いて状況を見極めており、彼の落ち着いた様子にリーフィアも同調していた。

 

リーフィアの背後からチラチーノはあなをほるで姿を現す。背後を取ったチラチーノは、今がチャンスと攻撃を仕掛けた。

 

「スイープビンタです!」

『チッラァ!』

 

チラチーノはスイープビンタで攻撃する。今日は見るからに彼女の調子もよく、スピードも乗りに乗っていた。これなら決まると確信していたリーリエだが、そう考えは甘くなかった。

 

「つばめがえし!」

『リッフ!』

『チラッ!?』

 

なんとチラチーノの攻撃をリーフィアは宙返りで回避した。無駄のないその動きは非常に洗礼されており、他のトレーナーとは比にならないものであった。

 

背後を取ったチラチーノだが、リーフィアに回避され逆に背後を取られてしまうチラチーノ。彼女の背中にリーフィアのつばめがえしがクリーンヒットし、地面に倒れ伏せてしまう。

 

「チラチーノさん!」

『ち……ラァッ!』

 

つるぎのまいで攻撃力を高めていることもあり、今の一撃だけでかなりのダメージを負ってしまった。チラチーノは今の攻撃を受けてもなお立ち上がるが、それでも足元がおぼつかずふらついてしまっている。流石はチャンピオンのポケモン、言うまでもなかったがやはり一筋縄ではいかない相手である。

 

「今度はスピードスターです!」

『チラァ!』

「エナジーボールで撃ち落として!」

『リフィ!』

 

チラチーノは星型の弾幕で反撃を仕掛ける。しかしその攻撃をリーフィアはエナジーボールで全て確実に撃ち落とした。しかしそれでもチラチーノは攻勢を止めることはなかった。

 

「チラチーノさん!スイープビンタです!」

『チッラァ!』

 

ダメージは蓄積してしまっているチラチーノだが、自分の体に鞭を打ち地面を思いっきり蹴ってリーフィアに接近する。リーフィアも正面から突っ込んでくるチラチーノを迎え撃つ態勢に移行した。

 

「リーフブレードで迎え撃って!」

『リッフィ!』

 

リーフィアは額の草にエネルギーを集中させて力を溜める。チラチーノが尻尾を振りかざすと、その攻撃をリーフィアはギリギリで回避する。刹那、リーフィアの反撃によるリーフブレードが決まったかに思えたタイミングであったが、その攻撃を更にチラチーノは回避してみせた。

 

そう、チラチーノの特徴である油のコーティングだ。綺麗好きであるチラチーノは自身の体をコーティングさせ汚れを寄せ付けないよう心がけている。そのコーティングに加え彼女のしなやかな体の動きにより敵の攻撃を逸らしていなし、リーフィアの攻撃を華麗に避けることができたのである。

 

『リフィ!?』

『チラァ!』

 

リーフィアのリーフブレードによるカウンターを更にカウンターする形でチラチーノのスイープビンタが2連続で炸裂する。相手の攻撃に合わせるカウンターという形によりダメージが増加し、想定以上の負荷がリーフィアを襲った。

 

「っ、リーフィア!エナジーボール!」

『リッ……フィ!』

 

リーフィアは吹き飛ばされながらも、受け身を取りながらエナジーボールで反撃をする。チラチーノは慌ててその攻撃を体を逸らして回避するが、着地した際にダメージが足に来てしまうふらつき隙を晒してしまう。

 

「リーフブレード!」

『リフッ!』

 

態勢を整えたリーフィアは、小さなその隙すらも逃すことなく距離を詰め、今度は腕の葉に集約したエネルギーを解放しチラチーノを切り裂いた。

 

「チラチーノさん!」

『ち……らちぃ……』

「チラチーノ戦闘不能!」

 

一矢報いることはできたものの、力及ばずリーフィアに敗北してしまうチラチーノ。しかしその戦いは決して無駄ではなく、確実にリーフィアにダメージを与えることには成功した。

 

「お疲れ様です。ゆっくり休んでいてください。」

 

健闘したチラチーノをモンスターボールに戻して優しく言葉をかけるリーリエ。チラチーノのボールを懐に戻すと、改めてシンジの姿を瞳に映した。

 

やはり彼は強い。チャンピオンである彼は紛れもなく自分が戦ってきたどのトレーナーよりも強い。今までアローラ地方のチャンピオンとして君臨し続けてきたのを納得させられる、そんな戦いぶりであった。

 

しかし、そんな彼が今までの交えたどの試合とも違い、紛れもない全力で自分と戦ってくれている。彼の強さはそう感じさせるほど洗礼されていた。それがリーリエにとって何よりも嬉しかった。

 

(やはり私は、あなたを目標にしてきて本当によかった。ですが……だからこそ!)

