ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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決勝前夜、リーリエとヨウ、二人の覚悟

グラジオとリーリエのバトルが終了した時、フィールドを見下ろすことのできる一室では……。

 

「代表、グラジオ君とリーリエちゃん。いいバトルをしてましたね。」

「ええ。ここまで接戦になるなんて正直思っていなかったけれど、とてもいい試合だったわ。」

 

彼らの母親であるルザミーネは息子と娘の成長をしみじみに感じ、心からの笑みを浮かべていた。その様子を見た秘書のビッケは彼女の母親としての表情を優しく見守っていた。

 

「さて、チャンピオンの君から見たチャレンジャーたちの印象はどうかしら?」

 

ルザミーネの視線の先にいるのは、チャンピオンとしてチャレンジャーたちの戦いをずっと見守っていたシンジであった。

 

「……チャンピオンとして、であればどちらが勝っても全力で戦うだけです。ですが……」

 

彼は悩みながらもそれ以上口にはしなかった。チャンピオンである彼にとって個人の考えはまた別の問題である。

 

「そう……そう言うところは相変わらずね。」

 

本音で言えばリーリエと戦いたい気持ちがあるのは間違いないのだろう。しかし彼はチャンピオンであるが故に不平等や贔屓することを嫌っている。チャンピオンでありながら少し子どもっぽい部分も捨てきれていない彼の姿に、ルザミーネは大人として微笑ましく感じていた。

 

「明日の決勝戦……楽しみね。」

 

明日行われる決勝戦。チャンピオンシンジへの挑戦権を賭けた戦いを、この場にいる全員が楽しみにしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日、いよいよ決勝戦ですね。」

「はい……正直ここまで来ることができるとは思っていませんでした。」

 

決勝を後日に控えるリーリエだが緊張からあまり寝付けず、夜の外を同室のヒナと散歩して気を紛らわしていた。

 

シンジを目標にここまで戦ってきたリーリエだが、この大会に参加していたライバルたちは誰もが強敵揃いで簡単に勝ち進むことのできないハイレベルな戦いばかりであった。彼女は今まで戦ったライバルたちの顔を思い返す。

 

「私、リーリエさんと初めて出会って、それから強いポケモントレーナーになろうって決めたんです。リーリエさんには本当に感謝しています。だからこそ、リーリエさんには絶対決勝戦で勝ってチャンピオンさんに挑戦してほしいです!」

「ヒナさん……。」

 

ヒナは自分の思いを打ち明け、決勝戦を前にしている彼女に激励の言葉を贈る。その言葉を真摯に受け止めたリーリエは、彼女の思いを受け取り“ありがとう”と感謝の言葉を返す。

 

夜の外は冷えてしまうのでそろそろ帰ろうとしていると、少し離れたところでバチバチっと弾ける火花が彼女たちの目に映った。いったいなんなのだろうかと気になった彼女たちは、その火花の光が見えた場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

リーリエたちが向かっていった場所には、一人の少年とポケモンたちがバトルの特訓を行っていた。

 

「ピカチュウ!アイアンテール!」

『ピッカァ!』

「ガオガエン!DDラリアット!」

『ガウッ!』

 

ピカチュウのアイアンテールとガオガエンのDDラリアットがぶつかり合い再び火花を散らして夜の暗闇を眩しいほどに照らしていた。その光で少年は近付いてくるリーリエたちの姿に気付き振り向いた。

 

「リーリエ、それにヒナちゃん……だったっけ?」

 

その人物はリーリエと決勝で戦うことになったヨウであった。決勝前に最後の調整を行っている、ということだろうか。

 

「ヨウさん……どうしてここに?」

「不安と緊張で眠れなくてさ。気晴らしついでに特訓してたんだよ。」

『ガウゥ』

『ピカァ!』

 

ヨウと同じように、彼のポケモンであるガオガエンとピカチュウも同じ気持ちを抱いていたようだ。これだけの大舞台……それも決勝戦ともなれば緊張しない人はそうそういないだろう。例え彼のように肝っ玉が据わっていても、緊張する時は緊張してしまうものだ。

 

「リーリエはどうして?」

「私も同じです。決勝前の緊張を解すためにこちらのヒナさんと少しお散歩を。」

 

リーリエの紹介と同時に初対面であるヒナは緊張のためか軽く会釈をして挨拶する。

 

「そうか……。」

 

ヨウは何か考える素振りを見せる。すると意を決したのか、リーリエにあることを尋ねた。

 

「リーリエ。」

「はい?なんでしょうか?」

「リーリエの戦い方、やっぱりシンジのバトルを参考にしたものなのか?」

「それほど似ている、のでしょうか?もしそうなのだとしたら、近くでずっと見てきたからだと思います。」

「本人には自覚なし、か。」

 

