ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
UNITEのグレイシアちゃんつおい
フィールドには目を回して倒れているジャラランガ。そしてボロボロになり膝をつきながらも意識を保ち続けているカイリュー。彼らの姿を観客たちは唖然としながら見つめていた。
「ジャラランガ、戦闘不能!カイリューの勝ち!よってアローラリーグ優勝は!リーリエ!」
ククイの宣言によりその場にいる全員がハッとなり意識を戻す。その瞬間、リーリエの勝利が確定した。
激しい戦いの末勝利を手にしたリーリエだが、必死だったあまり勝利の実感がない。そんな彼女に、観客たちから拍手の喝采が嵐のように降り注ぐ。
それを聞いたリーリエは、自分が勝ったのだと実感することができた。しかし疲労のあまり喜びよりも先に、その場にペタッと座り込んでしまった。
「勝った……ヨウさんに、勝てました……。アローラリーグ、優勝、できました……。」
『バオウッ』
疲労から固まってしまっているリーリエにカイリューがゆっくりと抱き着いてきた。カイリューの傷付いた身体と温もりから、激戦を勝ち抜き優勝できたことの実感を改めて感じると同時に、カイリューに感謝しながらリーリエは涙を流した。
「……はぁ、負けたか。ジャラランガ、お疲れ様。」
『じゃ、らぁ……』
戦闘不能となったジャラランガは辛うじてヨウに返答する。悔しい気持ちと同時に、笑顔を向けてくれるヨウにジャラランガの表情は暗くなってしまう。
「なに、お前はよく頑張ったよ。負けたのはお前のせいじゃない。だから元気出せ。お前は俺の誇りだ。」
『……ジャラァ!』
ヨウの言葉に元気を取り戻したジャラランガは、ヨウのモンスターボールへと戻っていく。ヨウは最後まで戦ってくれたジャラランガ、そして自分のポケモンたちに改めて感謝し、リーリエの元へと歩いていく。
「リーリエ、お疲れ様。優勝おめでとう。」
「ヨウさん……」
ヨウはリーリエに手を差し伸べる。リーリエはその手を受け取り、ゆっくりと立ち上がってヨウと向かい合った。
「まさか負けるなんて思わなかったが……今回は俺の負けだ。改めて、優勝おめでとう、リーリエ!」
「はい!ありがとうございます!ヨウさん!」
「次の対戦は……いや、これに関しては野暮だったな。応援してる。頑張れよ。」
「ありがとうございます。」
リーリエは改めて感謝の言葉を述べ、ヨウとの握手を交わした。そして彼女が上を見上げると、視線の先には笑顔でこちらを見下ろしている少年、アローラ最強のトレーナーが彼女の瞳に映ったのだった。
決勝戦が終わり、優勝トロフィーの授与式が始まる。優勝したリーリエは用意された台座の上に登り、向かいには優勝トロフィーを持った少年の姿があった。
「“リーリエ選手”、優勝おめでとう。」
「ありがとうございます。“チャンピオン”」
お互いいつもとは違う名称で呼び合う。現在は公の前なので当然と言えば当然ではあるが、リーリエ的には少し悶々とした気分になってしまっているのは言うまでもない。
チャンピオン、シンジがトロフィーをリーリエに手渡し、リーリエはそのトロフィーを丁寧に受け取り頭を下げる。優勝トロフィーを受け取ったリーリエに、参加したトレーナー、観客のみんな、さらには四天王やしまキング、しまクイーン、エーテル財団関係者たちからの拍手が贈られた。
トロフィーを渡したシンジは正面、トレーナーたちの方へと振り向く。そして大きな声で高らかに宣言をした。
「後日、彼女にはチャンピオンである僕とのバトルを行ってもらう!もし、彼女が勝利したのならば、チャンピオンの座は交代されることになるだろう!」
「っ!?」
その言葉にリーリエはハッとなった。今までシンジと戦うことだけを夢見てこの舞台に立ったが、冷静に考えてみれば後日行われる試合は公式のチャンピオン戦。つまり新チャンピオンが誕生するかどうかが懸かっている重要な試合だ。もし万が一、いや、億が一でも勝つことができたのなら、自分がチャンピオンになることとなってしまう。
彼女にとってシンジは永遠の目標。そんなこと、考えたことはなかったが、もしも勝ってしまったのならどうすればいいのだろうかと焦ってしまう。
「もちろん、僕は手加減することは一切ない。僕と彼女の真剣勝負、この場にいる全員、そしてアローラ全土に人たちに見てもらいたい!僕たちの全力バトル、後日の試合を楽しみにしてほしい!」
シンジの演説にこの場にいる全員が歓声を上げる。アローラ最強のチャンピオンと激戦を繰り広げ乗り越えたアローラリーグ優勝者のバトルを期待しない人はいないだろう。
先ほどの心配もそうだが、これだけの人間に彼とのバトルを期待されているのだと知るとリーリエにも少しずつ不安が募っていく。そんな彼女に、シンジは他の誰にも聞こえない声で呟いた。
「明日のバトル、楽しみにしているよ。」
「シンジさん……」
シンジはその場から去り、リーリエは彼の背中を見つめ続けるのであった。