 

最初は彼に近付ければいいと思っていた。背中を任せられるぐらい傍にいられればいいと。しかし改めてバトルで会話を交わしたら分かる。自分はこの人を超えたい。勝ちたいという欲求が生まれてしまっている。それはトレーナーであれば誰でも持っているであろう当たり前の欲求。

 

「……私は……」

「…………」

「……私は絶対、あなたに勝ちます!」

 

リーリエのその宣言を聞いたシンジは、嬉しさから自然と笑みが零れていた。まだ始まったばかりの試合ではあるが、これほどバトルを楽しいと感じたのは久しぶりであった。それこそ、チャンピオンになってからは初めてかもしれない。だからこそ、彼の答えは決まっていた。

 

「全力で来い!リーリエ!」

 

シンジは力強くそう返答した。その答えを聞いたリーリエは満足そうにし、次のポケモンを繰り出すのだった。

 

「行きますよ!フシギバナさん!」

『バァナ!』

 

リーリエの2体目はくさ・どくタイプのフシギバナであった。その巨体と大きな咆哮は会場を揺らすほどの迫力で、彼の気迫がシンジたちにも伝わっていた。それでも彼らは表情を変えず、ただただ真っ直ぐフシギバナのことを見つめ彼の力を見極めていた。

 

シンジとリーリエは何度か手合わせを重ねてきたが、進化したフシギバナと対峙するのは初めてである。果たしてシンジは重量級となったフシギバナに対してどのような戦術をとってくるのか、リーリエは神経を研ぎ澄ませ彼らの戦いの観察に集中する。

 

「リーフィア!エナジーボール!」

『リッフィ!』

「フシギバナさん!はっぱカッターです!」

『バナァ!』

 

リーフィアのエナジーボールをフシギバナははっぱカッターで対抗し次々と切り刻んでいく。その衝撃で爆発したエナジーボールの背後から、リーフィアは額の葉にエネルギーを集中させて接近していった。

 

「リーフブレード!」

『リフィ!』

「っ、つるのムチで捕まえてください!」

『バァナ!』

 

エナジーボールを囮に接近してきたリーフィアは得意の接近戦で一気に勝負を仕掛ける。しかしその行動を読んでいたリーリエは、すかさずつるのムチでリーフィアの四肢を捕らえて捕縛する。

 

「つばめがえし!」

 

明らかに追い詰められていた状況だったが、リーフィアはつばめがえしで強引につるのムチを振りほどいた。そしてその勢いを利用しフシギバナに続けて攻撃をヒットさせた。

 

くさタイプのフシギバナにひこうタイプのつばめがえしは効果抜群。当然フシギバナには大きなダメージが入るが、それでも怯むことなくその攻撃を持ちこたえて踏ん張っていた。

 

「はっぱカッターで反撃です!」

『ば、ナァ!』

『リフィ!?』

 

フシギバナはすぐにはっぱカッターで反撃をする。予想外の反撃にリーフィアは対応しきれずはっぱカッターの直撃を受けて大きく飛ばされてしまった。

 

フシギバナとの戦闘だけでなく、チラチーノのスイープビンタによるカウンターも響いてきたのか、受け身をとるもののダメージから膝をついてしまう。そろそろ体力も限界が近づいているようだ。

 

「くっ、エナジーボール!」

『リーフィ』

「フシギバナさん!ソーラービームスタンバイです!」

『バァナッ!』

 

リーフィアはその場からでも攻撃できるエナジーボールで遠距離攻撃による反撃を仕掛ける。対してフシギバナはソーラービームの態勢に入る。背中の大きな花に日の光を集め、集中しながらリーフィアの攻撃を耐えしのぐ。

 

「っ、リーフィア!リーフブレード!」

『リッフィ!』

 

リーフィアの素早さを利用して近接攻撃しようと接近するシンジ。フシギバナの目前まで接近し、あと僅かで届く目と鼻の距離でフシギバナの光が前方に解き放たれた。その光が両者の姿を包み飲み込んだ。

 

光が収まると、そこにはまだ荒い呼吸をしながらも立っているフシギバナと、目を回して倒れているリーフィアの姿があった。その光景が今のバトルの結末を物語っていた。

 

『り……ふぃ……』

「リーフィア戦闘不能!」

 

「よく頑張ったね、リーフィア、あとは休んでて。」

 