ヨウはリーリエのその問いに対し小さく呟く。すると対戦相手である彼女に対してこう答えた。

 

「リーリエ。明日は俺たちが必ず勝つ。リーリエに勝って、必ず俺がチャンピオンに挑戦する!」

「ヨウさん……。」

 

ヨウの瞳は真っすぐリーリエを見つめていた。その目は自分だけでなく、自分の先にある目標を見据えている強者の瞳だった。まるで自分の姿を見ているかのように錯覚してしまう。

 

しかし、だからこそリーリエは彼の瞳を見つめ返し、こう返答する。

 

「私たちも同じです。私たちはシンジさんに挑戦するためにここまで戦ってきました。だからそれまで、絶対に誰にも負けるわけにはいきません!」

「……ふふ、そう来なくちゃ面白くないさ。おかげで逆に緊張が解れた。」

 

リーリエの覚悟を聞いたヨウはガオがエンとピカチュウをモンスターボールに戻して振り向く。

 

「……明日が楽しみになってきたよ。お互いに全力を尽くして戦おう。勝っても負けても恨みっこなしの真剣勝負だ。」

「……はい!全力で戦います!」

 

リーリエらしい返答にヨウは微笑み、その場を去って宿泊ホテルに帰っていく。ヨウの背中を見送ったリーリエに、ヒナは疑問に思ったことを問いかけた。

 

「えっと……リーリエさん。一つ聞いてもいいですか?」

「え?はい、なんですか?」

「リーリエさんの前言っていた男の人って、あのヨウさんって人ですか?」

 

リーリエはヒナの問いかけを聞き、以前彼女と話した内容を思い出す。おそらく彼女は憧れの人物と一緒に旅をしたことについて尋ねているのだろう。

 

「いえ、ヨウさんではありません。」

「え?だったら一体……」

 

誰なのかと気になり悩むヒナ。リーリエ的には別に隠すことではないのだが、どう伝えていいか少々戸惑った。

 

「まぁ、みんなが憧れているポケモントレーナーさん、とだけ伝えておきます。」

「……え?もしかしてそれって……」

 

リーリエの言葉でその男性の正体が誰なのか察するヒナ。驚きから咄嗟にその人物の名前を口にしようとするが、リーリエは“しっー”と指を口に当てて止めた。

 

「これ以上はダメですよ。あの人に迷惑がかかってしまいますから。」

 

その人物の立場上あまり公にするのは避けたい。だからこそこれ以上の詮索、他言無用という意味も込めてヒナに念を押しておく。彼女もリーリエの意図を理解して口を押えた。

 

「だったら余計にリーリエさんのことを応援します!必ず勝って、優勝して、チャンピオンへの挑戦権を獲得してください!」

「はい、必ず勝ちます!」

 

必ず勝つ。今までの彼女であれば口にできなかった言葉ではあるが、彼との旅路での経験、そしてここまで勝ち上がってきた彼女であるならば自信を持ってそう宣言できる。必ずヨウに勝ち、目標、約束の場所へと辿り着いてみせるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ついに決勝戦に日がやってきた。長いようで短かったアローラポケモンリーグも残すところあと僅か。それも決勝戦を残すのみとなった。

 

そして決勝を控えたリーリエは、決勝が行われるフィールドへと繋がっている通路を歩いている。

 

「この先に……ヨウさんが待っています。」

 

リーリエは決勝を争うヨウの顔と彼の今までの戦いを思い浮かべる。間違いなく強敵であり、決勝戦で戦う相手に相応しいトレーナーだ。

 

「……昨日のことがあったからでしょうか。不思議と緊張していません。」

 

むしろこれからの戦いをワクワクしていて、彼とのバトルを今か今かと待ち遠しく感じている自分がいることに不思議さを感じる。戦いを拒んでいた昔の自分であれば絶対に抱くことのなかった感情に、ふと昔の自分が聞いたらどう思うだろうかと考えてしまい、可笑しくなってしまう。

 

決勝を目前にしてリーリエは深呼吸をする。一呼吸おいて“よし”と口にし前を見る。

 

「行きましょう!」

 

そうしてリーリエは通路を照らしていた光の先へと歩いて行ったのだった。




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シンジが最終戦で使うブイズはニンフィア、イーブイに加え残り4匹は誰がいい?(投票数の多い順に選ばれます)

  • シャワーズ
  • サンダース
  • ブースター
  • エーフィ
  • ブラッキー
  • リーフィア
  • グレイシア

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