その日の夜のこと、ベッドに横になって目を瞑っていたが、中々寝られずに時間だけが過ぎて行った。少し出かけようと外に出ようとしてベッドを降りる。
「リーリエさん、眠れないんですか?」
「ヒナさん、すみません。起こしてしまいましたか。」
「いえ、私も興奮してあまり寝付きませんでしたから。」
同室のとなりのベッドで休んでいたヒナも体を起こしリーリエに声をかけた。ヒナはリーリエにこれからどこか出かけるつもりなのか、と疑問を投げかけると、彼女は少し散歩してくると答えた。ヒナは何も言わず、気を付けてくださいとだけ伝えると、リーリエは静かに部屋から出て行った。
ラナキラマウンテンの夜は雪と相まって神秘的でとても落ち着く雰囲気だ。その分いつもよりも冷えてしまうほど気温も下がってしまうのだが、専用の温暖着を着用していれば問題はない。
それにしてもラナキラマウンテンに限らず、アローラの空気は身体中に染み渡る感じがして気分がスッキリする。海や太陽の香りが漂うのもその要因だろう。夜であってもそれは変わらない。
少しは緊張も解れ気分が落ち着いてきたその時、彼女の近くから男性の声が聞こえてきた。リーリエにはその声に非常に聞き覚えがあり、気がつけば物陰にこっそりと隠れてしまっていた。
その声の主は、彼女にとって特別な存在でもあるシンジであった。シンジはどうやら誰かと話しているようだが、座り込んでいる彼の姿を見て誰と話しているのかもすぐに分かった。
彼の近くにいるのは彼のポケモンたちであった。ニンフィア、イーブイだけでなく、シャワーズ、サンダース、ブースター、エーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシアと勢ぞろいであった。本来所持可能なポケモンは6匹までではあるが、ここは現在彼の本拠地であるアローラリーグ。預けてあるポケモンたちと共に出かけているだけであろう。
シンジは呟くようにポツリと自分のポケモンたちに語り掛ける。
「……明日、ようやくリーリエと本気で戦うことができる。」
『イブ……』
「分かってる。彼女はこの短期間で本当に強くなった。そして僕との約束通り、この舞台まで来てくれた。」
『フィア』
「……今度は僕が彼女に応える番だ。全力で彼女と戦う。彼女に勝つことで、僕はきっとチャンピオンとして前に進むことができるんだ。」
シンジはそう言ってスクッと立ち上がり、自分のポケモンたちを見渡した。
「ニンフィア、イーブイ、シャワーズ、サンダース、ブースター、エーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシア、明日は頼むよ。僕は君たちみんなのこと、信じてるからね!」
『フィーア!』
『イッブ!』
『シャウ!』
『ダァス!』
『ブッスタ!』
『エーフィ』
『ブラッキ』
『リィフ!』
『グレイ!』
シンジの呼びかけに全員が順番に答えた。その一部を見ていたリーリエは、彼の密かな考えを知ることできた。
「シンジさん……私とのバトルをそこまで考えてくれていたのですね。」
自分の戦いたいという気持ちに応えてくれるだけでなく、自分との戦いを本人もそれほど楽しみに、それもそんなに深く考えてくれているなんて思わなかった。リーリエにとって彼は今まで背中を追いかけるための目標であり、一人のトレーナーとして憧れの存在であった。しかし今、紛れもなく彼女の目の前にはチャンピオンとして全力で戦おうとしてくれる彼がいる。
リーリエの覚悟は決まった。不思議と緊張は解け、先ほどまで頭の中でグルグルと回り続けていた思考が纏まったのだ。
自分は明日のバトル、自分のバトルを全力でチャンピオンにぶつける。島巡りで培ってきた経験を、最強である彼にどこまで喰らいつくことができるか、その成長を彼に見せると心に誓う。
そして緊張の夜が明けた翌日、遂に皆が夢見た、いや、誰よりも当の本人である二人が待ちに待った運命の試合が始まろうとしていた。
「それではこれより!アローラリーグ、チャンピオンの座を賭けた最終試合を始めます!」
最終戦に参加するブイズの発表です
UNITE効果なのか直前で一気に伸びたグレイシアが一位
王道の圧倒的人気のブラッキー、エーフィが同率二位
そして残りは僅差となりリーフィアが四位
シャワーズ、サンダース、ブースターの初代御三家が同率五位となりました。
実は中盤ぐらいはブラッキーが圧倒的一位を走っていたんですけど、途中からエーフィが伸び始め、最終的にグレイシアが突然一気に伸びた感じでしたね。やっぱこの三匹はブイズの中でも人気が非常に高いんでしょうね。イーブイとニンフィアを混ぜたらどうなるか気になるところです。
と言うわけで投票してくれた皆さんありがとうございました。試合内容などはまたこれから考えますので、どうか楽しみにしていただけると幸いです。さて、最後の試合なので気合入れて頑張りますぞ!