戦闘不能になったリーフィアをモンスターボールへと戻すシンジ。チラチーノを倒し、フシギバナをも追い詰めたリーフィアの貢献は大きいものである。

 

「次は君だよ!グレイシア!」

『グレイッ!』

 

次にシンジが選出したのはグレイシアであった。くさタイプであるフシギバナはこおりタイプのグレイシアに対して相性が悪い。しかも今の戦闘でかなり体力を消耗してしまっている。ここは少しでも体力を回復させたほうが得策かと、リーリエはフシギバナをモンスターボールへと戻した。

 

「戻ってください、フシギバナさん。」

 

フシギバナを懐に戻し、次にリーリエは別のモンスターボールを手にする。しかしその時であった。

 

『ピィ♪』

「えっ!?ピッピさん!」

 

毎回の恒例行事のようにピッピが勝手にモンスターボールから飛び出して姿を現した。

 

「ぴ、ピッピさん、この戦いはいつもよりも……」

 

いつもの戦いよりも危険なものだ、そう忠告しようとしたとき、ピッピは自分の胸をポンッと叩き任せろと言ってきた。なんかデジャブのようにも思えるが、彼女の実績を信じてここは任せてみるのが一番なのかもしれないとリーリエは頷いた。

 

「……分かりました。任せますよ!ピッピさん!」

『ピィ!』

 

正直シンジとしては彼女が大切にしているピッピとあまり戦いたいとは正直思えない。しかし彼女のピッピは間違いなく実力者であり、彼もピッピの強さを知っているため油断などできるはずもないと、全力で戦う必要があると気を引き締める。

 

「行くよ、グレイシア」

『グゥレイッ』

「こおりのつぶて!」

『グレイッ』

「ピッピさん!躱してください!」

『ピッピィ!』

 

グレイシアは怒涛のこおりのつぶてで先制攻撃を仕掛けた。しかしその攻撃をピッピは自慢の軽い身のこなしによるステップで躱していく。その動きはふざけているように見えるが、無駄が非常に少なく的確にグレイシアの攻撃を回避している様は実戦的な動きであった。

 

「ピッピさん!ムーンフォースです!」

『ピィ!』

「っ、躱してれいとうビーム!」

『グレイッ!』

 

ピッピがステップからのジャンプで空中に飛び上りムーンフォースによる反撃をする。その攻撃を今度はグレイシアが回避し、続いてれいとうビームによって反撃する。しかしその攻撃もまたピッピはステップして回避しれいとうビームは空を切った。

 

「もう一度ムーンフォース!」

「シャドーボール!」

 

再びムーンフォースで反撃するピッピに対し、グレイシアはシャドーボールで迎え撃った。両者の攻撃は中央で衝突し、大きな衝撃を発生させ視界を奪った。その状況でも立て続けに攻撃を仕掛けたのはまさかのリーリエであった。

 

「ピッピさん!めざましビンタです!」

『ピッピィ!』

「バリアー!」

『グレイ』

『ピィ!?』

 

ピッピは衝撃を突破しめざましビンタでの接近戦を試みる。しかしシンジは冷静にその攻撃をバリアーによって対処する。

 

バリアーは自身の物理防御力を大きく上げる技で、それによりピッピのめざましビンタが弾かれてしまい隙が生じた。

 

「こおりのつぶて!」

『グッレイ!』

『ピッピィ!?』

「ピッピさん!?」

 

こおりのつぶての直撃を受けて地面に倒れてしまったピッピ。すぐに立ち上がることができたためダメージは少なめであるようだが、それでも近接戦、遠距離戦どちらにおいても部が悪く中々打つ手が浮かばない。

 

「……あまり賭けに出るのはよくないかもしれませんが……」

 

シンジ相手に賭けるのはよくないと感じながらも、他に手が思い浮かばないためリーリエにはこの技に頼るしか術がなかった。

 

「ピッピさん!ゆびをふる!」

『ピッピッピッピッ!』

 

ピッピは得意技のゆびをふるを始める。ランダム性のあるこの技は使用者にも、相手にもなにが起きるのか予測がつかない技である。もちろん状況を覆せない可能性もあるが、ピッピは今までピンチをこの技で乗り越えてきた。ならばリーリエは最早この技に頼るしか道はなかった。

 

しかしゆびをふるは発生まで少し時間が必要な技であるため隙が生じてしまう。シンジ相手に無事に発動させることができるのかと心配になるが、シンジは一向に動く気配を見せずにその場で見守っていた。

 

攻撃したくないから、とか有情のために行為ではない。彼の意図はあくまでゆびをふるを警戒してのことである。

 

攻撃してしまうと、その隙にゆびをふるが発生してしまった場合回避することができない可能性が出てしまう。であるならばピッピの技の発生を確認し、それを回避してから反撃した方が確実だと判断したためだ。どのような状況でも冷静に対応するのは、彼が潜り抜けてきた修羅場の数が多いため、経験の賜物である。

 

ピッピのゆびをふるによる振り子運動がストップすると、ピッピの指が光りだした。一体何がでるのか、と警戒していると、光が収まった時に……。

 

「……あれ?」

 

そう口にしたのはリーリエであった。いつものように発生するかと思ったゆびをふるは、待ってみるもののなにも発生しない。不発に終わったのかもしれない、と少し恥ずかしい気持ちになってしまう。

 

「グレイシア!こおりのつぶて!」

『グレイ!』

「っ!?躱してください!」

『ピィ!』

 

ピッピはこおりのつぶてを回避する。しかし焦って回避指示を出してしまったため、先ほどよりも動きにキレが見られない。それと同時に、シンジとグレイシアの巧みな攻撃によってピッピの動きは誘導されていたのだった。

 

「捉えた!れいとうビーム!」

『グレイィ!』

『ピィ!?』

 

こおりのつぶてを回避するピッピだが、その回避をシンジに読まれてしまいグレイシアはピッピの回避位置を的確に狙い撃つ。ピッピはその攻撃によって氷漬けになってしまい、これ以上は戦闘続行不可能の状態へと陥ってしまった。

 

「ピッピ戦闘不能!」

「ピッピさん、お疲れ様です。よく頑張りましたね。」

 

リーリエはモンスターボールへとピッピを戻した。攻防一体のグレイシアをどうやって攻略するか、と考えているとき、シンジが何かの違和感を感じていた。

 

(……ピッピは確かに倒した。でも、この違和感は一体……)

 

次の瞬間、突如としてグレイシアの周囲に複数の空間が開き彼女を囲んでいた。それを見たシンジはマズいと察知し、グレイシアに指示を出そうとする。

 

「っ!?グレイシア!躱しt」

『グレイ!?』

 

しかしその指示は間に合うことはなく、空間から飛び出してきた弾にグレイシアは包み込まれてしまった。今の攻撃が致命的となってしまい、グレイシアはその場で倒れてしまったのであった。

 

「っ!?」

『ぐ……れい……』

「ぐ、グレイシア!戦闘不能!」

 

観客やリーリエも唖然とする中、グレイシアをモンスターボールへと戻すシンジ。今の光景がなんなのかを理解している人は少ないことだろう。

 

今の技はエスパータイプの技、みらいよち。発動した時間差で相手に高威力の攻撃を与える特殊な技である。つまり先ほどのゆびをふるは不発ではなく、みらいよちが発動しピッピが倒れた後でグレイシアに襲い掛かったのである。倒れてもなおグレイシアを倒したピッピは、まさに仕事人とでも言うべきポケモンであるだろう。

 

「頑張ったね、グレイシア。あとはゆっくり休んでて。」

 

まさかの展開は流石のシンジも予想していなかったが、それでも序盤からこれほどの戦いを味合わせてくれるチャレンジャーは他にはいないと、寧ろワクワクが止まらない程感情が昂っていた。やはり彼女をここまで待っていて正解なのだと。

 

「だからこそ僕は……君に勝つことでようやく胸を張ってチャンピオンなのだと名乗ることができる。エーフィ!次は君だ!」

『エッフィ』

 

三体目にシンジが繰り出したポケモンはエスパータイプのエーフィだ。超能力を扱うエスパータイプは非常に厄介だが、ならば正面から突破するまでとあるポケモンに任せることにした。

 

「カイリューさん!お願いします!」

『バオゥ!』

 

リーリエの次なるポケモンは、彼女にとってエース級のポケモンであるカイリューだ。カイリューの大きな咆哮に観客たちの期待が高まる。これまでど派手なバトルを勝利に収めてきたカイリューは、今期のアローラリーグにおいて絶大な人気と期待を誇っていたのである。

 

「まだまだこれからです!シンジさん!」

「ああ!僕たちも絶対に負けない!」

 

最早彼らの中でも段々とヒートアップしてきたのか、最初に感じていた緊張感は既にどこかにいってしまっていた。それどころか今はアローラリーグで戦っているというよりも、二人の世界で戦っているという感覚の方が強く、彼らの他には誰もいない錯覚にさえなっていた。こうなってしまったら決着が着くまで誰にも止めることはできないだろう。

 

「カイリューさん!しんそくです!」

『バオウ!』

「サイコキネシス!」

『エッフィ!』

 

カイリューは開幕からしんそくで素早い先制攻撃を仕掛ける。しかしエーフィも既に捉えていたため、冷静にサイコキネシスでカイリューの動きを止める。カイリューも体が動かない中必死に攻撃しようとするもやはりピクリとも動かない。

 

「でしたら……れいとうビームです!」

『バ……オウゥ!』

「っ!?エーフィ!躱して!」

『エフィ!』

 

カイリューは動きを止められながらも、無理やりれいとうビームでエーフィに遠距離攻撃を仕掛けた。体は動かなくとも、体の一部のパーツだけなら何とか動かせるようである。

 

エーフィはカイリューのれいとうビームを避けるためサイコキネシスを解除しジャンプして回避する。強引な手段ではあったが、すぐに対処してくるあたり流石だと関心する。

 

「サイケこうせん!」

『エフィ』

 

エーフィの額から放たれる直線状のサイコパワー、サイケこうせんをカイリューは空中に逃げて回避した。しかししっかりと育てられたエーフィのサイコパワーは非常に高く、薙ぎ払うようにカイリューの後を追尾していった。

 

「っ!?アクアテールで防いでください!」

『バッオウ!』

 

このまま逃げてはジリ貧だと、アクアテールで反撃する。サイケこうせんにアクアテールで迎え撃つも、流石に分が悪くサイケこうせんに弾き返されてしまう。

 

「続けてサイコキネシス!」

『エッフィ』

『バウッ!?』

 

再びサイコキネシスに捉えられてしまう。しかし先ほどと違い反撃手段がないため、カイリューは成す術がなかった。今度はそのまま地面に叩きつけられてしまい、連続攻撃によって大きなダメージを負ってしまう。

 

「っ!カイリューさん!」

『ば……オウッ!』

 

ダメージは間違いなく蓄積してしまっているが、それでもなおカイリューは立ち上がりエーフィを見据える。流石のタフネスぶりにシンジも驚くが、それと同時に当然かと言う感情も抱いていた。

 

「エーフィ!連続でシャドーボール!」

『エフィ!』

「カイリューさん!躱してください!」

『バォウ!』

 

エーフィによる連続シャドーボールをカイリューは素早い動きで空中を立体軌道して回避していく。ダメージがあってもなおこれだけの動きができるのはカイリューがそれだけ実力をつけたからである。

 

「れいとうビームです!」

『バッオウ!』

「ひかりのかべ!」

『エッフィ!』

 

シャドーボールを回避しきったカイリューはれいとうビーム反撃する。エーフィはその攻撃を特殊技のダメージを半減するひかりのかべで防御する。それでもダメージを打ち消せるわけではないため、ダメージは隠しきれていない。

 

「カイリューさん!しんそくです!」

『バゥウ!』

「サイコキネシス!」

『エフィ』

 

初めと同じでカイリューのしんそくが炸裂する直前で、エーフィのサイコキネシスがストップをかける。今度は反撃される前に手を打とうとすぐさま指示を出すシンジだが、その直前にリーリエが新たな指示をカイリューに出した。

 

「カイリューさん!げきりんです!」

『バ……オウゥ!!』

「なっ!?」

 

サイコキネシスに囚われながらもカイリューはげきりんの赤いオーラに包まれていた。げきりんの凄まじい威力に、次第にサイコキネシスを破っていきエーフィとの距離を縮め、最終的にはパリンッと言うガラスが割れるような音が響いてエーフィを貫いた。

 

しんそくとげきりんによる強力な合わせ技により、エーフィのサイコキネシスは破られその場に倒れ伏せてしまう。かなりカイリューを追い詰めたエーフィであったが、エーフィは耐久力の低いポケモンでもある。そのため、今の一撃だけでも致命傷となってしまいあと一歩及ばず倒れてしまったのである。

 

『え……ふぃ……』

「エーフィ戦闘不能!」

 

エーフィが戦闘不能となり、これでシンジのポケモンは残り半分の三体となった。対してリーリエのポケモンは傷付いたフシギバナとカイリューを含め残り四体。アローラリーグ最終バトル、シンジVSリーリエの激闘は、佳境へと突入しようとしていた。果たして勝つのは、どちらなのだろうか。




当然確定事項ではあったけど、ちゃんと先日のポケモンダイレクトにてニンフィア(ブイズ)の内定が確定して一安心

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